第37回東京国際映画祭 『シマの唄』 ロヤ・サダト監督インタビュー (咲)

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アジアの未来部門でプレミア上映された『シマの唄』は、激動の1978年アフガニスタンを描いた物語。 
ロヤ・サダト監督と、脚本を共に書き、本作に将軍役で出演している公私共にパートナーであるアジズ・ディルダールさんにお話を伺う機会をいただきました。
景山咲子



『シマの唄』 Sima's Song
監督/脚本:ロヤ・サダト
脚本:アジズ・ディルダール
脚本:ルロフ・ジャン・ミンボー
出演:モジュデー・ジャマルザダー、ニルファル・クーカニ、アジズ・ディルダール、リーナ・アーラム
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1978年のアフガニスタン。共和制から社会主義に移行する時期を舞台に、親友でありながら裕福な共産主義者と貧しいムスリムという対照的なふたりの女子大学生が、その後のソ連による侵攻と反ソ武装勢力の決起による紛争の時代に移行するなかで翻弄されていく・・・ 
(さらに詳しい内容は、インタビューのあとに掲載しています。)
2024年/スペイン・オランダ・フランス・台湾・ギリシャ・アフガニスタン/97分/カラー/ペルシャ語


◆インタビュー
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ロヤ・サダト(監督/脚本)、アジズ・ディルダール(脚本/俳優)
11月2日(土)


― 1970年代、勤めていた商社にカーブル事務所があって、駐在していた方たちから、アフガニスタンがとてもいいところと聞いて、ぜひ訪れたいと憧れていました。1978年5月にイランを旅して、マシュハドの空港でアフガニスタンのダウド大統領が暗殺されたニュースを新聞でみました。翌年、今度はアフガニスタン経由でイランを訪れたいと思っていましたが、イランは革命、アフガニスタンにはソ連が侵攻して、どちらもしばらくいけなくなりました。イランには、革命から10年後に行き、180度変わった社会をみました。
アフガニスタンでは、何度も政権が変わりました。ご自身やご両親はじめ、政変を経験された思いが、この映画に反映されていると思いました。

監督: いい時代のアフガニスタンを知っている方にご覧いただけて、とても嬉しいです。タリバン後の酷いイメージしかお持ちでない方とは認識が違うと思います。

ー 女性たちが「パン、仕事、自由」を掲げて抗議している中に、1978年.2021年など節目の年代が書かれていて、翻弄された歴史を感じました。あのデモの場面は、実際にアフガニスタンで撮られたものですか?

監督: あの場面はギリシャで再現して撮ったものです。

― カーブルで準備していた撮影がだめになって、主にギリシャで撮影されたとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか? 

監督:カーブルで撮影準備をしていたのですが、2021年にシアトルでオペラの演出の為に滞在していた時に政変があって、亡命の手続きをせざるをえませんでした。準備していた映画をどこで撮るか・・・ この映画は、資金も付いていて、ヨーロッパのプロデューサーもいて、2022年中に撮らなければいけませんでした。俳優をどうするかの問題もありました。あちこちに離散していましたから、どうやってどこで集まるかが課題でした。タジキスタンが候補にあがりましたが、ロシアとウクライナの戦争のことがあって無理だと諦めました。プロデューサーの一人から、ギリシャなら1970年代後半のアフガニスタンと似た風景が撮れるところがあるし、亡命アフガニスタン人も多いと聞いて、ギリシャに決めました。
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― 今年完成した『The Shape of Peace』は、アフガニスタンで撮られたそうですが、危険はありませんでしたか?

監督:『The Shape of Peace』は、タリバン復権の前、2020年にカーブルで撮りました。夫が撮影監督も務めました。ドーハでの和平交渉の場にも、4人の女性たちを追って行って撮ったのですが、タリバンが復権したあと、4人とも亡命しました。
やっとプロダクションが終わって、オランダのドキュメンタリー映画祭でプレミア上映をしました。
『シマの唄』は、脚本を夫と書いていたのですが、タリバンが復権したことで、最初に書いていたものから変えることになりました。どうタリバンの影響があるかを加えました。

― 監督は、ヘラート国際女性映画祭も立ち上げていらっしゃいましたが、タリバン復権以前、アフガニスタンの女性監督や、映画界における女性の活躍状況はどうだったのでしょうか?

アジズ:カーブル大学で映画を教えていました。前のタリバン政権が終わったあと、20年間、戦争もあったけれど、より文化的で、女性の活躍の機会もありました。平和が実現するという希望もありました。女性は学校に行けましたし、仕事もしていました。2021年以降、状況が混とんとしてその機会が奪われてしまいました。
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― 映画監督になりたいと思われたのはいつ頃だったのでしょうか? 

監督:2002年、学生の時に初めて脚本を書きました。その後、韓国のフィルムアカデミーのトレーニングコースに参加しました。アフガニスタンでは、映画を見る機会は、あまりありませんでした。大学では演劇を学びました。演劇は若い女性が参加できる少ない機会でした。社会に対して何ができるかを考えて、アートを通じて、女性のおかれた境遇を伝える手段として映画を選びました。

アジズ:人生の中で、3回、難民となりました。内戦で母を失い、カーブルから北部に逃れ、そのあとイランへ行きましたが、3年間、学校に通えませんでした。タリバンの10年は映画を見る機会がありませんでしたが、イランでは映画をたくさん見ることができました。タリバンが去って、2001年にアフガニスタンに戻った時、映画を学べる場所はなかったので大学の美術関係の学部に入りました。2年生の時に、映画の学部を自分たちで作りました。国際ジャーナリズムも学んでいたので、中国に行く機会もありました。
2009年にロヤと出会いました。初めて映画で役を与えてくれて、その後、15年一緒に映画作りをしています。カーブル大学で教鞭もとっていました。

― 残念ながら時間が来てしまいました。
こちらは、旅行者のために作られた「旅の指さし会話帳 アフガニスタン ダリー語」(嶋岡尚子著 情報センター出版局 トップの写真に写っています)です。かつては、この本を持ってアフガニスタンを訪れた日本人も多いのです。私もいつか行きたいと憧れています。近い将来、皆さんが故国に戻れる日が来ることを願っています。



ロヤ・サダト
1981年、アフガニスタンのヘラートに生まれる。Roya Film Houseの設立者であり、代表的監督である。女性や子どもの権利を描く作品を専門とし、“A Letter to the President”(17)でアフガニスタンの女性監督として初めて米国アカデミー賞の候補に選出された。これまで数々の映画賞を受賞。RFHアカデミーとヘラート国際女性映画祭を創設したほか、TOLO TVのドラマを手掛けた。(TIFF公式サイトより)


★上映後Q&A 
私は残念ながら参加できなかったのですが、公式サイトに詳細が掲載されていますので、ぜひお読みください。

「この映画は、皆様の心も重くしたかもしれませんが、私たちにとっても同じです」10/31(木)Q&A『シマの唄』
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©2024 TIFF
ロヤ・サダト監督(右・監督/脚本)、モジュデー・ジャマルザダーさん(右から2番目・俳優)、ニルファル・クーカニさん(左から2番目・俳優)、アジズ・ディルダールさん(左・脚本/俳優)


『シマの唄』 あらすじ
2021年9月、タリバンが復権。女性の権利を奪う。
女性たちが、「パン、仕事、自由」を掲げて抗議デモ。
祖母スラヤが、孫娘に親友と二人で映る写真を見せながら、親友シマがラバーブの弾き語りが上手だったと語り始める・・・
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1978 年、冷戦の中、アフガニスタンの政治は揺れていた。ソ連が侵攻しようとしていた。
カーブルの邸宅で、革命で殉教した亡き父ハリールの回顧録が出来て偲ぶ会が開かれる。
「お父さまは皆から尊敬されていた」と、流ちょうなペルシア語でソ連の文化担当官。
それにロシア語でお礼を述べる女性。
パルチャム派の男性が、「ハリールがいなかったら、ハリールのハルク派とパルチャム派は団結できなかった」と語る。
父の回顧録は、タラキ大統領が両派の分裂をなくしたいと発案したものだ。
娘のソラヤは、女性教育の重要性を大統領に進言。それは父ハリールの遺志でもある。
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大学生シマが歌を披露する。ルバーブの弾き語り。
ロシアのアンナ・マフトーヴァの詩をペルシア語に訳したものを朗唱する。モスクワをカーブルに変えて。

シマは父から、「あんな風に人前に出ちゃいけない。男の中にはいやらしい目でみる者もいた。歌は続けていい。亡き母親も歌が好きだった」と言われる。
さらに、結婚する年ごろと言われる。
母と父は、会って1週間で結婚。幸せに暮らした。
「ワハブと結婚するわ」とつぶやくシマ。

大学。国際法の授業を男女一緒に受けている。スラヤ、シマ、ワハブは同級生らしい。

ワハブ、シマに結婚する前に家族に相談するという。
ガズニ州の故郷の村が政府軍に襲われ、村長の父が殺されたらしい。家族の消息もわからない。

婚約式。シマが皆に紅茶を出す。
決める前にワハブと二人で話したい。音楽を続けていいと言われたから結婚を承諾。でもワハブは厳格な派閥。周りから反対されるかもと。

初キス。初めてルバーブを弾いた時のようにドキドキする。
音楽に合わせて男女手を繋いで踊っていると、教義に反すると止められる。

さらに、識字プログラムが、タラキ大統領も公認なのに反対される。

ハルク派はパルチャム派を追い出すつもりらしい。
タラキ大統領とハルク派の後ろ盾は、ソ連では?

ロシアの赤色テロと同じで、民間人も殺されている。
パルチャム派狩りがもうすぐ始まると言われる。

結婚式。緑の布の下で契りを結ぶ。鏡に二人の顔を映す。
スラヤが家に帰るとアミールが殺されている。母の姿もない・・・
国民の血を流すような政権は、いずれつぶれるとスラヤ。
峠までシマとワハブを見送る。シマからルバーブを預かる。
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シマは解放軍に加わる。
1878年に英軍が残した銃を手に。「1834年にもイギリスがロシアの排除を目的に来た」と語る兵士。その兵士は大学で歴史を教えていたという。

拘束されたシマがカーブルの仲間の名を明かせば釈放されるのに、なかなか口を割らないからと、将軍がスラヤをシマのもとに行かせる。
いためつけられているシマ。(詩の朗読) 気を失ったままシマは連れ去られる。
カルマルが共和国の代表と宣言。アミンはアメリカのスパイで売国奴と。

スラヤが家に帰るとソ連兵がいる。将軍の住まいになったと言われる。
無害そうだと、スラヤは家の中に入れて貰える。写真を眺め、ルバーブを手にする・・・・

*******

2021年.米軍がアフガニスタンから撤退。タリバン復権。
1970年代のミニスカートの女性たち。そして、ブルカの女性たち。
抗議デモをする女性たち・・・.


第37回東京国際映画祭 黒澤明賞授賞式 三宅唱監督&フー・ティエンユー監督 喜びを語る(咲)

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第37回東京国際映画祭 黒澤明賞授賞式
2024年11月5日(火) 19時~
帝国ホテル本館2F孔雀の間


今年度の黒澤明賞を受賞した三宅唱監督とフー・ティエンユー監督への授賞式の模様をお届けします。
景山咲子


☆オープニング映像、黒澤監督作品

MC: 黒澤 明賞は、東京国際映画祭は日本が世界に誇る故・黒澤 明監督の業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出していきたいとの願いから、世界の映画界に貢献した映画人、そして映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる賞として、2022年に14年ぶりの復活をいたしました。
今年度は、山田洋次監督、奈良橋陽子氏、川本三郎氏、市山尚三東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの4名の選考委員により三宅唱監督とフー・ティエンユー監督に決定いたしました。

安藤裕康 東京国際映画祭チェアマン:
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黒澤明の名前をご存知ない方が世界で増えていることから、功績を後世に語り継いでいきたいと3年前に復活させました。この賞は世界の映画界に貢献した方と将来を託す方に贈られてきましたが、最近は、未来を託す方に移ってきています。東京国際映画祭は、今年、未来の映画人の育成を方針の一つとして打ち出していて、それと一致して、嬉しく思っています。黒澤監督の映画製作への思いを後世に伝えていきたいと思っています。その思いを語る黒澤監督のメッセージを晩餐会の折に披露いたします。最後に黒澤賞にご協賛いただきました株式会社カプコン様にお礼を申し上げます。

MC: 選考経緯を選考委員長・山田洋次監督よりご説明いただきます。

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山田監督: フー・ティエンユー監督の『本日公休』は、ほんとに素敵な映画でした。人間を的確に絵描いていて、主人公の女性を取り巻く人間関係をとても暖かく見つめていて、しかも、きわめて斬新な手法で描いていました。僕は、この映画を観ながら、どうして日本でこういう映画を作れないのかと思いました。
三宅監督は、すでに評価を持っていますが、一昨年の『ケイコ 目を澄ませて』は特に素晴らしかった。人間をちゃんと捉えている。しかも表現が、とても先人から学んていることが、まざまざとわかる。さりげない実写、電車が走っているところなど、小津監督の作品に見らえるものでした。僕の勝手な感想ですが、主人公は、耳の聴こえない若いボクサーで、彼女を描くのに小津の手法を的確に使っていて感心しました。小津さんから学んでるかどうか、これから聞こうと思います。
お二人の素晴らしい作家を黒澤明賞に選ぶことを出来たことを嬉しく思います。
おめでとうございます。

☆予告編3本。『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』『本日公休』

◆授賞式
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受賞者:三宅唱監督&フー・ティエンユー監督
プレゼンター:株式会社カプコン 辻本憲三 代表取締役会長

三宅唱監督:
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一緒に作ってきたすべてのスタッフ・俳優たちとの仕事への賞と思っています。スタッフ皆で来れたらよかったのですが、「黒澤監督のようなサングラスをつけていけ」というようなメールをよこすような上品なスタッフばかりですので、僕一人できました。これからも、1本1本丁寧な作品作りをしていきたい。
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フー・ティエンユー監督:
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先ほど山田監督にお会いして、ご挨拶できて、ほんとに嬉しかったです。憧れの方、私にとってのアイドルです。間近でお会いできるなんて、夢にも思わなかったので感激しました。まずは、東京国際映画祭、選考委員の皆さまに心から感謝申し上げます。大変な栄誉です。山田監督は憧れの方です。山田監督の映画の中の人物は、身近にいるような、私の理髪店に入ってきそうな人ばかりです。山田監督の作品を観るたび、大きなパワーをいただいています。市井の人物が自然に人の心にストレートに伝わってきます。
『本日公休』を推してくださいまして、ほんとうにありがたく思います。山田監督に日本で『本日公休』を撮っていただきたいと思います。
なお、『本日公休』は、ただ今、日本で公開中です。多くの観客の皆様が感想を聞かせてくださいました。反響を聞いて、これからも映画監督として努力して、いい映画を撮っていきたいと思いました。
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授賞式の始まる前、会場中央の席に着席された選考委員である山田洋次監督に、フー・ティエンユー監督や、「ウィメンズ・エンパワーメント部門」シニア・プログラマーのアンドリヤナさんが挨拶されていました。


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「ウィメンズ・エンパワーメント部門」シニア・プログラマーのアンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんと、インドネシアの女優で監督のクリスティン・ハキムさん

第37回東京国際映画祭 イラン映画『冷たい風』 監督&俳優インタビュー Q&A報告(咲)

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アジアの未来部門で上映されたイラン映画『冷たい風』。 
来日されたモハッマド・エスマイリ監督と、俳優モハマドマフディ・ヘイダリさんのインタビューと、上映後のQ&Aをお届けします。  
景山咲子



『冷たい風』
  原題:Sardbad  英題:The Bora
監督/脚本:モハッマド・エスマイリ
脚本:ペイマン・エスマイリ
2024年/イラン/85分/モノクロ/ペルシャ語
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雪山タフテスレイマンで4人の登山隊が強い北風の中で遭難。生還したのは4人のうちサレム一人だけだった。やがて、一人の男が遺体で発見される。捜索が進むうちに、その亡くなった男の友人の妹が15年前に焼死した事が浮上する・・・

主任捜査官が、関係者に次々に聴取する形で物語が進み、人間関係の整理が大変でした。
言葉を聞き漏らすまいと緊張!


◆モハッマド・エスマイリ監督、俳優モハマドマフディ・ヘイダリさんインタビュー
11月3日(日)


― 今回は、イスラエルのことでイランからの飛行機が飛ばないかもしれないとのことで、心配していました。どうやって来られたのでしょうか?
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監督:ほんとに大変でした。この映画が映画祭に出ると決まった時には何も起きてなかったのですが、2~3週間前に行く準備を始めたころに状況が悪くなりました。早めに4日ほど前に奥さんと一緒にトルコに出たのですが、ハイダリさんは、ほんとにぎりぎり間に合いました。ほんとに東京に着けるかどうかわかりませんでした。残念ながら、こういう状況が続いていて、私自身、映画と政治は関係ないものと思って、映画は映画と、自分の映画の中では政治的なことは語らないのですが、黙っていても毎日の生活の中には政治的なものが突っ込んで入り込んできます。なぜイランから出ることがこんなに大変なのかと思います。私の国だけでなくて、アフガニスタンやそのほかの国でも、そういう問題を抱えているところが多くあります。平和がいつくるのかと憂うばかりです。

― 映画はスタイリッシュで圧倒されたのですが、次々に出てくる人物が語る言葉を追うのが大変でした。 登場人物の関係を確認させてください。
サラーブ登山隊の4人。サレム イッサ、シャキーブ、カムラン。生き残ったのはサレム一人と了解していいでしょうか?

監督:生き残ったのは、イッサです。 全体的なことを説明したいと思います。最初の15分くらい、たくさんの名前とキャラクターが出てきます。でも、彼らの多くは次の15分ではもう出てきません。あまり重要じゃないです。また次の15分で出てくる人も、消えていきます。特に海外の人が見る時には混乱するとわかってました。だんだんメインの人しか残りません。

― カムランの奥さんのマリアムが、サレムは大学で同期で、カムランは先輩。イッサは夫の親友。そのうちスレイマン・ラヒの名前が出てきます。一生懸命覚えたのですが・・・

監督:今の話を聞いて思い出したのですが、あなたがわからなかっただけでなく、イランで見たイランの人からも、人物関係がよくわからないと聞かれました。名前は出てくるのに、どういう人が説明がないとか言われました。私はあえて説明しませんでした。クラシックな映画の語り口に慣れている人には、人物関係がわからなくなるとわかってました。私のストーリーテリングは、ディテールであまり説明しないで、繰り返し繰り返し話を出してくると、見る側はだんだんわかってくるという形です。混乱するのは見る側のせいでなく、私の映画の作り方のせいです。

― だんだんストーリーが、十何年前に スレイマン・ラヒの妹マルタンが焼死したのが、殺されたのか自殺なのかわからないという話になってきます。マルタンのお父さんの話がそこで出てきます。もう一度見ればわかるかなと思いました。

監督:この映画をもう一度見たいといわれて、嬉しかったです。この映画は、最後にひねりがあって、映画館を出る時に、なんだったのかと考えて、もう一度見たいと思ってもらえれば成功です。
混乱しないようにできるだけキャプションは入れているのですが、それを読めばかなりわかると思います。

― 一生懸命読んだのですが、1回では、やはり理解しきれませんでした。Q&Aの時に、ハイダリさんが演じた救援隊のアリが真相を明かしたとおっしゃっていました。ハイダリさんは、オファーされた時に、脚本をもちろん全部読まれたことと思います。どのように思われましたか?

俳優:脚本を貰って、もちろん全部読んで、とても面白い話だと思いました。私の演じる救援隊のアリという役はとても重要だなとわかりました。 彼が語る場面でわかるのですが、助けた時に、なせジャンパーを2枚着ていたという話が出てきて、ラザンだと思ったのが実はソレイマンだったということが判明します。
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― やはり、もう1回見たいですね。

俳優:2回見ると、犯人がわかってるから、もっと面白くなります。まるで新しい話のように見れます。皆さん、2回見たほうがいいですよ。

― ところで、タフテソレイマンは、タカブーの近くの世界遺産で有名なところですよね。

監督:あのタフテソレイマンではなくて、イラン北部マーザンダラーン州ケラールダシュトの近くにあるタフテソレイマンです。アラムクーフ(アラム山)の近くです。
キャラクターの名前がソレイマンです。ラザンだと思わせているソレイマンは立派な登山家で、まるで飛んでいるように山に登っていきます。空飛ぶ絨毯は預言者ソレイマン(ソロモン)の話ですが、この映画のソレイマンは空飛ぶ絨毯は持っていません。
あと、板を燃やした話が出てきますが、あれはノアの箱舟がここにたどり着いたという逸話がこの地域にもあって、箱舟の名残りの板なのです。 預言者ソレイマンの家に使われていた板ともいわれていて、聖なる場所です。ソレイマンが昔自分でやったいじめが、まわりまわって自分に戻るという話になっています。

― クルドも多いところですよね。ノアの箱舟というとアララト山が有名ですが、この地域にも逸話として残っているのを知り、興味深いです。
もう時間が来てしまいました。最後に、師として仰ぐような尊敬する監督や、好きな映画を教えていただけますか?

監督:たくさんいます。日本の監督も大好きです。一番好きなのは、小林正樹監督の『怪談』です。  小津監督や黒澤監督の作品もありますが、人生の中で一番感動したのは、なんといっても『怪談』です。

俳優:クリストファー・ノーラン監督の映画はどれも大好きです。

― 今日はありがとうございました。





モハッマド・エスマイリ
1983年3月12日生まれ。2005年からプロの写真家として活動。08年に“Cinema Weekly”誌の写真マネージャーを務め、その後11年から15年まで“Film Monthly”誌で従事した。11年に初短編“Newzif”を監督し、これまでに4本の短編を監督。本作が長編初監督作となる。(TIFF公式サイトより)



★このインタビューの前に取材したQ&Aの内容です。


◆11月1日(金) 21:00からの上映後 Q&A
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登壇ゲスト:モハッマド・エスマイリ(監督/脚本)、モハマドマフディ・ヘイダリ(俳優)
通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん

MC: ゲストも会場で映画をご覧になりました。客席からどうぞお越しください。
最初に一言ずつご挨拶をお願いします。:

監督:サラーム! 自分の映画のプレミアを日本でしていただき、ご覧いただきほんとに嬉しく思っています。少し複雑な映画ですが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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俳優:自分の出た映画を、初めて日本の皆さんと観ることができて嬉しかったです。

MC:たくさんの人物が出てきましたがヘイダリさんは、どの場面でどの役で出ていらしたのでしょうか?

俳優:最後の方で証言する救援隊のアリという役です。自分の証言によって、スレイマンという人物のことが明らかになります。
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MC:実はゲストのお二人が来日できるかどうか、ぎりぎりまでわかりませんでした。中東情勢が日々刻々と変化する中で、イスラエルとのことで、イランから飛行機が飛ばないのではないかという情報がありました。無事来られて、ほんとにようこそと申し上げたいです。大変だったことと思います。

監督:TIFFに出品されることになってから、とても困難なことが続きました。それ以上に、いろんな事件が起こりました。我々は大変な状況の中で映画を撮っていて、毎日のように、何が起こるかわかりませんでした。戦争や経済制裁で大変な状況ですが、世の中から戦争がなくなることを願っています。

俳優:実は、日本に行きたいと思っていたところ、2ヶ月ほど前に映画が出品されることになりました。 とても嬉しかったのですが、映画祭の2〜3週間前から、状況が悪くなりました。飛行機が飛ばなくなる状態にまでなりました。行けるかどうかわからなかったのですが、3日くらい違う国に滞在しながら、3つの飛行機を乗り継いでやっと来れました。大変な状況の中で来れて、ほんとに嬉しいです。


★会場から
ー (男性) ユニークな映画で楽しませていただきました。人の顔の高さとは思えないところにカメラがありました。どのような高さに設定されたのでしょうか?

監督:撮影は、すべての場面を正面から行いました。一つのレンズで、一つのアングルに最初から最後まで同じに決めて実行しました。元々、撮影監督なのですが、映画も写真もローアングルが好きです。そのフォームでこの映画も撮ろうと思いました。キャラクターを大きく見せることができますので、最初から考えていました。
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ー (男性) 外からさす光が印象的でした。自然光もしくは照明で作られたものでしょうか?

監督:自然光ではないです。限られた予算の中で、できるだけ短い期間で撮らないといけないので、撮影監督にお願いして、できるだけ自然光に近いものを作ってもらいました。お礼を申し上げたいと思います。 

ー (イラン男性) 見ごたえのある映画でした。『ボラ』というタイトルの意味は? また、どうやって選んだのですか?

監督:脚本を一緒に書いたペイマン・エスマイリ、同じ名字ですが親戚ではありませんが、彼がたくさんの小説を書いていて、その一つ 「ソレイマン11話」の中に「BORA」という冷たい風の話があって、タイトルを選ぶ時に、それを貰いました。冬の始まる時に吹く風です。話の中で、冷たい風が吹くといろいろなキャラクターがダメになったり殺されたりして、一人一人の冬が始まったような感じです。冷たい風が人を救うこともあります。冷たい風に当たって生きて帰れば罪が許されるという意味もあって、作品に合うと思ってタイトルにしました。

ー(女性)スクリーンから目が離せませんでした。正面から撮る手法から、『湖中の女』を思い出しました。影響を受けられたでしょうか?

監督:『湖中の女』は知らないのですが、3つのことを説明したいと思います。
若手作家のペイマン・エスマイリの「ソレイマン11話」を読んだことがあって、短い11の物語で構成されていて、興味を持ちました。
コロナで外に出られなかった時に、家でオーディオで色んな物語を奥さんと一緒に聴きました。読んでなかった物語もオーディオで聴いて、物語の中に入り込みました。
また、もう一回キアロスタミ監督の『クローズアップ』を観たのですが、私たちにメインの出来事を見せないけれど、話の中でわからせる形でした。それを自分の映画で実行してみました。一人の刑事が証言を聞くのですが、その刑事の顔は見せません。刑事の代わりに観客が人の話を聴くという形です。これを貫いて、主観ショットで映画を撮りました。


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第37回東京国際映画祭 トルコ映画『10セカンズ』  ★ウィメンズ・エンパワーメント部門 Q&A (咲)

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★ウィメンズ・エンパワーメント部門
『10セカンズ』英題:In Ten Seconds 原題:On Saniye
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© Sky Films
監督:ジェイラン・オズギュン・オズチェリキ
出演:ベルギュザル・コレル、ビゲ・オナル
2024年/トルコ/74分/カラー/トルコ語

イスタンブルのボスポラス海峡を見下ろす名門ウィリアム高校。
娘が退学処分を言い渡された裕福な母親が、進学カウンセラーの女性に娘を復学させろと詰め寄ります。
半端じゃない迫力! 休憩時間になり、カウンセラーを慕う生徒たちが次々にドアをノックするので、場所を広いホールに移して、さらに二人は言い争う・・・  さて、軍配はどちらに? 驚きの結末でした。


◆11月2日(土)10:15からの上映後Q&A
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登壇:ジェイラン・オズギュン・オズチェリキ(監督)、ゼイネップ・セジル(撮影監督)
聞き手:ウィメンズ・エンパワーメント シニア・プログラマー アンドリヤナ・ツヴェトコビッチさん

監督:お招きいただき、二人ともハッピーな気持ちです。 観客の皆さんと一緒に映画を観ながら、観客の皆さんを見ていました。とても素晴らしかったです。(立ち上がって)ご覧いただきまして、ほんとにありがとうございました。初めて日本に二人で来ることができて、幸せです。

撮影: お招きいただき、ほんとにありがとうございます。わくわくしています。楽しんでくださったことと願っています。

MC: ここからは、司会をアンドリヤナさんにお願いします。

アンドリヤナ: 遠いトルコからいらしていただき、ありがとうございます。私の故国マケドニアからは近い国です。この夏にまさにトルコの上を飛んでマケドニアに行く飛行機の中で、この映画を観て、サイコスリラーで、とても面白かったです。このシナリオをなぜ選んだのですか? もとは舞台劇ですね。監督はテレビで長く仕事されてきました。サイコスリラーや心理的なものをよく撮られています。本作には、女性、母親、教育システム、社会的格差の問題など、いろいろな話が詰まっています。

監督: 脚本を自分でも書き、監督もして、共同プロデューサーもして、フィクション、ドキュメンタリーなどいろいろ作っているのですが、すべてに共通するのは、私の作る作品の中には「記憶」という要素があります。観客の気持ちに、主役の心をいかに取り込めるかが共通しています。本作は、もともと舞台劇だったのですが、コロナで5~6回で打ち切りになり、脚本を書いた男性から映画化してほしいと依頼がありました。舞台劇は、1部屋で物語が展開するものでしたが、映画では途中で部屋が移ります。演技の上手い女優を選ばないといけないと思いました。主役の女性二人と4ヶ月、脚本家も交えて話し合いました。
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アンドリヤナ: 4ヶ月のリハーサルは、舞台と同じアプローチですね。

監督: 3人で4ヶ月リハーサルを重ねたのですが、その間に、どんどん脚本が変わって、最後には6人が関わって脚本を作り上げました。自分自身母親なので、その気持ちも含めて作り上げました。

アンドリヤナ: ゼイネップさん、撮影のオファーが入った時のお気持ちは? 女性メインの現場でしたが、男性メインの現場との違いは? もっと自由に表現できたでしょうか?

撮影: 初めての映画なので、男性監督の現場を知らないのです。ジェイラン監督は、ほんとに仕事が出来て、欲しいものがはっきりしていて、イマジネーションも素晴らしいです。彼女の見ている領域を一緒に見ようと思いました。女性どうしで気持ちもシェアできて、友情も芽生えました。私にとって特別な経験でした。
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監督: 彼女は10年間、アシスタントカメラマンをしてきました。男性なら、5年で撮影監督になれるのに、それが映画業界の欠陥ですね。


★会場から
ー(女性) スリリングな物語でした。高校教師をしていましたので、監督のおっしゃっていた記憶が呼び戻されました。あのような母親が来たら怖いと思いました。キャストの2人が素晴らしかったです。日本でも起こり得る普遍的な物語。ホラー的な要素もあります。お二人を選ばれた理由と、演技する上で。お願いしたことは?

監督:脚本家の方の映画化してほしいという夢を尊重して、まず聞きました。リストを出してくれました。その中から、母親役に、テレビや舞台で活躍しているスターで映画は初めての方に打診したら、やってみますと受けてくださいました。
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© Sky Films
主役二人とも素晴らしい方たちでした。
リハは、4カ月。最初の1カ月、心理学者にも入っていただいて、母親役をサポートしてもらいました。母親は、子供に対して危険な存在。実際、高校のカウンセラーに会って、話を聞きました。いろいろなエピソードを教えてくださったのですが、映画に出てくるような母親や暴言を吐く母親には、何も言わず、ドアのそばに立ってお帰りになるのを待つとおっしゃってました。その話を聞いて、脚本に入れました。


ー (男性)撮影監督に。上下逆さになる映像は、撮影の方のアイディアですか? そこにメタファーが込められているのでしたら、ヒントを!
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© Sky Films
撮影:もちろん監督のアイディアです。中盤、部屋が移って、白黒のチェスゲームのような床が広がっているのを、ポストプロダクションで、監督から逆さにして見せようと提案されました。

監督:あそこがターニングポイントです。カウンセラーは「この母親、やばい」と思い始めます。母親にとっても、自分の娘が悪いのかもしれないと気付いていくのです。


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報告:景山咲子

第37回東京国際映画祭 ウィメンズ・エンパワーメント部門 イラン映画『マイデゴル』 (咲)


『マイデゴル』  原題:Maydegol
監督/プロデューサー/脚本:サルヴェナズ・アラムベイギ
2024年/イラン・ドイツ・フランス/74分/カラー/ペルシャ語、ダリー語
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イランで暮らすアフガニスタン難民の10代の女性。夢はボクシングのアフガニスタン代表チームに入ること。林檎やマッシュルームの収穫で日銭を稼いでいる。  父が暴力をふるい母は家出。8人家族の面倒もみなくてはいけなくなる。アメリカで生まれた子は楽して生きているのにと嘆く。それでも乖離道の土漠獏でも素振りの練習。代表選手となったら「マイデゴル(散った花)」の名前で出る! 少女の夢は叶うのか・・・ 

監督:サルヴェナズ・アラムベイギ
映画や絵画を得意とするイラン出身のアーティスト。監督作“Cypher and Lion”(17)、“1001 Nights Apart”(20)はライプツィヒ国際ドキュメンタリー&アニメーション映画祭とミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭で賞を獲得した。(TIFF公式サイトより)


*あらすじ*
工場のドアを叩く少女。開けてくれないので、塀をよじ登る。
「雇ってくれるまで帰らない!4」
「男の仕事だ!」
「なんでも出来る」
結局、なしのつぶて。

真っ暗な中で、友達を話す。
「アフガニスタンのボクシングの代表チームに入りたいの。家族は大反対。国の存続も危ういのにと」
「代表チーム? 国全体がタリバンに支配されてて、女がボクシングなんて絞首刑よ」と友人。
土漠で二人でボクシングの練習。
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久しぶりに家に帰ると、7歳の弟から父が母を殴ったと聞かされる。
「ママは5日前に家を出て、連絡がない」
父が暴力をふるうのは、戦争に行った後遺症とコーチに言われる。
「この国じゃ未来がない」

男子と練習させてほしいと頼むと、コーチが開いてをしてくれる。
「母がいなくなって、8人家族を私が面倒みなくてはいけない。なんでこんな苦労をしなくちゃいけないの? アメリカで生まれた子は楽して生きているのに」と嘆く。
「光を見られない運命かも。イラン人と結婚するか、偽造パスポートを作るか・・・」

「アフガニスタンに行って、絶対勝ってみせる!」

友人たちと誕生日祝い。
ケーキのロウソクを消す。
ポップな音楽に合わせて踊る。
「目指せ、チャンピオン」を歌う、

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イランは安定しているけど、私たちはここから出られない。
偽造パスポートで皆でトルコに出る手もあるけど、密出国が見つかったらアフガニスタンに送られる・・・

アフガニスタン代表選手になる夢は捨てられない。
デビューできたら、「マイデゴル(散った花)」の名前で出る!

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★主人公の少女は、日本人と似た風貌で、アフガニスタンのハザラ族のようです。