第15回大阪アジアン映画祭(OAFF2020) 3(暁)

●コンペティション部門 Special Focus on Hong Kong 2020
『私のプリンス・エドワード』
My Prince Edward [金都]
3/8日 21:15 シネ・リーブル梅田
監督:黃綺琳(ノリス・ウォン)Director: WONG Yee-lam
出演:鄧麗欣(ステフィー・タン)、朱栢康(ジュー・パクホン)、鮑起靜(バウ・ヘイジェン)、金楷杰(ジン・カイジエ)、林二汶(イーマン・ラム)
2019年/香港/91分 

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香港の太子(プリンス・エドワード)地区にある「金都商場」はビル全体がウェディング関係の店がしめている。その中のレンタルウェディングドレスショップに勤めるフォン(ステフィー・タン)と同じビルでウェディングビデオカメラマンとして働くエドワード(ジュー・パクホン)は同棲中。そろそろ結婚という話が出てきて、フォンは自分の戸籍を見て驚いた。実は10年前に、友人とシェアハウスに住むお金欲しさから、中国大陸・福州の香港のビザ(ID)がほしい男性と偽装結婚したのだけど、その婚姻がまだ継続中であることがわかった。離婚手続きが済んでいると思っていたのだが、仲介業者が倒産してしまって、その後の離婚手続きがちゃんと終わっていなかったのだ。相手が行方不明でわからず、単独で離婚を申し立てると離婚までに2年かかるというので頭を抱えるフォン。新聞の人探し欄に載せると、運よく先方も彼女を探していて偽装結婚の相手が福州にいることがわかった。10年がたち結婚が正式だと認められれば香港のIDが取れるのと、相手にも恋人ができ、その彼女が妊娠し相手方も結婚するのに離婚する必要があった。お互いの同意があれば2週間で手続きが済み離婚できると言われ、ちょうど良かった。
しかし、その手続きの過程で偽装結婚していたことがエドワードにバレてしまった。エドワードはほんとに偽装結婚だったのか疑い激しく嫉妬するが、友人の取り成しでなんとか収まったけど、なんとなくギクシャク。
離婚手続きと結婚式の準備を進める過程で、エドワードの愛ゆえの強引さだと思っていたことが自分への無理強いではないかと気づいたり、こういう結婚式がしたいと思っていたのに、義母の結婚式に対する思惑を押し切られそうになり、二人の思う結婚式というわけにいかずだったり。エドワードとの諍いや、義母との軋轢の中、これまで当たり前に受け入れていた事に疑問を持ち始め、結婚と幸せについて改めて考え始める。

OAFF2019公式HPより
脚本家兼作詞家として活躍してきた黃綺琳(ノリス・ウォン)、初の単独監督長編作。過去のOAFF上映作品『誰がための日々』(OAFF2017『一念無明』)、『淪落の人』(OAFF2019『みじめな人』)を輩出してきた「オリジナル処女作支援プログラム(首部劇情電影計劃)」入選作であり、作品のクオリティは折り紙つき。きめ細やかなキャラクター設定、登場人物の心の機微を絶妙に描写してみせる手腕、英語タイトル「My Prince Edward」にさらりとダブルミーニングを込めてしまうセンスは熟練した脚本家としての本領を見事に発揮している。

★香港映画界最注目新人監督の作品。第39回(2019)香港電影金像奨で、ステフィー・タンは主演女優賞に、ジュー・パクホンは主演男優賞にそれぞれノミネート。香港電影評論学会大奬で最優秀脚本賞を受賞。

●特集企画《Special Focus on Hong Kong 2020》
『花椒の味』 Fagara [花椒之味]
3/9月 12:00 シネ・リーブル梅田4   
監督:麥曦茵(ヘイワード・マック)Director: Heiward MAK
監制(プロデューサー):許鞍華(アン・ホイ)、朱嘉懿(ジュリア・チュウ)
配樂(音楽):波多野裕介
出演:鄭秀文(サミー・チェン)、赖雅妍(メーガン・ライ)、李曉峰(リー・シャオフェン)、鍾鎮濤(ケニー・ビー)、任賢齊(リッチー・レン)、劉徳華(アンディ・ラウ)
2019年/中国・香港/118分 

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自分と母親を置いて家を出てしまった父(ケニー・ビー)とは距離を置いていた如樹(ユーシュー)=サミー・チェンは、父の急死で自分に異母姉妹が二人いることを知る。一人は母親と共に台北に住む如枝(ユージー)=メーガン・ライ、もう一人は祖母と重慶に住む如果(ユーグォ)=リー・シャオフェン。香港・内陸・台湾の三地に分かれた姉妹が父の死を機に葬儀の席で出会う。初めて顔を合わせた3人は、始めはよそよそしかったけど、それぞれの事情を越えて理解しあう。
父は香港島大抗で火鍋店を経営していたが結構繁盛していた。賃貸契約期間が残っていて、途中で解約すると違約金を払わなくてはならなかったり、雇われていた従業員がすぐには仕事をみつけられないというような事情があって、如樹は、残った賃貸契約期間を全うすることにした。
店を再開したのはいいけど目の回る忙しさに疲れきった如樹は、重慶と台北に帰っていた姉妹に手伝ってくれるようにSOSを。それぞれ居場所をみつけようとしていた二人は戻ってきてくれて、三人は協力しあって店を切り盛りする。
しかし、父の作った火鍋の出し汁の在庫が少なくなり、レシピが従業員には伝わっていなかった。父の残した火鍋スープのレシピを再生する過程で、育った文化も境遇も違う三人に、姉妹としての情と絆が芽生えてくる。それぞれが抱える問題も描きながら、店を立て直す姿が描かれる。家族とのわだかまりや、自分の進んで行く方向の模索など、それぞれの夢と現実をかかえながら歩む女性たちの姿が美しい。そして、それにちょこっとづつ力を貸してくれる母や祖母など家族の存在や、任賢齊や劉徳華など男性人の励ましの言葉が嬉しい。これぞ許鞍華ティストという感じ。「花椒(ホアジァ)」はピリッと渋くて辛いけどおいしい。

●コンペティション部門 Special Focus on Hong Kong 2020
『少年の君』Better Days [少年的你]
観客賞受賞
3/10火 13:20 シネ・リーブル梅田4
監督:曾國祥(デレク・ツァン) Director: Derek TSANG
出演:周冬雨(ジョウ・ドンユー)、易烊千璽(ジャクソン・イー)
2019年/中国・香港/135分 

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中国内陸部の都市にある高校。内向的な優等生ニエン(ジョウ・ドンユー)は難関大学に合格して北京に行けば人生を変えることができると信じて、毎日懸命に勉強している。母親と二人暮らしだが、母はニエンの学費をかせぐためインチキ化粧品の違法な販売をしている。借金もあり、借金取りが時折りやってきては玄関のドアを怒鳴りながら激しく叩く。そんな時、ニエンは黙って耐え、嵐が過ぎ去るのを待つしかありません。
全国統一試験(「高考」)まであと数ヶ月となり、生徒たちは学校でも机に山のように教科書や参考書を積みあげ、受験勉強に励んでいます。そんな中、ある女子生徒が学校で投身自殺。彼女は3人組の女子生徒からいじめを受けていた。そして、今度はいじめの対象がニエンに移ってしまい、毎日いじめられるようになってしまった。
ある日の帰り道、喧嘩に巻き込まれた不良少年を救ったことから、シャオベイ(ジャクソン・イー)と知り合う。優等生と不良少年、対極的な立場の二人だけど、寂しい思いを抱えて孤独に生きる者同士、孤独な心を通わせるようになっていた。高考まで一ヶ月、3人の女生徒によるいじめはますますエスカレート。放課後もニエンを待ち伏せするようになり、危険を感じたニエンはシャオベイにボディーガードしてくれるよう頼む。

その後がミステリー調になっていて、驚きの展開になっていく。
中国での過酷な大学受験の競争と、陰湿ないじめ、そして格差社会の実体が描かれ、そこから逃れるために必死な親と子供たち。そして学校や社会の姿があぶりだされる。それにしても、主人公を演じる周冬雨は、張芸謀(チャン・イーモウ)監督の『サンザシの樹の下で』(2010)でデビューして10年。すでに20代後半だと思うけど、高校生を演じても全然不自然でないくらい年齢不詳でびっくり。

●コンペティション部門 
TAIWAN NIGHT/台湾:電影ルネッサンス2020
『大いなる餓え』 
Heavy Craving [大餓]
3/8日 12:00 シネ・リーブル梅田4    
監督:謝沛如(シエ・ペイルー)Director: HSIEH Pei-ju 
出演
姜映娟:蔡嘉茵(ツァイ・ジャーイン)
呉浩仁:柯淑勤(クー・シュウチン)
張耀仁(チャン・ヤオレン)
張恩瑋(チャン・エンウェイ)
2019年/台湾/90分 

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台湾のダイエット映画。30歳独身、彼氏なし、体重105キロの姜映娟(チアン・インジュン)は、母親が主任の(経営も?)保育園で給食を担当している。ストレートな性格と美味しい料理は園児にも人気だが、太りすぎと、仕事もパート?の状態なので、心配する母は求職活動することも考え、映娟の誕生日にダイエット教室の入学をプレゼント。最初はダイエット教室に気乗りしない映娟だったけど、宅配便の二枚目の好青年呉浩仁に親切にされたことから淡い恋心をいだき、肥満児だったという浩仁の励ましもありダイエットに励むようになる。
一方、ひょんなことから一人の保育園男児の女装への興味を知り、女装を目の仇にする男児の母親の目を盗み、ありのままでいいと男児を励まし、自分の幼い時のドレスを着せたりしていた。この二つは、当初幸せな展開になりそうな気配を見せるが…。

ダイエット作戦は過熱していくが、無理な減量は徐々に映娟の心を蝕んでいき、ひと波乱。でも、母親も映娟の気持ちを理解し、母と娘は仲直り。映娟はありのままで行きて行くことに。
いろいろな価値観についての映画。それにしても、映娟を演じた蔡嘉茵の存在感がすごい!




「花開くコリア・アニメーション2020+アジア」 変更のお知らせ

日程および一部内容変更のお知らせとお詫び

お知らせが届きました。
「新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受けて、来場者の皆様および関係者の健康・安全面を第一に考慮し、各会場の日程を下記のとおり変更いたします」

[大阪会場]

4月4日(土)・5日(日)
 →上映は予定どおり開催
  ゲストイベントは現地とのスカイプトークにて実施
 →5日(日)韓国おしゃべりランチ交流会は中止
4月6日(月)・7日(火)・8日(水)の19時からの上映
 →5月以降の週末(3回分を1日にして)に延期:日程は追って発表

[東京会場]
4月25日(土)・26日(日)
→延期:日程は追って発表

[名古屋会場]
5月16日(土)・17日(日)
→10月24日(土)・25日(日)に延期

花開くコリア・アニメーション2020+アジア
http://anikr.com/

イスラーム映画祭5 『ラグレットの夏』 3つの宗教が共存した時代のチュニジア (咲)

アラブ、ユダヤ、キリスト教徒が共に暮らしたチュニジアの最後の夏の青春物語
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『ラグレットの夏』
原題:Un été à La Goulette
英題:A Summer in La Goulette
監督:フェリッド・ブーゲディール / Férid Boughedir
1996年/チュニジア=フランス=ベルギー/89分/ アラビア語・フランス語・イタリア語

1966年夏、チュニジアの首都チュニス近くの海辺の町ラグレット。アラブ人でムスリマのマリヤム、ユダヤ教徒のジジ、そしてクリスチャンのティナ。 同じアパートの同じ階で家族とともに暮らす3人は、この夏、一緒に初体験をしようと画策する・・・

モスクだけでなく、立派なシナゴーグや教会。
ラグレットは、アラブ、ユダヤ、キリスト教徒が共に暮らす町。
宗教の違う3人の年頃の娘たちが、裁縫をしながら、初体験の相手を探そうと算段するおしゃべりに余念がない。
一方、親たちもお隣どうし、宗教が違っても親しくしている。安息日に働くことのできないユダヤ人の父親は、ムスリムの父親に卵を茹でてくれと頼んだりしている。
このアパートの大家でマリヤムの伯父にあたる独身のダブル・ハジは、マリヤムの家でお隣の差し入れのユダヤ料理を出されて、あからさまに嫌な顔をする。
「ユダヤ人は新祖国イスラエルに行け」という言葉に、「この国のユダヤ人は、独立戦争に尽くした者もいるのに」と反論するムスリムの男性。
ユダヤ人のジジは、「もしムスリムと結婚したら、親戚が皆、口をきかない」と言われる。
別の父親は、相手がユダヤとは!と嘆く。宗教の違いを越えての恋は難しい。

娘たち3人、8月15日に宗教に関係のないカルタゴ遺跡で処女を捨てると決める。
よりによって聖母の日だ。教会からマリア像が輿に載せられて町に繰り出すのをよそに、
3人は電車でカルタゴに向かう・・・

マリヤムが同じ年頃の青年に夢中になっているのに、伯父のダブル・ハジはマリヤムによこしまな気持ちを抱いていて、母親に「マリヤムを任せてくれれば、第二の父にもなる。家賃も帳消しにしてやる」と露骨な言葉を投げかける。
今からヴェールの被り方を教えてやってというダブル・ハジの頼みをたてて、マリヤムにヴェールを被らせる母。そして、素肌にヴェールだけをまとってマリヤムがダブル・ハジを訪ねたことが思わぬ幕切れを招く。

この翌年、第三次中東戦争勃発。
ユダヤ人に続き、キリスト教徒も出て行く
彼らは決してラグレットを忘れないだろう・・・という言葉で映画は終わる。


◆上映後トーク
《激震1967――アラブ世界の転換点、第三次中東戦争》
【ゲスト】 佐野光子さん(アラブ映画研究者/写真作家)

宗教の違う人たちが共に暮らしていた最後の年を、ドタバタのコメディで描いた『ラグレットの夏』。上映後、この作品の上映を決めた藤本さんの思いも含めて、佐野光子さんとの対談形式でトークが行われました。(抜粋してお届けします)

藤本:2000年 国際交流基金主催の地中海映画祭で上映されたのと同じ、35mmフィルムで上映。フランスからデジタルリマスターを利用してくれと言われたけれど、フィルムにこだわりました。

佐野:2000年に初めてアラブ映画を観て、それをきっかけに映画の研究を始めました。

藤本:トークの主旨。この映画の舞台になっている年の翌年1967年に第三次中東戦争が起こりました。トランプ大統領がエルサレムに米国大使館を移したことなどの背景もわかると思います。

佐野:日本では、1948年の中東戦争から、第何次と数えますが、アラブでは勃発した年で語ります。
1947年 国連によるパレスチナ分割案。アラブ側は拒絶。内戦状態に。
1948年 イスラエル独立宣言
1956年 エジプトのナセル大統領が、イギリスからスエズ運河を取り戻す。
フランスとエジプトの共同で作ったスエズ運河を、エジプトがイギリスの統治下になった為、イギリスが掌握していた。すっきりした勝利ではないがアメリカの後押しもあってスエズを取り戻す。(第二次中東戦争)
1967年 第三次中東戦争。6日戦争。ナクサ(大破局/大敗北)
1967年 ヨルダン河西岸とガザも占領される
1970年 ナセル死去。葬儀に500万人以上が参列。アラファトやカダフィも参列。
ナセルは辞意を表していたが続けていた。
1967~70年の大きなうねり
1970年 ヨルダン内戦(黒い9月革命)
ヨルダンがPLOを排除。PLOはレバノンへ
1975~90年 レバノン内戦
PLOがレバノンに移ったことにより、レバノンでのパレスチナ難民がさらに増加する。
クリスチャンとムスリムの人口の均衡が破れた。
石油危機  (トイレットペーパー買占め)

1981年 ゴラン高原をイスラエルが併合する。(『シリアの花嫁』の舞台)
チュニジア ユダヤ人が10万人いたのが、今は1500人に。
エジプトも1997年以降 ユダヤ人のコミュニティ喪失。
『ラグレットの夏』 まだユダヤ人、ムスリム、クリスチャンが共存していた時代

アラブ映画の中のユダヤ人
1954年 『ハサンとモルコスとコーエン』
1940年代に舞台で好評だったものの映画化
2008年にリメイクされるが、ユダヤ人は抜けて『ハサンとマルコス』(2009年TIFFで上映。末尾に詳細)
クリスチャンのオマー・シャリフがムスリム役を演じている
逆に、ムスリムのアラブの喜劇王アーデル・イマームがクリスチャンを演じている

今ではエジプト映画でユダヤ人が出てくることがない。
参考:『ラミヤの白い凧』(2003年)ムスリマとユダヤ男性の恋物語

映画の中のアラブの敗北
『遺された時間』2009年 エリア・スレイマン監督
ナセルの死のニュースが流れ、舞台が1970年だとわかる。
時代背景として、よく出てくる。(玉音放送のよう)

『雀』1972年 ユーセフ・シャヒーン監督  
ナセルの敗戦を伝える演説を聞いて、女性が「私たちは闘う!」と叫ぶ。
映画ができたときには検閲に引っかかった。闘う!という部分が受け入れられなかった。

1979年 イラン・イスラーム革命、ソ連のアフガン侵攻が起こり、パレスチナが見捨てられていく。


★『ハサンとマルコス』
東京国際映画祭 アジアの風
<2009日本におけるエジプト観光振興年>記念事業 エジプト映画パノラマ~シャヒーン自伝4部作と新しい波 の中の1本として上映された。

[解説]
『アラビアのロレンス』の名優オマー・シャリフとアラブの喜劇王アーデル・イマームの夢の競演!イスラム教徒とキリスト教徒の緊張をコミカルに描く。エジプトにおける女性の人権を考える社会派ドキュメンタリーを併映。
[あらすじ]
この映画はキリスト教神学者ボロスとイスラム教徒の家長マフムードの物語である。ふたりは、それぞれが相反する宗教の過激派による暗殺から生き残り、逃げ延びていた。そしてエジプト政府による目撃者保護プログラムの下に置かれ、キリスト教徒はイスラム教徒のふりをし、イスラム教徒はキリスト教徒のふりをするという、まったく別のアイデンティティを装っていた。カイロ近郊の下町にある隠れ家に避難した時、見ず知らずのボロスとマフムードの間に友情が花開いていく。この映画は、異なった宗教を持つ人々の間で、愛と友情を育むことはできるのかどうか、その可能性を探っていく。
(東京国際映画祭のサイトより)

景山咲子





イスラーム映画祭5 『ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート』  (咲)

レバノン移民4世の女性が曽祖父の故国で血を分けた人たちと会うまで

『ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート』
2012年/アルゼンチン/84分 /スペイン語・アラビア語・英語
監督:グレイス・スピネリ、エルナン・ブロン / Grace Spinelli、Hernán Belón
原題:Beirut Buenos Aires Beirut

ブエノス・アイレスで暮らすグレイスは、ある日、大伯母から、彼女の父(グレイスの曾祖父)が母が亡くなった後、子どもたちを置き去りにして、故国レバノンに帰り、そこで余生を過ごし他界したことを聞かされる。
グレイスは15歳の時、テレビでイマームが祈るのを見ていたときに、母から曽祖父はアラブ人でムスリムよと聞かされていた。
やがて大伯母が亡くなり、グレイスは、曾祖父の軌跡をたどり、ついにはレバノンに赴く。

*****
今は移民局となっている旧移民ホテル。
グレイスは資料室に曽祖父の入国記録を探しにいく。
係りの男性も移民の子孫。
1900年頃、入国。
チェラさんが整理した膨大なファイル。
移民が多かったのは、イタリア、スペイン、フランスの順。
入国した時に、名前をどう記載したか・・・
言葉が違うため表記を間違えていることもある。
古いファイルは、煙草の巻紙に使われてしまったものもある。
結局、曽祖父の入国記録は見つからない。

曽祖父は60歳のときに妻が亡くなり、祖国で死ぬとレバノンに帰国。
レバノンから送られてきた手紙。中には読まれなかったものもある。
アラビア語の教師に手紙を訳してもらう。
1975年 最後の手紙。(注:レバノン内戦勃発の年)
4人の子どもたちに宛てて、「95歳になった。しばらく手紙をもらってない。手紙がほしい。妻のハディージャからもよろしく」と書かれている。

祖母は母親がカトリック。ムスリムの父に内緒で洗礼を受ける。
父は毎日祈っていたという。

レバノンにいる姪カリーメがたくさんの手紙を送ってきていた。
カリーメが1947年に送ってきた手紙を持って、グレイスはレバノンへ。

弾丸の跡が残るビル
4本のミナールがある大きなモスク
一つの建物で、ユダヤ、シーア派、キリスト教と、様々な宗派の特徴が見られるもの。

曽祖父の故郷クファルキラは、南レバノンのイスラエルに接した危険地区にあり、入るのに軍の許可がいる。
シドンに許可をもらいにいく。パレスチナ難民も多いところ
北へ。キリスト教徒が隠れた洞窟や、フェニキアの町ビブロスへ。

いよいよ南へ。
ブエノス・アイレスに住むレバノン移民の子孫アントワンがちょうどレバノンに里帰りしていて、案内してくれる。

ヒスボッラーの黄色い旗。
イスラエルの攻撃を受ける危険があるといわれる。

村長の家へ。かつて曽祖父の家だった。曽祖父が98歳で亡くなった家。
村長、「カリーメは1948年、畑仕事をしていたところ、イスラエルに殺された」と話してくれる
曽祖父はレバノンに戻って再婚したが、その彼女との間に子どもはいない

カリーメの息子ハビーブが生きていると判る。その日は畑仕事に出ているので、翌日会いに行くことに。
翌日、ハビーブとその家族が大勢で迎えてくれる。
ハビーブは、物心つく前に母カリーメが亡くなり、母の記憶がない。
グレイスが持っていった手紙は母の唯一の形見。
息子の成長を見ずに亡くなった母。

曽祖父の墓参り。
1980年6月9日没

血を分けた海の向こうの家族たちと過ごした日々・・・

*******

壮大なファミリーヒストリー。
ハビーブの家族の中には、グレイスに顔立ちの似た女性もいて、まさに血を感じさせてくれます。
手紙を頼りに、ついには曽祖父の故国レバノンで親戚に会い、お墓参りも果たしたことに胸が熱くなりました。


◆上映後トーク《レバノン移民のルーツ探しにみる出会いと別れ》
【ゲスト】 池田昭光さん(文化人類学者/東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・研究機関研究員)

シーア派ムスリムのレバノン移民は、西アフリカに多いイメージが強く、アルゼンチンに行ったシーア派ムスリムがいたことを知り興味深いと池田昭光さん。
1900年頃の渡航はレバノン移民の初期世代。
本作は、監督のレバノン移民としてのルーツ探しであるが、極めて私的で親密な作り。
レバノンや中東の政治・宗教的な問題は触れられているが周辺に留まっている。
レバノン移民についてわからなくても理解できる映画だとして、このトークではレバノン移民についての詳細は説明せず、グレイスの曽祖父を辿る旅を確認する形で進められました。

なお、本作は48分のアル・ジャジーラ放送版(英語字幕付き)をYouTubeで観ることができます。

景山咲子


イスラーム映画祭5 『銃か、落書きか』西サハラの実情  (咲)

モロッコの侵攻に非暴力で闘う西サハラの人たち
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『銃か、落書きか』
原題:Rifles or Graffiti
2016年/スペイン/52分/ スペイン語・ハサニーヤ語・英語
監督:ジョルディ・オリオラ・フォルク / Jordi Oriola Folch

1975年にスペインからの独立過程でモロッコに侵攻され、領土の大半を占領され続けているアフリカ北西の「西サハラ」。
武力闘争で占領者モロッコに圧力をかけることを望む若者もいる中、活動家アミーナートゥ・ハイダルはあくまで非暴力で闘おうとメディアチームを結成し、「西サハラ」の実態を世界に発信する。現地で命懸けの抵抗運動を続けるサハラーウィたちの焦燥と葛藤を描いたドキュメンタリー。

******
「極秘に撮影された映像」とまず掲げられる。

1975年以来、モロッコに支配されている西サハラ。
メディアチームは、隠れて撮影。見つかると捕まる。
ジャーナリストは妨害され、助ける活動家も排除される。

アルジェリア内の難民キャンプの少女。
スペインに行って、家や国があるのがわかった。

民族衣装の女性が壁にスプレーで「国連は西サハラ占領をやめさせろ」と大きく書く。

1884年 スペイン領に
1975年 スペインのフランコ将軍が亡くなり、モロッコが侵攻してくる

イスラエルとフランスの案で壁が作られる
モロッコから50万人が入植。内、20万人が軍人
人口の3割のサハラーウィ。非暴力の文化を維持したい。

メディアグループの「スナイパー」と呼ばれる男
隙を見て撮影するのが上手い

1991年 停戦。住民投票するといいながら、いまだに行われていない。

少女の頃に拷問を受け、活動するきっかけになったと語る女性。
占領反対の落書きをする。

デモ参加者を逮捕。
沙漠に埋められた人も多数。

16年投獄されていた女性。
毎日拷問。一日に5分しか陽の光を見せてもらえなかった。

男性ダーダッシュ。死刑から終身刑に減刑。その後、赤十字に助けられる。

女性活動家アミネトゥ・ハイダル。若い時に空港でハンスト。活動を続けている。

ハサン・ナスーリア。スペインに亡命したメディアチームの男性。

2009年 沙漠の壁の前でデモ。「恥の壁」

恐怖に打ち勝つには、殉教者や闘っている人に思いを寄せる


◆3月19日(木)1時半からの上映後のトーク
《“恥の壁”の両側から――占領地と解放区、難民キャンプに暮らす西サハラの民》
【ゲスト】 岩崎有一さん(ジャーナリスト/アジアプレス)
公式HP: https://iwachon.jp/

西サハラ。何が問題かわからない人が多い。
観光でも入れる。

1995年 初めて訪れる。
実情がよくわからなかった。
この映画は情報量のつまったもの。

*西サハラ 2つの地域
海側:モロッコの占領地
砂の壁で分離。壁の内側のラスット解放区にサハラーウィが住む。
アルジェリアのケンドゥーフの南に難民キャンプ。

★前提1 誰がサハラーウィか?
遊牧の民  移動している。
顔立ち:モロッコ人との間に大きな違いはない。
ヨーロッパ風、アラブ風、サブサハラ風等 見分けられない。
モロッコでは、「南モロッコ」もしくは「サハラ」と呼ぶ。
サハラーウィは、「西サハラ」と呼ぶ。
「西サハラにようこそ」といわれれば、サハラーウィ。

アラビア語の方言 ハッサニアを話す
かつてモロッコの支配下にあった史実はない

★前提2 複雑ではない領土問題
1884年 スペイン領サハラが確定
1973年 ポリサリオ戦線結成
1975年 モロッコ 緑の行進で越境してくる
スペインが西サハラをモロッコとモーリタニアに割譲する密約。
スペインが依然施政国だが、スペインは領有を放棄。
モロッコの西サハラ領有を認める国はない。

地名の表記
アラビア語の表記に従ってスペインは表記。
モロッコはフランス語風に表記を変える。

★前提3  解決策は合意済み
1978年 モーリタニアはポリサリオと停戦
住民投票さえさせてくれれば解決する。

問題点は何か?
西サハラに入るジャーナリストは潜伏しなければならない。
入るのは簡単。モロッコはビザなしで入れて、モロッコから観光客としてバスに乗ればそのまま西サハラに入れる。
町に私服警官がいて監視している

入れない人たち
・人権団体
・弁護士、政治家の視察
・ジャーナリスト
実情を知られたくない

弾圧が続く日常。
声をあげると、直ちに政治犯として捕まる。
逮捕や収監はまだよい。私服警官に連れ去られ沙漠に捨てられる。運がよければ車が通りかかるなどして助かる。

デモ 「独立を!」では捕まるので、「仕事を!」と。
命がけのデモ。周りに外国人の目もあるので、その場で捕まることはない。
自宅に戻るところをつけられて逮捕されたりする。
デモをしたければ難民キャンプに行けと。

サハラーウィの行方不明の人たちの登録者 400名を超える

あおられる憎悪
入植者を利用
学校ではモロッコの地だったと教える。
入植をモロッコが貧困者に対して斡旋している。仕事と住居を与えて、支援金も出している。
占領地では公務員の給与はモロッコの倍。
難民キャンプに暮らすサハラーウィの中からめぼしい人を選んで、お金を使って西サハラに住まわせることもある。

ダハラの町。入植が進む。
西サハラにはインフラも学校もない。
大学はモロッコに行くしかない。
仕事がない。資源もあるがサハラーウィには仕事を与えない。

事情を知らずに滞在すると普通に心地よい。
問題に気づかれてないことが問題。
メディアチーム以外にもグループがあって決死の覚悟で外部に伝える活動をしている。

45年続く難民キャンプ。
テントの中が全世界。キャンプで生まれた第二世代、すでに第三世代も。

*****
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岩崎有一さんは、最後に、「上映してくれた藤本さんに拍手を!」とトークを締め括られました。
西サハラについては、地図の点線の意味するのは何だろうと思っていたものの、全く実情を知りませんでした。命がけで撮った本作を通じて、何が問題なのかがよくわかりました。そして、平和裏に解決することが難しいことも・・・
難民キャンプで暮らす少女がスペインに行ったことにより、普通の暮らしがどういうものかを知り、国家というものが存在することを知ったという言葉が痛かったです。
非暴力のデモに参加しただけで捕まった人たちが、刑務所にぎゅうぎゅう詰めで雑魚寝させられている様子にも涙が出ました。
西サハラの人たちが独自の文化を守りながら平穏に暮らせる環境の実現を願うばかりです。
沙漠の民にとって、もともと国境など無意味なものなのですから。

景山咲子