第一回Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル授賞式

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 2023年11月29日(水)、沖縄県那覇市をメインにした新しい映画祭・第一回Cinema at Sea沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバルが閉幕しました。11月23日(木・祝)から一週間にわたった会期中は、コンペティション9作品のほか、特別上映、クリストファー・マコト・ヨギ監督特集(Director in focus)やマブイ特別賞受賞の高嶺剛監督(とキャスト・スタッフ)特集、Pacific Islands ショーケース、VRセレクション、野外上映など多くの映画が上映され、また、トークイベント等も多々催され、充実した映画祭となりました。
 11月29日のクロージングセレモニーでは、コンペティション部門とインダストリー部門各賞が発表されています。審査員長のアミール・ナデリ監督以下ベッキー・ストチェッティ氏(ハワイ国際映画祭エグゼクティブ・ディレクター)、仙頭武則氏(映画プロデューサー)、サブリナ・バラチェッティ氏(ウーディネ・ファーイースト映画祭代表)、伊藤歩氏(俳優)の計5名が審査員を務めました。授賞式冒頭、ナデリ監督は「私たちはたくさんの映画を観ました。たくさんの人たちに出会いました。私たちは家族のように親しい関係になっていたと思います。審査員もまた親交を深めながらベストを尽くしていきました。喧嘩をしながら心からの言葉を尽くして私たちは受賞作品を選んでいきました。素晴らしい役者、編集、すべての作品に賞を与えたいという思いがありましたが、私たちも限られた時間のなかでとても長い議論をして選びました」と審査過程について話され、白熱した会議であったことを明かしました。受賞結果は以下のとおりです。

【コンペティション部門】
最優秀映画賞『緑の模倣者』
The Mimicry/綠金龜的模仿犯 (監督:ジョン・ユーリン 鍾侑霖)

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ナデリ審査員長とジョン・ユーリン監督

受賞理由:シンプルで複雑で深い、そしてイマジネーションを掻き立てるような、カメラワークの正しい作品だった。(審査員長アミール・ナデリ氏談)
受賞コメント(ジョン・ユーリン監督):初めて沖縄に来ました。僕がこの作品で伝えたいことと沖縄は相通じるものがあります。違う民族が共存共生するなかで、皆が違う意見や違う眼差しを持っています。それをどうやって互いに受け入れていくかということがとても重要です。この関係性は人と人のみならず、人とモノ、人とあらゆる生物にも言えることだと思います。グローバリゼーションが進むなかで、この沖縄の島に皆がこうして集まったことはとても感動的です。
 補足:本作は、台湾の客家テレビ局のテレビ映画として製作されたもので、2023年の金鐘奬(放送メディアを対象にした賞)の最優秀テレビ映画賞受賞作。とある集合住宅に住む人々の日常を人間に擬態したコガネムシの視点で描いている。

観客賞『アバンとアディ』
Abang Adik/富都青年 (監督:ジン・オング 王礼霖)

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オング監督とプレゼンターの伊藤歩


 受賞コメント(ジン・オング監督):第一回のこの映画祭で『アバンとアディ』が観客賞を受賞したことをすごく嬉しく思います。2回の上映でのアフタートークで皆さんに涙を流させてしまって申し訳ない気持ちになりました。涙を流しながらこの作品をとても気に入っている、好きだという気持ちを伝えてくださいました。この作品をもって皆さんにお会いできたことを嬉しく思います。

主演俳優賞ウー・カンレン(呉慷仁)『アバンとアディ』

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ウー・カンレンの画像を背にオング監督とプレゼンターの仙頭氏


 受賞コメント(本人不在につきジン・オング監督が代理で登壇):先週(11/25)の金馬奬で最優秀主演男優賞を獲ったばかりのウー・カンレンが、まさかこの沖縄の映画祭でもこのような賞をいただけるとは本当に僕は夢にも思っていませんでした。俳優であれば、このような賞がいかに励みになるか、身に染みることでしょう。今日、彼はこの場にいないのですが、きっと彼にとって嬉しいニュースだと思います。心より感謝申し上げます。
 補足:コンペティションの応募要項に俳優についての賞の記載はなく、カタログにも「最優秀長編部門賞(最優秀映画賞)」と「観客賞」についての記述しかなかった。なお、本作でウー・カンレンは台湾の俳優であるが、このマレーシア映画では全編マレー語の手話を用いて演技をしている。

審査員賞①『アバンとアディ』
 受賞コメント(ジン・オング監督):このような席に3回連続で登壇するとは夢にも思いませんでした。まずは本当にありがとうございます。この賞は、映画に関わったすべてのクルーにとって、とても励みになる、サプライズな賞であると思います。この作品を手掛けてかれこれ3年が経ちますが、いろいろな地域でそれぞれに励ましの言葉をいただいています。本当に感謝申し上げます。

審査員賞②『クジラと英雄』
One with the Whole(監督:ジム・ウィケンズ監督&ピート・チェルコウスキー)

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ビデオメッセージよりウィケンズ監督

 受賞コメント(ジム・ウィケンズ監督よりビデオメッセージで):本当に嬉しく思っています。この映画を撮らせてくれたアラスカの先住民族の皆さんに心より感謝を伝えたいと思います。彼らがいなければこの映画は成り立ちませんし、彼らがこの映画を撮らせて世界に届けることを許してくれました。いま世界では、人々はなかなか感謝し合わずお互いに意見を聞かないということがあると思います。しかし、映画というコミュニケーションツールを通じて、それは人々が再び話をするきっかけとなって魔法のように人々をまたくっつけるように感じています。

【インダストリー部門】
Doc Edge賞「Magnetic Letters」デミ―・ダンフグラ監督
最優秀企画賞「沼影市民プール」
太田信吾監督、竹中香子プロデューサー


 映画祭期間中は、映画祭主催イベントのほか近隣会場での共催企画も開催されました。なかでも「沖縄映画製作者たち、大いに語る」と題したトークショーは会場に入りきれないほどの映画ファンや県外からの業界関係者が集結。映画祭アンバサダーの俳優・尚玄氏のほか、沖縄を拠点に作品を撮る岸本司監督、平一紘監督、東盛あいか監督が一堂に会し、沖縄で映画を撮るに際してのメリット・デメリット、沖縄をテーマにした作品作りについて、沖縄に映画文化を根付かせることの重要性などについて予定時間を超えて語り合いました。

取材&撮影 稲見公仁子

第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル 上映作品

タイムスケジュール
https://www.cinema-at-sea.com/img/sche_2023.pdf

公式HPより
オープニング『オキナワより愛をこめて』
監督:砂入博史 2022/101分/日本・アメリカ/日本語・英語/FHD
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© 石川真生

戦後27年間続いた米軍統治が終わり、日本に復帰したばかりの沖縄。当時20代だった写真家、石川真生は、米国黒人兵向けの娯楽施設でバーメイドとして働きながら、日記をつけるように写真を撮り続けた。「そこには愛があった」とキャッチコピーに記された写真集『赤花 アカバナー 沖縄の女』を手に、およそ半世紀前の記憶を蘇えらせる石川。映画は、ファインダーを通して語られた「愛」、そして作品の背景となった歴史、政治、人種差別、エンパワーメントを写真とともに映し出していく。

<監督プロフィール> 砂入博史
1972年広島で生まれ、ニューヨークを拠点に活動する。1990年に渡米し、ニューヨーク州立大学現代美術科卒業後、欧米、日本の美術館、ギャラリーにてパフォーマンス、写真、彫刻、インスタレーションの展示を行う。近年は、チベットや福島、広島の原爆等をテーマにした実験ドキュメンタリーを制作。2018年の袴田巌をインタビューした『48 years – 沈黙の独裁者』は同年熱海国際映画祭長編コンペで特別賞をもらう。2001年からニューヨーク大学芸術学科で教鞭も執る。

●コンペティション部門

『アバンとアディ』Abang Adik ジャパン・プレミア
監督:ジン・オング マレーシア/114分
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アバンとアディの兄弟はマレーシア生まれだが、身分証明書を持っていないために、パスポートや銀行口座さえも作れない。兄アバンは生まれつき口がきけず、一生懸命働いて安定した生活をしたいと思っているが、弟アディは手っ取り早く金儲けをしようと、偽造身分証明書の販売に手を染めている。そこにNGOから派遣された社会福祉士がやって来て、兄弟が合法的に身分証明書を取得する手助けに全力を尽くすが、ある事件が起き、アバンとアディは窮地に立たされていく。プドゥという街を舞台にした、多民族国家マレーシアの社会問題を広く人々に訴えかける力を持つ作品、クイア・シネマのテイストも滲ませている。

<監督プロフィール> ジン・オング
モア・エンターテインメント・シンガポール社の創設者であるジン・オングは、2008年から映画やテレビ制作に携わり、第1回、第2回マレーシア国際映画祭のキュレーターを務めた。自身が育ったマレーシアの状況を反映し、社会問題、人文学、道徳に焦点を当て、インディーズスタイルのリアリズムを生み出している。『アバンとアディ』の企画は、2020年にミラー・フィクション・ストーリー賞と台北金馬映画祭ピッチング会議のビジョナリー賞を受賞、数多くの映画をプロデュースしてきたオンにとって、本作が初の監督作品となる。脚本も彼自身が手がけている。

『サバイバル』 ジャパン・プレミア
監督:ロルフ・デ・ヒーア 2022/96分/オーストラリア/FHD
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砂漠の真ん中にあるトレーラーの檻の中に置き去りにされた黒人女性が檻から抜け出すところから物語は始まり、生き残ったはずの仲間を探して、砂漠から山、そして都市までを歩いていく。その途上で、“支配者たち”による迫害や暴力の手を掻い潜らねければならない、過酷なサバイバル・ロードムービー。近未来SF的かつ、斬新な視覚的アイディアの演出が見所の作品。監禁された者が過酷なサバイバルを体験するという、『悪い子バビー』(1993)で示されたロルフ・デ・ヒーア監督的モチーフは、本作でも変奏されている。

<監督プロフィール> ロルフ・デ・ヒーア
オランダ生まれのオーストラリア人映画監督。これまでに15本の長編フィクション映画を監督し、50年以上のキャリアを誇るオーストラリアの名匠。『アレキサンドラの企て』は2003年のベルリン国際映画祭で上映。本作『サバイバル』も今年のベルリン・コンペで上映されている。監督作品が数多くの賞を受賞している他に、ニューサウスウェールズ州プレミア文学賞を受賞している。奇しくも、1993年製作の『悪い子バビー』が公開から30年を経た今、日本劇場初公開を迎えた。

『オルパ パプアの少女』 ジャパン・プレミア
監督:テオ・ルマンサラ
2022/99分/インドネシア/インドネシア語・パプア語・英語/FHD
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舞台はインドネシアのパプア州ビアク島。奥深い森の山岳地帯に住む貧しい一家の少女オルパは、小学校を卒業したら進学して、将来は植物の研究をして医療に役立てたいという夢を持っていたが、父親から裕福な男の家へ嫁ぐことが決まったと一方的に言われ、家出を決行する。森の生活に慣れたオルパは、逞しくジャングルの道なき道を進んでいくが、その途中で都市のジャカルタから来て、途方に暮れている若者と出会う。二人は共に街を目指して歩み始めるが、オルパの父親が武装した村の自警団を引き連れて、若い二人を追い詰めていく。追跡劇やロードムービーといったジャンル映画的な魅力のみならず、自然から学んだ知恵を生かして夢に向かって行動する少女オルパを通じて訴求される人権への意識は、ここ日本でも大いに再認識されるべきものだ。

<監督プロフィール> テオ・ルマンサラ
インドネシアの最東端、パプア州のビアク島で生まれたテオ・ルマンサラは、ITプログラマーからラッパー・フィルムメーカーへと転身。パプアのヒップホップ・シーンのパイオニアの一人として、テオはWaena's Finestという地元のラップ・グループを共同設立し、これまでに3本のミックステープをリリース、彼の代表曲「Suara Hati Part 2」はYouTubeで100万人以上の視聴者が視聴した。

『緑の模倣者』 インターナショナル・プレミア
監督:ジョン・ユーリン 2023/83分/台湾/中国語・客家語/FHD
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カオ・イーフェン原作短編小説の映画化。人間の姿に擬態(mimicry)した緑色のコガネムシの物語。緑色の“彼”はアパートに侵入し、人間の行動を観察して模倣していく中で、コンテンポラリー・ダンスの演目で“虫”の動きを擬態する練習をしているダンサーの女性を見つけ、映画はマジカルな展開を見せる。人間と自然の境界が曖昧化する世界観を、台湾の客家語(はっかご)を用いて創り上げた、チャーミングでスタイリッシュなビジュアルセンスが光る作品。

<監督プロフィール> ジョン・ユーリン
台湾の大学(世新大学映画学科卒業)で映画を学んだ後、イギリス(ロンドン・フィルム・スクール修士課程修了)で映画を学び、初監督短編作品『The Angler』が2019年の台北映画祭で上映された。これからの活躍が期待される新人監督。

『ゴッド・イズ・ア・ウーマン』 アジア・プレミア
監督:アンドレス・ペイロ 2023/86分/パナマ共和国・フランス・スイス/スペイン語・フランス語/FHD
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1975年、フランスのアカデミー賞受賞監督ピエール=ドミニク・ゲソーは、女性が神聖な存在であるとされるクナ族のコミュニティを撮影するためにパナマを訪れ、クナ族と一緒に1年間を過ごす。最終的にプロジェクトは資金不足に陥り、フィルムは銀行により差し押さえられてしまう。その約47年後の今、クナ族の中で長老から新しい世代へと語り継がれるほど有名な伝説となっていた "自分たち"のフィルムのコピーが、パリで発見される…。パナマのクナ族が自らの“肖像”を取り戻す営みと、貴重な文化の継承を捉えた感動的なドキュメンタリー。

<監督プロフィール> アンドレス・ペイロ
アンドレス・ペイロは、パリを拠点に活動するスイス系パナマ人の映画監督。ニューヨーク大学のティッシュ芸術学校を卒業した後、ジョナサン・カウエット監督のドキュメンタリー映画『Walk Away Renee』(2011)を撮影し、2011年カンヌ国際映画祭批評家週間に選出された。フランスのテレビ向けに数多くのドキュメンタリー作品の撮影し、編集にも携わっている。初の長編ドキュメンタリー作品である今作は、2023年にヴェネチア国際映画祭のインディペンデント映画に特化したSIC部門(Settimana della Critica)とトロント国際映画祭で上映されている。

『クジラと英雄』 ジャパン・プレミア
監督:ピート・チェルコウスキー、ジム・ウィケンズ
2023/80分/アメリカ/ユピック語・英語/FHD
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アラスカのベーリング海に浮かぶ、僅か人口千数百人の島セントローレンス島では、クジラ漁は島の人々の生活の生死を分ける重要な営みだ。それ故に、島の若者クリスが史上最年少でクジラを仕留めた時、島中が“英雄”の誕生を祝福したが、このことをSNSに投稿すると世界中から非難の投稿が島の若き英雄に浴びせかけられ、クリスは心を病んでしまう。キャメラは、クリスに捕鯨を教えた父親や、女性が好きな姉といった家族の面々や島の人々の素顔を捉えていき、捕鯨という古くから伝わる島の伝統と、現代社会ならではの“問題”や“新しいリアリティ”が交錯する時空を、極寒の地のアラスカの自然と共に、雄大なスケールで描き出していく。

<監督プロフィール>ピート・チェルコウスキー、ジム・ウィケンズ
 ピート・チェルコウスキーの初長編映画は、トリニダードのカーニバルを通してヨーロッパとアフリカの衝突を描いた『Carnival Roots』(2002)。ディスカバリー・ネットワークでは『Fighting Tuna』(2012)を製作した他、移民してきたティーンエイジャー5人が高校3年間を乗り切ろうとするドキュメンタリー映画『I Learn America』(2013)を製作。数多くのメジャー系コマーシャルを演出している。
ジム・ウィケンズは、過去15年にわたり、環境紛争の最前線で活躍する一流のストーリーテラーとしての地位を確立。過激な動物愛護運動家として知られるジムは、現在、世界中の先住民や沿岸の人々と密接に協力し、環境正義のために闘っている。アムネスティ・インターナショナル賞、ワン・ワールド・メディア賞など数多くの賞を受賞している。本作は初の長編ドキュメンタリー作品。

『BEEの不思議なスペクトラムの世界』 
インターナショナル・プレミア
監督:ファビアン・ローブリー
2022/73分/ニューカレドニア/フランス語/FHD
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ここ数ヶ月、エレアはISA(ニューカレドニア自閉症専門研究所)のワークショップで出会ったヒューゴのエレクトロニック・ミュージックにソフトで儚げな歌声をのせて、音楽制作に取り組んでいる。彼女の歌詞には、生き生きとした感情が息づいていて、アスペルガー自閉症である彼女の人生の波乱に満ちた側面を明らかにしている。神経症という不透明な世界の中で、エレアは一歩一歩、自律に向けて時に困難な道を歩んでいる。話すことよりも、歌うことが得意な彼女は、一音一音、音楽的飛翔を育み、歌詞に磨きをかけ、「BEE」というステージネームで、アルバムデビューすることを考えている。

<監督プロフィール> ファビアン・ローブリー
マルセイユ出身のドキュメンタリー作家兼編集長。視覚芸術の学位を持ち、芸術、科学、技術編集(S.A.T.I.S)のエンジニアでもある。ニューカレドニアで20本以上のドキュメンタリーを編集した後、映画製作に進出。社会文化的、歴史的な問題にフォーカスし、市井の人々の物語を伝えることで、人々の心を広げ、社会的結束を育むことに貢献できると考えている。

『水いらずの星』 Intimate Spaceワールド・プレミア
監督:越川道夫 日本/164分
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© 2023松田正隆/屋号 河野知美 映画製作団体

岸田國士戯曲賞受賞経験のある劇作家・演出家、松田正隆の同名戯曲を越川道夫監督が崖っぷちのユーモアを効かせ、大胆に映画化。舞台は、香川県の坂出、寂れたアパートで女が一人暮らしをしている。女はかつて、長崎県の佐世保で夫と暮らしていたが、別の男と駆け落ちをした後、一人で坂出に流れ着き、スナックで働いて生計を立てている。そんなある日、夫が女のアパートを訪ねて来て、二人は長年の空白の時間を埋めるように、お互いのことを少しずつ語り出す。本作のプロデューサーでもある、主演女優河野知美の”顔”は、映画の主戦場と化していて、何人もの女性が憑依しているかのように幾通りにも変幻する。

<監督プロフィール> 越川道夫
1965年生まれ。演劇活動、劇場勤務を経て映画の配給宣伝をする一方、『海炭市叙景』(2010)、『かぞくのくに』(2012)等の映画制作に関わる。2015年初監督作『アレノ』で高崎映画祭ホリゾント賞、2018年『海辺の生と死』で日本批評家大賞新人監督賞を受賞している。
映画公式HP:https://mizuirazu-movie.com

『ロンリー・エイティーン』 ジャパン・プレミア
監督:トレイシー・チョイ
2023/91分/マカオ・香港/広東語・中国語/FHD
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物語は、主人公の女優エレインが、自らが育った貧しいマカオ時代のことを回想する1980年代と現代の描写、2つの時代を往来する形で進んでいく。エレインは、貧しかったが、夢を持って、香港のエンターテインメント業界に身を投じた過去を回想しながら、自らのアイデンティティと俳優としての仕事の間で揺れ動いている。1980年代を舞台にしたマカオ部分では、トレイシー・チョイ監督の前作『姉妹関係』(2017)に主演した二人の女優が出演していて、エレインとエレインの親友インの役を演じている。現代パートのエレインを演じたアイリーン・ワンは、かつて1982年に『Lonely Fifteen』という作品で主演を演じており、映画の物語には、本作の製作も務めたアイリーン・ワンの実人生の一部も反映されていて、エンタメ業界の性搾取の側面も描かれている。

<監督プロフィール> トレイシー・チョイ
マカオ生まれマカオ育ち。高校時代にビデオ制作に目覚めて以来、映画監督を志し、マカオを離れて台湾で映画製作を学ぶ。卒業後はマカオに戻り、テレビ局で働きながら短編映画やドキュメンタリーを制作。トレイシーの初長編映画『姉妹関係』(2016)は、第1回マカオ国際映画祭のコンペティション部門に選ばれ、マカオ観客賞を受賞、さらには、第36回香港電影金像奨にノミネート、複数の国際映画祭で最終選考に残り、賞を受賞している。

●Director in Focus部門 クリストファー・マコト・ヨギ特集
『誠』 アジア・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2013/6分/アメリカ/英語/FHD

クリストファー・マコト・ヨギは父親の死に向き合うために故郷のハワイへと戻ってくる。対話という単純な行為を通じて安らぎを模索する短編ドキュメンタリー。

<監督プロフィール> クリストファー・マコト・ヨギ
クリストファー・マコト・ヨギはハワイ州ホノルル出身。デビュー長編映画『アキコと過ごした八月』は、2018年にロッテルダム国際映画祭でワールドプレミア上映され、評論家から絶賛された。批評家リチャード・ブロディはThe New Yorker誌で本作を「2019年のベスト映画」リストに挙げている。次の長編映画『シンプル・マン』は、2021年のサンダンス映画祭のU.S.ドラマ部門でプレミア上映された。それ以前には、サンダンス脚本家・監督ラボ、IFPフィルム・ウィーク、フィルム・インディペンデントのファスト・トラックに参加し、ジェローム財団の助成金とシネリーチの助成金を受けている。短編映画には、ドキュメンタリー『Occasionally, I Saw Glimpses of Hawai'i』(2016)、『誠』(2013)、フィクション『お化け』(2011)などがある。

『お化け』 アジア・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2013/13分/アメリカ/日本語・英語/FHD
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©Christopher Makoto Yogi

ハワイのノースショアで余生を過ごす高齢の日本人男性のもとに、過去の亡霊が訪れる。ハワイという島のエッセンスが凝縮した短編フィクション。

『アキコと過ごした八月』 ジャパン・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2018/75分/アメリカ/英語・ハワイ語/FHD
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©Christopher Makoto Yogi

ビーチ」「ラスト・リザード」)が、10年近く離れていたハワイ島に帰ってきた。取り憑かれたようにサックスのソロを吹き、物思いにふけりながら散歩する中、アレックスはアキコという女性が経営する仏教徒向けのベッド・アンド・ブレックファストに偶然出くわす。ハンタイのワイルドなサックスとアキコの梵鐘が、思いがけない新しい友情を取り巻く音の網のように、観客を包み込む豊かなサウンドトラックのベースを形成していく。

『シンプル・マン』 ジャパン・プレミア
監督:クリストファー・マコト・ヨギ
2021/100分/アメリカ/英語/FHD
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©Foulala Productions

ハワイのオアフ島ノースショアの田園地帯、死期の近づいた老人に過去の幽霊が訪れる。全4章で構成される本作では、家族の歴史と神話、夢のロジックとシュルレアリスムが入り混じり、父親の死に直面する分裂した家族の時間が万華鏡のように切り替わる。現代ホノルルの高層ビルから第二次世界大戦前のオアフ島の田園風景へ、そして、最終的にはあの世へと観客を導いていく。

●Pacific Islands ショーケース

『どこにもない場所の記録』 ジャパン・プレミア
監督:チェン・チュンディエン
2022/24分/台湾/中国語/FHD
戒厳令の時代、厳粛な静寂に包まれた海岸線に、時代錯誤の建築物群がどこからともなく現れた。カラフルで滑らかな楕円形のプラスチックの輪郭が特徴のUFOハウスは、地元の人々によって「精緻なスペース・ポッドハウス」と名付けられた。人工的な景観は、偉大なユートピア的ビジョンに沿った、まったく新しい価値観を現出させたのである。異形の過去の風景と既視感を呼び起こす未来の狭間を捉えたドキュメンタリー。

<監督プロフィール> チェン・チュンディエン
台南芸術大学ドキュメンタリー研究大学院で学び、 アニメーション作品『Sick Building Syndrome』(2015)は台北映画祭、高雄映画祭など国内外の映画祭で上映された。 ドキュメンタリー『中国街の思い出』(2016)は、実験的な手法を用いて都市再生の問題を探求し、山形国際ドキュメンタリー映画祭のアジア千波万波部門に選出されている。

『岸を離れた船』 ジャパン・プレミア
監督:ファン・ウェイシャン、シュウ・ホンツァイ
2022/29分/台湾/中国語・韓国語・日本語/FHD
1910年から1945年の間に、当時日本の植民地だった台湾に3,000人以上の朝鮮人が働きに来た。1945年、日本の敗戦により、台湾に住んでいた朝鮮人は送還された。しかし、送還のための資金が限られていたため、358人の朝鮮人が台湾に残った。そのほとんどが基隆の勝利巷(現在の中正路656巷)に住んでいた。70代の朝鮮人女性3人が登場し、戦争によって故郷から遠く離れ、アイデンティティの問題や戻ることのできない問題に苦しむ生活を語る。韓国と台湾の狭間に忘れ去られ、身も心も2つの国に引き裂かれた女性たちの物語。

<監督プロフィール> ファン・ウェイシャン、シュウ・ホンツァイ
ファン・ウェイシャンは台湾の新竹出身。台中の東海大学を卒業した後、トゥモロー・タイムズとネクスト・マガジンの写真家として働いた。人と土地の関係に長期的に焦点を当てた、 ドキュメンタリー『The Public Girls' Band』(2017)と『SanDaoLing Blues』(2019)は国内外の映画祭で上映されている。

『台湾のイケメン・フィリピーノ』 インターナショナル・プレミア
監督:リリー・ホアン、ジェン・ジーミン
2022/38分/台湾/英語・中国語・タガログ語/FHD
国際的なビューティー・コンテストの常連で知られるフィリピン。国内だけでなく、200万人の海外フィリピン人労働者が働くあらゆる場所で、フィリピンの若者たちはその美を競い合う。工場に勤めるロビン、ジョン・ルイ、レイモンドの3人は、台湾の新竹で開催されたイベント「Ginoong Taiwan」の候補に上がった。揺れ動く20代、30代の男心とは? 美へのこだわり、愛への欲望、仲間意識――異郷の台湾で働く男たちの思いがカメラを通して浮かび上がる。

<監督プロフィール> リリー・ホアン、ジェン・ジーミン
国立台北芸術大学で戯曲のMFAを取得しているリリー・ホアンは、 ジェン・ジーミンと共同監督した本作『台湾のイケメン・フィリピーノ』が、2022年のLabor Film Awardを受賞し、2023年の金穗獎の最終候補に残った。

『GAMA』 オキナワ・プレミア
監督:小田香 2023/53分/日本/日本語/DCP
第二次世界大戦末期に苛烈な地上戦が繰り広げられた沖縄には、自然洞窟“ガマ”が数多く存在する。沖縄戦を語り継ぐガイドであり、遺骨収集の活動をしている松永光雄は、戦火の中をガマに避難した人々について語る。あるガマでは集団自決が発生し、あるガマでは米軍兵との対話を試み、多くの命が救われた。彼らがガマで過ごした時間を、語りの合間の「暗闇体験」によって追体験する。傍には青い服をまとった「影」がたゆたう。誰にも知られず亡くなっていった人々の遺骨が、今を生きる私たちの眼前に姿を現す。悠久の時を経て形作られたガマの空間に、積層する時間と人の営みの痕跡を16ミリフィルムで捉えた。

<監督プロフィール> 小田香
1987年大阪府生まれ。フィルムメーカー/アーティスト。イメージと音を通して人間の記憶(声)―私たちはどこから来て 、どこに向かっているのか―を探究する。タル・ベーラが陣頭指揮する若手映画作家育成プログラムであるfilm.factory(映画制作博士課程)に第1期生として参加し 、2016年に同プログラムを修了。2020年、第1回大島渚賞を受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

『先祖たちの拒絶』 アジア・プレミア
監督:ショウ・ヤマグシク
2021/10分/カナダ・アメリカ/英語・沖縄語/FHD
鬱蒼とした熱帯雨林から、不思議なイメージや音が立ち現れる。ウヤファーフジ(沖縄の言葉で祖先)は、私たちの日常生活に深く入り込んでいる。彼らは私たちが忘れることを拒み、妥協することを拒み、国家の法に縛られて生きることを拒む。

<監督プロフィール> ショウ・ヤマグシク
ショウ・ヤマグシクの創作活動は沖縄人ディアスポラとしての意識に根ざしたものである。苦難に満ちた移民の歴史的体験を物語として語る場を切り拓くために彼は力を注いできた。山城姓をもつ祖母の両親は沖縄本島北部のやんばる地域にある田港の故郷を離れ、アメリカの先住民族トンヴァの言葉でトヴァーンガルと呼ばれるロサンゼルス近郊地域に渡った。一方、田中姓をもつ父方の両親は福岡県豊前松江の出身であり、アラスカ州ジュノーに移民した。ヤマグシクは現在、カナダのブリティッシュ・コロンビア州にあるレクウンゲン族とウサナック族のテリトリーで生活を営んでいる。

●VR体験上映
『メイキング』 ジャパン・プレミア
監督:ミディ・ジー
2018/9分/台湾/中国語/VR
3D VR 360°カメラを用いた「映画内映画」的なメタシネマ手法による疑似ドキュメンタリー形式で、撮影現場や舞台裏の様子が描き出される。3D VR 360°カメラを使って映画を作る場合、VRカメラの視野角は前後左右の4つのエリアに分けられる。前方の視野角は、映画内映画『スパイ・ラブ』のキャストが映画の中でそれぞれの役を演じ、「映画内映画」を表現する場所。後方のアングルは『スパイ・ラブ』の監督チームであり、左右のアングルは本作を監督するミディ・ジーの撮影スタッフである。『スパイ・ラブ』の監督は、危険な没入型手法を使って、キャストに自分の役を演じさせる。

<監督プロフィール>
ミディ・ジー
ミャンマー生まれ。16歳で台湾に留学し、デザインの学士号と修士号を取得。現在は台湾、ミャンマー、中国で映画を制作している。2011年以降、ミディは3本の長編映画を製作したが、いずれも予算は1万ドル以下、その中には、ユベール・バルス基金を受賞した『リターン・トゥ・ビルマ』(2011)、ナントの三大陸映画祭のコンペティション部門に出品された『The Poor Folk』(2012)、エジンバラ映画祭で最優秀国際長編賞を受賞し、2014年のアカデミー賞外国語映画賞に台湾代表として出品された『Ice Poison』が含まれる。2016年、ミディの最新長編『マンダレーへの道』はヴェネチア国際映画祭のヴェネチア・デイズ部門で最優秀長編映画FEDEORA賞、アミエン映画祭でグランプリを受賞した。

第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル開催

「環太平洋地域」から募集した約40作品を上映

11月23日より沖縄県・那覇市の会場で環太平洋地域にフォーカスした新しい国際映画祭「第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」が開催されます。太平洋の島々を繋ぎ、多民族の文化と触れ合うことができる沖縄ならではの映画祭。会期中はトークイベント、映画製作・企画者が製作資金を得るためのプレゼンの場であるピッチイベント、フォーラム、クリエイター向けワークショップなども行われる。

第一回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル
【開催期間】 11月23日(木・祝)〜11月29日(水)7日間
【開催会場】 那覇市ぶんかテンブス館4階テンブスホール、桜坂劇場、那覇文化芸術劇場なはーと、タイムスホール(沖縄タイムス本社 3階)
【コンペティション部門審査員長】アミール・ナデリ監督
【審査員】伊藤歩(女優)、仙頭武則(映画プロデューサー)、サブリナ・バラチェッティ(ウディネ・ファーイースト映画祭ディレクター)、ベッキー・ストチェッティ(ハワイ国際映画祭エグゼクティブ・ディレクター)
【オープニング作品】
『オキナワより愛をこめて』(日本)砂入博史監督
【クロージング作品】
『私たちはここにいる』(オーストラリア/ニュージーランド)
【コンペティション部門作品】※全9作品
『アバンとアディ』(マレーシア)、『サバイバル』(オーストラリア)、『緑の模倣者』(台湾)、『ゴッド・イズ・ア・ウーマン』(パナマ/スイス/フランス)、『オルパ パプアの少女』(インドネシア)、『クジラと英雄』(アメリカ)、『BEEの不思議なスペクトラムの世界』(フランス)、『水いらずの星』(日本)、『ロンリー・エイティーン』(マカオ/香港)
【特別企画】
特別セレクション「Director in focus」クリストファー・マコト・ヨギ監督の特集上映
Pacific Islands ショーケース
野外上映
VR体験上映
ほか
【功労賞「マブイ特別賞」受賞者】高嶺剛監督、高嶺組

琉球王国時代に中継貿易地として栄え、アジアをはじめ周辺諸国と交流していた歴史的背景と文化的多様性。そして観光地として多くの人々を魅了している沖縄。
「Cinema at Sea」をテーマに、沖縄を文化発信基地として環太平洋に開かれた沖縄から環太平洋地域の国々の優れた映画を発信し繋いで、国際的な映画マーケットへの架け橋となるというコンセプトの映画祭。映画の上映だけではなく教育や人材育成も視野に入れたプログラムも。
「環太平洋地域」から募集し、最高賞を競うコンペティション部門は日本の『水いらずの星』(越川道夫監督)ほか、台湾、マレーシア、香港、インドネシア、オーストラリアなどの計9作を上映。日本の映画祭では珍しいVR作品を8作品上映。また環太平洋地域の島々から注目の映像作家を取り上げ紹介する「Director in focus」。第一回目の今年は沖縄にルーツを持つハワイ出身の日系監督クリストファー・マコト・ヨギ監督を特集。
審査員長はイランの巨匠アミール・ナデリ監督。ほかに女優の伊藤歩さん、映画プロデューサーの仙頭武則氏、ウディネ・ファーイースト映画祭のディレクターサブリナ・バラチェッティ氏、ハワイ国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターのベッキー・ストチェッティ氏の5人でコンペティション部門の審査を行う。

公式サイト:https://www.cinema-at-sea.com/
タイムスケジュール
https://www.cinema-at-sea.com/img/sche_2023.pdf

★チケット情報
前売り1,000円、当日券1,300円
学生:1,000円(当日会場販売のみ)
*学生料金は入場時に学生証の提示が必要
野外上映・VR体験上映:500円(当日会場販売のみ)
※前売りは11月上旬より、公式サイト、ファミリーマート店内のマルチコピー機での販売
詳細は公式HPで
https://www.cinema-at-sea.com/ticket.html

★開催会場情報
・那覇市ぶんかテンブス館テンブスホール(Naha Tenbusu)
https://maps.app.goo.gl/tPo95UrWuZbJhsfK9

・桜坂劇場(Sakurazaka Theater)
https://maps.app.goo.gl/qBibS9SwpeC9Dbph8

・那覇文化芸術劇場なはーと(Naha Cultural Arts Theater NAHArt)
https://maps.app.goo.gl/oC4XBVYkvLdQRwSD9

・シネマパレット(Cinema Palette)
https://maps.app.goo.gl/3McfQybArjqUhq1K8

・沖縄タイムスホール(Okinawa Times Hall)
https://maps.app.goo.gl/hL2cddp3aWyP9AqJ7

・南城市あざまサンサンビーチ
(Nanjo City Azama Sun Sun Sun Beach)
https://maps.app.goo.gl/WZhBiFbyhQHoAkw78


【映画祭インフォメーションセンター】
ホテル コレクティブ1F映画祭センター(11/18~11/29)
https://maps.app.goo.gl/CebMf6z9jKumL4by9