フランス映画祭2019横浜 『カブールのツバメ』 ザブー・ブライトマン監督&エレア・ゴべ・メヴェレック監督インタビュー

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来日した共同監督のザブー・ブライトマンさん(左)と、エレア・ゴべ・メヴェレックさんのお二人にお話を伺う機会をいただきました。 

『カブールのツバメ』  原題:Les Hirondelles de Kaboul
監督・脚本:ザブー・ブライトマン、監督:エレア・ゴべ・メヴェレック 
出演:ジタ・アンロ、スワン・アルロー、シモン・アブカリアン、ヒアム・アッバス
2019年/フランス・ルクセンブルク・スイス/フランス語/1.85:1/82分
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© LES ARMATEURS – MELUSINE PRODUCTIONS – CLOSE UP FILMS - ARTE FRANCE CINEMA - RTS - KNM 2018

*ストーリー*
1998年夏、アフガニスタンのカーブルはターリバーン勢力の支配下に。ズナイラとモフセンのカップルは、暴力と悲惨な現実の中でも希望を持ち続けていたが、ある行動が災いし…。
2019年、カンヌ国際映画祭ある視点部門コンペティション出品。

監督・脚本:ザブー・ブライトマン
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1982年に「Elle voit des nains partout !」で映画デビュー。その後、『ラ・ブーム2』(82)、『ゴールド・パピヨン』(84)に出演してコメディエンヌぶりを発揮。「Billy Ze Kick」(85)での演技が評判となり、セザール賞有望若手女優賞にノミネート。90年代には、ディアーヌ・キュリス、フィリップ・リオレといった監督の作品に出演。2001年には初の長編映画『記憶の森』を手がけ、その年のセザール賞で最優秀作品賞を含む3部門を受賞。その後も精力的に映画やテレビドラマ製作に携わり、2013年にはコメディ・フランセーズの依頼で「システム・ラバディエ」を演出。2014年はパリ・オペラ座にてオペラ演出家デビューも果たした。

監督:エレア・ゴべ・メヴェレック (アニメーション作家)

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応用美術を勉強した後、2003年にエコール・デ・ゴブランでアニメーションを学ぶ。初監督した短編作品「MADAME」(06)がアヌシー国際アニメーション映画祭に出品された。その後、TV番組や高級ブランドなどのグラフィックデザイナーとしてキャリアを積み、自身がアニメーターとして参加した短編「BANG BANG!」(ジュリアン・ビサロ監督)が2015年のセザール賞にて最優秀アニメーション映画にノミネート。キャラクター・アニメーションを多く手がけ、2016年にはコミック原作のアニメ・シリーズ「Lastman」に参加。本作は彼女の初長編作品となる。


◎インタビュー
2019年6月20日(木) 14:00~14:25 
   ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル 12Fにて

FM横浜の生放送出演を終えて、駆けつけてくださったお二人に、お話を伺いました。

ザブー: 遠いところの話をご覧いただき、ありがとうございます。

― 実は私にはわりと身近なところの話です。
ターリバーンが猛威をふるっていた時代の映像をいくつか観ています。公開処刑の場面は実写だと目を背けたくなる光景です。 
アニメーションで描いたことにより、目をそむけずに見ることができ、しかも、その残酷さはしっかり伝わってきました。

二人:まさにそうだと思います。

― 原作は有名な物語ですが、どんな経緯で、アニメで描こうと思われたのですか?

ザブー:シナリオの段階で、アニメでと決まっていました。監督を探していると話が私のところにきました。原作をアニメ用に脚色しています。いろいろな候補者がいる中で、エレアさんにアニメーションをお願しました。

― カーブルの情景がとても生き生きと描かれていましたが、お二人はアフガニスタンにいらしたことがありますか?

二人:キャブール!(フランス語では、こう発音するようです) 行ったことはないですね。

― 本作を描くのにあたって参考にしたドキュメンタリーなどはありますか?

エレア:いろんな写真家が撮ったものも見ましたし、当時のドキュメンタリーをほんとにたくさん客観的に観ました。
原作はフィクションなので、少し距離を持って作ったほうがいいと思いました。カーブルの町の光の感じや埃とか、写真家の方から見せていただいたものがとても参考になりました。


― 原作者のヤスミナ・カドラさんというのは、女性の名前ですが、実は男性ですよね。アニメで描くのにあたり、お会いになりましたか?

ザブー:
アルジェリアの軍人だった人で、奥様の名前をペンネームにしているのですね。もちろんお会いしたことがあります。
原作を映画用に修正したところはありますが、基本的な考え方や設定は同じです。脚色の段階で、いくつか変更しています。中でも主人公の女性が絵を描くことにしたのは、映画のオリジナルです。デッサンを描くことや、写真を撮ることもターリバーンの政権下では禁止されていました。

― 人間らしく生きたいというヒロイン・ズナイラの思いが切々と伝わってきました。看守がズナイラさんに恋をしているのを、奥さんが見守るという夫婦の愛情も描かれていましたね。

ザブー:愛する気持ちから夫のために女性は自分を犠牲にします。すべて愛がもとにあります。

― 40年前のソ連が入る前のアフガニスタンに駐在していた人たちや旅をした人たちから、のどかで平和だったアフガニスタンのことをよく聞いていました。ですので、逆に私たちは今すごく平和に過ごしているけれど、いつ恐怖政治にさらされるかもしれないという意味で多くの人の共感を得ることができる作品だと思います。

二人:
ありがとうございます。

― 共同監督ですが、どのように制作を進めていったのでしょうか?

ザブー:2つの段階があります。アニメを作る前に、役者に演じてもらって、身体の動きや口の動きを見て、それを再現するように描きました。人間的な動きを反映さえています。

エレア: カーブルの景色については、ビデオなども参照しました。技術的にはできるだけエネルギーを倹約する工夫もしました。2Dの手法に、デッサンに必要があれば動きを加えました。

最後のサラという女性の一人のシーンなのですが、監督の意向に沿う形でスタートしたのですが、役者の動きが2分間ほとんどなくて、動きがないとアニメで描くのにはとても難しいのです。最後に息づかいと、ちょっとした動きがあって、それを活かしました。


― ヒアム・アッバスさんなど声の出演者に実際に演じて貰ったのですね?

ザブー:そうです。絵と実際の役者がすごく似ています。主役の夫婦は土地独特の伝統的な人たち。演じてもらったのも看守である夫役のシモン・アブカリアンはレバノン人、妻役のヒアム・アッバスはパレスチナ人です。二人とも中東の人なので、ちょっとした仕草や振る舞いにもそれらしさが出ています。
老人役は、実は私の父に演じてもらいました。撮影後に亡くなったので、あの老人を見ると父そのもので涙が出ます。


― まだまだお聞きしたいことがあったのですが、時間がきてしまいました。いつか日本で公開されることを願っています。




フランス映画祭2019横浜  『シノニムズ』

『シノニムズ』 原題:Synonymes
監督・脚本:ナダヴ・ラピド
出演:トム・メルシエール、カンタン・ドルメール、ルイーズ・シュヴィヨット
2018年/フランス・イスラエル・ドイツ/フランス語/スコープ/123分/R15+
★第69回ベルリン国際映画祭 金熊賞受賞

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© 2018 SBS FILMS - PIE FILMS - KOMPLIZEN FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

*ストーリー*

イスラエルからパリにやってきたヨアヴ。イスラエルの国籍を捨て、フランス国籍を取得しようと奮闘している。
広々とした空き部屋のバスタブで凍死しそうになっているところを、エミールとキャロリーヌのカップルに助けられる。
やがてイスラエル大使館の警備員の仕事に就くが、大雨の日、列を作る人々のために「国境を越えろ」と柵をあけ、皆を中に入れたことからクビになる。
「ヘブライ語の講師もしているしモデルの仕事もある」というが、カメラマンに裸になり自慰するのを強要される。「ヘブライ語で何か言って!」と指示され、「俺はここで何をしている?」とヘブライ語で叫ぶ。
国籍を取るために市民講座に通うヨアヴ。はたしてフランスは彼を救ってくれるのか?


国を捨てて、フランスに受け入れてもらいたいという思いが、ヨアヴの息づかいや吐き出すようなフランス語の単語の練習から、伝わってきました。
フランスが自国の狂気から自分を救ってくれると信じるヨアヴの姿を通じて、国籍とは? 母国語を捨てるということとは? と、様々なことを考えさせられる作品。

ナダヴ・ラピド監督にインタビューの時間をいただいていたのですが、上海で予定の飛行機に乗り損ねたとのことで、取材を断念。お聞きしたいことがいっぱいあったのに、ほんとに残念でした。

用意していた質問の一部をここに挙げておきます。

母国語を拒否するのは自分の一部を殺すのと同じという言葉がでてきました。 監督ご自身、パリに移住したのち、イスラエルに戻っていらっしゃいます。 この言葉は監督ご自身の経験からきているのでしょうか?

主人公ヨアヴの祖父がリトアニアから英領パレスチナに来た人物という設定でした。先に行った兄は自殺。家族はホロコーストで皆死んだとありました。
祖父は宗教学校の秀才だったけれど、国を出て、イディッシュ語を拒否し、もう一言も話さないと宣言。 これは、監督のお祖父さんの話でしょうか?

市民講座で、1905年は 国家と教会の分離の年と教えられます。
人の宗教も自分の宗教も話さない。教会、モスク、シナゴーグには税金を使わない。
宗教、神様はいない。税金は教育に使われる。 という説明があり興味深かったです。
メトロに乗り、イスラエルの歌を口ずさみながらメトロの中の乗客一人一人を覗き込む場面がありました。キッパを被りましたが、それ自体、フランスでは禁止行為なのではないでしょうか? (メトロが公共の場とすればですが)

ほかにもお聞きしたいことがたくさんある作品でした。


監督・脚本:ナダヴ・ラピド  プロフィール
1975年イスラエル、テルアビブ生まれ。テルアビブ大学で哲学を学び、卒業後に自国の徴兵に参加した後にパリに移住。イスラエルに戻り、サム・スピーゲル映画テレビ学校を卒業。初監督作品「Policeman」は2011年のロカルノ国際映画祭にて審査委員特別賞を受賞。「The Kindergarten Teacher」(14)は、カンヌ・批評家週間をはじめ、数多くの映画祭に出品された。2016年にはカンヌ・批評家週間の審査員も務めた。(公式サイトより)


フランス映画祭2019横浜 『マイ・レボリューション』ジュディス・デイビス監督 インタビュー

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マイ・レボリューション  原題:Tout ce qu'il me reste de la révolution
監督・脚本・出演:ジュディス・デイビス
出演:マリック・ジディ、クレア・ドゥーマス、メラニー・ベステル
2018年/フランス/フランス語/1:1.85/88分
★配給未決定
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©Agat films & Cie - Ex nihilo


*ストーリー*
共産主義の両親に育てられた30代のアンジェルにとって、現代社会は憤りを感じることばかり。人が真に共存できる町を目指して都市計画家になったのに、リストラで所属事務所からクビを言い渡される。
活動家だった父は歳をとり、母は政治思想を捨て田舎に移住している。
全てに行き詰ったアンジェルは、久々に母に会いに行く・・・

ジュディス・デイビス  Judith Davis
1982年パリ生まれ。ソルボンヌで哲学を学んだ後、演劇の世界に入る。2003年ベルギーの劇団にインターンで参加。その後、友人らとともに立ち上げた劇団〈L’Avantage du doute〉の活動を中心に、TVや映画での活動の場を広げる。主な出演映画作品に『ウィークエンドはパリで』(2013年イギリス)、『ローマに消えた男』(2013年イタリア)などがある。本作が初の監督作品となる。(公式サイトより)

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◎ジュディス・デイビスインタビュー

2019年6月20日(木) 13:00~13:25 
ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル 12Fにて

― 人が共存できる町づくりを目指す主人公の姿が素敵でした。

ありがとうございます。

― 5月革命«Mai 68»から、50周年を意識して脚本を書かれたのでしょうか? 私自身、1968年のとき、高校2年生だったのですが、2ヶ月位、授業をしないで毎日教室で学校への要求事項について討論会をしていました。あの頃のような情熱は、もう皆持っていません。

日本でも影響を受けてそのような動きがあったと聞いて、嬉しいです。 ただ、この映画は作るのに7年位かかったので、5月革命50周年の年に出来上がったのは、偶然のタイミングです。脚本を書いて、キャスティングして、資金を集めて・・・と時間がかかりましたから。いつ映画が製作できるかもわかりませんでした。

― 監督ご自身は生まれてなくて経験されていませんが、5月革命を経験した世代である父親と母親には監督のご両親が反映されているのでしょうか?

私自身はもちろん経験していませんが、やはり両親が経験していて家族の中で5月革命の精神などに触れる機会がありました。
ある意味、フランス社会全体が、5月革命の遺産の上に成り立っているといっていいです。家族によって5月革命の話をしないところもありますので、個人によって受け継がれていない場合もあります。

私の仕事の進め方は、もともと五人の俳優で立ち上げた劇団「L’Avantage du doute(疑いの恩恵)」でやってきたことがベースになっています。それを深く掘り下げて映画にしました。5人で共通の問題意識を持って、リーダーを決めずに、皆がすべての責任を負う形です。
政治的取り組みもテーマとして取り上げてきました。

父シモン役を演じた役者は、1968年の時、18歳で、5月革命を経験しているので、物語に反映させています。
私自身が家族から聞いていることも取り入れています。
姉役のメラニーさんの家では、5月革命の記憶は受け継がれてきませんでしたので、個人的に映画などから想像して、妄想で描いたりしています。色々な背景の人たち皆で作り上げています。

― 原題 『Tout ce qu'il me reste de la revolution』の意味は?

直訳すると、「革命から私に残っている唯一のもの」という意味です。自分自身で革命から何が残っているのか自問自答しています。政治的なことなのか、精神的なことなのか、集団的なことなのか、個人的なことなのか・・・・ 入り交じったものなのかを問うているのです。
昔の革命と今の社会を結びつけるのですが、今はせわしくて自問自答している時間もなくて、大事なものを忘れられているのではないか。そんな中で反抗精神を持ち得るのだろうかということも問うています。

― 観る側も自問自答したくなりました。
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― これまで女優として活躍されてきましたが、今回は監督を務めながら演じて、これまでとどんな違いがありましたか?


映画では女優として出演してきましたが、劇団では5人で一緒に脚本を書いて、演出もして演じてきましたので、その延長線上にあります。撮影する時に、カメラの前と後を行ったり来たりするのですが、自分が演じる時には、前もってしっかり話し合いをして撮影に入りました。
デュマさんが劇の時にも分身的に仕事をしてきたのですが、自分が監督している時には彼女が役者としてフォローしてくれるし、演じている時には、逆の立場でフォローしてくれました。
一緒に仕事をする時の仕方が、こうした方がいい、ああした方がいいと意見をいうのではなく、お互い、こう理解したけど間違ってない?と確認しながら進めてきました。

― 劇と映画の違いは?


それはもちろん違いますね。プロセスが違いますし、脚本の書き方も違うなどすべてが違いますが、劇での経験は活きています。
5人の仲間たち、皆が問題意識を共有していて、お互いわかりあっています。
劇団の5人がこの作品の前身になっています。

― これからも映画を?


芝居も続けていきますので、5人で次の作品も書いています。
環境問題、男女平等問題などを織り交ぜた作品になります。
個人的には次の映画も考えています。芝居と共通のテーマもありますが、違った視点で描こうと思っています。
私が常に追い求めているのは、今の世の中での矛盾とか、怒りとか苦しみとか、社会に対して何を言いたいかを掘り下げていくことです。今まさに問題になっていることを取り上げたいと思っています。

― フランスでは一番何が問題と感じていますか?

労働、メディア、環境、男女平等、資本主義と男性優位社会の矛盾・・・などたくさんあります。

― それでも、フランスでは女性監督も多いし、日本よりいいと思います。


少しね。でも、まだまだ。

― あっという間に時間になってしまいました。次の作品も楽しみにしています。ありがとうございました。


****★★*****
最初にお会いした時に、私の胸のアッラーと書かれたペンダントに気づいたジュディス・デイビスさん。
「映画に出てくる青年サイードは、名前からして、アラブ系ですよね?」とお聞きすると、「たぶんね。でも映画の中では、彼の民族とか宗教については、あえて何も語っていません」との答えが返ってきました。
「フランスには、アラブ系の人も普通にいますよね。あえて語る必要ないですね」と返すと、「そうですね」と笑うジュディスさんでした。

         取材:景山咲子