東京フィルメックス『マイルストーン』(インド) リモートQ&A  (咲)

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『マイルストーン』原題:Milestone
監督:アイヴァン・アイル(Ivan AYR)
インド / 2020 / 98分

北インドを舞台に、激しい腰痛に苦しみながら亡くなった妻の家族への賠償金のために働くベテランのトラック運転手の苦悩を描く。デビュー作『ソニ』が高く評価されたアイヴァン・アイルの監督第2作、ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。
(公式サイトより)
https://filmex.jp/2020/program/competition/fc5

*物語*
トラック運転手として経験の長いガーリブ。デリーにあるトラックセンターで待遇をめぐって荷物の積み込みを行う労働者がストに突入。ガーリブは自ら積み下ろしをしなくてはならず、腰を痛めてしまう。
さらに、ガーリブが頼りにしている相棒の運転手ディルバーグの夜目が利かなくなり辞めるという。トラックセンターの老社長や若社長から、絶大な信頼を置かれているガーリブは、若手育成を託される。若い運転手パーシュがトラックに同乗するようになるが、いつか自分の仕事を取られてしまうのではとガーリブは不安になる。
一方、2年前にやっと娶った妻が自殺してしまい、妻の実家のシッキムから父親と妹がやってきて、賠償金を支払えという。ガーリブは故郷の村落委員会に解決の仲介を頼む・・・

仕事場では、頼りの同僚は仕事ができなくなり、労働者のストもあって負担が重くのしかかっているのに、私生活でもやっと結婚した相手が自殺。散々な目にあっているガーリブの物語。デリーのガーリブの隣人はカシミール出身の家族。亡くなった妻は、ネパールやブータンにも近いシッキム出身。なぜこんな遠いところの人と結婚?という謎は、Q&Aで解けました。
シッキムには20年以上前に行ったことがあって、亡くなった妻の父親や妹の風貌が日本人にも似ているのを懐かしく思いました。監督のいるインド北西部のチャンディーガルにも行ったことがあって、ル・コルビュジエ設計の碁盤の目のような計画都市。インドらしくない無機質な町。こちらはシク教徒の多い地区。ガーリブという主人公の名前からムスリムかなと思っていたら、亡き妻の賠償金の調停のために帰った村は、どうみてもシク教徒の村。第一、ガーリブがムスリムなら結婚するときに婚資金の取り決めをしているはずなので、賠償金の額でもめることはないはず。そんなことを思っていたら、監督とのQ&Aで、ガーリブはシク教徒と判明しました。インド北西部のシク教徒の間で、ムスリムの名前を付けることはよくあることなのだそうです。


上映:
10月31日(土) 21:20- @ヒューマントラストシネマ有楽町 
11月5日(木) 12:50- @TOHOシネマズ シャンテ 

◎Q&A(リモート)
11月5日の『マイルストーン』上映後、監督とのQ&Aがリモートで行われました。
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登壇:
アイヴァン・アイル(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
動画:https://youtu.be/i1Ea8Ra9go8
下記のうち、★印:動画にはない部分

市山:インドのチャンディーガルにいる監督とZOOMで繋がっています。さっそくQ&Aを始めます。

監督:大変な時期だからこそ、皆さんが劇場で観てくださったのがなにより嬉しいです。自分もその場にいられたらと思います。日本で観ていただくのが夢でした。日本の巨匠たちから大変影響を受けましたので。

市山:なぜ長距離トラックの運転手を主人公にしたのでしょうか? 日々の生活を描いていますが、なぜこの職業の方を?

監督:まず、トラック運転手はどこにでもいますよね。資本主義を支えているのが運送業の人たち。でも気づいたのですが、移動しているけど、運転手自身は小さなトラックの世界に閉じ込められていて、実は彼らはどこにも行っていません。それは私たち皆にも当てはまることだと思います。自分の人生を操縦する主人公であるのにもかかわらず、小さなところから思うように動かない。その視点から作品を撮ることにしました。

Q:ファーストカットを長いシーンにしたのは? ワンカットにした理由を教えてください。

監督:私は自分の作品をカットのないシークエンスでよく始めます。最初に主人公のいる状況、時と空間をまず観て貰って、360度キャラクターの眼に入るものを観客に共有してもらう目的です。居場所や環境を観る人に確認してもらって、キャラクターの目線で世界を観て、そこから旅を始めるという導入です。

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Q:主人公はムスリムだと思いますが、シッキム出身の奥さんは仏教徒かクリスチャンでしょうか? 二人はどのようにして知り合って結婚したのでしょうか?

監督:主人公の名前はムスリムのものですが、シク教徒です。主人公のガーリブという名前は、インドの19世紀のムスリムの偉大な詩人からつけられています。北インドのシクの人たちは、ムスリム系の名前をよくつけます。
また、亡くなった妻をシッキム出身の女性にしたのは、リサーチでわかったことですが、運転手はなかなか結婚できなくて、仕事で行った先で結婚を持ちかけられ、金を払って妻を娶ることがあるそうです。この映画の主人公の場合はお金を払ったとは特定していませんが、仕事で行った先のシッキムで知り合ったという設定です。彼はクウェートで生まれ育って、その後インドに両親と戻ってきたけれど、よそ者。デリーでも馴染めない。北東のシッキムの人もインドに住んでいながら部外者意識を持っていて、共鳴しあったという設定です。

Q: ガーリブが詩人の名前と説明がありましたが、助手のパーシュも詩人の名前。なぜ二人に詩人の名前を付けたのですか?

監督:気が付いてくださって嬉しいです。インド外ではあまり知られていませんが、インド国内でも、映画を観てなかなか気づいてくれません。詩に触れる機会がないのです。映画の主人公たちも、日々自分の名の背景に気が付いてもらえません。インドの社会で、こういった名前が意味を持たなくなってしまったのは、詩や芸術に価値を見出せない。それを享受する余裕もなくて、生きるのに精一杯なのです。楽しいことを求めるけど、あまりにも困難で詩を書くこともなかなかない。私のペシミストな観方が二人に反映されています。

Q:主人公の腰の痛みが最後に取れ、今度は姉からの電話で若いパーシュが腰痛になったと知ります。監督にとっても腰痛は何かのメタファーなのでしょうか? 

監督:実は腰の痛みが取れるという発想は、映画を煮詰めている終わりのほうで自分に降ってきたものです。ストーリーとして意味はないのですが、こういう形で終えようと思いました。なぜ急に痛みが消えたのか? それが比喩だとしたら、一番近い答えは、ガーリブが罪の意識を克服できたからではないでしょうか。自分でもちゃんとした答えはないのですが。 

Q:ガーリブの部屋にダライ・ラマの写真がありました。奥さんが飾っていたものでしょうか?

監督:亡くなった奥さんの出身地シッキムの大多数は仏教徒で、仏教徒ではない人たちも、ダライ・ラマの写真を伝統的に飾ります。彼の家を仕切っていたのは奥さんだったということを示しています。

Q:日本の監督で特に影響を受けたのは?

監督:一番多くを学んだのは小津監督です。私の映画に対する考えを変えた偉大な監督です。最近では、市川崑の『野火』を観て、映画観が変わりました。黒沢明監督、鈴木清順監督。現役では、是枝監督、黒沢清監督。日本以外では、インドのサタジット・レイ、リッティク・ゴトク監督。ゴトク監督はサタジット・レイに比べると知名度は劣るのですが非常に才能に溢れた監督で影響を受けました。国外ですと、デビッド・リンチ、ジム・ジャームッシュ、イランのジャファール・パナヒと、挙げたらきりがないです。

市山:リッティク・ゴトク監督の特集をかなり以前にフィルメックスでしました。(2007年 第8回東京フィルメックス) しばらく観る機会がないので、また上映できればと思います。
もう時間がありませんので、これを最後の質問にしたいと思います。Q「今、インドで感じている閉塞感や問題点があれば教えてください」

監督:経済的に困窮していて、何を話してもそれがあまりにどこにも垂れこめていて、経済的不安定の中で必死になっています。短期契約の非正規雇用がコロナでどんどんなくなっています。誇張せずに、全くお金が無くなって、親元や兄弟に頼らざるをえなくてストレスを感じている人が多いです。文化、芸術、哲学、教育、健康などについて話す余地が全くないのが現状です。

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最後に皆さんに手を振って終了。

まとめ:景山咲子





東京フィルメックス 『迂闊(うかつ)な犯罪』 リモートQ&A

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『迂闊(うかつ)な犯罪』Careless Crim
イラン / 2020 / 139分
監督:シャーラム・モクリ(Shahram MOKRI)

1979年イスラム革命前夜、西欧文化を否定する暴徒によって多くの映画館が焼き討ちにされた。それから40年後、4人の男たちが映画館の焼き討ちを計画する……。奇抜な発想を知的な構成で映画化したモクリの監督第4作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。
(公式サイトより)

*物語*
映画館で、座席の列を増やす算段をする男たち。
500席を700席にした。さらに1000席にしたいとボス。
税金があがったらしく、詰めれるだけ詰めないとやっていけないとぼやく。

1979年2月のイラン革命成就の6か月前のこと。
アバダンの映画館レックス座が火事で焼け、400名以上が犠牲になる。
レックス座では、マスウード・キミヤーイー監督の『鹿』(1974年)を上映中だった。
客席が多かった
放火の疑いがある
発火したとき映写室に従業員がいなかった
鍵が閉まっていた・・・等々、取沙汰される。
革命家の仕業とされたが、王命だったという説も発表された。

一転して、現在のテヘラン。
映画博物館に薬を持っているという男を訪ねていく。
大きな被り物を被っていて、男の顔は見えない。

砂漠の泉のそばで『鹿』の上映会を開こうとしている女の子たち。
兵士たちが、このそばでミサイルが見つかったという。

新作映画『迂闊な犯罪』が上映される映画館での放火を企てている4人の男たちの姿が、時折、織り込まれながら映画は進む・・・

*****
10月30日夜の上映を観た友人たちが口を揃えて「疲れた」と言っていた作品。確かに、40年前と現在が複雑に入り込んでいるので疲れるのも、さもありなんと思いました。私は、11月2日(月)10時10分からの上映で拝見。くらくらしましたが、興味深い作品でした。上映後に、アメリカに滞在しているシャーラム・モクリ監督とリモートでQ&Aが行われ、いろいろな謎が解けました。
(それにしても、フィルメックスで上映される映画は、謎が多いです)
ちなみに、シャーラム・モクリ監督の作品『予兆の森で』を2014年のアジア・フォーカス福岡国際映画祭で観ましたが、ワンカットで撮りながら、複雑に入り込んだ作品でした。


◆『迂闊な犯罪』リモートQ&A
TOHOシネマズ シャンテ

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*登壇*
監督:シャーラム・モクリ監督
司会:市山尚三さん(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん(ペルシア語)

動画URL https://youtu.be/grlbdFqRBBk
★印:動画にはない部分

市山:アメリカにいらっしゃる監督にQ&Aにご参加いただいております。

監督:劇場まで足を運んでいただきありがとうございます。劇場で映画を観ることが夢のようなことになっていますが、いつか皆さんと一緒に劇場に座って映画を観られるようになることを願っています

市山:映画の中に映画が出てくる複雑な構成で面白い映画でした。どのように思いつかれたのでしょうか?

監督:シネマ・イン・シネマのやり方が好きです。アッバス・キアロスタミ監督の『クローズ・アップ』や『オリーブの林をぬけて』も、そのような作りです。いつか試したいと思っていました。レックス劇場の放火は歴史的に有名な事件で、映画にしたいと思っていました。自分の世代はよく知っていますが、若い世代はあまり知りませんので、シネマ・イン・シネマの形で撮ってみようと思いました。
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市山:時間が螺旋のように繰り返すのは?

監督:レックス劇場の事件は、40年前。現在とどう語ればいいか考え、当時のキャラクターをどう今のテヘランに入れればいいか考えて、パズルのように現在と過去を繋ぎました。将来、こういうことが起きないようにと・・・

市山:感想で、異なる時代と場所が繋がっていく斬新な作品でしたといただいています。その方の質問です。
ミサイルが出てきましたが、これは実際の話でしょうか?

監督:イランイラク戦争の時に使われたミサイルや爆弾が爆発しないものがあちこちに残っていると聞いています。
最後のシーンで人形が空を見上げたらミサイルが飛んでいます。イランの周辺は、ミサイルが飛ぶかもしれない危険な地域です。話のルーツにはリアリティがあります。

Q:『迂闊な犯罪(Careless Crim)』というタイトルに込められた意味は?

監督:シネマレックスのことはとても重要です。事件について3つの説明がなされています。革命前の体制が政治的に見ていて、お互いのせいにしています。その日、ほんとは何が起きたのかをリサーチしました。政治的な意図でなく、ケアレスな犯罪だったという説が出てきました。映画の最初の方で、モノクロの無声映画を挿入しましたが、ケアレスな男が煙草をぽいっと捨てたために火事になる内容です。ケアレスな犯罪だったという調査結果を映画のタイトルにすればいいなと思いました。

Q:その挿入された映画は、元々ある無声映画なのでしょうか?

監督:もともとあるものです。ハロルド・ショーンがハリウッドで作ったものです。レックス劇場放火事件は、4人がレストランに行ったことなど、ほんとの話を入れました。

Q:「レックス劇場で上映されていたキミヤーイー監督の『鹿』は、今はイランでは観れないのでしょうか?

監督:革命後、公開許可が出てないのですが、アンダーグランドでは観れます。DVDも手に入ります。

市山:公開できない理由は内容の問題でしょうか? それとも手続き上の問題でしょうか?

監督:革命後、革命前の映画の公開が出来なくなったのは、内容よりも、女性の髪の毛が出ているとか、肌が出ているといったことが問題にされるからです。スーパースターが出ていて、革命後は活動していないという理由もあります。『鹿』は革命後数日だけ公開されましたが、その後、検閲で上映できなくなりました。

Q:光について教えてください。時々画面が白くなるのは、どんな効果を狙ったものですか?

監督:光について、撮影監督と相談して、3つのアイディアが出ました。
・劇場の中で感じる映写機の光
・炎を感じる明るさ
・さらに、キャラクターが混乱している時のライティングをどうしようと考えました。

Q:カメラは何台使ったのでしょうか?

監督:1台だけです。テクニックを変えたので、何台も使っているように見えたのだと思います。放火犯はカメラを手持ちで追っています。劇場の中は三脚を使いました。
泉のシーンは、クラシックな撮り方をしました。
素晴らしい質問をありがとうございました。

******

1978年8月9日のアバダンの映画館放火事件は、当時から反政府組織がやったという説と王政側がやったという説があって、いまだに不明。上映後のリモートQAで、監督が調べたところ、実は政治的なものでなく、色々な悪条件が重なって、ケアレスに火がついたという説もあって、それをモチ―フにしたとの説明がありました。
このレックス劇場の火事が、じわじわとくすぶっていた反政府運動に火がついて革命成就に至ったので、ほんとにケアレスなものだったとしたら、すごいことだなと思いました。

イランのイスラーム革命成就直後に作られたドキュメンタリー映画『自由のために』(原題:Barâ-ye âzâdi)について、下記スタッフ日記で紹介した中に、アバダンの映画館放火事件の真相が不明であることに言及しています。ご参考まで!
http://cinemajournal.seesaa.net/article/463646371.html

景山咲子




東京フィルメックス 最優秀作品賞『死ぬ間際』 リモートQ&A

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『死ぬ間際』 In Between Dying
監督:ヒラル・バイダロフHilal BAYDAROV
アゼルバイジャン・メキシコ・アメリカ / 2020 / 88分

タル・ベーラの薫陶を受けたアゼルバイジャンの新鋭ヒラル・バイダロフの長編劇映画第2作。行く先々で死の影に追われる主人公の一日の旅を荒涼たる中央アジアの風景を背景に描き、見る者に様々な謎を投げかける。ヴェネチア映画祭コンペティションで上映。
(公式サイトより)

霧の中に立つ男。幻想的な幕開け。
青年ダヴドは麻薬密売の元締めの手下を殺してしまい、町を出てひたすら逃げる。そこで出会う女性たち。最初に逃げ込んだ家畜小屋では、父親に5年間も鎖に繋がれていた少女に助けられる。次には、アル中の暴力夫に悩む女性。夫に襲われたダヴドを助ける名目で夫を殺す。白いウェディングドレス姿で走ってきた女性をバイクに乗せる。兄に望まぬ結婚を強いられて逃げてきたが、結局兄に射殺されてしまう。そして、母親を埋葬しようとする盲目の少女・・・
行く先々で死に出会うダヴド。美しい自然の中で、台詞の代わりに詩が語られることが多く、なんとも不思議な独特の世界でした。


10月30日(金)15:50からの上映後、エジプト映画祭に参加中のヒラル・バイダロフ監督とリモートQ&Aが行われ、不思議世界の謎が少し解けました。

◆『死ぬ間際』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ

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登壇:
ヒラル・バイダロフ監督
司会:市山尚三さん(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:松下由美さん

動画URL https://youtu.be/5404YA2zsZs
★印:動画にはない部分

市山:この映画を作ったきっかけをお伺いします。何かもとになったストーリーなどはあるのでしょうか?

監督:15年前、高校生の時に仏陀の人生のことを読みました。王族で父親が過保護で貧困や悪いものを見せませんでした。ある時、王宮を出た彼は病に侵された貧しい人々の現実を見てショックを受けて、二度と王宮に帰らないと決意します。その話はすっかり忘れていました。この映画を作ろうと思った時には、1日で偶然人生が変わる話を描きたいと考えました。青年は死と出会って、自分の闇の部分を自己発見します。家を出る決心もしないので、仏陀とは違うけれど、出発点は仏陀の話です。

Q 白馬は何を表しているのでしょうか?

監督:脚本には1行も書かれていません。美しい白い馬が偶然湖のそばにいたので、オーナーにお願いして撮らせてもらいました。
故郷のコーカサスの村で、白い馬を飼っていた子供時代のことが蘇りました。死んだ時にとても悲しくて泣き続けました。愛する父と母がいて自然があって馬がいるという子供時代のことを思い出して、この場面を入れました。
家族3人のシーンが出てきますが、主人公が求めている聖なるほんとの家族を象徴しています。

Q 男女の差別ついて、この作品の中でどう考えられたでしょうか?

監督:編集前に何を見せようと考えました。若い主人公ダウドの経験することを見せたかったのですが、編集前のものを母に見せたら、これはよくない、このまま見せちゃいけないといわれました。ちなみに母は最後の場面に出ています。自分でその後編集を重ねて、最終的にチャプターに分けました。盲目の女性、狂犬病の女性、湖の白い馬など。何を見せたかったかというと、男女間の差別より、愛を描きたかったのです。同じ人の別の側面を描いていることをご覧になって気づかれたかと思います。差別というより、違いがないことを描きたかったのです。愛の様々な側面を描いたといえます。

 イスラーム神秘主義スーフィズムにインスパイアされた作品と感じました。どれくらい意識をされたのでしょうか?

監督:スーフィズムに関するものは読みましたが、私の人生はほど遠いものです。教養として知っているのと、母の影響を強く受けて、母が引用してくれたものを取りいれています。小さな存在の私が語るにはスーフィズムは大きすぎます。映画でそれを見せようとは思っていません。でも、読みすぎたので、要素は表れているということはあると思います。
あと、ロシア文学のチェーホフや、イランの詩人などの影響も反映されていると思います。こういったものが私の魂を形作っています。

Q 霧や雨、降りしきる紅葉など自然物の演出が圧倒的だったのですが、どれくらい人為的に作ったのでしょうか? 自然の撮影にはどのような苦労があったのでしょうか?   

監督:アリガトー。良い質問! 数学、情報学を学んできて、科学的なものを信じてきましたが、映画は違う。直観に従って撮っています。詩的でなければ映画じゃない。雨、霧が出てきてくれて、自然に支えられて出来た映画です。出会ったものに触発されて撮りました。霧が出てきたら、詩を書いてダウドに渡して詠んでもらいました。湖があった時にも自分の直観に従いました。

Q アゼルバイジャンの映画事情は? また、タルベーラから薫陶を受けたそうですが、経緯を教えてください。

監督:小さな国で、周辺国も映画の歴史はありますが、ソ連から独立したあと、映画業界が崩壊して作れない時代がありました。今また若手も育って映画が作られるようになりました。次世代が育っています。
タルベーラ監督の『サタンタンゴ』『ニーチェの馬』などを観てショックを受けました。サラエボ・フィルムアカデミーをタルベーラ監督が主催すると知って、参加しなくてはと行きました。実はタルベーラと映画の話を直接できたことはあまりありません。サラエボで生活費を稼ぐためにあちこちでチェスをしていて、学校にあまり行かなくて、チェスを通して映画を学びんだと言っています。

Q ロケーションや土地の特徴に物語的意味がありましたら教えてください。

監督:映像にメッセージを込めることは信じていません。ロケ地から読み取れるものはありません。ダヴドが逃亡する場所ですが、私の住む近くだけでなく、アゼルバイジャンのあちこちで撮影しました。車で走ってここはいいなと思うと車を止めてカメラを出して撮りました。基準としては、私のインスピレーションを引き出してくれるところです。
落ち葉のシーンは、葉っぱを落とすようなテクノロジーは持っていません。直観に従って求めたところ、イメージtに合ういいところに出会えました。

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市山:日本映画がとても好きで、ほんとは来日したかったとのことでした。また凄い作品を作られることと思いますので、次の機会にお呼びしたいと思います。

監督:ほんとにご覧くださってありがとうございます。日本の映画や巨匠に大いなる敬意を表しています。溝口監督や新藤兼人監督など巨匠の国にぜひ行きたい。次回は直接皆さんにお会いできればと思います。

授賞式でのヒラル・バイダロフ監督のメッセージは、こちらでご覧ください。
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478502965.html

景山咲子


★オンライン配信で、12月6日まで視聴できます。
https://filmex.jp/2020/online2020




東京フィルメックス・オンライン上映(11/21~12/6)

今年の第21回東京フィルメックスで上映された作品の中から、12作品がオンラインで配信されます。

実施期間:11月21日から11月30日まで → 11月22日(日)午前10:00時配信開始~ 11月30日(月) 12月6日(日)23:59まで ★11/27変更
料金:1作品1,500円均一  → 1作品13米ドル 
決済方法:クレジットカードのみ
視聴方法・諸注意:
・作品の購入後から48時間以内再生可能。再送開始時点から更に72時間以内に視聴可能時間が終了になります。
・配信は特設サイトよりご覧頂けます(11月21日よりアクセス可能)。
 詳細は映画祭HP(https://filmex.jp/2020/online2020 )からご確認下さい。
・日本国内からの視聴可能となります。海外からのご利用はできません。
・各作品には視聴可能者数制限があり、視聴可能者数は作品ごとに異なります。
・対象作品は11月16日(月)現在での予定です。急な変更の可能性がありますので、予めご了承下さい。

★対象作品★
『風が吹けば』Should The Wind Drop
監督:ノラ・マルティロシャン(Nora MARTIROSYAN) ★女性監督
フランス・アルメニア・ベルギー / 2020 / 100分

『死ぬ間際』 In Between Dying
監督:ヒラル・バイダロフ(Hilal Baydarov)
アゼルバイジャン・メキシコ・アメリカ / 2020 / 88分

『迂闊(うかつ)な犯罪』 Careless Crime
監督:シャーラム・モクリ(Shahram MOKRI)
イラン / 2020 / 139分

『イエローキャット』 Yellow Cat
監督:アディルハン・イェルジャノフ(Adilkhan YELZHANOV)
カザフスタン・フランス / 2020 / 90分

『アスワン』 Aswang
監督:アリックス・アイン・アルンパク(Alyx Ayn ARUMPAC)★女性監督
フィリピン / 2019 / 85分

『無聲(むせい)』 The Silent Forest
監督:コー・チェンニエン(KO Chen-Nien) ★女性監督
台湾 / 2020 / 104分

『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』 Denise Ho: Becoming the Song
監督:スー・ウィリアムズ(Sue WILLIAMS)
アメリカ / 2020 / 83分

『日子』 Days
監督:ツァイ・ミンリャン(TSAI Ming Liang)
台湾 / 2020 / 127分

『海が青くなるまで泳ぐ』 Swimming Out Till The Sea Turns Blue
監督:ジャ・ジャンクー(JIA Zhang-ke)
中国 / 2020 / 111分

『平静』 The Calming
監督:ソン・ファン(SONG Fang)
中国 / 2020 / 89分

◆特集上映:エリア・スレイマンより
『消えゆくものたちの年代記』 Chronicle of a Disappearance
パレスチナ / 1996 / 84分

『D.I.』Divine Intervention
フランス、パレスチナ / 2002 / 92分

第21回東京フィルメックス 授賞式

最優秀作品賞は、アゼルバイジャンの詩的な『死ぬ間際』に!
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例年、11月下旬に開催されていた東京フィルメックスですが、今年は東京国際映画祭と連携し、いつもより早い10月30日(金)~11月7日(土)の日程で開催されました。
コロナ禍で、東京国際映画祭ではコンペティションをやめて、観客賞のみとなりましたが、東京フィルメックスでは、例年通り、12作品のコンペティション作品の中から受賞作を選定し、7日に授賞式が行われました。
司会:レイチェル・チャンさん(J-WAVE)

◆第21回東京フィルメックス受賞結果◆
最優秀作品賞:『死ぬ間際』ヒラル・バイダロフ
審査員特別賞:『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』池田暁
スペシャル・メンション:『Pierce』ネリシア・ロー、『KANAKO』北川未来
観客賞:『七人楽隊』アン・ホイ、ジョニー・トー、ツイ・ハーク、サモ・ハン、ユエン・ウーピン、リンゴ・ラム、パトリック・タム
学生審査員賞:『由宇子の天秤』春本雄二郎

New Director Award:『熱のあとに』(日本/山本英監督)
New Director Award 審査員特別賞:『まどろむ土(仮)』(日本/金子由里奈監督)

タレンツ・トーキョー・アワード 2020:『Oasis of Now』(マレーシア/チア・チーサム)
タレンツ・トーキョー・アワード 2020 スペシャル・メンション:『Pierce』(シンガポール/ネリシア・ロー)
タレンツ・トーキョー・アワード 2020 スペシャル・メンション:『KANAKO』(日本/北川未来)


◎授賞式
発表された順に報告します。

◆New Director Award
東京フィルメックス 特別協賛のシマフィルムによって設けられた、若い映画製作者を対象とした新しい部門。シマフィルム 田中誠一さんより発表が行われました。

New Director Award最終選考選出者11名の中から、New Director Awardには、『熱のあとに』の山本英監督が選ばれました。
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山本英監督:誰かの側にいること、いれないことを描いた脚本です。イナウォンさんと二人で紡いだ企画です。(左がイナウォンさん)

New Director Award 審査員特別賞
『まどろむ土(仮)』

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金子由里奈監督



◆タレンツ・トーキョー
今年のタレンツ・トーキョーは、11月2日~7日の6日間、オンラインで実施され、アジア各国の15名が参加。パク・キヨン監督をはじめとする4人のメイン講師のほか、黒沢清監督や是枝裕和監督のマスタークラスが開催されました。

タレンツ・トーキョー・アワード 2020:『Oasis of Now』
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マレーシア チア・チーサム監督
「困難な時期にオンラインで開催を可能にしてくださり、ありがとうございます。多様な仲間から多くを学びました」


◆観客賞
『七人楽隊』香港、2020年 
監督:アン・ホイ、ジョニー・トー、ツイ・ハーク、サモ・ハン、ユエン・ウーピン、リンゴ・ラム、パトリック・タム

市山さんが7人の監督の名前を思い出しながらあげたのですが、「誰か忘れてますね」との言葉に、会場から「サモ・ハン!」と声があがりました。10月17日のチケット売り出しの時にも、真っ先に売り切れた人気作です。

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ジョニー・トー監督が代表してビデオコメントを寄せられました。


◎コンペティション 各賞発表
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各賞発表の前に、プログラムディレクターの市山尚三氏より挨拶。
「コロナ禍の中、連日会場に足を運んでいただいた皆様に感謝申しあげます。今年の4月の時点では開催できるかどうかが微妙でしたが、リアルな開催にこぎつけることができたのは、サポートしてくださった皆さまのお陰です。東京国際映画祭との共催も手探り状態でした。上映が重なってしまったとの声もありますが、日本映画界を盛りあげていく為に今後も続けていきたいと思っています」

また、一部の作品をオンライン上映することが発表されました。
11月21日~30日の期間限定で、上映作品等詳細は公式サイトで確認ください。
東京フィルメックス 公式サイト
★オンライン特設サイト 11月21日よりアクセス可能

◆学生審査員賞:『由宇子の天秤』
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学生審査員:常間地裕(多摩美術大学)、千阪拓也(日本大学芸術学部)、田伏夏基(明治大学)の3人が登壇し、学生審査員賞を発表しました。
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春本雄二郎監督「釜山国際映画祭でも受賞(ニューカレンツ部門 最高賞ニューカレンツアワード)しましたが、オンラインでも授賞式をしていません。 Winerには、違和感があります。勝者というけれど、負者が存在するのか? 世の中、敵か味方か、白か黒かと単純に二極化することが加速化し、良い未来が築けるのか? 『由宇子の天秤』は、正しさについて問う内容です。今、私たちに必要なのは、見えている世界が都合の良いものに最適化されていることに気づくこと。その外に手を伸ばせる力が映画にあると信じています。学生審査員賞は、これからを担う人たちからいただいたもの。若い世代に映画作りの指針になるよう頑張っていきたい」


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【コンペティション審査員】
万田邦敏(審査委員長:日本/映画監督)
クリス・フジワラ(米国/映画評論家)
坂本安美(日本/アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任)
エリック・二アリ(米国/プロデューサー)
トム・メス(オランダ/映画評論家)


◆審査員特別賞『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』
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池田暁監督 「最優秀作品は何かな、もう1回呼ばれるといいなと思っています。期間中、ずっと映画を観ていました。いい作品がたくさんあったので、また日本で上映されるきといいと思います。このような中で開催してくださったことに感謝します」


◆最優秀作品賞『死ぬ間際』

審査委員長 万田邦敏監督:「一人ぼっちの人間がこの世界とつながるには何が必要か?神話的で重層的、中央アジアのとんでもない大自然。映画監督だったら誰でも撮ってみたい風景、そしてユーモアが描かれていました。人と人がつながるには愛が必要という単純なことに行きつくのですが、そこに行きつくまでをみごとに描いていました」

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ヒラル・バイダロフ監督からのビデオメッセージ:
「選んでくださって嬉しいです。アゼルバイジャンの映画を初めて観た方もいらっしゃると思います。映画祭の皆さま、ありがとうございました」
★『死ぬ間際』ヒラル・バイダロフ監督とのリモートQ&Aの模様は後日お届けします。

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最後に行われた受賞者記念写真も、ソーシャルディスタンスを保って行われました。

☆こちらに掲載しきれなかった写真も含めて、下記のアルバムを作成しています。
facebookアルバム「第21回東京フィルメックス  授賞式」
https://www.facebook.com/cinemajournal/photos/?tab=album&album_id=1340432292989793


☆東京フィルメックスを終えて☆
コロナ禍の中、例年同様の作品を揃えてリアルな上映を行い、外国からのゲストの来日が叶わない中、上映後にリモートでQ&Aを行うなど、最大限の努力をしてくださったことに感謝です。
日程を早めた為か、会期中、平日の半分以上の会場は、朝日ホールではなくTOHOシネマズ シャンテとなり、定員が朝日ホールより少ないため、作品によっては満席になって入れない方もいたようです。
今後も東京国際映画祭との連携を続けるとの市山さんの言葉がありましたが、同時期開催で、鑑賞作品を絞らざるをえなくて、究極の選択を迫られました。できれば、これまで同様、違う時期に開催してほしいと切に願います。(景山咲子)


報告:景山咲子   写真:宮崎暁美、景山咲子