東京フィルメックス 『戦場の讃歌』(イスラエル) で、VRを初体験

東京フィルメックスのメイン会場である朝日ホールが入っている有楽町マリオンビル9階に、「コニカミノルタプラネタリアTOKYO」がオープンし、VR作品の上映が可能になったことより、VRプログラム上映が企画されました。
初めてのVRプログラムとして上映されたのは、ヴェネチア国際映画祭VR部門コンペティション出品作品である『戦場の讃歌』。
フィルメックスの会期中、1日3回上映され、11月30日には、イスラエルより監督を招いてのトークイベントも開催されました。
イスラエルの作品なので、これは観なくてはと、時間を捻出しました。

初めて体験したVR作品と、トークの模様をお届けします。

◆『戦場の讃歌』 原題: Battle Hymn
イスラエル / 2019 / 11分. ※日本語字幕ナシ、英語字幕付き
監督:ヤイール・アグモン(Yair AGMON)

Director:ヤイール・アグモン(Yair AGMON)
毎晩多くのイスラエル国防軍(IDF)の兵士たちがヨルダン川西岸地区のパレスチナの村でたくさんの拘束任務を行っている。イスラエル国防軍の根本的なルーティーンが一時的なピークに達するのを、映画「Battle Hymn(讃歌)」は観客にみせる。そこには男らしさと恥、強さと弱さ、卑しさと権力が混在する。こうしてこの映画は、現実と非現実、そして私が家と呼ぶこの狂った悲しいシュールな場所について物語るのだ。2019年ヴェネチア国際映画祭にて上映。(公式サイトより)
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© 2019 Yalla films – Tal Bacher &Yair Agmon, All Rights Reserved


「コニカミノルタプラネタリアTOKYO」は、広々としたロビーの両脇に、上映や展示、グッズや飲食物の販売コーナーがあって、ちょっと近未来的な空間。
上映コーナーには、大きなカプセル型のソファが向かい合わせに並んでいて、え? スクリーンはどこに? とVRが何かを知らなかった私!
そも、たった11分の作品なのに、千円? という思いも。
(すみません・・・ プレス枠で拝見したので、私は払ってないのですが)

開始時間になり、指定席に案内され、VRを観るための器具を頭に装着。結構重たくて、うっとうしいです。画面は双眼鏡のように覗き、音はヘッドフォンから聴こえてきます。

銃を手入れしながら、きわどい雑談をする兵士たち。
上下左右に画面が広がり、うつむくと、まるで私の手のように、私の位置にいる兵士の手が見えます。
夜になり、点呼が行われ、7人の兵士は車に乗ってパレスチナ人の家へ。
アラビア語で「全員出て来い!」と叫び、母親と子どもたち、そして父親が出てきます。
「息子のファディはどこにいる?」
「友達の家」
犬が吠える。
ヤツは中に違いないと、2階にあがっていく兵士たち。
ファディを捕まえ、手を縛り、目隠しして、車で連れていく。
基地に戻り、ファディを見張る兵士たち。
ファディが目隠しされたまま歌いだす。
アラビア語だが、イスラエルの守護神を称える歌。
いつしか、イスラエル兵たちも口ずさみ、楽器を持っている者は伴奏する・・・

****
日常茶飯事で行われているイスラエル兵によるパレスチナ人の掃討作戦。
夜中に押しかけ、無理矢理連行することに慣れっこになっている兵士たち。
一方、夜も落ち着いて眠れないパレスチナの人たち・・・
なんとも、理不尽。
捉えられたパレスチナの青年が歌うのが、アラビア語とはいえ、イスラエル賛歌というのが、ちょっと解せない気もしましたが、皆で一緒に歌う姿は、監督なりの和平への願いと感じました。


監督の思いが聞きたくて、トークイベントに参加しました。
(イラン大使館での講演会を中座してまで!)

◆VRプログラム「戦場の讃歌」について監督に聞く。

2019年11月30日(土)4時~5時
有楽町朝日スクエア
登壇者:
ヤイール・アグモン(監督)
タル・バッファ(プロデューサー)

司会:市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:松下由美



★トークイベント

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市山:VRをフィルメックスで上映するのは初めてなのですが、今回1本だけ上映できることになりました。

監督:2回目の日本です。私たちはVRの可能性を強く信じています。

タール:
今回は機会をいただきありがとうございます。
私たちは一緒に兵役についたことがあって、ある程度経験に基づいて描きました。

市山:ヤイールさんはこれまでVR作品の経験は?

監督:
VRは初作品。これまでドキュメンタリーを撮っていました。イスラエルのファンドを使ってVRで撮れるのでやってみようとタールさんから言われました。

市山:劇映画は?

監督:長編はないです。短編ではフィクションも撮っています。

司会:
VRのファンドについて、タールさん、教えてください。

タール:イスラエルでファンドというと、ほぼ公的なもの。今回のファンドは、新しいメディアのもので、短編かつドキュメンタリーという枠組みでした。金額は、わずかなものでした。

司会:どれくらい?

タール:すべてこのファンドで作りました。

監督:200万円弱です。
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市山:年間に何本もVRは作られているのでしょうか?

監督:
昨年は、6つのプログラムがVRで作られました。
今年は4つのプログラム。カナダのファンドも入っています。

市山:日本ではVR作品は、どちらかというとゲームの為に作られています。
このようなアーティスティックなVRはあまり観たことがなかったので、どういう仕組みで作られたのか気になっています。

監督:イスラエルでは、ゲームの為には限られています。一方、VRは映画業界からは全く無視されているので、手掛けながら学んでいきました。作る上でテーマに制限はないのですが、環境、エネルギーなどがいいのかなと思いました。会話のある劇が好まれることを学びつつ、ほとんどワンショットでシチュエーションを決めて撮るのが適していると学びました。

市山:本来、VRで描くのなら、攻撃されたり、銃撃戦が起こったり、すごいことが起こるのではないかと思ったのですが、淡々と進んでいって、逆にある種の恐怖感が伝わってきて感動しました。このような作り方は意識的にされたのでしょうか?

監督:
シンプルにストーリーを伝えることに注力しました。私も兵士だった時、指揮官として夜、逮捕する仕事をして大変だったのですが、恋人や家族にそのつらさを伝えるのは難しいものでした。戦争があって、兵士が国を守っているという状況があるわけです。目標として、自分の母にわかってもらえるようなものをリアルに作ろうと二人で話し合いました。俳優が出演していますが、彼らも従軍していますので、充分知った上で演じています。唯一、リアルでないのは最後のシーンです。

市山:11分という時間で、すぐに終わるなと思っていたら、実際観終わってみたら、結構ヘビーで、これぐらいが充分だと思いました。長さはどのように決めたのですか?

監督:ストーリーがよければ、長くてもいけるのではないかと思っています。

*会場よりQ&A*
― カメラの位置は? あたかも自分が登場人物のようでした。

監督:
まさに、観ている人の視点で映画が展開します。タールさんの弟さんにヘルメットをかぶって貰って、その上にマネキンのようなものにカメラを持たせて撮りました。

― 何がVRに適しているのでしょうか?

監督:
まさに今問われるべきことだと思います。答えを持ち合わせていませんが、軍隊の状況を伝えるとか、複数の人が一緒に行動すること、たばこを吸っておしゃべりするような、二人以上の状況を作って伝えるのが適しているのではないかと思います。
カメラをどこに置くのかが重要。部屋のどこかに置いたのでは、面白くありません。
人の上に置けば、人の視線になります。
車にカメラを設置して、渋滞の中で人がいらいらする姿を見せることも考えています。

― VRの使い方が発展している中で、よりゲーム的なものを考えていますか?

監督:
この映画の設定は、ゲームとして機能するのではとタールは言っていますが、私自身はゲームは好きじゃありません。ヴェネチア国際映画祭に参加したのですが、インストラクテォイブなものが多かったです。

タール:
すでにあるものをVRで伝えるということも出来ると思います。

市山:
私もこの作品をヴェネチアのVR部門で観たのですが、台湾の『ニーナ・ウー』のメイキングがあって、そちらとどちらにしようかと最後まで迷ってました。

監督:そっちの方が出来がいいから、そちらを呼ぶべきでしたね。(笑)

― リアルで下を観ると手許が見えて不思議な感覚でした。アラブの人の逮捕シーンもリアルなのに、最後がファンタジー。イスラエルの兵士を経験したり、アラブの逮捕された経験者の方の感想を聞かれたことはありますか?

監督:あまり上映の機会がなくて、今、ハイファの映画祭で上映されています。とてもリアルだという反応
エンディングは、イスラエルの人にとって、とてもパワフル。捕まったパレスチナの彼が歌うのは、とても有名なもので、歌というより通常はシナゴーグで唱えられるもの。それをアラビア語で歌っていて、兵士たちが彼のバンドになるというもので、とても人々に響くものがあって話題になっています。

監督:イスラエル国籍のパレスチナ人の友達がいるのですが、兵士の経験はとてもつらいものだったと打ち明けてくれました。

注:『テルアビブ・オン・ファイア』サメフ・ゾアビ監督(イスラエル国籍のパレスチナ人)にインタビューした折に、「イスラエル国籍のパレスチナ人には兵役は義務ではありません。志願はできますが、99%は、兵役につきません」と伺いました。ヤイール監督のご友人は、奇特な1%のパレスチナ人ということになります。

市山:残念ながら、時間になりました。本日はありがとうございました。

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第20回東京フィルメックス  TOKYO FILMeX 2019

【第20回東京フィルメックス 開催概要】
期間 : 2019年11月23日(土) ~ 12月1日(日) (全9日間)
会場 :
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)
【レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷
公式サイト: https://filmex.jp/2019/

記念すべき20回目の節目を迎える東京フィルメックス。
10月10日(木)3時より、ゲーテ・インスティトゥート/東京ドイツ文化センターにて、ラインナップ発表記者会見が行われました。

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ディレクターの市山尚三氏より開催概要の説明があった後、コンペティション部門の2本の日本作品、『静かな雨』の中川龍太郎監督と、『つつんで、ひらいて』の広瀬奈々子監督が登壇しました。
また、昨年、特別協賛された木下グループが1年で撤退することになり、新たな特別協賛を引き受けたシマフィルムの田中誠一氏(右端)が挨拶に立たれました。


*上映作品*

◆東京フィルメックス・コンペティション
  10作品

『水の影』
Shadow of Water
インド、監督:サナル・クマール・シャシダラン

『昨夜、あなたが微笑んでいた』
Last Night I Saw You Smiling
カンボジア・フランス、監督:ニアン・カヴィッチ

『熱帯雨』
Wet Season
シンガポール、監督:アンソニー・チェン

『評決』 Verdict
フィリピン、監督:レイムンド・リバイ・グティエレス

『ニーナ・ウー』
NINA WU
台湾・マレーシア・ミャンマー、監督:ミディー・ジー

『気球』
Balloon
中国、監督:ペマツェテン

『春江水暖』 Dwelling in the Fuchun Mountains
中国、監督:グー・シャオガン

『波高 (はこう)』 Height of the Wave
韓国。 監督:パク・ジョンボム

『静かな雨』 It Stopped Raining
日本、監督:中川龍太郎

『つつんで、ひらいて』book-paper-scissors
日本、監督:広瀬奈々子



◆特別招待作品


オープニング作品

『シャドウプレイ』
 The Shadow Play
中国、監督:ロウ・イエ

クロージング作品
『カミング・ホーム・アゲイン』 Coming Home Again
アメリカ・韓国、監督:ウェイン・ワン

『完全な候補者』
The Perfect Candidate
サウジアラビア・ドイツ、監督:ハイファ・アル=マンスール

『ヴィタリナ(仮題)』 Vitalina Varela
ポルトガル、監督:ペドロ・コスタ
配給:シネマトリックス

『ある女優の不在』
3 faces
イラン。監督:ジャファル・パナヒ
配給:キノフィルムズ

『夢の裏側〜ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』 Documentary on the Shadow Play
中国、監督:マー・インリー
配給:アップリンク

◆特別招待作品 フィルメックス・クラシック
『牛』 The Cow
イラン、監督:ダリウシュ・メールジュイ

『HHH:侯孝賢』
HHH: A Portrait of Hou Hsiao-Hsein
フランス・台湾、監督:オリヴィエ・アサイヤス

『フラワーズ・オブ・シャンハイ』 Flowers of Shanghai
台湾、監督:ホウ・シャオシェン

『大輪廻』 The Wheel of Life
台湾、監督:キン・フー、リー・シン、パイ・ジンルイ

『空山霊雨』
Raining in the Mountain
台湾、監督:キン・フー


◆特集上映 阪本順治

『鉄拳』 1990年
『ビリケン』 1996年
『KT』 2002年

◆歴代受賞作人気投票上映
節目の20回を迎えるにあたり、歴代の受賞作品人気投票を実施。(8/22〜9/10)
映画ファンの選んだ上位作品の中から下記3作品を上映。

『ふゆの獣』Love Addict
日本、監督:内田伸輝

『息もできない』
Breathless
韓国、監督:ヤン・イクチュン

『ふたりの人魚』Suzhou River
中国。監督:ロウ・イエ

(1位の『SPL〈殺破狼〉』(香港)と3位の『天使の眼、野獣の街』(香港)は、残念ながら権利元や素材の確認が出来ず、上映を断念)


◆バリアフリー上映

『夜明け』 監督:広瀬奈々子


東京フィルメックス・コンペティション
https://filmex.jp/2019/news/information/lineupannounce-fc

特別招待作品 / フィルメックス・クラシック
https://filmex.jp/2019/news/information/lineupannounce-ss

特集上映 阪本順治 / 歴代受賞作品人気投票上映
https://filmex.jp/2019/news/information/lineupannounce-sp



東京フィルメックス『タングスィール』Q&A ~26歳のナデリが、黒澤を手本に作った活劇~ (咲)

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2018年11月25日(日)9:50~
「特集上映アミール・ナデリ」の最後を飾って、革命前にイランで撮った『タングスィール』がフィルメックス最終日に追加上映されました。

『タングスィール』 Tangsir
イラン / 1973年 / 114分

ナデリが26歳の時に撮った監督第3作。
サーデク・チューバク(1916年イラン、ブーシェフル生まれ)の同名小説の映画化。
イラン南西部ブーシェフル。実直な男ザエル・モハメッドは、汗水垂らし20年かけて貯めた全財産を悪徳な商人に奪われてしまう。法律家や聖職者も結託して町を牛耳っている。絶望したザエルは、彼らに復讐を誓い、銃を手に商人の屋敷に向かう・・・

◆舞台挨拶

市山:この作品は、日本では、かなり状態の悪いビデオでしか見られなかったのですが、この度、イランのフィルムアーカイブが、35mmのプリントの良い状態のところを集めて、DCPにして送ってくれました。ところによって、きれいなところと多少筋が入っていたりするところもありますが、予想以上にいい状態のものが送られてきました。
それでは、ナデリ監督をお呼びしたいと思います。拍手でお迎えください。

ナデリ:グッドモーニング! グッドモーニング! グッドモーニング! グッドモーニング!  今日は自分の映画の最後の上映で、マラソンが終わるような気持ちです。
今回の映像は観たことがありません。状態がいいのかどうかわかりません。この映画自体、完成して1回観たきり、今まで観たことがありません。クラシックのイラン映画として、映像の状態が悪くても、皆さんに我慢して是非観ていただきたい。私の3本目の監督作です。ドラマ性の強い映画ですが、これから後の私の映画にはドラマはほとんど入っていません。
黒澤監督の影響で作った映画で、シネマスコープで作りました。今回の私の特集の最後の上映を、どうぞごゆっくりご覧ください。
この場を借りて、市山さんにお礼を申し上げたいと思います。市山さんがいなければ、イランでDCPを作ってもらうこともできませんでした。インッシャッラー、 終わりましたら、またお話しましょう。CUT!

映画『タングスィール』上映

人の集まる墓場に牛が走ってくる。
真ん中にある小さな祠に、人々が逃げ込む。
祠にはカルバラーの悲劇の壁画。
牛に立ちむかう男。
女性が髪の毛を振り乱してやってくる
「牛を救ってくれ。唯一の財産。生きていけない」と未亡人のサキーネ
もう生かしておけない。楽にしてやれと人々。
刀を渡されたザエルが牛にとどめをさす。
牛を殺さずに、財産を奪ったやつらと闘え!

冒頭から、迫力ある場面。
こうして、ザエルは、自分の財産を奪った悪徳商人や結託した町の重鎮たちへの復讐を誓い、立ち向かう・・・

伝統的な家並みの町で繰り広げられる復讐劇に、手に汗握って画面を見つめた114分でした。

◆Q&A
大きな拍手で迎えられるナデリ監督。
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ナデリ:
信じられません。自分が作ったとは! その時、国が作る許可をくれたのもわからない。革命前でしたが。原作があります。自分の父は、小さい時にザエルに会ったことがあるのです。銃を持って走って回っているところを見たことがあると話していたそうです。おばあさんから、その話を聞かされました。
主役のザエル役のベヘルーズ・ヴォスーギは、当時スーパースターでした。脇役たちも、当時とても有名な役者たちです。
26歳の時に撮った3本目の映画です。これを作って数ヵ月後に『ハーモニカ』を作りました。政治的な考えは何もなくて、黒澤監督のようなクラシックな映画を作りたいと思ったのです。
私もザエルと同じ南の生まれなので、血が湧き出して作ったのではと思います。
時代劇なので、アスファルトの部分には5か月位かけて砂を持ってきて乗せたり、壁の字を消したりしました。絶対セットの中で作りたくなかったから、町から新しいものを消して、古い町を作り出しました。今は、このような町並みも残っていません。当時は、まだクラシックな建物が残っていました。
一人一人の出演している役者がとても有名な方たちで、若者の監督の私が彼らから演技を取るのは大変でした。でも結果は、ご覧の通りです。セットも衣裳もすべて自分で準備しました。

◆会場とのQ&A

―(矢田部吉彦氏)活劇を楽しみました。ザエルは実在の伝説的人物とのことですが、生き延びたのですか?

ナデリ:ザエルは実在の人物です。有名な作家が小説にしました。90歳まで、その地で生きていたと聞いています。曾孫さんから、「映画を作ってくださってありがとうございます」という手紙を貰いました。
今のイランの人たちも、『タングスィール』を観て、エネルギーを貰うと言います。でも、神様に誓って、政治的なものは作っていません。『ハーモニカ』は、お祖母さんの為に、『タングスィール』はお父さんの為に作ったものです。

― タングスィールとは、土地の名前かと思ったのですが、民族の名ですか?

ナデリ:イギリス人が南から石油を狙って押し寄せた時、南の町はずれの海辺のタングスィールという地の人たちが、果敢にイギリス相手に闘いました。
(注:イランでは、その町の人のことを、町の名前をつけて呼びます。テヘラン → テヘラーニー(テヘランっ子)。日本なら、大阪に住む人を、「大阪人」というように)

― 黒澤映画の雰囲気がよく出ていました。主役も三船のようでした。顔つきや動作に武士道精神を見るようでした。

ナデリ:若い時に『七人の侍』を観て、私の血の中にずっと流れています。次に『蜘蛛巣城』を観て、次から次に黒澤作品を観ました。映画を観て、イランと日本は似ているところがあると思っていました。主役のベヘルーズ・ヴォスーギには、黒澤明監督の三船敏郎の映画を全部観て、ボディ・ラングエージを三船から学んでくださいとお願いしました。主役には、前半はフラットな動き、後半は踊るように演じてもらいました。刀じゃなくて銃なのですが。衣装も黒澤の雰囲気で地域のものを選びました。銃のほかに、もう一方の手には斧を持たせ、黒澤の雰囲気を出しました。自分の人生をすべて日本に捧げても、まだ足りません。

― 黒澤映画への愛を感じました。ライフル銃を敵の胸にあてて撃つシーンが多かったのですが、意図があったのでしょうか?

ナデリ:ザエルは苦しみを感じて生きてきた人物です。撃つ前に相手に苦しみを与えたくて至近距離で間を持たせたのです。
シネマスコープをイランで初めて使った映画です。端から端まで人を動かさないといけない。カメラの動きは黒澤。人をいっぱい撮っています。どれだけ人物に近づくか、レンズの選び方、ロングショットなのかズームで撮るのかなど、黒澤映画を観て研究しました。
黒澤のような人は、まだこの世に生まれない。アンソニー・マンは少しだけ黒澤に近づこうとしたと思います。黒澤は時代劇をオペラのように作るために生まれてきた方だと思います。

市山:野上照代さんが手をあげていらっしゃいます。

*ナデリ監督が立ち上がって、「皆さん、野上さんに注目を!」と、拍手を送りました。

―(野上照代さん)どうもありがとうございます。今、お話を聞いて納得しました。セットを初めから全部作るのは大変。ナデリさんが26歳で作ったのはすごい。イランでは皆が知っている事件?

ナデリ:小説もあるので、皆が知っている有名な話です。口から口に伝わって伝説になっています。

野上:どこの国でも、小さな町の人たちが歴史を作ったようなことがありますね。
それにしても、その若さで、よく撮ったなと感心しました。

ナデリ: 『ハーモニカ』も同じ年に作りました。『タングスィール』が内容的に危ないと思って、公開できなかったら、『ハーモニカ』を公開してもらおうと思って作ったのです。『ハーモニカ』は、一晩上映されたあと、上映禁止になりました。『タングスィール』は、2週間で上映禁止になりました。主役がものすごく有名な人で、ロイヤルファミリーも彼が好きだったので、2週間上映できました。革命で王政が倒された後、彼はロイヤルファミリーと親しかったためにアメリカに移ることになって、40年間ずっとアメリカに住んでいます。

野上:ほんとに、よく頑張って作ったわね。

ナデリ:I love you!
撮っている時、町から町へと歩いて、23日間くらい靴を脱いだこともありませんでした。やっと靴を脱いだら、足が結構膿んでいました。その時だけで終わる映画じゃなくて、後世に残る映画を作りたかったのです。それで頑張ったのです。

野上:映画は、そういうものだと思います。

ナデリ:市山さんのお陰で今回古い映画が上映されて、自分で観て、力が湧いて、また作れるなと思うくらいでした。

市山:
20年ほど前に、VHSビデオを入手して、なんとか上映できないかなと思ってました。

ナデリ:経済的には何もないけど、21本の映画が財産です。サウンドの使い方も編集もすべて黒澤監督に学びました。

野上:生きていたら喜んだでしょう。

ナデリ:黒澤はずっと生きています!  日本がある限り、黒澤監督はいらっしゃいます。

野上:ありがとうございます。


市山:それでは、最後の質問です。

― 牛は演技で死んでいるのでしょうか?
(え? 最後の質問がこれ? という空気が・・・)
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ナデリ:いえ! 殺してません。映画のために悪いことばかりしてきましたが。なぜ、そんな質問をするのですか~
これで、最後の上映になりましたので、市山さんにあらためてお礼を申しあげます。フィルメックスは映画監督を育てている映画祭なので、一生応援しています。

市山:ナデリ監督の作品『山<モンテ>』が2月にアップリンクで公開になります。

ナデリ:モンテ! モンテ! 私の映画が好きでしたら、絶対観てください。
I love you!
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*****

この後、会場の外では、ナデリ監督のファンが次から次にナデリ監督に駆け寄り別れを惜しみました。フィルメックスのスタッフの方たちとも記念写真を撮るナデリ監督でした。

『タングスィ―ル』を何度も観ているイラン人の友人も、「こんなに綺麗な状態のは初めて」と感激していました。撮影当時なら、南部にはまだあのような町は残っていると思っていたので、アスファルトの道路に土を盛ったと知って、びっくりしたとも言っていました。
ザエルを匿った酒屋の店主を演じたのは、アルメニア人の俳優さん。ほかの革命前のイラン映画でも、よく酒屋さん役で出ているそうです。お酒がOKだった革命前とはいえ、やっぱり酒屋はムスリムよりアルメニア人なのだと思いました。

ナデリ監督の映画というと、忍耐を強いられる作品が多かったのですが、ちゃんとスト―リ―のあるものを初期には作っていたことも、この目で確認することができました。1週間経った今も、『タングスィール』を観た興奮が冷めません。ほんとにフィルメックスに感謝です。(景山咲子)










第19回東京フィルメックス(2018) 受賞結果 (暁)

【最優秀作品賞】 
『アイカ(原題)』Ayka
ロシア、ドイツ、ポーランド、カザフスタン、中国 / 2018
監督:セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ (Sergei DVORTSEVOY)

授賞理由:
最優秀作品賞はセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督の『アイカ』に贈る。出産後新生児を残して病院を逃げた25歳のキルギス人の女性の物語。借金を返そうと様々な仕事に就こうとするがうまくいかない。
本作はこの女性に降りかかる過酷な現実とモスクワで移民として生き抜いて行こうする彼女の意志を見事に描いている。ドキュメンタリー映画出身の監督は残酷な境遇を核心的でリアルなやり方で捉えている。各シーンは緊張に満ちていて見る者の心を打つ。
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セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督

【審査員特別賞】 
『轢き殺された羊』 Jinpa
中国 / 2018 監督:ペマツェテン(Pema Tseden)

授賞理由:
「私の夢を教えても、おそらくあなたは忘れるだろう。私が夢に従って行動すれば、あるいはあなたは覚えるかもしれない。ただ、私の夢にあなたを巻き込めば、それはあなたの夢にもなる。」
このチベットに箴言に始まるこのポップな西部劇ロードムーヴィは二人ともジンパという名の謎の人物とココシリへと私たちを誘う。一人は復讐のために人殺しを企て、もう一人は誤って殺してしまった羊の済度を求める。
息をのむ映像で神秘的でオペラのような夢の如く物語は語られ、チベット語で歌われる「オーソレミオ」で強調される。
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ペマツェテン監督

【スペシャル・メンション】 
『夜明け』 His Lost Name
日本 / 2018 監督:広瀬奈々子(HIROSE Nanako)

授賞理由:
審査員は広瀬奈々子監督の「夜明け」をスペシャルメンションとしたい。
本作は、見事な脚本と演出により、柳楽優弥が人生を模索する青年を力強く演じるファミリードラマである。この若い女性監督の明晰なデビュー作品。
日本映画の未来への一条の明るい光となった。
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広瀬奈々子監督

■観客賞

『コンプリシティ』 Complicity
監督:近浦啓 (CHIKAURA Kei)
日本、中国 / 2018 製作:クレイテプス
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近浦啓監督

■学生審査員賞
『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』
Long Day’s Journey into Night
監督:ビー・ガン(BI Gan)
中国、フランス / 2018 / 140分
配給: リアリーライクフィルムズ / ガチンコ・フィルム / シネフィル

授賞理由:
男と女、2人の究極的な愛は、地球の自転にも抗った。
男が誰と出会ったのか、本当に出会ったのかさえ不確かだが。
ようやく縫い合わせた錆びた記憶の欠片たちと、眠ってしまったのかと錯覚してしまう夢のような一時。
「意味」は遥か先に隠され、どこを探しても見つけらない。
僕らは宇宙からやってきた監督に別世界に、別の宇宙に連れ去られた。
大冒険は終わったのか、まだ帰ってきているのかも分からない。
映画表現へのこの革命的ギャンブルは、新たな扉を叩いただろう。
そして、映画に対する確固たる愛と覚悟を見せつけ、僕らの背中も大きく押してくれた。
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シャン・ゾーロン(プロデューサー)


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受賞者と審査員

前列左からシャン・ゾーロンプロデューサー、ペマツェテン監督、セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督、広瀬奈々子監督、近浦啓監督
後列 第19回東京フィルメックス審査員


受賞理由フィルメックスHPより

東京フィルメックス 『ハーモニカ』 アミール・ナデリ監督も涙ぐむ(咲)

『ハーモニカ』   原題:Saz Dahani 英題:Harmonica
イラン / 1974年 / 75分
監督:アミール・ナデリ

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◆2018年11月23日(祝・金)9:50~ 上映前の舞台挨拶
朝早くありがとうございます。朝早くからこんなに大勢観に来てくださるのは日本だけですので、お礼申し上げたい。ほかの国のシネフィルは違う。ここまで熱心じゃないです。この映画は、千年前から観てません。45年前に作られた映画なので、信じられますか? 自分の子ども時代の思い出から作ってますので、主役もアミールです。どうぞゆっくり観てください。

今回のフィルメックスでは5作の映画を上映してくださって感謝しています。最後は25日に上映される私が3本目に作った『タングスィ-ル』で時代劇です。ぜひご覧ください。

ショーレさんは、30年前から日本でイラン映画を紹介してきました。皆さんが観たイラン映画はショーレさんの努力の賜物です。ほんとに苦労をかけました。(「私がこれを訳すのですか?」と、はにかみながら訳すショーレさんでした。)
Thank you very much Enjoy!. Cut! Sit down!
(ずっとペルシア語で話していましたが、最後は英語!)

*ストーリー*
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ペルシャ湾沿いの海辺の村。太っちょのアミールは父を亡くし、ナン(パン)屋のツケも払えない貧しい暮らしだ。いつもいじめられていたアブドルが、薬を飲んだご褒美に日本製のハーモニカを貰い、一躍人気者になる。皆、お金を払って吹かせて貰うが、お金を工面できないアミールは、アブドルを背負うことで憧れのハーモニカを吹く。皆にロバとからかわれ、母からも「人のロバになるなんて、人生をドブに捨てるよう」と、母の最後の宝物の銀のブレスで好きなものを買いなさいと言われる。アブドルの主導する騎馬戦で、またロバにさせられたアミールは、ついに反撃に出る。ハーモニカを奪って海に向かって走っていく・・・
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ハーモニカを失ったアブドルは、皆に叩きのめされる。権力を失った者の運命・・・
子ども時代の思い出を映画にした作品といいながら、強烈なメッセージを投げつけてくれる。
ナデリ監督の生まれ故郷アバダンは、イラク国境に近い地。イランでもアラベスタンと言われ、独特の風俗が見られるところ。特に、女性が仮面のようなもので顔を隠す風習は、イランのほかの地域では見られないもの。南部独特の暮らしも垣間見れて、興味深い。


◆上映後のQ&A
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ナデリ:とても悲しい映画だったね。(ちょっと涙ぐむナデリ監督)
自分の小さな時のこと。1995年にアジアフォーカス福岡映画祭で上映されて、福岡市総合図書館に収蔵されていたものを借りて上映することができました。あらためて、福岡市に感謝します。
撮っていた当時は純粋な気持ちで作っていて、その後、海外で上映されるとは思っていませんでした。
あまり言いたくないけど、この映画と、あと2本の映画がイラン革命を起こしたと聞いたことがあります。(しばし、無言)

司会(市山):あとの2本は?
ナデリ: 『タングスィール』と、『The Deer(鹿)』(監督:Masoud Kimiai,1974)です。
『タングスィール』を作って何ヶ月後かに『ハーモニカ』を作りました。シャーの時代(王政)でしたが、この2本は上映禁止になりました。5~6年後に革命が起こりました。革命が起きた時にはアメリカにいました。子どもたちがデモをしたのは『ハーモニカ』を観たから、大人たちは『タングスィール』を観て暴動を起こしたと言われました。
上映禁止になった時に、ファシスト的な映画と言われたのですが、私たちの貧しい生活はファシスト的。当時の貧しい生活への子どもたちのリアクションがあのようなものでした。
映画を作ったとき、印象派を試してみたかったのです。自分は政治的な人間じゃないし、政治は大嫌い。自分たちの体験した生活を描きたかっただけなのに、政治的と言われました。

◆会場から
ー 子どもの世界を描いているのに権力の象徴としてハーモニカが使われていました。当時の貧しい人々のことを描くのが目的だったそうですが。
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ナデリ:あえて権力者を念頭に置いたわけじゃなかったけど、自分自身、あのような生活をしていました。人類の歴史を語ったような気が、後から観るとします。40年前に観て、今日、久しぶりに観て、子どもたちが痛々しくて悲しくなりました。権力者を描こうとしたわけじゃなかったのですが・・・。
児童青少年知育協会で作ったのですが、子供向きのはずがこんな映画になりました。
革命が起きた時アメリカにいて、2年後にイランに帰ったら、小学生の低学年にアミールという名の子が多いと言われました。この映画を観て、親が付けたみたいです。
この映画を観て、子どもたちはいじめはよくないと思ってくれたと思います。
このあと、1986年に『駆ける少年』を作りました。

― 子どもたちが生き生きしていました。現地でキャスティングしたのですか?
また、映画の最後、黄色っぽくしたのは?

ナデリ:子どもたちは素人で、現地で選びました。自分の撮りたい映像の枠の中で、子どもたちを撮るのは結構大変でした。
エンディングのカラーは、わざと自分で変えました。多色のカラーで撮っていたのを、最後、1色にして革命が起きたことを表わしたのです。これまで質問されたことがなくて、皆、ちゃんと観てくれてないと思っていました。
音楽も現地で採取したものを使っています。
『期待』『駆ける少年』など、自伝的映画を4~5本作っています。幸い、映像が残っていてありがたいです。

― 憧れの象徴がハーモニカでした。ほかに候補はありましたか?

ナデリ:児童青少年知育協会から、子ども向けの映画をといわれて作ったのですが、協会から、もう少し甘い感じで作るべきだったと言われました。憧れといえば、映画が大好きで、とにかく作りたかったのです。

― 印象派のタッチに近づけたかったとのことですが、エピソードがありましたらお聞かせください。

ナデリ:カラーに力を入れたのは、この作品が初めてかもしれません。子どもたちの自然な姿を撮りたいと、モダニズムを表わすものは入れたくなかった。
児童青少年知育協会は、自由を与えてくれました。フィルムをたくさんくれて、一つのシーンにたくさん使うことができました。

Everybody go home! Thank you!

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時間の制約があるのを察知して、まだまだ語りたいことはあったと思うのに、さっと切り上げるナデリ監督でした。

*1995年、アジアフォーカス福岡映画祭のイラン特集で観た時の遠い記憶では、太っちょの男の子がとても意地悪だったという印象でした。今回、20年以上の時を経て観てみたら、意地悪なのは、痩せたアブドルの方でした。太っちょのアミールは、実に可哀そうな境遇だったので、自分の記憶の曖昧さに情けなくなりました。おまけに、この映画を作った監督は意地悪な人に違いないとまで思っていたのですから。
『期待』と『ハーモニカ』をあらためて観て、若い時から、凄い映画を作る才能をお持ちであることを再認識しました。上映してくださった東京フィルメックスにも感謝です。(景山咲子)