東京フィルメックス25周年の軌跡

会期:2024年11月15日(金)~ 11月21日(木)
会場:ヒューマントラストシネマ有楽町
https://filmex.jp/program/pre/

「小規模でも個性的な、大規模映画祭とは異なる利点・視点を持つオルタナティブな映画祭をもう一つ東京に作ろう」との想いから「作家主義」を掲げる映画祭として2000年に発足した東京フィルメックス。映画祭とはその本当の価値が見えるまでに長い期間が必要ですが、本映画祭は今年で25回目の開催を迎えます。

本プレイベントでは、映画祭本会期に先行して、四半世紀という長い期間を改めて見つめ直すトークイベントと共に、これまでに紹介された500以上の作品の中から厳選した映画が上映されます。

上映作品

◆『世界で一番悲しい音楽』The Saddest Music in the World
カナダ / 2003 / 99分
監督:ガイ・マディン( Guy MADDIN )

◆『スリ』(上映時タイトル:『文雀』)Sparrow
香港 / 2008 / 87分
監督:ジョニー・トー( Johnnie TO )

◆『無用』Useless
中国/2007/81分
監督:ジャ・ジャンクー( JIA Zhang-ke )

◆『天使の眼、野獣の街』(上映時タイトル:『アイ・イン・ザ・スカイ』)Eye in the Sky
香港 / 2007 / 90分
監督:ヤウ・ナイホイ( YAU Nai-Hoi )

◆『私の少女』(上映時タイトル:『扉の少女』) A Girl at My Door
韓国 / 2014 / 119分
監督:チョン・ジュリ( JUNG July )
協力:JAIHO

◆『コンプリシティ/優しい共犯』(上映時タイトル:『コンプリシティ』)Complicity
日本、中国 / 2018 / 116分
監督:近浦 啓( CHIKA-URA Kei )
製作:クレイテプス


東京フィルメックス ペマ・ツェテン監督特別追悼特集上映

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日程:2024年2月16日(金)~2月29日(木)

会場・チケット:ヒューマントラストシネマ有楽町

特集特設サイト:https://tokyofilmex-pematseden.mystrikingly.com/

★上映スケジュールは、こちらの特設サイトで確認ください。


◎東京フィルメックス プログラミング・ディレクター 神谷直希氏より本特集についてのコメント

ペマ・ツェテンは1969年12月に生まれ、2023年5月に心臓発作で53年間の生涯を終えた。彼は7本の完成した長編映画(亡くなった時、8作目の『雪豹』はポストプロダクション中だったが、その後無事に完成に至り、2023年8月のヴェネツィア映画祭を皮切りに、東京を含め、各地の映画祭で上映された。また、9作目の長編映画も撮影は終わっていたと言われている)と数本の短編映画を監督すると共に、多様な小説やエッセイを出版し、他の作家たちの作品のためにチベット語と中国語の翻訳を行っていた。もちろん彼はそれぞれの分野で一人というわけではなかったが、彼のようにそれらの活動を組み合わせて行った芸術家は他にはいなかった。特に彼の映画における諸作品は現代のチベット映画を「定義」したといっても過言ではなく、「チベッタン・ニューウェイヴ」と称されることもあるここ十数年のチベット映画文化の勃興において、紛うことなき中心的存在だった。また彼は自身の映画製作を通じて現代チベット映画に多大な貢献をしただけではなく、チベット映画界のもう一人の重要人物として浮上した元撮影監督のソンタルジャを始めとする、多くの新しい才能を育てたことでも知られている。今回のペマ・ツェテン監督追悼上映では、そのような作品として、ドゥッカル・ツェラン監督の『君のための歌』(2020年、ジャ・ジャンクーとの共同制作)、そして彼の息子で新進気鋭の映画監督ジグメ・ティンレーの『一人と四人』(2021年)を共に上映する。
神谷直希(東京フィルメックス プログラミング・ディレクター)


◆上映作品◆
東京フィルメックスで上映され多くの賞を受賞した3作品や、ペマ・ツェテンが影響を与えたチベット映画の後進作家の作品を含め、貴重な8作品をラインナップ。

★ペマ・ツェテン監督作品
静かなるマニ石(2005)
ティメー・クンデンを探して(2009)
オールド・ドッグ(2011) *第12回東京フィルメックス最優秀作品賞
タルロ2015) *第16回東京フィルメックス最優秀作品賞・学生審査員賞
羊飼いと風船 (2019) *第20回東京フィルメックス・最優秀作品賞
草原(2004) ※『一人と四人』と併映

★ペマ・ツェテン監督が影響を与えた後進作家の作品
君のための歌(2020) 
監督:ドゥカル・ツェラン
エグゼクティブ・プロデューサー:ペマツェテン

一人と四人(2021) ※『草原』と併映
監督:ジグメ・ティンレー


思い出のペマ・ツェテン監督

第12回東京フィルメックス『オールド・ドッグ』最優秀作品賞受賞の喜びを語るペマ・ツェテン監督 
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第19回東京フィルメックス(2018年11月)の折のペマ・ツェテン監督  

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撮影:景山咲子


第24回東京フィルメックス 授賞式レポート

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2023年11月26日(日)17:10~
於 有楽町朝日ホール


11月19日に開幕した第24回東京フィルメックス。最終日の11月26日に各賞の授賞式が行われました。
コンペティション部門の8作品の受賞作のほか、同時開催のタレンツ・トーキョーの各賞も発表されました。


★第24回東京フィルメックス 受賞結果★
最優秀作品賞
ファム・ティエン・アン『黄色い繭の殻の中』

審査員特別賞
アリ・アフマザデ『クリティカル・ゾーン』
ゾルジャルガル・プレブダシ『冬眠さえできれば』

観客賞
ゾルジャルガル・プレブダシ『冬眠さえできれば』

学生審査員賞
キム・テヤン『ミマン』


タレンツ・トーキョー
タレンツ・トーキョー・アワード2023
サイ・ナー・カム『Mangoes are Tasty There』

スペシャル・メンション
アンジェリーナ・マリリン・ボク『Free Admission』
オーツ・インチャオ『Water Has Another Dream』



◎授賞式
発表順にお届けします。

タレンツ・トーキョー
スペシャル・メンション
『Free Admission』(アンジェリーナ・マリリン・ボク(Angelina Marilyn BOK)/シンガポール)
『Water Has Another Dream』(オーツ・インチャオ(OATES Yinchao)/中国)

タレンツ・トーキョー・アワード2023
『Mangoes are Tasty There』
(サイ・ナー・カム(Sai Naw Kham)/ミャンマー)
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授賞理由:
物語を読んで、聞いて、感じたここ数日間、美しさや、恐怖、希望や悲しみを織り交ぜた詩のような彼の視点から見る故郷の景色に私たちをこの受賞者は連れて行ってくれました。彼がこの東南アジアらしい物語を語る時、彼の個性や即興性、自信を見ることができ、私たちは、また少し彼の物語を知り、彼の物語を好きになります。この才能を発見できたことが喜ばしく、完成するのが楽しみな作品です。

<タレンツ・トーキョー2023 エキスパーツ(講師)>
モーリー・スリヤ(映画監督)、ビアンカ・バルブエナ(プロデューサー)、ポーリーン・ブーシェニー(ワールド・セールス)、フロリアン・ウェグホルン(ベルリン映画祭)


◆学生審査員賞
『ミマン』 Mimang
監督:キム・テヤン(KIM Taeyang)
韓国 / 2023 / 92分

授賞理由:
目の前で生きているかのような彼らの自然な会話から、物語が立ち上がっていく。
巧みな脚本と映像設計に魅了された。人々と共に描かれる街の変化と、その中でも変わらないもの。バスに揺られていくラストの余韻が心地好い。
開発が進み変わっていく街の中で、記憶を紡ぎ、覚えていることが、世の中に対する希望なのではないか。

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学生審査員
中山響一( NAKAYAMA Kyoichi / 武蔵野美術大学 )、大権早耶佳(DAIGON Sayaka / ENBUゼミナール)、藤﨑諄(FUJISAKI Itaru / 明治大学)

キム・テヤン監督
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「観客の皆さんにお会いするといつもわくわくします。知らない方ばかりなのになぜか親しみを覚えます。光栄な場所に立たせていただきましたので、私の映画仲間を皆様に紹介させて下さい」
客席にいた大勢のスタッフと出演者が立ち上がりました。大きな拍手が贈られました。
「映画学校時代に恩師に言われた言葉があります。映画はたくさんの人が関わって作り、公開されれば観客もその一員になる。それは本当にロマンチックで大切なこと。申し訳ない気持ちでなく、感謝の気持ちで撮りなさいと。これからも映画を撮り続けられるよう頑張ります。カムサムニダ」


◆観客賞
『冬眠さえできれば』
監督:ゾルジャルガル・プレブダシ
モンゴル、フランス、スイス、カタール

上映された全作品の中から来場者の投票で選ぶ観客賞は、コンペティション部門の『冬眠さえできれば』が受賞しました。

ゾルジャルガル・プレブダシ監督は、1週間前にご出産されたばかりで来日できず、モンゴルからビデオメッセージで喜びを語りました。
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「たくさんの人の愛と支援の気持ち、たくさんの努力で出来た映画です。恵まれない環境で生活する子どもたちの声を映画で叫びたい、彼らにいい機会を与え笑顔にしたい、モンゴルや同じような環境のもとにいる子供たちに良い社会を与えることができるようにしたいという心から作った映画が、皆さんに届いて本当に嬉しいです」と日本語で語りました。
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共同プロデューサーのバトヒシク・セデアユシジャブさんと、母親を演じたガンチメグ・サンダグドルさんが登壇し、観客賞の賞状を受け取りました。


◎コンペティション部門
ここで、コンペティション部門 8作品の紹介。
いよいよ各賞の発表です。

第24回東京フィルメックス コンペティション審査員の3人が登壇。

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審査員長 ワン・ビン ( WANG Bing / 中国 / 映画監督 )写真:左端


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アノーチャ・スウィーチャーゴーンポン ( Anocha SUWICHAKORNPONG / タイ / 映画監督・プロデューサー )


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クオ・ミンジュン ( KUO Ming Jung / 台湾 / 映画プログラマー・プロデューサー )



審査員特別賞 2作品に贈られました。
『冬眠さえできれば』(If Only I Could Hibernate)
監督:ゾルジャルガル・プレブダシ
モンゴル、フランス、スイス、カタール /2023 / 98分

授賞理由:
現代モンゴル社会の苦難を描いた珠玉の作品。的確な映画的表現と嘘のない観察で、苦闘する若者たちの姿に寄り添っている。

観客賞とダブル受賞となり、再びゾルジャルガル・プレブダシ監督がビデオメッセージで喜びを語りました。
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「東京フィルメックスはとってもスペシャルなところです。2017年にタレンツ・トーキョーに参加してアワードをいただいたことが大きな励みになって、この作品を作りあげることができました。一緒に作ったフランス人プロデューサーのフレデリック・コルヴェさんともタレンツ・トーキョーで知り合いました。ですので、今回の授賞は何よりも嬉しいです」
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共同プロデューサーのバトヒシク・セデアユシジャブさんと、母親を演じたガンチメグ・サンダグドルさんが再び登壇し、トロフィーと賞状を受け取りました。

ガンチメグ・サンダグドルさん:女優を志しましたが、この20年間はナレーションの仕事をしていました。この映画は初めての出演作です。監督から声をかけていただき、カンヌまで行き、世界を回って東京フィルメックスにまで来られたことを嬉しく思っています。
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バトヒシク・セデアユシジャブさん:初めてプロデューサーを務めました。今までドキュメンタリーに関わってきましたが、モンゴルの教育がよくなり、子どもたちが平等な教育が受けられるようにというメッセージを込めた映画ですので、すぐに参加を決めました。


『クリティカル・ゾーン』Critical Zone 
監督:アリ・アフマザデ、イラン・独 

授賞理由:
この映画では、抑圧的な社会に生きる若者たちの生活を覗き見ることができる。制約の中で、この映画作家はユニークで説得力のある方法で、攻撃的な体制に立ち向かう力強い映画芸術作品を作り上げた。審査員特別賞は『クリティカル・ゾーン』に贈る。

アリ・アフマザデ監督は、イラン政府から出国許可が出ず、ビデオメッセージを寄せられました。
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「インディペンデント映画やアンダーグラウンド映画に注目して下さったこと、そして、『クリティカル・ゾーン』のような作品を認めて下さったことに感謝します。ほんとに嬉しいです。いつかフィルメックスに参加できることを楽しみにしています


最優秀作品賞
『黄色い繭の殻の中』 Inside the Yellow Cocoon Shell
監督:ファム・ティエン・アン(PHAM Thien An)
ベトナム、シンガポール、フランス、スペイン / 2023 / 178分

授賞理由:
突然の死が訪れた後、映画は生きることの意味を考えさせ、主人公を取り巻く人々の喪失、過去、欲望、決断を振り返る時間を与えている。映画における永遠の探求を、野心的かつ愛おしげに描いている。

ファム・ティエン・アン監督
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光栄です。上映の機会をくださった神谷さんにまずお礼申し上げます。賞をくださった審査員の皆さまにお礼申し上げます。そして、観客の皆さまにお礼申し上げます。インディペンデント映画を支持していただき感謝します。
この映画は、多くの人の支援がなければ作ることができませんでした。製作チームにも感謝します。プロではない役者さんたちにもすごく頑張っていただきました。受賞をたいへん誇りに思うとともに、この賞を彼らに捧げたいと思います。ほんとうにありがとうございました。
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最後に、審査員長のワン・ビン監督より講評
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今回フィルメックスに集まった映画は、アジアの若い力のある監督たちの素晴らしい作品の数々でした。アジアの状況がよくわかりました。残念ながら賞は3つしかあげられなかったのですが、皆、良い作品でした。アジアの国々の作品は、ほんとうにだんだんと良くなっていると思います。以前は限られた国や地域で作られた作品しか見られませんでしたが、今では、長年作品がなかった国でも映画が作られて、アジアの異なる地域、異なる言語の素晴らしい作品が各地から出てきました。これが最近の大きな特徴だと思います。
実は、私自身、東京フィルメックスの場に初めて参加しました。審査員全員が審査を非常に楽しみました。謝謝。

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受賞者、審査員 全員で写真を撮ったあと、クロージング作品『命は安く、トイレットペーパーは安い』のウェイン・ワン監督が、上映前に挨拶に立ちました。
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撮影:宮崎暁美  報告・一部撮影:景山咲子




東京フィルメックス 『クリティカル・ゾーン』 テヘランの夜をナビに導かれる売人の車 (咲)

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コンペティション ★審査員特別賞受賞★
『クリティカル・ゾーン』 原題:Mantagheye bohrani  英題:Critical Zone
監督:アリ・アフマザデ ( Ali AHMADZADEH )
2023 /イラン・ドイツ / 99 分

小型のAmbulance(救急車)がトンネルの中の道を行く。(トレイラーは、この冒頭の場面https://youtu.be/V-ZkPDLQfiM) 無機質な音が時折鳴る。
男たちが十数人待ち構えたところで車は止まり、後ろのドアが上げられ、男二人が袋をどんどん降ろしていく。どうやらヤクらしい。
荷を受け取った男の一人、アミールを犬のMr.フレッドが迎える。大きな鞄から、いろいろな種類のヤクを取り出すアミール。草を小袋に入れたり、紙で何かを巻いたり、さらには焼き菓子を作る。
焼き菓子を大きな箱に詰めたのを二箱持って、車で出かける。 (お菓子を長方形の大きな箱に入れるのは、イランの定番)
ナビの女性の声に従って運転するアミール。お菓子を届けた先は、老人施設。看護師と一緒に、老人たちに焼き菓子を食べさせる。テレビには外国のドラマなのか、髪の毛を出した女性が映っている。一方で、女性詩人フォルーグの詩を吟じる者も。
看護師とテヘランの夜景を眺めるアミール。 看護師が詩を吟じる。
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また、車を走らせる。バス停で待っていた女性を乗せる。「ハシシ(大麻)より草が好き」という女性。「ハシシは糞でふかしてるから嫌」という彼女に「日本では糞でエネルギーを作ってる」とアミール。女性は、トルコでビザを取ってアメリカに行きたいという。
「外国に出たことない」というアミールに、「脳みそがおかしくならない?」と彼女。
「もう慣れた」とアミール。

彼女を降ろし、車を走らせる。
ラジオから女性の声で詩が流れている。響きは美しいが、険しい内容。

空港に着く。
別れを惜しむ人たちが大勢。
アミールは女性を出迎える。キャビンアテンダントらしい。
「ガス欠なのに、どこの空港も受け入れてくれなくて、やっとロシアが受け入れてくれた。二度と来るなと言われた」
車に乗り、帽子を脱ぐCA。町はずれに行く。
ケルマーン産の阿片を渡すアミール。彼女からは、アムステルダムの種がお土産。
受け取った札束をかぞえるアミール。

ホメイニー廟のそばを通って、北上し、高速道路の下で待ち受けていた人たち(LGBTの人たちか?)に何か(ドラッグ?)を配る。どうやら施しらしくお礼を言われている。

また、別の女性を車に乗せる。20歳の息子のことで相談を受ける。廃人のようになったのは「安物の麻薬を売りつけられたからよ」という。
車を駐車場に止め、部屋にあがる。本棚には専門書が並ぶ。
そこを後にし、また女性の声のナビに従い車を走らせる。
「目的地に着きました」


冒頭の救急車がトンネルの中を行く場面で、車酔いになったような気分に。この映画、どこに行くのか・・・と思ったところで、主役アミールを犬のMr.フレッドが迎えて、ほっとすると共に、あ~犬!と。かつて、某大統領が出した飼い犬禁止法案は可決されなかったものの、犬はイスラーム政権にとって望ましくないペット。それでも、今、イランでは飼い犬ブームだとか。そんなところでも、国民はささやかな抵抗をしていると感じているので、おそらく監督の愛犬を出演させたのも、大いに意味があると思う次第。

イスラームのシーア派の分派イスマーイール派が、大麻(ハシシ)を吸わせて暗殺させたという逸話から、暗殺教団 (Hassasin)が、英語やフランス語の「暗殺者」(assassin)の語源となったという説があって、イランでは陰で麻薬を常用していた歴史があります。
今は、うっぷん晴らしに使われているということでしょうか。

車に乗ってくる女性たちは、スカーフを脱ぎ捨てますが、車の中=家の中という考え方もあるらしいです。今、テヘランの北の方(山の手に当たる)では、女性たちがスカーフを被らないで歩いている率が高いとか。昨年の事件後に頻発した抗議デモも、今は行わない代わりに、ヘジャーブについて注意させないという暗黙の了解のような空気もあるそうです。
それでも、この映画に出演した女性たちは、今はイランにいないのではと推察します。

本作は、イラン当局によって監督の海外への渡航が禁止される中、ロカルノ映画祭で金豹賞(最高賞)を受賞。ヨーロッパの映画祭が得てして「政治的」配慮をすることを感じます。

さて、この映画、好きかどうかと聞かれると、「う~ん・・・」としか言いようがないです。
ナビの女性の声が、妙に印象に残った映画でした。
淡々と、前方を左へ、右へという中で、「前方に危険」「数百メートル先に警察」という声。そんなナビがあれば嬉しい人も多いのでは?(咲)

東京フィルメックス 「プレイベント:Filmmakers’ Homecoming」

2010年より東京フィルメックスと同時期に実施されている映画人育成事業、タレンツ・トーキョー。これまで約200名の若手の監督やプロデューサーが参加し、そこでの開発の過程を経て完成に至った多くの作品が国際的にも高い評価を受けています。本プレイベントでは映画祭本会期に先行し、ヒューマントラストシネマ渋谷を会場に、これまでのタレンツ・トーキョーに参加経験のある新進気鋭の映画作家たちが監督・制作した12作品を特集上映します。

★東京国際映画祭との連携の意味もあり、近い日程で開催されます。

期間:2023年11月3日(金・祝)~ 13日(月)

会場:ヒューマントラストシネマ渋谷


チケットは、ヒューマントラストシネマ渋谷の通常通りの発売
https://filmex.jp/2023/program/pre


【上映作品】

『アーノルドは模範生』 Arnold is a Model Student
タイ 監督:ソラヨス・プラパパン
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2022年東京フィルメックス コンペティション部門で上映

『カム・ヒア』 Come Here
タイ 監督:アノーチャ・スウィチャーゴーンポン
日本初上映:福岡Asian Film Jointにて監督の特集上映

『暗くなるまでには』 By the Time it Gets Dark
タイ 監督:アノーチャ・スウィチャーゴーンポン
日本初上映:大阪アジアン映画祭

『昨夜、あなたが微笑んでいた』 Last Night I Saw You Smiling
カンボジア 監督:ニアン・カヴィッチ
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日本初上映:東京フィルメックスのコンペティション部門

『ホワイト・ビルディング』White Building
カンボジア 監督:ニアン・カヴィッチ
日本初上映:東京フィルメックスのコンペティション部門

『墓場にて唄う』 Singing in the Graveyards
マレーシア、フィリピン監督:ブラッドリー・リュウ
日本初上映:2017年 大阪アジアン映画祭

『アスワン』Aswang
フィリピン 監督:アリックス・アイン・アルンパク

『トランジット』Transit
フィリピン 監督:ハンナ・エスピア

『見えるもの、見えざるもの』The Seen and Unseen
インドネシア他 監督:カミラ・アンディニ
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『熱帯雨』Wet Season
シンガポール 監督:アンソニー・チェン

『チャンケ:よそ者』Jang-Gae: The Foreigner
台湾 監督:チャン・チーウェイ
第33回東京国際映画祭で上映

『レオノールの脳内ヒプナゴジア』Leonor Will Never Die
フィリピン 監督:マルティカ・ラミレス・エスコバル
配給:Foggy、アークエンタテインメント
*11月4日(土)上映回では、監督が来日してのトークイベントも予定
日本初上映:大阪アジアン映画祭
2024年1月にイメージフォーラム他にて劇場公開予定