東京フィルメックス 鑑賞作品短評です (咲)

東京フィルメックスの行動記録を書くのがすっかり遅くなりました。
東京国際映画祭と重複・連続しての開催、やっぱりしんどかったです・・・
実際、集客率にも響いたと感じました。


10月29日(土)
☆14:50 - 16:55 東京フィルメックス 開会式+ 『ノー・ベアーズ』(パナヒ監督/イラン)
トルコ・イスタンブルを舞台に、ヨーロッパに出国を試みるイラン人夫婦を描いた作品を、トルコ国境に近い村に滞在して、リモートで指示を出すパナヒ監督。自由を求める人たちの姿が、この7月に収監されてしまったパナヒ監督の思いに重なりました。
(本作については、公開が決まっていますので、公開前に詳しく紹介したいと思います。)


11月2日(水)
フィルメックスを優先して、東京国際映画祭クロージングの取材は暁さんにお任せ。
イラン映画が2本とも受賞したので、クロージングの取材に行きたかったです・・・
(同時期開催がうらめしい・・・と、しつこい?)

★12:15 - 14:07『地中海熱』 ☆学生審査員賞
監督:マハ・ハジ
パレスチナ、ドイツ、フランス、キプロス、カタール / 2022 / 108分

上映前にマハ・ハジ監督のビデオメッセージ。(女性監督でした!)

イスラエルのハイファで暮らすパレスチナ人のワリード。小説家を目指して、銀行を辞め家にいる。娘ヌールと息子シャムスの学校への送り迎えはワリードの役目。ある日、学校からシャムスが腹痛を訴えていると呼び出される。病院の女医から「地中海熱」だと診断される。隣に越してきた男ジャラールと出会いは悪かったが、いつしか親しい関係になる・・・
シャムスが毎週火曜日に具合が悪くなると娘から聞かされ、ワリードが息子に問うと、火曜日の地理の先生が、エルサレムはイスラエルの首都だというので、パレスチナの首都だと言い返したところ笑われたというのです。「地理も歴史もパパが先生に教えてやる」といきまくワリード・・・

カンヌ映画祭「ある視点」部門でプレミア上映。最優秀脚本賞受賞。


★15:10 - 16:55『ダム』 ☆スペシャル・メンション
監督:アリ・チェリ
フランス、スーダン、レバノン、ドイツ、セルビア、カタール / 2022 / 80分/
ナイル川のダムのほとりの村で、泥と水でレンガを作る男。夜になると、沙漠で不思議な泥の建造物を作っている・・・。
30年近く独裁体制を敷いてきたオマル・アル=バシール大統領に対する国民の抗議運動が盛んになった2019年頃が舞台。
主人公の眼力が鋭く、ちょっと不思議な物語でした。
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アリ・チェリ監督

★18:00 - 20:42『Next Sohee(英題)』 ☆審査員特別賞
監督:チョン・ジュリ
韓国 / 2022 / 138分 / 配給:株式会社ライツキューブ

女子高生のソヒは、学校の推薦でコールセンターの実習生として働き始めるが、自殺してしまう。労働環境や、推薦した学校にも問題があったのではと刑事が調べ始める・・・
少女が自殺した後、ペ・ドゥナ演じる刑事が登場。ちょっとぶっきらぼうだけど、少女の気持ちに寄り添おうとする姿がよかったです。
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上映後のQ&Aにチョン・ジュリ監督が登壇。ペ・ドゥナに演じてほしいと願いながら脚本を書いたと明かしました。
カンヌ映画祭批評家週間クロージング上映作品。


11月3日(木・祝)
★10:15 - 13:07『石門』
監督:ホアン・ジー&大塚竜治
日本 / 2022 / 148分/

20歳のリンは、彼から学費を出してもらってフライトアテンダントの学校に通っていたが、予期せず妊娠してしまう。子供を持つことも中絶も望まなかったリンは、診療所で死産の医療訴訟に巻き込まれている両親を助けるために、自分の赤ん坊を提供することにする・・・
ヴェネチア映画祭ヴェニス・デイズ部門でワールドプレミア上映。
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ホアン・ジー監督&大塚竜治監督

両親役は、ホワン・ジーさんのほんとのご両親。家族ぐるみで作られた映画です。今回は、都会が舞台で、前作とはまた違った雰囲気の中で女性の思いが語られていて、とても心に沁みました。

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『フーリッシュ・バード』(2017年)がアジア・フォーカス福岡映画祭で上映された折に、サイン会のテーブルの端っこでお絵かきしていた小さなお嬢ちゃんが、かなり成長されました。Q&Aで、ホアン・ジーさんが、娘になぜ産んだかと聞かれ、その答えを映画にしたと語り、舞台の裾に娘の千尋さんが一瞬登場しました。カメラが間に合わず、その姿を撮ることができなかったのですが、上映後、ロビーで大塚さんと千尋さんのツーショットを撮ることができました。5年ぶりの再会でした。



★14:10 - 17:09『同じ下着を着るふたりの女(原題)』
監督:キム・セイン ( KIM Se-in )
韓国 / 2021 / 140分 / 配給:Foggy
2021年10月に初上映された釜山映画祭でニューカレンツ賞を受賞。

シングルマザーの母親スギョンは、娘イジョンにいつも高圧的な態度だ。温和なイジョンは口では反発しないが、恨みが溜まっている・・・
母スギョンは、これでもかという位、暴力的な言葉を娘に浴びせます。演じた女優さん、凄い!
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キム・セイン監督の長編デビュー作。
上映後、キム・セイン監督、イジョンの友人役チョン・ボラムさん、撮影監督のムン・ミョンファンさんが登壇し、Q&Aが行われました。


11月4日(金)
★10:10 - 12:00『自叙伝』 ☆最優秀作品賞
監督:マクバル・ムバラク
インドネシア、フランス、シンガポール、ポーランド、フィリピン、ドイツ、カタール / 2022 / 116分
ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。国際映画批評家連盟賞受賞。

1990年代の軍事独裁体制化のインドネシア。
18歳の青年ラキブは、刑務所に入っている父に代わって、邸宅の管理をしている。主の元将軍プルナが突然帰ってくる。プルナは地元の首長選挙に立候補し、ラキブは選挙運動を手伝うことになる・・・
独裁体制化の張りつめた空気感にぞくぞくしました。


★13:00 - 14:56『ホテル』
監督:ワン・シャオシュアイ
香港 / 2022 / 112分
コロナの感染が始まった2020年の春。タイ、チェンマイのホテルに足止めされた宿泊客たち。ソヴァは20歳の誕生日をこのホテルで迎えるべく母と共に来ていた。外出を禁じられ、中庭のプールで泳いでいたソヴァは、中年男性と言葉を交わすようになる・・・

『在りし日の歌』のワン・シャオシュアイ監督が実際に2020年の旧正月を過ごしたホテルを舞台に描いた人間模様。
トロント映画祭でワールドプレミア上映。


★15:50 - 17:50『ソウルに帰る』☆審査員特別賞
監督:ダヴィ・シュー
ドイツ、フランス、ベルギー、カタール / 2022 / 116分 /
韓国で生まれ、フランスで養父母に育てられた25歳のフレディ。彼女は初めて韓国に降り立ち、実の両親を探し始める・・・
カンヌ映画祭「ある視点」部門で上映


★18:50 - 20:43『アーノルドは模範生』
監督:ソラヨス・プラパパン
タイ、シンガポール、フランス、オランダ、フィリピン / 2022
国際数学オリンピックでメダルを獲得し、学校より「模範生」の表彰を受けたアーノルド。ある日、彼は大学入試で学生のカンニングを助ける地下ビジネスに加担してしまう。
ソラヨス・プラパパンの長編デビュー作。
ロカルノ映画祭新進監督コンペティション部門でワールドプレミア上映
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上映後にソラヨス・プラパパン監督が登壇。Q&Aが行われました。
主人公アーノルド役は、タイ語と英語を流暢に話せることが条件で、キャスティングは難航。やっと見つけたのは演技経験のない青年。ヌーボーとした雰囲気が面白いアーノルドだったのですが、演技の勉強はするなと指示して撮影に臨んだそうです。

*****

コンペティション9作品のうち、観客賞を受賞した日本映画『遠いところ』を除く8作品を観ることができました。ほぼ納得の受賞結果でした。『石門』にも賞が欲しかったです。


第23回東京フィルメックス 受賞結果

11/5(土)に行われた授賞式で、各賞の発表が行われました。

◆コンペティション 受賞結果

【最優秀作品賞】 
『自叙伝』Autobiography
監督:マクバル・ムバラク(Makbul MUBARAK)
インドネシア、フランス、シンガポール、ポーランド、フィリピン、ドイツ、カタール / 2022 / 116分

【審査員特別賞】 
『ソウルに帰る』Return to Seoul
監督:ダヴィ・シュー(Davy CHOU)
ドイツ、フランス、ベルギー、カタール / 2022 / 116分

【審査員特別賞】 
『Next Sohee(英題)』
監督:チョン・ジュリ(JUNG July)
韓国 / 2022 / 138分
配給:ライツキューブ

【スペシャル・メンション】 
『ダム』The Dam
監督:アリ・チェリ(Ali CHERRI)
フランス、スーダン、レバノン、ドイツ、セルビア、カタール / 2022 / 80分

☆第23回東京フィルメックス コンペティション審査員:
リティ・パン ( Rithy PANH / フランス・カンボジア / 映画監督 )
キム・ヒジョン ( KIM Hee-Jung / 韓国 / 映画監督 )
キキ・ファン ( Kiki FUNG / 香港 / 映画プログラマー )

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◆観客賞
『遠いところ』A Far Shore
監督:工藤将亮(KUDO Masaaki)
日本 / 2022 / 128分
配給:ラビットハウス

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◆学生審査員賞
『地中海熱』Mediterranean Fever
監督:マハ・ハジ(Maha HAJ)
パレスチナ、ドイツ、フランス、キプロス、カタール / 2022 / 108分

学生審査員:
はるおさき(HARUO Saki / 東京藝術大学大学院)、山辺愛咲子(YAMABE Asako / 武蔵野美術大学)、高野志歩(TAKANO Shiho / 立教大学)

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タレンツ・トーキョー

◆タレンツ・トーキョー・アワード2022
「Forte」(ソン・ヘソン(SON Heui Song)/韓国)

◆スペシャル・メンション
「Future Laobans」(マウン・サン(Maung Sun)/ミャンマー)

「TROPICAL RAIN, DEATH-SCENTED KISS」(シャルロット・ホン・ビー・ハー(Charlotte HONG Bee Her)/シンガポール)

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受賞理由など詳細は、こちらで!
https://filmex.jp/2022/program/competition


東京フィルメックス 11月6日(日)追加開催が決定しました

9月9日に始まった第23回国際映画祭「東京フィルメックス」を例年通りの日数で開催するためのキャンペーン。
最終的に313名から、目標の300万円を超える3,061,362円の支援が集まり、11月6日(日)の追加開催が決定されました。

上映作品は、特別招待作品の下記3作品です。
☆チケットは、10/23(日)10:00より発売


11月6日(日)12:10~ 
『すべては大丈夫』Everything Will be OK
★クロージング作品
フランス、カンボジア / 2022 / 98分 /
監督:リティ・パン ( Rithy PANH )
カリスマ的なイノシシの将軍に率いられた動物たちが人間たちを奴隷として支配するディストピアの世界。カンボジアの大虐殺から、近年は一般的な専制政治や虐殺をテーマにしつつあるリティ・パンの最新作。ベルリン映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。


11月6日(日)14:50~
『ナナ』Before, Now & Then
インドネシア / 2022 / 103分 /
監督:カミラ・アンディニ( Kamila ANDINI )
1960年代のインドネシアで紛争に巻き込まれ、親族や家族を失ったナナが、思いがけない友情を通して自分自身を解放し、自由な人生を再び希求し始める姿を描くカミラ・アンディニの長編第4作。
ベルリン映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映。銀熊賞(最優秀助演賞)受賞。


11月6日(日)17:30~
『ノー・ベアーズ(英題)』 No Bears
★オープニング作品
イラン / 2022 / 107分 / 配給:アンプラグド
監督:ジャファル・パナヒ ( Jafar PANAHI )
映画監督ジャファル・パナヒの目を通して並行して語られる2つの愛と抵抗の物語。ここ十数年、芸術的自由に関する自己言及的作品を作り続けてきたパナヒの最新作。パナヒがイラン当局に拘束される中、ヴェネチア映画祭でプレミア上映され、特別審査員賞を受賞した。


第23回東京フィルメックス  ラインナップが発表されました

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第23回東京フィルメックス / TOKYO FILMeX 2022
会期:2022年10月29日(土)~11月5日(日) (全8日間)*10月4日現在予定
会場:有楽町朝日ホール(10/29-11/5)
公式サイト:https://filmex.jp/2022/

神谷直希プログラム・ディレクター2年目となる第23回東京フィルメックスの上映作品が発表されました。

上映スケジュール&チケット販売方法 ★10月12日発表されました
*チケット販売は10月16日(日)10am開始

◆東京フィルメックス・コンペティション
アジアの新進作家が2021年から2022年にかけて製作した作品の中から、9作品を上映。
3名の国際審査員が、最優秀作品賞と審査員特別賞を選び、11/5(土)に行われる授賞式で発表します。

【国際審査員】
審査委員長:リティ・パン(Rithy PANH)フランス・カンボジア / 映画監督
キキ・ファン(Kiki FUNG)香港 / 映画プログラマー
キム・ヒジョン(KIM Hee-Jung)韓国 / 映画監督

(日本語タイトル横の★=長編監督デビュー作)

『地中海熱』 Mediterranean Fever
パレスチナ、ドイツ、フランス、キプロス、カタール / 2022 / 108分 /
監督:マハ・ハジ( Maha HAJ )
占領下に置かれたパレスチナ人のアイデンティティの問題を背景に、二人の中年男の思いがけない友情の帰結を皮肉たっぷりに描く、マハ・ハジの長編第2作。
カンヌ映画祭「ある視点」部門でプレミア上映。最優秀脚本賞受賞。

『ダム』★ The Dam
フランス、スーダン、レバノン、ドイツ、セルビア、カタール / 2022 / 80分 /
監督:アリ・チェリ( Ali CHERRI )
ナイル川の大規模ダムのほとりの村で、川で生まれた泥と水でレンガを作る職人の男。やがて彼が作り続ける不思議な泥の建造物が独自の生命を獲得していく。レバノン出身のビジュアル・アーティスト、アリ・チェリの長編デビュー作は魅惑的な寓話である。

『ソウルに帰る』Return to Soul
ドイツ、フランス、ベルギー、カタール / 2022 / 116分 /
監督:ダヴィ・シュー ( Davy CHOU )
韓国で生まれ、フランスで養父母に育てられた25歳のフレディが初めて韓国に降り立ち、実の両親を探し始める。エレガントな撮影と編集で、瞬間を生きるフレディの存在そのものが力強く迫りくる作品。カンヌ映画祭「ある視点」部門で上映。

『自叙伝』★ Autobiography
インドネシア、フランス、シンガポール、ポーランド、フィリピン、ドイツ、カタール / 2022 / 116分
監督:マクバル・ムバラク ( Makbul MUBARAK )
青年Rakibは地元の首長選挙に立候補を表明した家主の選挙キャンペーンを手伝うことになるが…。父親的存在からの承認を求める一人の青年を通じ、暴力と欺瞞に満ちたインドネシアの近過去を寓話的に描く。
ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。国際映画批評家連盟賞受賞。

『アーノルドは模範生』★ Arnold is a Model Student
タイ、シンガポール、フランス、オランダ、フィリピン / 2022 /
監督:ソラヨス・プラパパン ( Sorayos PRAPAPAN )
数学オリンピックでメダルを獲得したアーノルド。だがある日、彼は大学入試で学生のカンニングを助ける地下ビジネスに加担してしまう。ソラヨス・プラパパンの長編デビュー作。
ロカルノ映画祭新進監督コンペティション部門でワールドプレミア上映。

『石門』Stonewalling
日本 / 2022 / 148分 /
監督:ホワン・ジー&大塚竜治 ( HUANG Ji & OTSUKA Ryuji )
妊娠に気づいたものの、今子供を持つことも中絶も望まなかった20歳のリンは、診療所で死産の医療訴訟に巻き込まれている両親を助けるために、自分の赤ん坊を提供しようとする。
ヴェネチア映画祭ヴェニス・デイズ部門でワールドプレミア上映。

『再生の朝に -ある裁判官の選択-』撮影監督 大塚竜治さんインタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2011/saiseinoasani/index.html


『同じ下着を着るふたりの女(原題)』★The Apartment with Two Women
韓国 / 2021 / 140分 / 配給:Foggy
監督:キム・セイン ( KIM Se-in )
中年シングルマザーの母親と20代の娘の、暴力と依存の悪循環に陥った親子関係を描く。2021年10月に初上映された釜山映画祭でニューカレンツ賞を受賞し、その後はベルリンを始めとする多くの国際映画祭で紹介されてきた新鋭キム・セインの驚くべき長編デビュー作。

『Next Sohee(英題)』Next Sohee
韓国 / 2022 / 138分 / 配給:株式会社ライツキューブ
監督:チョン・ジュリ ( JUNG July )
プロバイダーにサービスを提供するコールセンターの職に就いたソヒは、仕事に意欲的に取り組んでいたが……。韓国で実際に起きた10代の若者の自殺事件から着想を得たというチョン・ジュリ監督の待望の長編第2作。カンヌ映画祭批評家週間クロージング上映作品。

『遠いところ』A Far Shore
日本 / 2022 / 128分 / 配給:ラビットハウス
監督:工藤将亮 ( KUDO Masaaki )
沖縄の地で、貧困に晒され、暴力と隣り合わせで暮らす若い母親が、依存と自立との狭間で葛藤しながらも、自分の足で歩いていこうとする様を描く。カルロヴィヴァリ国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映された工藤将亮監督の長編第3作。


◆特別招待作品

★オープニング作品★
『ノー・ベアーズ(英題)』 No Bears
イラン / 2022 / 107分 / 配給:アンプラグド
監督:ジャファル・パナヒ ( Jafar PANAHI )
映画監督ジャファル・パナヒの目を通して並行して語られる2つの愛と抵抗の物語。ここ十数年、芸術的自由に関する自己言及的作品を作り続けてきたパナヒの最新作。パナヒがイラン当局に拘束される中、ヴェネチア映画祭でプレミア上映され、特別審査員賞を受賞した。

★クロージング作品★
『すべては大丈夫』Everything Will be OK
フランス、カンボジア / 2022 / 98分 /
監督:リティ・パン ( Rithy PANH )
カリスマ的なイノシシの将軍に率いられた動物たちが人間たちを奴隷として支配するディストピアの世界。カンボジアの大虐殺から、近年は一般的な専制政治や虐殺をテーマにしつつあるリティ・パンの最新作。ベルリン映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。

2015年6月 『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』上映の折のリティ・パン監督トーク
http://www.cinemajournal.net/special/2015/cambodia/index.html


『ホテル』The Hotel
香港 / 2022 / 112分 /
監督:ワン・シャオシュアイ( WANG Xiaoshuai )
COVID-19の影響でチェンマイのホテルに足止めされた宿泊客たちの間に次第に巻き起こる波紋。『在りし日の歌』のワン・シャオシュアイ監督が実際に2020年の旧正月を過ごしたホテルを舞台に描く人間模様。トロント映画祭でワールドプレミア上映。

『ナナ』Before, Now & Then
インドネシア / 2022 / 103分 /
監督:カミラ・アンディニ( Kamila ANDINI )
1960年代のインドネシアで紛争に巻き込まれ、親族や家族を失ったナナが、思いがけない友情を通して自分自身を解放し、自由な人生を再び希求し始める姿を描くカミラ・アンディニの長編第4作。
ベルリン映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映。銀熊賞(最優秀助演賞)受賞。

『見えるもの、見えざるもの』が、2017年の東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した折のカミラ・アンディニ監督のコメントと写真はこちらで!
http://www.cinemajournal.net/special/2017/filmex/index.html


■メイド・イン・ジャパン
『彼女はなぜ、猿を逃したか?』Why Did She Let the Monkeys Loose?
日本 / 2022 / 98分 /
監督:高橋泉( TAKAHASHI Izumi )
動物園の檻を壊して猿を逃がし、逮捕された女子高生・未唯の取材を始めるルポライターの優子。だが誹謗中傷に晒される未唯の中の真実を探ろうとするうち、徐々に彼女の精神の均衡は崩れていく。高橋泉と廣末哲万による映像制作ユニット「群青いろ」の最新作。

『石がある』There is a Stone
日本 / 2022 / 104分 /
監督:太田達成( OTA Tatsunari )
見知らぬ街を訪れた女性が河原で水切り遊びをしている男と出会い、他愛のない遊びの時間から、物語に静かなさざ波が引き起こされていく。ジャック・ロジエのヴァカンス映画を想起させもする、太田達成監督の『ブンデスリーガ』(16)以来となる2作目の長編。


■ツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集
台北中日経済文化代表処台湾文化センター、東京国際映画祭との共催で今年監督デビュー30周年を迎えるツァイ・ミンリャン監督の作品を特集上映。

『ふたつの時、ふたりの時間』What Time is it There?
台湾、フランス / 2001 / 116分

『西瓜』The Wayward Cloud
台湾 / 2005 / 114分 /

『ヴィザージュ』Face
フランス、台湾 / 2008 / 141分 /

東京フィルメックス 『砂利道』(イラン) パナー・パナヒ監督Q&A  (咲)

*コンペティション
『砂利道』 Hit the Road  ★長編監督デビュー作
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イラン / 2021 / 93分
監督:パナー・パナヒ( Panah PANAHI )

イランの巨匠ジャファル・パナヒの息子パナーの長編デビュー作。
カンヌ映画祭監督週間でワールドプレミア上映された。

*物語*
車で旅に出る4人家族と1匹の犬。後部座席で、おおはしゃぎする幼い弟。その隣で父親は足を怪我してギブスをして、渋い顔をしている。押し黙って車を運転する兄。助手席で母親は場を明るくしようと気を使っている。
ウルミエ湖が見えてくる。「昔は泳げたのに、今は砂遊びしかできない」と父。
携帯を持ってくるなと言い聞かせていたのに、弟が隠し持っていたのを母親が岩陰に隠す。
自転車レースの一団が来る。自転車選手に声をかけたら転んでしまって、車に乗せる。
どこか張り詰めたような車の中の雰囲気が少し和らぐ。
自転車選手を下ろし、いよいよ目的地に近づき、ひたすら砂利道を行く・・・
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「家も車もあの子を送り出すために失った」という言葉などから、両親が長男を密出国させようとしていることがわかります。約束の場所にいくと、羊の皮を選ぶように言われます。白は目立つからダメというので、それを被って山越えするのでしょう。羊の皮だけなのに、羊一頭分の値段というのが世知辛いです。ウルミエ湖のそばを通ったので、山越えしてイラクに行くのか、トルコに行くのか・・・
途中で乗せた自転車選手、複雑な話になった時に、「ペルシア語で説明するのは難しい。アゼリー(トルコ系のアゼルバイジャン語)じゃないと」と語っています。ウルミエ湖のあたりは、トルコ系や、クルドの人たちの多いところ。
葡萄が名産で、紀元前の昔からワインが作られていたところですが、イスラーム政権になってからワイン醸造は禁止されました。加えて、ダム開発などでウルミエ湖が干上がってきていて、農業にも支障をきたしています。

さて、両親は幼い弟に、兄がいなくなることをどう話すか案じていて、「花嫁と駆け落ちしたっていう」と話しています。
なぜ兄が密出国するのかの理由は、映画を観る私たちにも実は明かされていません。上映後にリモートで行われた監督とのQ&Aで、そのワケも明かされました。
父ジャファル・パナヒ監督の作品とは違うテイストの、緊迫感溢れる中にイラン人らしいユーモアを交えた作品でした。(咲)



◆Q&A (リモート) @有楽町朝日ホール
11月2日(火)18:30からの上映後
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パナー・パナヒ(監督)
神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
ショーレ・ゴルパリアン(通訳)

監督:ご挨拶を申し上げます。愛している日本で私の映画が上映されて光栄に思っています。日本の人たち、日本の文化、映画、アニメ、すべてを愛してます。この映画を楽しんでいただければ嬉しいです。
今回の上映を客席で皆さんと一緒に観ている私の大好きなパルヴィーズさんに捧げます。いつか日本にいって一緒に食事するのを楽しみにしています。
(ショーレさんより、いらっしゃったらお立ちになってくださいと声がかかり、なんと、立ったのは私の友人のパルヴィーズさんでした! 遠くに見つけて大きく手を振る監督。)

― サミラ・マフマルバフ監督やハナ・マフマルバフ監督たちと比較すると、37歳で長編デビュー作は決して若くないと思うのですが、どういう経緯でこの作品を作られたのでしょうか?

監督:ジャファル・パナヒの息子として、映画を作って一歩踏み出すのが難しかった。どうやって自分のアイデンティティを出せばいいかずっと考えていました。最初の一歩を踏み出す勇気がなかなかありませんでした。映画を愛してきた私が、踏み出すのは今だと思って作りました。写真を撮ったり、撮影助手をしたり、編集をしたり、映画の世界にずっといたのですが、フィーチャーフィルムを作る勇気がなかなかありませんでした。

― 撮影に際して、意識されたことは? 狭い社内と、広大な景色の対比が捉えられていました。

監督:狭いところと広いところのコントラストをテーマの中に入れようとしました。テーマは息子を国から出すという悲劇的な気持ちで動いているのですが、微笑んだりふざけたり冗談を言ったりして笑わそうとしています。国境が近くなって、いよいよ別れなければいけなくなったとき、家族からカメラも離しています。広いところで彼らを映すようにしています。車の中の撮影はとても大変でした。機材の中でもなるべく最小限のもので撮影しました。

― 車の中の撮影はキアロスタミ監督のことを思い出します。

監督:車の使い方ですが、イランでは色々規制があるので他の国とちょっと違います。車の中では好きな音楽を大きな音で出して聴けます。ルールがあって外では聴けない音楽もあります。女性は車の中ではスカーフをはずせます。私たちにとって車はただの車じゃなくて二つ目の家といえます。大都会から逃げて車で自然の中に行くときには自由にいろいろなことができます。車を使うと、余計なロケーションはいりません。
現実的に撮ろうとしても、家の中でも女性がスカーフをはずせません。検閲に引っかかりますので。家の中では撮りたくありません。一人でいるときにスカーフを被っているのはおかしいです。町の中の撮影はストレスが多いので好きじゃないです。静かな中でと思うと、車の中や自然の中で撮ることになります。

― 子役について多くの質問がきています。キャスティングのプロセスとどういう演出をされたのか教えてください。

監督:いろんな人に、こういうキャラクターの子を探してると言ったら、皆からテレビドラマに出ているあの子がいいと教えてくれました。私はそのドラマを見てなかったのですが、会ってみたら、すごいエネルギーを持っていました。6歳半なのに、すごく理解してくれて、すぐに友達になりました。まだ現場で本読みはできないので、母親がセリフを読んで、それを全部覚えて現場に来てくれました。彼と同じ年くらいの気持ちになって遊んで、エネルギーがあがってくると撮影に入りました。とても頭がいいからセリフはちゃんと言ってくれたのですが、いらない動きもしていたので、これはこうした方がいいというと、すぐにやってくれるので、演技力に毎日びっくりしていました。

― 歌が劇中でいくつか出てきましたが、有名な曲でしょうか?

監督:別れる時には、ノスタルジーを感じる曲を聴きたくなると思います。子供時代にドライブに行ったときに社内で聴いていた思い出のある方も多いと思います。使った歌は、革命前の歌だけど、家族で旅する時に車の中でよく聴きます。今作られている歌よりも昔の曲の方が詩もしっかり作られています。イラン人ならよくわかるのですが、ハッピーなメロディーでも、詩は悲しい。一つの歌の中でもパラドックスがありますので、そのような曲を選びました。

― 長男が出国しようとする理由は?

監督:イランの人たちは理由がわかっているので、誰も尋ねません。理由は大切じゃなくて、自分のアイデンティティを探すために外国に出るのです。

― ロードムービーに現代のイラン社会の持つ問題がうまく落とし込まれていました。

監督:どういうジャンルになるか考えずに書いていました。イランの若者は行き止まりに立ってしまった気持ちになっています。闇でイランから出国した友達もみてきました。

―最後に一言お願いします。

監督:神谷さんも会場の皆さんも、遅くまで私の話を聴いていただいて、心からお礼を申し上げます。これからもよい時間を過ごしますように。ありがとうございました。


★映画が終わってから、Q&Aの時に監督から名前の出たイラン人のパルヴィーズさんと、その友人アリさんと3人で焼き鳥屋さんへ。緊急事態宣言が解けて、日比谷界隈の居酒屋はどこも大賑わい。皆でコロナもやっと収まってきたのを実感! でも予断を許さないですね。
二人は20年以上前の東京国際映画祭のイラン映画上映の時に知り合った方たち。パルヴィーズさんは、3年前にイランに帰国した折にパナー・パナヒ監督と知り合ったとのこと。リモートQ&Aで監督から名前が出て驚いていました。37歳という革命前を知らない監督が、王制時代の流行歌を使っていることにも驚いていました。
上映後のQ&Aで、「両親はなぜ長男を出国させようとしているのか?」という質問が出て、「イラン人からは出ない質問」と監督が答えていましたが、二人に「兵役から逃れたいから?」と尋ねたところ、そういうケースもあるけど、それだけじゃないと。
アリさんの隣の家も、家を売って長男を外国に行かせたそうです。アリさんたちは、イラン・イラク戦争に徴兵されて行ったあと、パスポートが貰えて、当時、ビザなしで入国することの出来た日本に来て、その後、それぞれ在留資格を得て日本で暮らしています。
イランに帰れば、広々とした家があるのに・・・


まとめ:景山咲子