京都フィルメックス2021

2020年の開催で第21回を迎えた、アジアの新進気鋭の作家が放つ渾身の作品が集う日本有数の国際映画祭〈東京フィルメックス〉のラインナップが、京都シネマ、京都みなみ会館、出町座の京都3劇場で特集上映されます。

現在、遠距離を行き来することもままならない状況が続くなか、京都の劇場3館が連携して取り組み、また全国のミニシアターを応援するべく映画俳優有志が集う「ミニシアターパーク」や、京阪神で映画館を応援する学生が集う「映画チア部」も協力し、上映だけにとどまらない企画が実施されます。
映画の未来を灯もす志で、多様性にあふれ個性を発揮する世界の映画表現を発見し続ける東京フィルメックスの魅力、ぜひこの機会に触れてください。ゲストを交えてのトークイベントなども随時開催予定です。


【開催日程】 2021年1月22日(金)~2月4日(木)

【会場】
出町座 1/22(金)~2/4(木)18時台(調整中)
京都みなみ会館 1/22(金)~1/28(木)14時台(調整中)
京都シネマ 1/29(金)~2/4(木)13:30頃(調整中)

主催:認定NPO法人東京フィルメックス
共催:シマフィルム
協力:京都シネマ、巖本金属、アテネ・フランセ文化センター、フーリエフィルムズ、MINI THEATER Park、映画チア部
https://t.co/SB0CJAmpnL

【上映ラインナップ】 14 作品、各作品 2 回上映予定。

【第 21 回東京フィルメックス コンペティション作品より】

『死ぬ間際』In Between Dying
【第 21 回東京フィルメックスコンペティション最優秀作品賞受賞】
監督:ヒラル・バイダロフ(Hiral BAYDAROV)
2020 年/アゼルバイジャン、メキシコ、アメリカ/88 分
タル・ベーラの薫陶を受けたアゼルバイジャンの新鋭ヒラル・バイダロフの長編劇映画第 2 作。行く先々で 死の影に追われる主人公の一日の旅を荒涼たる中央アジアの風景を背景に
描き、見る者に様々な謎を投げか ける。ヴェネチア映画祭コンペティションで上映。

10/30東京フィルメックス リモートQ&A
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478738883.html

『風が吹けば』Should the Wind Drop
2020 年/フランス・アルメニア・ベルギー/100 分
監督:ノラ・マルティロシャン(Nora MARTIROSYAN)
アルメニアとの国境に隣接し、アゼルバイジャンからの独立を主張するナゴルノカラバフ地区。戦争で破壊 され、停戦後に再建された空港を調査するために来訪したフランス人技師が見たものは……。「カンヌ 2020」に選出されたノラ・マルティロシャンの監督デビュー作。


『イエローキャット』Yellow Cat
2020 年/カザフスタン・フランス/90 分
監督:アディルハン・イェルジャノフ(Adilkhan YELZHANOV)
カザフスタンの草原地帯を舞台に、裏社会から足を洗って映画館を開こうとする前科者の主人公の苦闘をコ メディ・タッチで描いた作品。その多くが国際映画祭に選ばれている俊英アディルハン・イェルジャノフの 最新作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。


『迂闊(うかつ)な犯罪』Careless Crime
2020 年/イラン/134 分 監督:シャーラム・モクリ(Shahram MOKRI)
1979 年イスラム革命前夜、西欧文化を否定する暴徒によって多くの映画館が焼き討ちにされた。それから 40 年後、4 人の男たちが映画館の焼き討ちを計画する……。奇抜な発想を知的な構成で映画化したモクリ の監督第 4 作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。

11/2東京フィルメックス リモートQ&A
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478745700.html


『マイルストーン』Milestone
2020 年/インド/98 分
監督:アイヴァン・アイル(Ivan AYR)
北インドを舞台に、激しい腰痛に苦しみながら亡くなった妻の家族への賠償金のために働くベテランのト ラック運転手の苦悩を描く。デビュー作『ソニ』が高く評価されたアイヴァン・アイルの監督第 2 作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。

11/5 東京フィルメックス リモートQ&A
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478873142.html


『アスワン』Aswang
2019 年/フィリピン/85 分
監督:アリックス・アイン・アルンパク(Alyx Ayn ARUMPAC)
麻薬患者や売人をその場で射殺する権利を警察に与えたフィリピンのドゥテルテ政権。その政策の下で苦闘 する人々を追ったドキュメンタリー。題名はフィリピンの民間伝承に登場する妖怪の名からとられた。アム ステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で上映。


『無聲(むせい)』The Silent Forest
2020 年/台湾/104 分
監督:コー・チェンニエン(KO Chen-Nien)
聾唖学校に転校してきた少年がスクールバスである“ゲーム”を目撃する。それは彼がその後目にする残酷な 現実の序章に過ぎなかった……。台湾で実際に起こった事件を元にしたコー・チェンニエンの監督デビュー 作。台北映画祭でオープニング作品として上映された。


【第 21 回東京フィルメックス 特別招待作品より】

『海が青くなるまで泳ぐ』Swimming Out Till The Sea Turns Blue
2020 年/中国/111 分
監督:ジャ・ジャンクー(JIA Zhang-ke)
文学者たちへのインタビューを通して近代中国のこの 70 年の変遷を描いたドキュメンタリー。映画「活き る」の原作者として知られるユェ・ホァら世代の異なる 4 人の作家たちが自己の体験や中国の社会、文化に 対するそれぞれの見解を語る。ベルリン映画祭で上映。


『日子』Days
2020 年/台湾/127 分
監督:ツァイ・ミンリャン(TSAI Ming Liang)
郊外の瀟洒な住宅に暮らすカンは首の痛みをいやすために街に出てマッサージ師を呼ぶ。やがて一人の移民 労働者がカンが宿泊するホテルを訪れる……。対照的な境遇の二人の男の出会いを描いたツァイ・ミンリャ ンの最新作。ベルリン映画祭でテディ審査員賞を受賞。


『照射されたものたち』Irradiated
2020 年/フランス、カンボジア/88 分
監督:リティ・パン(Rithy PANH)
広島、長崎の原爆投下、ナチスのホロコースト、カンボジアのポル・ポト政権下の虐殺。人類史上の3つの 悲劇を大量の資料映像のモンタージュによって描いたリティ・パンの最新作。ベルリン映画祭コンペティ ションで上映され、最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞。


『平静』 The Calming
2020 年/中国/89 分 監督:ソン・ファン(SONG Fang)
『記憶が私を見る』で高い評価を受けたソン・ファンの監督第 2 作。東京から越後湯沢、香港へと旅する アーティストを主人公に、友人や家族との会話の中で自己の“平静”を取り戻してゆく女性を描く。チー・ シー、渡辺真起子が出演。ベルリン映画祭で国際アートシネマ連盟賞を受賞。


【特別関連上映】
『記憶が私を見る』 Memories Look at me
2012 年/中国/87 分 *
第 13 回東京フィルメックス コンペティション審査委員特別賞受賞
ソン・ファン監督自らが自身の家族と共に撮った長編第 1 作作品。彼女が南京に暮らす両親のもとを訪れる。 人々との会話の中、ファンの脳裏に過去の記憶が呼び起こされる。ソン・ファンは『ホウ・シャオシェンの レッド・バルーン』に出演した経歴もあり、若手作家を積極的にサポートするジャ・ジャンクーがプロ デューサーをつとめた。ロカルノ映画祭でワールド・プレミア上映され、最優秀新人監督賞を受賞。


【第 21 回東京フィルメックス 特集:エリア・スレイマン より】
『消えゆくものたちの年代記』Chronicle of a Disappearance
1996 年/パレスチナ/84 分
監督:エリア・スレイマン(Elia SULEIMAN)
ヴェネチア映画祭で最優秀新人監督賞を受賞し、スレイマンの国際的評価のきっかけとなった記念すべき長 編デビュー作。普通の人々の何気ない日常生活を点描的に描きつつ、政治や社会を鋭く風刺するその後のス レイマン作品のスタイルが既に確立されている。

『D.I.』Divine Intervention
2002 年/フランス、パレスチナ/92 分
監督:エリア・スレイマン(Elia SULEIMAN)
イスラエル領とパレスチナ自治区とに分断されたパレスチナ人カップルを主人公として中東問題を膨大な ギャグとユーモアを交えて描き、カンヌ映画祭で審査員賞と国際批評家連盟賞をダブル受賞したスレイマン の代表作。原題は「神の手」という意味であるという。

監督 エリア・スレイマン(Elia SULEIMAN)
1960 年 7 月 28 日ナザレに生まれたエリア・スレイマンは、1981 年から 1993 年までニューヨークで暮ら していた。この時期に、最初の短編 2 作品「Introduction to the End of an Argument」と「Homage by Assassination」を監督し、いずれの作品も数々の賞を受賞した。1994 年エルサレムに移り、欧州委員会か らの依頼でビルツァイト大学に映画メディア学部を設立する。長編デビュー作『消えゆくものたちの年代 記』は、1996 年のヴェネチア映画祭で最優秀初長編作品賞を受賞した。2002 年『D.I.』がカンヌ映画祭で 審査員賞、ローマで開催されたヨーロッパ映画賞で最優秀外国語映画賞を受賞。『時の彼方へ』は、2009 年のカンヌ映画祭コンペティション部門で上映された。2012 年には、オムニバス映画『セブン・デイズ・ イン・ハバナ』に参加し「初心者の日記/木曜日」を監督、作品はカンヌ映画祭ある視点部門で上映された。

【WEB】
第21回東京フィルメックス
https://filmex.jp/2020/

シマフィルム
http://shimafilms.com/

京都シネマ
https://www.kyotocinema.jp/

京都みなみ会館
https://kyoto-minamikaikan.jp/

ミニシアターパーク
http://minitheaterpark.net/

映画チア部(京都支部)
https://moviecheerkyoto.amebaownd.com/


東京フィルメックス クロージング作品『天国にちがいない』 リモートQ&A (咲)

tengoku.jpg

© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION


東京フィルメックス 特別招待作品 
クロージング作品

『天国にちがいない』 原題:It Must Be Heaven
監督:エリア・スレイマン(Elia SULEIMAN)
フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ / 2019 / 102分
配給:アルバトロスフィルム/クロックワークス
公式サイト:https://tengoku-chigainai.com/
★2021年1月29日( 金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開.

新作映画の企画を売り込むため、故郷ナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る映画監督。そんな中、思いがけず故郷との類似点を見つけてしまう。果たして本当の故郷はどこに…? 昨年のカンヌ映画祭でダブル受賞した名匠エリア・スレイマン10年ぶりの傑作。(公式サイトより)

*物語*
ナザレ。
映画監督のES(エリア・スレイマン)が自宅のテラスでくつろいでいると、隣人と名乗る男が悪びれもなく庭のレモンを取っている。声をかけたが、返事がなかったと。
墓参りの帰り、こん棒を持った青年たちに出会う。
車椅子など不要になったものを処分し、ESは旅に出る。

パリの町。
アジア系の男女に「ブリジットさん?」と聞かれる。
首を振ると、お辞儀する二人。日本人だった。
ノートルダム寺院、ルーブル美術館、どこも人がいない。
ホームレスの女性のあとを5人の警官が追う。
黒人の清掃人二人。缶を箒で飛ばして、側溝に入れて遊んでいる。

tengoku paris3.jpg

© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

戦車が町を行く。軍事パレードだった。花火があがる。
賑わうセーヌ川。
映画会社に企画を持ち込む。
「パレスチナ色が弱い」とフランス語で却下され、何も答えなかったら、英語で「言ったことはおわかりに?」と言われる。

夜のニューヨーク。
タクシーに乗り、運転手に「どこの国から?」と聞かれ、「ナザレ」と答える。
「それは国か?」と運転手。
「パレスチナ人だ」とES。
「パレスチナ人に初めて会った!」とはしゃぐ運転手。
「カラファトのだろ?(アラファトだよ!)ナザレはイエス様の故郷」

皆、大きな銃を持って歩いている。

紅葉が美しい公園。
天使の羽根を付けた女の子を追う警官たち。
バギーを押しながら運動する5人のママたち。

映画学校の講義やアラブ・フォーラムにゲストとして登壇するES。
なんとも居心地が悪い。

映画会社「メタ・フィルム」のロビーで、友人のガエル・ガルシア・ベルナルと一緒に人を待つES。
「パレスチナ出身でコメディを撮ってる。次の作品のテーマは中東の平和」とガエルがプロデューサーに紹介してくれるが、「もう笑えちゃう。またいつか」と、あっさり断られる。ガエルだけが中に入っていく

タロット占い。
「この先、パレスチナはあるのか?」
「必ずやある。ただし我々が生きているうちじゃない」

ナザレに帰ってくる。
オリーブの林。民族衣装の女性が頭に桶を載せている。
クラブで踊る人たち・・・

パレスチナに捧ぐ
父母を偲んで


今回のフィルメックスで、エリア・スレイマン監督特集が組まれ、長編デビュー作『消えゆくものたちの年代記』(1996年)を久しぶりに拝見することができました。
kieyuku.jpg

あれから、4半世紀近く。ご両親は天国に召され、エリア・スレイマンもずいぶん老けて、時の流れを感じました。
パレスチナの置かれた状況は、ますます悪くなっているのに、映画の企画を持ち込んでも却下され、誰にも関心を持ってもらえない現状を突き付けられた思いがしました。

冒頭、「たとえ神様が来ても開けない」という扉を、神父が裏から暴力的に押し入ります。パレスチナの地が蹂躙されていることを象徴したような幕開けです。
映画には、エリア・スレイマンらしいウィットに富んだ場面やエピソードが満載。
ナザレの老人が話す蛇の恩返しの話。
「ハゲタカが蛇を狙っていたので、ハゲタカを撃ったら、蛇がお礼のお辞儀を。
別の日、タイヤがパンク。蛇が空気を入れてパンパンにしてくれた」
情景が目に浮かび、可笑しくて忘れられません。
ニューヨークの公園で、バギーを押しながら運動する5人のママたちの姿も、目に焼き付いています。
そして、所在なく居心地悪そうにアラブ・フォーラムの壇上の隅っこに座るエリア・スレイマン監督。
故郷ナザレで、平穏に暮らせる日が監督の生きているうちに来ることを祈るばかりです。



◎東京フィルメックスでの上映&リモートQ&A
2020年11月7日(土)  17:20からの授賞式終了後 @有楽町朝日ホール

上映後、フランスにいるエリア・スレイマンと、リモートでQ&Aが行われました。

『天国にちがいない』Q&A(リモート)
DSCF4135.JPG

登壇:
エリア・スレイマン(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
動画 https://youtu.be/bxQbdL-v-S4
下記のうち、★印:動画にはない部分

市山: 前の作品『The Time That Remains(邦題『時の彼方へ』)』から10年。どれ位の期間をかけて準備をされて昨年完成されたのでしょうか?

監督:新しい脚本を手掛けるのに、いつも時間がかかります。生きて、観察して、経験をしたうえで、蓄積をメモに書き溜めて、脚本を書くためのヒントが満ちるまでに時間がかかるんです。私の働き方は時系列的に話が進むという脚本の書き方ではありません。例えば、画家のアトリエで200点くらい作品があって、常に何かしら手を加えているという形で進行しています。10年の間に、キューバでオムニバス映画(『セブン・デイズ・イン・ハバナ』2012年)を撮りました。私の映画のタイプは資金がかかるけど、商業的な回収は難しいです。

― パリで人が少なかったですが、理由があるのでしょうか? どのように撮影を?

監督:皆が聞くけれど、私自身、謎です。どうしてこういう状態が撮れたのか。ここは観光地で人が多いから、他の場所を選んでくださいと言われてました。黙示録的雰囲気の中で撮りたかったので、町の中心で撮ると自分の意思を曲げませんでした。実は、パリ市長オフィスのフィルムコミッションのような許可を出す係の方が私のやってることを理解してくれて、多大な協力をしてくれました。

― スズメが素晴らしい演技をしていますが、CGでしょうか? スズメの演技を待っていたのでしょうか?  

tengoku suzume.jpg

© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

監督:複雑な仕組みです。一部は3Dで作っています。一部はほんとうのスズメで撮っています。トレーナーが何か月もかけて、20羽をトレーニングして、そのうちの2羽を推薦してくれました。私の依頼した演技をそのうちの1羽がとてもうまく演じてくれたので採用しました。3Dよりリアルなスズメの方が扱いやすかったです。裏話をしますと、現実に基づいています。妻が家族を亡くした孤児のスズメを持ち帰って、置いていたら、私のパソコンにジャンプして乗っかってきたのです。それに触発されて入れた場面です。 

― 初期の作品で「I Put a Spell on You」の歌を使っていましたが、今回も別のシンガーのものを使っていました。この歌に思い入れがあるのでしょうか?

監督:いろいろ音楽を探したのですが、シーンに合うものを150曲くらいの中から、一番合うものを選びました。一番しっくりした曲だったから選んだのです。『D.I.』で使ったのはナターシャ・アトラスのキッチュな雰囲気でした。今回は違うバージョンにしました。

― 日本人が出てくるシーンがありましたが、なぜこのようなシーンを作られたのでしょうか?

監督:まさにあの場所で全く同じことが起きたので、これは絶対映画に入れなくてはと思いました。

― 日本で映画を撮りたいと思いませんか?

監督:私のセンチメンタルな箱を開けてしまいました。私はとても日本を愛してます。妻と2回訪れました。今も日本にいられたらと思います。そして撮りたいところです。お気に入りの国なので、どこにカメラを置いても私の好みぴったりな絵が撮れます。明日にでも呼んでくださったら行きたいです。マスタークラスや取材で何度も言っていて聞き飽きたと思いますが、私が映画を撮り始めたのは、小津監督がいたからです。日本に降り立って最初に小津監督のお墓参りをしました。

― キャスティングをいつもしているジュナ・スレイマンさんはドキュメンタリー作家でもあると思います。監督のご親戚でしょうか?

監督:私の姪です。はい、ドキュメンタリー作家でもあります。パレスチナだけで撮った時は、全面的にキャスティングを担当してくれました。今回は、3か所でしたので、パレスチナ部分を担当してくれました。

― 監督が演じる主人公は、いつも台詞がありません。これには理由があるのでしょうか?

監督:戦略的に自分が出て何も話さないと決めた訳じゃありません。短編を撮り始めたときから、自分で演じてこのようなスタイルでした。自分がカメラの前に立たなければいけないのはわかっていました。非常に個人的なことを綴っていますので。一般的に、私の作品はセミサイレント映画で、音に溢れているけれど、人の話す言葉は少ないです。好みとして、映像の最大の効果を狙うために、人の言葉を最小限にしています。人の言葉に頼らないで作りたいという思いがあります。

― イギリスの作家ジョン・バージャーへの献辞がありましたが、その方への思いは?  

監督:パリで偶然会ったのは、ものすごく前のまだ若い時で、将来何をしたいか決めてないときでした。何がしたいかと聞かれ、映画とぽろっと言いました。その意味を理解せずに伝えたのがきっかけでした。それ以降、彼は守護天使のように見守ってくれていて、彼の影響で本を読んで自分自身を見つめることを始めました。常に応援してくれていて、家族のような関係がずっと続いていました。クリスマスを家族ぐるみで一緒に過ごしたりしました。

― 森の中で遭遇する女性が頭の上に桶のようなものを載せてました。彼女は祈りをささげるような儀式をしていたのでしょうか?  

監督:私の古い記憶から描いたものです。私の生まれたナザレから10キロくらいのところのベドウィンの村から女性がヨーグルトをポットに入れて売りに来ていました。映画でご覧になっていたように、ポットを二つ持ってきていて、一つを置いて、また一つを取りにいってということを繰り返していたのです。このシーンは私の覚えているかつてのパレスチナの情景です。オリーブの林があって、女性がいてという、郷愁に基づいて作られたシーンです。

市山:今までになく、50を超える質問がきていますが最後の質問になってしまいました。何人の方からの質問を選びました。タイトルに込めた思いは? 天国はパレスチナのことと考えていいでしょうか?

監督:天国はパレスチナを指していません。世界全体がパレスチナ化していることを映画で描いています。主人公は天国を探して移動するのですが、世界中どこにも問題がある。グローバル化であったり、すぐに警察が稼働して、どこに行ってもチェックポイントがあるような状態です。天国は理想の場所で、皆が探し求めているのではないでしょうか。グローバル化で問題のない場所は結局ないということですね。

市山:いつか機会があればスレイマン監督を日本にお招きしたいと思います。新しい作品を近いうちに観れることを期待したいと思います。

まとめ:景山咲子




東京フィルメックス『マイルストーン』(インド) リモートQ&A  (咲)

mailestone.jpg

『マイルストーン』原題:Milestone
監督:アイヴァン・アイル(Ivan AYR)
インド / 2020 / 98分

北インドを舞台に、激しい腰痛に苦しみながら亡くなった妻の家族への賠償金のために働くベテランのトラック運転手の苦悩を描く。デビュー作『ソニ』が高く評価されたアイヴァン・アイルの監督第2作、ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。
(公式サイトより)
https://filmex.jp/2020/program/competition/fc5

*物語*
トラック運転手として経験の長いガーリブ。デリーにあるトラックセンターで待遇をめぐって荷物の積み込みを行う労働者がストに突入。ガーリブは自ら積み下ろしをしなくてはならず、腰を痛めてしまう。
さらに、ガーリブが頼りにしている相棒の運転手ディルバーグの夜目が利かなくなり辞めるという。トラックセンターの老社長や若社長から、絶大な信頼を置かれているガーリブは、若手育成を託される。若い運転手パーシュがトラックに同乗するようになるが、いつか自分の仕事を取られてしまうのではとガーリブは不安になる。
一方、2年前にやっと娶った妻が自殺してしまい、妻の実家のシッキムから父親と妹がやってきて、賠償金を支払えという。ガーリブは故郷の村落委員会に解決の仲介を頼む・・・

仕事場では、頼りの同僚は仕事ができなくなり、労働者のストもあって負担が重くのしかかっているのに、私生活でもやっと結婚した相手が自殺。散々な目にあっているガーリブの物語。デリーのガーリブの隣人はカシミール出身の家族。亡くなった妻は、ネパールやブータンにも近いシッキム出身。なぜこんな遠いところの人と結婚?という謎は、Q&Aで解けました。
シッキムには20年以上前に行ったことがあって、亡くなった妻の父親や妹の風貌が日本人にも似ているのを懐かしく思いました。監督のいるインド北西部のチャンディーガルにも行ったことがあって、ル・コルビュジエ設計の碁盤の目のような計画都市。インドらしくない無機質な町。こちらはシク教徒の多い地区。ガーリブという主人公の名前からムスリムかなと思っていたら、亡き妻の賠償金の調停のために帰った村は、どうみてもシク教徒の村。第一、ガーリブがムスリムなら結婚するときに婚資金の取り決めをしているはずなので、賠償金の額でもめることはないはず。そんなことを思っていたら、監督とのQ&Aで、ガーリブはシク教徒と判明しました。インド北西部のシク教徒の間で、ムスリムの名前を付けることはよくあることなのだそうです。


上映:
10月31日(土) 21:20- @ヒューマントラストシネマ有楽町 
11月5日(木) 12:50- @TOHOシネマズ シャンテ 

◎Q&A(リモート)
11月5日の『マイルストーン』上映後、監督とのQ&Aがリモートで行われました。
mailestone kantoku.jpg
登壇:
アイヴァン・アイル(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
動画:https://youtu.be/i1Ea8Ra9go8
下記のうち、★印:動画にはない部分

市山:インドのチャンディーガルにいる監督とZOOMで繋がっています。さっそくQ&Aを始めます。

監督:大変な時期だからこそ、皆さんが劇場で観てくださったのがなにより嬉しいです。自分もその場にいられたらと思います。日本で観ていただくのが夢でした。日本の巨匠たちから大変影響を受けましたので。

市山:なぜ長距離トラックの運転手を主人公にしたのでしょうか? 日々の生活を描いていますが、なぜこの職業の方を?

監督:まず、トラック運転手はどこにでもいますよね。資本主義を支えているのが運送業の人たち。でも気づいたのですが、移動しているけど、運転手自身は小さなトラックの世界に閉じ込められていて、実は彼らはどこにも行っていません。それは私たち皆にも当てはまることだと思います。自分の人生を操縦する主人公であるのにもかかわらず、小さなところから思うように動かない。その視点から作品を撮ることにしました。

Q:ファーストカットを長いシーンにしたのは? ワンカットにした理由を教えてください。

監督:私は自分の作品をカットのないシークエンスでよく始めます。最初に主人公のいる状況、時と空間をまず観て貰って、360度キャラクターの眼に入るものを観客に共有してもらう目的です。居場所や環境を観る人に確認してもらって、キャラクターの目線で世界を観て、そこから旅を始めるという導入です。

mailestone 3.jpg

Q:主人公はムスリムだと思いますが、シッキム出身の奥さんは仏教徒かクリスチャンでしょうか? 二人はどのようにして知り合って結婚したのでしょうか?

監督:主人公の名前はムスリムのものですが、シク教徒です。主人公のガーリブという名前は、インドの19世紀のムスリムの偉大な詩人からつけられています。北インドのシクの人たちは、ムスリム系の名前をよくつけます。
また、亡くなった妻をシッキム出身の女性にしたのは、リサーチでわかったことですが、運転手はなかなか結婚できなくて、仕事で行った先で結婚を持ちかけられ、金を払って妻を娶ることがあるそうです。この映画の主人公の場合はお金を払ったとは特定していませんが、仕事で行った先のシッキムで知り合ったという設定です。彼はクウェートで生まれ育って、その後インドに両親と戻ってきたけれど、よそ者。デリーでも馴染めない。北東のシッキムの人もインドに住んでいながら部外者意識を持っていて、共鳴しあったという設定です。

Q: ガーリブが詩人の名前と説明がありましたが、助手のパーシュも詩人の名前。なぜ二人に詩人の名前を付けたのですか?

監督:気が付いてくださって嬉しいです。インド外ではあまり知られていませんが、インド国内でも、映画を観てなかなか気づいてくれません。詩に触れる機会がないのです。映画の主人公たちも、日々自分の名の背景に気が付いてもらえません。インドの社会で、こういった名前が意味を持たなくなってしまったのは、詩や芸術に価値を見出せない。それを享受する余裕もなくて、生きるのに精一杯なのです。楽しいことを求めるけど、あまりにも困難で詩を書くこともなかなかない。私のペシミストな観方が二人に反映されています。

Q:主人公の腰の痛みが最後に取れ、今度は姉からの電話で若いパーシュが腰痛になったと知ります。監督にとっても腰痛は何かのメタファーなのでしょうか? 

監督:実は腰の痛みが取れるという発想は、映画を煮詰めている終わりのほうで自分に降ってきたものです。ストーリーとして意味はないのですが、こういう形で終えようと思いました。なぜ急に痛みが消えたのか? それが比喩だとしたら、一番近い答えは、ガーリブが罪の意識を克服できたからではないでしょうか。自分でもちゃんとした答えはないのですが。 

Q:ガーリブの部屋にダライ・ラマの写真がありました。奥さんが飾っていたものでしょうか?

監督:亡くなった奥さんの出身地シッキムの大多数は仏教徒で、仏教徒ではない人たちも、ダライ・ラマの写真を伝統的に飾ります。彼の家を仕切っていたのは奥さんだったということを示しています。

Q:日本の監督で特に影響を受けたのは?

監督:一番多くを学んだのは小津監督です。私の映画に対する考えを変えた偉大な監督です。最近では、市川崑の『野火』を観て、映画観が変わりました。黒沢明監督、鈴木清順監督。現役では、是枝監督、黒沢清監督。日本以外では、インドのサタジット・レイ、リッティク・ゴトク監督。ゴトク監督はサタジット・レイに比べると知名度は劣るのですが非常に才能に溢れた監督で影響を受けました。国外ですと、デビッド・リンチ、ジム・ジャームッシュ、イランのジャファール・パナヒと、挙げたらきりがないです。

市山:リッティク・ゴトク監督の特集をかなり以前にフィルメックスでしました。(2007年 第8回東京フィルメックス) しばらく観る機会がないので、また上映できればと思います。
もう時間がありませんので、これを最後の質問にしたいと思います。Q「今、インドで感じている閉塞感や問題点があれば教えてください」

監督:経済的に困窮していて、何を話してもそれがあまりにどこにも垂れこめていて、経済的不安定の中で必死になっています。短期契約の非正規雇用がコロナでどんどんなくなっています。誇張せずに、全くお金が無くなって、親元や兄弟に頼らざるをえなくてストレスを感じている人が多いです。文化、芸術、哲学、教育、健康などについて話す余地が全くないのが現状です。

P1310447 milestone.jpg
最後に皆さんに手を振って終了。

まとめ:景山咲子





東京フィルメックス 『迂闊(うかつ)な犯罪』 リモートQ&A

ukatsuna 2.jpg

『迂闊(うかつ)な犯罪』Careless Crim
イラン / 2020 / 139分
監督:シャーラム・モクリ(Shahram MOKRI)

1979年イスラム革命前夜、西欧文化を否定する暴徒によって多くの映画館が焼き討ちにされた。それから40年後、4人の男たちが映画館の焼き討ちを計画する……。奇抜な発想を知的な構成で映画化したモクリの監督第4作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。
(公式サイトより)

*物語*
映画館で、座席の列を増やす算段をする男たち。
500席を700席にした。さらに1000席にしたいとボス。
税金があがったらしく、詰めれるだけ詰めないとやっていけないとぼやく。

1979年2月のイラン革命成就の6か月前のこと。
アバダンの映画館レックス座が火事で焼け、400名以上が犠牲になる。
レックス座では、マスウード・キミヤーイー監督の『鹿』(1974年)を上映中だった。
客席が多かった
放火の疑いがある
発火したとき映写室に従業員がいなかった
鍵が閉まっていた・・・等々、取沙汰される。
革命家の仕業とされたが、王命だったという説も発表された。

一転して、現在のテヘラン。
映画博物館に薬を持っているという男を訪ねていく。
大きな被り物を被っていて、男の顔は見えない。

砂漠の泉のそばで『鹿』の上映会を開こうとしている女の子たち。
兵士たちが、このそばでミサイルが見つかったという。

新作映画『迂闊な犯罪』が上映される映画館での放火を企てている4人の男たちの姿が、時折、織り込まれながら映画は進む・・・

*****
10月30日夜の上映を観た友人たちが口を揃えて「疲れた」と言っていた作品。確かに、40年前と現在が複雑に入り込んでいるので疲れるのも、さもありなんと思いました。私は、11月2日(月)10時10分からの上映で拝見。くらくらしましたが、興味深い作品でした。上映後に、アメリカに滞在しているシャーラム・モクリ監督とリモートでQ&Aが行われ、いろいろな謎が解けました。
(それにしても、フィルメックスで上映される映画は、謎が多いです)
ちなみに、シャーラム・モクリ監督の作品『予兆の森で』を2014年のアジア・フォーカス福岡国際映画祭で観ましたが、ワンカットで撮りながら、複雑に入り込んだ作品でした。


◆『迂闊な犯罪』リモートQ&A
TOHOシネマズ シャンテ

P1310431 ukatsuna hanzai.JPG

*登壇*
監督:シャーラム・モクリ監督
司会:市山尚三さん(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん(ペルシア語)

動画URL https://youtu.be/grlbdFqRBBk
★印:動画にはない部分

市山:アメリカにいらっしゃる監督にQ&Aにご参加いただいております。

監督:劇場まで足を運んでいただきありがとうございます。劇場で映画を観ることが夢のようなことになっていますが、いつか皆さんと一緒に劇場に座って映画を観られるようになることを願っています

市山:映画の中に映画が出てくる複雑な構成で面白い映画でした。どのように思いつかれたのでしょうか?

監督:シネマ・イン・シネマのやり方が好きです。アッバス・キアロスタミ監督の『クローズ・アップ』や『オリーブの林をぬけて』も、そのような作りです。いつか試したいと思っていました。レックス劇場の放火は歴史的に有名な事件で、映画にしたいと思っていました。自分の世代はよく知っていますが、若い世代はあまり知りませんので、シネマ・イン・シネマの形で撮ってみようと思いました。
ukatsuna.jpg


市山:時間が螺旋のように繰り返すのは?

監督:レックス劇場の事件は、40年前。現在とどう語ればいいか考え、当時のキャラクターをどう今のテヘランに入れればいいか考えて、パズルのように現在と過去を繋ぎました。将来、こういうことが起きないようにと・・・

市山:感想で、異なる時代と場所が繋がっていく斬新な作品でしたといただいています。その方の質問です。
ミサイルが出てきましたが、これは実際の話でしょうか?

監督:イランイラク戦争の時に使われたミサイルや爆弾が爆発しないものがあちこちに残っていると聞いています。
最後のシーンで人形が空を見上げたらミサイルが飛んでいます。イランの周辺は、ミサイルが飛ぶかもしれない危険な地域です。話のルーツにはリアリティがあります。

Q:『迂闊な犯罪(Careless Crim)』というタイトルに込められた意味は?

監督:シネマレックスのことはとても重要です。事件について3つの説明がなされています。革命前の体制が政治的に見ていて、お互いのせいにしています。その日、ほんとは何が起きたのかをリサーチしました。政治的な意図でなく、ケアレスな犯罪だったという説が出てきました。映画の最初の方で、モノクロの無声映画を挿入しましたが、ケアレスな男が煙草をぽいっと捨てたために火事になる内容です。ケアレスな犯罪だったという調査結果を映画のタイトルにすればいいなと思いました。

Q:その挿入された映画は、元々ある無声映画なのでしょうか?

監督:もともとあるものです。ハロルド・ショーンがハリウッドで作ったものです。レックス劇場放火事件は、4人がレストランに行ったことなど、ほんとの話を入れました。

Q:「レックス劇場で上映されていたキミヤーイー監督の『鹿』は、今はイランでは観れないのでしょうか?

監督:革命後、公開許可が出てないのですが、アンダーグランドでは観れます。DVDも手に入ります。

市山:公開できない理由は内容の問題でしょうか? それとも手続き上の問題でしょうか?

監督:革命後、革命前の映画の公開が出来なくなったのは、内容よりも、女性の髪の毛が出ているとか、肌が出ているといったことが問題にされるからです。スーパースターが出ていて、革命後は活動していないという理由もあります。『鹿』は革命後数日だけ公開されましたが、その後、検閲で上映できなくなりました。

Q:光について教えてください。時々画面が白くなるのは、どんな効果を狙ったものですか?

監督:光について、撮影監督と相談して、3つのアイディアが出ました。
・劇場の中で感じる映写機の光
・炎を感じる明るさ
・さらに、キャラクターが混乱している時のライティングをどうしようと考えました。

Q:カメラは何台使ったのでしょうか?

監督:1台だけです。テクニックを変えたので、何台も使っているように見えたのだと思います。放火犯はカメラを手持ちで追っています。劇場の中は三脚を使いました。
泉のシーンは、クラシックな撮り方をしました。
素晴らしい質問をありがとうございました。

******

1978年8月9日のアバダンの映画館放火事件は、当時から反政府組織がやったという説と王政側がやったという説があって、いまだに不明。上映後のリモートQAで、監督が調べたところ、実は政治的なものでなく、色々な悪条件が重なって、ケアレスに火がついたという説もあって、それをモチ―フにしたとの説明がありました。
このレックス劇場の火事が、じわじわとくすぶっていた反政府運動に火がついて革命成就に至ったので、ほんとにケアレスなものだったとしたら、すごいことだなと思いました。

イランのイスラーム革命成就直後に作られたドキュメンタリー映画『自由のために』(原題:Barâ-ye âzâdi)について、下記スタッフ日記で紹介した中に、アバダンの映画館放火事件の真相が不明であることに言及しています。ご参考まで!
http://cinemajournal.seesaa.net/article/463646371.html

景山咲子




東京フィルメックス 最優秀作品賞『死ぬ間際』 リモートQ&A

sinumagiwa.jpg

『死ぬ間際』 In Between Dying
監督:ヒラル・バイダロフHilal BAYDAROV
アゼルバイジャン・メキシコ・アメリカ / 2020 / 88分

タル・ベーラの薫陶を受けたアゼルバイジャンの新鋭ヒラル・バイダロフの長編劇映画第2作。行く先々で死の影に追われる主人公の一日の旅を荒涼たる中央アジアの風景を背景に描き、見る者に様々な謎を投げかける。ヴェネチア映画祭コンペティションで上映。
(公式サイトより)

霧の中に立つ男。幻想的な幕開け。
青年ダヴドは麻薬密売の元締めの手下を殺してしまい、町を出てひたすら逃げる。そこで出会う女性たち。最初に逃げ込んだ家畜小屋では、父親に5年間も鎖に繋がれていた少女に助けられる。次には、アル中の暴力夫に悩む女性。夫に襲われたダヴドを助ける名目で夫を殺す。白いウェディングドレス姿で走ってきた女性をバイクに乗せる。兄に望まぬ結婚を強いられて逃げてきたが、結局兄に射殺されてしまう。そして、母親を埋葬しようとする盲目の少女・・・
行く先々で死に出会うダヴド。美しい自然の中で、台詞の代わりに詩が語られることが多く、なんとも不思議な独特の世界でした。


10月30日(金)15:50からの上映後、エジプト映画祭に参加中のヒラル・バイダロフ監督とリモートQ&Aが行われ、不思議世界の謎が少し解けました。

◆『死ぬ間際』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ

P1310418 ukatsuna.JPG

登壇:
ヒラル・バイダロフ監督
司会:市山尚三さん(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:松下由美さん

動画URL https://youtu.be/5404YA2zsZs
★印:動画にはない部分

市山:この映画を作ったきっかけをお伺いします。何かもとになったストーリーなどはあるのでしょうか?

監督:15年前、高校生の時に仏陀の人生のことを読みました。王族で父親が過保護で貧困や悪いものを見せませんでした。ある時、王宮を出た彼は病に侵された貧しい人々の現実を見てショックを受けて、二度と王宮に帰らないと決意します。その話はすっかり忘れていました。この映画を作ろうと思った時には、1日で偶然人生が変わる話を描きたいと考えました。青年は死と出会って、自分の闇の部分を自己発見します。家を出る決心もしないので、仏陀とは違うけれど、出発点は仏陀の話です。

Q 白馬は何を表しているのでしょうか?

監督:脚本には1行も書かれていません。美しい白い馬が偶然湖のそばにいたので、オーナーにお願いして撮らせてもらいました。
故郷のコーカサスの村で、白い馬を飼っていた子供時代のことが蘇りました。死んだ時にとても悲しくて泣き続けました。愛する父と母がいて自然があって馬がいるという子供時代のことを思い出して、この場面を入れました。
家族3人のシーンが出てきますが、主人公が求めている聖なるほんとの家族を象徴しています。

Q 男女の差別ついて、この作品の中でどう考えられたでしょうか?

監督:編集前に何を見せようと考えました。若い主人公ダウドの経験することを見せたかったのですが、編集前のものを母に見せたら、これはよくない、このまま見せちゃいけないといわれました。ちなみに母は最後の場面に出ています。自分でその後編集を重ねて、最終的にチャプターに分けました。盲目の女性、狂犬病の女性、湖の白い馬など。何を見せたかったかというと、男女間の差別より、愛を描きたかったのです。同じ人の別の側面を描いていることをご覧になって気づかれたかと思います。差別というより、違いがないことを描きたかったのです。愛の様々な側面を描いたといえます。

 イスラーム神秘主義スーフィズムにインスパイアされた作品と感じました。どれくらい意識をされたのでしょうか?

監督:スーフィズムに関するものは読みましたが、私の人生はほど遠いものです。教養として知っているのと、母の影響を強く受けて、母が引用してくれたものを取りいれています。小さな存在の私が語るにはスーフィズムは大きすぎます。映画でそれを見せようとは思っていません。でも、読みすぎたので、要素は表れているということはあると思います。
あと、ロシア文学のチェーホフや、イランの詩人などの影響も反映されていると思います。こういったものが私の魂を形作っています。

Q 霧や雨、降りしきる紅葉など自然物の演出が圧倒的だったのですが、どれくらい人為的に作ったのでしょうか? 自然の撮影にはどのような苦労があったのでしょうか?   

監督:アリガトー。良い質問! 数学、情報学を学んできて、科学的なものを信じてきましたが、映画は違う。直観に従って撮っています。詩的でなければ映画じゃない。雨、霧が出てきてくれて、自然に支えられて出来た映画です。出会ったものに触発されて撮りました。霧が出てきたら、詩を書いてダウドに渡して詠んでもらいました。湖があった時にも自分の直観に従いました。

Q アゼルバイジャンの映画事情は? また、タルベーラから薫陶を受けたそうですが、経緯を教えてください。

監督:小さな国で、周辺国も映画の歴史はありますが、ソ連から独立したあと、映画業界が崩壊して作れない時代がありました。今また若手も育って映画が作られるようになりました。次世代が育っています。
タルベーラ監督の『サタンタンゴ』『ニーチェの馬』などを観てショックを受けました。サラエボ・フィルムアカデミーをタルベーラ監督が主催すると知って、参加しなくてはと行きました。実はタルベーラと映画の話を直接できたことはあまりありません。サラエボで生活費を稼ぐためにあちこちでチェスをしていて、学校にあまり行かなくて、チェスを通して映画を学びんだと言っています。

Q ロケーションや土地の特徴に物語的意味がありましたら教えてください。

監督:映像にメッセージを込めることは信じていません。ロケ地から読み取れるものはありません。ダヴドが逃亡する場所ですが、私の住む近くだけでなく、アゼルバイジャンのあちこちで撮影しました。車で走ってここはいいなと思うと車を止めてカメラを出して撮りました。基準としては、私のインスピレーションを引き出してくれるところです。
落ち葉のシーンは、葉っぱを落とすようなテクノロジーは持っていません。直観に従って求めたところ、イメージtに合ういいところに出会えました。

sinumagiwa 2.jpg


市山:日本映画がとても好きで、ほんとは来日したかったとのことでした。また凄い作品を作られることと思いますので、次の機会にお呼びしたいと思います。

監督:ほんとにご覧くださってありがとうございます。日本の映画や巨匠に大いなる敬意を表しています。溝口監督や新藤兼人監督など巨匠の国にぜひ行きたい。次回は直接皆さんにお会いできればと思います。

授賞式でのヒラル・バイダロフ監督のメッセージは、こちらでご覧ください。
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/478502965.html

景山咲子


★オンライン配信で、12月6日まで視聴できます。
https://filmex.jp/2020/online2020