東京国際映画祭 イスラエル映画 『アルトマン・メソッド』 Q&A報告 (咲)

アジアの未来
『アルトマン・メソッド』
The Altman Method
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監督:ナダヴ・アロノヴィッツ
出演:マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク、ダナ・レラー
2022年/イスラエル/ヘブライ語/101分/カラー
作品公式サイト:https://www.shvilfilms.com/films/thealtmanmethod
TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3502ASF01

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©A.N Shvil Productions Ltd.

女優のノアは妊娠中。アパートの清掃をしている黒ずくめのアラブ女性に、床が濡れているので、きちんと綺麗にするよう注意する。そんな折、空手道場の経営不振にあえぐ夫ウリが、清掃員に成りすましていたテロリストを「制圧」したことが評判となり、道場は危機を脱する・・・


●Q&A
2022年10月31日(月)12:42からの上映後 

登壇ゲスト:ナダヴ・アロノヴィッツ(監督/脚本/プロデューサー/編集)、マーヤン・ウェインストック(女優)、ニル・バラク(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).通訳:松下由美

石坂:2回目のQ&Aです。
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ナダヴ・アロノヴィッツ監督:東京で1週間過ごして、わくわくする東京の日々です。初来日で、自分たちの文化と遠いと感じつつ、映画言語は普遍だと思います。

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マーヤン・ウェインストック:来日できて光栄です。2回目のQ&Aなのでリラックスできると思っていましたが、もっと緊張しています。監督に同意です。日本文化への理解が深まりました。日本人は静かですが、好奇心が旺盛で、知りたい気持ちが伝わってきます。

ニル・バラク:二人に同意です。食事が素晴らしい。ガソリンスタンドでも美味しいものが食べられました。人として繋がり、歓迎してくれているのが嬉しいです。

石坂:1回目のQ&Aで、武道は柔道や合気道など日本武道に精通していらっしゃるという話が出ました。空手を実際にされるのですか?
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ニル:イスラエルでとても空手はポピュラーです。5~10歳の子たちは、ほとんどが空手をやってます。柔道チャンピオンもいます。空手の道場にも指導者の姿を観に行ってみました。様々な流派があります。合気道は勝ち負けはありません。芸術的なものがあります。私が演じた夫は、勝ち負けに興味があります。白黒はっきりさせたい人物です。アート系は妻に任せています。

*会場からの質問*
―(男性)わくわくしながら観ました。驚いたのは、襲われる事件や、警官との証拠のやりとりの実際の場面は映されなくて、観客としては嘘かもしれないとも思わせられました。心理描写で引っ張っていく演技に工夫をされたのでしょうか?


監督:ありがとうございます。謙虚に受け止めます。観客に見せていない部分を埋めてもらおうと思いました。気持ちを掻き立てるものを用意しました。映画はノアの視点で描かれています。何が起きたかは、ノアは人から聞いて推測するしかないのです。ノアと一緒に旅をしてもらう形で描いています。2作目も、もっと観客に委ねる作り方をしたいと思っています。

マーヤン:とても素敵な質問をありがとうございます。監督から撮影は時系列には行わないので、何も考えずに状況に身を傾けてほしいと言われました。親友と一緒のシーンでは、愛する夫がいて、友がいるという気持ちで演じました。ストーリーのどこを撮っているのか考えたりもしました。けれども、監督からは共演している人とのことは、その場で感じて演じればいいと言われました。

― (女性)最後のガソリンスタンドで、彼にここが汚れているといくつか指摘するシーンですが、何か言いたいけれどやめようと。どういう気持ちだったのでしょうか?

監督:オープンに終わらせたかったのです。彼女は何か言いたいけど、男性の表情を見て、もう言わないでおこうと。言葉で言わなくても、映画は映像で伝えることができます。

マーヤン:彼の表情を期待せずに見て、わずかに距離が縮んだと思います。それまではパレスチナ人ということで、一個人として見てなかったのです。
夫が殺めた女性の夫に実際に会って交流できたことで、彼が笑っているのを見て、自分の道を歩み始めていると感じたのです。ノアはまだやっと自分の道を歩み始めたところです。これ以上何か言っては・・・と、やめたのです。

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夫が、清掃員を装ったテロリストのアラブ女性からナイフで刺されそうになったので、「制圧」したという場面は映されず、正当防衛だったと語る夫の言葉のみ。「制圧」したという場面を映像で見せなかったのは、この物語を妻の目線で描いたからと監督。なるほど!と納得でした。 それにしても、「アラブ人・パレスチナ人=テロリスト」が一人歩きする悲しさを感じました。妻ノアが真実を見抜いたことに救われた思いでした。

景山咲子



◆公式インタビュー
監督が本作を作った背景がよくわかります。ぜひご一読ください。
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60620

東京国際映画祭 『第三次世界大戦』 主演女優マーサ・ヘジャーズィさんインタビュー (咲)

コンペティション部門 審査委員特別賞
『第三次世界大戦』
原題:Jang-e Jahani Sevom 英題:World War III  
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監督:ホウマン・セイエディ
出演:モーセン・タナバンデ、マーサ・ヘジャーズィ、ネダ・ジェブレイリ
2022年/イラン/ペルシャ語/107分/カラー

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©Houman Seyedi

映画の撮影現場で日雇いで働いていた男シャキーブは、エキストラから、さらにヒトラー役に抜擢される。地震で妻子を亡くしたシャキーブにとって、唯一の慰みだった聾唖の売春婦ラーダンを、撮影現場のヒトラー邸に匿うことになる・・・
(★物語の詳細は、インタビューの後に掲載しています)

◎主演女優マーサ・ヘジャーズィさんインタビュー

10月31日(月) 18時25分からのQ&A付上映の前にお時間をいただきました。
(Q&Aは、末尾に掲載しています)
通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん

◆4か月かけて手話をマスター
― たまたま撮影現場で働いていたシャキーブが、いきなりエキストラとして強制収容所のユダヤ人になってガス室でシャワーを浴びせられ、さらにヒトラー役に抜擢されるという話に大笑いでした。 マーサさんは、どのようにしてラーダン役に選ばれたのでしょうか? 

マーサ:オーディションがありました。私の年齢位のあまり顔を知られていない役者を探しているとのことでした。最初は演じてみるというテストはなくて、監督といろいろ話しただけでした。やってくれれば嬉しいといわれました。

― 手話がもともとできたことが決め手だったのでしょうか?

マーサ: 手話はまったくできませんでした。人生の中で苦労したことは? といった質問を監督から受けました。 どれくらい役に近づけるかを確かめたかったのではないかと思います。 トレイナーのもとで手話を習い始めて、時々、監督が覗きにきました。 撮影の1週間前まで、やってもらうかどうかわからないと言われていましたが、それでもいいと手話を習い続けました。
(注: 監督から最初に貰った台本は、自分のパートだけのもので、セリフは書いてあって、実は手話だとは思わなかったと、この後のQ&Aで明かしています。)

― 言葉を発することができない役のご苦労は?

マーサ: 台詞なしで表現するのは難しいです。オーバーアクトにならないようにしました。手話を使っている人に見えないといけないので、少しでも近づけるよう、映画を観たり、実際に手話を使っている方に会ってみたりしました。身体のどこかが不自由だと、どこか別の場所が強くなるものだとわかりました。部屋の中でピアノを弾くシーンで、シャキープが先に外からの光に気が付くと台本に書いてありましたが、耳の聴こえない役の私の方が視覚が鋭くて、先に気が付くのではないかと監督に言って、変更してもらいました。

― ラーダンが隠れていた撮影セットのヒトラーの家が燃やされて、ラーダンの生死がわかりません。焼け跡からは彼女の腕輪が出てきました。 脚本を読まれた時に、どのような結末を予想しましたか?

マーサ:最初にもらったシナリオは、自分の出るパートだけでしたので、どうなるのかわからなくて、ドキドキしました。映画を観る方たちと同じように、生きていてほしいと思いました。ラーダンは彼を騙そうとしたのではなく、誠実な彼に惚れたのだと思います。


◆イランの撮影現場が垣間見れる映画
― 映画の撮影現場を映し出した映画で、イランではこういう風に映画を作るのだと興味深かったです。

マーサ: 撮影現場そのものですね。

― スタッフやキャストが一緒に食事をしている場面は、実際のもの?
 
マーサ:まさにそうです! 実際に、この映画のスタッフとキャストが一緒に食事をしている場面そのものです。ただ、エキストラが地べたに座って食事していたのは、監督の演出で、ほんとはエキストラの人たちも一緒にテーブルを囲んで食べていました。

― ロケ地は、茶畑がみえましたが、ギーラーン州でしょうか?

マーサ: 撮影をしたのはギーラーン州のフーマンです。

― フーマンといえば、クルーチェ(胡桃の入った焼き菓子)ですね! 友達がいて行ったことがあります。懐かしいです。

マーサ:映画に出てきたホテルに皆泊まっていました。私も懐かしいです。

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◆俳優でもあるセイエディ監督
― ヒトラーの話が終わったら、次は、サッダーム・フセインの話。世界には今も独裁者が次々に出ています。ホウマン・セイエディ監督は、ベネチアから帰ってきてパスポートを取り上げられたと聞いています。日本に来られなかった監督から、東京での上映にあたって、どんなメッセージを預かってきましたか?

マーサ:特にメッセージは託されませんでした。ただ、監督がパスポートを取り上げられたのは、ベネチアから戻ってきた時ではなくて、その後の抗議デモが始まってからのことです。 監督というのは独裁者になりがちですが、セイエディ監督は、穏やかな方です。

― ホウマン・セイエディ監督は、俳優としても活躍されています。マーサさんが出演された『The Pig』のマニ・ハギギ監督も俳優でもあります。マーサさんから見て、俳優経験のある監督の良い点は?

マーサ:演技経験のある監督の場合、ベテランの役者にとってはやりにくいこともあるのかもしれませんが、私は経験が浅いので、細かく演技指導してもらえてよかったです。
シャキープ役のタナバンデさんは、監督もしたことがあるので、セイエディ監督とどうだったのかわからないのですが、一緒のミーティングの時に、「この方がいいのでは?」と言った時に、受け入れられることもありました。


◆両親は医者になるのを期待していた
― マーサさんのインスタグラムにずっと女優になりたいと思っていたと書かれていました。いつごろから女優になりたいと思っていましたか?

マーサ:小さい時に女優になりたいと思ったけれど、実は勉強がすごくよく出来て、親は医者になってほしいと期待している雰囲気でした。高校を終える18歳頃まではすごく勉強しましたけれど、やっぱり女優になりたいと思って、演劇の塾に通い始めました。

― 憧れている女優さんは?

マーサ:メリル・ストリープです。


◆短編映画を製作中!
― 映画の中で、Neda Jebraeiliさんが演じていた助監督ザーレが、かっこよかったです。あのように、実際、女性も映画の現場で活躍している方が多いのでしょうか?

マーサ: はい、とてもたくさんいます。

― マーサさんも、いつか映画を作りたいと思っていますか?

マーサ:もちろんです! 実は脚本も書いたりしています。短編はいくつか具体的に準備しています。

― マーサさんの作った映画をいつか観られることを楽しみにしています。 今日はどうもありがとうございました。

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取材:景山咲子


*物語*  ロングバージョン
シャキーブは、地震で妻子を失い、知り合いの雑貨屋で寝泊まりして日雇いで暮らしている。時折、町外れの売春宿で聾唖のラーダンに相手をしてもらうのが、ささやかな楽しみだ。
ある日、日雇いの現場に行くと、泥まみれになりながら鉄条網を張ったり、小屋を作らされたりする。映画の撮影現場だった。電気もない小屋に泊まり込みで見張りをし、昼間は、雑用と厨房の手伝いをすることになる。
撮影現場で作業をしていると、いきなり囚人服を着ろと渡される。追い立てられて狭い部屋に入れられ、上からシャワーを浴びせられる。第二次世界大戦中の強制収容所のガス室だった! 
ヒトラー役が発作を起こし病院に運ばれる。シャキーブは監督からヒトラー役に抜擢される。髪を切り、髭を整え、メイクをして、シャキーブはヒトラーに変身する。セリフはあとから被せるから、1,2,3と数えていればいいと言われる。夜も、電気のつくヒトラーの赤い屋根の邸宅に泊まることになる。
そんな折、ラーダンから、売春宿でドラッグを打たれたので逃げ出したいと連絡が来る。近くの茶畑に迎えに行き、赤い家に案内する。昼間の撮影中、ラーダンは床下に隠れることにする。
売春宿のファルシードが訪ねてきて、ラーダンを知らないかと聞かれる。
否定するが、結局、匿っているのを知られ、1億5千万トマーンを要求される。
ラーダンから、金の腕輪を売って足しにしてと言われるが、シャキーブは断り、母が緊急手術することになったと、プロデューサーから前借する。ファルシードに金を渡しに行って戻ってくると、撮影現場から火が出ている。赤い邸宅を爆破している!!!
ラーダンに電話するが出ない・・・

シャキーブは、母親が聾唖だった為、手話ができます。地震で妻子を亡くしますが、その時に不在だったために義兄はシャキーブが妻子を置いて逃げたと思っていて、墓参りもさせてもらえないでいます。その寂しさを埋めてくれていたのが、ラーダンでした。
雑貨屋の友人からは、「知らない女と寝るような危険なとこに行くな。ばれたらあそこは放火される」と注意されます。「相手にするのは一人だけ」と答えるシャキーブ。
ラーダンも、手話で話せるシャキーブには心を開いている様子。
匿ってもらっているうちに、一緒に暮らしたい、子どもも欲しいというくらい、打ち解けていきます。シャキーブも若いラーダンからそう言われて、心の隙間が埋まっていく思いなのです。
赤い家のセットを燃やすことは言われたはずなのに、シャキーブは心ここにあらずで、聞きそびれていたのでした。 火をつける前に、家にいる者は出るように伝えたと言われますが、ラーダンは聞こえないのです。
けれども、売春宿のファルシードからは、ラーダンは売春宿に戻っている、お前は騙されたと言われます。さて、ラーダンは無事生きているのでしょうか・・・
(日本で公開されるかもしれないので、話はここまでで!)


◎Q&A
10月31日18時25分からの上映後

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登壇ゲスト:マーサ・ヘジャーズィ(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).
通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん

石坂:2回目のQ&Aです。

マーサ:コンバンハ。 サラーム! ここにいられることがとても嬉しいです。1回目は、観客の皆さんと一緒に映画を観れて嬉しかったです。今日は一緒にみられませんでしたが、今こうして一緒にいるのが嬉しいです。
監督から先ほどメッセージをいただきました。「東京国際映画祭に行って、皆さんと一緒に映画を観たかったのですが、自分の選んだ道ではなく、イランから出ることができなかったのです」

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ホウマン・セイエディ監督 ©Houman Seyedi


石坂:臨場感のある作品でした。手話の役作りはどのようにされましたか? また、台本はどのように渡されたのでしょうか? 

マーサ:監督から自分のパートの台本しか最初は貰っていませんでした。セリフは書いてあって、手話とは思いませんでした。本読みも何度か監督とやりました。途中から監督が少しずつ役について説明してくれて、手話だとわかりました。撮影前に4カ月、トレーナーについて手話を学びました。やっとすべてのセリフを手話でできるようになりました。

石坂:全体像は、最初はわからなくて、だんだんわかって理解するという、監督の演出方法だったのですね。

マーサ:まさにそうです。自分とシャキープのやりとりの部分しか貰ってなくて、外の世界がどうなっているか全く知りませんでした。最後の方になって脚本をもらって全体がわかりました。


◆会場より
―(男性)素晴らしい映画をありがとうございます。男ならではの質問ですが、髭を生やしているシャキープと、髭のないシャキープ、どちらが好きですか? 私にとって髭を剃るのはとても大変なのです。

マーサ:(笑う)シャキープにとっては髭を剃るのが大変だっただけじゃなくて、髭を剃ってしまい、ヒトラーのような古いスタイルの髭を付けなくてはいけないので、大変な役でした。

―(男性)この映画は非道徳的なテーマを取り扱っていると思うのですが、演技をするに当たって気をつけたことや、監督と話し合って、こういう方向性にしたいと考えたことはありましたか?

マーサ:撮影に入る前に監督とたくさん話しました。アンネ・フランクというユダヤ人をイメージしてくださいと言われました。ラーダンがどういう背景や考えをもっているのか? なぜ今の自分の生活から逃げたいのかを話してくれました。役柄を理解した上で、撮影が始まりました。もう一つ、セットがすべて出来て、撮影を始める前に、監督は「5分下さい」と言って、もう一度、私のキャラクターの深いところを話してくれて、お陰で心構えができました。

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―(男性) ポスターは映画の印象を裏切るもので、もだえ苦しむ感じしか受けません。そういう映画ではないので、日本で公開するなら、イメージが悪いので変えた方がいいと監督に伝えてください。
主人公は、女性の金のブレスレットを見て、錯乱状態で最後の行動に出るに至ったのでしょうか? 
大きな疑問が残るのは、綺麗な聾唖の若い女性が、3人でも4人でも子供を産んでもいいと言ってましたが、あのような中年の男性と合わないです。監督はどういう意図で二人を組み合わせたのでしょうか?


マーサ:(また笑う) ポスターのことは必ず監督に伝えます。
シャキープは家が燃えているのを見て、彼女があそこで死んでいると信じていたのですが、ブレスレットが最後の留めになりました。それで、行動に出たのです。
シャキープとラーダンが似合うかどうかですが、彼女は今の泥沼から出たいと、最初はシャキープを頼ろうとしただけだったのですが、だんだん、彼の優しさに惚れました。顔や姿は関係ないのです。

石坂:時間が来てしまいました。最後に一言お願いします。

マーサ: 皆さんともっと話したかったのに、時間が来てしまい残念です。映画について、もっとお話ししたかったのですが、ご質問やコメントは興味深いものでした。日本で公開できましたら、またその時に私だけでなく、ほかのキャストも来てお話しできれば嬉しいです。

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★会場の男性たちからの質問は、マーサさんも苦笑するしかないものでしたが、マーサさん、上手に交わして答えていました。
1回目のQ&Aの時にも、「イランの人たちは、ヒトラーを知っていますか?という質問が出て呆れたのよ」と、ショーレさんより聞かされていたのでした。 もっと撮影現場のことなどを話したいとおっしゃっていたのでした。



報告:景山咲子



公式インタビュー
イランの風刺劇『第三次世界大戦』、ろうあ役のヒロインは4カ月かけ手話習得
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60491



東京国際映画祭 トルコ映画『突然に』Q&A報告 (咲)

アジアの未来 『突然に』
原題:Aniden 英題:Suddenly 

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監督:メリサ・オネル
出演:デフネ・カヤラル、オネル・エルカン、シェリフ・エロル
2022年/トルコ/トルコ語/115分/カラー

*物語*
夫と一緒に30年ぶりにドイツのハンブルグからイスタンブルに帰ってきたレイハン。突然、嗅覚障害に襲われた彼女はショックを受け、海辺の昔暮らしていた町を訪れる。幼馴染の女性からムール貝を買うが、彼女はレイハンだと気が付かない。夫は、生のムール貝の匂いがよくて美味しいと言い、ハンブルグに帰りたくなくなりそうだという。
長い間、離れて暮らしていた母との確執は、なかなか解けない。レイハンは黙って母のもとを離れ、亡き祖母の遺した家に住み、ホテルで働き始める。そこで彼女は盲目の教師やホテルに長期滞在している人と知り合う。ようやく抑圧されていた気持ちを表に出せるようになる・・・

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イスタンブルの町がどんよりしていて、レイハンの気持ちを表しているようでした。
レイハンは足を引きずって歩いているのですが、その理由は、小さい頃のイスタンブルでの出来事にありました。かつて、アイススケートをしていたレイハン。てっきりアイススケートでの事故と思ったのですが違いました。

◆Q&A
10月26日(水)14:55からの上映後

登壇ゲスト:メリサ・オネル(監督/プロデューサー/脚本)、フェリデ・チチェキオウル(脚本)、メルイェム・ヤヴズ (撮影監督)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).

監督(メリサ・オネル):お招きくださり、ありがとうございます。チーム全員、興奮しています。トルコから遠く離れた地で、どのように受け取られたかを感じることができて嬉しいです。どのように心に届けることができるかを考えております。

脚本(フェリデ・チチェキオウル):日本にいながら、ホームベースから遠く離れた感じがしません。お互い議論し、互いを否定することもあれば違いを認めあうこともある形で映画を作りました。東京に来て、静かな形で皆様と繋がっている気がします。イスタンブルは賑やかでうるさい町です。ここ東京では静けさを感じて、ほっとしています。

撮影監督(メルイェム・ヤヴズ) :メルハバ。ここに来られて表現のしようがないほど嬉しく思っております。3年前に脚本を読んだ瞬間から、私の心に染み入るものがありました。一人の人間として撮影監督として携わることができて嬉しく思っております。

石坂:チームのほとんどが女性だそうですね。
(注:来日したのも女性3人ですが、女性の多い製作チームだったそうです。プロデューサーは産休で来られなかったとのこと。その他、アート・ディレクター、照明、助監督も女性)
『突然に』というタイトルは、どのような思を込めてつけたのですか?

監督:自分の人生を変えようと決心する時、計画を立てたわけでもなく、主人公は突然決心します。人生において、真実というのは、突然訪れるのではないかと思います。勇気のいることです。突然、ちゃんと生きようと決心します。このタイトルはどうだろうと相談しました。タイトルから重さを排除したかったのです。チームで話して、このタイトルでいいのではということになりました。


*会場から*
―(男性)美しくて、興味深い作品でした。音響にこだわられていました。環境音や生活音がとても気になりました。

監督:ありがとうございます。音響は映画の中でとても大切な部分だと考えて作りましたので、嬉しいコメントです。主人公がイスタンブルの町を歩きまわりながら、自分を探す物語です。私たちが懐かしく思うイスタンブルを描きたいと思いました。音を通してイスタンブルを知っていきます。イスタンブルに命を吹き込むにはビジュアルだけでなく音も大切だと思いました。感情を感じていただくのに音は大事です。ロケはトルコとドイツの両方で行いましたので、環境音も両方で録音する必要がありました。

―(女性)体験に一部重なるところがあって、映画を観ていい経験ができました。  
監督に伺います。主人公は事故にあって、ドイツとトルコに分かれて家族が暮らしています。トルコとドイツは関係が深いと思います。ドイツという場所、ドイツ語で吹き込んだ場面もありました。ドイツがこの作品にどのような効果を与えたのでしょうか?


監督:答えになるかどうかですが、レイハンは自分の記憶を嗅覚を通じて繋げようとします。嗅覚を失っていて、故郷を喪失したともいえます。自分の身体も失ってしまった感じなのです。ドイツが象徴するのは、自分を失ったほかの場所です。皆でドイツに行きましたが、母はドイツに父とレイハンを置いたまま帰りました。レイハンは、トルコに戻り、人生を取り戻そうとしますが、既に30年経っています。

脚本:映画には出てきませんが、皆で話し合ったことがあります。ドイツのような寒冷地にあるところでは匂いもあまりありません。イスタンブルから離れたレイハンは嗅覚を失ってしまいます。イスタンブルに戻って町と繋がろうとするのですが、うまくいきません。一度、故郷を去った者にとって、必ずしも故郷は待ってくれているところではありません。

―(男性)テーマになっている女性の心理は理解できているかどうか自信はないのですが、レイハンはどうなるのかはらはらしながら見ました。この物語は、いつ頃発想して、どれくらいの期間で書かれたのでしょうか? スケートのシーンが出てきたときに、スケートで傷害を起こしたのだと思ったのですが、そうではなかったことにも驚きました。

脚本:監督と3回目の仕事でした。共に旅をしている感じです。いろいろ探って、一歩ずつ共にストーリーを作っていきました。コロナの前でしたが、嗅覚を失うことを思いつきました。コープロデューサーにお会いしたら、急に嗅覚を失ったことがあるとお話しされました。そのころ、私がたまたま足を怪我をしていて、どこにも行けない状態でしたので、この物語を思いつきました。共に航海する形で作りました。 監督は映画を感じる人、私は言葉の人間で口数が多いです。

石坂:撮影監督としては、室内もあれば海辺もあります。撮影が大変だったと思うのですが、どんなところに気をつけられたのでしょうか?

撮影監督:シナリオを読んだ時に、ずいぶん旅することになると思いました。楽しいことで光栄でした。様々な音や色が出てきます。 ボートの場面から始まって一つの長い旅になると思いました。監督や撮影チームや俳優の皆さんと話し合うプロセスは素晴らしいものでした。レイハンが公園に行ったり、窓を開けたり、様々なドアを開けていく物語で、そのたびに自分も開けていく感じでした。いろいろなことがありました。音も重要でしたし、最後には嗅覚にたどりつきました。

報告:景山咲子


Q&A動画
https://youtu.be/eGNomSK2U24


◆公式インタビュー
「観ている人が、それまでずっと止めていた息を吐き出す表現ができればと」ーー第35回東京国際映画祭アジアの未来部門出品作品『突然に』メリサ・オネルイ監督、フェリデ・チチェキオウル(脚本)インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60542


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東京国際映画祭 『クローブとカーネーション』 Q&A報告 (咲) 

アジアの未来
『クローブとカーネーション』
原題:bir tutam karanfil  英題:Cloves & Carnations
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『葬送のカーネーション』のタイトルで公開されます!
2024年1月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBIS GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
公式サイト:https://cloves-carnations.com/


監督:ベキル・ビュルビュル Bekir Bülbül
出演:シャム・ゼイダンŞam Zeydan (少女ハリメ)
   デミル・パルスジャンDemir Parscan (おじいさんムサ) 

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©FilmCode

冬の南東アナトリア。
太鼓の音と銃の音。小雪の舞う中、白い馬に赤いベールの花嫁が乗っている。
踊る人たち。料理が振舞われる。
ラジオからは、「今朝、難民が国境を越えようとして亡くなった」というニュースが流れている。
年老いた難民の老人ムサは孫娘ハリメを連れ、亡き妻の遺体の入った質素な棺桶を引きながら国境をめざしている。
質素な棺を荷台からおろすムサ。手伝ってくれた人に「シュクラン」とアラビア語でお礼をいう。
孫娘ハリメはトルコ語が出来て、肝心な話の時には通訳してくれる。
孫娘と二人で棺を引いて荒れた大地を行く。
なかなか乗せてくれる車はない・・・  言葉の通じない地で、手助けしてくれる人もいる。
トラクターに乗せてもらう。
棺はまずいといわれ、ハリメはモスクから段ボールを貰ってきておばあさんを入れる。
国境近くまでいくというトラックに乗せてもらう。
ハヴァという老婆。「人生は短いの。死は別世界に行くこと」とハリメに語る
グローブの絵が描かれた箱に入ったキャンディをもらう。
ムサ キャンディを嬉しそうに口にする。
グローブは歯の痛みを和らげるのよといわれる。
国境近くのチェックポイントで捕まり、牢屋に入れられてしまう。
「死体は国境を越えられない」と言われ、ムサはここで死体を埋葬すると断念する。
アラビア語の書かれた緑の布に覆われた棺に入れた遺体を埋葬する。
ハリメ、おばあさんの墓に赤いカーネーションを添える。
故郷に埋めてあげたいと鉄条網の向こうを眺めるムサ・・・・

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©FilmCode


『クローブとカーネーション』Q&A
2022年10月28日(金)15:00からの上映後

登壇ゲスト:ベキル・ビュルビュル(監督/脚本/編集)、ハリル・カルダス(プロデューサー)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).
通訳:野中恵子さん

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石坂:初上映を観客席でご覧になりました。

監督(ベキル・ビュルビュル):メルハバ。とてもワクワクして興奮しています。世界の一つの端からやってきて、映画を共有することができ、とても嬉しいです。4年前に祖父を亡くしたことや、新聞で読んだことをもとに、妻と一緒に発展させて映画にしました。私の祖父もいつも生まれ故郷に行って死にたいと思っていました。私の最初に作ったドキュメンタリー『ブルグルの水車』も、老人と死に関するものでした。私の父も自分の土地に行って死にたいと言っていました。そうした老人たちの心の中の不安や心配を取り上げて、ストーリーを作り上げました。

プロデューサー(ハリル・カルダス):今日はワールドプレミアの私たちの映画をご覧いただきありがとうございました。

石坂:文化的背景、政治的背景、言葉がトルコ語と地元の言葉が出てきますので、そのあたりを簡単に教えてください。

監督:私たちの国には難民が多くいます。私たちの地区にも大勢いて、難民から見た物語を考えました。新聞で読んだニュースももとにしています。亡くなった親族を故郷に連れ帰りたいと行く途中で捕まってしまった方もいました。なぜ人々は自分の国や土地に戻りたいのか、その努力をなぜするのだろうか。元々のところに戻るために私たちはあるのだろうかと考えて、難民をベースにした物語を考えました。

石坂:シリア難民でしょうか?

監督:そうですが、シリア難民だけでなく、今、私たちの国には、アフガニスタン、ウクライナ、ロシアなどたくさんの難民の方がいます。それを明らかに示そうとしたわけではありません。政治的な材料にしようとは思っていませんでした。世界中の難民について、他の国でも同じことがいえるということをテーマにしたいと思ったのです。

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©FilmCode


*会場から*
―(男性)ラストに近いシーンで、警察に捕まっている時、少女がミルクをもらいますが、飲まずに落としてしまいました。印象的だったのですが、あのシーンの意味は?

監督:ミルクと子供は、二つとも純粋さの象徴です。世界中どこでも同じです。難民になって警察に捕まってしまうという状況では、純粋さが失われてしまいます。

―(女性)お棺を見続ける映画を初めて観ました。ロードムービーというとキラキラして未来があるのに、どうなるのだろうとドキドキしました。監督として、これだけは持って帰ってほしいというメッセージがありましたら教えてください。

監督:内面のことを問いただすことを考えて作り上げた映画でした。旅というのは自分の精神と一つになっているものです。私たちは母体から生まれ子どもになり、成長して老人となり、やがて亡くなります。その旅路でもあります。自分たちが持っている身体というのは、運ばなければならない義務があります。これをロードムービーに結び付けました。

―(男性)とても役者の表現が素晴らしかったです。キャスティングと現場でどのような演出を心がけていたのか教えてください。

プロデューサー:キャスティングには長い時間をかけました。とても大変でした。撮影前に撮影地区に行き、シリア人の難民を見つけました。他にも、いろいろな人物を見つけました。少女役のシャム・ゼイダンは、あの地区に住んでいるシリア人です。小学校でトルコ語を学んでいます。長い間、接してみて、彼女の俳優性も見出しました。おじいさん役は、マイナス20度のところで演じることのできる人を探すのが大変でした。デミル・パルスジャンさんは70代で、彼の手振りや、ちょっとした表情が素晴らしかったので、彼なら出来ると信じて採用しました。

石坂:本作は出来上がったばかりですが、彼らは完成作品をまだ観ていないのでしょうか?

監督:はい、まだです。

石坂:観る機会があるといいですね。

監督:トルコでのプレミアの時に観ることができると思っています。

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報告:景山咲子



東京国際映画祭 イラン映画『蝶の命は一日限り』モハッマドレザ・ワタンデュースト監督 Q&A報告(咲)

アジアの未来部門 作品賞受賞
『蝶の命は一日限り』
Butterflies Live Only One Day
[Parvaneha Faqat Yek Rouz Zendegi Mikonand]

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監督:モハッマドレザ・ワタンデュースト
出演:マンザル・ラシュガリ、マルヤム・ロスタミ、ネダ・ハビビ
(注:カタカナ表記は映画祭サイトに掲載のものです。
 ワタンデュースト監督は、ワタンドゥーストと表記した方が発音に近いと思います。)
78分カラーペルシャ語、マーザンダラーン語2022年イラン
作品公式サイト:http://vatandoust.art/

戦争の傷跡、老女の執念
イラン北部のダムに沈んだ村の近くで独り暮らす老女。イラン・イラク戦争で死んだ息子の墓はダム湖に浮かぶ小島にあるが、入島は禁じられている。意を決して彼女はある行動に出る。静かな長回しが印象的。(公式サイトより)

*物語*
湖。鳥の声。
「生きる場所は、すべて湖の底に沈んだ。でも、私はここに残った。あの子も寂しくない」と語る老いた女性。

視力検査をするおばあさん。視力が落ちている。
女医さんがこけて、視力検査の道具が散らばる。
1本の義足が投げ出される。戦争の置き土産。

殉教者の写真が並ぶ廊下。役所らしい。
おばあさんの陳情は今となっては無理と言われ、知事室への紹介状を渡される。

林の中の岩場を降り、ゴミ捨て場で鏡のかけらを拾ってくる。
壁に鏡を貼り、湖がいくつも鏡に映る。
「これで、あの子をいつでも見れる」とつぶやくおばあさん。

役所の階段をあがって途中で倒れる。
「なぜ上がってきたの? 受付に紹介状を見せればよかったのに」と言われる。
「あなたの件は、すでに国に報告している。上司も協力すると言ってる」

大きなダム。
ボートで島に渡りたいというが、「管理者として許可できない」と言われる。

元の村の隣人が訪ねてくる。
「あなたは村の誇り。13年も一人で立ち退きを拒んで、ここにいる。一人にしておけない。
皆、村を出たくなかったけど、移住した。あなたの家も建てた。春になったら、また戻ればいい。近くにいてくれれば、皆、安心する」

おばあさんが湖に入ろうとするところが鏡に映る

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こたつの上に食べ物や果物が並んでいる。
ダフにあわせて、手を叩きながら踊る。

ペットボトルで筏を作って湖に出るが溺れそうになる・・・
倒れたおばあさんに差し伸べる手

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島にある祠。
棺に寄り添うおばあさん
息子の墓。
湖ができることを政府から言われ許さなかった。
丘の上に埋葬することは、息子の遺言だったから。
1996年、ダムができることになり、ラフラク村は湖に沈む。
丘は島となって見えているが、島に入る許可は出ない・・・

20万人がイラン・イラク戦争で殉教。

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映画を観終わって、ロビーにショーレ・ゴルパリアンさん! そして、モハッマドレザ・ワタンデュースト監督もいらして、お話することができました。
緑の多い小高い山の雰囲気から、「マーザンダラーン州ですか?」とお聞きしたら、大当たり。監督の故郷の町サーリーの近くだそうです。サーリーには、20数年前に行ったことがあるとお伝えしたら、監督、嬉しそうになさっていました。

映画の最後に「亡き兄アリレザ(2021年没)に」とあったので、お伺いしたところ、去年、コロナで亡くなられたとのこと。この映画にも手助けしてくださっていたそうです。


◆1回目のQ&A
10月26日(水)21:10からのTOHOシネマズ シャンテ1での上映後
(YouTubeより抜粋)

監督:いつかインデペンデントな東京国際映画祭に来たいと思っていた夢が叶いました

石坂:実話からできた映画とのこと。100%実話なのか、映画的に場所など創作した部分もあるのでしょうか?

監督:ストーリーは現実に基づいていますが、夢の中で出てくる場面は創作です。
島は現実にあるものです。ただし、洞窟のようなところを歩く場面は映画のために創作したものです。
最初、新聞で読んだニュースは、「おばあさんが小さな船を作って息子に会いにいきます」という見出しでした。とても興味を持って、調べました。もともとドキュメンタリー映画の監督ですので。この話を映画にした方がいいと思いました。

*会場からの質問*
― (男性)撮影の手法が面白かったです。横にカメラがパンすると人がフレイムアウトして、次の人が入ってくる。

監督:クラシックな撮り方を望んでなくて、この映画も立ち位置を考えました。特別なフォームがストーリーに合わないといけないので、考えて実現させました。時間と一緒に流れていって、夢の中からリアリティに近づくようにしたかったのです。時間がカットなしで変わっていくように工夫しました。
二つ目に考えたのは、主役のおばあさん以外は顔を見せていません。主役だけが大事で、ほかの人は表情を見せなくてもいいと考えました。

― (女性)美しくて、悲しくて、エンディングでは涙が止まりませんでした。圧倒されました。タイトルの意味合いについて教えてください。

監督:脚本を書いていて、最後のシーンでお墓でたくさんの蝶々を飛ばそうと、実際にその場面を撮りました。あとから考えたら、この場面はいらないと決めました。脚本を書く時に調べたら、ある種の蝶々は一日しか生きてない。私たちも蝶々じゃないかと。生まれて飛んで飛んで人生が終わってしまう。まるで、一瞬、一日のよう。蝶々の場面はなくしましたが、タイトルに残して、私たちの人生も一日のように短いということを表しました。

― (男性)美しい映画で感動しました。ラストで長回ししていて、女優さんはかなりタフな方だと思いました。ほかの方は顔は出ないのですが、手だけで演技している方は役者さんでしょうか?
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監督:主役は、最初、有名な女優のゴラーブアディネさんにオファーしたのですが、コロナ禍で、ご自身の舞台と重なって無理だと言われました。撮影監督から、CMに出ている女優さんに会ってみませんかと言われ、会ってみたら、声や歩き方がイメージしていた通りだったので、その場でオファーしました。彼女は舞台役者でフランスのソルボンヌ大学を卒業しています。ロケ地のドキュメンタリー映像や、実際のおばあさんの映像を見せて、彼女に演じてもらいました。
書いた時には手は絶対自分でやると言っていたのですが、実際、監督しながら演技するのは不可能で、アートデザイナーが私がやってもいいですかというので、やらせてみたら、私の柔らかい手より、彼の手は百姓のようで、ぴったりで、彼のために書いた脚本のように思いました。


◆2回目のQ&A
10月28日(金)11:30からの丸の内TOEI Screen1での上映後
(景山咲子取材)

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石坂:監督、客席で一緒にご覧になっていました。

監督:2回、会場で一緒に観ることができました。

石坂:一回目のQ&Aの内容をお伝えしておきます。こだわりが二つあって、一つは長回し。現実と夢をスムーズに移行させています。母親以外は、手だけを映すことにより、母親を強調させています。タイトルですが蝶々は一日で死ぬ、人間の命もはかないことを表しています。最後に蝶々を飛ばす場面を撮ったのですがやめたとのことです。タイトルだけ充分に思いが伝わると。

会場より
― (男性)ユニークで、映像も凄い。場所が独特でしたが、場所ありきで脚本を書いたのでしょうか? シンメトリー的な表現も面白かった。

監督:長回しを使ったのは、一つのシーンで場所と時を移動させ、現実から夢に旅する感じで使いました。ロケ地は現実に基づいていて、実際に島のあるところで撮りました。写真家としてもいろいろな国で撮ってきましたので、ストーリーに合わせて使いました。お墓は実際、ダムを造る時に、住民の許可を得て場所を変えたのですが、遺言で丘の上にと言われていたので、おばあさんは移すことを許可しませんでした。ほかの方のお墓は移されています。

― 鏡が多用されています。
階段の上からとか、手と手が触れ合うなどユニークな撮り方でした。


監督:私のアイディアは、おばあさんも含め、一つのゴールに向けて闘っていくけれど、いろいろな障害にぶつかります。現実に手に入らないと、夢の中で目的にたどり着きます。蝋燭をもってお祈りすることで願いに近づきます。川にペットボトルが流れてきて、これでなんとか船を造って島に渡ろうとするけれど、溺れそうになります。
今まで、たくさん撮ってきましたが、ロングショットはロケーションと人の関係を表せます。キャラクターの詳細を見せたいときには、クローズアップを使います。ミディアムショットは中途半端なので使いません。

― 主役の女性が素晴らしかった。どのようにして見つけたのでしょう?
それまでの人生を表したような顔の表情が素晴らしかったです。台詞は、ほとんどありませんが、感情を感じました。

監督:今のイラン映画では、台詞の多いものが流行っているのですが、沈黙を大事にしたいと思っています。
主役の方は舞台の役者で、映画にはあまり出ていません。舞台の演出もされています。撮影した地域の出身なので、あの地域の服を着て、役に入り込んでくれました。あの地域の女性の気持ちを伝えてくれました。

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クロージングセレモニー

*アジアの未来部門 作品賞受賞を受けて
コンバンハ。アリガトウゴザイマス。
映画祭、審査員の方々に心からお礼を申し上げます。一緒に映画を作った皆さんにもお礼を申し上げます。
東京国際映画祭の方々に特にお礼を申し上げたい理由があります。
賞をいただくととてもインスパイアされるのですが、今は芸術性の高い映画は、ほかの映画祭になかなか招聘されません。東京国際映画祭がアート系の映画を大事にしてくれることは、とても私たちにとって心強いことです。
私たちは監督として一つの社会問題を映画という言語で表現することはとても重要だと思っています。この場を借りて、この賞をイランの強くて素晴らしい女性たちに捧げたいと思います。世界の平和、戦争のない社会を願って、私の言葉を終わります。

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左:アジアの未来 審査委員 ソーロス・スクム氏(タイ、プロデューサー) 右:モハッマドレザ・ワタンデュースト監督
撮影:宮崎暁美


*受賞者記者会見
― 見ていくごとにおばあさんの目的がわかっていく、そして美しい景色と愛に満ちた作品でした。最初から、このような構成にしようと思ったのでしょうか?

監督:その通りです。ワンラインで説明すると、シネマティックな魅力がなくなるので、少しずつサスペンスを入れて、島には何があるのかを徐々に描いていきました。サスペンスを入れなければ、ワンシーンで終わってしまう物語です。

― アジアの未来部門作品賞受賞、あらためて落ち着いてみて、どんなお気持ちでしょうか?

監督:二つ、説明しておきたいと思います。
私は9歳から舞台や映画でたくさんの賞を受賞してきました。作った作品で82回も受賞していますので、映画学校で教えているのですが、学生には賞をもらったらギフトだと思ってください。ギフトをもらったら自分の作った作品は正しかったと。お正月のお年玉のように、翌日に起きた時には、嬉しさが残るだけで、また日常に戻ります。もう一つ、日本の映画祭で賞をもらったことにはとても大きな意味があります。日本は、私たちから見ると、ファンタジアの国。憧れがあります。我々の文化はとても似ています。芸術、文学や詩、絵など、日本人と我々は奥深くでつながっていると思います。日本からいただいたことは意味があります。友達は私にもう少し商業的な映画を作った方がいいのではというのですが、私は自分の心から出てくるものを作りたい。賞をいただいて、自分の道は正しかったと思いました。

― サラーム。シャブベヘイル(こんばんは)。共同通信の加藤さん(ここからは日本語でと)
授賞式に登壇されたときに「強くて素晴らしいイランの女性たちに捧げたい」とおっしゃっていました。今、イランは大変なのかなと想像しているのですが、いろいろ工夫されたり、何か規制があるから芸術性が高くなるのかなと思っているのですが・・・


監督:とても鋭いご質問ありがとうございます。
イランの歴史をさかのぼってみると、文明的に優れた国で、女性の立場はとても大切でした。力をもっていて、決め事は女性がして、聖なる母に特別な場所を与えていました。歴史として心の中に今も持っているのですが、近代、まるで女性にカバーをかぶせたようになっています。けれども、イランの男性は、すべての力は、母や妻、女性たちからもらっていると思っています。女性の立場を理解しています。体制の都合で、家の中にいたりしますが。
もう一つ、検閲があったりすると、もっとクリエイティブになるかというご質問だと解釈しました。女性を自由に描けないときがあるのですが、表現の仕方を変えれば、私たちが考えている女性を描けると思います。検閲はいいことではないのですが、あると、表現の仕方を変えて確かにクリエイティブになると思います。クリエイティブな人は検閲は嫌いで、言われると反発します。


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モハッマドレザ・ワタンデュースト監督には、私にとっての東京国際映画祭初日の10月25日、一番最初に観た『蝶の命は一日限り』のP&I上映の後にお会いして以来、いくつかの映画の上映後にお会いしました。その度に、「今の映画どう思った?」と聞かれ、「よかったけど、もちろん、あなたの映画が一番!」と言い続けていたのでした。(お世辞じゃなく、本心です♪)
作品賞受賞、ほんとうにおめでとうございます!



報告:景山咲子