第35回東京国際映画祭(2022) クロージングセレモニー写真集

『ザ・ビースト』が東京グランプリ・最優秀監督賞・主演男優賞の3冠


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受賞者のみなさん


第35回東京国際映画祭 クロージングセレモニー 2022年11月2日(水)

10月24日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕した第35回東京国際映画祭。11月2日(水)に東京国際フォーラムにてクロージングセレモニー行われました。遅くなりましたが、その時の写真を各部門における各賞の発表・授与、登壇者のコメントともに掲載します。

第35回東京国際映画祭 各賞受賞作品・受賞者
コンペティション部門
★東京グランプリ/東京都知事賞
『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)
★審査員特別賞 『第三次世界大戦』(イラン)
★最優秀監督賞
 ロドリゴ・ソロゴイェン監督『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)
★最優秀女優賞
 アリン・クーペンハイム『1976』(チリ/アルゼンチン/カタール)
★最優秀男優賞
 ドゥニ・メノーシェ『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)
★最優秀芸術貢献賞 『孔雀の嘆き』(スリランカ/イタリア)

観客賞 『窓辺にて』(日本)

アジアの未来
★作品賞 『蝶の命は一日限り』(イラン)

AmazonPrimeVideoテイクワン賞 該当者なし

特別功労賞 野上照代


授賞式写真集

特別功労賞 野上照代
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スティーヴン・ウーリー(『生きる LIVING』プロデューサー)、安藤裕康チェアマンと
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野上照代さん:ありがとうございます。なんて言ったって95歳(2022年現在)ですからよくもったものです。私は映画が本当に好きだし、映画という表現をここまで続けてきてくれた色々な監督たちに感謝します。いろいろな表現があるけれど、やっぱり映画ほどリアルで具体的で真実に迫るものはない。やはり素晴らしい表現だと思います。ありがとうございました。
野上照代さんは、1950年黒澤明監督の『羅生門』にスクリプターとして参加。その後『生きる』以降の全黒澤作品に、記録、編集、制作助手として参加した。

Amazon Prime Video テイクワン賞 該当者なし

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プレゼンター行定勲監督:Amazon Prime Video テイクワン賞の今年の該当作品はありませんでした。私たちプロの立場であっても、映画の企画が生まれ完成するまでというのは奇跡的なものです。完成した作品より消えていった作品の方が多いのが現実です。このAmazon Prime Video テイクワン賞は新人監督に長編映画の企画を実現するチャンスを与えるという夢のような賞です。しかし、それに見合う実力、この人に獲らせたいという想いを今回のファイナリストの作品から見出すことが出来ませんでした。
審査会議では辛辣な意見が飛び交いました。「それぞれの作品には良さがある。しかしそれは世界に繋がっていない。15分という短編には強い作家性が込められるべきだが、それを感じられなかった。どの作品にもイメージの飛躍が我々の想像を超えるものではなかった」。しかし、今はまだ賞に値するものではないが、今回のファイナリストに残ったいつか評価される才能がこの中にいるのではないかと期待したいと思います。
ここ数年、さまざまな短編映画祭の審査委員を務めてきましたが、昨年のテイクワン賞のレベルには正直驚かされました。こんなにも才能のある作家がまだいるのかと。「実力はあるが商業ベースではない若手を見出す」、「世の中をもっと広く意識した作品を作ろう」とする才能をAmazonスタジオが支援をするテイクワン賞にふさわしいのは辛辣な意見を聞いてきた作り手であり、この賞はそれでも作り続けるという作り手にこれから手を差し伸べるべきだと思います。今回の結果を是非、来年のAmazon Prime Video テイクワン賞に繋げていただきたいと切に思います。来年は更なる飛躍をしていただいて、また若い人たちがどんどん応募してきていただけたらと思っています。

アジアの未来作品賞 『蝶の命は一日限り』
モハッマドレザ・ワタンデュースト監督(イラン)
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アジアの未来部門審査委員と共に 斉藤綾子、ソーロス・スクム、西澤彰弘
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モハッマドレザ・ワタンデュースト監督:この賞をいただき、とても感銘を受けています。今は芸術性の高い映画がいろいろな映画祭で賞を貰ったりしないので、東京国際映画祭は今でも芸術性を大事にする映画、芸術の言葉で一つの物語を語る映画を大事にしてくれることに、私たちは心強さを感じています。私たちは監督として一つの社会問題を、映画の言葉で表現することはとても重要なことであると信じてます。この場を借りて、この賞をイランの大変素晴らしい女性たちに捧げたいと思います。世界の平和、そして戦争がない平和を願って、スピーチを終わりたいと思います。

<コンペティション>
観客賞 『窓辺にて』今泉力哉監督


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今泉力哉監督:私の作品は個人的な本当に小さな悩みを題材に恋愛映画をずっと作り続けています。世界には戦争だったり、ジェンダーの問題だったり、さまざまな問題がある中で、私は小さな、本当に小さな取るに足らない悩みとか、個人的な問題を、恋愛を通じてコメディ的な笑いも含めて描こうと思って今まで作り続けています。映画に限らずですが、小説とかそういうものは大きな問題を取り上げてそれについて語るものとしての側面があるけれど、自分は主人公も受動的だったり、自ら行動できなかったりとか、見過ごされるような小さな問題について映画をずっと作り続けています。自分が映画を作ってきて、こうやってこの場に立っているのを嬉しく思いますし、今後も続けていければと思います。ネガティブに捉えるだけではなく、そこにある小さな喜びとか、そういうものを自分なりにできることを考えて行こうと思います。

最優秀芸術貢献賞『孔雀の嘆き』
サンジーワ・プシュパクマーラ監督(スリランカ/イタリア)

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『孔雀の嘆き』チーム
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サンジーワ・プシュパクマーラ監督:日本の政府・日本のみなさんに大変多くのサポートいただきましたことを心から感謝したいと思います。私たちが困難の間、皆さんから非常に強力なサポートを得ることができました。ありがとうございます。また、私の映画の源となりました妹、兄弟に感謝しています。この映画を全てのスリランカの人に捧げたいと思います。私たちは税金で教育を受けることが出来ました。私はこの映画そのものをスリランカの人々に捧げたいと思います。

最優秀男優賞 ドゥニ・メノーシェ
『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)

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2019年の観客賞『動物だけが知っている』ドミニク・モル監督の代わりにトロフィを受け取ったドゥニ・メノーシェさん
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ドゥニ・メノーシェさん:東京国際映画祭は大好きな映画祭です。賞をいただくことができて光栄です。日本が大好きで日本の文化を素晴らしく思っております。世界中が「日本的」だったらもっと住みやすくなるに違いありません。ですから受賞を大変喜ばしく思っております。残念ながら、今私はモントリオールにいます。また日本に行くことを楽しみしにしていて、いつか日本で映画を作ってみたいです。

最優秀女優賞 アリン・クーペンハイム
『1976』(チリ/アルゼンチン/カタール)

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アリン・クーペンハイムさん:このような素晴らしい賞をいただいて大変嬉しく驚くと共に、大変光栄に思っております。映画祭審査委員のみなさん、そしてこの役を私に託してくれたマヌエラ・マルテッリ監督、『1976』の素晴らしいチームの仲間たち、非のうちどころのない愛情に満ちたチームワークに改めてお礼を申し上げます。本当はみなさんと一緒に祝いたいのですが、私は文字通り地球の裏側にいます。とても遠いチリのサンティアゴからみなさんに暖かい抱擁を送ります。あなた方一人一人の幸運を祈ります。

代理でトロフィを受け取った『1976』のマヌエラ・マルテッリ監督
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私の作品を上映する機会を与えてくださった東京国際映画祭の皆さまに心から感謝しています。そしてまた、この素晴らしい日本という国、素晴らし日本の皆さまに心から感謝しています。実は10歳の時にこの主演のアリンさんにインタビューする機会があったんです。それで今、彼女がこの作品で賞を獲ったことにとても感激しています。

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プレゼンテーター シム・ウンギョン

審査員特別賞『第三次世界大戦』(イラン)
ホウマン・セイエディ監督 代理:出演女優マーサ・ヘジャーズィさん

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マーサ・ヘジャーズィさん:残念ながら監督がこの場に来られなかったので、代わりにメッセージを読ませていただきます。日本のために、そして私の幻想のために。この世界は山であり、私たちの行動は呼びかけである。呼びかけは声として入ってくる、声には呼吸がないが、声は聞くことができる。私の声はあなたの元に届くでしょう。私は今、この瞬間みなさんと一緒にいることができません。それは私が望まなかったからではなく、そうせざる得なかったからです。けれど私の声はそこにあります。あなた方と一緒にいられなかったこと、あなた方の文化や伝統に触れられなかったことが、とても悲しいです。しかし私は何年も前からみなさんの声を聞いているのです。俳句を読む度に、村上春樹やカズオ・イシグロの本を開く度に、黒澤映画をみる度に。私は皆さんのことをよく知っています。そしてもうすぐ皆さんに会いに飛んでいきます。世界平和を願い、日本のみなさんに会えることを願い、私たちを受け入れてくれたことに深く感謝の気持ちをお送りします。”

最優秀監督賞 ロドリゴ・ソロゴイェン監督
『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)

コンペティション部門東京 グランプリ/東京都知事賞
『ザ・ビースト』


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ロドリゴ・ソロゴイェン監督:最優秀監督賞と、東京グランプリ/東京都知事賞の2つの賞をいただき本当に嬉しいです。心より光栄に思います。授賞式に参加できないのは残念ですが、『ザ・ビースト』や映画祭、そして素晴らしい東京という街を楽しんでいただければと思います。どうか皆様、良い夜を。

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左から小池百合子東京都知事、ロドリゴ・ソロゴイェン監督に代わって登壇したアルベルト・カレロ・ルゴ ラテン・ビート映画祭プログラミングディレクター、ジュリー・テイモア審査員長。

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スペシャルプレゼンター小池百合子東京都知事:今年のコンペティション部門は107の国と地域から、1695本の応募がありました。毎年数多くの新しい才能がここ東京から世界へ羽ばたいていることを大変うれしく思います。映画には人々の心を繋げる大きな力があります。この映画祭を通じて相手の個性や考えを尊重し一人ひとりの夢、希望が育まれることを期待しています。

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ジュリー・テイモ審査委員長:『ザ・ビースト』は音楽、撮影、物語、脚本、役者、そして演出も本当にすべてに感動したし、心を動かされるこれこそまさに「映画」だと感じさせてくれる作品でした。最後まで競っていた『第三次世界大戦』は本当にワイルドで、『パラサイト半地下の家族』や『ゲット・アウト』やチャップリンの『独裁者』のような映画で、本当にショックを受けましたし驚かされました。イランでホロコーストの映画が撮影されていて、現場の作業員が無理やり収容所のエキストラにさせられていたり、主人公の男性が困難な状況にある中でヒトラーにさせられたり非常に珍しい映画。ぜひ2本とも配給されてほしいと願っています。私たちは馴染のあるものに慣れてしまっている傾向があるけど、それは問題だと思います。そうではなく自分ではない他の人の人生を経験し歩むことで自分を豊かにしてくれるのが映画だと思います。

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安藤裕康映画祭チェアマン:映画祭の来場者が昨年の倍以上になったことを来場者に報告。いろいろな場所でイベントを実施し、映画祭としての存在感、華やかさを表すことができたのではないかと思います。今、日本は国力が弱くなっているのではないかとか、自信をなくしていると言われたりしますが、私は芸術文化に関する限り、まだまだ日本は世界で勝負できると思っております。東京国際映画祭は、映画を通じて世界との架け橋になりたい。これからも飛躍していきたいと締めくくった。

第 35 回東京国際映画祭
開催期間:2022 年 10 月 24 日(月)~11 月 2 日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:www.tiff-jp.net

第35回東京国際映画祭 動員数 <速報値・2日は見込み動員数>
■上映動員数/上映作品本数:59,414人/169本*10日間
(第34回:29,414人/126本*10日間)
■上映本作品における女性監督の比率(男女共同監督作品含む):14.8% (169本中25本)
■その他リアルイベント動員数:50,842人
■ゲスト登壇イベント本数:157件 (昨年:65件、241.5%増)
■海外ゲスト数:104人 (昨年:8人、1300%増)
■共催提携企画動員数:約20,000人

クロージング作品 『生きる LIVING』

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スティーヴン・ウーリープロデューサー

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脚本のカズオ・イシグロとオリヴァー・ハーマナス監督

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主演のビル・ナイ

黒澤明の不朽の名作『生きる』が第二次世界大戦後のイギリスを舞台に蘇る。主演はビル・ナイ。脚本はノーベル賞作家のカズオ・イシグロ。監督はオリヴァー・ハーマナス
103分カラー英語日本語字幕2022年イギリス東宝株式会社

まとめ・写真 宮崎暁美

東京国際映画祭 キルギス『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督Q&A報告 (咲)

コンペティション
『This Is What I Remember(英題)』
原題:Esimde
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監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾバ
2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス/キルギス語、アラビア語/105分/カラー

キルギスの村。クバトは、ロシアに出稼ぎに行き20年間行方不明になっていた父ザールクを見つけて連れ帰る。父はロシアにいる間に記憶を失っていた。母は夫が亡くなったと思って、村のほかの男と再婚している。クバトは父を村のあちこちに連れていくが、記憶は戻らない・・・

『馬を放つ』(17)で知られるキルギスを代表する映画作家アクタン・アリム・クバトの最新作。

TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP14


●Q&A
2022年10月27日(木)18:30からの上映後-
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登壇ゲスト:アクタン・アリム・クバト(監督/脚本)
司会:市山尚三(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)

アクタン・アリム・クバト監督:まずは映画祭の方々に、この映画を観ていただく機会を与えてくださったことに感謝します。ワールドプレミアで、初めて上映されました。ビターズ・エンド代表の定井勇二さんのお陰で、製作から配給まで可能になりました。心から感謝しています。

市山:ロシアに出稼ぎに行って起こる物語。よくあることなのでしょうか?

監督:個人のストーリーをネットで読んで、2~3年経ってからそれをもとに映画を作りました。キルギスの人がロシアに出稼ぎに行って帰ってきたけれど記憶を無くしていたという個人の実話に、周囲の人たちの話を空想で付け加えています。

市山:モデルになった方は、記憶を取り戻したのでしょうか?

監督:観客の皆さんに私も聞きたいことです。我々は皆、記憶を取り戻したいと思っていると思います。皆さんはどう思いますか?


*会場からの質問*

―(男性)監督のデビュー作『あの娘と自転車に乗って』を、確か渋谷で拝見しました。続編か後日談のように思えました。

監督:スパシーバ(ありがとうございます)。続編と捉えていただき、ありがとうございます。これまで作ってきた映画は、子どものころ、私自身の人生を描いてきました。この映画ですべてを集めて語ろうと思いました。前の6本も、同じロケーションです。俳優も同じ人もいます。主人公ザールクという息子を演じたミルラン・アブディカリコフは、私のほんとの息子です。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

―(男性・英語で)主人公の住む村のコミュニティと、イスラームの導師たちとの考え方の違うように感じました。敬虔な人と、そうでもない人がいるのでしょうか?

監督:私の経験したイスラームは、地元の伝統に結び付いていました。現代のイスラームは暴力的になって、伝統と食い違うことが多いように感じます。伝統を大事にしたい人たちは、イスラームを信じているのですが、心の一部には、伝統的なテングクの気持ちが残っています。私自身、信仰に反対ではなくて、アラビア風のイスラームには抵抗を感じています。その考えを主人公の一人である女性を通じて表そうと思いました。
彼女は夫が亡くなったと思って再婚しているので、イスラームの教えでは元夫のもとに行くことはできないのですが、最後には自分を取り戻して元夫のもとに行きます。
イスラームでは、神様にアラビア語で呼びかけます。私の考えでは、神様との繋がりは、自分の言葉(キルギス語)でしたいと思っています。

― (男性)主人公を追いかけて橋まで行く姿をカメラが追っているのは意図的?
また、息子のTシャツの7番には意味があるのでしょうか?


監督:カメラはいつも動いていて、カットせずに回しています。すべて手持ちカメラです。
7番というのは、キルギス語の諺に、「7人の人は皆、聖人」という言葉があります。主因河野息子は、自分の父と同じ価値があるという意味を込めています。息子はサッカーをやっているので、好きなサッカー選手の背番号が7番かなと思います。

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******☆★☆*******


イスラームが起こったサウジアラビアでの厳格な解釈ではなく、伝播した地では、それぞれの伝統を大事にした形でのイスラームでいいという監督の考えを知ることのできたQ&Aでした。イスラームを過激に解釈する人たちの姿が、イスラームのイメージを悪くしている状況を憂いているのだと感じました。クバト監督のこれまでの作品にも、そのことを描いた場面があったのを思い出しました。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

元妻は同じ村の男と再婚していて、夫が帰ってきたことを内心喜ぶのですが、ザールクは記憶を失っていて、自分の妻のことも思い出せないのです。(再婚しているので、かえって幸い?) あることがザールクの記憶を呼び戻しそうなラストに、ほろっとさせられました。
本作は、ビターズ・エンド様の配給で公開されることと思います。もう一度、ゆっくり拝見して、監督の思いを味わいたいと思います。

景山咲子



◆TIFF公式インタビュー
「今のキルギス人は家族や環境に対する考え方が変わってしまった。理性をもって物事に向き合ってほしいと。」
第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60671



東京国際映画祭 イスラエル映画 『アルトマン・メソッド』 Q&A報告 (咲)

アジアの未来
『アルトマン・メソッド』
The Altman Method
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監督:ナダヴ・アロノヴィッツ
出演:マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク、ダナ・レラー
2022年/イスラエル/ヘブライ語/101分/カラー
作品公式サイト:https://www.shvilfilms.com/films/thealtmanmethod
TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3502ASF01

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©A.N Shvil Productions Ltd.

女優のノアは妊娠中。アパートの清掃をしている黒ずくめのアラブ女性に、床が濡れているので、きちんと綺麗にするよう注意する。そんな折、空手道場の経営不振にあえぐ夫ウリが、清掃員に成りすましていたテロリストを「制圧」したことが評判となり、道場は危機を脱する・・・


●Q&A
2022年10月31日(月)12:42からの上映後 

登壇ゲスト:ナダヴ・アロノヴィッツ(監督/脚本/プロデューサー/編集)、マーヤン・ウェインストック(女優)、ニル・バラク(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).通訳:松下由美

石坂:2回目のQ&Aです。
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ナダヴ・アロノヴィッツ監督:東京で1週間過ごして、わくわくする東京の日々です。初来日で、自分たちの文化と遠いと感じつつ、映画言語は普遍だと思います。

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マーヤン・ウェインストック:来日できて光栄です。2回目のQ&Aなのでリラックスできると思っていましたが、もっと緊張しています。監督に同意です。日本文化への理解が深まりました。日本人は静かですが、好奇心が旺盛で、知りたい気持ちが伝わってきます。

ニル・バラク:二人に同意です。食事が素晴らしい。ガソリンスタンドでも美味しいものが食べられました。人として繋がり、歓迎してくれているのが嬉しいです。

石坂:1回目のQ&Aで、武道は柔道や合気道など日本武道に精通していらっしゃるという話が出ました。空手を実際にされるのですか?
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ニル:イスラエルでとても空手はポピュラーです。5~10歳の子たちは、ほとんどが空手をやってます。柔道チャンピオンもいます。空手の道場にも指導者の姿を観に行ってみました。様々な流派があります。合気道は勝ち負けはありません。芸術的なものがあります。私が演じた夫は、勝ち負けに興味があります。白黒はっきりさせたい人物です。アート系は妻に任せています。

*会場からの質問*
―(男性)わくわくしながら観ました。驚いたのは、襲われる事件や、警官との証拠のやりとりの実際の場面は映されなくて、観客としては嘘かもしれないとも思わせられました。心理描写で引っ張っていく演技に工夫をされたのでしょうか?


監督:ありがとうございます。謙虚に受け止めます。観客に見せていない部分を埋めてもらおうと思いました。気持ちを掻き立てるものを用意しました。映画はノアの視点で描かれています。何が起きたかは、ノアは人から聞いて推測するしかないのです。ノアと一緒に旅をしてもらう形で描いています。2作目も、もっと観客に委ねる作り方をしたいと思っています。

マーヤン:とても素敵な質問をありがとうございます。監督から撮影は時系列には行わないので、何も考えずに状況に身を傾けてほしいと言われました。親友と一緒のシーンでは、愛する夫がいて、友がいるという気持ちで演じました。ストーリーのどこを撮っているのか考えたりもしました。けれども、監督からは共演している人とのことは、その場で感じて演じればいいと言われました。

― (女性)最後のガソリンスタンドで、彼にここが汚れているといくつか指摘するシーンですが、何か言いたいけれどやめようと。どういう気持ちだったのでしょうか?

監督:オープンに終わらせたかったのです。彼女は何か言いたいけど、男性の表情を見て、もう言わないでおこうと。言葉で言わなくても、映画は映像で伝えることができます。

マーヤン:彼の表情を期待せずに見て、わずかに距離が縮んだと思います。それまではパレスチナ人ということで、一個人として見てなかったのです。
夫が殺めた女性の夫に実際に会って交流できたことで、彼が笑っているのを見て、自分の道を歩み始めていると感じたのです。ノアはまだやっと自分の道を歩み始めたところです。これ以上何か言っては・・・と、やめたのです。

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********

夫が、清掃員を装ったテロリストのアラブ女性からナイフで刺されそうになったので、「制圧」したという場面は映されず、正当防衛だったと語る夫の言葉のみ。「制圧」したという場面を映像で見せなかったのは、この物語を妻の目線で描いたからと監督。なるほど!と納得でした。 それにしても、「アラブ人・パレスチナ人=テロリスト」が一人歩きする悲しさを感じました。妻ノアが真実を見抜いたことに救われた思いでした。

景山咲子



◆公式インタビュー
監督が本作を作った背景がよくわかります。ぜひご一読ください。
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60620

東京国際映画祭 『第三次世界大戦』 主演女優マーサ・ヘジャーズィさんインタビュー (咲)

コンペティション部門 審査委員特別賞
『第三次世界大戦』
原題:Jang-e Jahani Sevom 英題:World War III  
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監督:ホウマン・セイエディ
出演:モーセン・タナバンデ、マーサ・ヘジャーズィ、ネダ・ジェブレイリ
2022年/イラン/ペルシャ語/107分/カラー

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©Houman Seyedi

映画の撮影現場で日雇いで働いていた男シャキーブは、エキストラから、さらにヒトラー役に抜擢される。地震で妻子を亡くしたシャキーブにとって、唯一の慰みだった聾唖の売春婦ラーダンを、撮影現場のヒトラー邸に匿うことになる・・・
(★物語の詳細は、インタビューの後に掲載しています)

◎主演女優マーサ・ヘジャーズィさんインタビュー

10月31日(月) 18時25分からのQ&A付上映の前にお時間をいただきました。
(Q&Aは、末尾に掲載しています)
通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん

◆4か月かけて手話をマスター
― たまたま撮影現場で働いていたシャキーブが、いきなりエキストラとして強制収容所のユダヤ人になってガス室でシャワーを浴びせられ、さらにヒトラー役に抜擢されるという話に大笑いでした。 マーサさんは、どのようにしてラーダン役に選ばれたのでしょうか? 

マーサ:オーディションがありました。私の年齢位のあまり顔を知られていない役者を探しているとのことでした。最初は演じてみるというテストはなくて、監督といろいろ話しただけでした。やってくれれば嬉しいといわれました。

― 手話がもともとできたことが決め手だったのでしょうか?

マーサ: 手話はまったくできませんでした。人生の中で苦労したことは? といった質問を監督から受けました。 どれくらい役に近づけるかを確かめたかったのではないかと思います。 トレイナーのもとで手話を習い始めて、時々、監督が覗きにきました。 撮影の1週間前まで、やってもらうかどうかわからないと言われていましたが、それでもいいと手話を習い続けました。
(注: 監督から最初に貰った台本は、自分のパートだけのもので、セリフは書いてあって、実は手話だとは思わなかったと、この後のQ&Aで明かしています。)

― 言葉を発することができない役のご苦労は?

マーサ: 台詞なしで表現するのは難しいです。オーバーアクトにならないようにしました。手話を使っている人に見えないといけないので、少しでも近づけるよう、映画を観たり、実際に手話を使っている方に会ってみたりしました。身体のどこかが不自由だと、どこか別の場所が強くなるものだとわかりました。部屋の中でピアノを弾くシーンで、シャキープが先に外からの光に気が付くと台本に書いてありましたが、耳の聴こえない役の私の方が視覚が鋭くて、先に気が付くのではないかと監督に言って、変更してもらいました。

― ラーダンが隠れていた撮影セットのヒトラーの家が燃やされて、ラーダンの生死がわかりません。焼け跡からは彼女の腕輪が出てきました。 脚本を読まれた時に、どのような結末を予想しましたか?

マーサ:最初にもらったシナリオは、自分の出るパートだけでしたので、どうなるのかわからなくて、ドキドキしました。映画を観る方たちと同じように、生きていてほしいと思いました。ラーダンは彼を騙そうとしたのではなく、誠実な彼に惚れたのだと思います。


◆イランの撮影現場が垣間見れる映画
― 映画の撮影現場を映し出した映画で、イランではこういう風に映画を作るのだと興味深かったです。

マーサ: 撮影現場そのものですね。

― スタッフやキャストが一緒に食事をしている場面は、実際のもの?
 
マーサ:まさにそうです! 実際に、この映画のスタッフとキャストが一緒に食事をしている場面そのものです。ただ、エキストラが地べたに座って食事していたのは、監督の演出で、ほんとはエキストラの人たちも一緒にテーブルを囲んで食べていました。

― ロケ地は、茶畑がみえましたが、ギーラーン州でしょうか?

マーサ: 撮影をしたのはギーラーン州のフーマンです。

― フーマンといえば、クルーチェ(胡桃の入った焼き菓子)ですね! 友達がいて行ったことがあります。懐かしいです。

マーサ:映画に出てきたホテルに皆泊まっていました。私も懐かしいです。

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◆俳優でもあるセイエディ監督
― ヒトラーの話が終わったら、次は、サッダーム・フセインの話。世界には今も独裁者が次々に出ています。ホウマン・セイエディ監督は、ベネチアから帰ってきてパスポートを取り上げられたと聞いています。日本に来られなかった監督から、東京での上映にあたって、どんなメッセージを預かってきましたか?

マーサ:特にメッセージは託されませんでした。ただ、監督がパスポートを取り上げられたのは、ベネチアから戻ってきた時ではなくて、その後の抗議デモが始まってからのことです。 監督というのは独裁者になりがちですが、セイエディ監督は、穏やかな方です。

― ホウマン・セイエディ監督は、俳優としても活躍されています。マーサさんが出演された『The Pig』のマニ・ハギギ監督も俳優でもあります。マーサさんから見て、俳優経験のある監督の良い点は?

マーサ:演技経験のある監督の場合、ベテランの役者にとってはやりにくいこともあるのかもしれませんが、私は経験が浅いので、細かく演技指導してもらえてよかったです。
シャキープ役のタナバンデさんは、監督もしたことがあるので、セイエディ監督とどうだったのかわからないのですが、一緒のミーティングの時に、「この方がいいのでは?」と言った時に、受け入れられることもありました。


◆両親は医者になるのを期待していた
― マーサさんのインスタグラムにずっと女優になりたいと思っていたと書かれていました。いつごろから女優になりたいと思っていましたか?

マーサ:小さい時に女優になりたいと思ったけれど、実は勉強がすごくよく出来て、親は医者になってほしいと期待している雰囲気でした。高校を終える18歳頃まではすごく勉強しましたけれど、やっぱり女優になりたいと思って、演劇の塾に通い始めました。

― 憧れている女優さんは?

マーサ:メリル・ストリープです。


◆短編映画を製作中!
― 映画の中で、Neda Jebraeiliさんが演じていた助監督ザーレが、かっこよかったです。あのように、実際、女性も映画の現場で活躍している方が多いのでしょうか?

マーサ: はい、とてもたくさんいます。

― マーサさんも、いつか映画を作りたいと思っていますか?

マーサ:もちろんです! 実は脚本も書いたりしています。短編はいくつか具体的に準備しています。

― マーサさんの作った映画をいつか観られることを楽しみにしています。 今日はどうもありがとうございました。

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取材:景山咲子


*物語*  ロングバージョン
シャキーブは、地震で妻子を失い、知り合いの雑貨屋で寝泊まりして日雇いで暮らしている。時折、町外れの売春宿で聾唖のラーダンに相手をしてもらうのが、ささやかな楽しみだ。
ある日、日雇いの現場に行くと、泥まみれになりながら鉄条網を張ったり、小屋を作らされたりする。映画の撮影現場だった。電気もない小屋に泊まり込みで見張りをし、昼間は、雑用と厨房の手伝いをすることになる。
撮影現場で作業をしていると、いきなり囚人服を着ろと渡される。追い立てられて狭い部屋に入れられ、上からシャワーを浴びせられる。第二次世界大戦中の強制収容所のガス室だった! 
ヒトラー役が発作を起こし病院に運ばれる。シャキーブは監督からヒトラー役に抜擢される。髪を切り、髭を整え、メイクをして、シャキーブはヒトラーに変身する。セリフはあとから被せるから、1,2,3と数えていればいいと言われる。夜も、電気のつくヒトラーの赤い屋根の邸宅に泊まることになる。
そんな折、ラーダンから、売春宿でドラッグを打たれたので逃げ出したいと連絡が来る。近くの茶畑に迎えに行き、赤い家に案内する。昼間の撮影中、ラーダンは床下に隠れることにする。
売春宿のファルシードが訪ねてきて、ラーダンを知らないかと聞かれる。
否定するが、結局、匿っているのを知られ、1億5千万トマーンを要求される。
ラーダンから、金の腕輪を売って足しにしてと言われるが、シャキーブは断り、母が緊急手術することになったと、プロデューサーから前借する。ファルシードに金を渡しに行って戻ってくると、撮影現場から火が出ている。赤い邸宅を爆破している!!!
ラーダンに電話するが出ない・・・

シャキーブは、母親が聾唖だった為、手話ができます。地震で妻子を亡くしますが、その時に不在だったために義兄はシャキーブが妻子を置いて逃げたと思っていて、墓参りもさせてもらえないでいます。その寂しさを埋めてくれていたのが、ラーダンでした。
雑貨屋の友人からは、「知らない女と寝るような危険なとこに行くな。ばれたらあそこは放火される」と注意されます。「相手にするのは一人だけ」と答えるシャキーブ。
ラーダンも、手話で話せるシャキーブには心を開いている様子。
匿ってもらっているうちに、一緒に暮らしたい、子どもも欲しいというくらい、打ち解けていきます。シャキーブも若いラーダンからそう言われて、心の隙間が埋まっていく思いなのです。
赤い家のセットを燃やすことは言われたはずなのに、シャキーブは心ここにあらずで、聞きそびれていたのでした。 火をつける前に、家にいる者は出るように伝えたと言われますが、ラーダンは聞こえないのです。
けれども、売春宿のファルシードからは、ラーダンは売春宿に戻っている、お前は騙されたと言われます。さて、ラーダンは無事生きているのでしょうか・・・
(日本で公開されるかもしれないので、話はここまでで!)


◎Q&A
10月31日18時25分からの上映後

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登壇ゲスト:マーサ・ヘジャーズィ(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).
通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん

石坂:2回目のQ&Aです。

マーサ:コンバンハ。 サラーム! ここにいられることがとても嬉しいです。1回目は、観客の皆さんと一緒に映画を観れて嬉しかったです。今日は一緒にみられませんでしたが、今こうして一緒にいるのが嬉しいです。
監督から先ほどメッセージをいただきました。「東京国際映画祭に行って、皆さんと一緒に映画を観たかったのですが、自分の選んだ道ではなく、イランから出ることができなかったのです」

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ホウマン・セイエディ監督 ©Houman Seyedi


石坂:臨場感のある作品でした。手話の役作りはどのようにされましたか? また、台本はどのように渡されたのでしょうか? 

マーサ:監督から自分のパートの台本しか最初は貰っていませんでした。セリフは書いてあって、手話とは思いませんでした。本読みも何度か監督とやりました。途中から監督が少しずつ役について説明してくれて、手話だとわかりました。撮影前に4カ月、トレーナーについて手話を学びました。やっとすべてのセリフを手話でできるようになりました。

石坂:全体像は、最初はわからなくて、だんだんわかって理解するという、監督の演出方法だったのですね。

マーサ:まさにそうです。自分とシャキープのやりとりの部分しか貰ってなくて、外の世界がどうなっているか全く知りませんでした。最後の方になって脚本をもらって全体がわかりました。


◆会場より
―(男性)素晴らしい映画をありがとうございます。男ならではの質問ですが、髭を生やしているシャキープと、髭のないシャキープ、どちらが好きですか? 私にとって髭を剃るのはとても大変なのです。

マーサ:(笑う)シャキープにとっては髭を剃るのが大変だっただけじゃなくて、髭を剃ってしまい、ヒトラーのような古いスタイルの髭を付けなくてはいけないので、大変な役でした。

―(男性)この映画は非道徳的なテーマを取り扱っていると思うのですが、演技をするに当たって気をつけたことや、監督と話し合って、こういう方向性にしたいと考えたことはありましたか?

マーサ:撮影に入る前に監督とたくさん話しました。アンネ・フランクというユダヤ人をイメージしてくださいと言われました。ラーダンがどういう背景や考えをもっているのか? なぜ今の自分の生活から逃げたいのかを話してくれました。役柄を理解した上で、撮影が始まりました。もう一つ、セットがすべて出来て、撮影を始める前に、監督は「5分下さい」と言って、もう一度、私のキャラクターの深いところを話してくれて、お陰で心構えができました。

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―(男性) ポスターは映画の印象を裏切るもので、もだえ苦しむ感じしか受けません。そういう映画ではないので、日本で公開するなら、イメージが悪いので変えた方がいいと監督に伝えてください。
主人公は、女性の金のブレスレットを見て、錯乱状態で最後の行動に出るに至ったのでしょうか? 
大きな疑問が残るのは、綺麗な聾唖の若い女性が、3人でも4人でも子供を産んでもいいと言ってましたが、あのような中年の男性と合わないです。監督はどういう意図で二人を組み合わせたのでしょうか?


マーサ:(また笑う) ポスターのことは必ず監督に伝えます。
シャキープは家が燃えているのを見て、彼女があそこで死んでいると信じていたのですが、ブレスレットが最後の留めになりました。それで、行動に出たのです。
シャキープとラーダンが似合うかどうかですが、彼女は今の泥沼から出たいと、最初はシャキープを頼ろうとしただけだったのですが、だんだん、彼の優しさに惚れました。顔や姿は関係ないのです。

石坂:時間が来てしまいました。最後に一言お願いします。

マーサ: 皆さんともっと話したかったのに、時間が来てしまい残念です。映画について、もっとお話ししたかったのですが、ご質問やコメントは興味深いものでした。日本で公開できましたら、またその時に私だけでなく、ほかのキャストも来てお話しできれば嬉しいです。

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★会場の男性たちからの質問は、マーサさんも苦笑するしかないものでしたが、マーサさん、上手に交わして答えていました。
1回目のQ&Aの時にも、「イランの人たちは、ヒトラーを知っていますか?という質問が出て呆れたのよ」と、ショーレさんより聞かされていたのでした。 もっと撮影現場のことなどを話したいとおっしゃっていたのでした。



報告:景山咲子



公式インタビュー
イランの風刺劇『第三次世界大戦』、ろうあ役のヒロインは4カ月かけ手話習得
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60491



東京国際映画祭 トルコ映画『突然に』Q&A報告 (咲)

アジアの未来 『突然に』
原題:Aniden 英題:Suddenly 

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監督:メリサ・オネル
出演:デフネ・カヤラル、オネル・エルカン、シェリフ・エロル
2022年/トルコ/トルコ語/115分/カラー

*物語*
夫と一緒に30年ぶりにドイツのハンブルグからイスタンブルに帰ってきたレイハン。突然、嗅覚障害に襲われた彼女はショックを受け、海辺の昔暮らしていた町を訪れる。幼馴染の女性からムール貝を買うが、彼女はレイハンだと気が付かない。夫は、生のムール貝の匂いがよくて美味しいと言い、ハンブルグに帰りたくなくなりそうだという。
長い間、離れて暮らしていた母との確執は、なかなか解けない。レイハンは黙って母のもとを離れ、亡き祖母の遺した家に住み、ホテルで働き始める。そこで彼女は盲目の教師やホテルに長期滞在している人と知り合う。ようやく抑圧されていた気持ちを表に出せるようになる・・・

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イスタンブルの町がどんよりしていて、レイハンの気持ちを表しているようでした。
レイハンは足を引きずって歩いているのですが、その理由は、小さい頃のイスタンブルでの出来事にありました。かつて、アイススケートをしていたレイハン。てっきりアイススケートでの事故と思ったのですが違いました。

◆Q&A
10月26日(水)14:55からの上映後

登壇ゲスト:メリサ・オネル(監督/プロデューサー/脚本)、フェリデ・チチェキオウル(脚本)、メルイェム・ヤヴズ (撮影監督)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).

監督(メリサ・オネル):お招きくださり、ありがとうございます。チーム全員、興奮しています。トルコから遠く離れた地で、どのように受け取られたかを感じることができて嬉しいです。どのように心に届けることができるかを考えております。

脚本(フェリデ・チチェキオウル):日本にいながら、ホームベースから遠く離れた感じがしません。お互い議論し、互いを否定することもあれば違いを認めあうこともある形で映画を作りました。東京に来て、静かな形で皆様と繋がっている気がします。イスタンブルは賑やかでうるさい町です。ここ東京では静けさを感じて、ほっとしています。

撮影監督(メルイェム・ヤヴズ) :メルハバ。ここに来られて表現のしようがないほど嬉しく思っております。3年前に脚本を読んだ瞬間から、私の心に染み入るものがありました。一人の人間として撮影監督として携わることができて嬉しく思っております。

石坂:チームのほとんどが女性だそうですね。
(注:来日したのも女性3人ですが、女性の多い製作チームだったそうです。プロデューサーは産休で来られなかったとのこと。その他、アート・ディレクター、照明、助監督も女性)
『突然に』というタイトルは、どのような思を込めてつけたのですか?

監督:自分の人生を変えようと決心する時、計画を立てたわけでもなく、主人公は突然決心します。人生において、真実というのは、突然訪れるのではないかと思います。勇気のいることです。突然、ちゃんと生きようと決心します。このタイトルはどうだろうと相談しました。タイトルから重さを排除したかったのです。チームで話して、このタイトルでいいのではということになりました。


*会場から*
―(男性)美しくて、興味深い作品でした。音響にこだわられていました。環境音や生活音がとても気になりました。

監督:ありがとうございます。音響は映画の中でとても大切な部分だと考えて作りましたので、嬉しいコメントです。主人公がイスタンブルの町を歩きまわりながら、自分を探す物語です。私たちが懐かしく思うイスタンブルを描きたいと思いました。音を通してイスタンブルを知っていきます。イスタンブルに命を吹き込むにはビジュアルだけでなく音も大切だと思いました。感情を感じていただくのに音は大事です。ロケはトルコとドイツの両方で行いましたので、環境音も両方で録音する必要がありました。

―(女性)体験に一部重なるところがあって、映画を観ていい経験ができました。  
監督に伺います。主人公は事故にあって、ドイツとトルコに分かれて家族が暮らしています。トルコとドイツは関係が深いと思います。ドイツという場所、ドイツ語で吹き込んだ場面もありました。ドイツがこの作品にどのような効果を与えたのでしょうか?


監督:答えになるかどうかですが、レイハンは自分の記憶を嗅覚を通じて繋げようとします。嗅覚を失っていて、故郷を喪失したともいえます。自分の身体も失ってしまった感じなのです。ドイツが象徴するのは、自分を失ったほかの場所です。皆でドイツに行きましたが、母はドイツに父とレイハンを置いたまま帰りました。レイハンは、トルコに戻り、人生を取り戻そうとしますが、既に30年経っています。

脚本:映画には出てきませんが、皆で話し合ったことがあります。ドイツのような寒冷地にあるところでは匂いもあまりありません。イスタンブルから離れたレイハンは嗅覚を失ってしまいます。イスタンブルに戻って町と繋がろうとするのですが、うまくいきません。一度、故郷を去った者にとって、必ずしも故郷は待ってくれているところではありません。

―(男性)テーマになっている女性の心理は理解できているかどうか自信はないのですが、レイハンはどうなるのかはらはらしながら見ました。この物語は、いつ頃発想して、どれくらいの期間で書かれたのでしょうか? スケートのシーンが出てきたときに、スケートで傷害を起こしたのだと思ったのですが、そうではなかったことにも驚きました。

脚本:監督と3回目の仕事でした。共に旅をしている感じです。いろいろ探って、一歩ずつ共にストーリーを作っていきました。コロナの前でしたが、嗅覚を失うことを思いつきました。コープロデューサーにお会いしたら、急に嗅覚を失ったことがあるとお話しされました。そのころ、私がたまたま足を怪我をしていて、どこにも行けない状態でしたので、この物語を思いつきました。共に航海する形で作りました。 監督は映画を感じる人、私は言葉の人間で口数が多いです。

石坂:撮影監督としては、室内もあれば海辺もあります。撮影が大変だったと思うのですが、どんなところに気をつけられたのでしょうか?

撮影監督:シナリオを読んだ時に、ずいぶん旅することになると思いました。楽しいことで光栄でした。様々な音や色が出てきます。 ボートの場面から始まって一つの長い旅になると思いました。監督や撮影チームや俳優の皆さんと話し合うプロセスは素晴らしいものでした。レイハンが公園に行ったり、窓を開けたり、様々なドアを開けていく物語で、そのたびに自分も開けていく感じでした。いろいろなことがありました。音も重要でしたし、最後には嗅覚にたどりつきました。

報告:景山咲子


Q&A動画
https://youtu.be/eGNomSK2U24


◆公式インタビュー
「観ている人が、それまでずっと止めていた息を吐き出す表現ができればと」ーー第35回東京国際映画祭アジアの未来部門出品作品『突然に』メリサ・オネルイ監督、フェリデ・チチェキオウル(脚本)インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60542


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