第37回東京国際映画祭 ウィメンズ・エンパワーメント部門 イラン映画『マイデゴル』 (咲)


『マイデゴル』  原題:Maydegol
監督/プロデューサー/脚本:サルヴェナズ・アラムベイギ
2024年/イラン・ドイツ・フランス/74分/カラー/ペルシャ語、ダリー語
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イランで暮らすアフガニスタン難民の10代の女性。夢はボクシングのアフガニスタン代表チームに入ること。林檎やマッシュルームの収穫で日銭を稼いでいる。  父が暴力をふるい母は家出。8人家族の面倒もみなくてはいけなくなる。アメリカで生まれた子は楽して生きているのにと嘆く。それでも乖離道の土漠獏でも素振りの練習。代表選手となったら「マイデゴル(散った花)」の名前で出る! 少女の夢は叶うのか・・・ 

監督:サルヴェナズ・アラムベイギ
映画や絵画を得意とするイラン出身のアーティスト。監督作“Cypher and Lion”(17)、“1001 Nights Apart”(20)はライプツィヒ国際ドキュメンタリー&アニメーション映画祭とミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭で賞を獲得した。(TIFF公式サイトより)


*あらすじ*
工場のドアを叩く少女。開けてくれないので、塀をよじ登る。
「雇ってくれるまで帰らない!4」
「男の仕事だ!」
「なんでも出来る」
結局、なしのつぶて。

真っ暗な中で、友達を話す。
「アフガニスタンのボクシングの代表チームに入りたいの。家族は大反対。国の存続も危ういのにと」
「代表チーム? 国全体がタリバンに支配されてて、女がボクシングなんて絞首刑よ」と友人。
土漠で二人でボクシングの練習。
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久しぶりに家に帰ると、7歳の弟から父が母を殴ったと聞かされる。
「ママは5日前に家を出て、連絡がない」
父が暴力をふるうのは、戦争に行った後遺症とコーチに言われる。
「この国じゃ未来がない」

男子と練習させてほしいと頼むと、コーチが開いてをしてくれる。
「母がいなくなって、8人家族を私が面倒みなくてはいけない。なんでこんな苦労をしなくちゃいけないの? アメリカで生まれた子は楽して生きているのに」と嘆く。
「光を見られない運命かも。イラン人と結婚するか、偽造パスポートを作るか・・・」

「アフガニスタンに行って、絶対勝ってみせる!」

友人たちと誕生日祝い。
ケーキのロウソクを消す。
ポップな音楽に合わせて踊る。
「目指せ、チャンピオン」を歌う、

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イランは安定しているけど、私たちはここから出られない。
偽造パスポートで皆でトルコに出る手もあるけど、密出国が見つかったらアフガニスタンに送られる・・・

アフガニスタン代表選手になる夢は捨てられない。
デビューできたら、「マイデゴル(散った花)」の名前で出る!

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★主人公の少女は、日本人と似た風貌で、アフガニスタンのハザラ族のようです。

第37回東京国際映画祭 ウィメンズ・エンパワーメント部門 イラン映画『私の好きなケーキ』 (咲)

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TOTEM FILMS


監督:マリヤム・モガッダム、ベタシュ・サナイハ(『白い牛のバラッド』)
出演:リリ・ファルハドプール、エスマイル・メーラビ
2023年/イラン・フランス・スウェーデン・ドイツ/97分/カラー/ペルシャ語


監督:マリヤム・モガッダム、ベタシュ・サナイハ
イランのテヘラン生まれのマリヤム・モガッダムとシーラーズ生まれのベタシュ・サナイハは、“Risk of Acid Rain”(15)の脚本の共同執筆からコンビを組み活動している。2020年の共同監督作『白い牛のバラッド』はベルリン映画祭コンペティション部門でプレミア上映された。(TIFF公式サイトより)


*あらすじ*
テヘランに住む70歳のマヒン。軍人だった夫は30年前に亡くなり、娘はヨーロッパに移住し、1軒家で一人暮らし。
ご馳走を作り、同世代の女性たちを招く。 出てくる話は病気の話や老いの話。それでも、「マヒンに恋人を探せとずっと言ってるのに」という友もいる。
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アイシャドーを塗り、頬紅をさし、マニュキュアもつけて買い物に出かける、
帰り、タクシーに乗り、「ハイヤットホテルにお願い」というと、「今は、アーザーディに名前が変わった」と運転手。
「昔は、ハイヒールの靴と、胸の開いたドレスを着て、コンサートに行ったわ。ヘジャーブもなしでね」と話しかけるマヒン。
ホテルのコーヒーショップでお茶をする。メニューは、QRコードだ。
階段をあがって高台の公園に行く。
そこにいた男性に、「体操している人はいる?」と聞くと、「朝早く来ないと」と言われる。

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スカーフの被り方が悪いと、道徳警察に捕まっている若い女性に声をかけると、警察官に「あなたも髪の毛が出ている。一緒に車に乗れと言われる。
「少し髪の毛が出てるからって罪に?」
「抵抗しないと言いなりになるわよ」と若い女性に言って、一緒に無罪放免になる。
その若い女性、デートしていて、1回目は従兄と言って逃れたけど、2回目は一晩牢屋に入れられたという。
「あなたは革命前の自由を知っているでしょう」と言われる。
恋人が来て、抱き合う二人。

夫が退役軍人だったために配給されるチケットが使えるレストランへいく。
初老の男たちが、「ここのキャバーブは味が落ちた」「恩給が少ないから抗議に行こう」「お上は若い人の話を聞こうとしない」「僕たちは、もうすぐ墓の中」「この不況の中、墓があるだけいい」などと話している。

男たちの隣のテーブルで一人で食事をしているファルマズ。
「いつも外食。君たちは奥さんがいるからいいけど」と言って急いで車に戻る。

マヒンは、アジャンス(タクシー事務所)に行って、ファルマズを指名する。 今、出ていると言われるが待つ。
「アズマエシュにある家までお願い」と、助手席に乗り込むマヒン。
「独身と聞いたから、運命だと思ったの」と、身の上話を始める。
「元看護士で、夫とは陸軍病院で知り合ったの。前線に送られて負傷して、3か月入院して退役したの」
「戦争は無意味だ」とファルマズ。
「家に来ない? 私も独り身だから」

「薬屋に寄ってもいいか?」とファルマズ。 車を降りて雷雨の中、薬屋に走る。

「タクシー運転手は、20年。その前は、結婚式でタールを弾いていた。道徳警察に捕まって、1か月拘留された」

家に着く。
「家の前で降ろして、車は反対側に止めてから来て」とマヒン。

口紅をつけて彼を待つ。
「綺麗だ」とファルマズ。
「男性を招くのは初めて。やっと吹っ切れたの」

「娘は20年前にイランを出た。前はビザを取って会いに行ってたけど、歳をとってビザがおりないの」
「女性用のプールは午前中。昼まで寝てるからいけない」

ワインを出す。
「友達からもらったもの。前は毎晩飲んでた」

「70歳。同い年ね。 若々しいわ」
「もう老いぼれだよ。独りで死ぬのは怖い。孤独死は避けたい」

桃を切る。
ワインで乾杯。
「禁酒になって、200キロ葡萄を買ってワインを作ったら、妻に禁止された。母に薦められて結婚したけど、相手から離婚したいといわれた」
「一緒にワインを作りましょう」

玄関のチャイムが鳴る。
裏の家のハーシェムさんが訪ねてくる。
「男の声がしたけど」
「配管工事の人よ」とマヒン。

「彼女は夫が役人だから、偉いと思ってるの」

消えている中庭の街灯をファルマズが直してくれるという。
「その間にケーキを焼くわ」

中庭にワインを注ぐファルマズ。
「死者のために、一口飲んだら、一口捨てる」
「人生で最高の夜に乾杯!」

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「30年前、何も庭に生えてなかったの。お金がなくて買えなくて、公園から盗んできた」

「アルコールがまわってきた。運転して帰れない」

革命前の音楽をかけて、二人で踊る。

壁の写真。1969年。ラムサール(カスピ海沿いの町)。 新婚旅行。
「主人は30年前、自動車事故で亡くなった。再婚の機会もなくて」
「結婚は1回で十分」
「ガールフレンドは?」
「一人いた。金持ちと結婚してオーストラリアに行ってしまった。彼女とは寝てない」

「ほんとに泊まってほしい? 一緒にシャワーを浴びよう」
「恥ずかしいわ」と、服を着たまま、一緒にシャワーをあびる。

「オレンジブロッサムケーキを焼いたわ。好きな人が来ると焼くの」

香水をつけて彼を待つが、なかなか来ない・・・

このあとが、驚きの展開なのですが、もしかしたら公開されるかもしれないので、結末は明かせません。 これは是非公開してほしいです。

第37回東京国際映画祭 イラン映画『春が来るまで』監督&主演女優インタビュー Q&A報告 (咲)

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アジアの未来部門で上映されたイラン映画 『春が来るまで』 
来日されたアシュカン・アシュカニ監督と主演女優サハル・ソテュデーさんのインタビューと、上映後のQ&Aをお届けします。  
景山咲子



『春が来るまで』 原題:Ta Bahar Sabr Kon 英題:Wait Until Spring 
監督/プロデューサー/脚本:アシュカン・アシュカニ
2024年/イラン/102分/カラー/ペルシャ語
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夫が遺書をのこし自室で首吊り自殺。 サマンは、職場にも、友人にも、実家にも、その事実を言えず、通りをうつろな顔で彷徨う・・・  
ペルシャ湾岸の酷暑の中で石油会社で働く夫。賃金未払いで、労働争議を起こすも労働者をあおる行為は困ると会社から戒められたことを苦に自死したらしいことが明かされます。
どこの社会でも起こりえる普遍的な物語。



◆アシュカン・アシュカニ監督、 サハル・ソテュデー(主演女優) インタビュー
11月5日(火)
 

― とても素晴らしい映画でした。家族が死ぬということは、どんな死に方であっても、つらくて、茫然とするものですが、それが自殺となれば、さらに気持ちの整理がつかないものだと思います。家族にもいえないサマンの気持ちをずっしり感じました。

監督:自分の身近な人が自殺すると、最初は、受け入れられないし、信じられない。まだ生きているようだと混乱してしまいます。そういう気持ちを持っているのが、彼女の表情からわかると思います。家族にも、好きな人たちに会いに行っても、どう言っていいかわからなくて、言えないでいます。
初めての上映で、どう観客の皆さんに伝わるかわからなかったので不安でしたが、皆さんの反応を聞くと伝わったようで安心しました。

― 演じた上で難しかったことはありますか?

サハル:とても難しかったです。役者にとってはセリフがあったり、状況が説明されていればやりやすいのですが、この映画ではセリフのない中で、表情で気持ちを表さなければいけませんでした。24時間の話なので、同じ表情を維持するのも、とても難しかったです。
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― 24時間の話だったのが、Q&Aで聞いてわかって、そういうことだったのだと思いました。お葬式も出てこないので、どれくらいの時間、人に言えなかったのかなと思っていました。自殺はいつまでも残された人に悔いが残ると思いますし、イランでも今、自殺が増えていると聞いて、悲しくなりました。

監督:映画の冒頭で出した言葉、「自殺したところで終わらない。悲しみがほかの人に移る」ということが一番言いたかったことです。自殺した人は、悲しくて悲しくて自殺してしまうのですが、残された人にその悲しみが移ってしまいます。

― 私自身、大好きだった香港のスター、レスリー・チャンが21年前に自殺したのですが、いまだに心に複雑な思いがあります。

監督:
 人間だから同じ痛みだと思うのですが、僕も、去年親友が自殺したので、とてもつらい思いがあります。

― 音楽が邪魔にならない形で、サマンの気持ちを表していました。

監督: 音楽についても、いろいろアイディアがありました。よく考えたうえで入れています。彼女が彷徨うシーンで5分くらい音楽が流れてくるのですが、作曲家にお願いして、彼女の気持ちに沿うように、同じメロディーが繰り返すものを作ってもらいました。

サハル: 音楽がサマンの一歩一歩の足と同じように行ったり来たりしています。

― サマンを取り巻く家族の問題もさりげなく描かれていました。中でも、障がいのある姪のバハールのために、1か月に一度、誕生日のケーキを作るエピソードが心に残りました。 「Row, Row, Row Your Boat」の歌は、私も中学生の時に習った懐かしい曲で、元気づけられると思いました。

監督:そこに注目していただいて嬉しかったです。暖かい家族の中でサマンが育っていることを描きたかったのです。それは普通の一般的なイランの家族の姿ですが。

― ほんとにイランの人たちは皆さん心が暖かいと感じています。 まわりの家は電気がついているのに、あの家だけ停電というのも象徴的でした。 

監督:これは自分の感情で生まれた場面です。この家だけ暗いのはサマンの気持ちではないかなと。皆でロウソクを探して、結果的に明るくなります。
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― ロウソクを探しているときに、家族で夏にアフワーズに行った時の写真が出てきて、それが亡くなった旦那さまの暑い仕事場の近くだったことにも繋がって、とてもいいエピソードでした。

監督: 映画を作っているとき、すべてを計算して書いたりしているわけではなくて、たまたま出てきた人の話を入れることがあります。サハルが子供時代にアフワーズに行った時に、水がなくて大変だったと話してくれたことを入れたら、しっくりきました。

― サマンが夫の勤めていた石油会社に行って抗議する場面では、女性の強さも感じました。

サハル: そこで爆発するのですね。 今、ニュースで給料未払いや、労働条件の悪さに抗議する人たちや、リタイアした年配の人たちが待遇が悪くてデモしている話も聞きます。 いろいろなところで声をあげている人がいるので、そういう人たちの気持ちも思って演じました。

― 経済制裁の影響もあって、イランの人たちは大変だと聞いているので、声高でない形で入れていて、それもよかったと思いました。

監督:描くときに、直接的に語るのでなく、隠して言うほうが自分の好みです。

サハル:私も一緒に監督と話しながら脚本に加わりました。声高に言うのでなく、じわじわと頭に入っていく形がいいのではと思いました。

― 数多くの映画の撮影監督を経て、初めての長編映画デビューです。一緒に仕事をしてきた監督のスタイルはさまざまだと思いますが、こんな監督でありたいと思うスタンスは?

監督: いろいろな監督と一緒に仕事をしてきて、それぞれのスタイルを見てきました。話も聞いてきました。ラスロフ監督から、ある時、「あなたが映画を作ったら、どんなものになるだろう。いろんな監督を見ているから、自分の映画にはいろんなスタイルを入れ込むのではないだろうか」と言われたことがあります。この映画が出来て、ラスロフ監督に観ていただいたら、20分くらい沈黙して、そのあとに 「驚きました。今まであなたが撮った監督たちとまったく関係ない。ほんとにあなた自身のものだ」とおっしゃってくれて、とても嬉しかったです。無意識だったのですが、いろいろな監督のスタイルを思い出しながら、自分の気持ちで撮ろうと努力してきました。次に撮る時にも、自分の気持ちを優先して撮りたいと思います。

― 次の作品も楽しみにしています。サハルさんは女優として活躍する一方、短編映画も作られています。今後、長編映画も?

サハル: はい! 短編を3本撮っているのですが、すべての主役は15歳くらいの女の子です。長編のアイディアが2つあって、一つは同じく15歳くらいの女の子。もう1本は、もうすぐリタイアする60歳くらいの男の人の話。リタイアして第二の人生をどうのように歩んでいくかの話です。

― 時間が来てしまいました。お二人の次の映画を楽しみにしています。ありがとうございました。

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最後に、写真を撮らせていただいたあと、監督から、今日のインタビューはとてもよかったと言われ、ほんとに嬉しかったです。


このインタビューの前に取材したQ&Aの内容です。


◆11月3日16:25からの上映後 Q&A
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登壇ゲスト:アシュカン・アシュカニ(監督/プロデューサー/脚本)、サハル・ソテュデー(俳優)

MC:ワールドプレミアで上映することができ、監督さんたちにも無事日本にお越しいただくことができました。(注:イスラエルとのことがあって、イランから出国するフライトが停止されている状態でした)

監督:
ワールドプレミアを皆さんと一緒に観ることが出来てとても嬉しいです。

サハル:私も無事東京に来られて、監督と同じくワールドプレミアを一緒に観ることができて嬉しかったです。

ー(男性)素晴らしかった。サマンが歩くシーンは、余白があって、やりきれない感じが出ていました。この画角で撮る設定をした理由は?

監督:この映画は、24時間の物語。でも、作るのに3年かかりました。最初、コロナの時期に、ある会社の労働者が自殺した写真をテレビで見て、残された家族の気持ちを考えました。それからアイディアを含まらせて、この映画になりました。

MC:
撮影監督の経歴が長いですが、撮影について一番気をつけたところは?
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監督:撮影監督として長年、特にインディーズ映画、ラスロフ監督作品3本などの撮影をしてきました。今回、監督デビュー作です。撮影はしていません。撮影監督には何かいいたくはありませんでした。ポスプロの時に指示してなかったなぁ〜とポジティブ的に思いました。自然に出来たことに安心しました。
一番撮りたかったのは、人間の複雑な気持ち。それが撮れているかどうかは皆さんのご判断です。

ー (イラン男性:日本で昨年自殺が多かったことを述べたあとで) サマンが後追い自殺をやめたのは、お父さんとの会話があってのこと?  それとも違う理由?

監督:エンディングは、二つ考えられました。サマンは自殺しようと窓から飛び降りる、それは想像の中でした。もうひとつは、歌を習い始めたり、新しい仕事を始めるという終わり方。暗い題材を暗いまま終わらせたくありませんでした。「生」を描きたいと思いました。キャラクターを殺してしまうのは、自分らしくないと思いました。

MC: サハルさんは、夫の死を受け入れることのできない女性という難しい役でしたが…
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サハル:3年間、撮影にかかっています。時間を空けてからの撮影の時には、前との継続を考えないといけませんでした。目の前で夫が自殺するということに、あまりにショックが大きくて受け入れられない状態です。とても混乱してわけのわからない状況で歩いて、思い出を振り返ったりしている役どころでした。

ー(男性)イランでは、パートナーが自死した場合、社会的にどういうことご起きますか?
残されたパートナーが社会的に抹殺される国もあると聞きます。埋葬についても問題が起こるところもあります。

監督: 自殺すると、家族は自殺であることを隠します。葬儀はしますし、亡くなった人への敬意を払います。静かに受け入れます。 孤独や、仕事のプレッシャーがあると自殺を考える人もいます。この映画では、夫が自殺しても、「生」を選びました。このことが最も描きたかったことです。3年間一緒に映画を作ってきたサハルさんにも、ひと言お願いしたいと思います。

サハル:残念ながらイランでも自殺が増えていますので、このテーマを選んだのだと思います。
パートナーが自殺すると、周りの人から残った人のことをよく言わない傾向があります。いいパートナーじゃなかったから自殺を止められなかったと思われるのです。人それぞれですが、自殺はパーソナル的なものでなく、周りのケアが悪かったと捉えられることが多いです。

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第37回東京国際映画祭特別上映部門『不思議の国のシドニ』Q&A (咲)

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不思議の国のシドニ 原題:Sidonie au Japon 英題:Sidonie in Japan
監督:エリーズ・ジラール
出演:イザベル・ユペール 伊原剛志 アウグスト・ディール

フランスの女性作家シドニは、自身のデビュー小説「影」が日本で再販されることになり、出版社に招かれて訪日する。見知らぬ土地への不安を感じながらも日本に到着した彼女は、寡黙な編集者・溝口健三に出迎えられる。シドニは記者会見で、自分が家族を亡くし天涯孤独であること、喪失の闇から救い出してくれた夫のおかげで「影」を執筆できたことなどを語る。溝口に案内され、日本の読者と対話しながら各地を巡るシドニの前に、亡き夫アントワーヌの幽霊が姿を現す……。
シネジャ作品紹介
2023年/フランス・ドイツ・スイス・日本/96分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/sidonie/
★2024年12月13日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開



◎Q&A
2024年11月3日(日)19:10からの上映後
丸の内TOEIにて

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登壇ゲスト:イザベル・ユペール、伊原剛志、エリーズ・ジラール(監督/脚本)
通訳:人見 有羽子
司会:市山尚三


監督: 初めまして。お招きいただき、ありがとうございます。

市山:監督は、なぜ、日本で撮影しようと
思われたのですか? また、京都、奈良、直島、東京を選ばれたのは?
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監督: 2013年、長編デビュー作『ベルヴィル・トーキョー』のプロモーションで来日したのがきっかけです。1週間滞在することができました。配給の方があちこちの町に案内してくださって、その時の体験が、この映画の出発点でした。
日本とアーティスティックな出会いをしました。衣装も建築も素晴らしい。日本の持っている伝統とモダン、その二面性に恋をしましたので、京都の伝統と直島の現代アートをこの映画に取り込みました。

市山:ユベールさんはオファーを受けてどのように思いましたか? 日本の撮影はいかがでしたか?
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ユペール:脚本を最初に読んだ時、シンプルにいいなと思いました。文章、セリフ、いずれも素晴らしかった。監督の前作『静かなふたり』に私の娘ロリータ・シャマが出演していますが、音楽もしっくりして素晴らしかったので、これはやるべきと。監督の1作目の『ベルヴィル・トーキョー』も素晴らしかったので、即決しました。『不思議の国のシドニ』は、あちこち巡るだけでなく、見失っていた自分を再発見するという深い物語です。

市山:井原さんは全編フランス語で話されています。
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井原:日本語で話します。フランス語は全くしゃべれませんでした。4か月の準備期間があったのですが、最初、ゆっくりしたスピードのフランス語のセリフを聴いても、さっぱりわかりませんでした。英語にも訳してもらって、日本語で意味を解釈して、フランス語のセリフを覚えました。先生がよかったのですが、私の耳もよかったようです。コロナで一度撮影が中止になって、さらに4ヵ月の準備期間ができました。スカイプで監督とセリフについて充分打ち合わせもできました。でも、フランス語はセリフしか言えません。

市山:通訳の人見有羽子さんも出演しています。(写真:右)
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監督:司会者の市山さんも共同プロデューサー。映画には、市山さんの疲れた姿も映っています。

市山:まさか、あの場面が映画に残ると思わなかったので・・・(照れる市山さん!)

◆会場から
―(男性) 亡くなった旦那さんの姿が出てきますが、旦那の方が明るくて、ユペールさんは暗い。普通は逆かと思いますが・・・

監督:最初から思っていたのですが、シドニは立ち直れないでいるところに、夫が幽霊として出てきて励ますのです。アメリカのジョセフ・L・マンキウィッツ監督の『幽霊と未亡人』も、幽霊がとても愉快な人。あえてシドニより快活なヨーロッパ的な幽霊として描きました。

ユペール:このアイディアを聞いて、とてもいいなと思いました。映画を観て、腑に落ちました。幽霊が快活で生き生きとしていて、生に執着しています。シドニと、もう少し一緒にいたい。シドニも苦しみから解放されます。
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―(フランス女性)シドニと同じような体験をしました。留学で4か月日本にいます。日本で札零されて学んだことや、発見されたことは?

ユペール:学んだというより、エキサイティングな体験をしました。アーティスティックな喜び、新しいものを発見するのは、シドニがあちこち行くことによって変わっていきます。何回も来日している私でも知らないところがあります。直島で撮れたのはラッキーでした。特別な意味のある体験でした。異国で撮るのは、ミステリアスな発見があります。

監督:この作品を撮るのに、5年の歳月がかかりました。監督人生の中でもユニークな体験でした。もう一度戻ってきて撮影したいなと思います。たくさんの日本人と出会いました。これって映画だなと。エモーショルなものが凝縮された経験でした。日本で撮影できて、幸せです。公開を嬉しく思っています。

市山:最後にひと言ずつお願いします。

井原:2019年にオファーを受けて、3年前に撮影しました。役者人生の中で最高の忘れられない経験です。
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ユペール:剛志さんは、フランス語について謙虚過ぎます。唯一無二の仕事をされました。
私が、全て日本語で演じなさいと言われたら、おそらくできません。フランス語をしゃべれない彼がフランス語を学ぶことによって、距離が縮まることを、みごとに体現してくれました。彼の努力がなかったら、この映画は成り立たなかったでしょう。剛志さん、ありがとう。

監督:観てくださった方の口コミで、多くの方に見ていただけますよう願っています。

◆フォトセッション
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東京国際映画祭 今年も中東中心に追いかけました (咲)


今年の東京国際映画祭では、イラン4本、トルコ2本、アフガニスタン、パレスチナ・イスラエル関連、カザフスタン 各1本 計9本の私の興味のある地域の映画があって、その上映とQ&Aのほか、来日ゲスト3組に個別取材の時間もいただき、それだけで、会期二日目の10月29日から、11月5日まで、休みなしになってしまいました。合間に、中華圏を中心に7本の映画を観たり、交流ラウンジや舞台挨拶の取材を入れて、大満足のTIFFとなりました。
私の初日10月29日に観た映画や取材については、その日の夜のうちに報告したのですが、その後、連日、帰りが遅くなって、報告を書けないまま会期が終わり、さらに明日からは東京フィルメックス。 舞台挨拶や個別取材のまとめが終わっていないものが多いのですが、行動記録を書いておきます。 景山咲子

10/30(水)
●12:12 12:57 コンペティション部門『雨の中の慾情』舞台挨拶・Q&A 
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登壇:成田凌、中村映里子、李杏
成田凌さんの「朝早くから観る映画じゃないですね」「台湾での撮影が大変というより、片山監督の現場だから大変」「肘を曲げない走り方を監督から指示されました」という言葉が印象に残りました。李杏さんは、「目を瞬く時のスピードをゆっくりしてください」と言われたとのこと。人物の見せ方にこだわりを感じました。 報告は、こちらで!
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/505752323.html

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トロ政で海鮮丼 

★14:20 15:44 『赦されぬ罪』
香港 監督:ジェフリー・ラム
アンソニー・ウォンが教会の牧師さまで、罪と罰をめぐって葛藤する物語。
秋生ちゃん主演なので、とても楽しみにしていたのに、お腹がいっぱいで、肝心の後半場面、寝落ち・・・ 映画を観る前にお腹を満たしてはいけないのでした。

★16:40 18:00 『三匹の去勢された山羊』 アメリカ 監督・脚本・編集:イエ・シンユー
製作国はアメリカですが、監督の生まれ故郷である中国・陕西省が舞台。主人公の男が3匹の山羊を仕入れるため、都会から砂塵の舞う荒野の村に帰省するのですが、コロナ蔓延で足止めを食らいます。あのコロナ禍の異常な数年も今や過去のものとなったので、その記録といえる作品として将来貴重なものになるのでは。 そこかしこで笑わせてくれましたが、それも現実だったと思い出しました。


★19:35 20:49 『マイデゴル』 ウィメンズ・エンパワーメント
イラン/ドイツ/フランス 
監督/プロデューサー/脚本:サルヴェナズ・アラムベイギ
イランで暮らすアフガニスタン難民の10代の女性。夢はボクシングのアフガニスタン代表チームに入ること。林檎やマッシュルームの収穫で日銭を稼いでいる。  父が暴力をふるい母は家出。8人家族の面倒もみなくてはいけなくなる。アメリカで生まれた子は楽して生きているのにと嘆く。それでも帰り道の土漠でも素振りの練習。代表選手となったら「マイデゴル(散った花)」の名前で出る! 少女の夢は叶うのか・・・ 
イラン人の友人が、マイデゴルの意味がわからないと言っていたのですが、映画をみて、アフガニスタンのダリ語の語彙とわかりました。ペルシア語とは文法も同じで共通点が多いですが、違いもいろいろありますね。
さらに詳細は、こちらで! 

10/31(木)
映画祭は夕方からにして、イラン大使館で開かれているアートフェスへ。
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大阪で日本語を学んだという大使館の女性と、小一時間、紅茶とお菓子をいただきながらおしゃべり。その間、誰も来ず、せっかくの催し、もったいないなぁ〜と。

★16:10 17:42 『大丈夫と約束して』 コンペティション
スロバキア/チェコ
監督:カタリナ・グラマトヴァ
スロバキアの田舎の村の祖母の家で夏休みを過ごしている15歳のエニョ。不動産の仕事のため離れて暮らす母親が、低所得者層を狙って道徳的ではない稼ぎ方をしていると知って葛藤する・・・
ちょっと話に入り込めませんでした。 (お腹はいっぱいじゃなかったので寝なかったのですが)

●17:00 18:00 交流ラウンジ ジョニー・トー×入江 悠 
ジョニー・トーのお顔が見たくて、17時から始まっていた交流ラウンジの最後の10分を覗きました!
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なんと、会場の一番後ろに、ロヤ・エシュラギさんの姿を見つけました。 タル・ベーラのマスタークラスで福島で短編を作ったコスタリカ在住のイランの女性監督。 9年前に山形国際ドキュメンタリー映画祭で『木』が上映された折に、東京で一日お相手をしたことがあって、今回、来日ゲストの名前の中に見つけて、いつ会えるかなと思っていたのでした。思わぬところで、9年ぶりの再会!
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「roya jan!」と声をかけたら、すぐにはわからなかったようで、プレスパスの名前を見て、思い出してくれました。ハグして再会を喜びました。
ジョニー・トーお目当てで駆け付けたのに、思わぬ出会いでした。

★19:20 20:57 『私の好きなケーキ』 ウィメンズ・エンパワーメント
イラン/フランス/スウェーデン/ドイツ
監督:マリヤム・モガッダム、ベタシュ・サナイハ(『白い牛のバラッド』)
テヘランに住む70歳のマヒン。軍人だった夫は30年前に亡くなり、娘はヨーロッパに移住し、1軒家で一人暮らし。退役軍人の配給チケットで食事をしにいったレストランで見かけたタクシー運転手が独身と知り、指名して家に送ってもらう。道中で、彼を家に誘う・・・
数か月前に、日本在住のイラン人の友人が、「映画祭で上映されないかな」と期待していた作品。
驚きの展開で、唖然!  もしかしたら公開されるかもしれないので、結末は明かせませんが、別途、もう少し詳しく紹介します。 これは是非公開してほしいです。
☆さらに詳細は、こちらで!

11/1(金)
★13:00 14:42 『春が来るまで』 アジアの未来
イラン 
監督:アシュカン・アシュカニ
夫が遺書をのこし自室で首吊り自殺。 サマンは、職場にも、友人にも、実家にも、その事実を言えず、通りをうつろな顔で彷徨う・・・  
ペルシャ湾岸の酷暑の中で石油会社で働く夫。賃金未払いで、労働争議を起こすも労働者をあおる行為は困ると会社から戒められたことを苦に自死したらしいことが明かされます。
どこの社会でも起こりえる普遍的な物語。

★15:35 17:12 『シマの唄』 アジアの未来
スペイン/オランダ/フランス/台湾/ギリシャ/アフガニスタン 
監督:ロヤ・サダト
1978年のアフガニスタン。共和制から社会主義に移行する時期を舞台に、裕福な共産主義者の家庭の娘と、貧しい家庭の娘という対照的な境遇ながら親友のふたりの女子大学生。その後のソ連による侵攻と反ソ武装勢力の決起による紛争の時代に移行するなかで翻弄されていく・・・。
今のターリバン政権復権と重ね合わせ、この半世紀、アフガニスタンの辿った悲しい歴史を背景にした女性たちの友情を描いた物語。 よくぞ作ったと、ただただ涙。

●18:39ー19:24 サモ・ハン マスタークラス  丸の内ピカデリー スクリーン2
『おじいちゃんはデブゴン』上映後、Q&Aの取材。
聞き手は、江戸木純さん(映画評論家/プロデューサー)
まずはサモ・ハンの映画人生を振り返る映像。子役時代のサモ・ハン、可愛い!
『燃えよデブゴン』で、アクションに笑いがミックスした作風に。言葉も北京語でなく広東語で作ったら評判がよくて、その後は広東語で作るように。さらにホラー要素を加えた作品。小さいときからお化けや怪談が好きだったと明かします。80年代、90年代は黄金時代。次々作る映画がすべてヒット。休みはなかったけど楽しかったとサモ・ハン。そうして、『イップ・マン』シリーズ。「ドニー・イェンも自分も上手いから、あっという間にワンカット撮れる」とにっこり。
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最後に、型をいろいろ見せてくれました。
終わって、ロビーで、かつてコミケでいつもシネジャをお買い求めくださった香港映画迷のご夫妻に久しぶりにお会いしました。
暁さんと、アンディ迷友達のTさんと銀座インズの中華料理「吉祥」へ。青椒肉絲、豚の角煮ブロッコリー添え、五目焼きそば、鉄鍋餃子、マンゴージュース。 私が寝落ちしてしまった『赦されぬ罪』の顛末をTさんから教えていただきました。 そんな話だったのか・・・ 公開されますように!

●22:25 22:55 『冷たい風』 イラン Q&A取材  シャンテ2
Q&A:モハッマド・エスマイリ(監督/脚本)、モハマドマフディ・ヘイダリ(俳優)
イスラエルとのことでイランからのフライトがほとんど飛ばない状態で、やっとのことで来日された二人。TIFFでの上映とQ&Aに感無量のご様子でした。
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Q&A報告は、こちらで!
主任捜査官が、関係者に次々に聴取するのを、捜査官から観た証言者をどれも同じローアングルで撮っていることについて質問がありました。監督はもともと撮影監督で、ローアングルで撮ると人物が大きく見えること、また低予算で短期間に撮る必要もあったのでカメラの位置を同じ高さに決めて撮影したとのこと。
遅い時間にもかかわらず、ほぼ満席。友人知人数人に会いました。

11/2(土)
★10:00 12:06 『娘の娘』 コンペティション
台湾
監督:ホアン・シー
台北に暮らすジン・アイシャ。若い頃にニューヨークで生み、里子に出した娘エマと数十年ぶりに対面する。その後の結婚で産んだ娘ズーアルは、突然現れた姉に戸惑う。そのズーアルが同性のパートナーと体外受精のためにアメリカに渡るが、交通事故で亡くなったとの報に、アイシャはアメリカに飛ぶ。アイシャは受精卵の保護者となり、それを引き受けて代理母を探すのか、放棄するかの選択を迫られる・・・
始まる前に、審査員席に向かうトニーレオンをお見かけすることができました。
映画祭も中盤。ちょっとお疲れのように見えました。 後にも先にも、生のトニーを拝めたのは、この時だけでした。
映画の結末が気になったのですが、Q&Q取材のため、途中で退席。

●11:29-11:59『10セカンズ』 QA取材 
トルコ
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ジェイラン・オズギュン・オズチェリキ(監督)、ゼイネップ・セジル(撮影監督)
プレスは、公式以外、私一人でした。 Q&Aは英語で。
聞き手: ウィメンズ・エンパワーメント シニア・プログラマー アンドリヤナ・ツヴェトコビッチさん
Q&A報告はこちらで!
もともとドラマだったものが、コロナで打ち切りになり、脚本を書いた男性から映画化してほしいと依頼があり、1部屋での物語を構築。娘が退学処分を言い渡された裕福な母親が、進学カウンセラーの女性に娘を復学させろと詰め寄り、丁々発止の会話が展開します。撮影監督には、大胆な撮影方法についての質問が投げかけられました。
Q&Aが終わって、トルコ語通訳の野中恵子さんが客席にいらして、「すごかったね〜」と。

この後、交流ラウンジで4時半からの『シマの唄』の監督取材の準備。
昨夜の『シマの唄』のQ&Aを取材できなかったので、この日の『シマの唄』が終わる頃にシャンテに行き、観ていた友人たちにQ&Aで出た話を聞きまいした。

●16:30-17:00『シマの唄』 個別取材 
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ロヤ・サダト(監督/脚本)、アジズ・ディルダール(脚本/俳優)
ご主人のアジズさんも、インタビューに同席いただけることになりました。
最初に、1978年末にソ連がアフガニスタンに侵攻する前の、古き良き時代のアフガニスタンのことを、駐在していた人たちや、旅した人たちから聞いていたことをお伝えしたら、平和な時代を知っている人に映画を観ていただけて嬉しいと監督たち。 ソ連侵攻以降のアフガニスタンは、戦争やターリバンの強権政治のイメージしか皆さん持っていないのでと。
「旅の指さし会話帳」をお見せして、かつてアフガニスタンへの旅にあこがれた人たちがいたことをお伝えしました。
インタビュー報告はこちらで!

●17:57-18:27 『昼のアポロン 夜のアテネ』 アジアの未来
トルコ  
Q&A取材。
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エミネ・ユルドゥルム(監督/脚本)、エズギ・チェリキ(俳優)、バルシュ・ギョネネン(俳優)
トルコ語通訳:野中恵子さん
映画をまだ観てなかったので、質問の内容から物語を想像するしかありませんでした。
古いシデの遺跡を舞台に繰り広げられる幽霊と交流する話らしい・・・   

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映画を観ていた友人たちとシャンテ地下のお蕎麦屋さんで天丼セット
友人たち、この映画についてあまり語らず・・・でした。私が観る前だからの遠慮でもなかったようです。

11/3(日) 
★ 10:30 12:22 『昼のアポロン 夜のアテネ』
トルコのエーゲ海沿い、シデの遺跡に向かうバス。女性の後ろから話しかけてくる青年は、どうやら幽霊。昨日のQ6Aを聞いていたので、ぴんときましたが、生きている人間と変わらない姿で、主人公の女性からは見えるという設定なのでした。
ヒロインの母の名はイブ。父はアダム。孤児院で育った子は、そう書かれるのと。
シデの遺跡でガイドをしてくれた女性が、実は母親。そして、母親にも幽霊が見えるのです。遺伝したのねと。 ちょっと不思議な物語でした。

この後、ミッドタウン日比谷で取材なので、シネスイッチ銀座から移動したら、ものすごい人! ゴジラのイベントがあるとわかりました。 シャンテあたりで食事と思いましたが、とても無理そう。 
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交流ラウンジに入ることができたので、豚角煮塩麴ランチをいただきました。 お蔭様で静かな場所でインタビューの準備ができました。

●14:10~14:40 『冷たい風』 個別取材  @6FSTUDIO
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モハッマド・エスマイリ(監督/脚本)、モハマドマフディ・ヘイダリ(俳優)
監督の素敵な奥様もいらしてました。
証言者が次々に出てきて、その話の中に出てくる人物の整理が大変だったとお伝えしたら、「最初の15分に出てくる大勢の人たちのことは忘れていい。次の15分も忘れていい」とのこと。え~ 一生懸命、覚えたのに・・・ つまりは、肝心なことは後半にあるということ? 
イランの西部にもあるノアの箱舟伝説も織り込んだ物語。 
インタビュー報告はこちらで!

インタビューをしたミッドタウン日比谷6階のSTUDIOのすぐそばで、引き続きトークイベント。
始まる前に、ロヤ・エシュラギさんに、またお会いすることができました。

★15:30 17:30 福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト× 東京国際映画祭 連動企画 スペシャルトークイベント BASEQ 
来日予定だったタル・ベーラは、直前に対象を崩したからと来日中止。
小田香監督によるタル・ベーラ マスタークラス記録映像のダイジェスト版(10分)が流されました。(3時間版が、この日の午前中に上映されたのですが、残念ながら観られず)
「人間を撮れ」とタル・ベーラ。今生きている人の生活、話を聞くことも大事と。「人を見ろ」がポリシー。
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指導を受けていろいろな国の受講者が作った短編は、それぞれのアプローチが違うけど、ぞれぞれが正しいと。
受講生の一人としてロヤ・エシュラギさんも発言。

この後、スペシャルトーク。
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登壇者:小田香(フィルムメーカー/アーティスト)、小川真司(プロデューサー)、西ヶ谷寿一(プロ
デューサー)、根本李安奈(相双フィルムコミッション代表)
タル・ベーラ監督との製作過程を知ることのできる話の数々でした。
小田香監督の「タル・ベーラはモノの言い方が直接的。誤解されるといやだなと思ってました」という言葉に、かつて来日された時のタル・ベーラ監督の話ぶりを思い出しました。確かに・・・

●18:07-18:37『春が来るまで』 Q&A取材 シャンテ2
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アシュカン・アシュカニ(監督/プロデューサー/脚本)、サハル・ソテュデー(俳優)
ワールドプレミアを観客と一緒に観ることができて嬉しかったと二人。
物語は、夫が自殺してから24時間ですが、撮影には3年かかったとのこと。妻サマン役のサハルさんは、時間を置いての撮影で、前との繋がりを考えなければいけなかったと語りました。
イランでも自殺が増えていて、パートナーが自殺すると、残った人は「いいパートナーじゃなかったから自殺した」という捉え方をされるとサハルさん。「家族は自殺したことを隠しますが、お葬式は亡くなった人への敬意を持って行います」と監督。 
Q&A報告はこちらで!

Q&Aが終わって、日本在住のイラン人の友人アリさんたちに会い、あまり時間はなかったのですが、トロ政でお刺身などをいただきました。

●19:40 20:10『対外秘』 舞台挨拶  角川シネマ 
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イ・ウォンテ(監督)、チョ・ジヌン (俳優)、キム・ムヨル(俳優)
開始5分前に到着したら、公式カメラマンの後ろの席しかもう空いてなくて、お蔭で2列目ながら正面!
国会議員選挙を巡る権力闘争という、どろどろした内容ながら、舞台挨拶は実に楽しいものでした。 党の公認を選挙直線に取り消された役を演じたチョ・ジヌンさんは、日本での初の舞台挨拶。テンションあがってました。
『対外秘』舞台挨拶報告


●20:45 21:15 『不思議の国のシドニ』 Q&A取材 丸の内TOEI 
12月13日よりの公開を前に、特別上映。
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登壇:イザベル・ユペール(俳優)、伊原剛志(俳優)、エリーズ・ジラール(監督/脚本)
夫を亡くし、喪失感を抱えるフランスの女性作家シドニが、日本人編集者の溝口とともに日本各地を旅する中で、新たな人生の一歩を踏み出す物語。(未見)
『ベルヴィル・トーキョー』のプロモーションで初来日したエリーズ・ジラールが、日本に恋をして出来上がった映画。
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イザベル・ユペールさんは、脚本を読んで、文章が素晴らしく、シンプルでいいなと即決。伊原剛志さんは全編フランス語。「まったく出来ないので、日本語で」と、フランス語のセリフをZOOMなどで指導してもらいながら4か月かけて覚えたとのこと。さらにコロナ禍で4か月撮影が延びたので、十分準備することができたそうです。
『不思議の国のシドニ』舞台挨拶報告

11/4(月)
★13:05 15:16 『小さな私』 コンペティション
中国 監督:ヤン・リーナー
脳性麻痺を患う青年リウ・チュンフー。大学受験を控えているが、祖母が力を注いでいる舞台を手伝っている。祖母はチュンフーを積極的に社会に関わらせようとするが、チュンフーの母は不安を隠せない…。
『少年の君』でスターとなったイー・ヤンチェンシーがチュンフー役。最初に映る歩く足元も、ほんとうに障がいのある人のようで、びっくりでした。脳性麻痺という障がいを持っていても、健常者と変わらない心を持っていることを教えてくれました。

どこかに遅いランチを食べに走ろうと思っていたのですが、名古屋のミッキーさんからかんぴょう巻きをいただき、人心地。

★16:10 18:13 『士官候補生』 コンペティション
カザフスタン  監督: アディルハン・イェルジャノフ

士官学校の歴史教師として赴任してきたシングルマザーのアリーナ。息子のセリックを士官学校に入学させるが、女の子のようだと生徒たちにいじめられ、校長からも異質だと退学を言い渡される。アリーナがセリックの父親が軍隊の高官だと伝えると、復学を許される。我が子がこの学校で自殺したという女性から、セリックも自分の息子と同じ道をたどるから逃げてと言われる…
ホラー仕立てで、士官学校や軍隊の腐敗を描いた物語。期待が大きかったので、ちょっとがっかり。

松屋で焼き鳥弁当を3割引きでゲット! 全部食べたら、また寝てしまうので、半分だけいただきました。

★19:05 21:01 『彼のイメージ』 コンペティション
フランス  監督:ティエリー・ド・ペレッティ
コルシカ島の地方紙で働く写真家のアントニアが交通事故で死亡し、葬儀に家族や友人たちが集まる。写真を撮るのが好きなアントニアは、18歳だった1980年に、コルシカ独立運動に身を投じているパスカルと恋に落ちる。彼が所属する「コルシカ民族解放戦線」の活動は過激化し、パスカルは投獄と釈放を繰り返す・・・。
アントニアの18歳からの20年を、コルシカの社会状況を背景に描いた物語。
コルシカで、こんなに激しい独立運動が行われていたとは知りませんでした。
ただ、映画としてはちょっと物狩りないものを感じました。

11/5(火)
★11:10 14:36 『スウェーデン・テレビ放送に見るイスラエル・パレスチナ 1958-1989』 ワールド・フォーカス
スウェーデン/フィンランド/デンマーク
監督:ヨーラン・ヒューゴ・オルソン
スウェーデンの国営テレビ局SVTが所蔵する膨大な映像素材。その中から、イスラエル=パレスチナ問題に関わる映像を、イスラエル建国直後から、年を追ってイスラエルとパレスチナ解放戦線の間でつかの間の和解が成立しかけた1989年までを編集したドキュメンタリー。
公共放送がどのように伝えたか、「公正に伝える」というスタンスから、イスラエル、パレスチナ、双方のことが語られています。 そこから見えてくるものを、ちゃんと捉えれば、今の事態がなぜ起こっているのかもおのずから見えてくると思いました。 206分の長尺ですが、ぜひ多くの方に観てほしい映画です。

★15:45 16:56 『ファイヤ―・オブ・ウィンド』 ワールド・フォーカス
ポルトガル/スイス/フランス
監督:マルタ・マテウス
ポルトガル南部、アレンテージョ地方の収穫期のブドウ園で働く農民たち。ある日、暴走した黒い牛が現れたため、農民たちは高い樫の木に上って枝に身を隠す・・・。
用事があって途中で出る予定ではあったのですが、あまりにずっと木の上にいる場面が続くので、予定より早く退出。後で、最後まで観た友人に顛末を聞いたら、ずっと木の上で、最後の最後の方で、農民たちの記憶が20世紀半ばのサラザールによる独裁政権の時代に遡っていったのだそうです。 シュール過ぎ?

●17:20-17:50 『春が来るまで』 個別取材 @6FSTUDIO 
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アシュカン・アシュカニ(監督/プロデューサー/脚本)、サハル・ソテュデー(俳優)
数多くの映画の撮影監督を経て、初めての長編映画デビュー。モハンマド・ラスロフ監督に、完成した映画を見せたところ、20分くらいの沈黙のあと、「誰の影響も受けていない映画だね」と言われ、これからも自分の気持ちに従って撮ろうと思ったと嬉しそうに語っていました。
サハルさんも、短編をすでに数本作っているのですが、今後、長編映画のアイディアが2本あるとのこと。女優と両立で監督を目指しているようです。
インタビュー報告はこちらで!

●19:00~19:45 黒澤賞 授賞式  帝国ホテルにて 
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受賞者: 三宅 唱監督、フー・ティエンユー監督
黒澤賞 授賞式報告はこちらで!
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開始前に、選考委員である山田洋次監督に、『本日公休』のフー・ティエンユー監督や、ウィメンズ・エンパワーメント シニア・プログラマー アンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんが挨拶されていました。
安藤チェアマンより: 「黒澤明の名前をご存知ない方が世界で増えていることから、3年前に黒澤賞を復活させました」との言葉があって、時は流れているのだなぁ~と思いました。
また、かつては世界の映画界に貢献した方に贈られてきたものが、最近は、未来を託す方に移ってきているとのこと。
山田洋次監督の大ファンと語るフー・ティエンユー監督、ほんとうに嬉しそうでした。

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授賞式が終わって退出する時に、アンドリヤナさんと、インドネシアの女優で監督のクリスティン・ハキムさんがいらしたのでお声をかけました。「東京国際女性映画祭でクリスティン・ハキムさんにお会いしたことを懐かしく思い出します」とお伝えしたら、ハキムさんもとても嬉しそうでした。


11/6(水)
★10:40 12:41『マルチェロ・ミオ』 クロージング作品
フランス/イタリア  監督:クリストフ・オノレ
今年のコンペティション部門審査員の一人である女優のキアラ・マストロヤンニが主人公。
ある夏の日、鏡を見ると、そこには父マルチェロ・マストロヤンニの顔が映っていた。その日からキアラは、父の人生を生きるべきと自分に言い聞かせ、父のような服を着て街を歩く・・・。
キアラの実の母親であるカトリーヌ・ドヌーヴや、ファブリス・ルキーニ、メルヴィル・プポーなど、多くの俳優たちが自分自身を演じています。
冒頭、トレビの泉に飛び込むキアラは、カトリーヌ・ドヌーヴそっくりでした。 その後の、男装のキアラ、さて、父に似ているか?  なんとも、あっぱれな映画でした。

●18:50~ 受賞者記者会見 LEXUS MEETS...  
「審査委員+受賞者記者会見」に取材申し込みし、やっとトニー・レオンに会えると楽しみにしていたら、前日、「※審査委員記者会見はキャンセルとなりました」のお知らせ。がっかりでした。
でも、受賞者のお話を聴けるのは貴重な機会。 この記者会見は写真を撮ってはいけないのですが、撮っている取材者が何人もいました。日本語が通じない人たちだったかも。

まだ観ていない『敵』が、東京グランプリ/東京都知事賞、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠。
パリ大学ソルボンヌ在学中に、フランス映画『パリの中国人』(74)で俳優デビューした長塚京三さん。『敵』では、かつて大学でフランス文学を教えていた元教授という役どころ。ひょんなことからパリで映画に出演したのが、いつのまにか俳優人生の始まりだったと語りました。
吉田大八監督は、「映画は俳優を観にいくもの。だから僕の映画も俳優を観に来てほしい。ですので、男優賞が取れたのは嬉しい。監督賞は自信がない。作品賞は関わった皆のもの」と謙虚でした。

アジアの未来作品賞は、トルコの『昼のアポロン 夜のアテネ』。 私的には、もう一つしっくりこなかったのですが、トルコの作品が賞を取ったのは嬉しいので、良しとしましょう。
エミネ・ユルドゥルム監督に、「今回出品されているもう一本のトルコ映画も女性監督ですが、トルコでは以前に比べて女性監督や映画人は増えているのでしょうか?」とお伺いしました。「トルコでは家父長制が強くて、少しずつ女性の活躍も増えていますが、女性監督には予算がなかなかつかないとか、まだまだの状況です」とのお答えでした。

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第37回 東京国際映画祭の最後の取材も終えて、ミッドタウン日比谷の地下2階に下りたら、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の特設コーナー。衣装が素敵でした。

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★サイズの大きな写真や、ここに載せきれなかった写真はこちらで!
Facebook写真集 第37回 東京国際映画祭 取材記録 景山咲子
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