イラン映画『死神の来ない村』レザ・ジャマリ監督マスタークラス

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2月19日、2019年の東京国際映画祭のアジアの未来部門で国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞した『死神の来ない村』のレザ・ジャマリ監督が来日し、映画の上映とマスター・クラスが開催されました。
実は、日本招聘は、特別賞受賞の副賞。コロナ禍でなかなか実現できなくて、5年越しでやっとお招きすることができたとのこと。

会場は、新百合ヶ丘駅近くの日本映画大学。
入口で受付をしていたら、ショーレ・ゴルパリアンさんとレザ・ジャマリ監督がちょうど到着。5年前、個別インタビューは出来なかったのですが、Q&Aが終わってから、会場の外でお話したので、顔を覚えていてくださって、嬉しい限り。

『死神の来ない村』原題Piremardha nemimirand、英題Old Men Never Die
45年間ひとりの死者も出ない村はいまや老人ばかり。100歳のアスランと仲間たち
は、もはや自殺しかないと考え始める・・・

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映画の上映後、1時間にわたって質疑応答の時間。
さすが、日本映画大学らしい、質問が出ました。
(後ほど加筆します)

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最後に記念撮影。

★この日は、私の誕生日でした。監督来日は、何より嬉しいプレゼントでした。

第36回東京国際映画祭(2023)観て歩き(暁)

宮崎暁美

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東京国際映画祭は2021年から六本木を離れ、日比谷、有楽町、銀座地区での開催になった。六本木からこちらに移って3年目、やっと映画祭の周り方にも慣れてきた。
あいにく2020年からコロナの影響で、海外からのゲストの来日は難しく、オープニングや授賞式も縮小の形で行われていたけど、今年(2023)は、4年ぶりに海外からもゲストが来日し、通常の形にもどった。オープニングのレッドカーペットもたくさんのゲストが参加するとのことだけど、撮影のためには何時間も立ち通しで現場に張り付いていないといけないようだったので、今年はクロージングにかけようと思っていたら、今年の取材は抽選になり、抽選に外れてしまった。1989年から約30年、ほとんどの年、クロージングの写真を撮ってきたのにとがっかり。長らく写真撮影をしてきたこととか全然考慮されず、ただ抽選というのもなあと思った。1媒体一人というようなことだったのかしら。
クロージングだけでなく、取材申請が通っていなかったり、抽選に外れたりとかみ合わず、今回はあまり写真が撮れなかったのが残念。特に顧暁剛(グー・シャオガン)監督の作品の舞台挨拶、Q&Aに参加できなかったのはとても残念だった。それでも黒澤明賞を受賞した「グー・シャオガン監督と山田洋次監督」「モーリー・スリヤ監督とヤン・ヨンヒ監督」の対談だけは取材することができた。それにしても撮影と作品鑑賞との兼ね合い、時間調整はなかなか難しい。
シネスイッチ銀座まで有楽町駅から歩いて20分くらいかかる私にとって、今年はシネスイッチ銀座でのプレス試写を少なくし、駅近くの会場で上映される作品を多く選んだ。また当日券が残っている作品については、有楽町駅前でチケットを買い、何本か観ることができ、結局、中華圏の作品を中心に15本の作品を観ることができた。去年はフィルメックスと重なっていたので、同じ15本でも、東京国際は7本しか観ることができなかったけど、今年は東京国際映画祭に集中できた。その中から数本紹介します。

ガラ・セレクション
『満江紅(マンジャンホン)』
原題:滿江紅 英題:Full River Red
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)特別功労賞
出演
張大役:沈騰(シェン・トン)
副司令官:易烊千璽(イー・ヤンチェンシー)
宰相秦檜の部下:張毅(チャン・イー)
2023年中国 157分 カラー 北京語 日本語・英語字幕
ジャパン・プレミア
Poster_Full_River_Red「満江紅(マンジャンホン)」©2023 Huanxi Media Group Limited(Beijing) and Yixie(Qingdao)Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved._R.jpg
Ⓒ2023 Huanxi Media Group Limited(Beijing) and Yixie(Qingdao) Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved.

長年の映画界への貢献を評価し、特別功労賞が授与された張芸謀監督の最新作。今年(2023)、中国の旧正月に公開され、大ヒットを記録。
非業の死を遂げた南宋の武将・岳飛が残した詩「満江紅」をモチーフに、南宋朝廷内部に渦巻く謀略を描いた壮大なスケールの歴史劇。金国と会談する筈が、金の使者が殺害され密書が消えた。この謎を軸に騙し騙され、駆け引きと知恵比べ。謀略の数々!
コミカルでテンポよいコメディかと思いきや、少しづつ張られた伏線と、それが回収されるラストは圧巻。中国の歴史をよく知らない私でも、最後は感動した。
主人公は、宰相より消えた密書を夜明けまでに探し出すように命じられる。猶予は2時間。はたして見つけられるのか? はたまた、その密書とはどういうものだったのか…。廷内の石壁の通路を兵士たちが走ったり、歩きまわって探しまわる姿を上から撮ったり、横から撮ったり、前から撮ったりと、整然とした兵士たちの動きの様式美は、いかにも張芸謀監督らしい。また、渋い色の色合いは、一見、これまでの赤を基調とした派手な色使いの張芸謀調とはかけ離れているようで、色彩の美さという意味ではやはり張芸謀調ともいえるのでなないだろうか。そして音楽がまた意表をつく。京劇風の音楽をラップ調で演奏したりして、新しい試みだと思った。
「製作のきっかけは、『紅夢』の続編を撮ろうと6年前、山西省に撮影用の屋敷を建てたこと。その続編は脚本がうまくできず止まっていたら、現地の行政から映画を作ることを催促され、そこから始まった企画。『紅夢』と全く違う物語を撮ろうと思ったけど、脚本は4年かかった」と監督は語っていた。

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左 張芸謀監督 第36回東京国際映画祭にて 撮影:宮崎暁美


コンペティション
『雪豹』 東京グランプリ
原題:雪豹 英題:Snow Leopard
監督:萬瑪才旦(ペマ・ツェテン) 
出演
金巴(ジンパ)
熊梓淇(ション・ズーチー)
才丁扎西(ツェテン・タシ)
109分カラーチベット語、北京語日本語・英語字幕2023年中国

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チベット・ニューウェーブの先駆者であり、本年(2023)5月8日に53歳に急逝したチベット人監督ペマ・ツェテンの最後の作品のひとつ。舞台は白い豹が生息するチベットの山村。若いチベット僧と豹との向き合いをファンタジックな設定の中に描き、人間と動物の共生の可能性、地元の人にとっての保護獣の意味などを問う。
チベット自治区の隣、青海省から車を飛ばす地方局のレポーター(ション・ズーチー)とカメラマン。レポーターの友人のチベット僧(ツェテン・タシ)=ニックネーム“雪豹法師”から、山間の村にある雪豹法師の実家に保護動物として知られる雪豹が現れたという連絡を受け、それを撮影しようとしていた。現場に到着した彼らを“雪豹法師”の家族は出迎えてくれるが、羊の囲いの中には9頭の羊を殺めたという雪豹がいた。1000元を超える損害が出たから「雪豹」を殺すと激怒する僧侶の兄(ジンパ)、動物は逃したほうがいいという父親。それを傍観するメディア。そんな状態のなか、役人と警察までがそこに現れる。自然の中で暮らす人と、自然保護をかかげた人たちの思いのすれ違い。この地で生きる人たちよりも、自然保護動物への施策を優先させようとする人たちの言い分により激高する兄。そんな中、“雪豹法師”は雪豹に近づき、まるで会話をするように対峙する。双方の言い分を見事な会話劇と大自然の映像で魅せる。この地に生きる人々の思いに関係なく、自然保護を進めようという人たちへぶつけた作品ともいえる。

チベットの雄大な自然のなかで営まれる動物と人間の生きるためのたたかいは、切実なドラマを生み「満場一致」でグランプリになったという。他にも、監督の新作は、『陌生人~Stranger』(見知らぬ人)という作品があるらしい。こちらもぜひ観てみたい。
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2015東京フィルメックス 『タルロ』最優秀作品賞受賞時
ペマ・ツェテン監督 撮影:宮崎暁美

ペマ・ツェテン監督は、チベット人映画監督の先駆者的存在。これまでに国内外の映画祭でたくさんの賞を受賞している。東京フィルメックスでも何作品か上映され、『オールド・ドッグ』(11)、『タルロ』(15)、『羊飼いと風船』(19)で、東京フィルメックスグランプリを3度受賞している。
チベットの後進監督の育成にも力を入れ、2021年の第34回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された久美成列(ジグメ・ティンレー)監督(子息)の長編デビュー作品『一人と四人』ではプロデューサーも務めた。
私は『オールド・ドッグ』(2011年)、『タルロ』(2015年)、『轢き殺された羊』(2018年)、『羊飼いと風船』(2019年)を観たことがある。
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2018東京フィルメックス 『轢き殺された羊』上映後のトーク
左 ペマ・ツェテン監督とジンパさん 撮影:宮崎暁美


コンペティション
『西湖畔に生きる』(原題:草木人間)
英題:Dwelling by the West Lake
監督・脚本:顧暁剛(グー・シャオガン)黒澤明賞受賞
脚本:郭爽(グオ・シュアン)
音楽:梅林茂
出演
目蓮役:吴磊(ウー・レイ)
呉苔花役:蒋勤勤(ジャン・チンチン)
董萬里役:閆楠(イエン・ナン
王社長役:王宏偉(ワン・ホンウェイ)
ワールド・プレミア

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©Hangzhou Enlightenment Films Co., Ltd.


2023年 中国 115分 カラー 北京語 日本語・英語字幕

2019年の東京フィルメックスで、審査員特別賞を受賞した顧暁剛(グー・シャオガン)のデビュー作『春江水暖〜しゅんこうすいだん』(19)を観て感動。まだ若いのに熟練の監督作のような映画を作った監督に感心した。フィルメックスでの上映の時、引き続き第二弾を作ると言っていたので新作に期待していた。その新作。

浙江省杭州の西湖畔。中国緑茶の産地として有名な西湖の沿岸に暮らす母と息子の関係を軸に、マルチ商法など経済環境の変化の中で揺れる家族の姿を美しい風景の中に描いた。
10年前に父が行方不明になり、母の苔花と生きて来た青年目蓮。父を探すためにこの地で進学。卒業を控えて、今は求職活動をしている。
息子と生活するため、ここ杭州にやって来た母の苔花は茶摘みで生計を立てていたが、茶商の錢と恋仲に。しかし、家族や仲間に知られてしまい、茶摘みの仕事ができなくなり、苔花は同郷の友人 金蘭に誘われ、彼女の弟が取り仕切るイベントに参加。マルチ商法に取り込まれ、詐欺まがいの仕事に参加するようになってしまった。この仕事にのめりこみ、お金を稼ぐようになった母は、自信を持つようになり、活発に。息子の目蓮は母に、だまされていると言うが、苔花は聞く耳を持たずだった。
1作目の『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の表現方法とは違う方法で2作目を描いたが、「様々な変化を迎える中国社会の中で精いっぱいに生きる家族の変遷」という、最初の作品への思いはこの作品の中でも生きている。

監督はトークの中で原題について、「『草木人間(そうもくじんかん)』は“茶”という字を分解したもの(草と木の間に人が入ると茶という字になる)、この映画ではお茶は作品の重要な要素です」と語っている。そして「この作品を作っている時、人というのは天と地の間の草木のようだと感じました。路傍にはえている草、自分が育つところも選べない小さな草木のよう。そんな草木でも太陽の方を向き生命の意義を見出す。草木は生きとし生けるものの象徴。庶民にとっての生活や努力に対する希望の象徴です。山水画の雰囲気を残しつつ、マルチ商法のような社会の問題をどう描くかは挑戦でした」と語っていた。
中国には「目連救母」という言葉があります。地獄に落ちた母を息子目連が救い出そうとする話しです。その「目連救母」を題材に、地獄をマルチ商法に変え、人の世とどう結びつけるかを描いたそうです。

映画上映後のトークには参加できませんでしたが、黒澤明賞受賞記念として行われた「山田洋次&グー・シャオガン対談」に参加しました。その模様はこちら
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今回の映画祭、まだまだ観ていますが、この3本の作品を観ることができただけでも、有意義な映画祭でした。

東京国際映画祭コンペティション部門『ゴンドラ』Q&A報告 (咲) 

第 36 回東京国際映画祭 コンペティション部門
『ゴンドラ』Gondola
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監督:ファイト・ヘルマー
出演:マチルデ・イルマン、ニニ・ソセリア
2023年/ドイツ・ジョージア/82分/カラー/セリフなし字幕なし

*物語*
ゴンドラに棺が乗せられ、山の下に運ばれる。黒い喪服の女性が見送る。ゴンドラの車掌の男性が亡くなったのだ。村の人たちが皆、棺を見守る。
若い女性の車掌が着任する。すれ違うゴンドラのもう一人の女性の車掌との間に淡い恋心が芽生える・・・


◎10月25日 (水)10:20からの上映後のQ&A  @TOHOシネマズ シャンテ スクリーン1
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登壇ゲスト:ファイト・ヘルマー(監督/脚本/プロデューサー)、ニニ・ソセリア (俳優)ケイティ・カパナゼ(アシスタント・ディレクター)
司会:安田祐子

安田:午前中からとてもいい気持になれる映画でしたね。皆さんいかがでしたでしょうか?

監督:ようこそおいでくださいました。2~3年で作った映画で、どんな反応をされるか、観客にみせて初めて意義あるものかどうかがわかります。これまで1回上映しまして、とてもポジティブなリアクションがあって、東京国際映画祭でワールドプレミア出来て嬉しいです。

安田:やっとニニさんの声が聞けますね。

ニニ:ハロー。出来上がった映画をここで初めて観ました。大きな機会をありがとうございました。 すぐにでも東京に戻ってきたいほど東京が気に入りました。

ケイティ:東京に来られてほんとに嬉しいです。初めての東京です。3日になりますが、素晴らしい町で、観客も素晴らしい。食事も美味しくて、早くまた戻ってきたいです。

安田:事前に台詞がない映画とわかっていた方もいると思いますが、途中から台詞がないことに気づいた方も、台詞がないことが全く気にならなくなったのではないでしょうか?
監督は最初から台詞のない映画にしようと思っていたのでしょうか?

監督:できるだけ映画に言葉を使わない方針です。映画のエッセンスは、イメージ、音、映像です。会話があったとたん壁が出きてしまいます。字幕やアフレコが必要になります。イメージだけにすると、感じ取れます。観客の皆さんの気持ちがオープンでないとできないことです。受け入れられないという方もいると思います。OKな方とはお友達です。

安田:ニニさんに。オファーが来たときに、台詞がないという映画はいかがでしたか?

ニニ:脚本を渡された時に、台詞がないのは初めてでしたので、不思議だなと戸惑いました。撮影が開始されますと、指示がはっきりしていて難しさはなかったです。
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安田:女優二人がジョージアの方で、ロケーションもジョージア。ケイティさんはジョージアで撮影することで大変だったことは?

ケイティ:女性どうしの愛が描かれていますが、ジョージアでもほかの国でも受け入れてくれない人たちがいます。これからジョージアで公開される時に受け入れられるかどうか、受け入れてもらうために闘わないといけないと思っています。(大きな拍手)

◆会場から
―(女性)ロマンティックで素敵な映画で感動しました。日本ではジョージア映画祭がおこなれる位、人気です。ジョージアの映画で影響を受けたものやお気に入りの映画は?

監督:最初の長編映画『ツバルTUVALU』(1999)がジョージアで上映された時に、何人もの監督にお会いできました。オタル・イオセリアニと、ナナ・エクチミシヴィリには特に影響を受けました。大勢のジョージアのスタッフとも仕事をしています。
『ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』(2018)もジョージアとアゼルバイジャンで撮影しました。アゼルバイジャンで撮影していた時に、ジョージアの有名な俳優さんがレストランに入ってきて、皆が立ち上がってレスペクトしていました。ジョージアには映画を愛する人が多いと思いました。

ニニ:ジョージアの映画をたくさん観ています。数か月前に観た『Room of Mine』がとても気に入っています。

ケイティ:私もたくさん観ています。古い映画が特に好きです。ナナ・エクチミシヴィリ監督の『My happy family』も好きです。
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―(女性)ファンタスティックな映画をありがとうございます。ゴンドラから見える風景、主に建物ですが、羊が移動していくときに3人の女性が手を振っていたそばの小さな造形物がたくさん並んでいました。木を切っている家など、実際のジョージアの風景でしょうか?

監督:すべて実在するものです。少し変えたところもあります。ゴンドラの内部、家はフーロの町の伝統的なものです。大きな問題は、この村にはゴンドラが一つしかないことでした。
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クタイシには二つのゴンドラがあるのですが、黄色だったので、赤に塗り替えて、すごいロウアングルで2台のゴンドラを撮りました。(椅子に座ったまま、下から撮った時のポーズをしてくださいました)
家が遠くにあるのが問題でした。すぐそばに家があるマウリポリに撮りにいったのですが。そこのゴンドラは青だったので赤に塗りましたが、雨ではげて塗り直しました。
そこの住民には、すごく協力してもらいました。予算が少なかったので、ほんとに助かりました。
もう一つストーリーがあって、ロケ地に行ったら、トラックが来て、ゴンドラの駅を新しいものに変えると言われました。ヴィム・ベンダース監督も「とにかく早く撮らないと」とおっしゃっています。古いままの駅を撮りたかったので、とても急いで撮る必要がありました。

― ニニさんは多才ですね。鍵を開けることができるし、楽器は吹けるし、いろんなことができますね。どのエンターテイメントが大変でしたか?

ニニ:実は高所恐怖症でしたので、ゴンドラでの演技が大きなチャレンジでした。鳴れたらゴンドラが自分の家のようになりました。


フォトセッション
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「映画は気に入りましたか?」の監督の質問に大きな拍手が贈られました。
監督が皆さんの写真も撮りたいと、5秒だけマスクを外して立ち上がってくださいと声をかけました。

安田:皆さんも観客の作品の出演者になってしまいました。


東京国際映画祭 審査員特別賞&最優秀女優賞 W受賞『タタミ』 (咲)

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©Juda Khatia Psuturi

コンペティション部門で審査員特別賞と最優秀女優賞をダブル受賞した『タタミ』。
クロージングセレモニーでの喜びのビデオメッセージと、10月29日(日)上映後のQ&Aの模様をお届けします。


『タタミ』 Tatami
監督:ザル・アミール、ガイ・ナッティヴ
出演:アリエンヌ・マンディ、ザル・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマン
2023年/ジョージア・アメリカ/103分/モノクロ/英語・ペルシア語
https://2023.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3601CMP14
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©Juda Khatia Psuturi

*物語*
ジョージアの首都トビリシで開かれている女子柔道選手権に参加しているイラン代表選手イラ。このまま勝ち抜くとイスラエル代表選手と当たる可能性があるため、負傷を装って棄権しろ、との命令をイラン政府から受ける。テヘランにいる両親が政府に拘束されていることを知るが、レイラは出場を諦めない。コーチのマルヤムは命令に従うよう説得するが、レイラの決意は固い。やがて、マルヤムは、自身もかつてソウルで、負傷したと嘘をついて棄権せざるを得なかったことを明かす。レイラと共にスカーフを脱ぎ、自由のために闘う決意をする・・・

『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22)でカンヌ映画祭女優賞を受賞したザル・アミール。本作で、コーチのマルヤム役としてキャスティングされた後、共同監督も務めることになった。



◆第 36 回東京国際映画祭 クロージングセレモニー

審査員特別賞
『タタミ』監督:ザル・アミール、ガイ・ナッティヴ(ジョージア/アメリカ)

講評と発表:國實瑞惠さん(プロデューサー)
スリリングなストーリーを、女性二人の迫真の演技に手に汗を握りしめて、最後まで見入ってしまいました。鮮烈なモノクロ映像で、より緊張感を高める作品『タタミ』に審査員特別賞をお贈りします。

ザル・アミール(共同監督/俳優) ビデオメッセージ
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世界は燃えています。イランは燃えていて、そこに住む素晴らしい人々を殺害しています。パレスチナは燃えていて何千人もの市民の死を嘆いています。イスラエルは燃えていて、人々が殺されています。いたるところで無実の人々が不正により血を流し、私たちが生み出した混乱のなかで無力になっています。しかし、私たちは映画を作りました。この映画は憎しみ合うように育てられた人々の奇跡的な組み合わせにより生まれた物語です。イスラエルとイランの監督が一緒に仕事をするのはとても大変なことです。あらゆる困難を乗り越えて初めて団結し、歴史を作ることになるのです。しかし、映画が公開された時は歴史がこのように動くとは思っていませんでした。この映画にひとつの力があるとすれば、それは闇の時代に光と戯れることでしょう。日本で「柔道」という言葉は柔和な道を意味すると聞きました。それこそが私たちが進みたい道です。未来ある唯一の道です。この映画『タタミ』は日本の名前ですが、普遍的な問題を語っています。憎しみに向き合い敬意を示す勇気をどう持ちうるかです。

ガイ・ナッティヴ(共同監督)ビデオメッセージ
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このすばらしい驚きをザル・アミールと共に感謝したいと思います。私たちはちょうど東京からの長いフライトを終えロスに降り立ったところです。皆さんの反応を肌で感じ、美しい東京で過ごしたすばらしい1週間でした。『タタミ』は日本の伝統へのオマージュであり相手を敬うことでもあります。そして、イスラエル人とイラン人の初の共同作業でもありました。私たちは政府が阻止しようとしていたことを実行したのです。兄弟姉妹になるために協力し合いました。そのことを認めてくださり映画を見てくれて、感謝しています。そして困難な状況の中で生きている私たち全員にとって、それがどれほど重要なことなのかを理解してくれたことに感謝します。この映画が暗いトンネルの中の小さな光明となることを願っています。

最優秀女優賞受賞
『タタミ』ザル・アミール(監督/俳優)

講評と発表:審査委員長 ヴィム・ヴェンダース
この女優さんは、共同監督も務めた方です。『タタミ』のザル・アミールさんです。

ザル・アミール (ビデオメッセージ)
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大きな驚きとともに受賞を光栄に思います。日本で皆さんと一緒にお祝いしたかったです。現在深夜2時です。撮影から帰宅して受賞の知らせを聞きました。これは私にとって特別で大きな意味をもつ受賞です。俳優という職業はアスリートに似ていると思いました。両者とも人前でチャンスやタイミングをつかむ必要があり、身体的にも精神的にも重圧がかかります。イラン人アスリートは常にスポーツと国の狭間に置かれ恐怖を乗り越え、尊厳を失わないようにしています。その立場は私も共感できることばかりでした。この作品に登場するマリアムもそうした一人です。彼女は自由を得ながらも大きな代償を払うことになります。最高のパートナーであるアリエンヌ・マンディがいなければこのような作品にはならなかったでしょう。彼女の献身的な仕事に対する私の感謝の気持ちは計り知れません。改めて最優秀女優賞を受賞できたことを光栄に思います。この賞はイランの女性たちに捧げたいと思います。畳の上、路上、そして家庭の中でひっそりと虐げられている彼女たちへ。本当にありがとうございました。

ヴィム・ヴェンダース コメント:ザル・アミールさんが柔道のコーチとして政府の決断と自由の意志との間で葛藤する姿を演じて、大変信ぴょう性がありました。


◎10月29日 13:20からの上映後 Q&A @丸の内TOEI
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ゲスト: ジェイミー・レイ・ニューマン(プロデューサー/俳優)
予定していたガイ・ナッティヴ監督の参加はキャンセルとなりました。
司会:安田祐子
英語通訳 富田香里さん

ジェイミー:夫で共同監督であるガイ・ナッティヴは、今、アメリカに向かっています。中東で起こっている大きな出来事に関わっています。今日は私一人です。ごめんなさい。

司会:ガイ・ナッティヴ監督は、アメリカに住むイスラエル人です。フランスに住んでいるイラン人であるザル・アミールさんと二人で一緒に映画を作ったのが奇跡的で素晴らしいことです。

ジェイミー:映画の歴史の中で、イランとイスラエルが共同制作したのは、初めてだと思います。それ自体が奇跡的なプロジェクトだったと思います。ジョージアのトビリシの町で秘密裏に作りました。アメリカ大使館とイスラエル大使館が非常に協力してくれました。私たちは二人の子供を連れてトビリシに行きました。すべての俳優の名前は暗号化しました。特に、共同監督で女優でもあるザーラさんは危ないとのことで、トップシークレットで行いました。

会場より
― (女性)モノクロで撮られた意図は? 

ジェイミー:カラーバージョンはなくて、最初から二人の監督がモノクロで撮ると決めました。彼らの人生に色がないからです。いつも白か黒しかないのです。ヘジャーブを着けるか着けないか、運転していい、いけない。その間がないのです。アスペクト比がタイトなのですが、最後の方で難民チームの代表として登場するところで広くなります。
時代を感じさせないものにしたかったのです。50年代に撮られたのかもしれない、80年代に撮られたのかもしれない、今、撮ったのかもしれないという風に。ある意味、時代劇のようにも観てほしかった。自由になったときに振り返って、そういうことがあったのだと雰囲気が欲しかったのです。


司会:何も情報がないまま観ると昔の話なのかなと思うと、スマートフォンでビデオ通話している場面が出てきて、今の話なのだと衝撃でした。今のイランのアスリートたちが直面している現実に胸が痛くなりました。これはいろいろな実話を組み合わせたものなのでしょうか?

ジェイミー:最初のきっかけは、2018年~19年あたりに柔道大会に出ていたイランの男性が、イスラエルと対戦しないよう棄権しろと言われて、大会中に亡命したという事件でした。ガイが脚本を書いているうちに、2022年、マフサ・アミニさんがスカーフの被り方が悪いと注意され、亡くなった事件があり、違う方向に転換していきました。いろいろなスポーツでアスリートが亡命するという事件もありました。政府が強制して、棄権させていることもわかりました。ザル・アミールさんが制作に参加して、女性の権利の話も加わっていきました。

―(女性) 大きなテーマの映画で、日本人にとっても考えさせられるものでした。パリの場面で、子供はいましたが、お父さんの姿が見えませんでした。たどり着けなかったのでしょうか?

ジェイミー:夫も無事たどり着いたので、子供も一緒にたどり着いたのです。 イランに残してきた家族がどうなったのかはわかりませんが。 この映画に出ているイラン人は、皆、亡命していて、イランに戻れません。

―(男性)柔道のシーンも、裏で起きているシーンも緊張しました。試合前に和楽器(和太鼓)が緊張感を高め効果的に使われていましたが、誰のアイディアでしょうか?

ジェイミー:撮影現場はスタジアムで、廊下で監督がモニターで観ていました。撮影監督が柔道のシ-ンを撮影しているときに、監督は日本で戦争の時に使われた太鼓をずっと叩いていました。和太鼓を使うのは最初から考えていました。柔道発祥の地である日本へのオマージュがたくさん入れ込んであります。
レスリングでもボクシングでもよかったのですが、監督にとって、柔道はお互いを尊敬していて、美しい。スポーツマンシップがあって、血が一滴でも出てきたら、試合を中断しています。


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―(男性)権力や古い風習に抑圧されている人間がどう立ち向かうのかは日本人にも他人事でない内容だと思いました。 ザル・アミールさんは、当事者だと思うのですが、どのような意見を?
秘密裏に作られた映画とのことですが、上映にあたって何か圧力はありませんでしたか?

ジェイミー:もともと脚本は、ガイ・ナッティヴが書きました。ザル・アミールさんは、最初、女優としてキャスティングしました。『聖地には蜘蛛が巣を張る』を観て、コーチ役をしてほしいと思ったのです。パリで彼女がキャスティングディレクターをしているとわかって、パリでイラン人俳優をキャスティングしてもらいました。その後、ガイ・ナッティヴが一人では監督できない、イラン人女性の声が必要だと、共同監督を依頼しました。コスチュームも含めて、彼女の経験がこの映画に不可欠でした。
上映への圧力ですが、 ベネチアでは上映できました。来年公開するのですが、イランではもちろん上映できません。今、中東で起こっていることがあって、世界は刻々と変わっています。この映画がどうなっていくのかわかりません。とりあえず完成したことが嬉しいです。


司会:イランの人たちに観てもらえないのが残念ですね。世界中で公開が決まっていますが、日本での公開はどうなのでしょう。

ジェイミー:残念ながら日本の配給はまだ決まっていないのですが、公開できれば嬉しいです。個人的な物語でありながら、普遍的で世界に通じる話だと思います。

司会:皆さま、口コミで応援どうぞよろしくお願いします。

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★10月25日(水)13:05からの上映後のQ&Aレポート(TIFF公式サイト)
https://2023.tiff-jp.net/news/ja/?p=63144

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圧力のある中で、自由と権利を求める物語。確かに力強く、メッセージも明確なのですが、政治的見地から賞をおくった感が否めません。 
レイラが夫とのベッドの中での会話を回想したり、試合前に体重を測る場面で服を脱いで肌を見せたりの場面は、イランではもちろんご法度。こういう表現をしなくてもいい場面なのに、それを敢えて入れたような気がします。両親が人質として拘束されるということも実際あるのかもしれません。政府批判があからさまなのが気になりました。本作の関係者が逮捕されたりしませんように・・・  

報告:景山咲子

ヤンヨンヒ&モーリー・スリヤ(黒澤明賞受賞)対談

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左からヤンヨンヒ監督、モーリー・スリヤ監督


ヤンヨンヒ監督&モーリー・スリヤ監督対談

国際交流基金と東京国際映画祭の共催企画「交流ラウンジ」で10月31日、『ディア・ピョンヤン』(2005)、『かぞくのくに』(2012)、『スープとイデオロギー』(2022)などで知られる梁 英姫(ヤン ヨンヒ)監督と、2017年『マルリナの明日』が世界的に高い評価を受け、2017年の第18回東京フィルメックスでは最優秀作品賞『殺人者マルリナ』(フィルメックスでの題名)を受賞し、今回、グー・シャオガン監督と共に黒澤明賞を受賞したインドネシアのモーリー・スリヤ監督の対談が行われた。
『マルリナの明日』http://www.pan-dora.co.jp/marlina-film/

2人は20年の東京国際映画祭でリモートでの対談をしているが、3年後の今年、念願の初対面を果たした。ヤン監督は、昨日『マルリナの明日』を観て興奮した状態で来ましたと語っていた。

3年ぶりの対談 コロナ禍を振り返った

ヤンヨンヒ監督:前回の対談時、『スープとイデオロギー』の編集を始めた頃で韓国に滞在していました。母の介護もあったので時々帰国していたけど、2年くらい韓国にいました。その間に母は亡くなりました。国籍は韓国なのに暮らしたことがなかったので、この滞在では、韓国の映画業界や社会を深く、いいところも悪いところも見ることができました。

モーリー・スリヤ監督:2000年に撮る予定だったけど、コロナ禍のインドネシアではスタッフを集めることが困難で、新作「This City Is a Battlefield」の撮影を延期。その後『マルリナの明日』に関連したプロジェクトをアメリカで製作できることになり、翌年に渡米して別の作品を撮影しました。アメリカの映画産業はシステマティック。組合もしっかりしているし、腕のあるスタッフをすぐにみつけることができた。みんながチャンスを狙っていて、それが映画業界のアメリカンドリームと言えるのかもしれません。その後インドネシアに戻ったけど、コロナ前と同じ状況には戻っていませんでした。

インドネシアの映画事情ですが、1998年まではスハルノ独裁下で、死に体と言っていいくらい衰退していました。検閲も厳しく公開も難しい状況。今は盛り上がっているけど、まだまだ赤ちゃんのような業界。組合もあるけど、機能していなくて模索状態。

ヤン監督が日本も韓国も大規模予算の商業映画に女性監督が登用されることはほとんどない現状を語ると

スリヤ監督:インドネシアにはスタジオシステムも配給会社もないので、全てがインディペンデント。全国公開になっても、島が7000もあるのでプロモーションが難しい。そして、ホラー映画が多く、全体の半分くらい。女性監督の視点からのホラー映画はひとつのジャンルになっていて商業的にも当たるんです。

映画と配信の両立の難しさなどについて意見交換をした上で、後進へのアドバイスを求められたヤン監督は、「自分を信じるド厚かましさも才能。それが揺らぐと絶対に止まる。撮影が終わっても完成させられない、公開が決まっていても流れるなどいろいろな理由があって着手するのが恐ろしくなる作業だが、自分を信じ、信じられるスタッフとどう出会えるか。そのための精神力、体力も必要」と持論を展開。続けて、「小さな発信でも地球の裏側まで届くという意識を持って、踏ん張るしかない」とエールを送った。

スリヤ監督は、これまでの3作品の作風が全て違うという質問を受けたが「2度同じことはしたくないという思いはあるが、自分としてはそんなに変わっていない。映画学校時代はスタンリー・キューブリック監督にあこがれ、スタイルを踏襲しているところはある。彼の作品のジャンルも多岐にわたっているが、一つの同じ声があると思う」と解説。一つの同じ声の真意も聞かれたが、「言葉にできるなら映画にする必要はないわよね」と煙に巻いた。そして、“パート3”の開催を約束し、二人で固い握手を交わした。