第33回東京国際映画祭2020 (暁) 『遺灰との旅』『トゥルーノース』『チャンケ:よそ者』

新コロナウイルスの影響で、今年は3月の大阪アジアン映画祭に行った後、試写や映画館での映画鑑賞もままならず、4月、5月は自宅で自粛生活。6月から試写や映画には行き始めたけど映画祭は行かず、第1回から通っていた9月の第25回あいち国際女性映画祭はとうとう不参加に。そして10月の東京での映画祭シーズンに突入。今年は、私が参加したい「中国映画週間」、「東京国際映画祭」、「東京フィルメックス」が下記のように重なっていて、どのように観たい作品を組み合わせるかに四苦八苦。

10月27日~11月1日 中国映画週間2020(主に日比谷の映画館)
10月30日~11月7日 第21回東京フィルメックス(主に有楽町の映画館) 
10月31日~11月9日 第33回東京国際映画祭2020(主に六本木の映画館)

情報集めが間に合わないままチケットを買う日が来てしまったし、ネットを使ってチケットを買うのが苦手な私は、いつものようにとりあえず集まった情報から、どうしても観たい作品のチケットを買い、あとは当日の身体の調子や時間の合うもの、当日券のあるもの、そしてプレスで観ることができるものなどを組み合わせて観ることにした。それにしても今年は東京国際とフィルメックスがもろ重なってしまい、どちらをあきらめるか迷いました。10月27日の中国映画週間から映画祭が始まり10月30日までは中国映画週間。東京国際映画祭は11月1日から参加。
ここ10年くらいオープニングのレッドカーペットの写真を撮っているのだけど、今年はゲストが少ないのもあるけど、31日はフィルメックスのほうで原一男監督の『水俣 曼荼羅』(約6時間作品)があるので、こちらの鑑賞を優先した。せめて場所が近ければ行ったり来たりすることができるのだけど、そうも行かず、東京国際映画祭の日、フィルメックスの日というように日替わりで映画祭に参加することに。結局、東京国際映画祭で観た作品は10本だけ。そんな中から印象に残った作品をいくつか紹介します。

『遺灰との旅』 原題「Ashes on a Road Trip」 
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
監督:マンゲーシュ・ジョーシー
2020年製作/インド

インド・プネーに住むカルカニス一族の家長が亡くなり、「遺灰は先祖の土地とパンダルプールの川に撒くように」と遺言を残した。遺言が成就するまでは遺書の封を切ることができない。残された息子が車を運転し、遠くに住んでいる父の弟や妹(叔父や叔母。アメリカやインドでも離れている場所)とともに故郷の川を目指す。指示された遺言があり立つまで遺書の封を切ることができない。叔父や叔母は、実はいろいろ事情があってお金がすぐにでも必要な状態で、一刻も早く遺産の分け前がほしい。しかし、道中、祭りがあったり、車が故障したり、いろいろなことが起こり、なかなか目的地にたどり着かない。コミカルと皮肉、インド的な笑いと涙に溢れたこの道中のファミリー・コメディ。監督自身の体験にもとづいたフィクションとのこと。インドの社会事情、風情、人情、そしてブラックユーモア。

『トゥルーノース』 英題「True North」 
ワールド・フォーカス
監督:清水ハン栄治
2020年/日本・インドネシア合作 英語日本語字幕

ぎりぎり間に合い、もう試写会場が暗くなってから席についたのだけど、内容を何も確認せず、ただ日本とインドネシアの合作ということだけで入ったのに、北朝鮮の強制収容所を描いた作品でアニメ、しかも英語の語り。会場を間違えたかと思った。まさかアニメだと思っていなかったし、日本とインドネシアの作品なのに英語の語りとはびっくり。状況を理解するのに、数分かかった。
北朝鮮の政治犯強制収容所に生きる家族や人々の姿を描いた作品だった。北朝鮮の政治犯強制収容所のことは、収容所内で生まれ育った脱北者シン・ドンヒョクさんを描いた『北朝鮮強制収容所に生まれて』で、北朝鮮には政治犯強制収容所が何ヶ所もあることを知り、シン・ドンヒョクさん本人も来日して話を聞き、北朝鮮の実状にショックを受けたことを覚えている。

そのシネマジャーナル記事はこちら
『北朝鮮強制収容所に生まれて』シン・ドンヒョクさん来日報告
http://www.cinemajournal.net/special/2014/umarete/index.html

このアニメは、その『北朝鮮強制収容所に生まれて』の内容を踏襲したもので、収容所の出来事は真新しいものはなかったけど、絶望の淵で生きる人たちの姿をアニメで描くことで、子供たちにも入ってきやすいかもしれない。
この作品では、60年代の帰還事業で日本から北朝鮮に渡った家族が政治犯として強制収容所に収容され、10年に渡ってここで暮らし、生きてきた日系家族の10年にわたる人間性の探求を描いている。
日本公開の予定があるという。

『チャンケ:よそ者』 原題「醬狗」
英題「Jang-Gae: The Foreigner」
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
監督:張智瑋(チャン・チーウェイ)
北京語、韓国語(日本語・英語・台湾語字幕) 2020年製作/台湾

韓国で、台湾人の父、韓国人の母と暮らす高校生クァンヤン。成績優秀、性格もおだやかな彼だが、同級生からは外人と呼ばれ、いじめられたり、仲間はずれにされてクラスに馴染めない。家では(身体の調子が悪い)父との確執に悩み、学校では外国人として見られることで疎外感に苦しみ、自らのアイデンティティに悩んでいる。ダブルカルチャーを持つ移民2世の青年の苦悩。いじめと初恋、病気がちの父親との確執を織り込んだ辛口の青春映画。
監督のチャン・チーウェイは、クァンヤンと同じく、台湾人の父と韓国人のは母の間に生まれ南アフリカで育ったという。監督自身、このようなことに悩みを持ち、韓国で「ファギョ」と呼ばれている華僑が、長い間直面してきた問題や困難を描いた映画がこれまでになかったから、この作品を作ったという。「海外で生まれ、人生のほとんどを海外で過ごしたので、母国の台湾はもちろん、南アフリカでも韓国でもアウトサイダー。アイデンティティをめぐる葛藤や文化的混乱は、ずっと私の中心にあったことが、この作品を考えた第一のきっかけです」「韓国では、政治的・歴史的な理由によってファギョは韓国の市民権を取得することができず、台湾政府が発行した非市民/非居住者パスポートしか持っていません。つまり、彼らは政治的孤児と言えるのです。韓国ではファギョは中国人と見なされ、台湾では韓国人と見なされます。日本人の皆さんに分かりやすく言うと、在日の問題とよく似ています」と語っている。韓国で政治的孤児と言えるような中華系韓国人がいるとは全然知らなかったし、外人と言われ、差別されているというのも知らなかった。台湾のパスポートでは韓国で生まれて育ったとしても市民権は得られないのか。
今年の大阪アジアン映画祭でも、父母の国籍が違い、二つの文化の狭間で葛藤する子供の姿を描いた作品『燕 YAN』と『フォーの味』が上映されていたけど、これまでもそういう子供はいたと思うけど、そういう映画はほとんどなく、今年になってそういう作品が続いて出てきたというのはどうしてだろう。そういう経験をして育ってきた人が映画製作に関わるようになってきたということなのだろうか。自分は一体何人なのか、自分がいるべき場所はどこか、どこを故国と呼べば良いのか、そういうことを思うようになるのかも。どこかで折り合いつけて生きていくしかないのだろうけど。
ジャージャー麺がうまく取り込まれていると思った。ジャージャー麺は、もともと中華料理だけど、すっかり韓国の料理になっている。それが、韓国に暮らす「ファギョ」といわれる華僑の人々の姿に繋がっていると思えた。

TIFFトークサロン インド映画『遺灰との旅』  (咲)

P1310393.JPG

『遺灰との旅』原題:Karkhanisanchi Waari 英題:Ashes on a Road Trip
監督/脚本:マンゲーシュ・ジョーシー
出演:アメーイ・ワーグ、モーハン・アーガーシェー、ギーターンジャリー・クルカルニー
2020年/インド/マラーティー語/109分/カラー
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
公式サイト:http://ashesonaroadtrip.com/
TIFFサイト:https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP06
©Nine Archers Picture Company, 2020

一家の大黒柱が亡くなった。遠く離れた思い出の地に遺灰を撒くまでは遺書を読むな、との指示に従い、残された者らは車で一路パンダルプールの川を目指す。インド的な笑いと涙に溢れたシニアたちのロードムービー。(公式サイトより)

*物語*
マハーラーシュトラ州プネーで暮らすカルカニスの一族。家長のプールーが亡くなる。次男が仕切って男たちで火葬を行い、遺灰が家に帰ってくる。四男が、「昨日、亡くなる前に、兄さんから遺灰を聖地パンダルプールに散骨して、それが済んだらクローゼットにある手紙を読めと言われた」と明かす。遺言書と思われる手紙を早く読みたい気持ちを抑えて、息子オームの運転する車に、弟3人と妹一人が乗り込んで聖地を目指す。
オームには、父親が怖くて言い出せなかった恋人がいて、彼女から妊娠を告げられ結婚を迫られている。三男は認知症気味、アメリカから帰ってきたばかりの四男はアメリカ人の妻からは離婚を迫られている。独身の妹には同性の恋人がいる。
一方、家に残った未亡人は、夫に別の家族がいたことを知ってしまう・・・
Sub1_Ashes_on_a_Road_Trip.JPG
それぞれに悩みを抱えた家族。一緒に車で聖地を目指すうちに、家族の絆が強まるかと思いきや、皆それぞれに遺産をアテにしている姿が見え見え。あっと驚く遺言書の内容に、そう来るか~と! (公開されるかもしれないので、結末はお楽しみに)
上映が終わって、シネジャの(白)さんや(美)さんと、こんなインド映画もいいわねと。
インド映画に詳しい友人によれば、マラーティー語の映画には、このような家族の問題を取り上げた、いわゆる歌って踊ってのないものが結構あるとのこと。
歌や踊りの代わりに、賑やかな大きなお祭りが出てきて圧巻でした。
ぜひ公開を期待したい1作です。



◎TIFFトークサロン
11月2日(月)20:00~
オンラインでのTIFFトークサロンの1回目として取り上げられました。
リアルタイムで参加できませんでしたので、アーカイブ動画から書き起こしました。
アーカイブ動画:https://youtu.be/5fQWQglQLO8

ihaitono tabi.jpg
登壇:マンゲーシュ・ジョーシー(監督/脚本)
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)

石坂:東京から、こんばんは。今年のTIFF全体を通じて、1回目のトークサロンで緊張しております。上映は映画館で行っていますが、海外のゲストが来られないことから、オンラインでQ&Aの場を設けました。皆様とのコミュニケーションを大切にしたいと思っておりますので、ご質問できる形になっております。Q&Aボタンをクリックして、書き込めるようになっています。私の方で見て、監督に質問を投げかける形で進めてまいります。
上映後の監督とのお話となりますので、この場では映画の結末までさらけ出してお話いただきますのでご了承ください。
1回目のゲストをお招きしたいと思います。インド映画『遺灰との旅』の監督マンゲーシュ・ジョーシーさんです。一言、コメントをお願いします。


監督:皆さん、こんにちは。映画はいかがだったでしょうか? 質問をお待ちしています。

石坂:最初に私の方から質問して始めたいと思います。日本映画がお好きとのことですが、どんな映画がお好きですか?

監督:黒澤明監督の作品はほとんど全部見ていて、私のグルのような存在です。特に『羅生門』が気に入っています。黒澤監督から学ばせていただいたことが多くあります。日本映画は黒澤明監督に限らず、いろいろなジャンルのものが好きで、若い年代のインディーズのものも観ています。

石坂:日本にいらっしゃったことはありますか?

監督:一度も行ったことがなくて、黒澤監督の国に行けることを楽しみにしていたのですが、コロナで行けなくて、近い将来ぜひ行きたいと思っています。

石坂:キャリアについてですが、最初は理系のエンジニアだったのが、どうして映画監督に転じられたのでしょうか?

監督:子どものころから、フィルムメーカーになりたいと思っていました。友達で俳優になりたいという人もいたのですが、私はどちらかというとストーリーを語ることに興味がありました。父も映画の大ファンでした。どういうわけかエンジニアになってしまいました。映画を作りたいという情熱は小さい頃からもっていました。

石坂:大家族の物語。アイディアはどこからきたのでしょうか?

監督:叔父が亡くなって、兄弟で遺灰をどこに埋めるかという話をし始めました。ちょうど大きなお祭りの直前でした。家族が遺灰の話をしているときに、どういうリアクションをするかのストーリーを考えたのが映画の始まりです。

石坂:そうしますと、キャラクターは家族をモデルにしているけれど、物語はフィクションということでしょうか?

監督:キャラクターは、叔父や兄弟をモデルにしていますが、ストーリーは全くの作り話です。

Sub2_Ashes_on_a_Road.jpeg
石坂:車は、本物のフェラーリですか?

監督:全然違います! フェラーリじゃないですが、気持ちとしてフェラーリが欲しい。でも買えない。インドの車にロゴを付けたもので、主人公の思いを表してます。

石坂:役者さんたちが素晴らしかったですが、役作りをどのように指導されたのでしょうか?

監督:ストーリーを書いている段階で役者さんたちを考えていました。書き終わって声をかけて、脚本を共有しました。自分から、こういう風にやってほしいという説明はしませんでした。こういうトーンの映画を撮りますという説明はしました。1週間リハーサルをして、本読みの時に、方言や話し方、発音などは説明しました。役者さんたちから聞かれた時には答えましたが、演技について、あれこれ指示は一切していません。

石坂:ほんとに家族のようでした。いつも仲がいいわけでなく、時々、腹立たしいという家族の雰囲気が出ていて素晴らしかったという感想をいただいています。

監督:とても素晴らしいコメントです。役者は皆、それぞれの家族をもっているのですが、一つの家族のように見えたとしたら嬉しいです。

石坂:テレビ番組「理想の家族」に出演する場面がありますが、実際にインドであるのでしょうか?

監督:実際にいくつかあります。カメラが回っているときには理想の家族風を演じるけれど、カメラが離れるとそうでもないということもあります。それがインドの現実の家族ともいえます。マラーティでは15年続いている番組もあります。

石坂:古い価値観の中にいる男性と対照的に、女性が新しい価値観を持っているという感想を複数の方からいただいています。女性のキャラクターはどのように作っていったのでしょうか?

監督:一緒に脚本を書いたアルチュナーさんという女性と話し合いました。女性が脚本を書く側に参加していると、女性は強くあってほしいという思いが入ります。女性が被害者的立場になることを避けたかったのです。ガールフレンドが男性も乗るようなバイクに乗って追いかけてきます。インドには女性のバイカーが存在していて、強い女性を描きたい思いがありました。家父長制の強いインド社会で、女性が遺灰をまくべきじゃないとか、来るべきじゃないといわれる場面がありますが、彼女は引き下がりません。

ihaitono tabi3.jpg
石坂:Q「未婚の女性が妊娠したり、違うカーストの相手との結婚の話も少し出てきます。こういう話題を脚本に盛り込んだ狙いは?

監督:カースト制度はインドで複雑。矛盾もあります。男性のほうが縛られていて、意思が強くない。子どものころから頭があまりよくなくて言われるままにしか行動できません。 女性のほうがアグレッシブで勇気があります。伝統に従わなければいけないインドの事情があります。彼は彼女のことを愛しているのに、家族に言う勇気がありません。そんな現実も描いています。

ihaitono tabi4.jpg
石坂:後半のお祭りに出くわす場面は迫力がありました。俳優さんをたくさん連れての撮影は大変だったのではないでしょうか?

監督:2回に分けて撮っています。お祭りのときには車で移動するのは不可能ですので、役者は連れずにいって、お祭りの様子をいろいろな角度から撮りました。別の日に同じ場所で役者に演じてもらったものを合わせました。

石坂:女性に相続権がないという男性の発言に対して、女性にもあると反論する場面がありましたが・・・

監督:実際に法律で女性に相続権がありませんでした。1995年に法律が改正されて相続できるようになりましたが、それ以前に結婚していた人には両親が亡くなっても土地の相続権がありません。1995年の法改正以降に結婚した女性には権利があります。

石坂:ボリウッド映画とマラーティ映画では規模が違うと思いますが、マラーティ語の映画は、州内で配給されるのでしょうか?

監督:インド内で公開するときには言語のこともあって、マラーティー語の映画はマハーラーシュトラ州のみでの公開になります。アメリカなどでは全国的にあるマラーティ語コミュニティで上映されます。 

石坂:大家族の映画ですが、日本では核家族化しています。インドでは、まだまだ大家族が主流でしょうか? それとも変化があるのでしょうか?

監督:4世代が一緒の家族ですが、インドでも核家族化していて、もう最後の大家族。田舎ではまだ大家族も見られますが、都市では特に少子化して核家族化しています。

石坂:Q「インド映画というとダンスシーンがあるというイメージですが、こういうダンスのない映画も? LGBTの話題が出てきましたが、インドではどのようにみられているのでしょうか?」

監督:メインストリームの映画は歌や踊りが入っています。世界からも期待されていますので。インディーの映画では、歌も踊りもないものも多くて、受け入れられています。共存して観客に受け入れられているのが嬉しいです。
LGBTについて若い人はオープンです。伝統的に受け入れられない人も多いです。同性の結婚も合法ではありません。インドでは、300年~400年前のお寺を見ても、LGBTの像がありますので、西洋から来た新しいものではないと認識しています。昔からインドの文化の一部です。今は若い人たちがオープンに議論するまでになっているので、変わってきたと思います。

石坂:今回初めてやってみて気が付いたのですが、皆さん、話を聞きながら、どんどん質問が膨らんでくるようです。この最後の10分位でたくさんの質問がきました。せっかくですので、もういくつか質問を。
劇中の音楽は、映画のためのオリジナルでしょうか?
コロナの中ですが、次回作は考えていらっしゃるでしょうか?


監督:音楽は映画のために作ったものです。最初は歌はなしで撮ろうと思っていました。音楽担当のプラフッラチャンドラさんが曲を書いてくれました。ボリウッド的な音楽を入れようとは思っていませんでしたので、家族の気持ちを表すものや、二人の感情を表すロマンチックなものを入れました。
今、脚本を書いて撮れる状態にはなっているのですが、撮影にあたっての制限が厳しくて、ワクチンがないのでマスクをしなくてはいけないとか、ソーシャルディスタンスを取れというとロマンチックなシーンが撮れません。あと6か月か8か月くらい待ったほうがいいと思っています。
P1310782.jpg
石坂:皆さん活発にご質問ありがとうございました。監督も貴重なお話をいただき、感謝申しあげます。
近い将来ぜひお会いしたいと思います。どうぞお元気で


監督:ほんとうにありがとうございました。

まとめ:景山咲子

第33回東京国際映画祭『鈴木さん』舞台挨拶報告 2020.11.02

映画初主演のいとうあさこ「あんまり笑ってないけど」『鈴木さん』舞台挨拶
(まとめ&写真:大瀧幸恵)


16077806579910.jpg
舞台挨拶に登壇したいとうあさこら

第33回東京国際映画祭「東京プレミア2020」に選出された『鈴木さん』。11月2日、TOHOシネマズ六本木ヒルズでの上映前に舞台挨拶があった。登壇したのは佐々木想監督をはじめ、主演のお笑い芸人いとうあさこ、佃典彦、大方斐紗子、保永奈緒、宍戸開ら主要キャストの6人。
映画は、少子化対策のため未婚者徴兵制が敷かれた世界を舞台にしたSFダークファンタジー。45歳の未婚女性役で映画初主演のいとうは「45歳独身で攻めていけるから、役づくりは必要なかった。根にあった奥の闇を出した感じ。映像はチェコスロバキアみたいな映画(笑)。あんまり笑っていないので、そんな顔を見てほしい」と、すかさず笑いをとった。

16077825299600.jpg
いとうあさこ


佃はこの日、東京国際映画祭での上映とは知らされず名古屋から上京した。「監督が口下手だから何も聞かされていなくて、ここに来て初めて聞いた」と焦った様子。いとうが「知っていたらネクタイしてたよね。でも、監督の口下手と関係なくない?」とツッコみ、会場が沸いた。
16077827671601.jpg
佃典彦


宍戸も「僕も同じですよ」と言い、撮影から2年以上を経ての晴れ舞台に「低予算でみんなの力を合わせて作った作品が、世界の方にご覧頂ける機会。映画は普通、撮影から1年くらいで公開されるけど、音沙汰がなかったのでポシャッたと思っていたら、今日ですよ!こんなに嬉しいことはない」と喜びを表した。
16077828893432.jpg
宍戸開


保永は「非日常を描いているけれど、もしかしたら未来には本当に起こり得ること。そんな視点で楽しんでほしい」と映画の内容を語り、「一番いいことを言ってるぅ」と周囲から讃えられ、照れる場面もあった。
16077830188973.jpg
保永奈緒


いとうは、「確かにSFだけれど、精神的には今に近いものがあるかもしれない」と同意。撮影中はロケ地となった廃墟のラブホテルで寝泊まりしていたそう。「夜中に、気球が浮かぶような映像が見えるんですよ」とホラーな体験を告白。司会者からそこが見どころですか?と問われると「違う違う、そこじゃない!」と打消し、会場は笑いに包まれた。

16077854118220.jpg
大方斐紗子 、 佐々木想監督


”あんまり笑っていない”役柄とは真逆に、終始笑顔で腰の低いいとうはテレビで見る通り、気遣いのできる人だった。公開が決まると、いとうの別な顔が見られるかもしれない。

作品情報
少子化解決のために、未婚者徴兵制が敷かれた街で45歳になる未婚のヨシコは徴兵から逃れる為に婚活を始めるが…。社会に翻弄され追いつめられる中年男女を描くディストピアSF。
90分/カラー/日本語・英語字幕/2020年/日本/長編1作目の監督作品


16077863388931.jpg
(C)映画「鈴木さん」製作委員会


東京国際映画祭 『赦し』(トルコ) TIFFトークサロン (咲)

Main_Forgiveness.jpg

『赦し』 英題:Forgiveness  原題:Af
監督:ジェム・オザイ
出演:ティムル・アジャル、エミネ・メルイェム、ハカン・アルスラン
2020年/トルコ/95分/カラー/トルコ語  *長編1作目の監督作品
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
上映:11月4日(水)20:50~ 11月7日(土)20:05~
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP14

厳しい父に愛されずに育った兄はある日、間違って猟銃で弟に発砲してしまう。お気に入りの次男に起こった事故に愕然とする父、沈黙する母、絶望する長男。家族に希望は訪れるのか。新鋭監督の重厚なドラマ。(公式サイトより)

*物語*
霧深い山奥で木を切り出して暮らす一家。
父親は次男メレクを贔屓にして、長男アジズに何かと厳しく当たっている。
父に銃の使い方を教えてもらった兄弟。アジズが試している時に足元に蛇が来て、驚いたとたんに発砲し、弟を撃ってしまう。
お気に入りの次男が亡くなり、ますますアジズにつらく当たる父。
アジズを赦す時は来るのか・・・

村の小さなモスクでクルアーンを学ぶ兄弟。
試験に受かったご褒美に弟が父に買ってもらったドローンをアジズは木に引っかけてしまいます。木片を集める作業中に、要領のいい弟がちょっと遊ぼうと言った時の出来事でした。それでも父は兄を悪者と決めつけてしまいます。
母親がアジズを気遣うのも気に入らない様子の父親。
父親の眼光が鋭くて、過去に何があって、そこまで長男を疎むのかと、アジズが気の毒になりました。
何十年も前の話かと思ったら、ドローンが出てきて現在の話とわかりましたが、地方ではまだまだ家父長制が強いことを感じさせてくれる物語でした。でも、こうした親の子どもたちに対するえこひいきは、どこにでも存在すること。普遍的な物語でもあると気づきました。子どものいない私にはわからないけれど、やっぱりお気に入りの子を贔屓にしてしまうかも。
TIFFトークサロンで、監督の知り合いに実際にあった出来事が、この映画の発端だと知りました。



TIFFトークサロン
DSCF4170 yurusi.jpg

11月8日(日)17:30~
『赦し』
登壇者:ジェム・オザイ(監督/脚本/編集)
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)
トルコ語通訳:野中恵子さん
英語通訳:王みどりさん
アーカイブ動画  https://youtu.be/hfZFojHTDg4

監督:メルハバ!

石坂:『赦し』をワールドプレミアで出していただき、ありがとうございます。

監督:このような形でお会いできて、私の作品を観た方たちから感想を聞くことをできるのが嬉しいです。この困難な日々の中で東京国際映画祭を開催いただきまして、関係者の方たちに感謝します。

石坂:複数の方たちからいただいている質問で、その中には日本トルコ協会アナトリアニュースの担当者の方もいらっしゃいます。Q「この作品を撮るきっかけは何だったのでしょうか?」

監督:知り合いの人の実際にあった話がきっかけです。映画のデコレーション関係の仕事の師匠の立場の方から、家族との間でこういう問題があると聞いたことから着想を得て、この映画のプロジェクトが始まりました。

石坂:脚本からお書きになっているのですね。次の質問です。やはり複数の方からいただいています。「キャスティングが素晴らしいです。兄役は、演技と思えない緊張感がありリアリティがあって素晴らしかったです。お父さん役にも圧倒されました」

監督:兄役ハカン・アルスランは、撮影現場の地方で暮らしている少年。とても賢い子で、どうすればいいか素早くキャッチしてくれました。自然の中で隔絶されているところです。内向的で静かな子という、探し求めていたアジズの精神的なものも備えたキャラクターでした。自然な立ち居振る舞いもよかったです。カメラの前に立ったことのない子です。撮影期間中、見事に役割を演じてくれました。弟役ユスフ・バイラクタルもアマチュア。母役エミネ・メルイェムはプロです。リハの時や撮影の休憩中もとても貢献してくれました。

石坂:長男アジズは誤って弟を撃ってしまう役。子役にはとても重い役だと思います。撮影中、心のケアなど、気を付けられたことはありますか?

監督:アジズ役も弟役も重い憂鬱な心理状況にならないようにしなければなりませんでした。彼らに対してこれは芝居でありゲームであると言って協力してもらうようにしました。ドラマの持つ深みを認識しないように仕向けました。お陰で、いい結果を得ることができました。子どもに演じてもらうのは難しい。一方、容易であるともいえます。彼らの認識は浅いので、撮影環境の中で集中してくれて、成功したと思います。

石坂:Q「ロケ地が素晴らしかったです。どのように決めたのですか? 監督ゆかりの地ですか?」 

監督:いろいろなところを見ました。頭の中にあったのは、山の中の村。隔絶された地で、社会との交わりのない、時が止まったような場所。今回の家族の悲劇は、内向的に閉じ込められ追い詰められたようなところで起こりました。父親の役柄を表す為にも、地理的にも困難なところである必要がありました。子どもたちに成功することを強要する父親。そのような気持ちになる場所ということで、ここで撮らなきゃと思いました。交通も不便で到達するのも難しいところです。私の作品にふさわしいと思いました。

石坂:Q「劇中に音楽がBGMとして使われなかったのは?」

監督:音楽は映画を感情的にさせてしまいます。メロドラマ的にしたくありませんでした。心理状態のリアリティを反映させるために音楽はいれないのが正しいと思いました。現場の家族の背景にある厳しく激しい自然の自らの音に任せるのがいいと思いました。

石坂:これは私からの質問です。父親に疎まれる長男と、好かれている次男、その関係から悲劇が起こることから、旧約聖書のカインとアベルを思い出しました。実際にあった話とのことですが、古典の物語をどこかで意識していたのでしょうか?

監督:古典を意識したことはないです。旧約聖書のカインとアベルは違う。彼らの関係は嫉妬の感情。この兄弟の関係はえこひいき。公正でないという関係です。父親は成功を求めていて、長男にはより多くを求めています。二人の子がいて、公正でないことはよくあることです。よりできる子を贔屓にすることがあります。ここで表現したのは、父親のかたくなで圧力的な態度です。

石坂:Q「子豚のシーンが印象的でした。お父さんが粉をかけましたが、何だったのでしょう?」

監督:ネズミを殺すための粉でした。

石坂:残念ながら時間となりました。最後のメッセージをお願いします。

監督:初めての長編です。観た方と初めてお会いできました。時間をとって観ていただき、関心を示してくださりありがとうございました。それに見合う内容であったならば嬉しいです。

DSCF4172 yurusi.jpg
スクリーンショットタイム

まとめ 景山咲子



東京国際映画祭『皮膚を売った男』  TIFFトークサロン 監督Q&A

TOKYOプレミア2020
『皮膚を売った男』 英題:The Man Who Sold His Skin 原題:L'Homme Qui Avait Vendu Sa Peau
監督:カウテール・ベン・ハニア
出演:モニカ・ベルッチ、ヤヒヤ・マへイニ、ディア・リアン
2020年/チュニジア・フランス・ベルギー・スウェーデン・ドイツ・カタール・サウジアラビア/104分/カラー/アラビア語・英語・フランス語
上映日:11月1日(日)13:00~ 11月7日(土)21:10~
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP21

*物語*
2011年、シリア。電車の中でサムは恋人アビールに結婚したいと宣言。同乗していた皆に祝って貰うが、その時、「自由がほしい」と叫んだことでお咎めを受け逮捕される。軍の係官が遠縁らしく、彼を知っていて「国外に逃げろ」と解放してくれて、車でレバノンに逃れる。
1年後、ベイルートでサムは、恋人アビールが外交官の男と結婚しベルギーにいることを知る。食べ物を求めて潜り込んだベイルートの美術展の会場で、サムはベルギーの芸術家ジェフリー・ゴデフロイと出会い、「背中を売ってくれ」と提案される。背中にシェンゲンビザのタトゥーを入れられたサムは、巨額の報酬を手にし、アート作品として、まずベルギーの王立美術館に展示されることになる。難民を利用した搾取だとして抗議する団体が現れ、アラビア語通訳としてやってきたアビールとサムは再会を果たす・・・

Director_The_Man_Who_Sold_His_Skin.jpg

チュニジア出身の女性監督による作品。
映画祭の後半、プレス登録している方たちと話した時に評判の高かった作品です。
コンペティションがあったなら、きっと何かの賞をもらったことと思います。公開されることを期待して、再会した二人のその後はここでは触れないでおきます。
サムが国外に逃れたあと、シリアの状況は悪化の一途をたどります。ベルギーにいるサムが、シリアにいる母親とスカイプで話す場面で、お母さんは「難民が海で死んでいる」と心配するのですが、そのお母さんの両足がないことに気づきます。爆発で壁の下敷きになって両足を失ったのですが、「大丈夫 明日はいい日になる」という言葉に胸が締め付けられる思いでした。

TIFFトークサロンで、カウテール・ベン・ハニア監督の本作への思いを伺うことができました。


TIFFトークサロン
DSCF4189 hifuwo.jpg

2020年11月8日(日)18:15~
登壇者:カウテール・ベン・ハニア監督:
司会:矢田部さん
通訳:今井さん
アーカイブ動画:https://youtu.be/UzNIO4wTau0

矢田部:お会いできて光栄です。

監督:TIFFで上映していただきありがとうございます。日本の観客に見ていただけること、この上なく嬉しいです。

矢田部:今はパリですか? 朝の10時半くらい?

監督:はい、まさにそうです。

矢田部:抜群に面白い物語をありがとうございます。現代的に重要な主題を盛り込んだ素晴らしい映画をこの東京国際映画祭で紹介できるのがとても光栄で、改めてお礼申しあげます。

監督:こちらこそ光栄です。映画をご覧になった皆さんがSNSなどで発信されている感想をお読みして、日本の観客に受け入れられていることをとても驚き、嬉しく思っています。

矢田部:監督はチュニジアご出身。パリの有名な映画学校ラ・フェミスやソルボンヌ大学で学ばれています。これまでドキュメンタリーとフィクション、両方手掛けてきました。今後も両方作っていかれる思いでいらっしゃるのでしょうか?

監督:今後も両方作っていくつもりです。現在、ドキュメンタリーを手掛けています。ジャンルをまたいでやっていると相乗効果があります。それぞれの良さがあると思っています。フィクションの世界では頭の中で想像したものを具現化できる楽しみがありますし、ドキュメンタリー作家として映像を作っていくのは、調べた混沌とした世界が衝突する作業なのですが、そこから秩序立ててつくるという訓練がフィクション作品をより良いものにしてくれます。今は、手掛けているドキュメンタリーと、次に考えているフィクション作品の資金集めをしているところです。

矢田部:『皮膚を売った男』は、ドキュメンタリーに対する姿勢がフィクションにうまく反映されていると思いました。映画の成り立ちは? どこから着想を得られたのでしょうか? デルボアさんの『TIM』に影響を受けたそうですが、それはどのような作品でしょうか?

監督:コンテンポラリーアーティストのヴィム・デルボアの「TIM」から着想を得ました。豚に入れ墨をした作品です。それが人間にも入れ墨を入れて美術品にしていくというものです。豚の頃から是非についていろんな議論がありましたが、それを人間にもということで議論がさらに膨らみました。アートという市場で、現代美術がどこまで限界ぎりぎりに挑戦していくかに興味を持ちました。また、背中にタトゥーを美術品として入れた男は何者なのか、どういう思いでタトゥーを入れたのかという疑問が沸き上がりました。彼の背景とラブストーリーを描くことで、彼に人間性を与えたつもりです。シリア難民が主人公になっていますが、今、難民が語られる時、数字や統計として顔のない存在になっているのでストーリーを描くことで存在感を与えました。

矢田部:Q「デルボアさんが保険販売員として出演されています。なぜ彼に保険屋を演じさせたのでしょうか?」

監督:彼にぜひ出演してほしいと思いました。どの役をと、すべての役を考えて、保険屋にしました。現代アーティストが四角四面に作品をみていくのが皮肉で面白いと思いました。美術作品が爆発の中で死んだらおじゃん。保険会社としては大災難。もし癌で亡くなれば、背中の皮を剥いで美術品として使えるという発想が面白いと思いました。デルボアさんも乗り気で、人を挑発するのが好きなので、喜んでやってくれました。

矢田部:Q「自分が作品になるのが難民として生きる決断だったというのが痛いほど伝わってきました。それが美術品として購入されることに衝撃を受けました。実際に、人がアートとして売買されるケースはないと思っていいのでしょうか?」

監督:いろんな人の人生を見て、特に難民の方たちはなんとかして生き延びなければいけない。選択肢のないメタファーとして自ら美術品になることを描きました。そのことにより自らの尊厳を失うのも難民の現実。国境を越えるのも、渡航文書を入手するのも苦い選択を迫られます。その比喩として描きました。

矢田部:Q「難民のサバイブの話でありながら、行動の動機が恋人に会いたいという愛の物語であることに魅せられました。」

監督:意図的に描きました。難民は、なんとか生き延びないといけない状況にあります。孤独で脆弱な立場に置かれています。家族や誰かへの愛が支えで力の源泉になります。難民の方たちを見ていると、ずっとスマホを握りしめています。家族や親せきと話したいという思いだと思います。私自身ラブストーリーが大好きなので、映画で語りたいと思いました。主人公には一途に愛する人がいてほしいという思いがありました。もう一つ意識して語りたかったのが、二つの世界のコントラスト。冷たく希望に満ちた現代アートの世界と、女性を愛する男という熱情の世界を対比させたいと思いました。

矢田部:監督は現代アートの価値や表現の自由について、もともと懐疑的だったのでしょうか? それとも、この映画のために、あえてそのような視点を取り入れたのでしょうか?

監督:現代アートの世界をどう思うかはひと言では片づけられません。とても複雑で豊かな世界です。この映画の中ではストーリーを語るツールとして入れた視点と思ってください。私が語りたかったのは、自由とは?ということ。難民の置かれている苦境、一方で、現代アートの世界での表現の自由、人を挑発する自由、売り買いする自由。難民には基本的な自由もありません。難民の世界と、現代アートの世界からやってきた二人が出会うのですが、お互い自由だと思っているけれど、どこの国のパスポートを持っているのか、どういう社会背景があるのか、どういった階級に属しているのかで自由の度合いが違います。様々なトピックを描いて皆さんに考えてもらいたいと思いました。

矢田部:感想をいただいています。「見終わった直後は、芸術と資本主義の関係をめぐる痛烈なアイロニーに感じました。時間が経つにつれ、社会の中で一人の人間の自由意志がどこまで可能かを、様々な視点で考えることのできる作品でした」もう一つ、質問をいただいてます。「入れ墨を入れるアーティストのジェフリーは人間性を失った人間とも思える場面がありました。彼のキャラクターにどのようにアプローチをしたのか知りたいです。」

監督:そういうことを考えながらキャラクターを想像しました。ジェフリーは、芸術家であり、皆より高みに立っている天才作家として描きました。西洋美術史をみると、かつては教会、今は資本主義に支えられています。芸術家たちはお金になるのであれば挑発もOKという世界に生きています。権力を持っていて、インテリだけどどこか冷酷なところがあて感情から離れている。一方で深く思考できる矛盾に満ちたキャラクターで、書いていて楽しかったです。

矢田部:Q「主演の方は映画初出演。どのように見つけたのでしょうか? 背中のオーディションも当然されたのでしょうか?」 

監督:短編の経験はある人です。オーディションには時間をかけました。シリア人で才能溢れた人を探しました。ヤヒヤさんの映像を見て、才能に魅せられました。皆に背中は見せてとお願いしました。重要な要素ですが、演技力がなにより重要です。ベネチアでも主演賞を受賞。素晴らしい才能です。

矢田部:背中にメークを施すのにどれくらい時間がかかりましたか?

監督:最初は3時間。毎日撮影が終わると消します。入れ墨の美術の方も慣れてきて2時間くらいになり、最終日には1時間で描きあげていました。

矢田部:Q「モニカ・ベルッチさんを起用した経緯は?」

監督:彼女が演じた女性は地中海地域から来た設定。熾烈な現代アートの世界でやっていくために素性を隠して、ブロンドにして、冷徹な雰囲気にしているというキャラクターです。ほんとのモニカ・ベルッチさんは逆の方。面白いコラボレーションになりました。

矢田部:Q「シリアで危険な状況の中で、主人公が拘束されたときに、担当の兵士が従兄弟だと言って逃がします。自分の立場も危うくなると思うのですが、現実にあり得ることでしょうか?」

監督:このシーンを書いた時、2011年を想定しました。いろんな思想がシリアにあった時点。革命の発端になった時期です。あの兵士はサムがあそこにいては将来がないと咄嗟に判断したのです。あえて上に従わない行動をした兵士もいたことを描きました。

矢田部:Q:「シリア、レバノン、ベルギー、美術館と様々な場所で撮られていますが、どこでの撮影が大変でしたか? どこのシーンが一番気に入ってますか?」

監督:すべてが大変でした。中でも、美術館での撮影は難しかったです。ロイヤルベルギーファインミュージアムでは、物を触ったり、動かしたりできませんでした。お気に入りのシーンは一つには絞れません。家を建てるようなもの。どのシーンにも機能があって大事。それを集めて一つの映画にしていますので。

矢田部:Q「音楽がよかった。映画のために作ったものですか?」

監督:映画のために、とても才能のあるアミン・ブハファに作ってもらいました。近日中にサントラが発売されます。

矢田部:監督にサプライズです。(漫画で描いた映画のシーン)

監督:インスタグラムで見て、とても嬉しかったです。幼少の頃はアラビア語に訳された日本の漫画を見てました。ほんとうに感動しました。

矢田部:葉書サイズのもので、映画を一回見ただけで描いてくださいました。監督にお届けします。それではスクリーンショットタイムです。

DSCF4187 hifuwo.jpg
手を振る監督

矢田部:最後にひと言お願いします。

監督:日本で劇場公開にこぎつけることが出来たら嬉しいです。コロナ禍で劇場の運営も不安定だと思いますが。なにより地球の反対側にいる日本の皆さんに受け入れていただけたことを嬉しく思っています。

矢田部:直接お会いできる日が来ることを楽しみにしています。今日はありがとうございました。

景山咲子