第35回東京国際映画祭 トークセッション 福島浜通りでの映画づくり①「福島浜通り地域に創造が広がるために」

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第35回東京国際映画祭では、芸術文化を活用し、福島県浜通り地域に新たな魅力を創出する経済産業省の取り組み「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」が目指す、福島発信の映像制作についてのトークセッションを開きました。

第一弾のテーマは、『踊る大捜査線』シリーズなどのヒットメーカー、本広克行監督を中心としたトークショー「浜通り地域に創造が広がるために。」。今後の活性化に向け、浜通りでどのようなアクションを行えば地域内外の方々を巻き込んでいけるか、全国での知見と浜通りの視点を交えながら活発なディスカッションが行われました。


10月30日(日)12時〜
福島浜通りでの映画づくり①「福島浜通り地域に創造が広がるために」
登壇ゲスト:トークショー:本広克行(映画監督)、丸山靖博(株式会社ROBOT執行役員、コンテンツ部本部長、プロデューサー)、志尾睦子(高崎映画祭プロデューサー)、東あすか(なみえコミュニティシネマ実行委員会委員長)、谷賢一(劇団 DULL-COLORED POP主宰、日本劇作家協会・事業委員、他)、森谷 雄(ドラマ・映画プロデューサー)
場所:丸ビル 1階 MARUCUBE


トークセッションに先立ち、経済産業省職員によるプレゼンがありました。
『福島浜通り・映像芸術文化若手チーム』
平成23年3月11日に発生した東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、被災地における復興に向けた取り組みが加速しています。
経済産業省では、産業・生業の再生に取り組む傍ら、映画を始めとする『文化・芸術』に着目。今年4月に有志の若手職員で構成されたチーム『福島浜通り・映像芸術文化若手チーム』が立ち上がりました。7月には『福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト』を立ち上げ、福島浜通り地域において映像・芸術文化を通じた地域活性化施策の検討・実施を進めていくことを発表しています。
今回の東京国際映画祭におけるイベントは、8月に双葉町で開催された『映画上映会&トークセッション』に引き続き、"若手チーム"2回目のイベントです。


司会: 高橋氏(経産省)
双葉町は、震災前は風光明媚な街。今は帰還困難地域があるが、イベントを呼びかけたところ、5500人が集まった。若者の起業を推進している。「福島浜通り・映像芸術文化プロジェクト」 には、応募が多く中高生からも応募がある。 映像系の大学に呼びかけたら、現地で取材をしてくれたり、 映画の力を感じた。 実際に福島に住み、どんどん誘致したい。

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若手官僚チームの皆さん


続いて、若手職員3人の紹介。 経産省から出向して2年の原田氏は、兵庫県豊岡市での平田オリザによる演劇での町おこし体験を語り、経産省の桐澤氏、特許庁から大熊町に出向していた荒川氏の挨拶。

登壇者紹介の後、トークセッション開始。

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本広克行監督


本広克行監督:現地に行き、 何もないのに驚いた。 子どもたちが映画作りのワークショップで泣いていたのに感動した。 犬童一心監督と黙って新幹線に乗ってきたかいがあった。 さぬき映画祭については、規模は小さいが面白いものをぶち込んだつもり。 困り事は資金面。

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志尾睦子氏 、 森谷雄氏


森谷雄氏 : 地元ということが大切。国際映画祭にしたから、直行便でゲストを呼ぶのが大変。でも、 地元の協力で宴会などができ、楽しい集いに。

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丸山靖博氏


丸山靖博氏 :高松市までだと、帰れずに泊まっていくから色々な出会いがある。1泊してもらい、 交流を深める会が大切。
志尾睦子氏 : 高崎映画祭は帰れる(笑)
森谷雄氏 :豊橋映画祭も帰れる(笑)。 ブッキングしたゲストとの交流会で次の企画や撮影の話も出る。
志尾睦子氏 : 高崎映画祭は35年間の実績があり、変わらず開催。 群馬県で上映されなかった映画の特集上映や、若手製作者の特集上映。賞の授与も話題となっている。

波音を聞きながらの上映会

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東あすか氏


東あすか氏 : 浪江町に住んで3年。浪江町も観たい映画を観たいという、きっかけは同じ。
志尾睦子氏 :亡くなった茂木さんの貢献が大きい。都内でなければ観られない映画を観たいという欲求から。
東あすか氏 :今年『Coda』の野外上映会を海岸で行った。 漁港が舞台の映画なので、上映中も波音が聞こえ、潮風を感じながら非常にマッチしていた。津波で182人が犠牲になった町。 何も無い所で、映画を観てで初めて感動した、との声もあった。

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谷賢一氏


谷賢一氏 : 演劇は集まらないと何も出来ないのが長所であり、短所でもある。そんな話を聞くとインスピレーションが湧く。

課題は資金集め

東あすか氏 : 8割が帰還困難地域。町民にぜひ来て欲しい。見せたいテーマは1作だけでないが、資金面が困難。
森谷雄氏 : (頷きながら)上映料が大変。
志尾睦子氏 : 公的な映画祭だと思ったが 補助金だけじゃ足りない 。協賛企業を回らないと資金が集まらない。
森谷雄氏 : 豊橋映画祭もクラウドファンディングで補強した。

参加者を増やすには?

東あすか氏 :まだ2年目だけれど、参加はたった200人だった。
本広克行氏 :人によって観たい傾向の映画が違う。アート系だと観客がどうしても少ないので監督とかを呼ぶ。 エンタメ系は多い。 若手が作る映画は盛り上がった。
谷賢一氏 : アフタートークセッションが良い。 キャスティングは飲み会で決まる(笑)。 演劇はステージがなくてもできる。箱(劇場)より人が大事。英国のエジンバラ演劇フェスは 500億円 の収益があり50万人も来る。経済効果が高い。

海外映画祭での工夫

本広克行氏 :フランスの アヴィニョン演劇祭は3000ステージもある。 言葉のない演劇もあり楽しめた。
森谷雄氏 :米国の サウス・バイ・サウスウエストも良いらしい。
本広克行氏 :今、福島の名前は世界的に通ってるからチャンス。
丸山靖博氏 :さぬき映画祭は楽しかった。でんぱ組や、ももいろクローバーZも来た。 香川県は建築の街でもある。 映画と縛らない企画も良い。
谷賢一氏 : 現代美術と繋がったことも。
志尾睦子氏 : コンテンポラリーダンスや現代美術もやった。

司会 : 地域の新たなエンタメとは?
丸山靖博氏 : 熊本で若手を育成して 8年になる。兼業農家の人も 映像で伝えたいことを映像化している。 地元のPRにもなっており、 福島でもできるのでは?
森谷雄氏 : 新しい映画のカンファレンスとして、 コミュニティ競争型も。 スーパーサピエンス(注)は過程を共有。 浪江町の『Coda』上映会は行きたかった。一緒に空気を共有したかった。それこそコミュニティの力。
東あすか氏 : 浪江町は震災前の人口の10%にも満たない。地元民と移住者が一緒に映像作る。が、 町民は日常生活で疲れている。外部から来た人は 警戒されることも。
丸山靖博氏 :自らやりたい人が集うという、説明が大事かと。

会場から質疑応答
女性: さぬき映画祭に何も調べず参加したけど楽しめた。 うどんツアーもあり、そうしたアクセスは大事だと思う。
本広克行氏 :探るのが楽しいから、敢えてメイン会場は作らなかった。 仲間ができるし、 行きづらい方がいいかもしれない。 旅行気分が楽しい。
森谷雄氏 :釜山国際映画祭もソウルでないのがいい 。
志尾睦子氏 :映画祭を国が主導するのは素晴らしい 。
森谷雄氏 :資金面は大変だが地元で旗を振る人のいることが重要。 自治体や企業の支援は実績になる。
丸山靖博氏 :皆さんが全部言ってくれた。 手伝いたい。日本中を回りたい。
本広克行氏 :老後の楽しみは全国の映画祭を回ること(笑)。このシンポジウムはよかった。
谷賢一氏 :『Coda』上映会は良い。福島でだけ上映がなかった映画もある。 すぐには出来ないけど、文化的復興、 文化の街として起こしたい。
東あすか氏 :野外上映会は続ける。コミュニティができてきたところ。 今日をきっかけに、多くの皆さんに来て欲しい。

(注) SUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス)」 3人の映像監督『堤幸彦・本広克行・佐藤祐市』と映画プロデューサーの森谷雄が共同で制作指揮をとり、サポーターと一丸となって日本の映像業界史上初となる【原作づくりから映像化および配給(配信)に関する全プロセスの一気通貫】に挑むプロジェクト。

★参加して
映画祭や演劇祭、イベント、ワークショップなどなど、地域を盛り上げる方法は様々な手法があるのだな、と登壇者のユニークな取組みを聞きながら感じました。被災地である浪江町、福島県浜通り地域を映画制作の新たな拠点とするために、移住した人の率直な実感。また入省5年以内の若手官僚たちの熱意には胸を打たれました。メモも見ずに、地域の特色や現況を詳しく語る勉強ぶりには頭が下がります。今回のトークショーでは、登壇者から多くの提案がありました。それらを糧に、若く柔軟な意識で福島県浜通り地域をエンタメで大いに盛り上げてほしい!本広監督ではないけれど、全国の映画祭を巡りながら、町おこしのお手伝いをする、という老後の楽しみができました♪
(取材・写真 大瀧幸恵)

映画祭の日々 第35回東京国際映画祭(暁)

第35回東京国際映画祭は2022年10月24日(月)~11月2日(水)まで日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。去年、六本木からこちらに上映会場が移ったものの、何か所かに分かれた会場同士が遠くて、映画を観るのにどう移動時間を見込んで、観る作品を決めるか、去年は全然読めず状態だったけど、今年は少し見えてきた。

10月25日(火)
中国映画週間が10月18日(火)に始まり5作品観たあと、東京国際映画祭は25日から参加。東京国際映画祭のプレスパスを中国映画週間で日本橋に通っている間に受け取りに行こうと思ったけど、時間が取れず東京国際が始まってから受け取ることにした。でもやはり事前にもらっておかなくて失敗。25日当日、プレスセンターに行ってから、プレス試写会場のシネスイッチ銀座に行こうと思ったのだけど、有楽町で電車を降り、プレスセンターまで20分もかかってしまった! 途中、写真を撮ったりもしたのもあるけど、以前だったら10分くらいで行ける距離なのに、今の私にはゆっくりしか歩けず、さらにプレスセンターについた時点でもう疲れていた(笑)。プレスセンターからシネスイッチ銀座までも20分くらいかかりそうなので15:40からのプレス試写でのトルコ映画『突然に』はあきらめた。
この調子では、これを観ると、その後にTOHOシネマズシャンテで18:00~観る予定の中国映画『へその緒』に間に合いそうもなかったから。
プレス登録をした後、『へその緒』まで3時間くらいあったので、まず、当日券を買いにシャンテへ行ったけど、映画祭のチケットは有楽町駅前でしか買えなかった。歩くのに時間かかったことを考えると、とても有楽町まで戻る気はしない。ダメ元でパソコンで当日売りを買えないかと、シャンテのチケット売り場の横でパソコンを立ち上げ挑戦してみた。私はネットでチケットを買うのが苦手で、うまくいかないことが多いのでどうなるかと思ったけど、チケットを買うことができた! それにしても上映会場の映画館チケット売り場の横でパソコンを立ち上げネットでチケットを買うというのは笑い話だ。そもそも今回、特にネットでのチケット売りだし当日(10月15日)は、買いたい作品のチケット売りの入口までも入っていけないような状態だった(スタッフ日記参照)。
映画まで2時間以上時間があるので、シャンテの向かいにある椿屋珈琲に入った。階段を登らなくてはならないので迷ったけど、ここのビーフカレーが好きなので頑張って登ったのだけど、あいにくカレーは終わっていてパスタしかなかった。このところ家でもスパゲティで、まだ残りもあるというのにパスタを食べるはめに。椿屋珈琲でパスタを食べるのは初めてかも。季節物ということでボルチーニ入りのパスタにしたけどおいしかった。癖になるかも。
そして、いよいよ映画。この日はシャンテで『へその緒』の鑑賞のみだった。

『へその緒』 原題:臍帯 英題:Cord of Life
監督:喬思雪(チャオ・スーシュエ)
出演:バダマ(母)、イダー(息子アルス) 
2022年 中国・内モンゴル モンゴル語

内モンゴル出身でフランスに学んだ女性監督チャオ・スーシュエ、注目のデビュー作。
モンゴル族のミュージシャンの青年は認知症の進む母を引き取り、昔家族で住んでいた故郷の大草原でふたり暮らしを始める。湖のほとりのとても景色の良いところだったけど、お母さんはフラフラと外へ出かけるようになってしまい、息子アルスはしかたなく、母が遠くに行かないように紐(綱?)で結ぶ。これが「へその緒」というタイトルにした所以なんだろうけど、これがモンゴルっぽい。都会ではこういうことは考えられない。
中国タイトルの「臍帯」は「へその緒」で日本語タイトルは直訳ではあるけど、英題の「Cord of Life」(命の紐)が一番、内容に近い気がした。
ミュージシャンの青年が馬頭琴でラップをやっていたのが面白かった。
「母親役以外はすべて、内モンゴルの現地で普段生活されている方たちが俳優として出てくださったので、そこで非常にリアルな内モンゴルでの生活というのを、うまく描くことができたと思います」と、監督は語っていた。

チャオ・スーシュエ監督、リウ・フイさん(プロデューサー)
 

10月26日(水)
 この日は、日赤(日赤武蔵野赤十字病院)での診察があったので、朝9時すぎに家を出る。いつも午後1時頃まで時間がかかるので、この日は映画祭の作品は何時から観ることができるか不確定。結局、13時半頃になってしまったので、武蔵境でランチしてから行くことにした。迷ったけど、ここにも椿屋珈琲があるので、昨日食べられなかったカレーを食べることにした(笑)。2日続けて椿屋珈琲になるとは…。でもおかげで、ずっと食べたかった、ここのカレーを食べることができて満足。
武蔵境から中央線に乗って東京駅、そして有楽町へ。何を観るか映画祭資料をいろいろ広げながら見ていたら、隣に座っていた男性(80歳と言っていた)が、「東京国際映画祭ですか。行ってみたいけど、お薦めの映画ありますか?」と声をかけて来たのだけど、あいにく、まだ『へその緒』しか観ていなかったので、「この作品、モンゴルの高齢者事情が分かってよかったですよ」と言ったら、「昨日の東京新聞で、その作品のことを紹介していました」と、この作品のことを知っていた。なんでもカンボジアに日本語を教えに行ったことがあるというので、アジアの映画をいくつか紹介してみた。チケットをどうやって買ったらいいかとか聞かれたので、映画祭の作品と上映情報を載せた小冊子をあげたかったけど、あいにく、私が興味ある作品に印をつけていたものしかなく、どうしようと思ったけど、私は会場に行ったら、またそれをゲットできると思い、それを渡した。逆に、ほとんどアジア作品に印をつけていたから、参考になったかも。その方は映画祭に行ったかな。
この日は結局、シネスイッチ銀座に行き、プレス試写で『私たちの場所』と『孔雀の嘆き』の2本を観ることができた。

『私たちの場所』 英題:A Place of Our Own
アジアの未来共催:国際交流基金
監督:エクタラ・コレクティブ(製作グループ)
出演:マニーシャー・ソーニー、ムスカーン、アーカーシュ・ジャムラー
2022年 インド ヒンディー語

コロナ禍で職を失ったトランスジェンダーの二人が転居先を探す物語。インドでも性的マイノリティをめぐる不寛容と差別の壁は厚く、家探しは難航する。一人は性的マイノリティのNGO的な事務所?で働いている。勤め先がしっかりあっても、なかなかみつからない。しかし、彼らの仲間は、何かあれば情報を提供したり、協力する人たちもいて、少し安心した。
個人の監督名を冠しない創作集団、エクタラ・コレクティブによる集団製作。

『孔雀の嘆き』 原題:Vihanga Premaya
英題:Peacock Lament
コンペティション部門 最優秀芸術貢献賞
監督:サンジーワ・プシュパクマーラ
出演:アカランカ・プラバシュワーラ、サビータ・ペレラ、ディナラ・プンチヘワ
2022年/スリランカ/イタリア シンハラ語

両親が亡くした19歳の青年アミラは下に四人の弟妹がいて、コロンボにある廃墟ビルの屋上で寝起きしている。一番下は赤ん坊。アミラが働き、すぐ下の弟が下の子たちの面倒を見ているが、毎日毎日食べるだけで精一杯。さらに心臓病の妹の手術のため大金が必要となったアミラは、高給を保証する女性実業家と出会い、弟や妹を施設に預けて働くことに。その仕事は、妊娠したが産むことが出来ない女たちを集め、産んだ子を外国人に養子として斡旋する仕事だった。スリランカの女性たちを助ける仕事ではあるけど違法なこと。この仕事はうまくいくのだろうか。ヒヤヒヤしながら観た。

10月27日(木) 不参加
この日はプレス試写で『1976』(チリ)、『カイマック』(北マケドニア)、『山女』(日本)の3本の予定だったけど、足が痛くあまり歩けそうもなかったので、映画祭へ行くのはあきらめた。このところ、足がむくんだり、痛かったり、息が荒くて歩くのが大変だったりということも多く、前売りチケットはあまり買わないで、当日の状況で映画祭に行き、観る作品を考えるという態勢で映画祭に臨んでいる。特に階段しかない劇場はつらい。 

10月28日(金)
前の日、足が痛くてあまり動けなかったので、この日は一般会場での鑑賞を優先した。幸い11:20からのシャンテシネ2で上映の『輝かしき灰』(ベトナム)の当日券が取れた。

『輝かしき灰』 原題:Tro Tàn Rực Rỡ
英題:Glorious Ashes
コンペティション共催:国際交流基金
監督:ブイ・タック・チュエン
出演:レ・コン・ホアン、ジュリエット・バオ・ゴック・ドリン、フオン・アイン・ダオ
2022年ベトナム/フランス/シンガポール(ベトナム語)

ベトナムを代表する作家グエン・ゴック・トゥの小説を、『漂うがごとく』(09)のブイ・タック・チュエン監督が映画化。ベトナム南部のメコン・デルタの村を舞台に3人のヒロインとそれぞれの男性との関係を描く。
貧しい村に住む3人の女性。夫と姑に召使い扱いされるホウ、子どものような夫の世話をするニャン、レイプをされた過去を持つロアン。孤独な彼女たちの暮らしに変化が…。
ブイ・タック・チュエン監督は「ベトナムは家長制度の歴史が長く、家庭では男性が威張っているのですが、ベトナムの女性は強い。強さの魅力がある。原作のストーリー性とラブストーリーに魅了されました。それに加え、地域性にも惹かれました。様々な表情を見せる水の風景も助けになりました」と語っていた。

ブイ・タック・チュエン監督、俳優のレ・コン・ホアン、ジュリエット・バオ・ゴック・ドリン、フオン・アイン・ダオ、ゴー・クアン・トゥと本作プロデューサー

この後はプレス試写会場のシネスイッチ銀座に移動。
シネスイッチ銀座1は地下で階段しかないのでなるべく避けていたのだけど、次の16;35からの『This is What I Remember』はアクタン・アリム・クバト監督作品。どうしても観たかったのでシネスイッチ銀座1へ。

『This is What I Remember』(英題) 原題:Esimde
コンペティション
監督:アクタン・アリム・クバト
出演: アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾバ
2022年 キルギス/日本/オランダ/フランス
キルギス語、アラビア語

『馬を放つ』(17)で知られるキルギスを代表する映アクタン・アリム・クバト監督の最新作。ロシアに出稼ぎに行っている間に記憶を失い、20年ぶりにキルギスに戻ってきた父とその家族を描くドラマ。
キルギスの村。クバトは、ロシアに出稼ぎに行20ったまま年間行方不明になっていた父ザールクをみつけて連れ帰る。父はロシアにいる間に記憶を失ない自分のこともわからない。母は夫が亡くなったと思って、村の実力者と再婚している。クバトは父を村のあちこちに連れていくが、記憶は戻らない。「This is What I Remember」とは日本語に訳すと「これが私が覚えているものだ」だが、彼は何かを覚えているのだろうか。

この日は映画友がチケットを取ってくれて、一緒にTOHOシネマズシャンテで21:15からの『消えゆく燈火』(香港)を観る予定だったので、夕食をシャンテ地下の「五穀」という店で一緒に食べる。釜飯など和食系の店で久しぶりに和食を食べた。
今回の映画祭ではシネジャスタッフともこれまで会わず、まして映画祭一般上映の映画友たちとも会えなかったけど、やっと昔からの映画友と一緒に観ることができた。もっとも、このチケットなかなかチケット購買のページになかなか入っていけなくて、この友人が取ってくれた。この作品はチケット買いが集中し、私は入口までしか入れなかったけど、この友人はあとから参加したにも関わらず、チケット購買まで入っていけて、「一緒に買う?」と言ってきてくれた。友はありがたい。

『消えゆく燈火』 原題:燈火闌珊 
英題:A Light Never Goes Out
アジアの未来部門 
監督:曾憲寧(アナスタシア・ツァン)
出演:シルビア・チャン、サイモン・ヤム、セシリア・チョイ 
2022 香港 広東語

腕利きのネオンサイン職人だった夫の死後、失意の妻は夫が10年も前に閉じた工房を訪ねた。そこで夫の弟子だったという若者に会い、やがて夫がやり残したネオン製作の夢を継承しようと決意する。サイモン・ヤムとシルヴィア・チャンの名優コンビが夫婦を演じる。
香港のあのカラフルなネオンサイン。微妙な作りのガラス細工からできていたんだと思った。かつて高校生の頃、化学の実験でガラス細工を習ったことがあったけど、これが原料だったとは。そういえば昔に比べたら香港のネオンサインの派手さはなくなってきていたような気がする。それで亡くなった夫も工房を閉じていたのだろうか。失われていくものへのレクイエムともいえるのかも。
第59回台湾金馬奨で、シルビア・チャンが最優秀主演女優賞受賞したそうです。

©A Light Never Goes Out Limited

第35回東京国際映画祭(2022) クロージングセレモニー写真集

『ザ・ビースト』が東京グランプリ・最優秀監督賞・主演男優賞の3冠


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受賞者のみなさん


第35回東京国際映画祭 クロージングセレモニー 2022年11月2日(水)

10月24日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕した第35回東京国際映画祭。11月2日(水)に東京国際フォーラムにてクロージングセレモニー行われました。遅くなりましたが、その時の写真を各部門における各賞の発表・授与、登壇者のコメントともに掲載します。

第35回東京国際映画祭 各賞受賞作品・受賞者
コンペティション部門
★東京グランプリ/東京都知事賞
『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)
★審査員特別賞 『第三次世界大戦』(イラン)
★最優秀監督賞
 ロドリゴ・ソロゴイェン監督『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)
★最優秀女優賞
 アリン・クーペンハイム『1976』(チリ/アルゼンチン/カタール)
★最優秀男優賞
 ドゥニ・メノーシェ『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)
★最優秀芸術貢献賞 『孔雀の嘆き』(スリランカ/イタリア)

観客賞 『窓辺にて』(日本)

アジアの未来
★作品賞 『蝶の命は一日限り』(イラン)

AmazonPrimeVideoテイクワン賞 該当者なし

特別功労賞 野上照代


授賞式写真集

特別功労賞 野上照代
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スティーヴン・ウーリー(『生きる LIVING』プロデューサー)、安藤裕康チェアマンと
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野上照代さん:ありがとうございます。なんて言ったって95歳(2022年現在)ですからよくもったものです。私は映画が本当に好きだし、映画という表現をここまで続けてきてくれた色々な監督たちに感謝します。いろいろな表現があるけれど、やっぱり映画ほどリアルで具体的で真実に迫るものはない。やはり素晴らしい表現だと思います。ありがとうございました。
野上照代さんは、1950年黒澤明監督の『羅生門』にスクリプターとして参加。その後『生きる』以降の全黒澤作品に、記録、編集、制作助手として参加した。

Amazon Prime Video テイクワン賞 該当者なし

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プレゼンター行定勲監督:Amazon Prime Video テイクワン賞の今年の該当作品はありませんでした。私たちプロの立場であっても、映画の企画が生まれ完成するまでというのは奇跡的なものです。完成した作品より消えていった作品の方が多いのが現実です。このAmazon Prime Video テイクワン賞は新人監督に長編映画の企画を実現するチャンスを与えるという夢のような賞です。しかし、それに見合う実力、この人に獲らせたいという想いを今回のファイナリストの作品から見出すことが出来ませんでした。
審査会議では辛辣な意見が飛び交いました。「それぞれの作品には良さがある。しかしそれは世界に繋がっていない。15分という短編には強い作家性が込められるべきだが、それを感じられなかった。どの作品にもイメージの飛躍が我々の想像を超えるものではなかった」。しかし、今はまだ賞に値するものではないが、今回のファイナリストに残ったいつか評価される才能がこの中にいるのではないかと期待したいと思います。
ここ数年、さまざまな短編映画祭の審査委員を務めてきましたが、昨年のテイクワン賞のレベルには正直驚かされました。こんなにも才能のある作家がまだいるのかと。「実力はあるが商業ベースではない若手を見出す」、「世の中をもっと広く意識した作品を作ろう」とする才能をAmazonスタジオが支援をするテイクワン賞にふさわしいのは辛辣な意見を聞いてきた作り手であり、この賞はそれでも作り続けるという作り手にこれから手を差し伸べるべきだと思います。今回の結果を是非、来年のAmazon Prime Video テイクワン賞に繋げていただきたいと切に思います。来年は更なる飛躍をしていただいて、また若い人たちがどんどん応募してきていただけたらと思っています。

アジアの未来作品賞 『蝶の命は一日限り』
モハッマドレザ・ワタンデュースト監督(イラン)
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アジアの未来部門審査委員と共に 斉藤綾子、ソーロス・スクム、西澤彰弘
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モハッマドレザ・ワタンデュースト監督:この賞をいただき、とても感銘を受けています。今は芸術性の高い映画がいろいろな映画祭で賞を貰ったりしないので、東京国際映画祭は今でも芸術性を大事にする映画、芸術の言葉で一つの物語を語る映画を大事にしてくれることに、私たちは心強さを感じています。私たちは監督として一つの社会問題を、映画の言葉で表現することはとても重要なことであると信じてます。この場を借りて、この賞をイランの大変素晴らしい女性たちに捧げたいと思います。世界の平和、そして戦争がない平和を願って、スピーチを終わりたいと思います。

<コンペティション>
観客賞 『窓辺にて』今泉力哉監督


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今泉力哉監督:私の作品は個人的な本当に小さな悩みを題材に恋愛映画をずっと作り続けています。世界には戦争だったり、ジェンダーの問題だったり、さまざまな問題がある中で、私は小さな、本当に小さな取るに足らない悩みとか、個人的な問題を、恋愛を通じてコメディ的な笑いも含めて描こうと思って今まで作り続けています。映画に限らずですが、小説とかそういうものは大きな問題を取り上げてそれについて語るものとしての側面があるけれど、自分は主人公も受動的だったり、自ら行動できなかったりとか、見過ごされるような小さな問題について映画をずっと作り続けています。自分が映画を作ってきて、こうやってこの場に立っているのを嬉しく思いますし、今後も続けていければと思います。ネガティブに捉えるだけではなく、そこにある小さな喜びとか、そういうものを自分なりにできることを考えて行こうと思います。

最優秀芸術貢献賞『孔雀の嘆き』
サンジーワ・プシュパクマーラ監督(スリランカ/イタリア)

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『孔雀の嘆き』チーム
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サンジーワ・プシュパクマーラ監督:日本の政府・日本のみなさんに大変多くのサポートいただきましたことを心から感謝したいと思います。私たちが困難の間、皆さんから非常に強力なサポートを得ることができました。ありがとうございます。また、私の映画の源となりました妹、兄弟に感謝しています。この映画を全てのスリランカの人に捧げたいと思います。私たちは税金で教育を受けることが出来ました。私はこの映画そのものをスリランカの人々に捧げたいと思います。

最優秀男優賞 ドゥニ・メノーシェ
『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)

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2019年の観客賞『動物だけが知っている』ドミニク・モル監督の代わりにトロフィを受け取ったドゥニ・メノーシェさん
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ドゥニ・メノーシェさん:東京国際映画祭は大好きな映画祭です。賞をいただくことができて光栄です。日本が大好きで日本の文化を素晴らしく思っております。世界中が「日本的」だったらもっと住みやすくなるに違いありません。ですから受賞を大変喜ばしく思っております。残念ながら、今私はモントリオールにいます。また日本に行くことを楽しみしにしていて、いつか日本で映画を作ってみたいです。

最優秀女優賞 アリン・クーペンハイム
『1976』(チリ/アルゼンチン/カタール)

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アリン・クーペンハイムさん:このような素晴らしい賞をいただいて大変嬉しく驚くと共に、大変光栄に思っております。映画祭審査委員のみなさん、そしてこの役を私に託してくれたマヌエラ・マルテッリ監督、『1976』の素晴らしいチームの仲間たち、非のうちどころのない愛情に満ちたチームワークに改めてお礼を申し上げます。本当はみなさんと一緒に祝いたいのですが、私は文字通り地球の裏側にいます。とても遠いチリのサンティアゴからみなさんに暖かい抱擁を送ります。あなた方一人一人の幸運を祈ります。

代理でトロフィを受け取った『1976』のマヌエラ・マルテッリ監督
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私の作品を上映する機会を与えてくださった東京国際映画祭の皆さまに心から感謝しています。そしてまた、この素晴らしい日本という国、素晴らし日本の皆さまに心から感謝しています。実は10歳の時にこの主演のアリンさんにインタビューする機会があったんです。それで今、彼女がこの作品で賞を獲ったことにとても感激しています。

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プレゼンテーター シム・ウンギョン

審査員特別賞『第三次世界大戦』(イラン)
ホウマン・セイエディ監督 代理:出演女優マーサ・ヘジャーズィさん

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マーサ・ヘジャーズィさん:残念ながら監督がこの場に来られなかったので、代わりにメッセージを読ませていただきます。日本のために、そして私の幻想のために。この世界は山であり、私たちの行動は呼びかけである。呼びかけは声として入ってくる、声には呼吸がないが、声は聞くことができる。私の声はあなたの元に届くでしょう。私は今、この瞬間みなさんと一緒にいることができません。それは私が望まなかったからではなく、そうせざる得なかったからです。けれど私の声はそこにあります。あなた方と一緒にいられなかったこと、あなた方の文化や伝統に触れられなかったことが、とても悲しいです。しかし私は何年も前からみなさんの声を聞いているのです。俳句を読む度に、村上春樹やカズオ・イシグロの本を開く度に、黒澤映画をみる度に。私は皆さんのことをよく知っています。そしてもうすぐ皆さんに会いに飛んでいきます。世界平和を願い、日本のみなさんに会えることを願い、私たちを受け入れてくれたことに深く感謝の気持ちをお送りします。”

最優秀監督賞 ロドリゴ・ソロゴイェン監督
『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)

コンペティション部門東京 グランプリ/東京都知事賞
『ザ・ビースト』


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ロドリゴ・ソロゴイェン監督:最優秀監督賞と、東京グランプリ/東京都知事賞の2つの賞をいただき本当に嬉しいです。心より光栄に思います。授賞式に参加できないのは残念ですが、『ザ・ビースト』や映画祭、そして素晴らしい東京という街を楽しんでいただければと思います。どうか皆様、良い夜を。

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左から小池百合子東京都知事、ロドリゴ・ソロゴイェン監督に代わって登壇したアルベルト・カレロ・ルゴ ラテン・ビート映画祭プログラミングディレクター、ジュリー・テイモア審査員長。

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スペシャルプレゼンター小池百合子東京都知事:今年のコンペティション部門は107の国と地域から、1695本の応募がありました。毎年数多くの新しい才能がここ東京から世界へ羽ばたいていることを大変うれしく思います。映画には人々の心を繋げる大きな力があります。この映画祭を通じて相手の個性や考えを尊重し一人ひとりの夢、希望が育まれることを期待しています。

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ジュリー・テイモ審査委員長:『ザ・ビースト』は音楽、撮影、物語、脚本、役者、そして演出も本当にすべてに感動したし、心を動かされるこれこそまさに「映画」だと感じさせてくれる作品でした。最後まで競っていた『第三次世界大戦』は本当にワイルドで、『パラサイト半地下の家族』や『ゲット・アウト』やチャップリンの『独裁者』のような映画で、本当にショックを受けましたし驚かされました。イランでホロコーストの映画が撮影されていて、現場の作業員が無理やり収容所のエキストラにさせられていたり、主人公の男性が困難な状況にある中でヒトラーにさせられたり非常に珍しい映画。ぜひ2本とも配給されてほしいと願っています。私たちは馴染のあるものに慣れてしまっている傾向があるけど、それは問題だと思います。そうではなく自分ではない他の人の人生を経験し歩むことで自分を豊かにしてくれるのが映画だと思います。

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安藤裕康映画祭チェアマン:映画祭の来場者が昨年の倍以上になったことを来場者に報告。いろいろな場所でイベントを実施し、映画祭としての存在感、華やかさを表すことができたのではないかと思います。今、日本は国力が弱くなっているのではないかとか、自信をなくしていると言われたりしますが、私は芸術文化に関する限り、まだまだ日本は世界で勝負できると思っております。東京国際映画祭は、映画を通じて世界との架け橋になりたい。これからも飛躍していきたいと締めくくった。

第 35 回東京国際映画祭
開催期間:2022 年 10 月 24 日(月)~11 月 2 日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
公式サイト:www.tiff-jp.net

第35回東京国際映画祭 動員数 <速報値・2日は見込み動員数>
■上映動員数/上映作品本数:59,414人/169本*10日間
(第34回:29,414人/126本*10日間)
■上映本作品における女性監督の比率(男女共同監督作品含む):14.8% (169本中25本)
■その他リアルイベント動員数:50,842人
■ゲスト登壇イベント本数:157件 (昨年:65件、241.5%増)
■海外ゲスト数:104人 (昨年:8人、1300%増)
■共催提携企画動員数:約20,000人

クロージング作品 『生きる LIVING』

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スティーヴン・ウーリープロデューサー

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脚本のカズオ・イシグロとオリヴァー・ハーマナス監督

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主演のビル・ナイ

黒澤明の不朽の名作『生きる』が第二次世界大戦後のイギリスを舞台に蘇る。主演はビル・ナイ。脚本はノーベル賞作家のカズオ・イシグロ。監督はオリヴァー・ハーマナス
103分カラー英語日本語字幕2022年イギリス東宝株式会社

まとめ・写真 宮崎暁美

東京国際映画祭 キルギス『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督Q&A報告 (咲)

コンペティション
『This Is What I Remember(英題)』
原題:Esimde
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監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾバ
2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス/キルギス語、アラビア語/105分/カラー

キルギスの村。クバトは、ロシアに出稼ぎに行き20年間行方不明になっていた父ザールクを見つけて連れ帰る。父はロシアにいる間に記憶を失っていた。母は夫が亡くなったと思って、村のほかの男と再婚している。クバトは父を村のあちこちに連れていくが、記憶は戻らない・・・

『馬を放つ』(17)で知られるキルギスを代表する映画作家アクタン・アリム・クバトの最新作。

TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP14


●Q&A
2022年10月27日(木)18:30からの上映後-
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登壇ゲスト:アクタン・アリム・クバト(監督/脚本)
司会:市山尚三(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)

アクタン・アリム・クバト監督:まずは映画祭の方々に、この映画を観ていただく機会を与えてくださったことに感謝します。ワールドプレミアで、初めて上映されました。ビターズ・エンド代表の定井勇二さんのお陰で、製作から配給まで可能になりました。心から感謝しています。

市山:ロシアに出稼ぎに行って起こる物語。よくあることなのでしょうか?

監督:個人のストーリーをネットで読んで、2~3年経ってからそれをもとに映画を作りました。キルギスの人がロシアに出稼ぎに行って帰ってきたけれど記憶を無くしていたという個人の実話に、周囲の人たちの話を空想で付け加えています。

市山:モデルになった方は、記憶を取り戻したのでしょうか?

監督:観客の皆さんに私も聞きたいことです。我々は皆、記憶を取り戻したいと思っていると思います。皆さんはどう思いますか?


*会場からの質問*

―(男性)監督のデビュー作『あの娘と自転車に乗って』を、確か渋谷で拝見しました。続編か後日談のように思えました。

監督:スパシーバ(ありがとうございます)。続編と捉えていただき、ありがとうございます。これまで作ってきた映画は、子どものころ、私自身の人生を描いてきました。この映画ですべてを集めて語ろうと思いました。前の6本も、同じロケーションです。俳優も同じ人もいます。主人公ザールクという息子を演じたミルラン・アブディカリコフは、私のほんとの息子です。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

―(男性・英語で)主人公の住む村のコミュニティと、イスラームの導師たちとの考え方の違うように感じました。敬虔な人と、そうでもない人がいるのでしょうか?

監督:私の経験したイスラームは、地元の伝統に結び付いていました。現代のイスラームは暴力的になって、伝統と食い違うことが多いように感じます。伝統を大事にしたい人たちは、イスラームを信じているのですが、心の一部には、伝統的なテングクの気持ちが残っています。私自身、信仰に反対ではなくて、アラビア風のイスラームには抵抗を感じています。その考えを主人公の一人である女性を通じて表そうと思いました。
彼女は夫が亡くなったと思って再婚しているので、イスラームの教えでは元夫のもとに行くことはできないのですが、最後には自分を取り戻して元夫のもとに行きます。
イスラームでは、神様にアラビア語で呼びかけます。私の考えでは、神様との繋がりは、自分の言葉(キルギス語)でしたいと思っています。

― (男性)主人公を追いかけて橋まで行く姿をカメラが追っているのは意図的?
また、息子のTシャツの7番には意味があるのでしょうか?


監督:カメラはいつも動いていて、カットせずに回しています。すべて手持ちカメラです。
7番というのは、キルギス語の諺に、「7人の人は皆、聖人」という言葉があります。主因河野息子は、自分の父と同じ価値があるという意味を込めています。息子はサッカーをやっているので、好きなサッカー選手の背番号が7番かなと思います。

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イスラームが起こったサウジアラビアでの厳格な解釈ではなく、伝播した地では、それぞれの伝統を大事にした形でのイスラームでいいという監督の考えを知ることのできたQ&Aでした。イスラームを過激に解釈する人たちの姿が、イスラームのイメージを悪くしている状況を憂いているのだと感じました。クバト監督のこれまでの作品にも、そのことを描いた場面があったのを思い出しました。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

元妻は同じ村の男と再婚していて、夫が帰ってきたことを内心喜ぶのですが、ザールクは記憶を失っていて、自分の妻のことも思い出せないのです。(再婚しているので、かえって幸い?) あることがザールクの記憶を呼び戻しそうなラストに、ほろっとさせられました。
本作は、ビターズ・エンド様の配給で公開されることと思います。もう一度、ゆっくり拝見して、監督の思いを味わいたいと思います。

景山咲子



◆TIFF公式インタビュー
「今のキルギス人は家族や環境に対する考え方が変わってしまった。理性をもって物事に向き合ってほしいと。」
第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60671



東京国際映画祭 イスラエル映画 『アルトマン・メソッド』 Q&A報告 (咲)

アジアの未来
『アルトマン・メソッド』
The Altman Method
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監督:ナダヴ・アロノヴィッツ
出演:マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク、ダナ・レラー
2022年/イスラエル/ヘブライ語/101分/カラー
作品公式サイト:https://www.shvilfilms.com/films/thealtmanmethod
TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3502ASF01

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©A.N Shvil Productions Ltd.

女優のノアは妊娠中。アパートの清掃をしている黒ずくめのアラブ女性に、床が濡れているので、きちんと綺麗にするよう注意する。そんな折、空手道場の経営不振にあえぐ夫ウリが、清掃員に成りすましていたテロリストを「制圧」したことが評判となり、道場は危機を脱する・・・


●Q&A
2022年10月31日(月)12:42からの上映後 

登壇ゲスト:ナダヴ・アロノヴィッツ(監督/脚本/プロデューサー/編集)、マーヤン・ウェインストック(女優)、ニル・バラク(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).通訳:松下由美

石坂:2回目のQ&Aです。
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ナダヴ・アロノヴィッツ監督:東京で1週間過ごして、わくわくする東京の日々です。初来日で、自分たちの文化と遠いと感じつつ、映画言語は普遍だと思います。

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マーヤン・ウェインストック:来日できて光栄です。2回目のQ&Aなのでリラックスできると思っていましたが、もっと緊張しています。監督に同意です。日本文化への理解が深まりました。日本人は静かですが、好奇心が旺盛で、知りたい気持ちが伝わってきます。

ニル・バラク:二人に同意です。食事が素晴らしい。ガソリンスタンドでも美味しいものが食べられました。人として繋がり、歓迎してくれているのが嬉しいです。

石坂:1回目のQ&Aで、武道は柔道や合気道など日本武道に精通していらっしゃるという話が出ました。空手を実際にされるのですか?
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ニル:イスラエルでとても空手はポピュラーです。5~10歳の子たちは、ほとんどが空手をやってます。柔道チャンピオンもいます。空手の道場にも指導者の姿を観に行ってみました。様々な流派があります。合気道は勝ち負けはありません。芸術的なものがあります。私が演じた夫は、勝ち負けに興味があります。白黒はっきりさせたい人物です。アート系は妻に任せています。

*会場からの質問*
―(男性)わくわくしながら観ました。驚いたのは、襲われる事件や、警官との証拠のやりとりの実際の場面は映されなくて、観客としては嘘かもしれないとも思わせられました。心理描写で引っ張っていく演技に工夫をされたのでしょうか?


監督:ありがとうございます。謙虚に受け止めます。観客に見せていない部分を埋めてもらおうと思いました。気持ちを掻き立てるものを用意しました。映画はノアの視点で描かれています。何が起きたかは、ノアは人から聞いて推測するしかないのです。ノアと一緒に旅をしてもらう形で描いています。2作目も、もっと観客に委ねる作り方をしたいと思っています。

マーヤン:とても素敵な質問をありがとうございます。監督から撮影は時系列には行わないので、何も考えずに状況に身を傾けてほしいと言われました。親友と一緒のシーンでは、愛する夫がいて、友がいるという気持ちで演じました。ストーリーのどこを撮っているのか考えたりもしました。けれども、監督からは共演している人とのことは、その場で感じて演じればいいと言われました。

― (女性)最後のガソリンスタンドで、彼にここが汚れているといくつか指摘するシーンですが、何か言いたいけれどやめようと。どういう気持ちだったのでしょうか?

監督:オープンに終わらせたかったのです。彼女は何か言いたいけど、男性の表情を見て、もう言わないでおこうと。言葉で言わなくても、映画は映像で伝えることができます。

マーヤン:彼の表情を期待せずに見て、わずかに距離が縮んだと思います。それまではパレスチナ人ということで、一個人として見てなかったのです。
夫が殺めた女性の夫に実際に会って交流できたことで、彼が笑っているのを見て、自分の道を歩み始めていると感じたのです。ノアはまだやっと自分の道を歩み始めたところです。これ以上何か言っては・・・と、やめたのです。

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夫が、清掃員を装ったテロリストのアラブ女性からナイフで刺されそうになったので、「制圧」したという場面は映されず、正当防衛だったと語る夫の言葉のみ。「制圧」したという場面を映像で見せなかったのは、この物語を妻の目線で描いたからと監督。なるほど!と納得でした。 それにしても、「アラブ人・パレスチナ人=テロリスト」が一人歩きする悲しさを感じました。妻ノアが真実を見抜いたことに救われた思いでした。

景山咲子



◆公式インタビュー
監督が本作を作った背景がよくわかります。ぜひご一読ください。
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60620