東京国際映画祭『皮膚を売った男』  TIFFトークサロン 監督Q&A

TOKYOプレミア2020
『皮膚を売った男』 英題:The Man Who Sold His Skin 原題:L'Homme Qui Avait Vendu Sa Peau
監督:カウテール・ベン・ハニア
出演:モニカ・ベルッチ、ヤヒヤ・マへイニ、ディア・リアン
2020年/チュニジア・フランス・ベルギー・スウェーデン・ドイツ・カタール・サウジアラビア/104分/カラー/アラビア語・英語・フランス語
上映日:11月1日(日)13:00~ 11月7日(土)21:10~
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP21

*物語*
2011年、シリア。電車の中でサムは恋人アビールに結婚したいと宣言。同乗していた皆に祝って貰うが、その時、「自由がほしい」と叫んだことでお咎めを受け逮捕される。軍の係官が遠縁らしく、彼を知っていて「国外に逃げろ」と解放してくれて、車でレバノンに逃れる。
1年後、ベイルートでサムは、恋人アビールが外交官の男と結婚しベルギーにいることを知る。食べ物を求めて潜り込んだベイルートの美術展の会場で、サムはベルギーの芸術家ジェフリー・ゴデフロイと出会い、「背中を売ってくれ」と提案される。背中にシェンゲンビザのタトゥーを入れられたサムは、巨額の報酬を手にし、アート作品として、まずベルギーの王立美術館に展示されることになる。難民を利用した搾取だとして抗議する団体が現れ、アラビア語通訳としてやってきたアビールとサムは再会を果たす・・・

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チュニジア出身の女性監督による作品。
映画祭の後半、プレス登録している方たちと話した時に評判の高かった作品です。
コンペティションがあったなら、きっと何かの賞をもらったことと思います。公開されることを期待して、再会した二人のその後はここでは触れないでおきます。
サムが国外に逃れたあと、シリアの状況は悪化の一途をたどります。ベルギーにいるサムが、シリアにいる母親とスカイプで話す場面で、お母さんは「難民が海で死んでいる」と心配するのですが、そのお母さんの両足がないことに気づきます。爆発で壁の下敷きになって両足を失ったのですが、「大丈夫 明日はいい日になる」という言葉に胸が締め付けられる思いでした。

TIFFトークサロンで、カウテール・ベン・ハニア監督の本作への思いを伺うことができました。


TIFFトークサロン
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2020年11月8日(日)18:15~
登壇者:カウテール・ベン・ハニア監督:
司会:矢田部さん
通訳:今井さん
アーカイブ動画:https://youtu.be/UzNIO4wTau0

矢田部:お会いできて光栄です。

監督:TIFFで上映していただきありがとうございます。日本の観客に見ていただけること、この上なく嬉しいです。

矢田部:今はパリですか? 朝の10時半くらい?

監督:はい、まさにそうです。

矢田部:抜群に面白い物語をありがとうございます。現代的に重要な主題を盛り込んだ素晴らしい映画をこの東京国際映画祭で紹介できるのがとても光栄で、改めてお礼申しあげます。

監督:こちらこそ光栄です。映画をご覧になった皆さんがSNSなどで発信されている感想をお読みして、日本の観客に受け入れられていることをとても驚き、嬉しく思っています。

矢田部:監督はチュニジアご出身。パリの有名な映画学校ラ・フェミスやソルボンヌ大学で学ばれています。これまでドキュメンタリーとフィクション、両方手掛けてきました。今後も両方作っていかれる思いでいらっしゃるのでしょうか?

監督:今後も両方作っていくつもりです。現在、ドキュメンタリーを手掛けています。ジャンルをまたいでやっていると相乗効果があります。それぞれの良さがあると思っています。フィクションの世界では頭の中で想像したものを具現化できる楽しみがありますし、ドキュメンタリー作家として映像を作っていくのは、調べた混沌とした世界が衝突する作業なのですが、そこから秩序立ててつくるという訓練がフィクション作品をより良いものにしてくれます。今は、手掛けているドキュメンタリーと、次に考えているフィクション作品の資金集めをしているところです。

矢田部:『皮膚を売った男』は、ドキュメンタリーに対する姿勢がフィクションにうまく反映されていると思いました。映画の成り立ちは? どこから着想を得られたのでしょうか? デルボアさんの『TIM』に影響を受けたそうですが、それはどのような作品でしょうか?

監督:コンテンポラリーアーティストのヴィム・デルボアの「TIM」から着想を得ました。豚に入れ墨をした作品です。それが人間にも入れ墨を入れて美術品にしていくというものです。豚の頃から是非についていろんな議論がありましたが、それを人間にもということで議論がさらに膨らみました。アートという市場で、現代美術がどこまで限界ぎりぎりに挑戦していくかに興味を持ちました。また、背中にタトゥーを美術品として入れた男は何者なのか、どういう思いでタトゥーを入れたのかという疑問が沸き上がりました。彼の背景とラブストーリーを描くことで、彼に人間性を与えたつもりです。シリア難民が主人公になっていますが、今、難民が語られる時、数字や統計として顔のない存在になっているのでストーリーを描くことで存在感を与えました。

矢田部:Q「デルボアさんが保険販売員として出演されています。なぜ彼に保険屋を演じさせたのでしょうか?」

監督:彼にぜひ出演してほしいと思いました。どの役をと、すべての役を考えて、保険屋にしました。現代アーティストが四角四面に作品をみていくのが皮肉で面白いと思いました。美術作品が爆発の中で死んだらおじゃん。保険会社としては大災難。もし癌で亡くなれば、背中の皮を剥いで美術品として使えるという発想が面白いと思いました。デルボアさんも乗り気で、人を挑発するのが好きなので、喜んでやってくれました。

矢田部:Q「自分が作品になるのが難民として生きる決断だったというのが痛いほど伝わってきました。それが美術品として購入されることに衝撃を受けました。実際に、人がアートとして売買されるケースはないと思っていいのでしょうか?」

監督:いろんな人の人生を見て、特に難民の方たちはなんとかして生き延びなければいけない。選択肢のないメタファーとして自ら美術品になることを描きました。そのことにより自らの尊厳を失うのも難民の現実。国境を越えるのも、渡航文書を入手するのも苦い選択を迫られます。その比喩として描きました。

矢田部:Q「難民のサバイブの話でありながら、行動の動機が恋人に会いたいという愛の物語であることに魅せられました。」

監督:意図的に描きました。難民は、なんとか生き延びないといけない状況にあります。孤独で脆弱な立場に置かれています。家族や誰かへの愛が支えで力の源泉になります。難民の方たちを見ていると、ずっとスマホを握りしめています。家族や親せきと話したいという思いだと思います。私自身ラブストーリーが大好きなので、映画で語りたいと思いました。主人公には一途に愛する人がいてほしいという思いがありました。もう一つ意識して語りたかったのが、二つの世界のコントラスト。冷たく希望に満ちた現代アートの世界と、女性を愛する男という熱情の世界を対比させたいと思いました。

矢田部:監督は現代アートの価値や表現の自由について、もともと懐疑的だったのでしょうか? それとも、この映画のために、あえてそのような視点を取り入れたのでしょうか?

監督:現代アートの世界をどう思うかはひと言では片づけられません。とても複雑で豊かな世界です。この映画の中ではストーリーを語るツールとして入れた視点と思ってください。私が語りたかったのは、自由とは?ということ。難民の置かれている苦境、一方で、現代アートの世界での表現の自由、人を挑発する自由、売り買いする自由。難民には基本的な自由もありません。難民の世界と、現代アートの世界からやってきた二人が出会うのですが、お互い自由だと思っているけれど、どこの国のパスポートを持っているのか、どういう社会背景があるのか、どういった階級に属しているのかで自由の度合いが違います。様々なトピックを描いて皆さんに考えてもらいたいと思いました。

矢田部:感想をいただいています。「見終わった直後は、芸術と資本主義の関係をめぐる痛烈なアイロニーに感じました。時間が経つにつれ、社会の中で一人の人間の自由意志がどこまで可能かを、様々な視点で考えることのできる作品でした」もう一つ、質問をいただいてます。「入れ墨を入れるアーティストのジェフリーは人間性を失った人間とも思える場面がありました。彼のキャラクターにどのようにアプローチをしたのか知りたいです。」

監督:そういうことを考えながらキャラクターを想像しました。ジェフリーは、芸術家であり、皆より高みに立っている天才作家として描きました。西洋美術史をみると、かつては教会、今は資本主義に支えられています。芸術家たちはお金になるのであれば挑発もOKという世界に生きています。権力を持っていて、インテリだけどどこか冷酷なところがあて感情から離れている。一方で深く思考できる矛盾に満ちたキャラクターで、書いていて楽しかったです。

矢田部:Q「主演の方は映画初出演。どのように見つけたのでしょうか? 背中のオーディションも当然されたのでしょうか?」 

監督:短編の経験はある人です。オーディションには時間をかけました。シリア人で才能溢れた人を探しました。ヤヒヤさんの映像を見て、才能に魅せられました。皆に背中は見せてとお願いしました。重要な要素ですが、演技力がなにより重要です。ベネチアでも主演賞を受賞。素晴らしい才能です。

矢田部:背中にメークを施すのにどれくらい時間がかかりましたか?

監督:最初は3時間。毎日撮影が終わると消します。入れ墨の美術の方も慣れてきて2時間くらいになり、最終日には1時間で描きあげていました。

矢田部:Q「モニカ・ベルッチさんを起用した経緯は?」

監督:彼女が演じた女性は地中海地域から来た設定。熾烈な現代アートの世界でやっていくために素性を隠して、ブロンドにして、冷徹な雰囲気にしているというキャラクターです。ほんとのモニカ・ベルッチさんは逆の方。面白いコラボレーションになりました。

矢田部:Q「シリアで危険な状況の中で、主人公が拘束されたときに、担当の兵士が従兄弟だと言って逃がします。自分の立場も危うくなると思うのですが、現実にあり得ることでしょうか?」

監督:このシーンを書いた時、2011年を想定しました。いろんな思想がシリアにあった時点。革命の発端になった時期です。あの兵士はサムがあそこにいては将来がないと咄嗟に判断したのです。あえて上に従わない行動をした兵士もいたことを描きました。

矢田部:Q:「シリア、レバノン、ベルギー、美術館と様々な場所で撮られていますが、どこでの撮影が大変でしたか? どこのシーンが一番気に入ってますか?」

監督:すべてが大変でした。中でも、美術館での撮影は難しかったです。ロイヤルベルギーファインミュージアムでは、物を触ったり、動かしたりできませんでした。お気に入りのシーンは一つには絞れません。家を建てるようなもの。どのシーンにも機能があって大事。それを集めて一つの映画にしていますので。

矢田部:Q「音楽がよかった。映画のために作ったものですか?」

監督:映画のために、とても才能のあるアミン・ブハファに作ってもらいました。近日中にサントラが発売されます。

矢田部:監督にサプライズです。(漫画で描いた映画のシーン)

監督:インスタグラムで見て、とても嬉しかったです。幼少の頃はアラビア語に訳された日本の漫画を見てました。ほんとうに感動しました。

矢田部:葉書サイズのもので、映画を一回見ただけで描いてくださいました。監督にお届けします。それではスクリーンショットタイムです。

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手を振る監督

矢田部:最後にひと言お願いします。

監督:日本で劇場公開にこぎつけることが出来たら嬉しいです。コロナ禍で劇場の運営も不安定だと思いますが。なにより地球の反対側にいる日本の皆さんに受け入れていただけたことを嬉しく思っています。

矢田部:直接お会いできる日が来ることを楽しみにしています。今日はありがとうございました。

景山咲子

TIFFトークサロン『荒れ地』(イラン)

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『荒れ地』  英題:The Wasteland 原題:Dashte Khamoush
監督:アーマド・バーラミ
2020年/イラン/102分/モノクロ/ペルシャ語
上映:11月5日(木)20:45~  11月9日(月)10:35~
◆ワールド・フォーカス国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC13

*物語*
レンガ工場に家族で住み込んで働いている労働者たち。工場主が突然工場の閉鎖を告げる。解雇を言い渡され、個別に工場主に嘆願する。ここで40年勤め、工場主と労働者の間を取り持つロトフォッラーのことを、皆それぞれ告げ口する・・・

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TIFFトークサロン
11月9日 18:00~
登壇:アーマド・バーラミ監督
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)
ペルシア語通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん
英語通訳: 野村よしこさん 
アーカイブ動画:https://youtu.be/_VCjTklG1s0

◆撮影は、廃墟になったレンガ工場で
石坂:監督、どうぞ画面にお入りください。

監督:皆さんこんにちは。私の映画をTIFFで紹介できて、とても光栄です。

石坂:こちらこそ素晴らしい作品を東京に出していただいて感謝申し上げます。
皆さんのご質問も交えて進めていきたいと思います。Q「映画のスクリーンサイズについて、スタンダードサイズの構図、横移動のカメラワークが素晴らしく、目を見張りました。実際のレンガ工場で撮影したのでしょうか? それともセットを組んで撮影したのでしょうか?


監督:実際のレンガ工場で撮影しています。5年前から稼働してなかったのですが、映画のために手を入れて、稼働させました。全部、現実にあるものですが、ディテールは手をかけています。

◆原題は『静かな地』社会が沈黙している意も
石坂:Q「ペルシア語のタイトル『Dashte Khamoush』は、沈黙の地というニュアンスだと思います。タイトルに込めた監督の思いをお聞かせください」(景山の質問)

監督:英語では、『Wasteland』になっていますが、ペルシア語では、静かなというニュアンスです。実際、映像を見ても、レンガ工場が閉鎖されて静かになってしまいます。Khamoush には、静かなとか沈黙という意味のほかに、消えたという意味もあります。今のイラン社会は皆、沈黙していると思いましたので、このタイトルは両方を含めています。

石坂:Q「工場には、いろいろな人たち、男女、若い人、年を取った人、クルド人やトルコ系のアゼリーの人たちなどの様々な民族の人が働いていて、イランの縮図、ひいては世界の縮図のようでした。様々な人を登場させた意図をお聞かせください」(景山の質問)

監督:労働者の映画を撮りたかったのです。そして、イランのいろんな民族のことも撮りたかったのです。実際、レンガ工場には、西のクルドや東のホラーサンなどいろんなところから働きに来ています。イランではいろんな民族が一緒に暮らしていますので、レンガ工場は舞台にぴったりだと思いました、

石坂:Q「[時代設定は現在でしょうか? モノクロのせいもあって遠い昔の神話のようにも思えました]

監督:20年前位から使われているものを使って撮影しています。いつの時代と限定したくなかったのです。モノクロにしたのは、レンガ工場の労働者の世界にはあまり色がないので、モノクロで描きました。

石坂:こちらは感想です。「工場の閉鎖は世界の終りのようにも思えました」

監督:同感です。一つの仕事が終わると、まるで人生が終わったような感じです。

石坂:次の質問は皆さん一番気になっていることだと思います。Q「映画の語り口がとてもユニークです。同じ時間が反復するアイディアはどこから生まれたのでしょうか? 着想のヒントになったものは? 『羅生門』の語り口を思い起こしました」

監督:まずは日本の黄金時代の映画を何度も何度も観ていることをお伝えしておきたいと思います。偉大な黒沢監督や小津監督から多くのことを学びました。この映画のフォームはハンガリーのタルベーラ監督をイメージしたものです。工場では同じサイズのレンガが毎日毎日リピートして作られています。ですので、この映画もリピートした作りにしたいと思いました。
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石坂:Q「労働者だったお父様に捧げた映画とのことですが。お父様には映画をご覧いただくことはできたのでしょうか? どんな感想を?」(景山の質問)

監督:父は30年産業の工場で働いていました。この作品はまだ観ていませんが、前の作品は観て、励ましてくれています。保険のことを父はいつも心配していて、映画界には保険はあるのかと気にしているので、映画の中にも保険の話を入れました。

石坂:複数の方からいただいている質問です。Q「話を終えて白いシーツにくるまって寝る場面は、何を意味しているのでしょうか?

監督:映画を観る方に自分の解釈してもらいたいので、あまり説明したくないのですが、あえて説明しますと、一つ一つの家族の話が終わると、その中の一人が頭から白い布をかぶって寝てしまいます。人生が終わる、夢も終わる、つまり死をイメージしています。

石坂:まるで遺体のように思えましたとのコメントもいただいていますので、腑に落ちましたね。

監督:もう一つ、工場で働いている人たちは、長年働いていて、白い布を被った時には、もう仕事は終わりという意味もあります。自由な解釈をしていただいていいのですが。

石坂:Q「ロケ地は辺鄙な場所かと思います。撮影で一番大変だったことは?」

監督:とても大変なロケ地でした。沙漠で、夏の初めでしたので、40度を超えてました。朝の5時から夜の8時まで撮っていました。低予算なので、一日に長時間使わないと終わらないと思いました。とても暑くて、自分もスタッフも30本くらいの水や、レモン水を飲んで乗り越えました。

石坂:ドラマの中で「暑い暑い」と言ってましたが、俳優さんたちもほんとに暑くて大変だったのですね。

監督:もう一つ、撮影していた時、レンガの焼き窯は稼働してなかったのですが、ほんとに稼働していて熱いということが伝わればいいなと思いました。キアロスタミ監督が、映画は嘘の塊と言っていたのを思い出します。レンガ工場の労働者たちが熱い中で働いていることが、少しでも感じていただければいいなと思いました。

石坂:キアロスタミ監督の名が出ましたが、一緒に仕事をされたことはありますか?
ショーレさんは長年一緒に仕事されていますが・・・


監督:心からキアロスタミ監督を尊敬し、彼の映画が好きです。キアロスタミ監督の映画を観て、監督になりたいと思いました。大学で映画は学んだのですが、10年前に1年間のキアロスタミ監督のワークショップに参加して、キアロスタミの映画作りを学んでから映画を作り始めました。キアロスタミ監督の大ファンだったので、ショーレさんのこともキアロスタミ監督を通じて知ってました。この映画もキアロスタミ監督の影響を受けて作ったといえます。

石坂:「映画は嘘の塊」というキアロスタミの名言がありますが、そうはいっても彼の映画はリアリティにあふれています。キアロスタミ監督から一番影響を受けたのは、どんなことですか?

監督:現実に基づいて作ることを、自分も一番やりたいと思いました。キアロスタミ監督は素人をよく使っていますので、私も素人を使おうと思いました。自分の人生に近いものを描くということもキアロスタミ監督から学びました。

石坂:長編2作目ですが、次の作品の計画は?

監督:映画は2本目ですが、テレビドラマやドキュメンタリーをたくさん作ってきました。
この作品を筆頭に3部作を作りたいと思っています。あと2本同じテーマで作ります。
2本目は脚本を書き終わって、プレ製作に入っています。刑務所から釈放される女性の話です。

石坂:『荒れ地』はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門のグランプリでしたが、同じ部門の監督賞を受賞したラブ・ディアス監督の『チンパンジー族』を今回のTIFFで上映しています。これも労働に関する話ですが、ご覧になりましたか?

監督:残念ながらコロナのせいでヴェネチアでは時間がなくて観られませんでした。3日間しかいられなくて、自分の映画の取材でつぶれてしまいました。ぜひ観てくださいとは言われました。

石坂:時間がきてしまいました。最後にご覧になっている皆さんに一言お願いします。

監督:映画をご覧いただき、トークサロンにも参加してくださいましてありがとうございました。イランでは日本の文化をとても尊敬しています。豊かな文化に口づけすると例えています。何年か後に、作品をもって日本に行くチャンスがあれば嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

石坂:ぜひその日が来ることを願っております。

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スクリーンショットタイム

景山咲子

TIFFトークサロン『悪は存在せず』(ドイツ・チェコ・イラン)

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『悪は存在せず』英題:There Is No Evil 原題:Sheytan vojud nadarad
監督:モハマッド・ラスロフ
2020年/ドイツ・チェコ・イラン/152分/カラー/ペルシャ語
上映:11月2日(月)19:45~ 11月4日(水)13:30~
◆ワールド・フォーカス国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC12

*物語*
イランの死刑制度にまつわる4つのエピソード。
エピソード① 仕事帰りに高校生の娘を迎えにいき、家では妻の髪を染めてあげる夫。ごく普通の日常だが、刑務所に勤める彼は死刑執行人だった・・・
エピソード② 兵役で任地の刑務所で死刑執行を命じられるが、耐え切れずに脱走する若い兵士。
エピソード③ 恋人の誕生日に指輪を持って列車に乗り、山奥の故郷を目指す兵士。実は、彼は脱走してきたのだった・・・
エピソード④ 留学先からイランに帰ってきた医学を学ぶ女性。辺鄙な山奥に、父の親友の男性を訪ねていく。彼は死刑執行を拒んだために、娘を親友に託し身を潜めたのだった・・・

★2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金熊賞受賞。
イラン政府より出国を禁止されている監督に代わり、娘で映画にも出演しているバーラン・ラスロフが授賞式に出席しました。

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TIFFトークサロン
11月9日 21:45~
登壇者:モハマッド・ラスロフ(監督/脚本/プロデューサー)
司会:矢田部さん
ペルシア語通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん、
英語通訳:王みどりさん
アーカイブ動画:https://youtu.be/V0IRSKsUL4Y

監督:サラーム!

矢田部:初めまして。ベルリンで拝見して、素晴らしい作品でした。ベルリンでご挨拶できなくて残念でした。こうしてオンラインで繋がって、お会いできて光栄です。
ラスロフ監督は、イラン、シーラーズ生まれ。カンヌ映画祭など数々の映画賞を受賞されています。『悪は存在せず』は2020年のベルリン金熊賞に輝いています。ベルリンで観て、これこそグランプリにふさわしい作品と観た直後に思いました。
まず、死刑制度という世界でも問題になっているヘビーな主題で撮ろうと思われたきっかけをお聞かせください。


監督:まずは、コロナの中で、皆さんとお話しできる機会を作ってくださってありがとうございます。メインテーマは市民一人ひとりの責任についてです。強制的に政府からさせられることに対して、どう対応するかです。

矢田部:どのエピソードも面白い。全体の構成が素晴らしくて感動します。前半は戦慄するのですが、後半は人の命の重みに厳粛な気持ちになっていきました。執筆には苦労されましたか? それとも次々と浮かんできたのでしょうか?

監督:私には制限があるので、一つのフィーチャーフィルムを作るのは体制的に許されないかなと思いました。そこで、4つのショートフィルムを作ろうと思ました。どのテーマにしようか考えて、一つのサブジェクトをいろんな角度から見て書こうと思いました。2年位かけて、4つの短編を考え、一つの長編としてどう繋いでいくかをまとめたところで撮影に入りました。

矢田部:Q「エピソードごとに処刑の現場からどんどん離れていきます。反面、処刑にかかわった経験が人生にどんどん重くかかわっていく構成が素晴らしかった。それぞれのエピソードとエピソードの関係には気を使われたのでしょうか?

監督:すべてのストーリーが出来上がった時、4つ目のエピソードで観る側にわかりやすくするために説明がいると思いました。イランでは徴兵を終わらせないと、自動車免許も取れないし、社会の中でいろいろなことができません。2番目のエピソードでこの情報を入れるといいなと思いました。それぞれのキャラクターは違うけど、何かコネクションを作るのがいいと思い、3のキャラクターを2で説明しています。
エピソード1は、全然違う話。主人公は決して悪い人ではないけれど、システムの中に身を任せている人物。何が良くて、何が悪いか決められない設定です。

矢田部:1が強いインパクトありました。仕事として、マシーンに徹しようとするけれど、睡眠薬がないと眠れないし、青信号でぼ~っとしてしまいます。マシーンに徹しきれなくて歪が出てしまう。どういうところで無理が来るかと相当悩まれてキャラクターを書かれたと思います。

監督:1話目のキャラクターで、一つ大事なのは、彼はモンスターでも機械でもないことです。猫が駐車場で捕まった時には、解放してあげています。人間的なところが残っています。アイシュマンはユダヤ人が目の前で殺された時、一度泣いたことがあると書いています。私たちにどれくらい責任があるか?が大切だと思います。強制されたとき、人間としてモラルをなくすことをしてはいけない。どうやって責任を果たしながら、モラルを保てるのかを考えたいと思いました。

矢田部:アイシュマンはホロコーストの執行者の一人ですね。Q「4つ目のエピソードのタイトルにもなっている「マラーベブース」(私にキスを)の歌は、1950年代に政治犯として死刑になる前に、娘への遺言として作られた詩とされていますが、革命前の1970年代にイランに駐在していた日本人の間でも有名な曲です。今のイランの若い人たちにもよく知られているのでしょうか? 監督にとって、この歌にどんな思いがありますか?」(景山の質問)

監督:この歌の誕生秘話について、1950年代のは作り話ともいわれています。今でも私たちにはノスタルジーのある曲なので、エピソード4にふさわしい曲だと思って入れました。

矢田部:Q「すべてのエピソードに、顔を思いきり洗う場面がありましたが、どんなことを意図したのでしょうか?」

監督:面白い質問! 私は精神科に行ったほうがいいかな(笑いながら)

矢田部:Q「後半のロケ地はキアロスタミ監督の映画を彷彿させられました。キアロスタミ監督へのオマージュを込められたのでしょうか?」
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監督:イラン人で映画人ですから、もちろんキアロスタミ監督の映画には興味があって、すべて観ています。ご覧になったのは、イランの風景です。3と4に景色を選んだのは、最初の1と2はクローズされたシーン。圧迫感を感じさせると思います。2は、兵士がノーと言って出ていって、町からどんどん離れます。町のど真ん中に居られない。遠くに行かないと生きていけない。1と2は暗い環境で撮られているけど、3と4では、問題は問題だけど、ロケ地は自由さを感じさせてくれる中で撮っています。

矢田部:Q「死刑制度について、執行人として徴兵された若い兵士にやらせることが多いのでしょうか? 兵士たちへの心のケアはあるのでしょうか?」

監督:普通の兵士でも、小さな刑務所などで担当させられることがあります。リサーチしてわかったのですが、徴兵中に死刑執行をやった人に聞いたら、長年精神的に落ち着かなかったけれどケアはされていないそうです。強制的にやらされるので、逃げ道がありません。

矢田部:Q「役者について伺います。ヘビーな内容なので、出演交渉して断れたこともありますか? 受けてくれた俳優さんたちと、映画についてどのような話をしましたか?
イランにはユニークな演出をする監督が多いですが、監督は細かく指示するのか、自由に役者に任せるのか、どちらのタイプでしょうか?」


監督:映画は自分一人ではなくチームで撮りますので、皆、心を込めて一緒に撮ってくれました。私はラッキーなので、後ろに座っていることができました。カメラの前もカメラの後ろも一人一人が協力的だったので映画が完成しました。人間的に大切なプロジェクトであることを理解してくれました。一番最初に、どうやって役者が自分のやる役を信じてくれるかが大事。役者さんを選ぶ時、役に合っていると信じてお願いします。テストしながら、役に近づけていきます。現場で、よく話しもします。俳優から提案があって、面白いものであれば採用します。役者と監督がお互いに理解すれば、うまくいくと思います。
エピソード4の奥さん役は、ちゃんと書かれてなかったですが、優しくて独立しているキャラクターです。ディテールを書いていませんでした。女優さんが現場で足して演じてくれて、いい感じになりました。
エピソード1はディテールは書いていたのですが、夫婦と子供がほんとの家族を味わうために、買い物に行ったり食事に行ったりしていました。執行人として、クーポンをもらったりしているのも入れてみました。
エピソード2は、兵士たちが会話している場面は計算して書き込んでました。何度も何度も練習したのですが、その時の彼らの言葉から脚本を書き換えたりもしました。兵士たちは、こういう会話をするだろうなと思い描きました。

矢田部:最後の質問です。Q「20代のなおさんから。これから映画製作を目指すのですが、若い人に勇気を与えてくれる言葉をぜひ!」

監督:決まったことはないのですが、今までのメソッドを繰り返さないで、新しいメソッドを怖がらないで使ってみることを自分に言い聞かせています。

矢田部:新しい試みを恐れるなというのは、若い人だけでなく全員に対するメッセージだと思います。
今年の東京国際映画祭を締めるのに、これほどふさわしい言葉はないのではないかと思います。
最後にスクリーンショットを撮りたいので、5秒位、笑顔で手を振っていただければと思います。そういうキャラでないのはわかっているのですが。


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思いきりの笑顔で手を振る監督。

矢田部:貴重なショットだと思います!

監督:こちらこそ、嬉しかったです。素晴らしい質問をありがとうございました。今後、新しい作品を持って、ぜひ日本に伺いたいと思います。

矢田部:ほんとうにありがとうございました。またお会いしましょう! さようなら。
監督と直接お話できるのは、ほんとうに貴重なことです。
視聴者の皆様もありがとうございました。


景山咲子


東京国際映画祭 『ノー・チョイス』レザ・ドルミシャン監督インタビュー

今は全世界でチョイスがない

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『ノー・チョイス』 英題:No Choice 原題:Majboorim
監督:レザ・ドルミシャン
2020年/イラン/106分/カラー/ペルシャ語
上映:11月3日(火) 16:05~ 11月6日(金) 14:50~
TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP24

*物語*
16歳のホームレスの少女ゴルバハール。愛する男に言われるまま、11歳の時から代理母を引き受けてきたが、知らない間に不妊手術を施されていた。彼女の話を聞いた人権派弁護士サラは、ペンダー医師が手術したことを突き止める。彼女は私財を投じてホームレスを擁護し、尊敬を集めている人物だった・・・


◎インタビュー
11月6日(金) 18:45から行われたTIFFトークサロンでの質疑応答を踏まえて、お話を伺いました。
TIFFトークサロンQ&Aは、こちらでご覧ください。

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◆ファテメさんは心から演じる女優
監督:サラーム!

― お誕生日おめでとうございます!

監督:ありがとうございまず!

― 先ほどのトークサロンQ&Aで、ファテメ・モタメダリアさんと何か月も一緒に脚本を練ったという話が出ました。かつて、ファテメさんが来日された時のインタビューで、若手監督のために自分ができることは最大限してあげたいとおっしゃっていました。

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ファテメ・モタメダリアさん: 『ナバット』アゼルバイジャンのエルチン・ムサオグル監督と
*2014年10月14日のスタッフ日記

監督:ファテメさんと仕事をするときには、ほんとに楽しめます。彼女はすべて納得しないとやりません。自分が演じる役について考えて、信じたいともおっしゃっていました。すべてを自分に取り込んで演じてくれます。
監督の前に助監督をしていて、多くの役者を見てきました。彼女のように、映画をとても大事にして、心から演じているのは、ファテメさんのほかにエッザトッラー・エンテザーミーさん(2018年8月17日没)くらいです。今回、医者の役はファテメさんにお願いしたいと思って脚本を書きました。テーマを話したら、「あなたを信じてやります」とおっしゃってくれました。
ファテメさんの後に、弁護士役のネガール・ジャヴァヘリアンさんが決まりました。最後に、少女ゴルバハール役のパルディス・アーマディエさんを決めました。
配役が決まって、脚本を完璧に書いて、本読みをしたのですが、役者たちの気持ちや表現の仕方などを見て、脚本に変更を加えて仕上げました。この映画は、私にとって大きなチャレンジでした。これまで作ってきた映画は素人や舞台の役者を主に使って作ってきました。4本目は学生たち、今回初めてプロの役者たちにお願いしました。
女医の母親役の女優は、90を超えた方。1927年生まれのザーレ・オルブZhaleh Olovさん。ファテメ、ネガール、パルディスと、4世代のイランの女性の役者さんにお願いしました。中でも、ファテメさんは映画にいっぱいいろいろなことを運んでくださいました。

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◆女性人権派弁護士たちに敬意
― 女性弁護士サラから、人権派弁護士ナスリーン・ソトゥーデさんを思い浮かべました。もちろんほかにも多くの女性弁護士が人権のために闘っていると思います。それを代表してサラという弁護士役を作り上げたのでしょうか?

監督: 人権問題にすべてを捧げた弁護士たちを思い出して書きました。ナスリーン・ソトゥーデさん以外に、アブドル・ソルターニーさん、 シーリン・エバディさん、メラニーズ・カールさんなどがいます。すべて自分を犠牲にした方たち。 ソルターニーさんは刑務所に入ったとき、28歳の娘さんが亡くなって、仮釈放で出てお墓に行って、「これからもすべての人生を人権問題に捧げる」と誓いました。
弁護士には、二つのタイプがいると思います。法律や権利の為に頑張る人と、人を騙してまで金儲けしたい人。

◆鬱かコロナかのチョイスしかない
― 女性たち三人三様の暮らしを見て、お金のある人は外国に逃げることができるけれど、お金のない人は、ホームレスになったり、身体を売るしかないほどイランの経済がひっ迫しているのを感じました。
 「こちらの生活は厳しいけど、向こうでは亡命の身。選択肢はない。こちらでいい仕事していたのに」と語る場面もありました。
『ノー・チョイス(Majboorim)』というタイトルに込めた思いをお聞かせください。

監督: この映画で描いているすべての人たちは、皆、チョイスがありません。情勢の中に仕方なくいないといけない。 今は、全世界で仕方なく  毎日、現実の中で生活しています。マスクをしなくてはいけないとか。
人間は皆コントロールされていて、現実はもっともっと厳しくなっていく感じです。映画の中のゴルバハールも仕方なく地べたで寝ています。一人一人のキャラクターは、今の全世界の人間のようにチョイスがないのです。

― まさにコロナ禍で、全世界が身動きできなくて、今もこうして画面でしかお会いできません。どうしてこんな世界になってしまったのかと思います。コロナ禍でイランでは映画の製作や、映画の上映はどうなっていますか?

監督:コロナの世界を想像していませんでした。 映画の将来がどうなるか、皆疑問を持っていますが、わかりません。消えるわけじゃない。 血液検査をすれば、自分には映画しかありません。イランではコロナで、まず映画館がクローズされました。電車など密になるところはほかにもあるのに、それよりも前にです。 テレビも映画も撮影はしています。映画祭は形が変わりました。30くらいの映画祭が中止になりました。皆、仕方なくなんとかやろうと思っています。映画を作っていないと鬱になりそうです。 鬱かコロナかの選択です。役者の中には、コロナで亡くなった人もいます。

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◆丸刈りにしたのは男として生きる決意
― ゴルバハールが長い髪を切り丸坊主になります。キアロスタミ監督の『10話』(2002年)などでも女性が丸坊主の頭を見せています。髪がないから見せてもいいのでしょうか?

監督:髪の毛がなくても検閲では問題にされます。丸坊主の女性の頭を見せるなと言われます。 
ゴルバハールにとって、女を捨てて生きていこうと髪の毛を切ったのです。最後に残っていた女の気持ちも役に立たないから男になるしかない。そういう決意なのです。そう考えて、髪のシーンを入れました。

― 単純に、お金を得る為に髪の毛を切ったのだと思いましたが、そういう意味があったのですね。 あっという間に時間が経ってしまいました。次の作品を作られましたら、ぜひ東京にいらしてください。 本日は、ありがとうございました。

監督:次は東京でお会いしましょう!

取材:景山咲子

TIFFトークサロン 『ノー・チョイス』(イラン)

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『ノー・チョイス』 英題:No Choice 原題:Majboorim
監督:レザ・ドルミシャン
2020年/イラン/106分/カラー/ペルシャ語
上映:11月3日(火) 16:05~ 11月6日(金) 14:50~
TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映

*物語*
16歳のホームレスの少女ゴルバハール。愛する男に言われるまま、11歳の時から代理母を引き受けてきたが、知らない間に不妊手術を施されていた。彼女の話を聞いた人権派弁護士サラは、ペンダー医師が手術したことを突き止める。彼女は私財を投じてホームレスを擁護し、尊敬を集めている人物だった・・・

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TIFFトークサロン
11月6日(金) 18:45~
登壇者:レザ・ドルミシャン(監督/脚本/プロデューサー)
司会:矢田部吉彦さん
ペルシア語通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん
英語通訳:松下由美さん 
アーカイブ動画:https://youtu.be/r9ustCzCdrg


◆「痛みの監督」と自称している
矢田部:ようこぞ! ようやく監督のお顔が拝見できてうれしいです。

監督:呼んでいただき、とても嬉しいです。

矢田部:TIFFで上映したいと早くから我々皆思っていました。イラン映画は最近目覚しいですが、今年もまた新たな傑作が届いたなと感動しました。『ノー・チョイス』はとても激しいヘビーな内容ですが、スタイルが斬新で迫力に満ちた作品でした。TIFFで紹介の機会をいただきありがとうございます。

監督:私もTIFFで上映していただいて嬉しいです。コロナで日本に行けなくて残念です。一緒に観て、空気感を感じながら皆さんのコメントを聞きたかったです。

矢田部:続々質問がきています。本作は5作目。今回、女性たちの苦悩、人権、司法制度など社会的な難しさが描かれています。Q「今回、このテーマを選ばれたのは?」

監督:「痛みの監督」と自分で言ってます。社会に感じる痛みや悲しみ、問題を映画にしています。たくさんの物語が耳に入ります。不公平なことも観ています。女性の人権問題はイランだけでなくほかの国にも存在していると思います。人の痛みや、抱えている問題を映画に描かないといけないと感じています。

◆ドキュメンタリータッチと言われ嬉しい
矢田部:Q「3人の女性の視点で語っていますが、一人の女性の話だけでも1本撮れそうです。かなりのリサーチが必要だったと思います。現場にも行かれたことと思います。どのように脚本を作っていったのですか?」

監督:実は2年間位リサーチしました。リサーチが一番大切だと思っていました。テヘランのあちこちを歩いて、多くのホームレスとも話しました。一つ一つのキャラクターが頭にあって、それに似た人と話しました。産婦人科医や弁護士とも話しました。ゴルバハールのような女の子とも話しました。ソーシャルワーカー、NGOの人とも話しました。脚本を書くためにたくさんの人の力を借りました。
映画を通して、ひとつの大きな質問を投げかけています。映画を観て、皆さんが答えを見つけてくださるといいなと思っています。

矢田部:法律とモラルの間の線はどこにあるかということかなと思います。Q「ゴルバハールのように、代理母として生きるしかない人たちが実際にいると理解していいでしょうか?」

監督:たくさんいると思います。実際にいると知って驚きました。映画を作った大きな理由は、政府や関係組織に女性のホームレスに目を向けてほしかったからです。

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矢田部:Q「段ボールもなく、地べたに寝ていたのはショックでした。ドキュメンタリーのような作品と感じました。ノンフィクション部分も多いのでしょうか?」

監督:ドキュメンタリータッチと言われて嬉しいです。皆さんにそのように観てほしいと思っていました。エキストラとして、参加しているのは、実際の地べたに寝ているホームレスの方たちです。お願いして映画に出てもらいました。

◆法律とモラルの間で葛藤
矢田部: Q「三人三様で、惹き込まれる映画でした。医師が移民するのを迷っていました。どういう状況なのでしょうか? 日本にいるとわかりません。彼女の立場を教えてください」

監督:この質問には、テヘランに住まないとわからないかなと思いながら答えます。今、テヘランに住むことを考えると将来に不安を感じます。大変な中で暮らしています。どの職業についていても、将来は明るいものであるように考えるのですが
いろんな国で、より良い生活を求めて移民されると思います。この医師は、働いている病院の様子をみると、ほかのところに移った方がいいかと考えます。まだ決心していません。家族は皆、移民しています。でも、ここで皆を助けたいという思いがあって、辞められないでいます。移民しようと思えば、とっくに行くことができました。残りたい気持ちのほうが強いのだと思います。

矢田部:これは私自身の質問ですが、若い弁護士が最後に職務を停止されます。女医の施した措置が違法だけど、高度な政治レベルで女医の行為は黙認されていて、政治的圧力で弁護士は職務を停止されたと解釈していいでしょうか?

監督:答えになるかどうかわかりませんが、弁護士のサラはお金をもらわないで権利の為に闘っています。それが自分の夢でもあります。法律を守らないといけないことも考えています。女医は法律よりも、モラルを大事に考えています。この二人の葛藤が映画の中心になっていると思います。

◆明るい未来を信じたい
矢田部:英語で質問がきました。Q「監督の視点で、この物語のモラルは何でしょう? 日本でも権利について主張すると、ある種の人々を怒らせることがあって、思いもよらない結果を招くことがあります。刺されることはないと思いますが」

監督:今のはコメントですね。一つ加えたいのは、映画の中のキャラクターの一人一人は自分の視点でものを見て前を向いて頑張っています。誰が正しいかはわからない。誰が犠牲になるかもわかりません。結果は、私たちのおかれている立場にはチョイスがないということではないかと思っています。

矢田部: Q「弁護士サラは理想に燃えているけれど、現実が見えてない報いを受けてしまった悲しい結末でした。これも現実でしょうか?」

監督:今の社会には、暗い現実が存在します。でも、皆、明るい未来を見ているのではないでしょうか?  

矢田部:そうしたいものです。

監督:今年の映画祭のポスターにある「信じよう、映画の力」、これも一つの答えだと思います。

◆自分の目が見ている映像スタイル
矢田部:ブライアン・コリンズさんからの英語での質問です。「この数年、東京国際映画祭でイラン映画を観て、楽しんでいます。多くの映画で女性の権利を描いていますが、映画祭で女性のゲストがあまり来ないのは、制限があるのしょうか? 公の場で女性たちがこういう問題を語ることに障害があるのでしょうか?」という質問です。映画祭サイドからいうと、今回のトークセッションでは物理的に女優さんたちにお声をかけられなかったという事情です。

監督: この映画の場合は全く検閲もないし、女性も自分のことを発現できると思います。

矢田部:この映画の魅力の一つは映像の素晴らしさでした。Q「突然のクローズアップ、突然引いたり、テンポの速い編集など、ほかの作品になかなかないスタイルでした。この映画の為に取ったスタイルでしょうか? 監督がもともとこのようなスタイルを好まれるのでしょうか?」

監督:映画を作るとき、自分の目で見ているようなスタイルで撮ります。サブジェクトに合う形を選びます。頭の中でリズムが狂ったように回っているので、それが映像スタイルにも表れています。特にこの映画は視点の映画だと思っています。皆が置かれている状況の中で感じていることを目で語っているのを表そうとすると、ズームしかないなと。全部ズームで撮ろうとも思ったくらいです。今まで作ってきて、スタイルが完璧になったのが本作かなと思っています。

◆女医役ファテメさんと脚本を練った
矢田部:素晴らしい効果だったと思います。「視点の映画ということで、女性の権利や社会問題を観客に問われているような気がして、とても印象に残りました」という感想をいただいています。ここで最後の質問になります。Q「3人の女優が素晴らしかったですが、キャスティングの経緯は?  女優さんたちのどのようなところに注目されましたか? 決めた順番がありましたか?」

監督:映画作りの一番難しいのは役者選びです。考えているキャラクターを表現してもらわないといけません。とても緊張します。今までプロの役者はあまり起用しませんでした。舞台の役者は使ったことがありますが。今回、最初にお願いしたのはファテメ・モタメダアリアさん。今回3人の女優さんは、皆、大プロの役者です。特にファテメさんとは何か月も脚本について話しました。2番目に、ゴルバハール役に若手のパルディス・アーマディエさん。3番目に弁護士のサラ役にネガール・ジャヴァヘリアンさんを決めました。
私は脚本を書きながら、誰にやってもらおうと考えます。たどり着かない場合は、書き上げてから考えます。大体は、最初に思っていた方たちをキャスティングしています。

矢田部:ありがとうございます。まだまだ質問が来ているのですが、あっという間に時間が経ってしまいました。監督、お答えいただき、ありがとうございました。

監督:ありがとうございます。お招きいただき感謝しています。

矢田部:監督は昨日がお誕生日でした。お誕生日おめでとうございます。皆でお祝いを!
それではスクリーンショットタイムです。


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監督:ありがとうございました。

矢田部:素晴らしい作品で、イラン映画の充実をあらためて感じさせてくれる作品でした。ありがとうございました!


★『ノー・チョイス』レザ・ドルミシャン監督インタビュー
トークのあと、個別取材の時間をいただきました。

景山咲子