山形国際ドキュメンタリー映画祭2021(6) 10月7日~10月14日『丸八やたら漬 Komian』『武漢、わたしはここにいる』『理大囲城』『異国での生活から』(暁)

シネマジャーナル本誌105号に掲載した記事を元に転載します。
宮崎 暁美

2020年に始まった新型コロナウイルスの流行は2022年4月現在も続いていて、17回目の「2021山形国際ドキュメンタリー映画祭」は、史上初となるオンラインでの開催になった。この状況下、仕方ないとは思ったけど、オンラインが苦手な私は、ちゃんと観ることができるだろうかと心配だった。案の定、なかなかアクセスできず、やっと観ることができたのは最後の3日間だけ。ウインドウズ7でWiMAXーMAX使用の私は動画を観ることがなかなか難しかった(動画が止まってしまう)。3日間で10GBまでしか使えないので、結局、観ることができたのは4作品だけ。ほんとは、あと4本くらい観たかったけど、それでも初めてオンラインを使えたので満足。3日で10GBまでで観ることができるのは4作品くらいとわかったし、以後オンライン試写も使えるようになった。
もう一つ、映画祭にとって悲しい出来事が。映画祭期間中、映画関係者と映画ファンがボーダーレスに語り合える空間だった「香味庵」こと、老舗漬物店「丸八やたら漬」が新型コロナウイルスの影響で135年もの歴史に幕を閉じたこと。私は2015年から山形に通っているけど、夜遅くからの開店だったので1回も行ったことがない。毎回、次回こそと思っていたのに行けなかったので、2021年こそと思っていたら、まさかの閉店。その「丸八やたら漬」を描いたドキュメンタリー作品が上映されたのでこの作品から紹介します。

『丸八やたら漬 Komian』 やまがたと映画 日本 2021 
 監督:佐藤広一 プロデューサー:髙橋卓也 
 企画:里見優 ナレーション:田中麗奈

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2020年春、山形市の老舗漬物店「丸八やたら漬」が惜しまれつつ閉店した。山形の台所ともいわれた漬物店で地域の食文化を担い、山形国際ドキュメンタリー映画祭では自由な交流空間として映画祭を支えた。親しまれてきたこの場所はなぜ消えていかざるを得なかったのか。
地域や映画祭に関わる人たちにいかに親しまれていたかを描いたドキュメンタリー。
山形市の旅篭町に根付いた蔵文化を受け継いだ建物は大正時代に建築され、国の登録有形文化財に指定されていた。また同店の蔵座敷は映画祭期間「香味庵クラブ」になり、立場や国籍を超えた交流拠点として世界中の映画関係者が集い、夜明け近くまで映画を語り合う映画祭のシンボル的なスポットとして国内外の多くの映画人から愛されていた。「香味庵で会いましょう」が映画祭に来た人の合言葉にもなっている。
新関芳則社長、地元民、映画祭スタッフ、香味庵に通う映画監督など関係者が思いを語る。生活の変化で漬物への需要が減り、コロナ禍でさらに追い打ちがかかった。大事なものがいつの間にか無くなってしまう移りゆく時代を描き、失われる悲しみや思い出を引き出す。
 製作委員会の里見優会長は「地方の漬物店の廃業ということだけでなく、全国各地の街で起こり得る文化と歴史の消失だ。継承について考えるきっかけにしてほしい」と語る。

『武漢、わたしはここにいる』 特別招待作品
 中国 2021 監督:蘭波(ラン・ボー)

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新型コロナウイルスが世界的流行しているこの2年を象徴する作品として上映された。劇映画撮影のため武漢に入ったクルーは、突然の都市封鎖(ロックダウン)に遭遇し、目の前で起こる出来事を記録しようと、路上に出て撮影を始めた。
物資の配布に動くボランティア、検査のために行った病院の前で待たされる人たち。目まぐるしく変わる状況に翻弄される人たちが映し出される。高齢者世帯などへネットで集めた物資を無料配布するボランティアに一緒に携わり、車で街を走りながら密着取材。スマートフォンが位置情報の連絡、そして撮影と大活躍。物資の供給が足りない場合は、SNSで発信し、他の地域からの救援に結びつけた。
ロックダウンで、病院では非感染の病人が退院を余儀なくされるなか、クルーたちは何とか新しい入院先をと奔走する。彼らが一般市民と行動を共にしたのは、武漢で起きているすべてのことを撮るということだったのだが、いつのまにか市民に協力して活動を手伝っていた。
ボランティアたちの信頼を得て、クルーが撮影できない所では、誰かが撮影し、映像が記録として残った。監督が求めたのは公の映像には出てこない封鎖中の武漢の様子や、援助が必要な人にどう対処しているか、また市民ボランティアの活躍。新型コロナ発祥の地と言われている武漢での状況を伝える貴重な一本だった。

『理大囲城』 香港 2020
 インターナショナル・コンペティション 大賞!
 監督:香港ドキュメンタリー映画工作者 

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一国二制度が急速に揺らぐ香港。「犯罪容疑者を中国本土に引き渡せるようにする」という逃亡犯条例改正に反対する運動と香港当局との衝突が激化を極めた2019年11月、民主化を求めるデモ隊は重装備の警官隊よって包囲され、理工大学キャンパス内に、11日間に及ぶ籠城を余儀なくされた。それを内部から捉えた映像。
警棒でたたいたり、催涙弾や水を浴びせたり、粗暴な警官隊に力ずくでねじ伏せられる若者たちの憔悴や不安。どういう方法で突破するか、救援隊を待つのか。退路を絶たれた学生たちが日ごとに憔悴してゆく姿を克明に捉えている。
防護マスクやモザイク処理によって顔を隠された学生たちだが、不安や恐怖が伝わってくる。
監督たちも安全上身元を明かすことのできないので匿名である。身の安全を理由に監督が氏名を明かせないのは異例のこと。
 私は劉徳華(アンディ・ラウ)の紅磡(ホンハム)コロシアムでのコンサートに行ったことがあり、理工大横の歩道橋を通って行ったので、理工大を見たことがある。その大学で起こったことなので観ていてとても心が重かった。私が通っていた歩道橋が何度も映し出されたし、紅磡コロシアムも映像の中に出てきた。
2017年山形で上映された『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』(陳梓桓チャン・ジーウン監督)から数年しかたっていないし、2015年製作の『十年』から10年たたずに香港の自治が踏みにじられてしまった。香港はどうなっていくのだろう。監督たちは「これからも撮影を継続し、アクションを起こし続ける」と語っている。その言葉は心強いけど、香港ではデモや、民主化を求める行動自体が制限され、その機会自体がなくなってしまうのではないかとも思う。東琢磨審査員長は「最も大事なことは、世界が彼らのことから目を離さずにいることだ」と述べている。

『異国での生活から』 アジア千波万波
台湾 2020 監督:曾文珍(ツォン・ウェンチェン)

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過酷な労働や医療保障のない状態などから、雇用先を逃亡し、不法滞在で職業を転々として生活しているベトナム人出稼ぎ労働者たち。
台湾でも『海辺の彼女たち』(藤元明緒監督)と同じような状況があると知った。外国人が働く条件は日本とどう違うのかはわからないけど、やはり台湾でも3年間は働けるけど、それ以上の契約更新はなくて自動的に帰国しなければならないようだ。子供の成長を見守れないまま10年以上台湾に滞在した女性の、帰国を決断した姿にホロリとした。帰国した彼女の姿も映される。彼女の明るい笑顔がまぶしかった。
台湾で働く外国人労働者は2019年に71万人位。そのうち5万人が逃亡労働者とのこと。

YIDFF 2021 ON SCREEN!  山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 リバイバル上映

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やまがた秋の芸術祭/YIDFF 2023 プレ・イベント
昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭2021でオンライン配信された作品が、この度、初めて劇場で上映されます。

YIDFF 2021 ON SCREEN!
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 リバイバル上映


期間:2022年10月7日(金)~10日(月・祝)
会場:フォーラム山形 スクリーン3、5(山形市民会館 南隣)
主催:認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
後援:山形市
詳細:https://www.yidff.jp/2021/onscreen/21os.html

スケジュール
https://www.yidff.jp/2021/onscreen/21os22s.html


☆上映作品☆

◆YIDFF 2021:インターナショナル・コンペティション
光の消える前に
カマグロガ
最初の54年間 ― 軍事占領の簡易マニュアル
彼女の名前はエウローペーだった
理大囲城
ミゲルの戦争
ナイト・ショット
核家族
ヌード・アット・ハート
自画像:47KMのおとぎ話
私を見守って
発見の年

◆YIDFF 2021:アジア千波万波
午後の景色
蟻の蠢(うごめ)き
言語の向こうにあるもの
心の破片
駆け込み宿
エントロピー
怖れと愛の狭間で
炭鉱たそがれ
それは竜のお話
リトル・パレスティナ
異国での生活から
ルオルオの怖れ
メークアップ・アーティスト
東北おんばのうた ― つなみの浜辺で
沈黙の情景
夜明けに向かって
燃え上がる記者たち

◆YIDFF 2021:特別招待作品
武漢、わたしはここにいる

◆YIDFF 2021 特集プログラム:やまがたと映画
丸八やたら漬 Komian

◆YIDFF 2021 特集プログラム:未来への映画便 &プログラム関連作品
若き孤独
牛 ★上映後 ワークショップ開催

☆作品紹介について☆
昨年、Web版シネマジャーナルで紹介した作品については、リンクを貼りました。
なお、2022年4月発行のシネマジャーナル105号に、8ページにわたりYIDFF 2021の特集を組んでいます。
その一部をWebに掲載しました。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2021(6)  10月7日~10月14日
『丸八やたら漬 Komian』『武漢、わたしはここにいる』『理大囲城』『異国での生活から』(暁) 
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/491583469.html


★未来への映画便 映画鑑賞ワークショップ
10月9日14:15からの『牛』上映後、高校生・大学生世代を対象とした映画鑑賞ワークショップを開催。
ファシリテーター
中村高寛(映画監督、東北芸術工科大学映像学科准教授)
土田環(「未来への映画便」コーディネーター、早稲田大学基幹理工学部表現工学科講師)

ワークショップ参加者は、『牛』の鑑賞、ワークショップともに無料で参加できます。
事前申し込み要領は、9月中旬発表予定。


ドキュメンタリー・ドリーム・ショーー山形in東京2022
新宿K's Cinema 11月5日(土)~18日(金)
アテネ・フランセ文化センター 11月19日(土)~26日(土)
http://www.yidff.jp/


山形国際ドキュメンタリー映画祭2023(YIDFF 2023)
2023年10月.5日(木)~12日(木)
http://www.yidff.jp/

『リトル・パレスティナ』(山ドキ・小川紳介賞受賞作品)オンライン上映 監督講演会

2021年の山形国際ドキュメンタリー映画祭のアジア千波万波部門で上映され、小川紳介賞を受賞した『リトル・パレスティナ』の監督講演会付きのオンライン上映会が開催されます。参加無料、どなたでも参加できます。(要申し込み)

<オンライン上映会&監督講演会>
上映作品:『リトル・パレスティナ―包囲下の日々―』(Little Palestine, Diary of a Siege)、レバノン・フランス・カタール、89分、2021年
日時:2022年2月6日(日)
18:00~20:00 映画上映
20:00~21:00 アブドゥッラー・ハティーブ(Abdallah Al-Khatib)監督講演会(司会:山本薫 聞き手:岡崎弘樹 通訳:森晋太郎)
言語:アラビア語(字幕・通訳あり)
会場:オンライン
申し込み:https://forms.gle/4WAFg4uJ7jdKvgkY7
(視聴準備のため2月4日(金)24時に申し込みを締め切ります)
参加費:無料

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作品の詳細と、山ドキでのQ&Aの模様はこちらでご覧ください。

山形国際ドキュメンタリー映画祭 『リトル・パレスティナ』
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/483878449.html
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シリア、ダマスカスにあるヤルムーク・パレスティナ難民キャンプ。
アブダッラー・アル=ハティーブ監督自身の出身地である、この難民キャンプが、アサド大統領により道路が封鎖され、インフラは止まり、食料にも事欠くようになった。
本作は、監督がそれまで縁のなかったカメラを廻し、封鎖下の難民キャンプの日常生活を2013年から2015年にわたって記録したもの。

山形国際ドキュメンタリー映画祭 『メークアップ・アーティスト』(イラン) (咲) 

アジア千波万波
奨励賞

『メークアップ・アーティスト』 Makeup Artist
イラン/2021/76分
監督:ジャファール・ナジャフィ Jafar Najafi
https://yidff.jp/2021/nac/21nac13.html

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*物語*
イラン南西部で遊牧をしながら暮らすバフティヤーリー族の夫婦。
ミーナは結婚前、映画の仕事をしている従姉と都会に住んでいて、そこでメイクアップ・アーティストという存在を知った。大学で勉強して、メークアップ・アーティストになるのが夢だ。 遊牧をするゴルムハンマドからプロポーズされた時、大学に行っていいと約束してくれたのに、いざ受かったら、行かせないという。大学に行くなら、二人目の妻を迎えるのが条件と言い出す。夫には元々許嫁がいたが、その許嫁だった従妹はミーナへの当てつけか独身。彼女を二人目に迎えるのだけは嫌なミーナは、自分の友達に夫結婚してくれと頼む・・・

義母からは、「昔は4人の妻を迎えてうまくやっていた」「夫が好きなら、我慢してあげて」と言われます。遊牧を生業とする年配の男たちからは、羊の世話があるから複数の妻がいる人も少なくない事情が語られます。それでも、若いミーナにとっては、愛する夫が二人目の妻を迎えるのは嫌だし、かっと言って、大学でメイクアップの勉強もしたい夢も捨てきれません。

イランでは、1979年のイスラーム革命後、小学校から高校まで男女別学となった為、保守的な農村でも娘を安心して学校に通わせるようになりました。大学は男女別学ではありませんが、女性の大学進学率は飛躍的に伸びて、1990年代には大学の男女比率は女性の方が圧倒的に多くなりました。
映画の中で、夫が「医師や教師ならいいけど、メイクアップ・アーティストだなんて」と語っています。イスラーム革命後、女性患者は女性医師が診た方がいいとか、男女別学で女性教師の需要が増えたとう事情があります。文科系だけでなく理工学系の学科でも、女性の比率は60~80%に達し、アフマディネジャード大統領が、大学の男女比率を半々にする法案を出したのですが実現しませんでした。 
妻の方が高学歴という夫婦が増えて、夫婦仲の実態など、どうなっているのか気になっていたのですが、本作の夫の兄嫁は、大学に行って、大きな口をきくようになって、結果、離婚しています。夫としては兄の二の舞は踏みたくないのが、じんわり伝わってきました。
この二人がどのような決断をくだしたのか、映画の中では明かされていません。気になるその後、監督も知らないことがQ&Aで語られています。(咲)


★実は、前もって『メイクアップ・アーティスト』を「購入する」から手続きして、「YIDFF ONLINE! Theater」にようこそ! とメールが来たので、それでOKと思って、上映時間の10月9日3時にアクセスしたら、未購入の状態で、え? とあせりました。
「購入する」をクリックして、クレジットカードの情報を入れてもなかなかenterできなくて、やっと、カードの裏の3桁を入れないといけないことに気づきました。
30分ほど遅れて観始めたので、Q&Aの最初の15分が聴けなくて、友人の毛利奈知子さんからメモをいただきました。その後、Q&Aの動画アーカイブが映画祭期間中の限定で公開されていましたので、そこからQ&Aの内容を起こしました。


ジャファール・ナジャフィ監督Q&A

司会:時に激しく、時にユーモアのある家族間の交流やのどかな動物たちも出てきた愛にあふれた映画と思いました。

監督:山形で上映していただきありがとうございます
前の作品も同じ地域を描いています。社会問題を描くのにできるだけユーモアを入れて、素敵な映像を加えて、社会問題を考えさせるような映画を作りたいと思っていて、今回も社会問題とユーモアを併せ持つ映画を作りました。

観客より:なぜあの二人を選んだのですか?あの二人を監督はどう思っていますか?

監督:主役の女性は遠い知り合いです。映画の中で彼女が話していたように彼女は映画の撮影現場に行ったことがあり、従姉の友達がメイクアップ・アーティスト。その方が彼女のことを私に説明してくれて、興味を持って現地にいきました。彼女の夫が最初は反対して絶対カメラを許さないと言ってました。私自身がその地域で生まれ育ったので、もっともっと年上の長老にアプローチして承諾をもらってから旦那さんに話したら許してくれました。私自身が同じ民族なので許されたのだと思います。

観客より:撮影にどれくらいの期間がかかりましたか?

監督:民族の中に入って社会問題を描くことになるので、彼女たちの中に入り込むのに5か月はかかりました。撮影は始まったのですが、映像の中で皆さんがご覧になったように、途切れ途切れになっていたところがあったのは、夫婦げんかになって、二人がカメラを止めてくれと言われたときには止めていたからです。また撮影に戻るのに2,3日かかりました。撮影そのものはトータルで2か月半くらいかかりました。

観客より:この夫婦の関係は撮影スタッフが入ったことで、関係が変化したと思いますか?
(良くなったか悪くなったか)


監督:実は撮影隊が入ったあと、彼女たちがどうなったかわかりません。現場に行ってから夫にアドバイス的なことを私がいろいろしたので、彼がそのことが気に食わなかったようです。なので、だんだん私は嫌われ者になってしまって、夫が私との連絡を絶ってしまって、どうなったか話してくれませんでした。

観客より(多くの方から同じような質問):夫婦はその後、どうしているのか?
例えば、二人は愛し合っているように見えるが今はどうなっていますか?


監督:映画を見て感じたと思いますが、お互い愛し合っています。
特に夫の方が現地の習慣で小さいころからの許嫁がいたのに、あの彼女と恋愛して結婚したので、彼女をとても愛しているし、奥さんも同じく夫を愛しています。
彼女が大学に行くとか勉強するということに夫が条件をたくさん付けてしまったので、奥さんが対応できたかどうかは、私は嫌われ者になって連絡を取れなくなってしまったので実際のところはわからないのですが、条件が彼女が乗り越えられれば仲良くできたのではないかと思う。

司会:伝統とか二人の関係性も興味深く見れる作品でした。
観客から、このご夫婦は結局どうなったのか?気になります。放牧と農業両方というのはハードなので、働き手がいなくなるのも困るし、女性の希望もわかるし、、、というコメントがありました。


監督:私もそう思っていました。家畜のための草を求めて移動します。彼女は夫を愛しているので気持ちよく夫に従って移動します。夫の方が兄弟に問題があって、彼女が大学に行くことを受け入れられないでいます。彼女はお母さんから絶対大学にいきなさいという遺言があって、絶対大学に行きたい。二人の両方に言い分があって納得します。

観客より:『メイクアップ・アーティスト』を観て、女性が学び自立していくという新しい価値観と、女性を労働力として家族に迎えるという昔からの価値観が比較して描かれていると思いました。
女性が学び自立していくという新しい価値観はどのような社会状況から生まれたのでしょうか?


監督:この民族は第二夫人を迎えるのは普通のことなので、ミーナはいずれ夫が第二夫人を迎えることは知っています。でも、ミーナは自立して自分の息子を育てたい。自分の夫のように二人の奥さんをもらうようには育てたくない。息子のために勉強したいということもあります。

観客より:結局、第二夫人は見つかったのですか?

監督:(笑)ミーナは、第二夫人をもらうなら、自分の友達の中から選んでほしいと一生懸命がんがっています。義母はもともとの許嫁と結婚させたいけど、ミーナはそれは絶対いや。彼女を拒否して結婚しているので、大変なことになるのはわかっています。でも、習慣を考えると、許嫁ではないかと思います。

観客より:エンディングのクレジット、ミーナより前に夫の名前が先にあがっていましたが・・・

監督:(笑)それは偶然! 自分が男だから先に出したということはほんとにないです。映画の中で夫の方がカリスマ的だったから無意識に最初にあげたかも。昔の作品を観ていただければわかりますが、いつも私は女性の方のことを考えて映画を描いているのですよ。

司会:お墓参りで皆、感情を出していましたが、イランでは普通ですか? 日本と違うと感じました。

監督:この民族だけでなく、イランではお墓にいくと、大声で泣いたりします。あのお墓はミーナの母親のお墓。ミーナが泣き出すと、皆、一緒に泣いています。心は一緒だよと。習慣として祖父母や夫が亡くなると、イランでは金曜日が休日なので、週末の木曜日の夜にお墓参りして泣きます。

観客より:製作中の作品や作ろうと思っている作品は?

監督:ずっとバクティヤーリー族を撮っていますので、これからも追いかけます。私自身、バクティヤーリー族。面白いことがたくさんなりますので、いくつもテーマを見つけて、何年も撮ることができます。
前作『Ash』も、今、編集中の子どもをテーマにした作品もバクティヤーリー族で同じ地域で撮っています。計画している映画もバクティヤーリー族です。おもてなし上手で、優しい心を持っていて誠実。世界にまれな風習もありますので、これからもずっとここで撮るつもりです。

司会:監督の後ろに、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭の鞄がありますが・・・

監督:デビュー作『Ash』は最初に生まれた子のように愛して大事にしています。賞を取った映画祭のかばんを背後に飾って励みにしています。ASHに守られて、質問に答えました。

司会:最後に観客にひとことお願いします

監督:時間を作ってご覧いただいた皆様にお礼申し上げます。質問もありがとうございます。
別の映画祭に出品する予定でしたが、アジアであり日本の山形で上映していただきました。愛情をいっぱい捧げましたので、皆様にエンジョイしていただければ嬉しいです。
いろんな国の方に観ていただくために作っていますので、上映していただいたことに感謝しています。

(景山咲子)





山形国際ドキュメンタリー映画祭2021閉会式(千)

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山形国際ドキュメンタリー映画祭2021表彰式が山形市中央公民館6階ホールにて10月13日17時より19:15迄、行われました。
初のオンライン開催で配信された作品は50本、約6000人の方々が鑑賞されたそうです。残念ながら日本人監督作品は入賞されませんでしたが、審査員7名のうち、女性が5人も‼︎
ヤマガタ映画祭は閉会とは言わず毎回、再開宣言をされます。今回も加藤副理事長より2年後にお会いしましょうのお言葉があり…心より私も祈念しております‼︎ (記事&写真 山村千絵)

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踊る通訳の川口隆夫さん、司会の香坂あかね理事、手話通訳は斉藤由佳さん・原啓子さん

受賞作
◆インターナショナル・コンペティション
ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『理大囲城』 監督:香港ドキュメンタリー映画工作者

山形市長賞(最優秀賞)
『カマグロガ』 監督:アルフォンソ・アマドル

優秀賞
『ボストン市庁舎』 監督:フレデリック・ワイズマン
『ナイト・ショット』 監督:カロリーナ・モスコソ・ブリセーニョ

審査員特別賞 
『最初の54年間 ― 軍事占領の簡易マニュアル』監督:アヴィ・モグラビ

◆アジア千波万波
小川紳介賞
『リトル・パレスティナ』 監督:アブダッラー・アル=ハティーブ

奨励賞 
『ベナジルに捧げる3つの歌』
監督:グリスタン・ミルザイ、エリザベス・ミルザイ
『メークアップ・アーティスト』 監督:ジャファール・ナジャフィ

特別賞 『心の破片』監督:ナンキンサンウィン

市民賞 『燃え上がる記者たち』 
     監督:リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ

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市民賞を発表する こけし職人の梅木直美さん


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アジア千波万波の総評をするイギル・ボラ監督


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奨励賞を講評する広瀬奈々子監督


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インターナショナル・コンペティション受賞作品を発表する志賀理江子さん


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優秀賞を講評する安里麻里監督


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山形市長賞を発表するマーク・シリングさん


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ロバート&フランシス・フラハティ賞を発表する東琢磨審査員長


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加藤副理事長による再開宣言

まとめ 宮崎暁美