アジアフォーカス 『恋の街、テヘラン』

『恋の街、テヘラン』のアリ・ジャベルアンサリ監督Q&Aが、9月14日と18日の上映後にあるので、9月17日~19日の2泊3日で航空券とホテルのパッケージを予約したのですが、9月に入って、スケジュール表から、18日のQ&Aが消えました。監督が予定を変更されて17日に帰国されることになったとのこと。インタビューは叶いませんでしたが、映画の内容と、佐賀在住のペルシア語科卒業生のTさんからいただいたQ&A追加情報をお届けします。

『恋の街、テヘラン』
Tehran: City of Love
2019年/イラン・イギリス・オランダ/102分/DCP/1:2.39/ペルシア語
監督 : アリ・ジャベルアンサリ

アリ・ジャベルアンサリ
1981年イラン、テヘラン生まれ。10代にカナダに移住。テヘランに戻り、アッバス・キアロスタミの映画製作ワークショップで1年学んだ後、2008年にロンドン映画学校に入学。卒業制作『Aman』(2011年)はフランスおよびポルトガルの映画祭で賞に輝く。長編映画監督デビュー作『Falling Leaves』(2013年)は、米カリフォルニア州のティプロン国際映画祭で最優秀海外新人賞を受賞。現在ロンドン在住。

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9月14日上映後のQ&A 公式レポート(写真:公式サイトより)

*物語*
大都会テヘランで、孤独を抱えた3人が、それぞれに愛を求める。
◆同性愛者の悲哀
ヘサム
は、ボディビルの元チャンピオン。伯父から選手権を目指すアルシアの面倒を見てやってほしいと頼まれる。一方、ルイ・ガレル主演のフランス映画のオーディションに受かり、承諾すればパリでの撮影もあり、アルシアの指導が出来なくなる。悩んだあげく、映画出演を断るが、アルシアから選手権は諦めたので指導は不要と言われてしまう。

◆SNSで美女になりすます女性
ミナ
は美容クリニックで受付をしている小太りの女性。アイスクリームが大好きで、ダイエットもなかなか効き目がない。容姿に自信がなく、美人の写真をSNSにアップしている。受付で知った、これはという男性に甘い声で電話し、会う約束を取り付けるが、いつも結局会わずに帰ってきてしまう。
ミナは人づき合いを改善するための教室に通い始める。そこで、理想の男性に出会い打ち解けるが、彼には妻がいることがわかる。
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◆結婚式で歌う葬儀専門の根暗な歌手
ワヒドはモスクで葬儀の時に追悼の歌を歌っている。婚約者に振られてしまい、叔父から、陰気くさいから女性も逃げると、結婚式場で歌ってこいといわれる。歌える曲のリストを渡すと、結婚式場の担当者からは、結婚式でこんな歌を?と言われる。男ばかりの部屋で歌うワーヒド。結婚式場付のカメラマンの女性ニルファ―から、男女混合の非合法の披露宴で歌ってみない?と紹介される。彼なりに頑張って明るい歌を歌うが、やがて警察の手入れが入り、刑務所に入れられてしまう。有力者に口をきいてもらい、釈放されるが、淡い恋心を抱いたニルファーは、オーストラリアに移住してしまう。

****

★同性愛者ヘサムの場面は、2分カットされた
冒頭、会話する男女の後姿が写しだされ、バスが来て、男性は前へ、女性は後ろへ。男女の席が分かれていることを象徴した幕開け。
入れ違いに降りてきた体格のいい男が、主人公の一人であるヘサム。
私は鈍くて気がつかなかったのですが、ボディビルダーのヘサムは同性愛者。家で過去の選手権のDVDを観ようとアルシアを自宅に招いた後に、アルシアから指導を断られてしまいます。その夜のことが原因だと推察する友人。
9月14日の上映後のQ&Aで、「ヘサムは同性愛者か?」との質問が出て、監督から「まさにそうです。イランでは、場所がインスピレーションを与えます。ジムの場面は、男だけのホモエロティックの部分を表しています。イランでも、撮影・上映OKでした。ただし、2分間ほどカットされました」という回答があったと、佐賀在住のTさんから教えてもらいました。(公式サイトのレポートには掲載されていません)

★非合法の結婚披露宴とは?

私が観る前に観た友人から、「合法的結婚と非合法の結婚はどう違うの?」と聞かれました。結婚自体は、契約書を交わして合法となるのですが、状況がわからなかったので答えられませんでした。映画を観て、披露宴が男女別なのが合法、男女混合なのが非合法という意味だとわかりました。
イスラーム革命後、ホテルやレストランでの披露宴は男女別が基本。(実際には、男女一緒のものにも遭遇したことがあります。)
「はい、今度は花嫁からキスを!」とワヒドが促して、男女一緒に踊っている雰囲気を感じさせてくれますが、客席は映しません。
この映画に出てきたような、塀に囲まれた大邸宅を利用したレストランは、今、流行っていて、あちこちにあるそうです。男性歌手のショー(女性の歌手はご法度)もよくやっているそうですが、立ち上がって踊ってはいけないそうで、皆、着席のまま身体を揺らして手拍子しているとのこと。踊りが大好きなイラン人には、かなりつらいのではと察します。
思えば、結婚披露宴は男女別室なのに、レストランでは普通に男女同席です。
(革命直後は、家族席がカーテンの向こうというレストランもありましたが)

★結婚式場のカメラマンのニルファーは『ある女優の不在』のベーナズ・ジャファリさん
ワヒドが結婚式場で知り合うカメラマンの女性ニルファーは、実は、美容クリニックで受付をするミナの友人。ミナと違って美人。オーストラリアへの移住を申請している積極的な女性。
レストランで、ニルファーがミナにビザがおりたと報告したとき、注文したデザートが届き、ミナのアイスクリームには付いている紙の傘が、ニルファーのフルーツサラダには付いてなくて、ボーイに「こっちにはないの?」と特別にお願いします。
ミニ傘を持って二人で写真を撮る場面がなかなか印象的だったのですが、このニルファーを演じたベーナズ・ジャファリさん、12月13日から公開されている『ある女優の不在』の主演を務めている女優さん。東京フィルメックスで特別招待作品として上映され、審査員として来日されました。
『ある女優の不在』を観た時には、『恋の街、テヘラン』のニルファーだと気がつかなかったのですが、本人にお会いして、まさにニルファーだとわかりました。「あのニルファーですね!」と言ったら、劇中でワヒドが歌った「ニルファー」の歌の出だしを歌ってくださいまいsた。

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『ある女優の不在』で、ぜひニルファーに再会してみてください。
ベーナズ・ジャファリさん インタビュー

報告:景山咲子





アジアフォーカス『ナイト・ゴッド』 カザフスタン制作会社の若き女性に聞く 

アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019で上映されたカザフスタン映画『ナイト・ゴッド』と、ゲストとして来日された制作会社のボータ・アブディラフマノワさんインタビューをお届けします。

『ナイト・ゴッド』 

原題:Nochnoi Bog 英題:Night God
監督: アディルハン・イェルジャノフ
2018年/カザフスタン/110分/DCP/1:1.85/カザフ語・ロシア語

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終末を迎え闇が世界を支配し、空に現われた神を見た者はすべて焼き尽くされるという。ネオンがわびしく光る中、男一人と女二人。大きなスーツケースが傍らにある。
どこに旅立とうとしているのか・・・

終始暗闇の中の、まるで舞台のセットのような街角で会話が続き、カザフスタンの風景が見られなかったのが残念でした。
監督は、「不条理」を描いたそうですが、話が難解で、よく理解できませんでした。
監督が来日されなかったので、映画に込めた思いを直接伺うことはできませんでした。

制作会社のボータ・アブディラフマノワさんが来日。インタビューの時間をいただきました。
アディルハン・イェルジャノフ監督の作品を掲載したリーフレットをいただきました。どの作品も画像から受ける印象が暗かったのですが、ボータさんに「監督はどんな方ですか?」と伺ったら、「とても可愛い感じの方で、話しやすい方です」との答えが返ってきました。映画から受ける印象とは、まったく違う雰囲気の方のようです。

アディルハン・イェルジャノフ監督
1982年生まれ。2009年、映画監督の視覚を取りカザフスタン国立芸術アカデミーを卒業。
長編作『Owners』(2014年)カンヌ映画祭でワールドプレミア。
『The Plague at the Karatas Village』(2016年)ロッテルダム国際映画祭でワールドプレミア。NETPACアジア最優秀映画賞授賞。
『ナイト・ゴッド』は、モスクワ国際映画祭でワールドプレミアされている。

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9月17日(火)14:05からの上映前の舞台挨拶
特に詳細な説明はありませんでした。
右:ボータ・アブディラフマノワさん  左は通訳のロシア女性

9月15日16:00からの上映後のQ&A 公式レポート 
(私は残念ながら参加していませんでした)

◎ボータ・アブディラフマノワさん インタビュー
2019年9月17日(火)
福岡「ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13」8階 ゲストルームにて

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笑顔が素敵な25歳。イスラーム教徒。母語はカザフ語だが、ロシア語も日常的に使用。通訳を目指して大学で英語を学ぶ。映画祭で英語通訳を務めるうちに映画に興味を持つ。夢は映画祭を主宰すること。

◆映画『ナイト・ゴッド』について

とても実験的な映画で、カザフスタンの映画の中では、珍しいタイプで主流の映画ではありません。撮影には残念ながら立ち会っていません。海外への販売に携わっています。
監督はとてもかわいい感じの方です。質問すれば、なんでも優しく答えてくれます。
結構きびしい内容の映画で、暗い映画ですが、最後には新しい命が生まれて、明るい未来を感じさせてくれると思います。

◆映画祭で英語通訳をするうちに映画に興味を持つ
大学では通訳になりたくて英語を専攻しました。通訳として映画祭に参加する機会があって、映画に興味を持つようになりました。これまであまり映画を観る機会がなかったのですが、外国の映画も観るようになりました。『ロード・オブ・リング』や『千と千尋の神隠し』のようなタイプの映画が好きです。
今は、カザフスタンの映画を海外に売ることにも携わっています。いろいろな映画がありますので、売り込む時には、それぞれに考えないといけないのですが、カザフスタン独特の文化を紹介できるものであれば、それをキーワードにします。

◆カザフスタンの映画事情
大きな町には、結構な数の映画館があります。皆、映画が好きで、映画館に足を運ぶ人も多いです。新しい映画が公開されると、映画館に行くのが楽しみです。
一方、今、ネットで観る人も増えています。『ナイト・ゴッド』に関していえば、全体的に画面が暗いこともあって、スクリーンの方が迫力あります。音も違いますし。
ソビエトの時代から、インド映画はよく上映されていました。
イラン映画は映画祭で上映される程度です。トルコのものは映画もテレビドラマも多いです。

*今、私が平日毎晩観ているトルコのドラマ「オスマン帝国外伝 〜愛と欲望のハレム〜」も、カザフスタンで人気だそうです。
カザフ語はトルコ語に近いので、聞けばかなりわかるそうですが、このドラマはトルコ語のオリジナルではなく、吹替えだそうです。カザフ語なのかロシア語なのか聞きそこねました。



◆夢は映画祭を開催すること

制作会社に所属していますが、プロデューサーになることよりも、私の夢は映画祭を開くことです。いろんな国の映画が観て、いろんな国の文化を知って、世界が広がることが素晴らしいと思います。
自分の国の文化や伝統を映画を通じて知ってもらうことも嬉しいです。
映画祭だけでなく国際交流によって、自分の国を守ることもできると思います。
ほかの国のことを知ることによって、お互いの理解が深まると思います。
自分自身で映画祭を開催できるまでには、まだまだあちこちの国にも行って、勉強しないといけないです、映画祭の名前はまだ考えていません。

◆映画業界で活躍する女性も増えている

映画業界の中で、今までは女性が参加するのはなかなか難しかったのですが、今は、若い世代を中心に女性も活躍できるようになりました。大学や専門学校で映画関係の学科がいろいろあります。女性も多く学んでいます。映画監督として映画(短編・長編)を製作している女性も増えています。私自身、仕事の上で女性だからというハンディは感じたことはありません。

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ボータさんとお話して、とても伸びやかに仕事を楽しんでいるのを感じました。
この日の通訳の方はロシアの女性でした。思えば、英語で直接お話したほうがよかったかも。ムスリマ(イスラーム教との女性)とわかって、「アッサラームアライクム」と挨拶したら、「ワレイコムアッサラーム!」と応じてくれました。
カザフ語とロシア語が普通に共存するカザフスタンを感じたひと時でした。

取材:景山咲子





アジアフォーカス福岡観客賞『シヴァランジャニとふたりの女』 ヴァサント・S・サーイ監督インタビュー

9月18日(水)16:15からの『シヴァランジャニとふたりの女』の上映は、福岡観客賞を受賞した翌日で、平日の午後にもかかわらず、なかなかの入り。
Q&A(こちらをご覧ください)のあとのサイン会にも多くの方が並び、それぞれに感想を述べたり、質問をされたりしていました。
インタビューを7時から予定していましたが、かなり遅れて開始することになりました。
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サインボードの前で、撮影させていただいてから会議室に一緒に移動しました。


『シヴァランジャニとふたりの女』
Sivaranjani and Two Other Women
2018年/インド/123分

*物語*
南インド、タミル・ナードゥ州。3つの時代に生きた女性たちの物語。

1980年、サラスヴァティー

ヒンドゥーのお祭りの帰り、赤ちゃんを抱き、大荷物を持ったサラスヴァティーは必死になって夫の後をついていく。夫は荷物を持とうともせず、グズだと罵倒する。工場勤めの夫はお金を満足に渡してくれず、とうとう米も底をつく。夫の暴力に耐えかね口答えすると、その日から夫は口をきかず、ついに家に帰ってこなくなる・・・

1995年、デーヴァキ
バイクに乗って颯爽と通勤するデーヴァキは、同居する義兄の息子の憧れの的だ。叔母が日記を書いている姿を見かけたことを、少年がつい家族に漏らしたことから大騒動になる。家名を汚すようなことを書いているのではないかと、日記の公開を求められ、プライバシーの侵害と、ついに家を出る・・・

2007年、シヴァランジャニ

有望な陸上選手として、学校を代表して全国大会への出場も決まっていたが、親の意向で結婚。すぐに身籠り、出場権を取り消されてしまう。その後、家庭の主婦として、夫や子供の世話と家事に追われる日々の中で、ふっと学生時代を思い出し、優勝カップを探しに学校に行く・・・


◎ヴァサント・S・サーイ監督インタビュー
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◆自分の経験した年代を描いた
― 女性の生き様を時代を追って描いていて、少しずつ変化も観られて興味深かったです。1980年、1995年、2007年という3つの時代を選んだ理由をお聞かせください。

監督:私自身の記憶のある少年時代の1980年から始めました。少年期で回りを観察していろいろなことを知っていった時代です。1950~70年台のことは聞いたことしか描けません。

― 今、おいくつですか?

監督:
秘密です! およそ40歳です。
(公式カタログにも掲載されていませんでした)
自分の青年期に見たものを映画にしています。
1980年ごろまでは、インドではたとえ貧しくても、まだ女性が働く時代ではありませんでした。1980年代後半は、ようやく夫が亡くなった女性が働き始めた時代です。
Q&Aでスウェーデンの話が出ましたが、男女平等の進んでいるスウェーデンでも、その時代には女性は習慣的に働いてませんでした。今は、皆が働く時代になりましたが。
1995年の物語には日記が登場しますが、まだ手で書いていた時代です。インターネットの出回る前です。

― 思えば、1995年の物語では、ヒロインが働くのをうらやむ女性がいましたね。ヒロインは、女だてらにバイクを運転して仕事に通っていて、並んで走っているバイクは皆、男が運転していて、彼女が進んでいる女性だと見せていました。

監督:インドでは、ようやく働く女性も出て来たという時代です。

◆女性たちの名前はヒンドゥーの神様に由来
― 女性たちの名前はどのように名付けたのでしょう? シヴァランジャニは女神であるシヴァ神から来ている名前かと思います。

監督:最初のアイディアでは、女性に名前をつけないというものでした。皆、同じ問題を抱えているという考えからです。
シヴァランジャニは、ミュージカルの「ラーザ」のヒロインの名前でもあります。皆がシヴァランジャニというつもりでした。
ほかの二人の女性の名前もヒンドゥーの神様の名前に由来しています。
1話目のサラスヴァティーは、芸術・学問などの知を司る女神です。

― 3人の女性とも、虐げられながらも、少しずつ反抗していますね。女性の強い面も描いていると思いました。
一つ目の物語の夫は、暴力を振るうし、重たい荷物も持ってあげないひどい夫でした。でも、結局、家を出てどうなったのでしょう?

監督:あの夫はいつも妻を抑圧していて、妻が抵抗すると思っていませんでした。それが妻が刃向かってきて、「脅かしているのか」と彼自身が傷ついてしまったのです。例えば、可愛がって飼っていた犬が、突然吼えて噛み付いてきたら、抵抗できなくなります。夫にとって妻は飼い犬と同じ。まさか抵抗しないと思っていた妻が反抗してきてショックを受け、心の中で死んでしまったのです。名誉を傷つけられて口をきかなくなりました。

― ショックを受けて、夫はあの家にいられなくなったのですね。

監督:誇りを傷つけられて彼には受け入れられない状況だから家を出ました。家の中に二人男がいる状態になったというメタファーです。あの時点で平等が生まれたともいえます。
1995年の物語では、叔母さんが日記に「ジーンズを穿いて働いている美しい女性を見かけた」と書いています。それ以前の時代は、誰が何を着るべきか決まっていました。まだジーンズが珍しい時代で、男性優位が続いていました。

― 今は、サリーやシャルワールカミーズじゃなくて、ジーンズを穿いている女性が多いですよね。伝統が薄れて寂しい気もします。

◆未亡人は再婚しないのがインドの常
― 今、日本で公開中の『あなたの名前を呼べたなら』のロヘナ・ゲラ監督から、インドでは未亡人は再婚しないと伺いました。

監督:まさに未だにそうです。20年前に、私も映画で未亡人が再婚できないことを描きました。

― インドというと、カーストの問題もありますね。

監督;カースト、宗教、ジェンダーの3つが問題ですね。

◆ヒンドゥー、イスラーム、キリスト教が共存するタミル・ナド
― 監督のご出身のタミル・ナド州が舞台ですが、一つ目ではヒンドゥーが強調され、2番目の物語では、近くからムアッジン(イスラームの祈りを促すアザーンを唱える人)の声が聴こえてきました。3番目の物語では、窓の向こうにキリスト教会が見えました。

監督:近くに違う宗教が共存している地域であることを示したかったのです。

― 一つ目の物語の最初に夫婦が参加したのはヒンドゥーの宗教行事ですか?

監督:そうです。サーイというヒンドゥーの神様を祀る行事です。サーイは、実は父がつけてくれた私の名前です。ミドルネームは父の名前。最初の名前は祖父の名前です。

― ちゃっかりご自身の神様を最初に出していたのですね。

監督:そうなんです。笑
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◆タミル文学に触発されて映画を作った

― インドでのリアクションは?

監督:伝えたいことを、皆、すぐわかってくれました。女性が遠慮せず、どんどん話しかけてくれました。
(ここで、スマホの中に入っている女性たちが語る動画をいくつか見せてくださいました)
「家の中で女性を尊敬できない人は、外でも女性を尊重できない」
「私もシヴァランジャニ。結婚でテニス選手を諦めました」
「母のことを思い出しました」と青年。
映画を観た皆さんが、こうして自分のこととして捉えてくれました。
これが映画を通してやりたいことでもありました。

映画の一番のポイントは、ストーリーです。タミルの文学作品から取りました、
3人の文学者の作品です。彼らは私のヒーローです。
1話目 アショーカ・ミトラム。インドのヘミングウェイ的作家です。
2話目 Jey Moham。存命です。今、とてもポピュラーな作家。1000もの作品を水を飲むように書いています。
3話目 Adervan アーダヴァン。
いずれも30年くらい前に書かれたものです。私が20~30代の時に読んで、衝撃を受け、いつかこれを題材に映画を撮りたいと思いました。彼らの小説に出会ってなければ映画を作ることもありませんでした。

― 監督はジャーナリストでもありましたよね。

監督:そうですね でも、素晴らしい作家がいるので、私は作家にはなれないと思いました。彼らから学んで、ほかのことをしようと思いました。

― 映画に影響を受けて映画を作りたいと思ったのではなく、小説ありきなのですね。
映画監督で影響を受けた方は?

監督:
イングマール・ベルイマン。特に、『Through a Glass Darkly』(1961年)は、私のバイブルです。『ある結婚の風景(Scenes from a Marriage)』(1973年)も強く影響を受けました。
ほかにジョン・フォードやフランシス・コッポラ。一番好きなのは、黒澤明です。

― 日本の監督は?と聞こうと思ったところでした。

監督:今回、黒澤明監督のいた土地に来られて、ほんとに嬉しいです。そして小津監督も大好きです。

― 皆さんにそうおっしゃっていただくと、日本人としてとても嬉しいです。
インドの監督では?

監督:インドでは、サタジット・レイと、タミルの名匠K. バーラチャンダー。たくさんの素晴らしい映画を作っています。

― タミルだけでも年間200本以上が作られていると思いますが、ラジニ・カーントの映画とは、監督の映画は一味違って好きです。

監督:『ムトゥ 踊るマハラジャ』の音楽を担当したA.R.ラフマーンは、私も気に入ってます。2000年に製作した『リズム』では彼に音楽を担当してもらいました。先にお話した未亡人の物語です。

― 次の作品は?

監督:脚本を書き終わったところです。女性の話なのは間違いありません。

― ほんとに女性の見方ですね。

監督:まさしく! 誰しも間違いを犯します。私も。何回も間違いを重ねて、自分が間違いを犯したことに気づきます。自分が正しいと主張するのでなく、間違っていたら、それを自ら正すことも必要です。
最後になりましたが、女優たちの演技こそ、この映画を支えています。
3人の女優への賛辞をぜひ入れてください。
そして、女性の物語を、3人の小説家と私の4人の男性が描いたことも。

注:
サラスヴァティー役:Kalieswari Srinivasan
デーヴァキ役:Parvathy Thiruvothu,
シヴァランジャニ役:Lakshmi Priya Chandramouli,

― 次の作品も日本で観られることを楽しみにお待ちしています。

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最後に、公式カタログにサインをいただきました。
読めないけれど、タミル語でとお願いしました。
そして、タミル語で「ありがとう」は「ナンドリ」と教えていただきました。
東京・荒川区尾久に日本人が料理人の「なんどり」という南インド料理のお店があるとお伝えしたら、とても嬉しそうでした。



アジアフォーカス福岡国際映画祭 福岡観客賞『シヴァランジャニとふたりの女』 9月18日のQ&A

『シヴァランジャニとふたりの女』
Sivaranjani and Two Other Women
2018年/インド/123分

*物語*
南インド、タミル・ナードゥ州。3つの時代に生きた女性たちの物語。

1980年、サラスヴァティー
ヒンドゥーのお祭りの帰り、赤ちゃんを抱き、大荷物を持ったサラスヴァティーは必死になって夫の後をついていく。夫は荷物を持とうともせず、グズだと罵倒する。工場勤めの夫はお金を満足に渡してくれず、とうとう米も底をつく。夫の暴力に耐えかね口答えすると、その日から夫は口をきかず、ついに家に帰ってこなくなる・・・

1995年、デーヴァキ

バイクに乗って颯爽と通勤するデーヴァキは、同居する義兄の息子の憧れの的だ。叔母が日記を書いている姿を見かけたことを、少年がつい家族に漏らしたことから大騒動になる。家名を汚すようなことを書いているのではないかと、日記の公開を求められ、プライバシーの侵害と、ついに家を出る・・・

2007年、シヴァランジャニ
有望な陸上選手として、学校を代表して全国大会への出場も決まっていたが、親の意向で結婚。すぐに身籠り、出場権を取り消されてしまう。その後、家庭の主婦として、夫や子供の世話と家事に追われる日々の中で、ふっと学生時代を思い出し、優勝カップを探しに学校に行く・・・

時代を経て、女性の置かれている立場も少しずつ変化していくが、根本にあるのは男性優位、女性蔑視の世界。それでも前に進もうとする女性たちの姿が眩しい。


9月18日(水)上映後のQ&A

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司会:観客賞を受賞、おめでとうございます。観客の皆さんの心に響いた作品だと思います。国によって反応が違ったのではないかと思います。日本での最初の上映のリアクションはいかがでしたか?

監督:スウェーデンでは4つの劇場で上映されました。ニューヨークでも上映されて、良い反応を得ました。Q&Aの時には、すぐに皆さんの顔を見ます。女性の方が泣いている姿もよく見ました。ニューヨークでは、テニスプレイヤーとして活躍していたけれど、結婚して辞めなければならなかったと女性が話してくれました。男性の方たちからも、自分の母を見ているようだったと聞かされました。
アジアフォーカスのディレクターの方から、女性監督だと思ったと言われました。女性の視点で描いているからだと思います。

― 状況は変わっているのでしょうか?
少しは改善されていると思うのですが、もっと良くなるべきだと思っています。


監督:
福岡で、70代の女性の方から、「私もシヴァランジャニです」とおっしゃってくださいました。

― 素晴らしい映画でした。時代は変わっても、男性の優位性は変わってません。
一人目は家に、二人目は働きに出て、3人目は足を出して走ってました。
3人目は、朝の母親の仕事ぶりをノーカットで見せて、忙しさが伝わってきました。名が回しは、何回でOKになったのでしょう?

監督:この映画は、何テイクも撮りました。この場面は何テイクだったか・・・
音楽がなかったことに気づいていただけたかと思います。音楽がない方がキャラクターになりきれます。長まわしをするのも同じ9理由です。ものごとが、そこで現実に起こっているように感じてもらえます。朝の6時から8時はカオスです。夫や子供の面倒をみて、送り出さなければいけません。皆さんが毎日経験していることだと思います。2~3回撮って、こういう感じかなと。もっとリアルな演技をと伝えて、撮影をしていきました。一番多かったのは、99回です。

― 平均的な家族像と考えていいですか?


監督:
インドに限らず、ニューヨークで上映した時にも、共通に起こることが描かれているといわれました。西洋はもっと自由だと思うかもしれませんが。
1980年、1995年、2007年ト少しずつ変化しています。2007年では、夫が「ありがとう」の言葉を妻にかけています。徐々にですが、男は仕事、女は家事の考えが変わってきていると思います。

― スウェーデンでも上映されたとのこと。スウェーデンは男女平等がかなり進んで、男女同等の地位だと思います。スウェーデンでの反応は?

監督:スウェーデンでも気に入ってくれて感謝しています。2番目の部分では笑っていただきました。映画の中では、ものごとが起こって、そこから何かを感じてもらうのが普通ですが、何かが起こらなくても共有していただけるものがあると思います。

― (40前後の男性)小さい子と妻がいるのですが、負担をかけてないか省みながら映画を観ました。2番目の物語は、日記を巡る揉めごとでした。家の不名誉になるとはどういうことでしょう? 告げ口した少年は日記をつけることが悪いことと思っていたのでしょうか?

監督:ご自身の奥様のことを思っていただきありがとうございます。
日記を書くことが不名誉なことではなく、何が書かれているかわからないので、義理のお姉さんが嫉妬から何か家名を汚すようなことを書いているのではないかと言ったのです。家族の間で嫉妬から揉め事になることを描きたかったのです。
少年は叔母さんが好きで、お母さんからここは大人の場所だからと言われたので、つい叔母さんのことを言って、後から大げさなことになって後悔しています。少年には、次の世代の「わかる男性」になって欲しいと願っています。


会場入口でのサイン会
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皆、それぞれに質問されていました。
19時からインタビューの時間をいただいていましたが、サイン会に並んだ最後の方が終わるまで待って、インタビューの部屋に一緒に移動。
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サインボードの前で写真を撮らせていただきました。

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ヴァサント・S・サーイ監督インタビューは、こちらでどうぞ!


報告:景山咲子






アジアフォーカス 福岡観客賞はインド映画『シヴァランジャニとふたりの女』

9月13日(金)夜、キャナルシティ博多地下のサンプラザステージでのオープニングセレモニーに続き、チャン・リュル監督が福岡で撮った『福岡』で始まった「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019」。9月17日(火)に福岡観客賞授賞式が行われました。
観客賞は一般上映初日9月14日~16日までの3日間で、観客賞対象作品1回目の上映時の観客投票により決定される賞。私は、17日の朝に福岡入りしたので、ほとんどの作品を観ない状態で授賞式に臨みました。

まずは、観客賞第二位にあたる熊本市賞の発表

★熊本市賞
『アルファ 殺しの権利』Alpha, The Right To Kill(2018年/フィリピン)
ブリランテ・メンドーサ監督

昨年の東京国際映画祭でコンペティション部門審査委員長を務められたメンドーサ監督。アジアフォーカスでは、特別企画としてマスタークラスが開かれ、映画も『アルファ 殺しの権利』『それぞれの道のり』の2本が上映されました。
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*ブリランテ・メンドーサ監督 喜びの言葉*
受賞するとは思ってもみませんでした。マスタークラスのために福岡に来たつもりでした。福岡に10年ぶりに戻ってきました。暖かく迎えていただき、ありがとうございます。

14日から来ていた東京の友人や福岡の友人から、『アルファ 殺しの権利』がよかったと聞かされていたので、まさに評判通りでした。

そうなると、第一位は?
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★福岡観客賞
『シヴァランジャニとふたりの女』Sivaranjani and Two Other Women
(2018年/インド)
ヴァサント・S・サーイ監督
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*ヴァサント・S・サーイ監督 喜びの言葉*
観客賞の受賞、心から嬉しく思います。「福岡の素晴らしい人々から受け取った賞」だと思っています。初めて日本に来て、真心のこもったおもてなしを受けて、ほんとうに感激しています。観客の皆様、特に多くの女性の方々に感謝申し上げます。母のシャンタ、妹のマリーナ、妻、娘たち、そして父と兄、そして友人たちにもこの場を借りてお礼を申し上げます。

映画はまだ観ていなかったのですが、福岡に来る前に、18日の上映後にヴァサント・S・サーイ監督インタビューの時間を頂いていました。まさに先見の明ありでした。作品の詳細とインタビューの模様は後日お届けします。

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最後にゲストの方々全員が壇上にあがり、記念撮影。


引き続き、福岡フィルムコミッション支援作品『電気海月のインシデント』の特別上映が行われました。
福岡を舞台に、ハッカーと探偵とアウトローが頭脳戦を繰り広げる物語。
ハッカーにも、ホワイトハッカーとブラックハッカーという区別があることを知りました。ブラックハッカーにやられたのを、ホワイトハッカーに助けてもらうという図式。萱野孝幸監督はじめ、九州勢のキャスト、スタッフで、オール福岡ロケ。