代々木上原のモスクで「スーフィー映画祭」 (咲)

PXL_20240921_085312308.MP.jpg

代々木上原の東京ジャーミィ(モスク)で開かれた「スーフィー映画祭」の初日、9月21日に終日参加してきました。

スーフィー映画祭
2024年9月21日(土)・22日(日)
東京ジャーミイ新館地下1Fエルトゥールル講堂にて

21日に上映される4作品の申し込みをしたところ、11時半からの映画の前に、10時半から開催される映画祭の開会式へのご招待をいただきました。朝早いのは苦手ですが、これは頑張るしかない・・・と参加。

PXL_20240921_020719769.MP.jpg
クルアーンの朗誦のあと、トルコ共和国大使コルクット・ギュンゲン閣下と、今回上映される映画すべてのキュルシャト・クズバズ監督のご挨拶。その後、スーフィー音楽演奏をしばし楽しみました。ちなみに、スーフィーとは、イスラーム神秘主義のこと。

PXL_20240921_032131413.PANO~2.jpg
紅茶とトルコの焼き菓子でティータイム

11時半~
『アブデュルレシト・イブラヒムと東京ジャーミイ』
アブデュルレシト・イブラヒムは、帝政ロシア時代のシベリアで生まれたシベリア・タタール人のウラマー(イスラーム法学者)。
1908年から1910年にかけて、シベリア、モンゴル、満州、日本、韓国、中国、シンガポール、インドネシア、インド、ヒジャーズを巡る大旅行を行い、日本には半年滞在しています。
1917年のロシア革命でソ連が誕生するとムスリムは冷遇され、カザン・タタール人の多くが国外へ。大アジア主義を掲げていた日本も多くのタタール人を受け入れました。
アブデュルレシト・イブラヒムは、1933年に日本から招へいを受けて再び来日。東京モスクの初代イマームを務め、1944年8月17日、東京にてご逝去。多磨霊園の外国人墓地にあるお墓が映し出されました。なんと、イブラヒムのお墓の手前に、私のトルコ語の先生であるハーヴァ・アルダさんのお墓。

12時半~13:10
『マッカ – マディーナ イスラームの心』
イスラームの聖地メッカとメディナ(トルコ語では上記の表記)を紹介する短編映画。
大巡礼(ハッジ)と小巡礼(ウムラ)の巡礼の順を追って、2大聖地を巡りながら、イスラームの真髄を紐解くものでした。

13:30 - 16:00
『ソムンジュ・ババ(パン屋の父)』 Somuncu Baba
トルコ中央部の町アクサライ出身で、ソムンジュ・ババ(パン屋の父)の名で知られるスーフィーの修行僧(ダルヴィーシュ)の物語。
パン屋の息子に生まれたハミッド。市場でパンを売っていた父が盗賊に襲われ亡くなり、ハミッドは修行場へ。シェイフより「パンを作りなさい」と言われ、粉を運び、薪を割り、パン作りに励みます。水汲み場で出会った美女に心を奪われ上の空に。シェイフ(師)から、耳が聴こえず、口もきけない自分の娘との結婚を願われます。契りを結んだあと、赤いベールを取ると、それは水汲み場の美女でした。しかも話せるし、耳も聴こえます。「悪い言葉は聴けない。悪い言葉も言わない」とシェイフ。
ある日、ハミッドは見知らぬ修行僧に「ダマスカスに行きなさい」と言われ、旅立ちます。その時、妻は身籠っていたのですが、修行の邪魔になると明かしませんでした。
やっと帰ってきた時には、4~5歳になった息子のユスフが駆け回っていました。
しばらくして、ハミッドは新しい修行僧バイラムと共に、また修行の旅に出ます。
ブルサの町で、ウル・ジャーミイ(モスク)の建設現場で働く人たちにパンを配る二人・・・

★上映後 キュルシャト・クズバズ監督のトーク
ソムンジュ・ババは、アナトリアで広く知られた13世紀の人物。カッパドキアの中心の町であるアクサライで、ソムンジュ・ババの青年時代からほんとうの愛を見つけるまでの40年を撮影しています。アクサライには、13世紀に造られた建物も多く残っていて、すべてを描けました。
私たちが今、指針にしているのは、13世紀の人たちの考え方です。800年経って、生活様式は変わっても、精神は変わりません。

終了後、観客も一緒に記念写真

PXL_20240921_071338153.MP.jpg

16:30 – 18:00
『メヴラーナ 愛の舞』 Rumi ‘The Dance of Love’
旋回舞踊で陶酔し神と一体となることで有名なメヴレヴィー教団。その創始者である13世紀の神秘詩人ルーミーの物語。
メヴラーナ・ジャラールッディーン・ルーミーは、1207年、現在のアフガニスタン北部バルフで高名な神学者の家に生まれたが、モンゴル軍の来襲を恐れた家族と共に12歳の時、故郷を去り、10年間の流浪の旅の後、トルコのコンヤにたどり着きました。
ルーミーは、ルーム・セルジューク朝にちなんでつけられた号。
ペルシャ語文学史上最大の神秘主義詩人で、イランでは、モウラーナー(我らの師)として親しまれています。映画はトルコの監督が作ったからか、そのことについては残念ながら言及されていませんでした。

本来、遠近感のない細密画(ミニアチュール)に描かれた人物を、立体的に描いて、13世紀当時の様子を描いていたのが面白かったです。監督より、細密画をこのように立体的に映画に使ったのは自分が初めてだとの弁。

たっぷりイスラームの真髄に浸った一日でした。

PXL_20240921_070838297.MP.jpg
モスクのホールでは、中央アジア各国の物産展が開かれていました。

◆行けなかった9月22日に上映された映画は下記の通り。
12:00 - 13:00 『イスタンブールの7大マスジド - トルコの伝統技芸 ハット(書道)』 7 Mosques in Istanbul

13:30 - 16:00 『ユヌス・エムレ 愛の声』 Yunus Emre ‘The Voice of Love’

16:30 - 17:15 『アブデュルレシト・イブラヒムと 東京ジャーミイ』 Abdürreşid Ibrahim and Tokyo Mosque

イスラーム映画祭9 名古屋編 

islram 9 nagoya.jpg

イスラーム映画祭9 名古屋編の日程が決まりました。

会場:名古屋・ナゴヤキネマ・ノイ
https://nk-neu.com/

期間:2024年6月29日(日)~7月5日(金)
※7/2(火)劇場定休日 1日2回上映

★オンラインチケット: 上映日の「10日前」より販売
6/19(水)0時から1日ずつ販売
ナゴヤキネマ・ノイ オンラインチケットサイト
https://nkneu.sboticket.net/


上映作品
『私は今も、密かに煙草を吸っている』
『アユニ/私の目、愛しい人』
『ファルハ』
『戦禍の下で』
『ハンズ・アップ!』
『辛口ソースのハンス一丁』
『私が女になった日』
『スターリンへの贈り物』
『ハーミド〜カシミールの少年』

★東京、神戸で上映した作品のうち下記3作品の上映はありません
『炎のアンダルシア』
『憎しみ』
『メークアップ・アーティスト』


●トークセッション 1
6月29日(日)16:30からの『ファルハ』上映後
ナゴヤキネマ・ノイ オープン特別企画
~ミニシアターが上映してきたパレスチナ関連映画の歩み~
永吉直之(ナゴヤキネマ・ノイ支配人)x 藤本高之(イスラーム映画祭主宰)

●トークセッション 2
7月3日(水)16:30からの『辛口ソースのハンス一丁』上映後
“辛口ソース”のハンスはどこに?
~二つの世界で生きる移民2世の葛藤について~
渋谷哲也さん(ドイツ映画研究者/日本大学文理学部教授)

★なお、トークのない回は、藤本高之さんによるミニ解説があります。

タイムテーブルとトーク詳細は、こちらでご確認ください。
http://islamicff.com/timetable_talksession.html#nagoya_timetable

最新情報は、イスラーム映画祭 Facebookで確認ください。
https://www.facebook.com/islamicff?__tn__=-UC

イスラーム映画祭 公式サイト 
http://islamicff.com/index.html



イスラーム映画祭9 神戸編 4月27日開幕

islam9 kobe.jpg

イスラーム映画祭9の神戸編が、いよいよ明日4月27日より始まります。

神戸・元町映画館 http://www.motoei.com/
4月27日(土)~5月.3日(金) 1日2回上映

タイムテーブルとトーク詳細は、こちらでご確認ください。
http://islamicff.com/timetable_talksession.html#kobe_timetable
なお、トークのない回は、藤本高之さんによるミニ解説があります。

☆イスラーム映画祭9 アーカイブ 1300円
isralm9 archaive.jpg
上映作品の詳しい解説や、研究者の方たちによるコラム満載。
ぜひ元町映画館受付でお買い求めください。


★元町映画館による藤本高之さんインタビューに、今年も開催した思いや、上映作品一つ一つの見どころが掲載されていますので、ぜひお読みください。
Interview vol.9 藤本高之さん(イスラーム映画祭主宰)映画で知るパレスチナ問題の原点


また、イスラーム映画祭9の会期中、関連の写真展も開催されます。

写真展「中東に生きる人々~パレスチナ 西岸地区より~」
日時: 4/27(土)~5/3(金)
場所:元町映画館1F受付前の壁面にて

西岸地区の手しごと展示販売会
日時:4/28(日)『ファルハ』14:45の回上映と岡真理さんトーク終了後、17:30ごろ~18:30ごろ
場所:元町映画館2Fロビーにて


シネマジャーナル 映画祭報告のコーナーに、上映作品ごとに見どころをまとめていますので、参考にしていただければ幸いです。
http://www.cinemajournal.net/eigasai/index.html

『アユニ/私の目、愛しい人』と『私は今も、密かに煙草を吸っている』につきましては、東京でのトークの模様も掲載しています。

イスラーム映画祭9『アユニ/私の目、愛しい人』 ★山崎やよいさんトーク「14年目のシリア革命」
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/502699243.html


イスラーム映画祭9『私は今も、密かに煙草を吸っている』(アルジェリア)3/16ミニ解説と感想(咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/502700353.html

イスラーム映画祭9『私は今も、密かに煙草を吸っている』(アルジェリア)3/16ミニ解説と感想(咲)

watasiha imamo.jpg

『私は今も、密かに煙草を吸っている』★日本初公開
原題:À mon âge je me cache encore pour fumer
監督:ライハーナ / Rayhana
2016年/フランス=ギリシャ=アルジェリア/90分/アラビア語・仏語

上映前に、イスラーム映画祭主宰 藤本高之さんよりミニ解説。

1995年のアルジェリアが舞台。
アルジェのハンマームの女性用時間を撮ったもの。アルジェリアではハンマームの場面を撮影することが出来ず、ギリシャのテッサロニキのベイ・ハンマーム(1444年、オスマン帝国ムラト2世建設)で撮影。
ライハーナ監督は、1990年代終わりにフランスに亡命。

なぜ、1995年を舞台にしているのか?
1830年~1962年 アルジェリアはフランスの植民地。完全な同化政策をした為、激しい独立運動が9年にわたって行われた結果、独立。
独立戦争については、『アルジェの戦い』で描かれているので、機会があればぜひ観てください。

石油や天然ガスがあって、独立当初はそこそこ上手くいった。農業政策が上手くいかないことなどから、独裁政権に対して、1988年、民衆が蜂起。
民衆の支持を受けたイスラーム主義を掲げたイスラーム教国戦線が選挙で勝利するも、政府がクーデターを起こし、内戦の時代に突入。その内戦のひどかった1995年を舞台にしたのが本作。 

「アルジェリアの200年を5分で無謀に語りました」と藤本さん。


*物語*
アルジェの海を見晴らす屋上。29歳半のサーミヤ。未婚の彼女に、母親はあまり屋上に出るなというが、屋上から海を眺めるのが好きなサーミヤは、屋上で洗濯物を干すのが好きだ。

買い物用のバケツを下げ、まず、こっそり煙草を買うファーティマ。オレンジを買い、急ぎ足で街を行く彼女は、眼下の通りで爆弾テロが起こるのを見かける。ハンマームに着き、まず一服する。ファーティマはハンマームの従業員。先ほど、屋上から海を眺めていたサーミヤは同僚。サーミヤが、夢に現れた男性への憧れを語る。
次々にハンマームに女性たちがやってくる。 そんな中、妊娠している16歳のマリヤムが兄の暴力から逃れて来る。ファーティマは、ほかの女性にばれないように、マリヤムを2階に匿う。
マリヤムの兄たちがやって来る。押し入ろうとする男たちを、なんとか入れないようにするファーティマたち。やがて、マリヤムが破水する・・・
ハイク(白い布)を纏って、押し入る男たちと対峙する女性たちの姿が圧巻。


ファーティマを演じるのは、ヒアム・アッバス。イスラエルのナザレ生まれのパレスチナ人。『シリアの花嫁』『扉をたたく人』『ガザの美容室』など数多くの作品で活躍している方。

france205.jpg
迫力ある助産師アイーシャを演じていたビューナや、どういう役柄か把握できなかったナディア・カシの二人は、2004年のフランス映画祭で上映された『ビバ!アルジェリア』に出演していて来日され、インタビューした懐かしい方たち。


アルジェリアで俳優と舞台演出の実績を持つライハーナ監督は、1990年代終わりにフランスに亡命後、本作の基となる戯曲を2009年にフランスで上演。内戦当時、女性たちにとって唯一自由になれるハンマームでさえ、自由の場でなくなりそうな状況を描いています。
群集劇で、個々の人物像を把握しきれなかったこともあり、もう一度、観たい思いにかられています。それだけ、力強く、素晴らしい映画でした。

東京では、あと1回、最終日の最後の作品として上映されます。

3/24(日) 20:40~

遅い時間ですが、ぜひ!

チケットは、こちらのサイトの右わきにある「先行予約 イスラーム映画祭」のところからどうぞ!
https://www.euro-ticket.jp/eurospace/schedule/


イスラーム映画祭9『アユニ/私の目、愛しい人』 ★山崎やよいさんトーク「14年目のシリア革命」

ayouni.jpg

『アユニ/私の目、愛しい人』原題・英題:Ayouni
監督:ヤスミーン・フッダ / Yasmin Fedda
2020年/シリア=イギリス/74分/アラビア語・英語・イタリア語

1970年から親子2代にわたるアサド独裁政権が続くシリア。2011年3月、シリアにも及んだアラブの春。アサド政権は民衆蜂起を弾圧。これまでに10万人以上が強制失踪している。
シリア系パレスチナ人で、ウィキペディアの創設に関わったプログラマーのバーセル・サファデイと、人権派弁護士のヌーラは、2013年、獄中結婚し、シリア革命家夫婦と言われる。
1970年代から中東を拠点に修道院の修復や宗教間の融和をはかる活動を続けてきたイタリア人神父パオロ・ダル・オグリオ。2013年にラッカで強制失踪する。妹マチが、神父の行方を追う・・・

「ダマスカス行き」と書かれた2階建てバスの外側いっぱいに掲げられた強制失踪した人たちの写真。家族がバスに乗り、愛しい人たちの解放を求めて世界各地を回ります。
そんな訴えも空しく、バーセル・サファデイ処刑のニュース。政府は肯定も否定もしない・・・

◆3/16(土) 10:00からの上映後トーク
【テーマ】《特集:14年目のシリア革命①― 震災後のシリア北西部と革命の現在地》
【ゲスト】山崎やよいさん(アラビア語通訳/「イブラ・ワ・ハイト」発起人/ NPO法人Stand with Syria Japan監事)

PXL_20240316_022945152.jpg

山崎やよいさんは、考古学者として、シリアのアレッポに23年滞在。今回、本作の字幕監修をされ、「パソコンで見ていた小さな画面と違って、大きな画面で見た本作は、初めて見たような気持ち。独裁政権はともかく、シリアは気候・風土のいい国」

以下、山崎やよいさんの言葉より:
2011年のシリアでの民衆蜂起は、宗教や民族の違いを越えた革命。「内戦」と言われると、ちょっと違う。

去年、アサド政権は野戦軍事裁判を廃止したが、軍事裁判は今も残る。
処刑されたことが家族にはなかなかわからない。
今も15万人以上が拘束されているが、面会はほぼ無理。
かなりの賄賂を払って居場所を聞き出しても、さらに賄賂を積んで面会にこぎつけるのも難しい。

パオロ・ダル・オグリオ神父はフレスコ画などの修復で有名なイタリア人神父。
シリア政府は修復にお金を出さない。

ヤスミーン・フッダ監督は、元々パオロ神父を取材していて、その過程でバーセルさんのパートナーであるヌーラさんと知り合う。

バスの外側に掲げられたバーセル・サファデイさんの写真の隣に、知り合いのシリアの女性サマルさんの写真を見つけて、心臓が止まりそうに。サマルさんが失踪していることを忘れていたことにもハッとした。 ISIS(イスラム国)は、アサド政権の利益になることしかして来なかったとサマルさんから聞いたことがある。
2011年、革命が起きた時、アサド政権はイスラミスト(過激なイスラム思想を持つ人)を解放している。何かあった時に、過激派イスラームのせいにする意図。

***************

★『アユニ/私の目、愛しい人』は、あと1回 上映があります。

3月23日(土)17:50~
上映後トーク
【テーマ】《特集:14年目のシリア革命②― 「革命前のシリアは平和だった」言説のまやかし》
【ゲスト】黒井文太郎さん(軍事ジャーナリスト)