第38回東京国際映画2025観て歩き(暁)

今年(2025)の東京国際映画祭の期間は10月27日(月)~11月5日(水)。シネマジャーナルHPの更新日が日曜日だったので、いろいろ作業が残っていて27日(月)はパスにして、28日から映画祭にでかけた。1日ぐらい休息日と思ったけど、観たい作品が目白押しだったので、結局あとは全日参加。でも1日1本や2本の日もあって、効率は悪かったかも。あとで思い返したら無理しても27日に行き『母なる大地』を観ればよかったと後悔。結局この作品を観ることができず、ファン・ビンビンにも会えなかった。
 いつも一般上映とプレス上映を組み合わせて観ているけど、今年も競争率の高いチケットはゲットできず、購入できた作品1本と、当日購入したチケットで何本か観ることができた。プレス試写はシネスイッチ銀座で上映されるので、地下の劇場は高齢者になって階段がつらくなった私としてはパスしたいところだけど、いくつか観たい作品があり、結局5作品位は観に行った。そのたびに、そこにいるスタッフの方に荷物を持っていただいたのでありがとうございました。
それでも、今年はヒューリックホール東京やヒューマントラストシネマ有楽町でのプレス上映もあり、ありがたかった。それに映画はやはり観客と一緒に観るのが嬉しい。六本木の時と違って、あっち行ったりこっち来たりでけっこう移動に時間がかかったけど。それでも中華圏を中心に17本の作品を観ることができた。ウイメンズ・エンパワメント部門の作品も3本観ることができたし、今年もシンポジウムに参加することができた。その中からいくつか感想を書きます。
まずは、チケットが抽選になり、『She Has No Name』と『風林火山』のチケットに挑戦。『She Has No Name』は獲得できた。この作品から。

『She Has No Name』原題『酱园弄』 中国
ガラ・セレクション 上海国際映画祭推薦

プロデューサー/監督:陳可(ピーター・チャン)
脚本:シャン・ヤン、ジャン・フォン、シー・リン、パン・イーラン
撮影監督:ジェイク・ポロック
美術:スン・リー
衣装:ドラ・ン
編集:ウィリアム・チョン、ジャン・イーボー
音楽:ユー・フェイ、ナタリー・ホルト
キャスト
章子怡(チャン・ツィイー)、ライ・チァイン

チャン・ツィイーの鬼気迫る演技が印象に残る作品でした。
舞台は1940年代。日本占領下の上海で実際に起こった殺人事件にインスパイアされた作品だそう。ジャン・ジョウは夫を殺害し、遺体を切断した容疑で逮捕され、警察による尋問と虐待に耐え、無罪を証明しようとする。女性の権利が著しく認められていなかった時代、夫のDVにさらされながら生きていた彼女の人生が描かれる。戦後の混乱の中、大きく変わる激動の時代を生き延び、彼女は新中国になってどんな人生を歩むのかというところまでが描かれる。上映後の監督の話では、これは前半の映画で、このあと2時間半の後編映画があり、彼女はこのあと2006年まで生きるのだそう。
途中でイプセンの『人形の家』の舞台が挿入されるが、これはジャン・ジョウの境遇を彷彿とさせる目的なのだろう。夫に支配されていた主人公ノラが夫と決別する姿が重なる。それにしてもチャン・ツィイーの傷だらけの汚れ役、ほんとにチャン・ツィイーなの?と思うくらい迫真の演技だった。
力のあるものとないもの、警察=権力の手段、構造は、今の時代も変わっていないということも暗示している。
個人の人生が激動の時代のなかで、どう変わっていくのかを描いている。
2024年のカンヌ映画祭で上映された後、ウィリアム・チョンによる全面的な再編集を経て、本年の上海映画祭のオープニングを飾ったバージョンが上映されたという。

監督 ピーター・チャン [陳可辛] 公式HPより
1997年の恋愛映画『ラヴソング』で世界的注目を浴び、これまでに香港金像奨、金馬奨、中国金鶏奨で最優秀監督賞を受賞。その他の代表作には、『愛という名のもとに』(91)、『君さえいれば/金枝玉葉』(94)、『ウィンター・ソング』(05)、『ウォーロード/男たちの誓い』(07)、『アメリカン・ドリーム・イン・チャイナ』(13)、『最愛の子』(14)などがあり、合計で400のノミネートを受け、233の映画賞を受賞している。

94分カラー北京語英語、日本語字幕2025年中国

『春の木』 原題『春樹』 中国 コンペティション
チャン・リュル監督が最優秀監督賞、ワン・チュアンジュンが最優秀男優賞を受賞している。

スタッフ
監督/脚本:張律(チャン・リュル)
プロデューサー:ポン・ジン
脚本:リウ・シューイー
撮影監督:ピャオ・ソンリー
照明:ワン・ウェンユー
編集:リウ・シンジュー
音響:ワン・ラン
衣装:リャン・ジェンアル
美術:ジェン・イーツァン
キャスト
白百何(バイ・バイホー)、王傳君(ワン・チュアンジュン)、劉丹(リウ・ダン)、彭瑾)ポン・ジン)

四川省峨眉撮影所の古いスタジオが取り壊されると聞き、ここを使って撮影することにしたという。
原題は『春樹』で、主人公の名前。成功することができなかった女優春樹が四川省の故郷に戻り、その挫折から立ち直ろうとする姿が描かれる。
春樹はオーディションに受かり、映画の主役に抜擢されるが、成都出身なのに監督が求める成都弁が話せないということで出演をあきらめ、女優をやめ成都に帰省する。故郷で彼女はかつて演劇を教わった峨眉撮影所の張老師(先生)を訪ねる。実は、かつて張老師から「俳優は全国に伝わる普通話を話せなくてはならない」と指導を受け、地元の方言を使わずにいるうち、成都弁をしゃべれなくなってしまっていた。訪ねた張老師はアルツハイマーにかかっていた。世話をするため上海から来ている息子冬冬に出会う。冬冬は「母は普通にしゃべっている時とそうでない時がある」といい、認知症が出ている時とそうでないときの違いもわかりにくい。冬冬は、単身、成都で仕事をする母から上海の祖父母宅に預けられ、上海弁の中て育ってきた。大きな動きはないが、映画はこの3人を中心に語られていく。
成都弁を話せない春樹、上海から峨眉撮影所に来て普通語を奨励している張老師、上海語の冬冬、そして、成都弁の春樹の母。ある意味、中国の多彩な方言を巡る話でもある。
かつて多くの映画を製作してきた四川峨眉撮影所の古いスタジオが取り壊される前の、最後の姿がカメラに収められている。
『キムチを売る女』(05)、『柳川』(21)などで知られ、中国と韓国で活躍するチャン・リュル(中国語読みではチャン・リュー)が中国で撮影した最新作。監督は東京フィルメックスで作品が上映され、来日したことがある。
プロデューサーは張老師役のポン・ジン。彼女は日本に3年ほど派遣されていたことがあると語っていた。主演は『モンスター・ハント(原題:捉妖記)』シリーズで知られるバイ・バイホー。中国第5世代を代表する監督で、現在はプロデューサーとして活躍している黄建新(ホアン・ジェンシン)も出演している。

監督 張律(チャン・リュル)
1962年、中国・延辺朝鮮族自治州生まれ。2001年、初監督作品『11歳』がヴェネチア映画祭短編コンペティション部門に入選。『キムチを売る女』(05)はカンヌ映画祭批評家週間でプレミア上映され、釜山国際映画祭でACID賞とニューカレンツ賞を受賞した。その他の代表作には『風と砂と女』(07)、『慶州 ヒョンとユニ』(14)、『白塔の光』(23)がある。

122分カラー北京語英語、日本語字幕2025年中国

『飛行家』 原題『飞行家』中国
コンペティション
監督/脚本:鵬飛(ポンフェイ)
脚本:シュー・イージョウ、シュアン・シュエタオ
撮影監督:リュー・ソンイエ
美術監督:リウ・チン
チーフ・プロデューサー:レン・シャオイー、マー・シャン
プロデューサー:ツァイ・ミンヤン、ソン・ズージェン
エグゼクティブ・プロデューサー:シュアン・シュエタオ、ワン・ホンウェイ
キャスト
ジャン・チーミン、リー・シュエチン、ドン・バオシー、ジャン・ウー、ドン・ズージェン

1970年代から現在に至る時代を背景に、空を飛ぶ夢にとりつかれた男をユーモア感たっぷりに描く作品。
中国東北地方に暮らす平凡な労働者リー・ミンチーは、自作の飛行装置で空を飛ぶという夢を追いかけているが、実験は失敗続き。恋人の父に会った時もパラシュート降下を計画していたが、成功すれば結婚後も飛行を続けてよいが、失敗したら飛ばないと約束させられる。パラシュート降下は突然の隕石落下で失敗。その後の降下を断「念して結婚。しかし、飛ぶ夢をあきらめきれないミンチーは、交通渋滞を回避するため、上空を移動する「空を飛ぶ車?」を考えたが実験に失敗し、その場にいた妻の弟(北京大学の受験を目指していた)が巻き込まれてケガをしてしまった。自暴自棄になり生活が荒れてしまった弟を心配したミンチーと妻は廃工場を買い取りダンスホールの経営を始めた。宣伝のために飛ばした熱気球が宣伝になりダンスホールは成功するが、弟は一緒にやることを嫌がり、妻子を残して北京に行ってしまった。子どものいないミンチー夫妻は残された甥のフォンを息子のようにかわいがった。弟は北京で借金を作り故郷に帰ってきたが、その借金のためにダンスホールは取られてしまった。さらに甥のフォンが重い心臓病であることがわかり、手術代に10万元が必要ということがわかり、そのお金が必要になった。そして彼は、このお金を得るために、また飛ぶことに挑戦!
2023年東京国際映画祭で上映された『平原のモーセ』の原作者シュアン・シュエタオの小説を『再会の奈良』(20)のポンフェイが映画化。シュアン・シュエタオは第37回東京国際映画祭(2024)で最優秀芸術貢献賞受賞した『わが友アンドレ』の原作者でもある。撮影も『わが友アンドレ』の撮影を担当したリュー・ソンイエ。

来日した監督、原作・脚本、主人公たちは下記のように語っています。映画祭HPより
主人公を演じたジャン・チーミンは「理想を抱いた人がどこへ向かうか、どう生きるか。それがこの物語の核です。この映画は一人の男の夢と時代の軌跡を重ねた物語です。夢は大きくなくていい。根を張り、行き先を持つことが大切だと思います」
ポン・フェイ監督「どんな夢も、持つ人は美しい。たとえ無謀に見えても、忘れてしまっても、また一歩を踏み出してほしい」
シュアン・シュエタオ「僕たちは一つ一つのシーンに、観客の感情を思いながら取り組みました。現実的でありながら美しい。それを実現するのは簡単ではありません。昨日、日本の作家の友人から「観終わって、生きる意欲が湧いた」とメッセージをもらいました。その言葉で、この映画を作って本当に良かったと思いました」

監督 ポンフェイ [鹏飞]
1982年、中国・北京生まれ。パリの国際映像音響学院の映画専攻を卒業。主な監督作は、『再会の奈良』(20)、『ライスフラワーの香り』(17)、“Underground Fragrance”(15)。

118分カラー北京語英語、日本語字幕2025年中国

『私の愛のかたち』 原題『像我這樣的愛情』香港
ウィメンズ・エンパワーメント

監督/脚本/編集オペレーター:譚惠貞(タム・ワイチン)
プロデューサー:スタンリー・クワン、キャサリン・クワン
チーフ・プロデューサー:ジェイソン・シウ
編集:ウィリアム・チョン
編集オペレーター:ライ・クワントン
撮影監督:リー・カムポー
美術/衣装:チョン・シウホン
作曲:ケルヴィン・ユン
キャスト
フィッシュ・リウ、カルロス・チャン、アリス・ラウ、ケイト・ヨン、ポリー・ラウ

脳性麻痺の若い女性ムイは、身の回りの世話は母親に頼ってはいるものの、家に閉じこもってばかりではない。電動車いすに乗って時には障害者仲間だけでなく健常者も一緒と行動をして、飲み会にも出かける、とても活動的な女性。絵を描くのが好きで、その絵が認められ始めて、経済的にも生活できる状態のよう。障害者の男性の友人ときわどい話もする。
そんな中、その友人から障害者を対象に性的サービスを提供するボランティア団体があることを聞き、そこを訪ね、ケンに出会う。この出会いは彼女の人生を大きく変えるが、ケンは彼女に対して心を開こうとしない。最初は迷惑そうだったケンだったが、次第に心を開きムイ親しくなる。しかし、その道は、まだまだ、大きな壁がある。
マレーシア出身で、香港映画界で活躍する女優フィッシュ・リウがヒロインを熱演。スタンリー・クワンがプロデューサーを務めている。

監督 タム・ワイチン [譚惠貞]
1984年、香港生まれ。脚本家、監督として活躍。香港城市大学クリエイティブメディア学部卒業。映画制作を学ぶ前に、作家として多数の小説を発表している。

登壇ゲスト(予定):Q&A:タム・ワイチン(監督)、フィッシュ・リウ(俳優)、カルロス・チャン(俳優)

105分カラー広東語英語、日本語字幕 2025年香港

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