一つの夜と三つの夏 原題:一个夜晚与三个夏天 英題:Linka Linka
監督・脚本:カンドゥルン
出演:ツェリン・ヤンキ、ツェキィ・メトック、デチェン・バンゾム、タンサン・ラモ
2025年/中国/チベット語・中国語/100分/カラー
作品解説 : サムギは幼なじみのラモとの苦い思い出についての映画を撮るため、故郷のラサへ戻ってきた。ずっと心の奥底に抱えてきた記憶が甦るなか、突然現れたラモとの再会が静かな波紋を広げていく。
故ペマ・ツェテン(『雪豹』/ TIFF2023グランプリ)、ソンタルジャ(『草原の河』/TIFF2015「ワールド・フォーカス」部門)らに先導され、『一人と四人』(TIFF2021「コ ペティション」部門)のジグメ・ティンレーなど新鋭も台頭するチベット映画界からまたひとり、注目の女性監督カンドゥルンが登場。映画作りを志す主人公の現在と幼少期が行き来する抒情的な本作でデビューを果たした。
ちなみに今年の当部門においてイランの『遥か東の中心で』とともに「映画制作をテーマにした映画」である。(公式サイトより)
故郷・チベットのラサに戻ってきた若い女性サムギ。かつて幼なじみの家に遊びに行った時に、こっそり持ち帰った財布のことがずっと心の傷になっていて、そのことをテーマに映画を撮るのが目的で帰ってきたのですが、突然の幼なじみとの再会・・・ 娘を見守る父親の思いも描かれていました。甘酸っぱい青春の物語。
カンドゥルン (岗珍)
1995年、チベット・ラサ生まれ。脚本家、監督。ラサの若者世代やサブカルチャーコミュニティを繊細なタッチで描く作風で知られる。短編映画“Orlo with Karma”は2025年西寧FIRST青年映画祭、バンクーバー国際映画祭に入選。本作が長編デビュー作である。
11月3日(月・祝) 上映後16:15~16:45 Q&A シャンテ スクリーン1
登壇:カンドゥルン(監督/脚本)、ツェリン・ヤンキ(俳優)、ツェリン・トゥンドゥプ(俳優)
司会:石坂健治氏
監督:お招きいただきありがとうございます。
本日、客席には二人のプロデューサーとカメラマンも来ています。(その場で立ってくださる)
石坂:今年のアジアの未来チームの中で一番若くて、平均年齢20代です。前日のQ&Aで出たことをお話しておきます。Linka Linkaという英語タイトルですが、「リンカ」は劇中にも出てきましたが、強いて訳せば「ピクニック」「レクリエーション」に近いということです。チベットでは夏が短いので、大切にその習慣を大切にしていますというお話しがありました。進学については、2割くらいの成績のいい人が、チベット外に行くそうです。
男性のツェリンさんですが、最初は妹さんが出演する予定だったのが、都合が悪くなってツェリンさんが出演することになり、役も男性に変わったということでした。
*会場から*
― チベット色があまり出てなかったのですが、あえて抑えたのでしょうか? それとも、それが今の日常でしょうか?
監督:特に調整はしていません。あくまで自分が見た今の姿です。そのままの様子を描こうと思いました。チベットに行ったことのない方は、草原と山しかないと思われるかもしれません。ラサでは若い人も普通に暮らしています。小学校を卒業して、内地に進学する者も、夏休みにはラサに戻ります。しばらく離れていると、変わっていて、なかなか慣れないこともあります。今の若者そのものを映し出しています。
― 幼い頃の記憶が入れ子の構造で入りますが、参考にした監督や作品はありますか?
監督:アリガトウゴザイマス。私は映画の勉強をする前から、日本映画を観ていて、特に小津安二郎監督から2つの影響を受けています。美学的なものや音楽についてです。この映画で使われているラサの地元の音楽や、ラサの色々な光景が、ものすごく静かな感じがするのですが、その中に非常に情熱的な何かが秘められています。
もう1つ小津安二郎の映画から学んだのは、父親と娘の関係です。私自身も父親との関係に関する描写にこだわりました。日本の若手監督では、三宅唱監督、濱口竜介監督、欧米の監督たちからもいろいろな影響を受けました。
石坂:映画は北京の大学で学んだのでしょうか?
監督:学部生の時には、コマーシャルの勉強をしました。大学院の時には、中国伝媒大学で映画の制作を学びました。
― 映画の中で、二人の役者さんが、最初の2020年の若い頃と、その後の大人になった場面では、少し背が伸びていました。撮影期間が長い作品では、役者の演技や身長だけでなく、景色も変わってしまうと思いますが、どんな工夫をされましたか?
監督:2020年から2023年と、3年の撮影間隔がありました。まず、この場を借りて2人の役者に感謝したいと思います。幼少期を演じた2人の子役もいるのですが、この2人の子役がよく似ていることに、皆さん映画を観て気付いたと思います。子役の2人は撮影時、ちょうど小学校を卒業して中学生になるところでした。私たちと同じように、内地の中学校に進学しました。3年後には身長も大きくなっていました。最初に撮影した子供時代には、映画のことがよく分かっていなかったのですが、3年後には、役について、真面目に聞いてくるようになりました。
石坂:役作りについて、俳優のお二人それぞれお聞かせください。
ヤンキ:私の役柄は映画監督です。私自身、クリエイターとして活動しているのですが、本物の監督の隣で一緒にキャスティングについて考えながら現場に臨みました。ラサには女性のクリエイターは少ないのです。たくさんの人が応募に来ましたが、誰を見ても監督が気に入る人がいなくて、私が子役と似ていると、私にオファーが来ました。芝居をしたこともなくて、プレッシャーを感じて、断ろうと思ったのですが、監督の熱意をみて、引き受けました。
演技をする時はいろんなことを考えました。自分自身の経験と似ているところがあって、そういう部分は割とスムーズにいきました。時には客観的に役柄を見て、監督とも議論しました。
一番好きなシーンは、ラモと一緒に車に乗って高速道路を走るシーンです。狭い空間の中で、感情をいかに表現できるのかを役者は問われます。運転を勉強し始めたばかりだったので、高速でスピードを出すのは、実は怖かったです。撮影の方が、「保険をかけているので、安心してください」とおっしゃってくださって、ほっとして演技に集中できました。
トゥンドゥプ:私も初めて演技に挑戦しました。監督と大の親友で、役柄と似たところがあります。私も12歳の時に上海に進学しました。図書館でよく勉強しました。まだ12歳でしたが、老後はどうなるんだろうと考えていました。映画の中で自分のことを記録できるといいなと思いました。
冒頭のシーンで、私の演じたラモはちょっと酔っぱらっていますが、それも自分に近いと感じます。彼女に手紙を書くシーンは、小さい時、友達に手紙を書いたときのことを思い出しながら演じました。
私が初めて上海に行った時には、上海は大都会で、地下鉄でよく迷いました。この映画をご覧になって、今のチベットのニュージェネレーションである若い人たちがどういう風に暮らしていているかをご覧いただけたかと思います。でも将来のことは誰にも分かりません。未来は運命に委ねることが一番だと思います。
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40年程前に訪れたラサの街には、まだ高層の建物はなかったのですが、すっかり街の様相が変わっていました。それでも、川沿いの道はかつての雰囲気でちょっとほっとしました。
今、チベットでは、小学校を卒業すると、2割くらいの成績上位者はチベット外の北京や上海などに進学することを知りました。この物語も監督自身の親元を離れて都会で勉強し、故郷に帰ってきた時の経験がもとになっています。
それほどまでに漢民族化は進んでいるのだという思いがよぎりました。
報告:景山咲子
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