東京国際映画祭 アジアの未来『遥か東の中心で』Q&A報告(咲) 


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『遥か東の中心で』  原題:door dar mianeh shargh 英題:Far in the Middle of the East

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監督・脚本・編集・ラインプロデューサ:アラシュ・アニシー
出演:シャガイェグ・シューリアン、マスメ・ベイギ、アミル・ノルーズィ、ソニア・サンジャリ、アスガル・ピラン、アミル・アーマド・ガズヴィニ、パリア・モジャラリ
2025年/イラン・オーストリア/ペルシャ語/104分/カラー

夫との別れの前夜、イランに留まるか去るか迷っていたソガンドは、父親に殺された女優を描く監督デビュー作を撮るため、イラン南部に到着する。オーディションの過程で、ソガンドは夫に紹介された女優ではなく、南部出身の別の女優ザーラをヒロイン役に抜擢してリハーサルを開始する。しかし、ザーラの父親は娘の女優業に猛反対。混乱のなかで撮影が始まる。
キアロスタミ、マフマルバフ一家、パナヒの諸作をはじめ、イランには「映画とは何か」を問う、いわゆるメタ映画の傑作が多いが、本作もその系譜に連なる一本である。“Far in the Middle of the East”という英題には、アジア地政学上の両端であるFar East(極東)とMiddle East(中東)が含まれており、意味深長なタイトルとなっている。(公式サイトより)

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アラシュ・アニシー
1981年、イランのシラーズ生まれ。中東最大の芸術大学である、イラン芸術大学大学院で映画制作を学ぶ。2021年、初長編映画“Maman”を制作、ファジル国際映画祭で5部門にノミネートされた。本作が2作目の長編映画である。


◆11月3日(月・祝)12:14~12:44 Q&A   シャンテ2 
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登壇:アラシュ・アニシー(監督/脚本/編集/ライン・プロデューサ)
MC: 石坂健治氏  通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん

石坂:ようこそお越しくださいました。

監督:朝早い上映だったのに、たくさんの方にいらしていただき、ありがとうございます。
初めて来日し、初めて自分の映画を皆さんと一緒に大きなスクリーンで観ました。ワールドプレミア、ありがとうございます。日本は大好きな国で、日本映画をとても愛していて、日本映画の足跡が私の映画に観られると思います。ワールドプレミアが日本なのがどれだけ嬉しいかおわかりになるかと思います。選んでいただきまして、ありがとうございます。

石坂:主演女優は奥様と伺いました。

監督:はい、監督役は私の妻です。インディーズ映画によく出演しています。ムハンマド・ラスロフ監督の映画『悪は存在せず』にも出演して、ベルリンで賞をいただいたこともあります。

石坂:今はイランにいらっしゃるのですか?

監督:はい。とても東京国際映画祭に参加したがっていたのですが、2歳の娘がいて、私が子どもの面倒をみるので行って来たらと言ったのですが、母乳なので、代わりは務められないので、私が東京に来ました。男として、女性を持ち上げて、どうぞと言いたかったのですが。3本目の映画では、また彼女を主役にして、その映画を持って必ず日本に来らればと思っています。

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*会場から*
― 最初と最後がアニメーションでした。最後、女性が横になっているようなシーンが気になりましたが、意味があるのでしょうか?

監督:なぜアニメーションにしたかなのですが、最後の事故のシーンをリアルに撮っていたら、自分も観る側も我慢できないのではないかと思いました。
小さい時に、火事の中に飛び込んで私の友達を助けにいった消防士が亡くなったという経験をしました。子どもを助ける時に、自分が死ぬかもしれないと思っていたら、火の中に飛び込んだだろうかと、自分の中でずっと気になっていました。その答えが映画の中で出たと思います。友達を助けるために彼女は飛び出したのです。自分の映画を細かく説明するのは好まないのですが、最初のアニメで事故であることを表して、最後には彼女が死んでしまったことを表しました。

― 面白い映画でした。鳥が出てきて、チェーホフの「カモメ」の台詞を監督がしゃべっていましたが、チェーホフがお好きですか? 引用した意味を教えてください。

監督:オーディションの場面で使ったのが「カモメ」でした。別の作家も使っています。どう解釈するかは、観る方にお任せします。作品を作る時、いろんな文化を少しずつ入れるようにしています。ストーリーは皆のもので、一つの文化のものじゃないと思っています。
今日、一緒に映画を観て、笑ったりリアクションするところがイランと同じだったので、通じるところがある、世界は同じだと思いました。どこに住んでいても、人間としての責任があります。いいコミュニケーションをとっていれば、その責任を果たすことができると思います。

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― いろんな要素があって面白い作品でした。絵画を盗む男たちは、映画を妨害するイランの検閲側の存在として描いているのでしょうか? またそれを監視する人たちがいますが、何かのメタファーでしょうか。

監督:映画のジャンルについて、まずお話したいと思います。この映画にはイラン映画の3つの要素、コメディ、ドラマ、現実を入れようと思いました。うまく編み合わせようと考えました。すごい悲劇になったら、それを喜劇に変える。まさにその逆もします。そう思って映画を作りました。おっしゃる通り、映画作りは大変なので、映画を妨害する存在のシーンをいれました。

― 絵画のチョイスですが、毛沢東の絵が出てきたのは? また、贋作は誰が描いたものですか?

監督:今、お聞きして思い出したのですが、インドの赤い絵がイランにあって、日本の展示会に貸したことがありました。イランに戻すときに、イスラミック指導省が通関から借金をしていたので、その絵をオークションに出して、売り上げで通関に借金を返すということがありました。贋作は、私の友人の画家がわざと下手に描いてくれました。
南フーゼスターンで撮影したのですが、ある父親が娘を殺したということが残念ながら実際にあったので、映画にすれば、観た人たちが考えを変えてくれるのではないかと思って入れました。

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このQ&Aの折、映画はまだ観てなかったのですが、一足早く監督の話が聞きたくて取材しました。映画の内容にかなり深く入り込んだ質問が多くて、翌日、観るのが楽しみになりました。(咲)


◆11月4日(火) シャンテ2
(13:20~15:34 映画)テヘランからイラン南部の町の美術館を舞台に映画を撮影しようとやってきた女性監督。夫が勧めた女優ではなく、南部出身の女優ザーラをヒロイン役に抜擢してリハーサルを開始するが、ザーラの父親は娘の女優業に猛反対。一方、美術館では絵画を盗み出そうとする一味の計画が遂行中…

上映終了後、Q&A  
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登壇:アラシュ・アニシー(監督/脚本/編集/ライン・プロデューサ)
MC: 石坂健治氏  通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん

石坂:2回目の上映です。

監督:初めて日本に来ました。大好きな日本映画の国での上映、嬉しいです。

石坂:最後に引用されていた文章、チェーホフとダルヴィーシュのものでしたが、どういう意図で入れたのですか?

監督:映画の中で、監督のソガンドが「人生は不公平」といいます。アラブの詩人ダルヴィーシュの詩、夜だけど歌をと。歌えればいいじゃないか。人生や暮らしが暗くても、いいことを見つけた方がいいのではと、あの言葉を入れました。映画を作る時、体験をもとにします。暗いことも人生には多い。ダルヴィーシュの詩のように、夜でも明るいこともあると。

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*会場から*
― 撮影場所は南部とのことですが、ヤシの木は南部らしいけれど、特にどこと明かされていないのは、意図的ですか?

監督:フーゼスターン州のトウースというところで、アートディレクターの生まれ育った場所です。美術センターがあって、今は誰も使ってなくて、絵的にも綺麗で、自分の映画がここなら撮れるのではと思いました。

― ファルハード・アフマディに捧げるとありました。彼は、この美術センターの建築家でしょうか?

監督:まさにそうです。1988年に彼が作ったものです。2020年、コロナの間に亡くなられたので、彼に捧げました。

― 『遥か東の中心で』というタイトルに込めた思いは?

監督:あいまいさから生まれたタイトルです。説明しても訳がわからなくなるかもしれません。フィーリングで決めたともいえます。いろいろな出来事が起こります。自分の娘を殺す父親、絵画を盗む・・・ 起こるべきことではないことが起こるのは、我々から遥か遠いところではないかと。

― 挿入された歌はどのように選んだのでしょうか?

監督:意味があえてわかるようにしたくなくて、フィーリングで選びました。

― 「嘘をつき続ければ、真実になる」という言葉がありました。

監督:この台詞は、ナチの時代に使われていた言葉です。独裁の中では、大きな嘘の方が信じられます。社会の中で、権力者が大きな嘘をいうと、皆が信じてしまいます。


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このほか、昨日のQ&Aと同じく、最初と最後をアニメーションで描いた理由についての質問が出ました。

夫との離婚を考えている女性監督が、低予算で映画を撮るのに、夫が勧めた女優ではなく、舞台である南の女性ザーラを主人公に起用。ところが、ザーラの父親は、昔気質な性格で、女優になることに猛反対。女優になるくらいなら殺してしまおうという次第。ザーラと同室の女優マフサがそれを察知して、ザーラの赤いフード付きコートを着るのです。その赤いフード付きコートは、ザーラの父親が娘にプレゼントしたものだったのが悲しい・・・。

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撮影がオフの日、皆でドライブして遺跡を訪ねる場面がありました。
ササン朝時代に捕虜にしたローマ兵に作らせたデズフールのダムの遺構。かつて訪れたことがあって、懐かしかったです。
それにしても、絵画の盗賊団がなんとも間抜けでした。いろいろなことが同時進行する物語。もう一度観て、頭の中を整理したいですが、日本での公開はどうでしょうか・・・ 

報告:景山咲子




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