『雌鶏』 英題:Hen 原題:Kota
監督:パールフィ・ジョルジ
出演:ヤニス・コキアスメノス マリア・ディアコパナヨトゥ アルギリス・パンダザラス 雌鳥(エスティ、サンディ、フェリ、エンチ、エティ、 エニクー、ノーラ、アネット)
2025年/ギリシャ・ドイツ・ハンガリー/ギリシャ語・英語/96分/カラー
雌鶏に主演女優賞をあげたかった!
前代未聞! ニワトリが主人公の映画
終始、ニワトリの視線で物語が展開する奇想天外な作品。養鶏場から搬送中に逃走したニワトリが、かつてレストランだった建物の中庭に一時的な避難の場所を見出す。だが、そのニワトリが生み出す卵をめぐって人間たちが争いを起こし、ニワトリは卵を守るために立ち向かう…。ニワトリの旅をユーモラスに描きつつ、人間たちの欲望、また社会格差の問題などを批評的に浮かび上がらせる作品。『ハックル』(02)、『タクシデルミア ある剝製師の遺言』(06)など、極めてユニークな作品群で知られるハンガリーの鬼才パールフィ・ジョルジがギリシャで撮影した最新作。撮影にはCGIやAIを使わず、動物トレーナーの指導のもと、8羽の本物のニワトリが起用されたという。(公式サイトより)
★映画の流れを末尾に掲載しています。
10月31日(金)19:00~19:30
プロデューサー タナシス・カラタノス氏囲み取材
ー ニワトリが主人公の独創的な映画。この作品に監督にGOサインを出された一番の決め手は?
タナシスさん: 今まで聞いたことがなく、ありふれたものでないので、興味を持ちました。前にもロバが出てくる映画を扱ったことがありますが、今回は、ニワトリの視点。後半、人間模様も出てきますが、あくまでニワトリが主人公。監督と話して、掘り下げて、ぜひやりたいと思いました。
200万ユーロの予算でしたが、出資者を集めるのは、なかなか大変でした。本物のニワトリで撮影するのは無理だろうとか、VFXでは莫大な予算がかかるだろうとか、なかなか出資してくれませんでした。なんとか集めることができました。
撮影開始しても不安でした。このまま進めてもいいのかという局面もありました。
42日間の撮影で、監督もニワトリを扱うのは初めてでした。ハンガリーのアニマルトレーナーが、スターウォーズやブレンドランナーなどでキャリアのある人で、彼にいろいろ相談して、取り組みました。
ー 一羽のニワトリをどのようにキャスティングしたのでしょうか?
タナシスさん: CGは、全く使ってなくて、メインのニワトリは、2羽で、ノーラ、アネットと、名前もつけていました。この場面は、ノーラにしようなどと相談しながら撮影しました。
ー ニワトリを撮影に使っていて、チキン料理を食べるのに抵抗はありませんでしたか?
タナシスさん: もともとチキンは食べないんです。卵は食べますが。
ー ギリシャでは、ニワトリには象徴的な意味があるのでしょうか?
タナシスさん: 知っている限りでは、ないと思います。ギリシャでは、「チキンのように頭が悪い」と言うけど、実際は利発です。
ー 冒頭の小林一茶の言葉は、監督の意図ですか?
タナシスさん: 僕には理解が難しいです。監督に聞いた方がいいですね。脚本段階で、使おうということになりました。
ー 難民が出てきましたが、実際の難民でしょうか? 少年が、ペルシャ語で「お父さん」と話しかけていましたが、イランかアフガニスタンの方もあの中にいたのでしょうか?
タナシスさん: はい、確かにいました。そしてあの難民たちは、本物の難民です。アテネに難民キャンプがあって、北アフリカやアジアから、難民がボートでやってきます。スペイン、イタリアなどと同様にギリシャにもたくさんやってきます。
監督の意図は、動物と人間が係争している感じを出したかったのです。
雌鶏は、人間のことは構いません。人間が動物のことを構わない裏返しです。
ー 雌鶏の表情は、撮った中から合うものを採用したのでしょうか?
タナシスさん: 撮影監督と監督が相談しながら撮影しましたが、大変でした。感情を見せないといけませんから。鳴き声は別に録音して、この雌鶏のモノローグといえるような表情のものと合わせるのが大変でした。
11月2日 22:31〜 上映後の質疑応答
登壇:プロデューサー タナシス・カラタノス氏
タナシスさん: 観てくださったのも光栄ですが、遅い時間にもかかわらず、質疑応答にもこんなに多くの皆さんが残ってくださって、良い兆しだと思います。ありがとうございます。
会場から
ー ワクワク、ドキドキ、面白い話で観てよかったです。主演女優の雌鶏は、どのようにオーディションしたのでしょうか? 演技力も素晴らしかった。ほかの雌鶏と、どう違ったのでしょうか?
タナシスさん: よい質問! ナイスルッキングで、黒い雌鶏を探しました。見た目の似た8羽を一緒にトレーニングして、主役を選びました。欧米で有名なアニマルトレーナーの方が、ニワトリは初めてだったのですが、対処してくださいました。彼はハンガリーの人で、ブダペストで3ヶ月トレーニングして、撮影の10日前にギリシャに雌鶏を連れてきて、環境に慣れさせてくれました。
MC: 雌鶏について、トレーナーの方が驚いたそうですが、色々な動物の中で、なぜ雌鶏を?
タナシスさん: 知ってる話は、監督が小さい時、家でニワトリを飼っていたことです。ヨーロッパでは、「ニワトリ程、頭が悪い」と言われるのですが、トレーニングをこなしてくれましたし、頭はいいと思います。ロバや馬はスクリーンに映えると思うのですが、スクリーン映えしないところに、監督はチャレンジングさを感じたのかもしれません。
─ 監督はこの作品に逸話的なものを取り込んだのでしょうか? それとも、ただ感性的に面白いからニワトリを取り上げたのでしょうか?
タナシスさん:東京で数日前の上映会場にいたのですが、他の国と違って、日本の方はすごく穏やかに観てくださって、笑ってもいただけました。ハリウッド映画やコメディ映画、アドベンチャー映画じゃなくて、私たちは、人の心を動かすようなシンプルなストーリーで、我々が今暮らしている社会を考えさせてくれるようなものを作りたかったのです。
私たちが暮らしている社会には動物もいますが、同じ環境にいて共生しているように見えても、私たちは動物のことをそんなに気にしていないと思います。動物も我々には無関心です。人間にとって大きな悲劇が起こっても、雌鶏の頭の中は「オンドリを見つけて、ヒヨコを産む」でいっぱいだと思います。
― 勇気ある作品で、エネルギーも感じました。製作方法ですが、3DアニメーションやVFXを使用したのでしょうか?
タナシスさん:信じられないかもしれませんが、一切使っていません。本物の撮影をしました。2羽のスタント用の雌鶏までいました。ジャンプが上手いとか、火の中から飛び出す場面とか、スタントが得意な2羽に飛んでもらいました。車が燃えてる場面では、雌鶏と動物トレーナーが一緒に映ってしまったので、ポストプロダクションで消しました。
42日間の撮影期間で足りるかどうか心配したのですが、トレーナーが大丈夫と。動物が原因で撮影オーバーになることはありませんでした。雌鶏が緊張してしまうので、一羽で20分位しか撮れませんでした。あまり無理をさせないように気を付けて撮影しました。
― パールフィ・ジョルジ監督の『ハックル』(02)とは、何気ない日常が共通すると思ったのですが、監督の魅力をどのように感じて、本作に関わられたのでしょうか?
タナシスさん:今回、なぜ引き受けたかというと、脚本がよかったからです。脚本を読んで、彼の頭の中に思い描いているコンセプトがわかりました。さらに、彼に初めて会ったとき、うまく形にできる自信を語ってくれました。彼の映画はいくつか観たことはありましたが、すべては観ていません。過去の作品にこだわらず、このプロジェクトそのものに魅力を感じて、監督と一緒に仕事をすることを決めました。
*映画の流れ*
雨の夜・・・・
小林一茶の言葉
KOTA(Hen)(タイトル)
雌鶏が卵を産む
卵が押し出されてポトン
卵が孵化してひよこに。ほとんどが黄色。中には黒いひよこも
ダメなニワトリは、従業員が家でスープにと持ち帰る
黒いニワトリを車の後ろの席に乗せて家路につく途中、ガソリンスタンドに寄る。
開いていた窓から外に出るニワトリ。
お店の中に入り込んで走り回り、従業員の女性が追い出しにかかる。そこへ、キツネも入ってくる。
山の上から十字架越しに街並みが見える。
雌鶏は、町の市場へ。
さらに住宅街へ。
デモ隊に出くわす。迎え撃つ警備隊。その真ん中に立つ雌鶏。
トラックの荷台に乗ったところ、走り出して郊外へ。
「海鮮食堂パノラマ」の看板のある見晴らしのいい高台に着く。
大きな犬がいる。ティタンという名。
老人が段ボールに穴を開けて、そこに雌鶏を入れる。
段ボールをひっくり返されたお陰で、抜け出して家の中に。少女が笑う。
「ママ、チキン!」
家の外に放り出され、また老人に捕まる。
ニワトリの檻に入れられる。たくさんの色の違うニワトリたち。
雨の日。ニワトリたちもおとなしい。
卵を産み落とす。 (ボレロの曲)
また卵を産む。
老人が卵を集める
「仕事を辞める」という老人。「刑務所はごめんだ」
(実は、食堂を辞めるのではなく、この食堂を拠点に麻薬の密貿易などをやっているのを辞めるということだと後に判明)
テレビでひよこが生まれるアニメ。
鼻に絆創膏をした女性。
雌鶏、トラックに乗る。ファンの上でくるくる回る雌鶏。
海沿いを行く。
海辺に座礁した廃船。ボートから降りてくる人々がトラックに乗せられる。
丘の上の老人の食堂に着くが、トラックの中で皆、死んでしまっていた。
トラックにガソリンを撒き、火をつけてトラックごと始末する男。
雌鶏にも火がついて、鳴きわめきながら外に飛び出す。
老人が死んでしまった雌鶏をほかのものと一緒に土に埋めると、そこから雌鶏が這い出てくる。「息を吹き返すとは!」と老人。「どの神か知らないが」
火傷の薬を雌鶏に塗り、「大丈夫だろう。お互い生き延びたな」と語りかける。
難民たちが狭い場所に潜んでいる。
「baba jan(ペルシア語で、お父ちゃん)、お腹が空いた」と少年。卵に手をのばす。
雌鶏。新居へと、別の鶏小屋に入れられる。
パトカーが来る。難民たちが捕まる。
夜のレストラン。老人が客に注文を聞いてまわる。
(営業を再開したらしい)
落ちた食べ物をつばむ鶏たち・・・
男たちが来て、ピストルをかざし、客を追い出す。
押し入った男の足をつっつく鶏。
吠える犬を黙らせろと撃ち放す男。
「食え!」とチキン料理を鶏に。
ついばむ雌鶏。
「ほら、鶏は平気で共食いする」
海を見晴らす場所で椅子に座る老人
老人の手をつっつく雌鶏
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卵が4つ
ひよこがかえる!
★女優主演賞を雌鶏にあげたい!と思ったのは、私だけではありませんでした。この映画を観た数名の方から、同様の声が。残念ながら無冠に終わりましたが、ぜひ日本で一般公開してほしい逸作です。
報告:景山咲子
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