サブサハラアフリカ・サヘル地域特集-(1)
『さよなら、ジュリア』 原題:Wadaean Julia 英題:Goodbye Julia
監督:ムハンマド・コルドファーニー / Mohamed Kordofani
2023年/スーダン=エジプト=ドイツ=フランス=サウジアラビア=スウェーデン/120分/アラビア語 字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/Xh8sauNG4AE?si=CUhQWq2yHc1mdRHO
日本初公開
4年ぶりのスーダン映画。
現在の内戦が始まる前に製作されました。 (今の内戦の始まる3ヶ月前に撮影終了)
夫の命令で歌手をやめたモナはある日、自分の過失から取り返しのつかない悲劇を招きます。
罪悪感に苛まれる彼女は、被害者の妻ジュリアと息子の面倒を見ることに…。
南スーダン独立前を背景に、北部のムスリム女性と南部のキリスト教徒女性の日々を描き、混迷のスーダン史を重ねた観応え満点のドラマです。
(藤本さんからの案内文)
◆ストーリー (核心に触れている箇所があります)
2005年、ハルツーム。
台所で玉ねぎを切りながら、ライブ日時を電話で聞くモナ。
朝食中に暴動の音。
「奴隷め」と夫アクラム。
車を焼き、石を投げる人々
十字架のペンダントをした女性ジュリア。家主から家を出てくれといわれる。
モナがレストランに行くと、暴動でライブは中止になったといわれる。
モナの夫が、モナの誤解のせいでジュリアの夫を撃ってしまう。
ジュリア、夫が行方不明と、警察へ。暴動が起こっているため、ちゃんと対応してくれない。
市場でオクラの粉を売っているジュリア。
モナが10袋買う。さらに、ジュリアをメイドとして雇う。
「南部の人は野蛮。ジュリアの住み込みは嫌だ」と夫。
ジュリアから1年生になったダニエルを公立学校に通わせたいといわれ、「遠いので近い私立に、お金は出すから」と提案するモナ。
♪サイード・ファリーファの歌。
モナは歌手をしていたが、夫にやめさせられた。
「いい人だけど愛は冷めた」とジュリアにつぶやく。
そんなモナにジュリアは、「大事にして。夫がいなくなって大切さがわかる」と告げる。
夫から、「ダニエルに私立は場違い」と言われ、「お金は遺産で払った」というモナ。
「奴隷は差別していい。君だって彼女の食器に印をつけて差別しているのを認めろよ」と夫。
2010年12月 ハルツーム
スーダンの南北分離独立か統一かを問う選挙
ジュリアは南北統一を支持。
ルーツは南だが、ハルツームで生まれ育ってアラビア語で話すジュリア。
だが、選挙結果、南スーダン独立。
ジュリアとライブを聴きにいく
ヒジャーブ姿でギターで弾き語りを始めるが、モナだとばれてやめる。
ジュリアがモナを教会に案内する。
教会で歌を聴く。ちょうどクリスマス。
今までモナが知らなかった世界・・・・
*****
自分のせいでジュリアの夫を死なせてしまったという自責の念で、その事実を隠して、モナはジュリアに近づき、住み込みの家政婦にします。息子に私学に行かせるだけでなく、勉強したかったというジュリアにも学校に通わせます。裕福だから出来ることですが、夫は南出身の人々を「奴隷」と蔑んで、ジュリアのこともよく思っていません。
とはいえ、モナもジュリアの使う食器に赤い印をつけていることを夫から指摘されて、何もいえません。
南北分離独立前は、アフリカで一番大きかった国スーダン。なぜ分離独立することになったのかの事情をよくわかっていませんでした。
「奴隷」と言われるほどまでに、南の人たちが北の人たちから蔑まされていることを知って、そりゃ~南の人たちは独立したかっただろうと納得しました。
ルーツが南でも、北で生まれ育ったジュリアが南北統一を支持していたのもわかります。内戦は終わっても、また次の戦争が起こるとジュリアがつぶやいた通りになりました。悲しい現実・・・ それでも、本作を観終わって、宗教や人種の違う二人の女性が心を通わせたことに、一縷の望みを感じました。その動機がモナの自責の念からだったとしても。(咲)
★トーク
2/22(土)11:50上映後
【テーマ】 《なぜ「さよなら、南スーダン」になったのか? ―歴史に翻弄されたスーダン人の今と未来》
【ゲスト】 丸山大介さん 防衛大学校 准教授

丸山:ハルツームを中心にスーフィズムの調査を行ってきました。
北と南のことを映画を通じて知ったこともあります。
藤本:2005年が1時間、2010年が1時間。後半のほうが明るい開放的な雰囲気。
丸山:2005年は内戦が終わったばかりで、また戦争が起こるかもという状況だったのではないかと思います。 2008年にスーダンを訪れた時は、内戦が終わってしばらく経ち、人々も優しく受け入れてくれました。
藤本:歌がとてもいい。ラストはこの映画のためのオリジナル曲。
スーダンのゴスペル。サイード・ファリーマの曲です。
ジュリアはルーツは南だけれど、ハルツームで生まれ育ち、アラビア語を話す。
統一を支持していて、南の人からは北の人と見られる。
モナとジュリアを北とみなみの対立とはいえない。
丸山:ハルツームは、二つのナイルが合流する地 様々な多様性。民族は、アラブ研究者が行くとアフリカ的と思い、アフリカ研究者が行くとアラブ的と感じます。
北:アラブ系、南:アフリカ系とも言い切れないところがあります。
多様な民族集団です。
南は元々アラビア語を話さなかったが、北からの軋轢などで使うようになりました。
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丸山大介さんからは、このほか、スーダン前史から現代史、多様性に富んだスーダン(北部と南部の違いを中心に)、2010年の国政選挙の模様(写真たっぷり)など、資料を用いて、充実の解説をお聞きすることができました。
報告:景山咲子
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