2015年12月にスタートしたイスラーム映画祭。主宰の藤本高之さんの完全自己負担で開催されている映画祭も、早いもので今回で10回目を迎えます。私が一番楽しみにしている映画祭です。ぜひご注目ください。(景山咲子)
イスラーム映画祭10
渋谷ユーロライブ 2024年2月20日(木)~24日(月)( http://www.eurospace.co.jp/ )
ナゴヤキネマ・ノイ 3.29(土)- 4.4(金)※4/1(火)休館/6日間12回上映 ( https://nk-neu.com/ )
神戸・元町映画館 2024年5月3日(土)~9日(金)( http://www.motoei.com/ )
2018年から毎年上映しているパレスチナ映画に加え、日本ではなかなか観る機会がなく、また政情不安や内戦が続きながらも滅多に報道されることがない、サブサハラアフリカ・サヘル地域の映画を小特集。スーダン映画『さよなら、ジュリア』とブルキナファソ映画『怒れるシーラ』を日本初公開いたします。
イスラーム映画祭は中東ではなく、実は西アフリカからスタートしました。原点に戻ってのサブサハラアフリカ、サヘル地域の映画小特集です。
また2025年は90年代のボスニア紛争中に起きた欧州戦後最悪の虐殺、“スレブレニツァ事件”から30年にあたるため、日本未公開のボスニア映画も取り上げます。
日本初公開7、
劇場初公開1、
日本語字幕付き初公開1、
リバイバル2、
アンコール1の計12作品
公式サイト:http://islamicff.com/index.html
★渋谷ユーロスペースのチケット発売(オンライン)
上映日の3日前の深夜0時から
例:2/20上映分、2/17(月)の午前0時
オンラインチケット購入サイト: http://www.euro-ticket.jp/eurospace/schedule/
☆リーフレット ダウンロードサイト:http://islamicff.com/pdf/iff10_tokyo.pdf
上映作品①
『モーグル・モーグリ』 原題:Mogul Mowgli
監督:バッサーム・ターリク / Bassam Tariq
2020年/イギリス=アメリカ/89分/英語、ウルドゥー語
字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/s-hFOqYUgcE
日本初公開

パキスタンルーツの英国人俳優にしてラッパー、リズ・アーメッド主演、
パキスタン出身の米国人バッサーム・ターリク監督作
NYを拠点とするラッパーのゼッドは、ルーツを歌いながら家族を避けている
自らの矛盾を恋人に突かれ、ツアー前に英国の親許へ帰ります。
ところが…。
「自分たちのために作った」と語るアーメッドが、移民第ニ世代、ムスリム、印パ分離の記憶など、ルーツをめぐる主人公の混沌とした内面を見事に演じる作品です。
☪渋谷 2/22土10:00、2/24月15:55
★トーク情報
2/24(月・祝)15:55上映後
【テーマ】《“トーバー・テーク・シン”はどこか ―リズ・アーメッドが描くアイデンティティの姿》
【ゲスト】 栗田知宏さん 東京外国語大学南アジア研究センター特定研究員
上映作品②
サブサハラアフリカ・サヘル地域特集-(1)
『さよなら、ジュリア』 原題:Wadaean Julia 英題:Goodbye Julia
監督:ムハンマド・コルドファーニー / Mohamed Kordofani
2023年/スーダン=エジプト=ドイツ=フランス=サウジアラビア=スウェーデン/120分/アラビア語 字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/Xh8sauNG4AE?si=CUhQWq2yHc1mdRHO
日本初公開

4年ぶりのスーダン映画。
現在の内戦が始まる前に製作されました。
夫の命令で歌手をやめたモナはある日、自分の過失から取り返しのつかない悲劇を招きます。
罪悪感に苛まれる彼女は、被害者の妻ジュリアと息子の面倒を見ることに…。
南スーダン独立前を背景に、北部のムスリム女性と南部のキリスト教徒女性の日々を描き、混迷のスーダン史を重ねた観応え満点のドラマです。
☪渋谷 2/20木16:30、2/22土11:50
★トーク情報
2/22(土)11:50上映後
【テーマ】 《なぜ「さよなら、南スーダン」になったのか? ―歴史に翻弄されたスーダン人の今と未来》
【ゲスト】 丸山大介さん 防衛大学校 准教授
上映作品③
サブサハラアフリカ・サヘル地域特集-(2)
『怒れるシーラ』 原題:Sira
監督:アポリーヌ・トラオレ / Apolline Traoré
2023年/ブルキナファソ=セネガル=フランス=ドイツ/122分/フラニ語、モシ語、フランス語、英語 字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/ZrxWYOaZQOw?si=mBQUFQM1nGQn_Hme
日本初公開

首都ワガドゥグでアフリカ最大の映画祭フェスパコが開かれている、日本ではなかなか観る機会のないブルキナファソの映画。
砂漠を渡り、キリスト教徒の婚約者家族のもとへ向かう途中イスラム過激派に襲撃され、家族と尊厳を奪われたフラニ人女性の生きるための闘いと復讐の物語。
不安定な情勢が続く、日本ではまったく報道されない“サヘル危機”の実情を織り込みながら、無力な犠牲者としか見なされない現地の女性たちをエンパワメントしています。
☪渋谷 2/20木14:00、2/22土17:30
★トーク情報
⑤2/22(土)17:30上映後
【テーマ】 《ブルキナファソの女性監督が世界に訴える、“サヘル危機”とは?》
【ゲスト】 岩崎有一さん ジャーナリスト
上映作品④
サブサハラアフリカ・サヘル地域特集-(3)
『母たちの村』 原題:Moolaade
監督:ウスマン・センベーヌ / Ousmane Sembene
2003年/セネガル=ブルキナファソ=モロッコ=チュニジア=カメルーン=フランス/125分/バンバラ語、フランス語 字幕:日本語
予告編: https://youtu.be/aXjE0nIJsbQ?si=mkc_1oM0WOnKlqYe

2006年に今はなき岩波ホールで公開された、「アフリカ映画の父」と呼ばれるセネガルの名匠ウスマン・センベーヌ監督の遺作。19年ぶりにリバイバル上映。
ある日シレ家の第二夫人コレのもとに、4人の少女が割礼から逃げてきます。
割礼が原因で二度も死産し、ようやく生まれた娘には割礼させなかったコレは、少女たちを“モーラーデ(保護)”しますが…。
今もアフリカを中心に世界各地に残る”女性性器切除(FGM/C)”廃絶を願いつつ、二つの伝統的慣習を対比させた見事な作品です。
☪渋谷 2/20木18:55、2/22土15:05
★トーク情報
2/20(木)18:55上映後
【テーマ】 《女性性器切除(FGM / C)は誰のため? ― 「宗教」と「開発」二つのナラティブをめぐって》
【ゲスト】 嶺崎寛子さん 成蹊大学文学部 教授
上映作品⑤
『チュニスの切り裂き男(シャッラート)』 原題:Le Challat de Tunis 英題:The Challat of Tunis
監督:カウサル・ビン・ハニーヤ / Kaouther Ben Hania
2014年/チュニジア=フランス=UAE=カナダ/90分/アラビア語 字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/fW0jm0h-zLc

最新作『Four Daughters』がカンヌ国際映画祭でドキュメンタリー賞を受賞した、カウサル・ビン・ハニーヤ監督10年前の作品。
複数の女性がバイクに乗った男に切りつけられるという、ベン・アリー独裁政権時代に起き、真相が不明のままになっている暴行事件がテーマ。
“疑似”ドキュメンタリーの手法を混ぜながら、アラブ社会のミソジニーを諷刺しています。
邦題は、日本で時折り問題になる“ぶつかり男”とかけました。
☪渋谷 2/21金10:30、2/23日15:25
★トーク情報
2/23(日)15:25上映後
【テーマ】 《シャッラート、お前は誰だ?! ―映画(フェイク)で皮肉るアラブの男性社会》
【ゲスト】 佐野光子さん アラブ映画研究者
上映作品⑥
『イチジクの樹の下で』 原題:Taht alshajra 英題:Under the Fig Trees
監督:エリーゲ・セヒリー / Erige Sehiri
2022年/チュニジア=フランス=スイス=ドイツ=カタール/93分/アラビア語 字幕:日本語、英語
日本初公開
予告編: https://youtu.be/vf7uIDYwMK8

近年さらに女性監督の躍進が際立つチュニジア映画から。フランス系チュニジア人エリーゲ・セヒリー監督作。“チュニジアのZ世代”が分かる作品です。
映画は、若男女の労働者たちがピックアップトラックに乗りイチジク摘みに出かける、夜明けの場面から始まります。チュニジア北西部の果樹園を舞台に、時間を1日に限定。演技未経験の、とくに若い俳優たちによるアンサンブルが魅力で、恋愛、人生、労働、性差別、信仰をめぐる様々な価値観を見せてくれます。
☪渋谷 2/21金12:25、2/23日18:15
上映作品⑦
『シリンの結婚』 原題:Shirins Hochzeit 英題:Shirin’s Wedding
監督:ヘルマ・ザンダース=ブラームス / Helma Sanders-Brahms
1976年/西ドイツ/121分/ドイツ語、トルコ語 字幕:日本語、英語
日本初公開

今までに上映してきたドイツ移民映画の極めつきとして、西ドイツ時代につくられ物議を醸した問題作をご紹介します。
トルコの村に住むシリンは政略結婚から逃れようと、幼い頃に結婚の約束がなされたマフムードを追いドイツのケルンへと渡ります…。
生涯にわたり女性の問題を撮り続けた監督が、ドイツで初めてトルコ移民をテーマに製作。最初にTV放送された本作はドイツとトルコ双方の民族主義者を怒らせ、主演の俳優は脅迫さえ受けました。
☪渋谷 2/21金19:00、2/23日10:00
★トーク情報
③2/21(金)19:00上映後
【テーマ】 《トルコ系移民とドイツ社会 ―映画がもたらしたスキャンダル》
【ゲスト】 渋谷哲也さん ドイツ映画研究者/日本大学文理学部 教授
上映作品⑧
『ハリーマの道』 原題:Halimin put 英題:Halima's Path
監督:アルセン・アントン・オストイッチ / Arsen Anton Ostojić
2012年/ボスニア・ヘルツェゴビナ=クロアチア=スロベニア=ドイツ=セルビア/97分/ボスニア語、クロアチア語
予告編: https://youtu.be/VxhxteoJnC4?si=O_1csv1ks436gJQ1
日本初公開

2025年は90年代のボスニア紛争終結、そしてその末期に起きた欧州戦後最悪の虐殺
“スレブレニツァ事件”から30年です。
ボスニア紛争は、国内に住むセルビア人、クロアチア人、ボシュニャク人(ボスニア・ムスリム)の間で3年半にわたり交わされました。
本作は紛争中、セルビア組織に処刑された夫と息子の遺体を捜すムスリム女性の物語です。
理不尽に愛する者を奪われ、傷ついた人々の癒えない悲しみに胸を塞がれます。
☪渋谷 2/20木12:00、2/23日12:25
★トーク情報
⑥2/23(日)12:25上映後
【テーマ】 《ボスニア紛争終結から30年 ―今なお模索が続く民族融和への道》
【ゲスト】 鈴木健太さん 神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部 准教授
上映作品⑨
『ラナー、占領下の花嫁』 原題:Al-qods fee yom akhar 英題:Rana's Wedding
監督:ハーニー・アブー=アスアド / Hany Abu-Assad
2002年/パレスチナ=オランダ=UAE/86分/アラビア語 字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/Kjb6lIwDMDk?si=yVEfXUgQYK-Tbza0
劇場初公開

『パラダイス・ナウ』『オマールの壁』で知られるハーニー・アブー=アスアド監督が、映画を学んだオランダとの協力で初めて撮ったパレスチナ映画。
第ニ次インティファーダ最中の東エルサレムで撮影された、父親に自分と一緒にエジプトへ行くか、4人の候補から夫を選び結婚するかの二択を迫られ、父親が出発するまでの10時間のうちに恋人と結婚しようとするパレスチナ女性の物語です。
トランプが再び大統領となった今、“エルサレムをムスリム側から描いた”大変貴重な作品と言えます。
☪渋谷 2/22土20:45、2/24月10:00
★トーク情報
⑧2/24(月・祝)10:00上映後
【テーマ】 《ある日のエルサレム 《占領》という日常》
【ゲスト】 岡真理さん 早稲田大学文学学術院 教授/アラブ文学者
上映作品⑩
『ギャベ』 原題:Gabbeh
監督:モフセン・マフマルバフ / Mohsen Makhmalbaf
1996年/イラン=フランス/74分/ペルシャ語 字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/M9krvTAySJU?si=Q_36oeaLGa21n3dJ

10本目はイラン映画。ハナ監督の『子供の情景』、サミラ監督の『午後の五時』、そしてマルズィエ・メシュキニ監督の『私が女になった日』と、2022年より毎年上映してきたマフマルバフ一家シリーズ。最後はもちろんモフセン・マフマルバフ監督。
1996年製作の『ギャベ』を25年ぶりにリバイバルします。
主にザーグロス山脈の麓に暮らす遊牧民が織る絨毯(ギャベ)の美しさに、寓話的な恋物語を託したファンタジーです。絨毯を洗う老夫婦の前に現れた、ギャベと名乗る娘が自分の身の上を語り始めます。赤青黄を基調とする鮮やかな映像が、イラン社会は色彩を失っているとする、モフセン監督の批判精神を表した作品です。
☪渋谷 2/21金14:20、2/23日20:10
★トーク情報
②2/21(金)14:20上映後
【テーマ】 《「検閲」を「芸術」で華麗に乗り切る イラン映画の十八番》
【ゲスト】 村山木乃実さん 日本学術振興会特別研究員PD(東京大学)
上映作品⑪
『カシミール 冬の裏側』 原題:Maagh 英題:The Winter Within
監督:アーミル・バシール / Aamir Bashir
2022年/インド=フランス=カタール/99分/ウルドゥー語、カシミール語
予告編: https://youtu.be/jgJlus8ip74?feature=shared
日本初公開

1947年の分離独立以来、インドとパキスタンの対立の要因となっているカシミールの苛酷な現実を、カシミール人の目で描いた貴重な作品。
消息不明の夫を捜すため、スリナガルで住み込みの家政婦やショール織りをして金を稼いでいるナルギス。しかし夫が抵抗運動に参加していた事実が雇い主に知れ解雇されてしまいます…。
あまりに惨いカシミールの現実に息を飲み、主人公が織るショールの美しさが、その悲しみを一層際立たせる秀作です。
☪渋谷 2/21金16:55、2/24月12:55
★トーク情報
⑨2/24(月・祝)12:55上映後
【テーマ】 《ようやく可視化されつつある紛争 ―カシミールと映画の長い道のり》
【ゲスト】 拓徹さん 中央大学・政策文化総合研究所 客員研究員
上映作品⑫
★3館共通のクロージング作品。
『神に誓って』 原題:Khuda Kay Liye 英題:In the Name of God
監督:ショエーブ・マンスール / Shoaib Mansoor
2007年/パキスタン/168分/ウルドゥー語、英語 字幕:日本語、英語
予告編: https://youtu.be/EX65wpFll9o?si=KEJR-27tZ7M1moa-

映画祭が注目を浴びるきっかけともなったこの傑作を、最後にもう一度上映します。
隣国インドも巻き込み大ヒットした、もはや伝説級のパキスタン映画。
☪渋谷 2/24月18:45
★トーク情報
⑪2/24(月・祝)18:45上映後
【テーマ】 《「神の名をもてあそぶな」 ―ショエーブ監督の焦燥と9.11後のパキスタン》
【ゲスト】 故・麻田豊さん ウルドゥー語文学/インド・イスラーム文化研究者
※本作の日本公開にご尽力され、2022年に逝去されたウルドゥー語文学者の麻田豊先生による2015年本作上映時の解説を、ご遺族の許諾のもと動画にてお送りします。
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