東京フィルメックス 学生審査員賞&審査員特別賞『サントーシュ』 Q&A報告(咲)

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『サントーシュ』 原題:SANTOSH
監督:サンディヤ・スリ( Sandhya SURI )
2024 年/インド・イギリス・ドイツ・フランス/ 127分
字幕: 松岡環


サントーシュは結婚して2年。警察官をしていた夫が勤務中に亡くなるが、恋愛結婚で子供もまだいないことから、夫の家族からは疎まれ、追い出される。夫の勤務先に手続きに行くと、未亡人の救済措置として夫の職を継承できる政府の制度があると言われる。
サントーシュは警察官となり、ベテランでカリスマ性のある女性警察官、シャルマ警部のもとで仕事を覚えていく。賄賂が横行し、女性は差別される職場であることを知る。
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© Oxfam
ある日、ダリット(不可触民)の男性が、15歳の娘が行方不明で探してほしいと警察にやってくる。男性警官たちは相手にしない。やがて、レイプされ、殺害されて、井戸に捨てられた若い女性が見つかる。サントーシュは男性警官から遺体を安置所に運ぶよう命じられる。遺体は、ダリットの父親が探していたデヴィカ(女神という意味)という娘だった。サントーシュは、町はずれのダリットの村へ父親に会いにいく。
デヴィカは、サリームというムスリムの青年と市場で知り合って、チャットのやりとりをしていたことが判明し、サリームが犯人として浮かび上がる。だが、死亡推定日時に、サリームはムンバイに行っていたという。チャットにも、「ムンバイで、君に似合う素敵な服を買ってあげる」と残されていた・・・

サントーシュの夫が、ムスリムの多い地区での暴動の鎮圧に行って、どうやらムスリムに殴り殺されたらしいということもあって、ムスリムのサリームに対して、サントーシュは複雑な思いがあります。でも、会ってみるとサリームは、市場で出会ったデヴィカに好意を抱く普通の青年。それでも、サリームは犯人と決めつけられ、警察でひどい拷問を受けます。
デヴィカの遺体が捨てられた井戸には、それ以前にも猫の死骸が捨てられた事件があって、そのために井戸水が使えなくなって、人々は遠くの井戸まで水を汲みにいかなければならなかったという事情も、実は真犯人に繋がるものでした。(公開されるかもしれないので、これ以上は明かさないでおきます。)
サントーシュは、警察が身分の低い者を犯人に仕立ててしまう実態も見てしまい、警官をやめて実家に帰ることにするのですが、実家のある町までの切符を買ったあとに、思い直してムンバイ行の切符に変更します。晴れやかな表情でムンバイに向かうサントーシュ。明るい未来がありそうなラストでした。


◆11月24日(日)12:50からの上映後Q&A
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神谷:女性を主人公にした物語。作られた経緯を。

監督:当初、ドキュメンタリーで作ろうと、女性への暴力についてリサーチしていたのですが、暴力をドキュメンタリーで撮るのは非常に難しくて、劇映画で描くことにしました。2012年、デリーでバスに乗っていた女性がレイブされ殺された事件がありました。それに対して抗議する女性たちが激しい顔をしていて、それを見守る女性警官たちもなんとも複雑な表情をしていました。印象深い光景でした。主人公を女性警官にする物語が思い浮かびました。

神谷:警官組織の汚職、女性差別、ムスリムとの宗教間の問題などを、一人の女性の視点から描かれたのは?

監督:インド北部のヒンドゥーが多いエリアが舞台。いろいろな問題がタペストリーのように起こります。宗教、性差別、暴力、カーストなど。こういう社会構造の中で女性警官を描くとしたらどうなるのかを考えました。サントーシュも、そういう日常的に暴力の起こる中にいるという女性です。

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© Oxfam

会場から
ー 公務員の夫が亡くなった時に未亡人がその職を継げるという救済処置は、インドで全国的にあるものですか?

監督:夫だけでなく、父親を亡くした娘が引き継ぐこともあります。

ー ロンドンを拠点に活動されているとのこと。長編第一作にこのテーマを選ばれた思いは? 素晴らしい作品で、アカデミー賞の外国語映画賞のイギリス代表にも選ばれています。

監督:これまでの短編もすべてインドを舞台に撮っています。カメラを通してインドを考え、理解したいという思いです。アカデミー賞の外国語映画賞は、イギリスの英語作品は該当しないのでチャンスがあります。インド代表のチャンスもあります。
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ー サントーシュの上司の婦人警官の印象が強いです。あのようなキャラクターの方は実際にリサーチされた中でいらしたのですか?

監督: 実際に会った方ですが、婦人警官ではなく、NGOの方をモデルにしています。   
人を育てるタイプで、母系社会的な方。演じてくれた女優が、人間性を出してくれました。

ー サントーシュのそばで犬が糞をした時に、カメラがほかの方向に行った意図は? 

監督:いい質問。あのシーンは、カットすべきという意見もありました。インドと、それ以外の国の方では、感じ方が違います。インド人ならわかるシーンです。ほかに、インド人向けボーナスシーンとして、サントーシュが上司の飼っている犬を散歩させるシーンで、カバーが被された像を映し出している場面があるのですが、ダリットの為に運動した英雄をかたどったもので、インドの人には必ずわかるものです。上位カーストの人々にとっては、好ましくない人物です。サントーシュは、あの像を観て、ダリットの抑圧の現状を知っているのでわかります。

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最後に、監督が観客を背景に写真を撮りました。



監督:サンディヤ・スリ( Sandhya SURI )
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ロンドンを拠点に活動するイギリス系インド人の監督・脚本家。2024年のカンヌ映画祭ある視点部門にて劇映画としての長編第一作となる『サントーシュ』が上映され、高く評価された。同作はサンダンス・インスティテュート・スクリーンライターズとディレクターズ・ラボの両方に選出され、BBC Films、BFI、Arteの出資により完成。
初の短編劇映画「THE FIELD」はトロント映画祭の最優秀国際短編映画賞を2018年に受賞し、2019年にBAFTA 最優秀短編映画賞にノミネートされた。長編ドキュメンタリー作品「I FOR INDIA」はサンダンス映画祭の国際コンペティションで上映。
また、スクリーンインターナショナル誌のStar of Tomorrow 2023にも選出された。


◆学生審査員賞
サンディヤ・スリ監督はすでに帰国され、ビデオメッセージを寄せられました。
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「この受賞は私にとってとても意味があります。26年前、1年間日本に住んで英語教師をしていました。その時に山形国際ドキュメンタリー映画祭に観客として参加して、感銘を受ける映画に出会い、カメラを買って映画を撮り始めました。
26年経ち、日本に戻って、この賞をいただきました。ありがとうございました。京都の秋を満喫して帰国しました。会場で受賞できればよかったのですが・・・。ほんとうにありがとうございました。」

◆審査員特別賞
サンディヤ・スリ監督、再び、ビデオでメッセージを寄せられました。
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「ほんとうにありがとうございます。審査員の皆様に感謝申し上げます。インドに関する多くの問題について語るのと同時に、 サントーシュにとっては個人的で、そしてまた非常に普遍的な映画を作りたかったのです」

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