TBSドキュメンタリー映画祭『BORDER 戦場記者 ✖ イスラム国』

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©TBS

監督:須賀川 拓

イラク北部のクルド地区から川を渡って、シリア北部に入る須賀川監督。まず向かったのは、イスラム国(ISIS)が拠点にしていたラッカの町。公開処刑が行われ、地獄広場と言われたというナイーム(天国)広場。連合軍の空爆でイスラム国は一掃されたけれど、一番犠牲になった地元の人たちは、連合軍からも何の補償もないと嘆く。空爆から逃れる為にラッカの町を出るも、イスラム国の仕掛けた地雷原で多くの人が犠牲になった。
次に、イラク国境近くのアルホール難民キャンプに向かう。ここには主にイスラム国シンパの女性や子どもたちが収容されている。黒づくめで顔も見えない女性たちの出身国は様々だ。周辺の中東諸国だけでなく、ロシアやヨーロッパの人たちも。「イスラム国に帰りたい」という女性たち。ここには、まだイスラム国の過激なイデオロギーが生きているのだ。

難民キャンプに着き、アラビア語で須賀川監督が声をかけるも、誰も答えてくれないし、子どもたちも遠巻きにしているだけ。ほかの難民キャンプなら、外国人が行くと、皆、何かを語りたい、何か貰いたい・・・と近づいてくるのが常なのに、ここでは、よそ者を敵視しているのがよくわかります。 やっと話すことのできた少年に、「学校に行きたくない?」と聞くと、「イスラム国の教義を知ってるから勉強は必要ない」と答えます。あどけない少年が、ぬいぐるみの首を刀で切る真似をしていて、イスラム国でどんな教育がなされてきたのかと悲しくなります。
同じテーマで、テレビ放映された 【ドキュメンタリー「解放区」消えぬ苦しみ ~イスラム国が残した傷跡~】をちょうど観ることができました。
尺が長くなっただけでなく、編集も違います。 映画として見せるには?と、考えた構成なのがわかります。
須賀川監督は 2019 年から 2023 年まで、JNN 外信部中東支局⻑としてロンドンに駐在。パレスチナ、イスラエル、イラン、アフガニスタン、ウクライナ等々、庶民の暮らしにも密着した徹底的な取材が定評です。
TBSドキュメンタリー映画祭で、『大麻と金と宗教 〜レバノンの“ドラッグ王”を追う』(2021年)『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』(2022 年)、『アフガン・ドラッグトレイル』(2023 年)が上映されたほか、『戦場記者』が2022年12月16日に劇場公開されています。
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/494715066.html
常に危険が伴う取材を、これからも果敢に行って、戦地の生の声を届けてくださることを期待しています。
本作は、ガザ空爆で亡くなられたドローンパイロットのムスタファさんに捧げられていました。 「戦場記者」の存在がなくなる世界が早く来ることを祈るばかりです。(咲)


2024年/日本/68分
配給:TBS
★第4回TBSドキュメンタリー映画祭2024で上映
2024 年 3 月 15 日(金)より全国 6 都市にて順次開催

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/



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