第35回東京国際映画祭では、芸術文化を活用し、福島県浜通り地域に新たな魅力を創出する経済産業省の取り組み「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」が目指す、福島発信の映像制作についてのトークセッションを開きました。
第一弾のテーマは、『踊る大捜査線』シリーズなどのヒットメーカー、本広克行監督を中心としたトークショー「浜通り地域に創造が広がるために。」。今後の活性化に向け、浜通りでどのようなアクションを行えば地域内外の方々を巻き込んでいけるか、全国での知見と浜通りの視点を交えながら活発なディスカッションが行われました。
10月30日(日)12時〜
福島浜通りでの映画づくり①「福島浜通り地域に創造が広がるために」
登壇ゲスト:トークショー:本広克行(映画監督)、丸山靖博(株式会社ROBOT執行役員、コンテンツ部本部長、プロデューサー)、志尾睦子(高崎映画祭プロデューサー)、東あすか(なみえコミュニティシネマ実行委員会委員長)、谷賢一(劇団 DULL-COLORED POP主宰、日本劇作家協会・事業委員、他)、森谷 雄(ドラマ・映画プロデューサー)
場所:丸ビル 1階 MARUCUBE
トークセッションに先立ち、経済産業省職員によるプレゼンがありました。
『福島浜通り・映像芸術文化若手チーム』
平成23年3月11日に発生した東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、被災地における復興に向けた取り組みが加速しています。
経済産業省では、産業・生業の再生に取り組む傍ら、映画を始めとする『文化・芸術』に着目。今年4月に有志の若手職員で構成されたチーム『福島浜通り・映像芸術文化若手チーム』が立ち上がりました。7月には『福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト』を立ち上げ、福島浜通り地域において映像・芸術文化を通じた地域活性化施策の検討・実施を進めていくことを発表しています。
今回の東京国際映画祭におけるイベントは、8月に双葉町で開催された『映画上映会&トークセッション』に引き続き、"若手チーム"2回目のイベントです。
司会: 高橋氏(経産省)
双葉町は、震災前は風光明媚な街。今は帰還困難地域があるが、イベントを呼びかけたところ、5500人が集まった。若者の起業を推進している。「福島浜通り・映像芸術文化プロジェクト」 には、応募が多く中高生からも応募がある。 映像系の大学に呼びかけたら、現地で取材をしてくれたり、 映画の力を感じた。 実際に福島に住み、どんどん誘致したい。
若手官僚チームの皆さん
続いて、若手職員3人の紹介。 経産省から出向して2年の原田氏は、兵庫県豊岡市での平田オリザによる演劇での町おこし体験を語り、経産省の桐澤氏、特許庁から大熊町に出向していた荒川氏の挨拶。
登壇者紹介の後、トークセッション開始。
本広克行監督
本広克行監督:現地に行き、 何もないのに驚いた。 子どもたちが映画作りのワークショップで泣いていたのに感動した。 犬童一心監督と黙って新幹線に乗ってきたかいがあった。 さぬき映画祭については、規模は小さいが面白いものをぶち込んだつもり。 困り事は資金面。
志尾睦子氏 、 森谷雄氏
森谷雄氏 : 地元ということが大切。国際映画祭にしたから、直行便でゲストを呼ぶのが大変。でも、 地元の協力で宴会などができ、楽しい集いに。
丸山靖博氏
丸山靖博氏 :高松市までだと、帰れずに泊まっていくから色々な出会いがある。1泊してもらい、 交流を深める会が大切。
志尾睦子氏 : 高崎映画祭は帰れる(笑)
森谷雄氏 :豊橋映画祭も帰れる(笑)。 ブッキングしたゲストとの交流会で次の企画や撮影の話も出る。
志尾睦子氏 : 高崎映画祭は35年間の実績があり、変わらず開催。 群馬県で上映されなかった映画の特集上映や、若手製作者の特集上映。賞の授与も話題となっている。
波音を聞きながらの上映会
東あすか氏
東あすか氏 : 浪江町に住んで3年。浪江町も観たい映画を観たいという、きっかけは同じ。
志尾睦子氏 :亡くなった茂木さんの貢献が大きい。都内でなければ観られない映画を観たいという欲求から。
東あすか氏 :今年『Coda』の野外上映会を海岸で行った。 漁港が舞台の映画なので、上映中も波音が聞こえ、潮風を感じながら非常にマッチしていた。津波で182人が犠牲になった町。 何も無い所で、映画を観てで初めて感動した、との声もあった。
谷賢一氏
谷賢一氏 : 演劇は集まらないと何も出来ないのが長所であり、短所でもある。そんな話を聞くとインスピレーションが湧く。
課題は資金集め
東あすか氏 : 8割が帰還困難地域。町民にぜひ来て欲しい。見せたいテーマは1作だけでないが、資金面が困難。
森谷雄氏 : (頷きながら)上映料が大変。
志尾睦子氏 : 公的な映画祭だと思ったが 補助金だけじゃ足りない 。協賛企業を回らないと資金が集まらない。
森谷雄氏 : 豊橋映画祭もクラウドファンディングで補強した。
参加者を増やすには?
東あすか氏 :まだ2年目だけれど、参加はたった200人だった。
本広克行氏 :人によって観たい傾向の映画が違う。アート系だと観客がどうしても少ないので監督とかを呼ぶ。 エンタメ系は多い。 若手が作る映画は盛り上がった。
谷賢一氏 : アフタートークセッションが良い。 キャスティングは飲み会で決まる(笑)。 演劇はステージがなくてもできる。箱(劇場)より人が大事。英国のエジンバラ演劇フェスは 500億円 の収益があり50万人も来る。経済効果が高い。
海外映画祭での工夫
本広克行氏 :フランスの アヴィニョン演劇祭は3000ステージもある。 言葉のない演劇もあり楽しめた。
森谷雄氏 :米国の サウス・バイ・サウスウエストも良いらしい。
本広克行氏 :今、福島の名前は世界的に通ってるからチャンス。
丸山靖博氏 :さぬき映画祭は楽しかった。でんぱ組や、ももいろクローバーZも来た。 香川県は建築の街でもある。 映画と縛らない企画も良い。
谷賢一氏 : 現代美術と繋がったことも。
志尾睦子氏 : コンテンポラリーダンスや現代美術もやった。
司会 : 地域の新たなエンタメとは?
丸山靖博氏 : 熊本で若手を育成して 8年になる。兼業農家の人も 映像で伝えたいことを映像化している。 地元のPRにもなっており、 福島でもできるのでは?
森谷雄氏 : 新しい映画のカンファレンスとして、 コミュニティ競争型も。 スーパーサピエンス(注)は過程を共有。 浪江町の『Coda』上映会は行きたかった。一緒に空気を共有したかった。それこそコミュニティの力。
東あすか氏 : 浪江町は震災前の人口の10%にも満たない。地元民と移住者が一緒に映像作る。が、 町民は日常生活で疲れている。外部から来た人は 警戒されることも。
丸山靖博氏 :自らやりたい人が集うという、説明が大事かと。
会場から質疑応答
女性: さぬき映画祭に何も調べず参加したけど楽しめた。 うどんツアーもあり、そうしたアクセスは大事だと思う。
本広克行氏 :探るのが楽しいから、敢えてメイン会場は作らなかった。 仲間ができるし、 行きづらい方がいいかもしれない。 旅行気分が楽しい。
森谷雄氏 :釜山国際映画祭もソウルでないのがいい 。
志尾睦子氏 :映画祭を国が主導するのは素晴らしい 。
森谷雄氏 :資金面は大変だが地元で旗を振る人のいることが重要。 自治体や企業の支援は実績になる。
丸山靖博氏 :皆さんが全部言ってくれた。 手伝いたい。日本中を回りたい。
本広克行氏 :老後の楽しみは全国の映画祭を回ること(笑)。このシンポジウムはよかった。
谷賢一氏 :『Coda』上映会は良い。福島でだけ上映がなかった映画もある。 すぐには出来ないけど、文化的復興、 文化の街として起こしたい。
東あすか氏 :野外上映会は続ける。コミュニティができてきたところ。 今日をきっかけに、多くの皆さんに来て欲しい。
(注) SUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス)」 3人の映像監督『堤幸彦・本広克行・佐藤祐市』と映画プロデューサーの森谷雄が共同で制作指揮をとり、サポーターと一丸となって日本の映像業界史上初となる【原作づくりから映像化および配給(配信)に関する全プロセスの一気通貫】に挑むプロジェクト。
★参加して
映画祭や演劇祭、イベント、ワークショップなどなど、地域を盛り上げる方法は様々な手法があるのだな、と登壇者のユニークな取組みを聞きながら感じました。被災地である浪江町、福島県浜通り地域を映画制作の新たな拠点とするために、移住した人の率直な実感。また入省5年以内の若手官僚たちの熱意には胸を打たれました。メモも見ずに、地域の特色や現況を詳しく語る勉強ぶりには頭が下がります。今回のトークショーでは、登壇者から多くの提案がありました。それらを糧に、若く柔軟な意識で福島県浜通り地域をエンタメで大いに盛り上げてほしい!本広監督ではないけれど、全国の映画祭を巡りながら、町おこしのお手伝いをする、という老後の楽しみができました♪
(取材・写真 大瀧幸恵)
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