東京国際映画祭 キルギス『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督Q&A報告 (咲)

コンペティション
『This Is What I Remember(英題)』
原題:Esimde
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監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾバ
2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス/キルギス語、アラビア語/105分/カラー

キルギスの村。クバトは、ロシアに出稼ぎに行き20年間行方不明になっていた父ザールクを見つけて連れ帰る。父はロシアにいる間に記憶を失っていた。母は夫が亡くなったと思って、村のほかの男と再婚している。クバトは父を村のあちこちに連れていくが、記憶は戻らない・・・

『馬を放つ』(17)で知られるキルギスを代表する映画作家アクタン・アリム・クバトの最新作。

TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP14


●Q&A
2022年10月27日(木)18:30からの上映後-
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登壇ゲスト:アクタン・アリム・クバト(監督/脚本)
司会:市山尚三(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)

アクタン・アリム・クバト監督:まずは映画祭の方々に、この映画を観ていただく機会を与えてくださったことに感謝します。ワールドプレミアで、初めて上映されました。ビターズ・エンド代表の定井勇二さんのお陰で、製作から配給まで可能になりました。心から感謝しています。

市山:ロシアに出稼ぎに行って起こる物語。よくあることなのでしょうか?

監督:個人のストーリーをネットで読んで、2~3年経ってからそれをもとに映画を作りました。キルギスの人がロシアに出稼ぎに行って帰ってきたけれど記憶を無くしていたという個人の実話に、周囲の人たちの話を空想で付け加えています。

市山:モデルになった方は、記憶を取り戻したのでしょうか?

監督:観客の皆さんに私も聞きたいことです。我々は皆、記憶を取り戻したいと思っていると思います。皆さんはどう思いますか?


*会場からの質問*

―(男性)監督のデビュー作『あの娘と自転車に乗って』を、確か渋谷で拝見しました。続編か後日談のように思えました。

監督:スパシーバ(ありがとうございます)。続編と捉えていただき、ありがとうございます。これまで作ってきた映画は、子どものころ、私自身の人生を描いてきました。この映画ですべてを集めて語ろうと思いました。前の6本も、同じロケーションです。俳優も同じ人もいます。主人公ザールクという息子を演じたミルラン・アブディカリコフは、私のほんとの息子です。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

―(男性・英語で)主人公の住む村のコミュニティと、イスラームの導師たちとの考え方の違うように感じました。敬虔な人と、そうでもない人がいるのでしょうか?

監督:私の経験したイスラームは、地元の伝統に結び付いていました。現代のイスラームは暴力的になって、伝統と食い違うことが多いように感じます。伝統を大事にしたい人たちは、イスラームを信じているのですが、心の一部には、伝統的なテングクの気持ちが残っています。私自身、信仰に反対ではなくて、アラビア風のイスラームには抵抗を感じています。その考えを主人公の一人である女性を通じて表そうと思いました。
彼女は夫が亡くなったと思って再婚しているので、イスラームの教えでは元夫のもとに行くことはできないのですが、最後には自分を取り戻して元夫のもとに行きます。
イスラームでは、神様にアラビア語で呼びかけます。私の考えでは、神様との繋がりは、自分の言葉(キルギス語)でしたいと思っています。

― (男性)主人公を追いかけて橋まで行く姿をカメラが追っているのは意図的?
また、息子のTシャツの7番には意味があるのでしょうか?


監督:カメラはいつも動いていて、カットせずに回しています。すべて手持ちカメラです。
7番というのは、キルギス語の諺に、「7人の人は皆、聖人」という言葉があります。主因河野息子は、自分の父と同じ価値があるという意味を込めています。息子はサッカーをやっているので、好きなサッカー選手の背番号が7番かなと思います。

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イスラームが起こったサウジアラビアでの厳格な解釈ではなく、伝播した地では、それぞれの伝統を大事にした形でのイスラームでいいという監督の考えを知ることのできたQ&Aでした。イスラームを過激に解釈する人たちの姿が、イスラームのイメージを悪くしている状況を憂いているのだと感じました。クバト監督のこれまでの作品にも、そのことを描いた場面があったのを思い出しました。

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©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

元妻は同じ村の男と再婚していて、夫が帰ってきたことを内心喜ぶのですが、ザールクは記憶を失っていて、自分の妻のことも思い出せないのです。(再婚しているので、かえって幸い?) あることがザールクの記憶を呼び戻しそうなラストに、ほろっとさせられました。
本作は、ビターズ・エンド様の配給で公開されることと思います。もう一度、ゆっくり拝見して、監督の思いを味わいたいと思います。

景山咲子



◆TIFF公式インタビュー
「今のキルギス人は家族や環境に対する考え方が変わってしまった。理性をもって物事に向き合ってほしいと。」
第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60671



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