『アルトマン・メソッド』
The Altman Method
監督:ナダヴ・アロノヴィッツ
出演:マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク、ダナ・レラー
2022年/イスラエル/ヘブライ語/101分/カラー
作品公式サイト:https://www.shvilfilms.com/films/thealtmanmethod
TIFFサイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3502ASF01
女優のノアは妊娠中。アパートの清掃をしている黒ずくめのアラブ女性に、床が濡れているので、きちんと綺麗にするよう注意する。そんな折、空手道場の経営不振にあえぐ夫ウリが、清掃員に成りすましていたテロリストを「制圧」したことが評判となり、道場は危機を脱する・・・
●Q&A
2022年10月31日(月)12:42からの上映後
登壇ゲスト:ナダヴ・アロノヴィッツ(監督/脚本/プロデューサー/編集)、マーヤン・ウェインストック(女優)、ニル・バラク(俳優)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).通訳:松下由美
石坂:2回目のQ&Aです。
ナダヴ・アロノヴィッツ監督:東京で1週間過ごして、わくわくする東京の日々です。初来日で、自分たちの文化と遠いと感じつつ、映画言語は普遍だと思います。
マーヤン・ウェインストック:来日できて光栄です。2回目のQ&Aなのでリラックスできると思っていましたが、もっと緊張しています。監督に同意です。日本文化への理解が深まりました。日本人は静かですが、好奇心が旺盛で、知りたい気持ちが伝わってきます。
ニル・バラク:二人に同意です。食事が素晴らしい。ガソリンスタンドでも美味しいものが食べられました。人として繋がり、歓迎してくれているのが嬉しいです。
石坂:1回目のQ&Aで、武道は柔道や合気道など日本武道に精通していらっしゃるという話が出ました。空手を実際にされるのですか?
ニル:イスラエルでとても空手はポピュラーです。5~10歳の子たちは、ほとんどが空手をやってます。柔道チャンピオンもいます。空手の道場にも指導者の姿を観に行ってみました。様々な流派があります。合気道は勝ち負けはありません。芸術的なものがあります。私が演じた夫は、勝ち負けに興味があります。白黒はっきりさせたい人物です。アート系は妻に任せています。
*会場からの質問*
―(男性)わくわくしながら観ました。驚いたのは、襲われる事件や、警官との証拠のやりとりの実際の場面は映されなくて、観客としては嘘かもしれないとも思わせられました。心理描写で引っ張っていく演技に工夫をされたのでしょうか?
監督:ありがとうございます。謙虚に受け止めます。観客に見せていない部分を埋めてもらおうと思いました。気持ちを掻き立てるものを用意しました。映画はノアの視点で描かれています。何が起きたかは、ノアは人から聞いて推測するしかないのです。ノアと一緒に旅をしてもらう形で描いています。2作目も、もっと観客に委ねる作り方をしたいと思っています。
マーヤン:とても素敵な質問をありがとうございます。監督から撮影は時系列には行わないので、何も考えずに状況に身を傾けてほしいと言われました。親友と一緒のシーンでは、愛する夫がいて、友がいるという気持ちで演じました。ストーリーのどこを撮っているのか考えたりもしました。けれども、監督からは共演している人とのことは、その場で感じて演じればいいと言われました。
― (女性)最後のガソリンスタンドで、彼にここが汚れているといくつか指摘するシーンですが、何か言いたいけれどやめようと。どういう気持ちだったのでしょうか?
監督:オープンに終わらせたかったのです。彼女は何か言いたいけど、男性の表情を見て、もう言わないでおこうと。言葉で言わなくても、映画は映像で伝えることができます。
マーヤン:彼の表情を期待せずに見て、わずかに距離が縮んだと思います。それまではパレスチナ人ということで、一個人として見てなかったのです。
夫が殺めた女性の夫に実際に会って交流できたことで、彼が笑っているのを見て、自分の道を歩み始めていると感じたのです。ノアはまだやっと自分の道を歩み始めたところです。これ以上何か言っては・・・と、やめたのです。
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夫が、清掃員を装ったテロリストのアラブ女性からナイフで刺されそうになったので、「制圧」したという場面は映されず、正当防衛だったと語る夫の言葉のみ。「制圧」したという場面を映像で見せなかったのは、この物語を妻の目線で描いたからと監督。なるほど!と納得でした。 それにしても、「アラブ人・パレスチナ人=テロリスト」が一人歩きする悲しさを感じました。妻ノアが真実を見抜いたことに救われた思いでした。
景山咲子
◆公式インタビュー
監督が本作を作った背景がよくわかります。ぜひご一読ください。
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60620
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