原題:Aniden 英題:Suddenly
監督:メリサ・オネル
出演:デフネ・カヤラル、オネル・エルカン、シェリフ・エロル
2022年/トルコ/トルコ語/115分/カラー
*物語*
夫と一緒に30年ぶりにドイツのハンブルグからイスタンブルに帰ってきたレイハン。突然、嗅覚障害に襲われた彼女はショックを受け、海辺の昔暮らしていた町を訪れる。幼馴染の女性からムール貝を買うが、彼女はレイハンだと気が付かない。夫は、生のムール貝の匂いがよくて美味しいと言い、ハンブルグに帰りたくなくなりそうだという。
長い間、離れて暮らしていた母との確執は、なかなか解けない。レイハンは黙って母のもとを離れ、亡き祖母の遺した家に住み、ホテルで働き始める。そこで彼女は盲目の教師やホテルに長期滞在している人と知り合う。ようやく抑圧されていた気持ちを表に出せるようになる・・・
イスタンブルの町がどんよりしていて、レイハンの気持ちを表しているようでした。
レイハンは足を引きずって歩いているのですが、その理由は、小さい頃のイスタンブルでの出来事にありました。かつて、アイススケートをしていたレイハン。てっきりアイススケートでの事故と思ったのですが違いました。
◆Q&A
10月26日(水)14:55からの上映後
登壇ゲスト:メリサ・オネル(監督/プロデューサー/脚本)、フェリデ・チチェキオウル(脚本)、メルイェム・ヤヴズ (撮影監督)
司会:石坂健治(東京国際映画祭「アジアの風」部門ディレクター/日本映画大学教授).
監督(メリサ・オネル):お招きくださり、ありがとうございます。チーム全員、興奮しています。トルコから遠く離れた地で、どのように受け取られたかを感じることができて嬉しいです。どのように心に届けることができるかを考えております。
脚本(フェリデ・チチェキオウル):日本にいながら、ホームベースから遠く離れた感じがしません。お互い議論し、互いを否定することもあれば違いを認めあうこともある形で映画を作りました。東京に来て、静かな形で皆様と繋がっている気がします。イスタンブルは賑やかでうるさい町です。ここ東京では静けさを感じて、ほっとしています。
撮影監督(メルイェム・ヤヴズ) :メルハバ。ここに来られて表現のしようがないほど嬉しく思っております。3年前に脚本を読んだ瞬間から、私の心に染み入るものがありました。一人の人間として撮影監督として携わることができて嬉しく思っております。
石坂:チームのほとんどが女性だそうですね。
(注:来日したのも女性3人ですが、女性の多い製作チームだったそうです。プロデューサーは産休で来られなかったとのこと。その他、アート・ディレクター、照明、助監督も女性)
『突然に』というタイトルは、どのような思を込めてつけたのですか?
監督:自分の人生を変えようと決心する時、計画を立てたわけでもなく、主人公は突然決心します。人生において、真実というのは、突然訪れるのではないかと思います。勇気のいることです。突然、ちゃんと生きようと決心します。このタイトルはどうだろうと相談しました。タイトルから重さを排除したかったのです。チームで話して、このタイトルでいいのではということになりました。
*会場から*
―(男性)美しくて、興味深い作品でした。音響にこだわられていました。環境音や生活音がとても気になりました。
監督:ありがとうございます。音響は映画の中でとても大切な部分だと考えて作りましたので、嬉しいコメントです。主人公がイスタンブルの町を歩きまわりながら、自分を探す物語です。私たちが懐かしく思うイスタンブルを描きたいと思いました。音を通してイスタンブルを知っていきます。イスタンブルに命を吹き込むにはビジュアルだけでなく音も大切だと思いました。感情を感じていただくのに音は大事です。ロケはトルコとドイツの両方で行いましたので、環境音も両方で録音する必要がありました。
―(女性)体験に一部重なるところがあって、映画を観ていい経験ができました。
監督に伺います。主人公は事故にあって、ドイツとトルコに分かれて家族が暮らしています。トルコとドイツは関係が深いと思います。ドイツという場所、ドイツ語で吹き込んだ場面もありました。ドイツがこの作品にどのような効果を与えたのでしょうか?
監督:答えになるかどうかですが、レイハンは自分の記憶を嗅覚を通じて繋げようとします。嗅覚を失っていて、故郷を喪失したともいえます。自分の身体も失ってしまった感じなのです。ドイツが象徴するのは、自分を失ったほかの場所です。皆でドイツに行きましたが、母はドイツに父とレイハンを置いたまま帰りました。レイハンは、トルコに戻り、人生を取り戻そうとしますが、既に30年経っています。
脚本:映画には出てきませんが、皆で話し合ったことがあります。ドイツのような寒冷地にあるところでは匂いもあまりありません。イスタンブルから離れたレイハンは嗅覚を失ってしまいます。イスタンブルに戻って町と繋がろうとするのですが、うまくいきません。一度、故郷を去った者にとって、必ずしも故郷は待ってくれているところではありません。
―(男性)テーマになっている女性の心理は理解できているかどうか自信はないのですが、レイハンはどうなるのかはらはらしながら見ました。この物語は、いつ頃発想して、どれくらいの期間で書かれたのでしょうか? スケートのシーンが出てきたときに、スケートで傷害を起こしたのだと思ったのですが、そうではなかったことにも驚きました。
脚本:監督と3回目の仕事でした。共に旅をしている感じです。いろいろ探って、一歩ずつ共にストーリーを作っていきました。コロナの前でしたが、嗅覚を失うことを思いつきました。コープロデューサーにお会いしたら、急に嗅覚を失ったことがあるとお話しされました。そのころ、私がたまたま足を怪我をしていて、どこにも行けない状態でしたので、この物語を思いつきました。共に航海する形で作りました。 監督は映画を感じる人、私は言葉の人間で口数が多いです。
石坂:撮影監督としては、室内もあれば海辺もあります。撮影が大変だったと思うのですが、どんなところに気をつけられたのでしょうか?
撮影監督:シナリオを読んだ時に、ずいぶん旅することになると思いました。楽しいことで光栄でした。様々な音や色が出てきます。 ボートの場面から始まって一つの長い旅になると思いました。監督や撮影チームや俳優の皆さんと話し合うプロセスは素晴らしいものでした。レイハンが公園に行ったり、窓を開けたり、様々なドアを開けていく物語で、そのたびに自分も開けていく感じでした。いろいろなことがありました。音も重要でしたし、最後には嗅覚にたどりつきました。
報告:景山咲子
Q&A動画
https://youtu.be/eGNomSK2U24
◆公式インタビュー
「観ている人が、それまでずっと止めていた息を吐き出す表現ができればと」ーー第35回東京国際映画祭アジアの未来部門出品作品『突然に』メリサ・オネルイ監督、フェリデ・チチェキオウル(脚本)インタビュー
https://2022.tiff-jp.net/news/ja/?p=60542
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