文化庁映画賞 受賞記念上映会

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池畑美穂

文化庁映画賞(文化記録映画部門)受賞作品受賞記念上映会が、東京国際映画祭の期間中である、2022年10月30日(日)に開催された。文化庁長官が、日本の文化として、映画はもちろん演劇や美術など日本芸術の日本からの海外発信が必要と、授賞式の挨拶でおっしゃっていた。
受賞作品の上映後、受賞者がゲストとして登壇し、作品の背景や製作秘話などを伺うことができた。

文化映画記録部門大賞 『私だけ聴こえる』
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監督:松井至
2022年/カラー/76分制作テムジン/リトルネロフィルムズ

この作品は、アカデミー賞作品賞『コーダ あいのうた』(2022年)でスポットライトがあたったコーダ(CODA=Child of Deaf Adults 聾唖の親を持つ子供)を主人公にした作品である。
2011年の東日本大震災で、アメリカのテレビ局のレポーターとして来日していたアシュリーさんは、両親、祖父母4世代にわたり聴覚障害の遺伝があった。自身の出産でも、生まれてくる子供に遺伝がないか心配だったという。
松井監督は仕事を通してアシュリーさんと知り合い、2015年にアメリカ現地をおとずれる。そこで、15歳の健常の子供が、聴覚障害の親とは手話で、社会では言葉で…と、親を社会とつなぐ架け橋になっており、この子供世代を総称して、「CODA」ということを知る。

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いっぽう日本では、優性保護法の判例で、聴覚障害者の子供は1人で、あとは産めない様に、不妊処置が取られたケースがある。これではCODAの数が限られてしまうと思う。私自身、地元の障害者センターでの勤務や、手話の初級講座を受講、中難手話の会参加、デフ協会の方との交流経験から、聴覚障害当事者だけでなく、その子供の会をCODAの会(聴覚障碍者の家族会)として、各市町村で立ち上げて、手話が聴覚障害者の家族とコミュニケーションを取る手段であることを広めることが必須だと思った。そして、その長所を生かして、手話講座の講師やアシスタントの育成と、映画の中にあるコーダキャンプでのコーダたちの心の悩みを傾聴して、受容して、否定しないで非審判的態度で、希望が持てるようにしてあげるソーシャルワーカーの育成も急務だと思う。
さらに、2025年に東京で招致が決まったデフリンピック東京大会に向けて、各都道府県での手話通訳ボランティアの育成や、渋谷の東京都聴覚障害者連盟にある自立支援施設での手話のできる社会福祉士、精神保健福祉士の育成が、CODAが目指す将来の選択肢として必要だと思う
上映会で松井監督は、日本のCODAキャンプに密着したドキュメンタリー映画を次期作とする、とおしゃっていたのでとても楽しみである。また、『カナルタ 螺旋状の夢』の太田光海監督が質問されて、他者の自己理解ということで、新進監督同士で、親交を深められていた。

*シネジャの『私だけ聴こえる』作品紹介はこちら



優秀賞『うむい獅子 -仲宗根正廣の獅子づくり-』
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監督:城間あさみ
2022年/カラー/58分 制作株式会社海燕社

古代、獅子舞は、アジア各地、そして日本でも全国的にみられる伝統文化である。その中でも特にシーサーに象徴される沖縄での獅子舞の愛され方は特徴的だ。城間監督は、師弟関係にあたる野村岳也監督と沖縄戦を舞台にした作品の構想を練っていたが、野村監督が逝去された。その後、沖縄の伝統文化を追ったドキュメンタリー作品を制作している。
本作品は、木彫刻師、中曽根正廣氏が300年の歴史をもつ獅子舞の獅子頭を彫る過程を丹念に取材したドキュメンタリ―作品である。
沖縄の地元に根ざした映画づくりを続ける城間監督は、これまでも唯一日本で連合軍と地上戦となった沖縄を題材にした作品を製作してきたが、あわせてシーサーやぶくぶく茶、ゆんたくなど、地域の繋がり、助け合い、共助のなど沖縄の伝統文化の伝承も重要であると考えている。その一つとして獅子頭づくりがある。
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上映会のトークショーで、城間監督が、故人の野村監督に話が及ぶと涙ぐまれたのをみて、監督の心の喪失感が感じられた。時間が悲しみを癒してくれるにちがいない。支援者の助力により、新しい作品を制作することで、新たな希望が湧いてくることを願います。


優秀賞『カナルタ 螺旋状の夢』
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監督:太田光海
2020年/カラー/121分
太田光海監督は、日本で少年時代を過ごし、パリで人類学の修士号を取得した。そして、カメラや映像などの趣味から、デジタルカメラを自ら回し、フィ―ルドワークとして映像人類学という新しい分野でイギリスのマンチェスター大学大学院において博士号を取得した。
初監督となるこの作品は、スペインの植民地だったエクアドル南部アマゾン熱帯雨林のシュワ―ル族が暮らすケンクイム村が舞台。自らカメラを回し、初の女性村長であるパストーラ夫妻の1年間を追った。 自然の中、たくましく生きる彼らの姿に生命力が感じられる。
シュワール族は、熱帯雨林の中、21世紀の文明社会とかけ離れた日本でいうと縄文時代の生活様式に類似する原住民生活を送っている。政府は、彼らを生きる世界国宝と考え、助成金を出し、原住民を強制的に現代化、文明化するのではなく、逆に、アマゾンの先住民族の生活様式を保存するべく支援している。

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太田監督の次期作は、東京が舞台とのこと。日本人の生活様式や文化をフィ―ルドワークとしてカメラで追うのか、それとも在日外国人の生活模様を題材とするのか、監督の2作品目が期待される。

*シネジャの『カナルタ 螺旋状の夢』作品紹介はこちら

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★写真は、すべて、「公益財団法人ユニジャパン 国際支援グループ」様よりご提供いただきました。





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