『時の終わりまで』★日本初公開
原題:Ila Akher Ezaman 英題:Until the End of Time
監督:ヤスミーン・シューイフ / Yasmine Chouikh
2018年/アルジェリア=UAE/アラビア語/94分
字幕:日本語、英語
予告篇 https://www.youtube.com/watch?v=inbUUG5irrE
イスラーム映画祭6で上映された『ラシーダ』のヤミーナ・バシール=シューイフ監督の息女、ヤスミーン・シューイフ監督のデビュー作。
元々は編集者であるバシール=シューイフ監督が娘のデビュー作でも編集を担当しています。
*物語*
アルジェリア西部の山間。スーフィーの聖者シディブーレクブルが祀られている廟を中心に墓地がある。初老の独身男アリーはここで遺体のお清めと埋葬を生業としている。聖廟参詣の祭に人々がバスに乗ってやってくる。最後に降りた一人の女性ジョヘル。彼女は祭ではなく、ここで亡くなった姉エルアーリアを偲びにきたのだった。アリーが、エルアーリアは家にいつも鍵をかけてなかったと声をかける。姉の葬式に夫が行かせてくれなかったが、夫が亡くなり家を追い出され、やっと墓参りに来たと語るジョヘル。ナスィーマという女性に姉の暮らしていた家に案内される。どうやらここで参詣にきた男性の相手をしていたらしいと、ジョヘルは同業のナスィーマに冷たい目を向ける・・・
墓地を舞台に繰り広げられる老いらくの恋?!
遺体のお清め係アリーの同僚ジェルールも独身で、来世で天女フーリーに囲まれて暮らすことを楽しみにしています。導師は、メッカ巡礼の機会が巡ってきてアリーに導師の代理を頼みます。葬儀をしきっているナビールは葬儀ビジネスで一旗あげることを夢見ています。
ある日、海を見たことがないナスィーマを連れて、アリー、ジョヘル、ジェルールは4人で海へ。ジェルールとナスィーマはいい雰囲気になり結婚することに。天女フーリーよりも現世で女性と楽しむことを覚えたジェルールは仕事もおろそかに。アリーも思い切ってジョヘルにプロポーズします。さて、ジョヘルの答えは・・・
時の終わり=現世の終わりを見届けてきた人たちが、あらためて自分の人生を見つめる姿にほろりとさせられました。ジョヘルの姉エルアーリアやナスィーマも、決していかがわしい商売ではなく、お墓参りに来た人たちに食事を提供し、話相手をして近親者を亡くした人の心を癒していたのだとわかります。
この映画のテーマは、イスラームの信仰の基礎である「六信五行」の六信の一つ「来世」。
イスラームでは来世は生まれ変わるのでなく、この世は仮の住まいで、人は死んだあと世界の終末が訪れた時に神様の「最後の審判」を受けて天国行きか地獄行きかが決められるとされています。 この世には終わりがあるけれど、永遠に続く来世のために、ムスリムの人たちは現世で善行を積むのです。
本作には、クルアーンの朗誦が多く出てくるのですが、藤本さんはそのすべての翻訳にもこだわり、字幕をつけています。
◆2月19日(土)16:30からの上映後トーク
《映画から知るアルジェリア―知られざるその魅力》
【ゲスト】和家麻子さん(危機管理コンサルティング会社勤務/アルジェリア滞在歴5年)
和家麻子さん、2013年~2018年 5年間アルジェリアに滞在。 アルジェ、オラン、コンスタンティーヌ。 2013年2月 天然ガスプラントが襲われ、日揮の日本人10名が亡くなられる。当局からはっきりした情報は発表されておらず、軍が襲撃したときに亡くなられた方も。
アルジェリア
人口 4390万人。日本の3分の1.
面積:238万㎡。 アフリカ最大。(スーダンから南スーダンが独立したので)
民族:アラブ人 74% ベルベル人 25% その他
宗教:イスラーム 99%
言語:アラビア語、ベルベル語、フランス語
在留日本人 和気さんのいた頃、1000人位。1980年:2000人、 2020年:77人
在日アルジェリア人 379人(2021年)
18030年から132年間 フランス統治
1954年~ 対仏独立戦争
1962年7月5日 独立宣言
*独立戦争を描いた映画
『デイズ・オブ・グローリー』 2006年 仏
『アルジェの戦い』 1966年 イタリア・アルジェリア
『いのちの戦場』 2007年 仏・モロッコ
◆独立後のアルジェリアの歴史と映画
独立前、フランス語で教育。独立後、アラビア語教育。他国から教師を呼んできたが、フスハ(文語)のアラビア語がアルジェリアで実際に使われているアラビア語と違うので、ほとんど外国語を学ぶ感じ。
独立後、民族解放戦線(FLN)による一党独裁体制。
1991年 イスラム救国戦線(FIS)が選挙で圧勝。FLNが選挙結果を無効とし、1992年 クーデター、内戦に。暗黒の10年。
1999年 ブーテリカ大統領 国民和解政策
*内戦を描いた映画
『ラシーダ』 2002年 アルジェリア・フランス
『パピチャ 未来へのランウェイ』2019年 フランス・アルジェリア・ベルギー・カタール
『神々と男たち』 2010年 仏
『インターネットの扉』 2004年
『時の終わりまで』 2017年
◆スーフィズムとアルジェリア
アルジェリア内にたくさんのスーフィー教団がある
アルジェリア最古のスーフィー関連施設:14世紀 アブー・マドヤン・モスク (トレムセン)
歴史家イブン・ハルドゥーンも教鞭をとった
アブー・マドヤン (1126~1198年) :マグリブ地域のスーフィズム普及に貢献。
フランス統治時代、スーフィー教団指導者の影響が大きく、フランスが資産を没収。
20世紀、サラフィー・ジハード主義が台頭し、スーフィズムは異端として施設が攻撃される。
政府はスーフィズムを穏健なイスラームとして後押しし、過激派のジハード主義に対峙する。
(景山咲子)
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