第34回東京国際映画祭 観て歩き(暁)

2021年10月30日(土)~11月8日(月)

今回、東京国際映画祭の会場がこれまでの六本木から有楽町地区に移ったので去年よりは移動が楽になったけど、会場はシネスイッチ銀座、TOHO日比谷、シャンテ、読売ホールなど観劇の会場そのものがいくつもになり、さらに東京フィルメックスは朝日ホール。私の足では移動に時間がかかり、結局、TOHO日比谷で上映された作品はあきらめた。
その中から東京国際はプレス試写、一般上映合わせて7本の作品を観た。フィルメックスは8本で合計15本。これまで、大体東京国際映画祭で16本くらい観て来たので、だいたい例年通りの本数になった。
ただ今回プレスセンターがTOHO日比谷で、プレス試写会場のシネスイッチ銀座と離れていたので、プレスセンターをほとんど利用できなかったのが残念だった。これまでは空き時間にはプレスセンターに寄り、情報を集めたり、記事を書いたりできたのに、今回は時間的にプレスセンターに行くのが無理でそういうことはできなかった。
プレスカードの引き取りとクロージングセレモニーの申し込みのみ。クロージングの取材申し込みがネットでしか申し込めなかったので、ネット操作に疎い私は、プレスセンターで係の人に聞きながら申し込み申請した。
去年から東京フィルメックスと同時期開催になってしまい、これまで15年近く参加していた東京国際映画祭のオープニング取材は、フィルメックスでの映画鑑賞を優先させたので去年に引き続き参加を諦めた。やはり同時開催ではなく、少し時期をずらして開催してくれたらと強く思う。フィルメックスを少し後ろにしてくれないかな~。来年は久しぶりに東京国際映画祭のオープニングに参加してみたい。
さて、映画祭で観た作品ですが、観た作品から下記作品を紹介します。

『オマージュ』 原題[오마주] コンペティション
108分 カラー&モノクロ 韓国語 日本語・英語字幕 2021年韓国
監督:シン・スウォン[신수원]
キャスト:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン

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今年の映画祭で観た作品で、一番印象に残ったのがこの作品。
主人公のジワンは3本の映画を撮った中年の女性監督だが、そのあとの作品がなかなか撮れないでいる。このスランプのジワンがが請け負った仕事が、韓国の女性監督の先達が1960年代に撮った『女判事』のフィルムを修復することだった。元のフィルムは音声の一部と何かのシーンが欠落していた。検閲でカットされたと思われるフィルムを探すシーン、修復の作業の過程を通してその女性監督が辿った苦難の道のりが明らかになってゆく。と同時に、今も変わらぬ女性監督たちの実情も伝わってくる。
2010年東京国際映画祭最優秀アジア映画賞に輝いた『虹』のシン・スウォン監督の新作は、韓国最初の女性映画監督へのオマージュだった。主人公を演じているのは、『パラサイト/半地下の家族』(19)で怪しい家政婦役を演じていたイ・ジョンウン。

ジワンは「安いけど意義のある仕事と、何も考えずにやれる賃金の高い仕事とどっちを取る?」と言われて、このアルバイトをすることになったけど、さりげないセリフの中にユーモアがあったり、先輩監督の苦悩の中に韓国だけでなく世界中の女性監督が被ってきた苦難を表現していたり、最後のフィルムがみつかる思わぬシーンの意外性も素晴らしく感動的な作品だった。
ホームコメディ的な作品かと思うような冒頭の息子とのやりとりのシーンからは、こういうシリアスなテーマを扱う作品だとは全然思わなかった。コメディ色が結構ありながら、ミステリアスだったり、シリアスな現実も描いていて、こういう映画の作りとてもうまいと思った。女性監督が映画を続ける上での苦労などシビアなことを扱っていながら、映画は優しさにあふれていた。
シン・スウォン監督は、「1960年代当時の非常に保守的な環境の中、自分自身や他人からの視線と闘いながら生き残ってきた女性監督たちの姿が、自分自身の苦悩と重なる思いがあったことから、いつかこれをモチーフにした映画を撮りたいと思っていた」とトークで語っていた。
昔の女性監督は大変だったけど、今も変わらないというのが残念なことではあるけど、それを表現できるということが素晴らしい。

TIFFトークサロン『オマージュ』の情報 

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