アジア交流ラウンジ 国際交流基金アジアセンター × 東京国際映画祭 co-present
今年も、東京国際映画祭の期間中、是枝裕和監督を中心とする検討会議メンバーの企画のもと、アジアを含む世界各国・地域を代表する映画人と第一線で活躍する日本の映画人が語り合う「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」が8回にわたって開催されました。
今年のテーマは「越境」。国境に限らず、様々な「境(ボーダー)」を越えること、越えていくことを含め、映画にまつわる思いや考えを存分に語り合う交流ラウンジ。
東京ミッドタウン日比谷の会場およびオンラインでリアルタイムに参加できたほか、アーカイブ動画が期間限定で配信されました。今後、編集したものが公開される予定です。
8回の交流ラウンジの詳細は、こちらで!
https://willap.jp/t?r=AAAAj2P9iW74TH0mhtjewoSWElsay6kXhIVWQg
東京ミッドタウン日比谷 6階 パークビューガーデンで、リアルタイムに参加した11月4日のバフマン・ゴバディ監督と、橋本 愛さんの交流ラウンジの模様をお届けします。
バフマン・ゴバディ×橋本 愛
日時:2021年11月4日(木) 14:00~15:30
会場:東京ミッドタウン日比谷 6階 パークビューガーデン
登壇者:
バフマン・ゴバディ(映画監督)
橋本 愛(女優)
モデレーター 市山尚三さん(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
市山:ゴバディ監督は来日されようとしていたのですが、スケジュールがあわなくてリモートでの参加となりました。
バフマン・ゴバディ監督(以下:ゴバディ):スケジュールが合わなくて、日本にお伺いできず、自分がそこにいないことを寂しく思います。
市山:2000年に『酔っぱらった馬の時間』で監督デビューされ、カンヌ国際映画祭カメラドール(最優秀新人監督賞)を受賞され、その時の授賞式のあとのパーティで初めてお会いしました。そのあと『亀も空を飛ぶ』(04)、『半月 - Half Moon』(06)等が世界各地の映画祭で受賞するなど輝かしいご経歴をお持ちです。『ペルシア猫を誰も知らない』(09)はカンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞されました。ほとんどの作品が日本で公開されているのですが、『亀も空を飛ぶ』と『ペルシア猫を誰も知らない』はフィルメックスで審査員特別賞を受賞しています。
今はイランを出てトルコをベースに活躍されていますが、『サイの季節』を2012年に発表され、この度、久々の新作『4つの壁』が東京国際映画祭でワールドプレミア上映されています。
橋本愛さんはご説明するまでもなく、現在、大活躍されています。今回、東京国際映画祭フェスティバル・アンバサダーを務めておられます。
橋本愛(以下:愛):ゴバディ監督、初めまして。どうぞよろしくお願いします。
これまでゴバディ監督の作品を観たことはなかったのですが、今回、『亀も空を飛ぶ』を見せていただき、ものすごく感動しました。幻想的なシーンでさえ、とてもリアルでした。クルディスタンの実際の生活に基づいた描写がものすごくて、これが実際に起きていることなのだなと、自分の人生とかけ離れた苦しい状況にある人たちのことに胸がつかれて、いろいろ考えさせられました。エンタメ性も高くて、おもしろかったのですが、最後は涙が止まらなかったです。
ゴバディ:この映画は初めから終わりまで、現実に基づいて描いています。発達した国で観ると、とてもスローに感じると思います。日本の昔の溝口作品などをみれば、やはりスローに思うのではないかと思います。私が映画で見せている地域では、なかなか近代的な生活ができないでいます。
愛:『亀も空を飛ぶ』では、子供たちがそれぞれ個性があって、とても印象的でした。あの子たちを選ぶまでの経緯を知りたいと思いました。
ゴバディ:10ページ位のアイディアをもってキャスティングしました。自分探しをしながら、私自身の一部が入っている子を選んでいます。現地で主役の子を選んだら、その周りの子もユニークでした。自分の子ども時代のキャラクターが見つからないと、うまく演じてもらえません。自分の一部を役者に入れてから撮影に入っています。
愛:私も役を演じる時に、自分のことを役に入れないと演じられないので共鳴しました。そういう向き合い方をして撮影されていることを知って、希望を感じました。
ゴバディ:愛さんの『リトル・フォーレスト』での演技を観て、昔の黄金時代の日本映画に登場する役者さんの演技が重なって見えました。リアルだし、現代の映画なのに、映画を学んでいた学生時代に観ていた小津や黒澤や小林監督の映画のイメージがダブりました。
愛:昔の日本映画をたくさんは観ていないのですが、パワーを感じます。今の日本映画の素晴らしさも感じながら演じています。昔の映画のことも考えながら、モノづくりしていくのは素敵なことだなと思います。もっともっと昔の作品を観て勉強しようと思いました。
ゴバディ:ぜひ昔の日本映画を観てください。私は溝口監督から、すごく影響を受けました。学んだことがたくさんあります。溝口監督は悲劇の詩人と呼ばれていますが、『残菊物語』がとても好きです。『山椒大夫』など、彼の映画には、詩が流れている気がします。人の心を打つ映像を作っています。
私はイランのクルド人ですが、『リトル・フォーレスト』を観た時、距離感がなくて、溝がなくて、クルディスタンかと思うほどでした。同じ人間なので、心に沁みると距離は感じません。
もう一つ、信じているのは、人が死ぬと木になるということです。愛さんの後ろにある木を観ながら、木が切られると人間になって、この世に戻ってくる。今、愛さんが座っているのは木のベンチだと思うのですが、昔の役者の魂が入っているのかもしれないと思います。
愛:映画は、8割くらい希望を描いているのだと思います。『亀も空を飛ぶ』は、悲劇を描いているけれど、最後は亀が空を飛ぶことで、彼女たちの希望は飛ぶことだったのだと思いました。絶望を描いているとしても、映画は希望なのだと感じました。
ゴバディ:一つ映画を撮るとき、人生と同じで明るい時もあれば、暗い時もあります。身体の中にはいいところもあれば悪いところもあります。
コロナがあって、自分と世界の関係、自分と周りの人との関係を考えないといけないと思いました。コロナ前は世界にモラルがないと思っていたけれど、コロナで考えさせられました。
『亀は空を飛ぶ』のメイキングがYoutubeにあるので、ぜひご覧いただければと思います。2か月撮っている間、子どもたちが楽しんでいるけれど、映画の撮影が終わったら、この子たちにはまだ悲しい現実が待っていることもわかっていました。
プロデューサーたちやプロの役者たちは時間にリミットがあります。だけど、僕はそれはできないから素人を使います。人生を味わいながら映画を撮っています。大プロの役者さんが3か月一緒に遊びながら作ってくれれば嬉しいです。
愛:私自身、時間をかければかけるほど嬉しいです。短期間で撮ることが多いけれど、『リトル・フォーレスト』は1年。長期間で撮った映画は思いが違います。タイムリミットのある中で作るものが多いのですが、時間をかけて映画を作ることは贅沢でありがたいことです。
ゴバディ:日本の黄金時代の映画でも文学でも、じゅっくり時間をかけて作ったのではと思います。今はスピーディーになってしまって、すぐ子どもを作って人間としてどう育てるかを考えてない。全世界で1年に10作素晴らしい作品があるかどうかという状態です。人との関係も早く前に進むことしか考えていないと感じます。私たちは何かするとき、1,2,3というけど、4は言わない。人生で3回しか輝く時がないのでしょうか。せめて、3を使って素晴らしい作品を作って残しましょうと。ただ作るだけでなく。作るときは正しく作る。昔の作品を挙げてというとき、黒澤3作、小津3作、なぜか3作です。
愛:早すぎるのは私も苦手で、短く浅くより、一つを深く長くかけて作る体験が多いほうが幸せだと思います。そういう作品に参加できればいいなと思います。時間をかけて作った『リトル・フォーレスト』は、ほんとに宝物です。
ゴバディ:愛さん、一緒に仕事をしましょう。『日本人 in イラク』のようなストーリーを書きますから、クルディスタンにいらしてください。兄弟もいっぱいいますから、1年間かけてゆっくり作りましょう。クルディスタンの湖で泳いでいる魚は、日本の湖に入れても違いがわかりません。私と愛さんには違いはないのですよ。
愛:ぜひお願いします。今、東京で生きていてとても息苦しくて、東京から出てゆっくりする時間も必要だと感じています。今日の会話の中で、ゆっくり過ごすことがやるべきことの一つだと見えてきました。映画作りを一緒に出来たら、ほんといいなと思います。
ゴバディ:人間は片足で3~4分しか立てないと思うのですが、カフェの前に来る鳥は、長い間、片足で立って見せます。私も片足で立ってみたけど、4分くらいが精一杯。私たちは1本脚だけではだめ。もう一つの足がないとちゃんと立てません。私は映画監督だけど、それだけでなく、モノを書くとか絵や詩を書くとバランスが取れると思います。
鳥は右の眼と左の眼で違うところを見ています。私たちは一つの眼でフォーカスして、もう一つの眼でワイドアングルで人生を見るべきです。一つのことしかしていないと、まるで水がない狭いプールで泳いでいるだけで沈んでしまいます。映画作りから離れると、自分が海の中で泳いでいるような気持ちになります。
*質疑応答*(観客からの質問)
― 日本で撮影する機会があったら、どのようなテーマで撮りますか?
ゴバディ:『4つの壁』は日本で撮ろうと思っていたのに、話が進まなくて、運命的にトルコで撮るべきだったのだと思います。東京で撮るとしたら、東京で暮らす外国人をテーマにすると思います。普段、生活している中で、周りにいる人のことをあまり見ていないと思うのですが、ほかの土地に行くと、どんな風に暮らしているのかよく見ると思うのです。
市山:アメリカや南米や日本などのアジアでも、抵抗なく映画を撮れると思いますか?
ゴバディ:小さい時、中国人、日本人、韓国人の違いがわからなくて、すべて日本人と思っていました。だんだん大きくなって違いがわかってきました。隣の国をどう思っているのかなども。私の地域で作ると、皆さんからみれば、イラン人、クルド人、トルコ人の違いはわからないと思います。日本で作るときには、市山さんと相談しながら作れればいいと思っています。
― 『亀も空を飛ぶ』は、ご自身で脚本を書かれました。物語を構成するときに一番大事にしたのはどんなことですか? 脚本と出来上がった映画は、どれ位、変更がありましたか?
ゴバディ:まだシナリオを書く前、サッダーム・フセインが倒されたけれど、本人が見つからないという時期でした。バグダードに行って2本映画を上映したのですが、皆に今なぜ映画?と言われました。戦争が終わってすぐだったので、平和をもたらす為に映画を上映したかったのです。テヘランからクルディスタン経由バグダードに行く途中で、ハンディカムでいろんな映像を撮りました。テヘランに帰って撮った映像を見て、すごいロケーションだなと思いました。いつもストーリーを書いてから撮影場所を探すのですが、今回はローケーションがあって話が生まれました。子どもたちが凄かった。戦争があって一番惨めな目に合うのは子どもだち。それでも健気に生きています。自分の中にもわくわくした子どもの頃の気持ちをいくつになっても持っています。それを皆とシェアしたいと思いました。
10ページくらい脚本のようなものを書いて、イラクに戻って撮ろうと思ったら、状況がすっかり変わっていました。バーザールも戦車も地元の人たちに手伝ってもらって再現して撮影しました。毎晩、次の日に撮る脚本を書いて作りました。
― イランの映画を観る機会が増えてきたのですが、自分がイランやクルドの知識が不足していて、文化をより深く知って観れば違うというキーポイントを教えてください。
ゴバディ:日本から離れていて、今日、対談するにあたって日本の空気感を感じないといけないと思って、朝4時に起きて、稲垣浩監督の『宮本武蔵』を観ました。対談に入るためにレッドカーペットをゆっくり歩いて、今日の対談ができました。イランやクルディスタンのことや、監督のことを調べてから観ると、よりよい感動を得られると思います。
― コロナ禍で、どのように感じていらっしゃるでしょうか? また、世の中が変化していくにつれて、今後、映画は変化していくと思われるでしょうか?
愛:この2年位、確かに様式は変わって、日常生活で感じている不便さはあるものの、作品つくりの根幹に関しては変わってないと思います。映画作りも状況の変化に応じて、柔軟に対応しながら進めばいいと思います。
ゴバディ:コロナからたくさん学びました。監督として、観客がいなければ作ることもできないと思いました。観客がいるから私がいます。1本の映画を作るために時間をかけている間に、観客の方が本を読んだり、映画を観たりしています。コロナで時間を与えられたので、遅れてはいけないから、私も知識をどんどん入れようとしました。一人で過ごしていて、孤独を描くとき、ユーモアを入れないといけないと思いました。
― 自分をコントロースして、マイペースでできるようになったきっかけは?
愛:問題が起きる時、社会と自然の境界で起きるという言葉を聞いて、腑に落ちました。心がしたいけど、社会が許さない。それは見る視点が違うだけで、どっちを自分が守るべきかと考えると折り合いをつけることができます。
ゴバディ:今の時代をどうやってスルーするか・・・ コロナで亡くなっていく人もみていて、自分もいつか死ぬと。実際、夜寝ると、1回死にます。毎朝目が覚めると生き返ります。毎朝起きると神様に感謝しています。人が寝たら、そのまま死んでしまうかもしれません。イランの13世紀の詩人サアディーの詩集「ゴレスターン(薔薇園)」の中に、「人が死ぬときは、自分のためでなく、あなたのために何かわからせるために死んだ」という詩があります。人が亡くなっていくのを見ていれば、自分の今の立場について、もっと考えないといけません。生きている私たちが、どうやってスローに今の時代を過ごしていくかを考えると、あまり関係のない人とのコミュニケーションをなくすと、時間ができて、大事な人と深く関係を持つことができます。
想像でものをつくります。今日は一番素敵なトークショーをします。一番おいしいコーヒーを飲みます・・・と考えれば、一番良い日が始まります。
市山さんの前にいるお客様は、橋本さんたちだけでなく後ろの美しい森に目がいっていますか? 今の私は、話を聞いているけれど、目を遠くまで走らせて森を見ています。森がこっちを見なさいと言っています。
市山:今日は、監督のおっしゃる一番いいトークが聴けたのではないかと思います。今年の東京国際映画祭では、「越境」というテーマを掲げています。日本と中東など、文化の違うところと一緒に映画を作ると、同じようなことが共有できるというヒントが今日のトークにあったように思います。
ゴバディ:今日は機会をいただき、ありがとうございました。橋本愛さんのことも知ることができました。今日、見えないところで支えてくださっているたくさんの方たちのことも感じました。東京には行けませんでしたが、この時間は確かに皆さんと一緒にいると感じました。これからも映画を作ったら持っていって、皆さんとお話したいと思います。橋本愛さんとも機会があれば一緒に映画を作りたいと思います。
★このスクリーンショットタイムに続き、マスコミ向けのフォトセッションがあったのですが、映画の上映時間が迫っていたので撮影せずに退席しました。 この2枚の写真も、動画配信をスクリーンショットさせていただいたものです。
***★**★**★***
友人たちから、「なぜゴバディ監督と橋本愛さん?」と言われました。「そりゃもう、ゴバディ監督が若い女性を好きだからでしょう」と答えていました。これまで、ゴバディ監督と日本で4回お会いして、プライベートで若い女性とのひと時を楽しんでいらっしゃることを見聞きしてきましたので!
実は、橋本愛さんのことは、今回、初めて知りました。(日本の若い俳優さんたちのことをほとんど知らなくて恥ずかしい限り!) ちょっと古風な美人で、ゴバディ監督も今回の対談、さぞかし嬉しかったのではないかと思います。いつか、愛さんをヒロインにした映画ができるのではと確信しています。
まとめ:景山咲子
東京国際映画祭 『四つの壁』バフマン・ゴバディ監督インタビュー (咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/484775536.html
東京国際映画祭 『四つの壁』バフマン・ゴバディ監督 TIFFトークサロン (咲)
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/484775757.html
<第34回東京国際映画祭>
■開催期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月)
■会場:日比谷・有楽町・銀座地区 ■公式サイト:http://www.tiff-jp.net
東京ミッドタウン日比谷 6階 パークビューガーデンから見渡せる日比谷公園
座れる場所もたくさんありますので、お天気の良い日には、サンドイッチやおにぎり持参でどうぞ!
この記事へのコメント