東京国際映画祭 『四つの壁』バフマン・ゴバディ監督 TIFFトークサロン (咲) 

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©MAD DOGS & SEAGULLS LIMITED

コンペティション部門 
『四つの壁』 The Four Walls *ワールドプレミア

監督/プロデューサー/脚本/音楽:バフマン・ゴバディBahman Ghobadi
出演:アミル・アガエイ、ファティヒ・アル、フンダ・エルイイト
2021年/トルコ/トルコ語、クルド語/114分/カラー

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映画のストーリーは、バフマン・ゴバディ監督インタビューに記載しています。

★TIFFトークサロン 
11月2日(火) 18:30~

人間は壁を壊すのが上手になってほしい

登壇者:バフマン・ゴバディ(監督/プロデューサー/脚本/音楽)
モデレーター:市山尚三

市山:ワールドプレミアの機会を与えていただきありがとうございます。

ゴバディ:こちらこそ心からお礼を申し上げます。この話を日本で撮りたかったで、日本で上映されて嬉しいです。

市山:どのようにこの物語を思いついたのでしょうか?

ゴバディ:生まれたときからいろいろな壁を感じていました。最初に見た壁は母と父の間の壁。クルド人なので、クルドと政府の壁。革命があったので、革命前と革命後の壁。戦争が起こったのでイランとイラクの間の壁、その後、国を出たので自分と家族の間に壁が存在しています。
イスタンブルで住んでいた家から海が見えていたのですが、2か月ほどイラクのクルディスタンに行って帰ってきたら、窓から見える木が倒れました。作業している人たちがクルドの人たちだったので、聞いてみたら、ここに建物が建つと言われました。見えていた海が見えなくなるとわかって、アパートの部屋は借りていたので、買ってなくてよかったと思いました。いつも自分のまわりには壁があったので、そこからこの物語は生まれたと思います。
小さいとき、日本人、中国人、韓国人のちがいはわからなくて、大きくなって、中国人ですか?というと日本人ですと怒られたり、日本人ですか?と聞くと韓国人だと怒られたりして、壁ができたと感じています。人と人、国と国、どんどん壁ができていて、人類は壁を作るのはとても優秀だなと思います。壁を壊す才能があればいいなと思います。

市山:『四つの壁』というタイトル、具体的に主人公が4つの壁を経験しているということなのでしょうか? それとも抽象的な壁なのでしょうか?

ゴバディ:シンボリック的な壁と捉えたほうがいいと思います。主役のボランの話だけを語るのでなく、脇役のこともいろいろ語りたい。モスクのモアッジンのことや、警官のこと。父親の意向で警察に入った警官は私にも通じるところがあります。私の父は厳しくて医者になるべきだとプレッシャーを感じていましたので。愛の壁や憎しみの壁がボランと事故を起こした青年の母親との間にあります。

市山:非常に美しいロケーションでした。なぜそこを選ばれたのでしょうか?

ゴバディ:ロケ地はイスタンブルです。映画を作るとき、ロケーションをほんとに心から知らないと作るのは難しいです。言語もとても大切。私はイスタンブルのこともあまり知らないし、トルコ語もほとんど知りません。27日間で撮影したのですが、あまりよく知らない地で、80人くらいのスタッフで作るのはとても苦しかったです。今、ロケーションが美しかったといわれて、とても嬉しかったです。私はイスタンブルに住んでいたとき、空港からアパートまで車でまっすぐ移動していて、アパートからあまり出なかったので、町をほとんど知りませんでした。知らないところで映画を作るのがいかに大変かは、映画を作る人にはわかっていただけると思います。

市山:ピンクフロイドの ロジャー・ウォーターズさんがプロデューサーに名前を連ねていますが、どのようにしてこの映画に関わったのでしょうか?

ゴバディ:BBCのインタビューを聴いていたら、映画をたくさん観ていて、バフマン・ゴバディの映画も観たことがあるというので、興味を持ちました。ハンブルグでコンサートがあった時に、お会いしてお話したところ、クルディスタンのISISから逃れた女性や子供を助けていると知りました。
アメリカのラスベガスで撮る企画があったのですが、まだ時間がかかりそうなので、トルコで先に撮ることにしたもののファンドを待っているといったら、支援してくださいました。27日間で撮るのは大変だったのですが、ロジャーさんの助けはほんとに役に立ちました。

市山:ロジャーさんは撮影現場にもいらしたのですか?

ゴバディ:はい、一度、プライベートの飛行機でいらしてくださいました。24時間、そばにいてくださいました。エネルギッシュな方で、映画のことをよく知っていて、本もよく読んでいらして、中東のことイランのことも興味があってよくご存じでした。素晴らしい方です。

市山:主演の俳優さんがロバート・デニーロを思わせるパワフルな演技で圧倒されました。どのようにキャスティングされたのでしょうか?
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©MAD DOGS & SEAGULLS LIMITED

ゴバディ:とても幸運でした。アミール・アガエはイランの俳優です。実は、先にオーディションで選んだトルコの役者が、1か月位リハをしていたのですが、ある朝、突然、「ごめんなさい、自分には大きすぎる役なのでさよなら」と言われて、あと3日で撮影しないといけないので、どうしようかと思ったら、アシスタントから、アミール・アガエはイラン人だけどトルコ語もできるからどうでしょう?と言われました。前にトルコでたまたま会ったことがあって、脚本も書いている素晴らしい役者なので、もし空いていたらと連絡したら、来てくださって、2日間だけのリハで撮影に入ってくれました。脚本もよく理解してくれて、キャラクターも理解してくださって、助かりました。

市山:途中から出てくる事故を起こした青年の母親アラル役の女優さんも素晴らしかったですが、トルコの方ですか?
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ゴバディ:はい、Funda Eryigitさんというトルコの方です。今はとても有名になって、テレビドラマにも出ています。ボランに負けない強い表情をもっていました。

市山:冒頭、空港で鳥を撃ち落とす人たちが出てきますが、実際、仕事として行われているものなのでしょうか?

ゴバディ:5年くらい前にイランの空港でそういう仕事をしている写真を観ました。私の故郷近くのサナンダジの空港も谷間にあって、離陸する飛行機に鳥が巻き込まれないようにする仕事をしている人たちがいると聞いたこともあります。イスタンブルの新しい空港は森に囲まれているので、おそらくこういう仕事をしていると思います。隠れてやっているので、私たちの目に触れないし、飛行機の爆音の中で銃の音も聴こえないと思います。

市山:音楽は、トルコの音楽でしょうか? それともクルドの音楽なのでしょうか?

ゴバディ:8曲のうち6曲はクルドの音楽です。自分で作ったものです。クルドのものも歌詞はトルコ語に訳してもらっています。トルコで作っている映画の中で、クルド人を題材にしたものは少ないのですが、トルコで暮らしてみて、クルド人がたくさん住んでいて、トルコ人とクルド人の間でにらみ合いもあるのを感じました。トルコに暮らしているクルド人の話を作ろうと思いました。トルコのプロデューサーから、クルド語で作ると上映の時に問題が起こるかもしれないと言われたので、トルコ語で作りました。
Vedat Yildirimさんというトルコの有名な音楽家にもお世話になりました。イスタンブルという音楽は彼の作ったもの。イランの音楽家ホセイン・アリーザーデもとても好きなので、彼にも作ってもらいました。

市山:パワフルでシリアスな映画ながら、あちこちにユーモアがありました。意図的に入れたのでしょうか?

ゴバディ:苦しみや悲しみのバランスをとらないといけないと、自分の人生の中でも思っています。故郷を離れて見知らぬところに住んでいて、自分にもバランスが必要です。心の中の子どもの部分を大事にしたいと思っています。今、51歳ですが、イランを出て13年ですので、自分は13歳のようと言っています。悲しみがあっても、それを微笑みに変えたいと思います。
私の映画を観にいらっしゃる観客の方たちに、暗い中で苦しみや悲しみだけを観るのでなく、食事にうま味があるように、映画にも甘いところを入れないといけないと思っています。
アメリカで次のプロジェクトがあるのですが、コロナで苦しい時代を過ごした人たちにもっと明るい部分を入れたいと思っています。
私たち映画を作る人間には、二つの人間が入っていると思います。20時間くらいは映画監督ですが、ほかは普通の人間です。自分の人生は悲劇ばかり。クルド人のことを映画にするなら、自分の人生を映画にすればいいというくらい。20時間、映画を作っているときに、あまり自分の悲しいい部分を入れないようにしています。今、ほかの国にいて、いつ誰に襲われるかわからない人生を歩んでいます。イランの政府やイラクのクルディスタンの人に殺されるのではと。そういうことはあえて皆さんにシェアしないで、もう少しユーモアを交えて描いたほうがいいと思っています。

市山:主人公の方たちが演奏している音楽がとても素敵でしたが、俳優の中には音楽の出来る方もいたのでしょうか?

ゴバディ:皆さん、ほんとの音楽バンドです。目がみえない男性で、ボランにアパートを紹介した方はほんとは弁護士なのですが、楽器の演奏ができます。ボラン役のアミール・アガエも演奏ができます。

*スクリーンショット・タイム*
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市山:最後に日本の観客にメッセージを!

ゴバディ:日本と日本の方は大好きですので、遠くから日本の美しさがなくならないよう祈っています。隣の国と争いが起きないように心配しています。愛は一番の宗教。愛がいつも皆さんを囲っていますように。私たちが二つの手をもっているのは握手するためですが、今の世界では、手を使って、スマホなどで憎しみを流しているのは、手の使い方を間違っています。日本と韓国、中国、北朝鮮の間には壁ができている気がしますが、人間は皆、同じ。壁を作るのでなく、壁を壊して、音楽や文化でつながっていくことが私の願いです。

まとめ:景山咲子



最優秀男優賞受賞者:アミル・アガエイ、ファティヒ・アル、バルシュ・ユルドゥズ、オヌル・ブルドゥ『四つの壁』©2021 TIFF
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最優秀男優賞 代表してアミル・アガエイさんよりリモートで喜びの言葉
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放浪監督のバフマンが祖国に帰って自分の好きな映画を作れますように。イラン人である私を仲間に入れてくれた『四つの壁』の俳優チームに感謝します。トルコ語を勉強していた頃にはまさかこんなに貴重に使える日が来るとは思わなかった。賞をトルコのすべての俳優たちに捧げたい。
(受賞者の声:SIMONE K 写真撮影:宮崎暁美)


<第34回東京国際映画祭>
■開催期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月)
■会場:日比谷・有楽町・銀座地区 ■公式サイト:http://www.tiff-jp.net


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