奨励賞
『メークアップ・アーティスト』 Makeup Artist
イラン/2021/76分
監督:ジャファール・ナジャフィ Jafar Najafi
https://yidff.jp/2021/nac/21nac13.html
*物語*
イラン南西部で遊牧をしながら暮らすバフティヤーリー族の夫婦。
ミーナは結婚前、映画の仕事をしている従姉と都会に住んでいて、そこでメイクアップ・アーティストという存在を知った。大学で勉強して、メークアップ・アーティストになるのが夢だ。 遊牧をするゴルムハンマドからプロポーズされた時、大学に行っていいと約束してくれたのに、いざ受かったら、行かせないという。大学に行くなら、二人目の妻を迎えるのが条件と言い出す。夫には元々許嫁がいたが、その許嫁だった従妹はミーナへの当てつけか独身。彼女を二人目に迎えるのだけは嫌なミーナは、自分の友達に夫結婚してくれと頼む・・・
義母からは、「昔は4人の妻を迎えてうまくやっていた」「夫が好きなら、我慢してあげて」と言われます。遊牧を生業とする年配の男たちからは、羊の世話があるから複数の妻がいる人も少なくない事情が語られます。それでも、若いミーナにとっては、愛する夫が二人目の妻を迎えるのは嫌だし、かっと言って、大学でメイクアップの勉強もしたい夢も捨てきれません。
イランでは、1979年のイスラーム革命後、小学校から高校まで男女別学となった為、保守的な農村でも娘を安心して学校に通わせるようになりました。大学は男女別学ではありませんが、女性の大学進学率は飛躍的に伸びて、1990年代には大学の男女比率は女性の方が圧倒的に多くなりました。
映画の中で、夫が「医師や教師ならいいけど、メイクアップ・アーティストだなんて」と語っています。イスラーム革命後、女性患者は女性医師が診た方がいいとか、男女別学で女性教師の需要が増えたとう事情があります。文科系だけでなく理工学系の学科でも、女性の比率は60~80%に達し、アフマディネジャード大統領が、大学の男女比率を半々にする法案を出したのですが実現しませんでした。
妻の方が高学歴という夫婦が増えて、夫婦仲の実態など、どうなっているのか気になっていたのですが、本作の夫の兄嫁は、大学に行って、大きな口をきくようになって、結果、離婚しています。夫としては兄の二の舞は踏みたくないのが、じんわり伝わってきました。
この二人がどのような決断をくだしたのか、映画の中では明かされていません。気になるその後、監督も知らないことがQ&Aで語られています。(咲)
★実は、前もって『メイクアップ・アーティスト』を「購入する」から手続きして、「YIDFF ONLINE! Theater」にようこそ! とメールが来たので、それでOKと思って、上映時間の10月9日3時にアクセスしたら、未購入の状態で、え? とあせりました。
「購入する」をクリックして、クレジットカードの情報を入れてもなかなかenterできなくて、やっと、カードの裏の3桁を入れないといけないことに気づきました。
30分ほど遅れて観始めたので、Q&Aの最初の15分が聴けなくて、友人の毛利奈知子さんからメモをいただきました。その後、Q&Aの動画アーカイブが映画祭期間中の限定で公開されていましたので、そこからQ&Aの内容を起こしました。
ジャファール・ナジャフィ監督Q&A
司会:時に激しく、時にユーモアのある家族間の交流やのどかな動物たちも出てきた愛にあふれた映画と思いました。
監督:山形で上映していただきありがとうございます
前の作品も同じ地域を描いています。社会問題を描くのにできるだけユーモアを入れて、素敵な映像を加えて、社会問題を考えさせるような映画を作りたいと思っていて、今回も社会問題とユーモアを併せ持つ映画を作りました。
観客より:なぜあの二人を選んだのですか?あの二人を監督はどう思っていますか?
監督:主役の女性は遠い知り合いです。映画の中で彼女が話していたように彼女は映画の撮影現場に行ったことがあり、従姉の友達がメイクアップ・アーティスト。その方が彼女のことを私に説明してくれて、興味を持って現地にいきました。彼女の夫が最初は反対して絶対カメラを許さないと言ってました。私自身がその地域で生まれ育ったので、もっともっと年上の長老にアプローチして承諾をもらってから旦那さんに話したら許してくれました。私自身が同じ民族なので許されたのだと思います。
観客より:撮影にどれくらいの期間がかかりましたか?
監督:民族の中に入って社会問題を描くことになるので、彼女たちの中に入り込むのに5か月はかかりました。撮影は始まったのですが、映像の中で皆さんがご覧になったように、途切れ途切れになっていたところがあったのは、夫婦げんかになって、二人がカメラを止めてくれと言われたときには止めていたからです。また撮影に戻るのに2,3日かかりました。撮影そのものはトータルで2か月半くらいかかりました。
観客より:この夫婦の関係は撮影スタッフが入ったことで、関係が変化したと思いますか?
(良くなったか悪くなったか)
監督:実は撮影隊が入ったあと、彼女たちがどうなったかわかりません。現場に行ってから夫にアドバイス的なことを私がいろいろしたので、彼がそのことが気に食わなかったようです。なので、だんだん私は嫌われ者になってしまって、夫が私との連絡を絶ってしまって、どうなったか話してくれませんでした。
観客より(多くの方から同じような質問):夫婦はその後、どうしているのか?
例えば、二人は愛し合っているように見えるが今はどうなっていますか?
監督:映画を見て感じたと思いますが、お互い愛し合っています。
特に夫の方が現地の習慣で小さいころからの許嫁がいたのに、あの彼女と恋愛して結婚したので、彼女をとても愛しているし、奥さんも同じく夫を愛しています。
彼女が大学に行くとか勉強するということに夫が条件をたくさん付けてしまったので、奥さんが対応できたかどうかは、私は嫌われ者になって連絡を取れなくなってしまったので実際のところはわからないのですが、条件が彼女が乗り越えられれば仲良くできたのではないかと思う。
司会:伝統とか二人の関係性も興味深く見れる作品でした。
観客から、このご夫婦は結局どうなったのか?気になります。放牧と農業両方というのはハードなので、働き手がいなくなるのも困るし、女性の希望もわかるし、、、というコメントがありました。
監督:私もそう思っていました。家畜のための草を求めて移動します。彼女は夫を愛しているので気持ちよく夫に従って移動します。夫の方が兄弟に問題があって、彼女が大学に行くことを受け入れられないでいます。彼女はお母さんから絶対大学にいきなさいという遺言があって、絶対大学に行きたい。二人の両方に言い分があって納得します。
観客より:『メイクアップ・アーティスト』を観て、女性が学び自立していくという新しい価値観と、女性を労働力として家族に迎えるという昔からの価値観が比較して描かれていると思いました。
女性が学び自立していくという新しい価値観はどのような社会状況から生まれたのでしょうか?
監督:この民族は第二夫人を迎えるのは普通のことなので、ミーナはいずれ夫が第二夫人を迎えることは知っています。でも、ミーナは自立して自分の息子を育てたい。自分の夫のように二人の奥さんをもらうようには育てたくない。息子のために勉強したいということもあります。
観客より:結局、第二夫人は見つかったのですか?
監督:(笑)ミーナは、第二夫人をもらうなら、自分の友達の中から選んでほしいと一生懸命がんがっています。義母はもともとの許嫁と結婚させたいけど、ミーナはそれは絶対いや。彼女を拒否して結婚しているので、大変なことになるのはわかっています。でも、習慣を考えると、許嫁ではないかと思います。
観客より:エンディングのクレジット、ミーナより前に夫の名前が先にあがっていましたが・・・
監督:(笑)それは偶然! 自分が男だから先に出したということはほんとにないです。映画の中で夫の方がカリスマ的だったから無意識に最初にあげたかも。昔の作品を観ていただければわかりますが、いつも私は女性の方のことを考えて映画を描いているのですよ。
司会:お墓参りで皆、感情を出していましたが、イランでは普通ですか? 日本と違うと感じました。
監督:この民族だけでなく、イランではお墓にいくと、大声で泣いたりします。あのお墓はミーナの母親のお墓。ミーナが泣き出すと、皆、一緒に泣いています。心は一緒だよと。習慣として祖父母や夫が亡くなると、イランでは金曜日が休日なので、週末の木曜日の夜にお墓参りして泣きます。
観客より:製作中の作品や作ろうと思っている作品は?
監督:ずっとバクティヤーリー族を撮っていますので、これからも追いかけます。私自身、バクティヤーリー族。面白いことがたくさんなりますので、いくつもテーマを見つけて、何年も撮ることができます。
前作『Ash』も、今、編集中の子どもをテーマにした作品もバクティヤーリー族で同じ地域で撮っています。計画している映画もバクティヤーリー族です。おもてなし上手で、優しい心を持っていて誠実。世界にまれな風習もありますので、これからもずっとここで撮るつもりです。
司会:監督の後ろに、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭の鞄がありますが・・・
監督:デビュー作『Ash』は最初に生まれた子のように愛して大事にしています。賞を取った映画祭のかばんを背後に飾って励みにしています。ASHに守られて、質問に答えました。
司会:最後に観客にひとことお願いします
監督:時間を作ってご覧いただいた皆様にお礼申し上げます。質問もありがとうございます。
別の映画祭に出品する予定でしたが、アジアであり日本の山形で上映していただきました。愛情をいっぱい捧げましたので、皆様にエンジョイしていただければ嬉しいです。
いろんな国の方に観ていただくために作っていますので、上映していただいたことに感謝しています。
(景山咲子)
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