東京フィルメックス クロージング作品『天国にちがいない』 リモートQ&A (咲)

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東京フィルメックス 特別招待作品 
クロージング作品

『天国にちがいない』 原題:It Must Be Heaven
監督:エリア・スレイマン(Elia SULEIMAN)
フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ / 2019 / 102分
配給:アルバトロスフィルム/クロックワークス
© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION
公式サイト:https://tengoku-chigainai.com/
★2021年1月29日( 金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開.

新作映画の企画を売り込むため、故郷ナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る映画監督。そんな中、思いがけず故郷との類似点を見つけてしまう。果たして本当の故郷はどこに…? 昨年のカンヌ映画祭でダブル受賞した名匠エリア・スレイマン10年ぶりの傑作。(公式サイトより)

*物語*
ナザレ。
映画監督のES(エリア・スレイマン)が自宅のテラスでくつろいでいると、隣人と名乗る男が悪びれもなく庭のレモンを取っている。声をかけたが、返事がなかったと。
墓参りの帰り、こん棒を持った青年たちに出会う。
車椅子など不要になったものを処分し、ESは旅に出る。

パリの町。
アジア系の男女に「ブリジットさん?」と聞かれる。
首を振ると、お辞儀する二人。日本人だった。
ノートルダム寺院、ルーブル美術館、どこも人がいない。
ホームレスの女性のあとを5人の警官が追う。
黒人の清掃人二人。缶を箒で飛ばして、側溝に入れて遊んでいる。
戦車が町を行く。軍事パレードだった。花火があがる。
賑わうセーヌ川。
映画会社に企画を持ち込む。
「パレスチナ色が弱い」とフランス語で却下され、何も答えなかったら、英語で「言ったことはおわかりに?」と言われる。

夜のニューヨーク。
タクシーに乗り、運転手に「どこの国から?」と聞かれ、「ナザレ」と答える。
「それは国か?」と運転手。
「パレスチナ人だ」とES。
「パレスチナ人に初めて会った!」とはしゃぐ運転手。
「カラファトのだろ?(アラファトだよ!)ナザレはイエス様の故郷」

皆、大きな銃を持って歩いている。

紅葉が美しい公園。
天使の羽根を付けた女の子を追う警官たち。
バギーを押しながら運動する5人のママたち。

映画学校の講義やアラブ・フォーラムにゲストとして登壇するES。
なんとも居心地が悪い。

映画会社「メタ・フィルム」のロビーで、友人のガエル・ガルシア・ベルナルと一緒に人を待つES。
「パレスチナ出身でコメディを撮ってる。次の作品のテーマは中東の平和」とガエルがプロデューサーに紹介してくれるが、「もう笑えちゃう。またいつか」と、あっさり断られる。ガエルだけが中に入っていく

タロット占い。
「この先、パレスチナはあるのか?」
「必ずやある。ただし我々が生きているうちじゃない」

ナザレに帰ってくる。
オリーブの林。民族衣装の女性が頭に桶を載せている。
クラブで踊る人たち・・・

パレスチナに捧ぐ
父母を偲んで


今回のフィルメックスで、エリア・スレイマン監督特集が組まれ、長編デビュー作『消えゆくものたちの年代記』(1996年)を久しぶりに拝見することができました。
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あれから、4半世紀近く。ご両親は天国に召され、エリア・スレイマンもずいぶん老けて、時の流れを感じました。
パレスチナの置かれた状況は、ますます悪くなっているのに、映画の企画を持ち込んでも却下され、誰にも関心を持ってもらえない現状を突き付けられた思いがしました。

冒頭、「たとえ神様が来ても開けない」という扉を、神父が裏から暴力的に押し入ります。パレスチナの地が蹂躙されていることを象徴したような幕開けです。
映画には、エリア・スレイマンらしいウィットに富んだ場面やエピソードが満載。
ナザレの老人が話す蛇の恩返しの話。
「ハゲタカが蛇を狙っていたので、ハゲタカを撃ったら、蛇がお礼のお辞儀を。
別の日、タイヤがパンク。蛇が空気を入れてパンパンにしてくれた」
情景が目に浮かび、可笑しくて忘れられません。
ニューヨークの公園で、バギーを押しながら運動する5人のママたちの姿も、目に焼き付いています。
そして、所在なく居心地悪そうにアラブ・フォーラムの壇上の隅っこに座るエリア・スレイマン監督。
故郷ナザレで、平穏に暮らせる日が監督の生きているうちに来ることを祈るばかりです。



◎東京フィルメックスでの上映&リモートQ&A
2020年11月7日(土)  17:20からの授賞式終了後 @有楽町朝日ホール

上映後、フランスにいるエリア・スレイマンと、リモートでQ&Aが行われました。

『天国にちがいない』Q&A(リモート)
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登壇:
エリア・スレイマン(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
動画 https://youtu.be/bxQbdL-v-S4
下記のうち、★印:動画にはない部分

市山: 前の作品『The Time That Remains(邦題『時の彼方へ』)』から10年。どれ位の期間をかけて準備をされて昨年完成されたのでしょうか?

監督:新しい脚本を手掛けるのに、いつも時間がかかります。生きて、観察して、経験をしたうえで、蓄積をメモに書き溜めて、脚本を書くためのヒントが満ちるまでに時間がかかるんです。私の働き方は時系列的に話が進むという脚本の書き方ではありません。例えば、画家のアトリエで200点くらい作品があって、常に何かしら手を加えているという形で進行しています。10年の間に、キューバでオムニバス映画(『セブン・デイズ・イン・ハバナ』2012年)を撮りました。私の映画のタイプは資金がかかるけど、商業的な回収は難しいです。

― パリで人が少なかったですが、理由があるのでしょうか? どのように撮影を?

監督:皆が聞くけれど、私自身、謎です。どうしてこういう状態が撮れたのか。ここは観光地で人が多いから、他の場所を選んでくださいと言われてました。黙示録的雰囲気の中で撮りたかったので、町の中心で撮ると自分の意思を曲げませんでした。実は、パリ市長オフィスのフィルムコミッションのような許可を出す係の方が私のやってることを理解してくれて、多大な協力をしてくれました。

― スズメが素晴らしい演技をしていますが、CGでしょうか? スズメの演技を待っていたのでしょうか?  

監督:複雑な仕組みです。一部は3Dで作っています。一部はほんとうのスズメで撮っています。トレーナーが何か月もかけて、20羽をトレーニングして、そのうちの2羽を推薦してくれました。私の依頼した演技をそのうちの1羽がとてもうまく演じてくれたので採用しました。3Dよりリアルなスズメの方が扱いやすかったです。裏話をしますと、現実に基づいています。妻が家族を亡くした孤児のスズメを持ち帰って、置いていたら、私のパソコンにジャンプして乗っかってきたのです。それに触発されて入れた場面です。 

― 初期の作品で「I Put a Spell on You」の歌を使っていましたが、今回も別のシンガーのものを使っていました。この歌に思い入れがあるのでしょうか?

監督:いろいろ音楽を探したのですが、シーンに合うものを150曲くらいの中から、一番合うものを選びました。一番しっくりした曲だったから選んだのです。『D.I.』で使ったのはナターシャ・アトラスのキッチュな雰囲気でした。今回は違うバージョンにしました。

― 日本人が出てくるシーンがありましたが、なぜこのようなシーンを作られたのでしょうか?

監督:まさにあの場所で全く同じことが起きたので、これは絶対映画に入れなくてはと思いました。

― 日本で映画を撮りたいと思いませんか?

監督:私のセンチメンタルな箱を開けてしまいました。私はとても日本を愛してます。妻と2回訪れました。今も日本にいられたらと思います。そして撮りたいところです。お気に入りの国なので、どこにカメラを置いても私の好みぴったりな絵が撮れます。明日にでも呼んでくださったら行きたいです。マスタークラスや取材で何度も言っていて聞き飽きたと思いますが、私が映画を撮り始めたのは、小津監督がいたからです。日本に降り立って最初に小津監督のお墓参りをしました。

― キャスティングをいつもしているジュナ・スレイマンさんはドキュメンタリー作家でもあると思います。監督のご親戚でしょうか?

監督:私の姪です。はい、ドキュメンタリー作家でもあります。パレスチナだけで撮った時は、全面的にキャスティングを担当してくれました。今回は、3か所でしたので、パレスチナ部分を担当してくれました。

― 監督が演じる主人公は、いつも台詞がありません。これには理由があるのでしょうか?

監督:戦略的に自分が出て何も話さないと決めた訳じゃありません。短編を撮り始めたときから、自分で演じてこのようなスタイルでした。自分がカメラの前に立たなければいけないのはわかっていました。非常に個人的なことを綴っていますので。一般的に、私の作品はセミサイレント映画で、音に溢れているけれど、人の話す言葉は少ないです。好みとして、映像の最大の効果を狙うために、人の言葉を最小限にしています。人の言葉に頼らないで作りたいという思いがあります。

― イギリスの作家ジョン・バージャーへの献辞がありましたが、その方への思いは?  

監督:パリで偶然会ったのは、ものすごく前のまだ若い時で、将来何をしたいか決めてないときでした。何がしたいかと聞かれ、映画とぽろっと言いました。その意味を理解せずに伝えたのがきっかけでした。それ以降、彼は守護天使のように見守ってくれていて、彼の影響で本を読んで自分自身を見つめることを始めました。常に応援してくれていて、家族のような関係がずっと続いていました。クリスマスを家族ぐるみで一緒に過ごしたりしました。

― 森の中で遭遇する女性が頭の上に桶のようなものを載せてました。彼女は祈りをささげるような儀式をしていたのでしょうか?  

監督:私の古い記憶から描いたものです。私の生まれたナザレから10キロくらいのところのベドウィンの村から女性がヨーグルトをポットに入れて売りに来ていました。映画でご覧になっていたように、ポットを二つ持ってきていて、一つを置いて、また一つを取りにいってということを繰り返していたのです。このシーンは私の覚えているかつてのパレスチナの情景です。オリーブの林があって、女性がいてという、郷愁に基づいて作られたシーンです。

市山:今までになく、50を超える質問がきていますが最後の質問になってしまいました。何人の方からの質問を選びました。タイトルに込めた思いは? 天国はパレスチナのことと考えていいでしょうか?

監督:天国はパレスチナを指していません。世界全体がパレスチナ化していることを映画で描いています。主人公は天国を探して移動するのですが、世界中どこにも問題がある。グローバル化であったり、すぐに警察が稼働して、どこに行ってもチェックポイントがあるような状態です。天国は理想の場所で、皆が探し求めているのではないでしょうか。グローバル化で問題のない場所は結局ないということですね。

市山:いつか機会があればスレイマン監督を日本にお招きしたいと思います。新しい作品を近いうちに観れることを期待したいと思います。

まとめ:景山咲子




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