フランス映画祭 2020 横浜 中東絡みの作品たち  (咲)

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当初6月に予定されていたフランス映画祭 2020 横浜が、コロナ禍で延期され、12月10日から開催されます。
上映される長編10作品の内、9作品は日本公開が決まっていて、オープニング作品の『ゴッドマザー』のみ、配給未定です。試写の案内をいただき、主役の役柄が「アラビア語通訳」とあったので、これは観なければ!と、飯田橋のアンスティチュ・フランセ東京に駆けつけました。
また、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアとのコラボで無料配信される6本の短編の中に中東絡みの作品が2本ありましたので、併せてご紹介します。

フランス映画祭 2020 横浜 公式サイト:https://www.unifrance.jp/festival/2020/


オープニング作品
『ゴッドマザー』 原題:LA DARONNE
監督:ジャン=ポール・サロメ
出演:イザベル・ユペール、イポリット・ジラルド

警察でアラビア語の通訳として働くパシャンス(イザベル・ユペール)。今日も、麻薬捜査班の取り締まりに同行して、通訳を務める。パシャンスの目下の悩みは、介護施設にいる我儘な母親のこと。介護士ハディージャ(*注)の優しさに支えられている日々だ。
ある日、警察の依頼で通話の盗聴をしていて、大麻の密輸事件のドラッグディーラーの一人が、介護士ハディージャの息子だと気づいてしまう。どうしても、その息子を助けたいと、パシャンスは大胆な計画を立てる・・・
(*注:ハディージャは、預言者ムハンマドの最初の妻の名前。介護士がムスリマであることがわかります。)

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「イザベル・ユペール主演の社会派コメディ」のうたい文句通り、まぁハチャメチャなドラッグ密輸組織を揺るがすゴッドマザーの大活劇! 
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大量の大麻樹脂を元手に、パシャンスはドラッグディーラーのちょっと抜けた二人組に取引きを持ちかけ、ヒジャーブ姿でアラブの女に成りきって出かけます。いつしか「ゴッドマザー」と呼ばれるようになるパシャンス。

パシャンス(忍耐)という名前は、ろくでもない父親がつけてくれたらしいのですが、オマーンの首都マスカットにある墓に眠る父を訪ねたあと、パシャンス号と名付けられた船でオマーンの海に乗り出します。思いもかけず、オマーンの美しい風景も楽しめた作品でした。
麻薬を扱う男たち相手の通訳は、わざとわかりにくい方言を使われたりして、大変な仕事であることも垣間見れました。



◎ブリリア ショートショート シアター オンライン配信作品から

◆『音楽家』原題:ペルシア語Navozande, フランス語 le musician
監督:レザ・リアヒ
フランス/14:56/アニメーション/2020
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~引き裂かれた恋人たちはいつまでも想い合う〜
1219年、ペルシア。モンゴル軍の侵攻で、恋人の音楽家と引き裂かれた女性。40年後、宮廷で働く彼女は、盲目の楽師が生き別れた恋人だと気づく・・・
残虐なモンゴルの襲撃、そして華やかな宮廷の宴が、伝統楽器の美しい調べと共に繰り広げらるアニメーション。
ペルシア語を学び始めた時に、「モンゴル軍が来て、焼いて、殺して、破壊して・・・」と順序は忘れましたが、動詞を覚えるのに教わったのを思い出しました。ペルシアにとって、モンゴルの侵攻はそれほど残虐な記憶。それを象徴する15分でした。


◆『思い出たち』 原題:Souvenir Souvenir
監督:Bastien Dubois
フランス/15:10/アニメーション/2020
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~戦争を語ること、知ることの難しさ〜
祖父がアルジェリアから持ち帰ったサソリの標本。この10年、アルジェリア戦争のアニメ映画を作ろうとして、戦争に行った祖父に実態を知りたいと聞くけれど、仲間や狩りの楽しい話ばかり。問い詰めると、招集されて行くしかなかったとポツリ。
実戦で地獄を見た人ほど、戦争経験を話さないのはいずこも同じ。思い出したくない記憶を抱えて生きる人たちに思いを馳せました。


★上記2作品を含めて、6作品を下記のサイトで視聴できます。
配信サイト:ブリリア ショートショート シアター オンライン
特設ページ: https://sst-online.jp/magazine/9184/
配信期間 12/5(土)10:00〜12/18(金)10:00

『真西へ 』(原題:Plein Ouest)監督:アリス・ドゥアール
『アデュー』(原題:Un adieu)監督:マティルド・プロフィ
『ローラとの夜』(原題:La Nuit, tous les chats sont roses)監督: Guillaume Renusson / BSSTO作品
『音楽家』(原題:Navozande, le musicien)監督:レザ・リアヒ
『岸辺』(原題:Rivages)監督:ソフィ・ラシーヌ
『思い出たち』(原題:Souvenir Souvenir)監督:バスティアン・デュボワ


景山咲子

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