東京国際映画祭 『ノー・チョイス』レザ・ドルミシャン監督インタビュー

今は全世界でチョイスがない

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『ノー・チョイス』 英題:No Choice 原題:Majboorim
監督:レザ・ドルミシャン
2020年/イラン/106分/カラー/ペルシャ語
上映:11月3日(火) 16:05~ 11月6日(金) 14:50~
TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP24

*物語*
16歳のホームレスの少女ゴルバハール。愛する男に言われるまま、11歳の時から代理母を引き受けてきたが、知らない間に不妊手術を施されていた。彼女の話を聞いた人権派弁護士サラは、ペンダー医師が手術したことを突き止める。彼女は私財を投じてホームレスを擁護し、尊敬を集めている人物だった・・・


◎インタビュー
11月6日(金) 18:45から行われたTIFFトークサロンでの質疑応答を踏まえて、お話を伺いました。
TIFFトークサロンQ&Aは、こちらでご覧ください。

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◆ファテメさんは心から演じる女優
監督:サラーム!

― お誕生日おめでとうございます!

監督:ありがとうございまず!

― 先ほどのトークサロンQ&Aで、ファテメ・モタメダリアさんと何か月も一緒に脚本を練ったという話が出ました。かつて、ファテメさんが来日された時のインタビューで、若手監督のために自分ができることは最大限してあげたいとおっしゃっていました。

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ファテメ・モタメダリアさん: 『ナバット』アゼルバイジャンのエルチン・ムサオグル監督と
*2014年10月14日のスタッフ日記

監督:ファテメさんと仕事をするときには、ほんとに楽しめます。彼女はすべて納得しないとやりません。自分が演じる役について考えて、信じたいともおっしゃっていました。すべてを自分に取り込んで演じてくれます。
監督の前に助監督をしていて、多くの役者を見てきました。彼女のように、映画をとても大事にして、心から演じているのは、ファテメさんのほかにエッザトッラー・エンテザーミーさん(2018年8月17日没)くらいです。今回、医者の役はファテメさんにお願いしたいと思って脚本を書きました。テーマを話したら、「あなたを信じてやります」とおっしゃってくれました。
ファテメさんの後に、弁護士役のネガール・ジャヴァヘリアンさんが決まりました。最後に、少女ゴルバハール役のパルディス・アーマディエさんを決めました。
配役が決まって、脚本を完璧に書いて、本読みをしたのですが、役者たちの気持ちや表現の仕方などを見て、脚本に変更を加えて仕上げました。この映画は、私にとって大きなチャレンジでした。これまで作ってきた映画は素人や舞台の役者を主に使って作ってきました。4本目は学生たち、今回初めてプロの役者たちにお願いしました。
女医の母親役の女優は、90を超えた方。1927年生まれのザーレ・オルブZhaleh Olovさん。ファテメ、ネガール、パルディスと、4世代のイランの女性の役者さんにお願いしました。中でも、ファテメさんは映画にいっぱいいろいろなことを運んでくださいました。

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◆女性人権派弁護士たちに敬意
― 女性弁護士サラから、人権派弁護士ナスリーン・ソトゥーデさんを思い浮かべました。もちろんほかにも多くの女性弁護士が人権のために闘っていると思います。それを代表してサラという弁護士役を作り上げたのでしょうか?

監督: 人権問題にすべてを捧げた弁護士たちを思い出して書きました。ナスリーン・ソトゥーデさん以外に、アブドル・ソルターニーさん、 シーリン・エバディさん、メラニーズ・カールさんなどがいます。すべて自分を犠牲にした方たち。 ソルターニーさんは刑務所に入ったとき、28歳の娘さんが亡くなって、仮釈放で出てお墓に行って、「これからもすべての人生を人権問題に捧げる」と誓いました。
弁護士には、二つのタイプがいると思います。法律や権利の為に頑張る人と、人を騙してまで金儲けしたい人。

◆鬱かコロナかのチョイスしかない
― 女性たち三人三様の暮らしを見て、お金のある人は外国に逃げることができるけれど、お金のない人は、ホームレスになったり、身体を売るしかないほどイランの経済がひっ迫しているのを感じました。
 「こちらの生活は厳しいけど、向こうでは亡命の身。選択肢はない。こちらでいい仕事していたのに」と語る場面もありました。
『ノー・チョイス(Majboorim)』というタイトルに込めた思いをお聞かせください。

監督: この映画で描いているすべての人たちは、皆、チョイスがありません。情勢の中に仕方なくいないといけない。 今は、全世界で仕方なく  毎日、現実の中で生活しています。マスクをしなくてはいけないとか。
人間は皆コントロールされていて、現実はもっともっと厳しくなっていく感じです。映画の中のゴルバハールも仕方なく地べたで寝ています。一人一人のキャラクターは、今の全世界の人間のようにチョイスがないのです。

― まさにコロナ禍で、全世界が身動きできなくて、今もこうして画面でしかお会いできません。どうしてこんな世界になってしまったのかと思います。コロナ禍でイランでは映画の製作や、映画の上映はどうなっていますか?

監督:コロナの世界を想像していませんでした。 映画の将来がどうなるか、皆疑問を持っていますが、わかりません。消えるわけじゃない。 血液検査をすれば、自分には映画しかありません。イランではコロナで、まず映画館がクローズされました。電車など密になるところはほかにもあるのに、それよりも前にです。 テレビも映画も撮影はしています。映画祭は形が変わりました。30くらいの映画祭が中止になりました。皆、仕方なくなんとかやろうと思っています。映画を作っていないと鬱になりそうです。 鬱かコロナかの選択です。役者の中には、コロナで亡くなった人もいます。

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◆丸刈りにしたのは男として生きる決意
― ゴルバハールが長い髪を切り丸坊主になります。キアロスタミ監督の『10話』(2002年)などでも女性が丸坊主の頭を見せています。髪がないから見せてもいいのでしょうか?

監督:髪の毛がなくても検閲では問題にされます。丸坊主の女性の頭を見せるなと言われます。 
ゴルバハールにとって、女を捨てて生きていこうと髪の毛を切ったのです。最後に残っていた女の気持ちも役に立たないから男になるしかない。そういう決意なのです。そう考えて、髪のシーンを入れました。

― 単純に、お金を得る為に髪の毛を切ったのだと思いましたが、そういう意味があったのですね。 あっという間に時間が経ってしまいました。次の作品を作られましたら、ぜひ東京にいらしてください。 本日は、ありがとうございました。

監督:次は東京でお会いしましょう!

取材:景山咲子

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