『ノー・チョイス』 英題:No Choice 原題:Majboorim
監督:レザ・ドルミシャン
2020年/イラン/106分/カラー/ペルシャ語
上映:11月3日(火) 16:05~ 11月6日(金) 14:50~
TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映
*物語*
16歳のホームレスの少女ゴルバハール。愛する男に言われるまま、11歳の時から代理母を引き受けてきたが、知らない間に不妊手術を施されていた。彼女の話を聞いた人権派弁護士サラは、ペンダー医師が手術したことを突き止める。彼女は私財を投じてホームレスを擁護し、尊敬を集めている人物だった・・・
TIFFトークサロン
11月6日(金) 18:45~
登壇者:レザ・ドルミシャン(監督/脚本/プロデューサー)
司会:矢田部吉彦さん
ペルシア語通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん
英語通訳:松下由美さん
アーカイブ動画:https://youtu.be/r9ustCzCdrg
◆「痛みの監督」と自称している
矢田部:ようこぞ! ようやく監督のお顔が拝見できてうれしいです。
監督:呼んでいただき、とても嬉しいです。
矢田部:TIFFで上映したいと早くから我々皆思っていました。イラン映画は最近目覚しいですが、今年もまた新たな傑作が届いたなと感動しました。『ノー・チョイス』はとても激しいヘビーな内容ですが、スタイルが斬新で迫力に満ちた作品でした。TIFFで紹介の機会をいただきありがとうございます。
監督:私もTIFFで上映していただいて嬉しいです。コロナで日本に行けなくて残念です。一緒に観て、空気感を感じながら皆さんのコメントを聞きたかったです。
矢田部:続々質問がきています。本作は5作目。今回、女性たちの苦悩、人権、司法制度など社会的な難しさが描かれています。Q「今回、このテーマを選ばれたのは?」
監督:「痛みの監督」と自分で言ってます。社会に感じる痛みや悲しみ、問題を映画にしています。たくさんの物語が耳に入ります。不公平なことも観ています。女性の人権問題はイランだけでなくほかの国にも存在していると思います。人の痛みや、抱えている問題を映画に描かないといけないと感じています。
◆ドキュメンタリータッチと言われ嬉しい
矢田部:Q「3人の女性の視点で語っていますが、一人の女性の話だけでも1本撮れそうです。かなりのリサーチが必要だったと思います。現場にも行かれたことと思います。どのように脚本を作っていったのですか?」
監督:実は2年間位リサーチしました。リサーチが一番大切だと思っていました。テヘランのあちこちを歩いて、多くのホームレスとも話しました。一つ一つのキャラクターが頭にあって、それに似た人と話しました。産婦人科医や弁護士とも話しました。ゴルバハールのような女の子とも話しました。ソーシャルワーカー、NGOの人とも話しました。脚本を書くためにたくさんの人の力を借りました。
映画を通して、ひとつの大きな質問を投げかけています。映画を観て、皆さんが答えを見つけてくださるといいなと思っています。
矢田部:法律とモラルの間の線はどこにあるかということかなと思います。Q「ゴルバハールのように、代理母として生きるしかない人たちが実際にいると理解していいでしょうか?」
監督:たくさんいると思います。実際にいると知って驚きました。映画を作った大きな理由は、政府や関係組織に女性のホームレスに目を向けてほしかったからです。
矢田部:Q「段ボールもなく、地べたに寝ていたのはショックでした。ドキュメンタリーのような作品と感じました。ノンフィクション部分も多いのでしょうか?」
監督:ドキュメンタリータッチと言われて嬉しいです。皆さんにそのように観てほしいと思っていました。エキストラとして、参加しているのは、実際の地べたに寝ているホームレスの方たちです。お願いして映画に出てもらいました。
◆法律とモラルの間で葛藤
矢田部: Q「三人三様で、惹き込まれる映画でした。医師が移民するのを迷っていました。どういう状況なのでしょうか? 日本にいるとわかりません。彼女の立場を教えてください」
監督:この質問には、テヘランに住まないとわからないかなと思いながら答えます。今、テヘランに住むことを考えると将来に不安を感じます。大変な中で暮らしています。どの職業についていても、将来は明るいものであるように考えるのですが
いろんな国で、より良い生活を求めて移民されると思います。この医師は、働いている病院の様子をみると、ほかのところに移った方がいいかと考えます。まだ決心していません。家族は皆、移民しています。でも、ここで皆を助けたいという思いがあって、辞められないでいます。移民しようと思えば、とっくに行くことができました。残りたい気持ちのほうが強いのだと思います。
矢田部:これは私自身の質問ですが、若い弁護士が最後に職務を停止されます。女医の施した措置が違法だけど、高度な政治レベルで女医の行為は黙認されていて、政治的圧力で弁護士は職務を停止されたと解釈していいでしょうか?
監督:答えになるかどうかわかりませんが、弁護士のサラはお金をもらわないで権利の為に闘っています。それが自分の夢でもあります。法律を守らないといけないことも考えています。女医は法律よりも、モラルを大事に考えています。この二人の葛藤が映画の中心になっていると思います。
◆明るい未来を信じたい
矢田部:英語で質問がきました。Q「監督の視点で、この物語のモラルは何でしょう? 日本でも権利について主張すると、ある種の人々を怒らせることがあって、思いもよらない結果を招くことがあります。刺されることはないと思いますが」
監督:今のはコメントですね。一つ加えたいのは、映画の中のキャラクターの一人一人は自分の視点でものを見て前を向いて頑張っています。誰が正しいかはわからない。誰が犠牲になるかもわかりません。結果は、私たちのおかれている立場にはチョイスがないということではないかと思っています。
矢田部: Q「弁護士サラは理想に燃えているけれど、現実が見えてない報いを受けてしまった悲しい結末でした。これも現実でしょうか?」
監督:今の社会には、暗い現実が存在します。でも、皆、明るい未来を見ているのではないでしょうか?
矢田部:そうしたいものです。
監督:今年の映画祭のポスターにある「信じよう、映画の力」、これも一つの答えだと思います。
◆自分の目が見ている映像スタイル
矢田部:ブライアン・コリンズさんからの英語での質問です。「この数年、東京国際映画祭でイラン映画を観て、楽しんでいます。多くの映画で女性の権利を描いていますが、映画祭で女性のゲストがあまり来ないのは、制限があるのしょうか? 公の場で女性たちがこういう問題を語ることに障害があるのでしょうか?」という質問です。映画祭サイドからいうと、今回のトークセッションでは物理的に女優さんたちにお声をかけられなかったという事情です。
監督: この映画の場合は全く検閲もないし、女性も自分のことを発現できると思います。
矢田部:この映画の魅力の一つは映像の素晴らしさでした。Q「突然のクローズアップ、突然引いたり、テンポの速い編集など、ほかの作品になかなかないスタイルでした。この映画の為に取ったスタイルでしょうか? 監督がもともとこのようなスタイルを好まれるのでしょうか?」
監督:映画を作るとき、自分の目で見ているようなスタイルで撮ります。サブジェクトに合う形を選びます。頭の中でリズムが狂ったように回っているので、それが映像スタイルにも表れています。特にこの映画は視点の映画だと思っています。皆が置かれている状況の中で感じていることを目で語っているのを表そうとすると、ズームしかないなと。全部ズームで撮ろうとも思ったくらいです。今まで作ってきて、スタイルが完璧になったのが本作かなと思っています。
◆女医役ファテメさんと脚本を練った
矢田部:素晴らしい効果だったと思います。「視点の映画ということで、女性の権利や社会問題を観客に問われているような気がして、とても印象に残りました」という感想をいただいています。ここで最後の質問になります。Q「3人の女優が素晴らしかったですが、キャスティングの経緯は? 女優さんたちのどのようなところに注目されましたか? 決めた順番がありましたか?」
監督:映画作りの一番難しいのは役者選びです。考えているキャラクターを表現してもらわないといけません。とても緊張します。今までプロの役者はあまり起用しませんでした。舞台の役者は使ったことがありますが。今回、最初にお願いしたのはファテメ・モタメダアリアさん。今回3人の女優さんは、皆、大プロの役者です。特にファテメさんとは何か月も脚本について話しました。2番目に、ゴルバハール役に若手のパルディス・アーマディエさん。3番目に弁護士のサラ役にネガール・ジャヴァヘリアンさんを決めました。
私は脚本を書きながら、誰にやってもらおうと考えます。たどり着かない場合は、書き上げてから考えます。大体は、最初に思っていた方たちをキャスティングしています。
矢田部:ありがとうございます。まだまだ質問が来ているのですが、あっという間に時間が経ってしまいました。監督、お答えいただき、ありがとうございました。
監督:ありがとうございます。お招きいただき感謝しています。
矢田部:監督は昨日がお誕生日でした。お誕生日おめでとうございます。皆でお祝いを!
それではスクリーンショットタイムです。
監督:ありがとうございました。
矢田部:素晴らしい作品で、イラン映画の充実をあらためて感じさせてくれる作品でした。ありがとうございました!
★『ノー・チョイス』レザ・ドルミシャン監督インタビュー
トークのあと、個別取材の時間をいただきました。
景山咲子
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