『ティティ』原題:TiTi
2020年/イラン/102分/カラー/ペルシャ語
上映:2020年11月1日(日) 20:45~ 11月4日(水) 11:00~
TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映
☆ワールド・プレミア
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP31
*物語*
ブラックホールを解き明かそうとする物理学者のイブラヒムは、入院中に病室の清掃を担当していたロマ(ジプシー)の女性ティティと知り合い、心を通わせていく。
TIFFトークサロン
11月4日(水)18:45~
登壇者:アイダ・パナハンデ(監督/脚本/プロデューサー)
司会:石坂健治さん(TIFFシニア・プログラマー)
ペルシア語通訳: ショーレ・ゴルパリアンさん
英語通訳: 竹内まりさん
アーカイブ動画:https://youtu.be/-fpsxP_k7EE
◆前作『二階堂家物語』は日本で撮影
石坂:ようこそいらっしゃいました。そちらは何時ですか?
アイダ:こんにちは~ こちらは午後1時20分です。
石坂:一言、ご挨拶を!
アイダ:アイダ・パナハンデ、41歳です。テヘラン芸術大学では撮影を学び、大学院で監督を学びました。短編をたくさん作っています。テレビドラマやドキュメンタリーも作っています。本作は、長編4作目。3本目の『二階堂家物語』は日本で撮影しました。
石坂:長編デビュー作『NAHID(ナヒード)』がカンヌで受賞。(2015年「ある視点」部門で「期待すべき新人賞」。なら国際映画祭の最高賞を受賞した縁で)3本目は日本で撮られています。イランを代表する若手監督です。奈良での撮影で、日本を気に入っていただけましたか?
アイダ:天理の町で素晴らしい経験をしました。最初、こわいと思ったけれど、皆さんと撮影をし始めたら、前からいるような気持ちになりました。とても楽しかったです。
◆自立を目指す女性を描いた
石坂:さっそく質問が入っています。Q「ティティという人物のキャラクターが魅力的でした。モデルがいるのですか? 演じた女優さんについても教えてください」
アイダ:一緒に脚本を一緒に書いたプロデューサーでもあるアルサラン・アミリ(注:監督の夫)と、ティティを魅力的なキャラクターとして、エンジョイしながらミステリーっぽく書きました。キャラクターは、フェリーニの『道』のジェルソミーナをイメージしています。彼女は犠牲になっているような人物ですが、ティティは最終的に独立して歩みます。
ティティのキャラクターは、周りにいそうで、どこか自分にも似ていて、全世界の女性にもいそうな人物です。
ティティを演じた女優エルナズ・シャケルデューストは、若くて、今、売れている優秀な人です。よく演じてくれました。
石坂:フェリーニのジェルソミーナを思い出したという方が二人いました。
次の質問です。Q「今回東京国際映画祭で上映された『ノーチョイス』でも代理母としてお金を稼ぐ女性が出てきました。作品のテーマとしては偶然かもしれませんが、イランでは社会問題になっているのでしょうか?」
アイダ:『ティティ』のテーマは代理母ではありません。『ノー・チョイス』にも出てきたのは知りませんでした。『ティティ』のメインテーマは、孤独と不可能な愛の話です。独立するのに頑張っている女性がメインテーマです。お金を貯めて家を作って独立したいと夢見ています。イランの社会問題として、代理母はすごく少なくて、それを許す家族も少ないです。イランの大きな社会問題はアメリカの制裁によるものです。
◆イランのロマ(ジプシー)
石坂:Q「ティティを通してロマの文化に触れました。イランにおけるロマの暮らしや文化について教えてください」
アイダ:約1500年前にイランの王様がインドからミュージシャンとして宮廷で演奏してもらうためにロマを連れてきたといわれています。今でもテヘランなどの大都会の街角でバイオリンやアコーディオンを弾いたりしています。全世界のロマにとって音楽が大事です。イランはイスラーム政権になって、外で音楽を演じたり、女性が歌うのが禁じられた時期にも、ロマの人たちは街角で演奏したり踊ったりして、音楽の伝統を残してくれました。街角で彼らが演奏していたことを老人たちはよく覚えています。今でもイランの北のカスピ海近くには特にたくさんのロマが住んでいます。
◆女性監督が数多く活躍するイラン
石坂:Q「女性監督のイランでの状況は? やりづらいと感じることはありますか?」
アイダ:全世界をみると女性監督は少ないかもしれませんが、皆さんが想像できないくらい、イランでは女性監督が大勢活躍しています。ほかの国に比べたら女性監督が多く活動していると思います。有名な女性監督として、ラクシャン・バニエテマッド監督がいます。私の同世代でも優れた作品を作っている女性監督が4~5人います。ドキュメンタリーやアニメーション、短編の女性監督も多いです。中近東やアジアの国に比べたら、イランの監督はいい環境で映画を作っていると思います。女性としての問題はないけれど、女性も男性も監督の仕事は大変です。
石坂:Q「日本で撮影された時、日本映画をたくさんご覧になりましたか? これまでに影響を受けた日本の監督は?」
アイダ:イラン映画と同じくらい、日本の映画を昔から観ています。私だけじゃなく、イランで映画を学ぶ人は、すべての日本映画の黄金時代の映画を隅から隅まで観て勉強しています。日本映画はイランで人気が高くて、皆、大変影響を受けています。
カンヌで、記者から「どんな映画の影響を受けていますか」と聞かれて、「日本映画です」と答えました。もちろん、タルコフスキーとイングマール・ベルイマンは好きですが。溝口、小津や黒沢、小林など、すごく観すぎて、すべての映画の台詞を覚えています。私の最初の長編「NAHID(ナヒード)」が奈良で上映された後、奈良で映画を撮ってくださいと言われて、冗談かと思ってびっくりしました。日本に呼ばれていると思ってすごく嬉しかったです。自分の国以外で撮影したことはありませんでしたから。日本は文学の国、映画の国、白黒の映画の国。そこで撮影できるのはほんとうに嬉しかったです。河瀬監督、是枝監督の作品もよく観ていて、どれも日本的な映画だなと思います。
◆枠にはまらず自由に生きるロマ
石坂:今、監督は撮影現場にいらしていて延長ができない状況です。そろそろ最後の質問にしたいと思います。Q「映画にロマの言葉や言い伝えが出てきましたが、心に響いたものはありますか?」(注:景山からの質問)
アイダ:言葉としては、今、思い出せないのですが、ロマのことを尊敬しています。人生そのものが自然との繋がりを感じます。枠の中に入らなくて、とても自由です。空、星など、人工的なコンクリートの社会ではない、大きな世界の中で自由に生きていることを感じました。
◆加藤雅也さんからのサプライズメッセージ
石坂:『二階堂家物語』主演の加藤雅也さんからメッセージが届いています。サプライズですね。「今朝の上映で拝見しました。素晴らしい作品でした。(大学教授)イブラヒム役を僕がやりたかったです。」
アイダ:とても嬉しいです。私の映画を観てくれたとは! 私からのメッセージを伝えてください。絶対、日本に戻って、加藤さんと映画を作ります。
石坂:必ず伝えます。今、見ているかもしれませんね。それでは、最後の一言を!
アイダ:『ティティ』をワールドプレミアで東京で上映していただき、ありがとうございます。日本の豊かな文化をほんとうに愛しています。19~20歳のころ、亡くなってしまった監督たちの作品を細かくたくさん観たのが今に繋がっていると感じています。イランと日本の文化関係がますます深まりますように。また一緒に映画が作れればと思います。今日はほんとうにありがとうございました。
*スクリーンショットタイム*
アイダ: アリガトウゴザイマス
報告:景山咲子
★このTIFFトークサロンに先立ち、監督にリモートでインタビューの時間をいただきました。
こちらでご覧ください。
この記事へのコメント