作品情報
『ティティ』 原題:TiTi
監督:アイダ・パナハンデ
2020年/イラン/102分/カラー/ペルシャ語
上映:2020年11月1日(日) 20:45~ 11月4日(水) 11:00~
TOKYOプレミア2020 国際交流基金アジアセンター共催上映
☆ワールド・プレミア
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP31
*物語*
ブラックホールを解き明かそうとする物理学者のイブラヒムは、入院中に病室の清掃を担当していたロマ(ジプシー)の女性ティティと知り合い、心を通わせていく。
◎アイダ・パナハンデ監督インタビュー
11月4日(水) 16:00-16:30リモート取材
通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん
◆映画を観てイランにロマの存在を知る
― 人が生きる上で、なにが大事なのかを考えさせられる素敵な映画でした。なら国際映画祭の映画製作プロジェクトNARAtive(ナラティブ)の一環で作られた『二階堂家物語』で、日本のしきたりに注目されていましたが、本作ではイランのロマの文化に注目されています。監督の身近にロマの人がいて、本作につながったのでしょうか?
監督:イランのロマに関するあるドキュメンタリーを観て、イランにもロマが住んでいることを知らなかったので、驚きました。その後、バフマン・キアロスタミ監督の作品も含め、イランのロマに関する映画をいくつも観ました。
1500年前位に、多くのロマの人たちがインドからイランにやって来たとされています。現在、イランには1万人位のロマの人がいて、カスピ海そばのマーザンラダーン州に多く住んでいます。イランに溶け込んで暮らしていて、自分たちの文化を持ちながらもイラン人という意識です。
(注:ペルシア語でロマのことは、Kowli )
― 映画の撮影は、マーザンダラーン州で行われたのでしょうか?
監督:物語の中では、場所を特定していません。撮影は、マーザンダラーン州の隣のギーラン州で行いました。地元の人たちはギーラキー(ギーランの言葉)を話しています。ティティは孤児で手品師に拾われて育てられたと説明しています。ロマに育てられたので、彼らの習慣を身に着けているのです。
― ティティ役エルナズ・シャケルデュースト(Elnaz Shakerdust)も、アミール・ササン役のホウタン・シャキリバ(Hootan Shakiba)も、ロマになりきっていて、実際にロマの方かと思うほどでした。お二人にどのように役作りをしてもらったのでしょうか?
監督: エルナズ・シャケルデューストは、とても才能のある役者です。一緒にロマに関するドキュメンタリーをいくつか観ました。また、トニー・ガトリフ監督などヨーロッパのロマのことを描いた映画を観てくださいとお願いしました。ロマは、自由な生活をしている、枠に入り込まない人たちです。それを多くのドキュメンタリーを観て、掴んで貰えたと思います。
アミール・ササンは、自分がロマだとは言ってません。ロマの人たちと一緒に音楽活動をしている人物です。ティティもロマの手品師に育てられましたが、血筋は特定していません。
◆かけ離れた二人が心を通わす物語を紡いだ
― ブラックホールを解き明かそうとする物理学者のイブラヒムと、ロマの女性ティティという、かけ離れた二人の物語をどのように思いついたのでしょうか?
監督:プロデューサーで脚本を一緒に書いたアルサラミン・アミリ(注:監督の夫でもある)とどんな物語にするか考えました。最初に話していたのは、小さな町に住む学校の先生が人類を救うという設定でした。教師を大学教授に変えて、相手は普通じゃない、無知で可愛い女性にしようということになりました。イメージしたのは、フェデリコ・フェリーニ監督の『道』(54)のジェルソミーナです。孤独だけど自由な性格が大好きです。さらにそれをロマの女性にすれば、ロマの伝統も入れられると考えました。
◆描きたかったのは自立しようとする女性の姿
― 今回の東京国際映画祭で上映されたイラン映画『ノー・チョイス』にも代理母をする若い女性が出てきました。イランでは、アメリカの経済制裁もあって経済がひっ迫していますが、代理母や売春婦など身体を売るしかない女性が増えているのでしょうか?
監督:『ノー・チョイス』は観てなくて、映画に代理母が出てくることも知りませんでした。代理母がイランで増えているかどうかも知りません。仕方なく売春している女性たちがどれくらいいるかも知りません。ただ一つ言えるのは、経済的に苦しんで、これまでやったことのないことをやるしかない人たちがいるということです。
― 監督は、これまでにも女性の権利について映画で描いてこられました。最後に、この映画に込めた思いをお聞かせください。
監督:自分は女性だし、イランの中での女性の問題を女性のフィルムメーカーとして描きたいと思っています。8歳の時に父が亡くなって、母一人で育ててくれました。自然に自分の中にある声を表現したいと思うようになりました。自分の話をしないと、男性は聞こうとしません。女性のフィルムメーカーとして、女性のことを描き続けたいと思います。
― 次の作品も日本で観られることを楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。
*ここに掲載した監督のスクリーンショットは、東京国際映画祭事務局より提供いただきました。
取材:景山咲子
*取材を終えて*
インタビューは、11月4日(水)の4時からリモートで行いました。同じ日の夜、TIFFトークサロンの監督とのQ&Aで、恐らく『二階堂家物語』や、これまでに影響を受けた映画については質問が出ると思って、質問しませんでした。予想通り、トークサロンで日本映画についての話題が数多く出ました。★トークサロンの様子は、こちらで!
自宅からの初めてのZOOMを利用してのリモート取材で、途中でWi-Fiが不安定で接続が切れるハプニングもあって慌てました。録画にも失敗し、取材を終えてすぐ、メモから書き起こしました。もともとメモ魔なので助かりました。とはいえ、監督が答えてくださったことのすべてを思い出すことはできず申し訳ない思いです。
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