イスラーム映画祭5 シリア難民を描いた『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』  (咲)

爆撃で家族を失ったどうしが、あらたな家族に
~ 爆撃でアレッポをあとにした女性たち ~


『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール
原題:The Guest: Aleppo to Istanbul
2017年/トルコ=ヨルダン/89分/アラビア語・ トルコ語・ロシア語
監督:アンダチュ・ハズネダルオール / Andac Haznedaroglu

シリア、アレッポ。
爆撃で家族を失った8歳のリナは、まだ乳飲み子の妹を連れ、隣人のマリヤムたちと国境を越えイスタンブールに避難する。マリヤムもまた爆撃で家族を無くしていた。大勢のシリア難民が暮らす半地下の部屋に迎え入れられるが、家賃滞納で追い出され公園で寝起きすることになる。一度ははぐれてしまったリナとマリヤムだが、ようやく再会。マリヤムはリナのママになると約束する。やがて、ドイツにいるリナの叔父からヨーロッパに渡るためのお金が届く。リナはこのお金でシリアに帰ろうと駄々をこねる・・・

冒頭、少女たちが地球儀を回しながら、「サウジアラビアはだめよ。シリア人は嫌われてるの」「ロシアは美しい国!」とはしゃいでいます。ロシアはシリア政府と結託して、市民を爆撃しているのに!  
爆撃で家族を失った者どうしが、過酷な避難生活の中で心を寄せ合う姿に胸が熱くなりました。
翻って、国民を守るべき国家が、国民の平穏に暮らす権利を奪っていることに憤りを感じました。


◆2020年3月15日(日) 11:00からの上映後トーク
【2011年3月15日~革命から10年目のシリアは今~
ゲスト: 山崎やよいさん(考古学者/シリア紛争被災者支援プロジェクト
「イブラ・ワ・ハイト」発起人
https://iburawahaito.wixsite.com/iburawahaito/about

「今は考古学からは離れているので、好きなほうの好古学者です」と自己紹介された山崎やよいさん。遺跡の発掘でシリアに行き、シリアの方とご結婚。アレッポに住んでいらしたとのこと。
トークの中から、印象に残った言葉をお届けします。

少女たちがアレッポ方言でしゃべっていて、懐かしくて、それも泣かせてくれました。
3月15日はシリアで革命が起こった日。その日にここで話せるのもご縁。

シリアで起こっているのは戦争ではなくて、大虐殺。政権に従わない者はテロリストとされてしまう。
1989年からシリアに。父アサドの時代。
『カーキ色の記憶』に描かれていたように、町全体がグレーだけど、人々は優しい。
国家とシリアの人々は別にして考えてほしい。
好きなように発言できない世界。のちに夫になる人が「ここではいえないことが・・・」と言っていたことを実感。

マリヤムたちが国境付近で民兵のような組織に絡まれますが、自由と尊厳を語る有象無象のグループがいます。
リナがシリアに帰りたいと言っていますが、無理だろうなと。
シリアは人類史上、重要なことがたくさん起こった地です。

シリア各地の写真 約50枚。
ウマイヤドモスク、ローマ時代のジュピター神殿(今はハミディーエスークの一部に)、ユーフラテス河、大きなダムが二つできて、せき止められた一つがアサド湖。多くの遺跡がダムの底に沈んだ。 考古学的には昔からずさんだった。
農家の客間の布で隠された場所に布団がたくさん。誰が来ても泊まれるように。羊毛の綿を冬の前には、綿を洗っている。
おっぱい型の屋根の家並み。 半遊牧民。
アレッポ。やよいさんの住んでいたニール通り。アレッポ西部で、それほど被害にはあってないが、今は住人が変わった。住んでいた人たちが出てしまって、空き家に金鉱の農村の人たちが移り住んでいる。

シリアでの紛争。
2010年のアラブの春。市民の平和的デモを政府が武力弾圧。
その後、IS(イスラーム国)などの介入。ISのことがセンセーショナルに日本などに伝えられたが、本質は政府の弾圧。 政府が刑務所にいた過激派を解放して町に放った。
ロシアやイランが政府をバックアップ。シリア政府はすべての反体制派をテロリストと名指しし、対テロ戦争が免罪符のようになっている。
SNSで伝えてくるのはフィルターがかからない情報。
2017年、アサド大統領が、シリア国民とは、国籍を持つ者ではなく、シリア(アサド政権)を守る者と発言。国中に “アサドのシリア”のポスター。
「へヤール アサド」のへヤールはアラビア語で選択という意味と胡瓜の意味の両方があって。胡瓜のアサドと。
バシャールが大統領になった時、ポスターは最初は控えめだった。そのうち、バシャールだけでなく、父と亡き兄の写真が加わり、最近は息子ハーフェズの写真も掲げられるようなった。
娘の小学校で、アサド(父)のステッカーを購入して、ノートなどに貼るように指示された。

アサドは今、コロナウィルス感染者のことを言ったら罰すると宣言して、緘口令を敷いている。

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最後に、この後、5時に渋谷駅井の頭線からJRに行く通路にある岡本太郎の壁画の前で、「シリア大空襲」のグループが、市民への空爆をやめるように訴える写真を撮るとの案内がありました。
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帰りに参加し、山崎やよいさんともお話することができました。
ご主人は、デモに張り切って参加していたけれど、残念ながら他界。でも、生きていたとしたら、きっと政権から拷問を受ける羽目になったと思いますと、やよいさん。

私が昭和63年にシリアに行ったことがあると、参加していたシリアの男性に言ったら、「その時、僕は2歳でした」と。
私は、ヨルダンからシリアへと旅をしたのですが、明るいヨルダンに比べて、シリアは人々が暗い感じがしました。『カーキ色の記憶』を観て、まさに合点がいったことを、やよいさんとお話しました。
ナジーブ・エルカッシュさんが、「昔はよかった」と2010年以前にシリアを訪れた人は言うけれど、そうじゃないとおっしゃっている意味をあらためて噛み締めました。

景山咲子





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