イスラーム映画祭5 預言者ムハンマドの半生を描いた『アル・リサーラ/ザ・メッセージ アラブ・バージョン』  (咲)

イスラームの起源を描いた歴史大作

シリア人のムスタファ・アッカド監督がハリウッドで製作した預言者ムハンマドの半生『ザ・メッセージ 砂漠の旋風』(1977年日本公開)を、同じ設定でアラブ人の俳優を起用して製作したバージョンがあると知ったのは、2006年の第2回アラブ映画祭での「ムスタファ・アッカド監督追悼講演会」の折でした。ナジーブ・エルカシュさんがハリウッド版とアラブ版のいくつかの場面を比較して、違いを説明してくださいました。アラブ版をいつか観たいと思っていたのが実現しました。
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藤本高之さん、ほんとにありがとうございます!

1回限りの上映とあって、チケットは売り出しから30分程で売り切れました。
来年のイスラーム映画祭でも上映することを藤本さんは考えているようです。
見逃した方、来年、ぜひ!

『アル・リサーラ/ザ・メッセージ アラブ・バージョン』〈デジタル・リマスター〉
原題:Al-Risâlah
英題:The Message
監督:ムスタファ・アッカド / Moustapha Akkad
1976-2018年/リビア=モロッコ=エジプト=サウジアラビア/207分/アラビア語・英語

7世紀に誕生したイスラームの起源を描く歴史絵巻。
クライシュ族の名門ハーシム家に生まれたムハンマドは、40歳のある日、ヒラーの洞窟で唯一神(アッラー)の啓示を受ける。教えを広めるが、多神教の根強いマッカの支配層に迫害されてしまう。信徒たちとマディーナに移住しイスラーム共同体を結成する。やがてマッカも治め、アラビア半島を統一する。

◆上映前に藤本さんより映画を見る上での簡単な解説がありました。

主人公の預言者ムハンマドは、声も姿も描かれていない。
ムハンマド以外にも、正統カリフの4人、最初の15歳年上の妻ハディージャ、彼女との間に生まれた6人の子、ハディージャ亡き後に娶った妻たちと、その間に生まれた息子子1人も出てこない。
助演の人たちによって主役を描いている。
叔父ハムザ(ムハンマドの父の弟):ポスターの男性。映画が始まってから45分ほどして馬に乗って出てくる。
最初に出てくるのは、伯父のアブー・ターリブ。ムハンマドをバックアップしていた人物。
映画は、ムハンマドが610年に啓示を受けて、632年に亡くなるまでの22年間を3時間半で描いている。

「1時間23分頃、ヒジュラ(移動)するところで休憩が入ります。
ここがウンマ(イスラーム共同体)だと思ってお楽しみください」

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ムハンマドが神の啓示を受け、いかに教えを広めていったかが、壮大な沙漠を背景に描かれ、ついにはマッカの多神教を信じていた人たちをも信徒となる。

最後の場面では、イラン・イスファハーンの王のモスク(現イマーム・モスク)、スペイン・アルハンブラ宮殿、トルコ、カザン?、インドネシア、アフリカなど各地のモスクと祈りの様子が映され、世界各地にイスラームの教えが広まったことが示されました。
一番最後は、イスファハーンの王のモスクが夕陽の中に映るシルエット。
映画が作られた当時は、イランはまだイスラーム政権ではなかったことを思うと複雑な思いがあります。(いろいろな思いがありますが、ここでは伏せておきます)


◆上映後トーク 《ムスタファ・アッカド没後15年――アメリカにイスラームを伝えようとした男》
【ゲスト】ナジーブ・エルカシュさん(ジャーナリスト
「リサーラ・メディア」代表 https://risala.tv/

「アル・リサーラ」は、メッセージという意味
ナジーブさんの会社名「リサーラ・メディア・プロダクション」

メディアはメッセージ性をはずせない。
どのメディアや作品でもメッセージ性が入る。
作った人の見方が入る。
アッカド監督は、アラブ映画の中でも独特の考え方を持った方。
監督の町アレッポの料理は手間をかけたもの。49の前菜  オリーブの木は30種以上。私(エルカッシュさん)の海辺の町の料理はシンプル。アレッポは保守的でありながら、文化を大事にしていて、食事が終わると楽器を奏でるような町。

アレッポは様々な宗派の人が住む町。
かつては難民を受け入れていた町だった。
第二次世界大戦の時、ナチスがギリシャに入ったとき、15000人位のギリシャ人をアレッポが受け入れた。
1915年、トルコのアルメニア人虐殺の時には、多くのアルメニア人を受け入れた。
ユダヤのシナゴーグも、アレッポのユダヤ人も独特。

アッカド監督の製作の動機は、「もやもや」
ハリウッド映画でアラブ人は悪いイメージ。
アリババは、本来英雄なのにハリウッドでは悪役。
アラディンをハリウッドが描くと途中でターバンがなくなる。
冒頭の歌。「あなたの顔が気にいらないと耳を切り取る」→ 抗議してはずさせた。

★2006年アラブ映画祭の折にあったナジーブさんの説明:
アッカド監督の生まれ育ったアレッポの町は、宗教的には保守的だが、芸術を愛する町で、色々な文化が交流してきた町でもある。イスラームが入る前に盛んだったキリスト教が今なお残り、両方の宗教が違和感なく存在する環境に育った監督は、18歳の時にアメリカに渡って、キリスト教徒がイスラーム教徒を敵対視する世界に直面する。それを悲しみ、ハリウッドで「アラブを洗濯して綺麗な状態で」欧米人に見せたいという思いで『ザ・メッセージ 砂漠の旋風』『砂漠のライオン』などの映画を作ったという。
アッカド監督は、2005年11月、ヨルダンの首都アンマンで起こったホテル連続爆弾テロに巻き込まれて亡くなられた。アラブのプロパガンダの為に情熱を注いだ監督が、このような最期を遂げたのは皮肉なことだ。


◆ハリウッド版とアラブ版の比較
アラビア語・アラブ映画に詳しい金子(勝畑)冬実さんのブログに、二つの「ザ・メッセージ」の違いが詳しく書かれています。ぜひお読みください。  
https://note.com/fakihaalshita/n/nf3fa4ff137ac

景山咲子

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