東京フィルメックス 『完全な候補者』 サウジアラビア社会の変貌しつつある今を描いた作品 (咲)

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特別招待作品
『完全な候補者』
The Perfect Candidate
サウジアラビア、ドイツ / 2019 年/ 101分
監督:ハイファ・アル=マンスール(Haifaa Al MANSOUR)

*物語*
サウジアラビアの小さな町の病院に勤める女医のマリアム。
病院前の泥道を救急搬送されてきた老人。女医は嫌だと拒否するが、病院には医者は彼女しかいない。
ドバイに行く為、空港に行くと父親の出国許可の期限が切れているので、新たに許可を貰って来いと言われる。
音楽家の父親は楽団のツアー中なので、親族ラシドの勤務先の選挙事務所を訪ねる。ラシドには選挙の立候補者じゃないと会えないといわれ、「じゃ、立候補する」と言って、ラシドに会う。マリアムの言葉をさまたげ、立候補の書類に記入しサインをしろと言われる。やっと、父がツアーに出ていて出国許可をもらえないから、代わりに許可してくれと頼むが、自分には許可できないと断られてしまう。
こうなったら選挙に当選して、病院前の道路を直す!と宣言。

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資金集めにチャリティーバザーやアバヤのファッションショーを開き、テレビでも「古い考え方を変えさせる為、男女問わず投票してほしい」とアピールする。

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病院では、老人の足の病状を男の看護士が見落としていて、一刻も早く手術をしないといけない状況。手術は成功し、感謝される。
いよいよ投票日。マリアムは当選するのか・・・


冒頭、ニカーブで顔を隠した女性が車を運転していて、爽快。サウジアラビアで女性の運転が認められたのは、2018年6月のこと。
成り行きでマリアムは選挙に立候補するのですが、サウジアラビアの自治評議会(地方議会に相当)選挙で、女性に初めて選挙権と被選挙権が認められたのは、2015年12月12日のこと。どちらも、やっと最近女性に認められた権利なのです。
出国に際し、父親もしくは親族の男性の許可が必要でしたが、こちらも最近不要になったそうです。

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女性だけでなく、マリアムの父親は音楽家ということで、肩身の狭い思いをしています。音楽を良しとしない人たちがいまだにいることを教えてくれます。
映画の中で、「サウジアラビア芸術センターが国立の楽団を作るらしい」という言葉が出て来て、やっと音楽も日の目をみる時代が来たことを感じさせてくれます。
イスラームの教えの解釈が何かと厳しいサウジアラビア。禁止だった映画館も解禁になり、コンサートホールやギャラリーも増えてきているそうです。
本作は、様々なことが変わりつつあるサウジアラビアで、女性が力を発揮できることを暗示しています。女性の意識改革がもちろん第一ですが、男性の理解なくしては、羽ばたけません。女性たちの力で、男性至上主義のサウジアラビア社会を根底から変えていってほしいものです。

ハイファ・アル=マンスール監督は、2012年に『少女は自転車にのって』(サウジアラビア・ドイツ)で、鮮烈な長編映画デビュー。当時は、女性が通勤用で自転車に乗ることを禁じられていました。屋外の撮影では、車の中から指示を出したそうです。
★シネマジャーナル89号に、ドイツでの松山文子さんによるハイファ・アル=マンスール監督インタビューを掲載しています。
作品紹介はこちら

長編2作目『メアリーの総て』 (2017年/イギリス・ルクセンブルク・アメリカ)は、エル・ファニングを主演にした、フランケンシュタインを生み出したメアリー・シェリーの人生。イギリスで女性が蔑まれていた時代に、不条理と闘う姿を描いていました。
作品紹介はこちら

3作目の『おとぎ話を忘れたくて』(2018年/米)は、Netflixで配信されたロマンチック・コメディ。未見ですが、広告会社の重役をしている女性が人生を見つめ直す内容のようです。
そして、4作目で再び故国サウジアラビアを舞台に女性の権利についての物語。
サウジアラビア社会の変化を追う作品を、今後も期待したい監督です。

景山咲子






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