東京フィルメックスのメイン会場である朝日ホールが入っている有楽町マリオンビル9階に、「コニカミノルタプラネタリアTOKYO」がオープンし、VR作品の上映が可能になったことより、VRプログラム上映が企画されました。
初めてのVRプログラムとして上映されたのは、ヴェネチア国際映画祭VR部門コンペティション出品作品である『戦場の讃歌』。
フィルメックスの会期中、1日3回上映され、11月30日には、イスラエルより監督を招いてのトークイベントも開催されました。
イスラエルの作品なので、これは観なくてはと、時間を捻出しました。
初めて体験したVR作品と、トークの模様をお届けします。
◆『戦場の讃歌』 原題: Battle Hymn
イスラエル / 2019 / 11分. ※日本語字幕ナシ、英語字幕付き
監督:ヤイール・アグモン(Yair AGMON)
Director:ヤイール・アグモン(Yair AGMON)
毎晩多くのイスラエル国防軍(IDF)の兵士たちがヨルダン川西岸地区のパレスチナの村でたくさんの拘束任務を行っている。イスラエル国防軍の根本的なルーティーンが一時的なピークに達するのを、映画「Battle Hymn(讃歌)」は観客にみせる。そこには男らしさと恥、強さと弱さ、卑しさと権力が混在する。こうしてこの映画は、現実と非現実、そして私が家と呼ぶこの狂った悲しいシュールな場所について物語るのだ。2019年ヴェネチア国際映画祭にて上映。(公式サイトより)
© 2019 Yalla films – Tal Bacher &Yair Agmon, All Rights Reserved
「コニカミノルタプラネタリアTOKYO」は、広々としたロビーの両脇に、上映や展示、グッズや飲食物の販売コーナーがあって、ちょっと近未来的な空間。
上映コーナーには、大きなカプセル型のソファが向かい合わせに並んでいて、え? スクリーンはどこに? とVRが何かを知らなかった私!
そも、たった11分の作品なのに、千円? という思いも。
(すみません・・・ プレス枠で拝見したので、私は払ってないのですが)
開始時間になり、指定席に案内され、VRを観るための器具を頭に装着。結構重たくて、うっとうしいです。画面は双眼鏡のように覗き、音はヘッドフォンから聴こえてきます。
銃を手入れしながら、きわどい雑談をする兵士たち。
上下左右に画面が広がり、うつむくと、まるで私の手のように、私の位置にいる兵士の手が見えます。
夜になり、点呼が行われ、7人の兵士は車に乗ってパレスチナ人の家へ。
アラビア語で「全員出て来い!」と叫び、母親と子どもたち、そして父親が出てきます。
「息子のファディはどこにいる?」
「友達の家」
犬が吠える。
ヤツは中に違いないと、2階にあがっていく兵士たち。
ファディを捕まえ、手を縛り、目隠しして、車で連れていく。
基地に戻り、ファディを見張る兵士たち。
ファディが目隠しされたまま歌いだす。
アラビア語だが、イスラエルの守護神を称える歌。
いつしか、イスラエル兵たちも口ずさみ、楽器を持っている者は伴奏する・・・
****
日常茶飯事で行われているイスラエル兵によるパレスチナ人の掃討作戦。
夜中に押しかけ、無理矢理連行することに慣れっこになっている兵士たち。
一方、夜も落ち着いて眠れないパレスチナの人たち・・・
なんとも、理不尽。
捉えられたパレスチナの青年が歌うのが、アラビア語とはいえ、イスラエル賛歌というのが、ちょっと解せない気もしましたが、皆で一緒に歌う姿は、監督なりの和平への願いと感じました。
監督の思いが聞きたくて、トークイベントに参加しました。
(イラン大使館での講演会を中座してまで!)
◆VRプログラム「戦場の讃歌」について監督に聞く。
2019年11月30日(土)4時~5時
有楽町朝日スクエア
登壇者:
ヤイール・アグモン(監督)
タル・バッファ(プロデューサー)
司会:市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
通訳:松下由美
★トークイベント
市山:VRをフィルメックスで上映するのは初めてなのですが、今回1本だけ上映できることになりました。
監督:2回目の日本です。私たちはVRの可能性を強く信じています。
タール:今回は機会をいただきありがとうございます。
私たちは一緒に兵役についたことがあって、ある程度経験に基づいて描きました。
市山:ヤイールさんはこれまでVR作品の経験は?
監督:VRは初作品。これまでドキュメンタリーを撮っていました。イスラエルのファンドを使ってVRで撮れるのでやってみようとタールさんから言われました。
市山:劇映画は?
監督:長編はないです。短編ではフィクションも撮っています。
司会:VRのファンドについて、タールさん、教えてください。
タール:イスラエルでファンドというと、ほぼ公的なもの。今回のファンドは、新しいメディアのもので、短編かつドキュメンタリーという枠組みでした。金額は、わずかなものでした。
司会:どれくらい?
タール:すべてこのファンドで作りました。
監督:200万円弱です。
市山:年間に何本もVRは作られているのでしょうか?
監督:昨年は、6つのプログラムがVRで作られました。
今年は4つのプログラム。カナダのファンドも入っています。
市山:日本ではVR作品は、どちらかというとゲームの為に作られています。
このようなアーティスティックなVRはあまり観たことがなかったので、どういう仕組みで作られたのか気になっています。
監督:イスラエルでは、ゲームの為には限られています。一方、VRは映画業界からは全く無視されているので、手掛けながら学んでいきました。作る上でテーマに制限はないのですが、環境、エネルギーなどがいいのかなと思いました。会話のある劇が好まれることを学びつつ、ほとんどワンショットでシチュエーションを決めて撮るのが適していると学びました。
市山:本来、VRで描くのなら、攻撃されたり、銃撃戦が起こったり、すごいことが起こるのではないかと思ったのですが、淡々と進んでいって、逆にある種の恐怖感が伝わってきて感動しました。このような作り方は意識的にされたのでしょうか?
監督:シンプルにストーリーを伝えることに注力しました。私も兵士だった時、指揮官として夜、逮捕する仕事をして大変だったのですが、恋人や家族にそのつらさを伝えるのは難しいものでした。戦争があって、兵士が国を守っているという状況があるわけです。目標として、自分の母にわかってもらえるようなものをリアルに作ろうと二人で話し合いました。俳優が出演していますが、彼らも従軍していますので、充分知った上で演じています。唯一、リアルでないのは最後のシーンです。
市山:11分という時間で、すぐに終わるなと思っていたら、実際観終わってみたら、結構ヘビーで、これぐらいが充分だと思いました。長さはどのように決めたのですか?
監督:ストーリーがよければ、長くてもいけるのではないかと思っています。
*会場よりQ&A*
― カメラの位置は? あたかも自分が登場人物のようでした。
監督:まさに、観ている人の視点で映画が展開します。タールさんの弟さんにヘルメットをかぶって貰って、その上にマネキンのようなものにカメラを持たせて撮りました。
― 何がVRに適しているのでしょうか?
監督:まさに今問われるべきことだと思います。答えを持ち合わせていませんが、軍隊の状況を伝えるとか、複数の人が一緒に行動すること、たばこを吸っておしゃべりするような、二人以上の状況を作って伝えるのが適しているのではないかと思います。
カメラをどこに置くのかが重要。部屋のどこかに置いたのでは、面白くありません。
人の上に置けば、人の視線になります。
車にカメラを設置して、渋滞の中で人がいらいらする姿を見せることも考えています。
― VRの使い方が発展している中で、よりゲーム的なものを考えていますか?
監督:この映画の設定は、ゲームとして機能するのではとタールは言っていますが、私自身はゲームは好きじゃありません。ヴェネチア国際映画祭に参加したのですが、インストラクテォイブなものが多かったです。
タール:すでにあるものをVRで伝えるということも出来ると思います。
市山:私もこの作品をヴェネチアのVR部門で観たのですが、台湾の『ニーナ・ウー』のメイキングがあって、そちらとどちらにしようかと最後まで迷ってました。
監督:そっちの方が出来がいいから、そちらを呼ぶべきでしたね。(笑)
― リアルで下を観ると手許が見えて不思議な感覚でした。アラブの人の逮捕シーンもリアルなのに、最後がファンタジー。イスラエルの兵士を経験したり、アラブの逮捕された経験者の方の感想を聞かれたことはありますか?
監督:あまり上映の機会がなくて、今、ハイファの映画祭で上映されています。とてもリアルだという反応
エンディングは、イスラエルの人にとって、とてもパワフル。捕まったパレスチナの彼が歌うのは、とても有名なもので、歌というより通常はシナゴーグで唱えられるもの。それをアラビア語で歌っていて、兵士たちが彼のバンドになるというもので、とても人々に響くものがあって話題になっています。
監督:イスラエル国籍のパレスチナ人の友達がいるのですが、兵士の経験はとてもつらいものだったと打ち明けてくれました。
注:『テルアビブ・オン・ファイア』サメフ・ゾアビ監督(イスラエル国籍のパレスチナ人)にインタビューした折に、「イスラエル国籍のパレスチナ人には兵役は義務ではありません。志願はできますが、99%は、兵役につきません」と伺いました。ヤイール監督のご友人は、奇特な1%のパレスチナ人ということになります。
市山:残念ながら、時間になりました。本日はありがとうございました。
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