東京国際映画祭『ジャスト 6.5』(イラン) 監督&俳優インタビュー

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コンペティション 最優秀監督賞 & 最優秀男優賞
『ジャスト 6.5』  
原題:metri shesh va nim  英題:Just 6.5  

監督:サイード・ルスタイ
出演:ペイマン・モアディ、ナヴィド・モハマドザデー、ファルハド・アスラニ
2019年/イラン/ペルシア語/134分/カラー

イランで大ヒット。警察と麻薬組織の対決を描いたスピーディーな娯楽大作。
麻薬撲滅警察特別チームのサマド(ペイマン・モアディ)は、末端の売人たちを検挙する。多くはホームレスや貧しい者たちだ。やがて、元締めがナセル・ハクザド(ナヴィド・モハマドザデー)だと突き止める・・・
★物語の詳細を、この記事の末尾に掲載しています。

◎インタビュー

11月3日、サイード・ルスタイ監督と、ナヴィド・モハマドザデーさんにインタビューの機会をいただきました。
2日の記者会見と、Q&Aを踏まえて、お話を伺いました。

◆家族の絆が強いイラン社会
― 2か月ほど前にイランで大ヒットしていると聞いて、ぜひ観たかった映画でした。東京国際映画祭で日本語字幕で見られるとわかって嬉しかったです。

ナヴィド:映画、よかったですか?

― はい。とてもよかったです。スピーディで迫力のある映画で楽しみました。若い力だなと思いました。

監督:
メルスィー!

― イランが、家族の絆の強い社会であることを深く感じることのできる映画でした。

監督:まさにそうです。


◆自分の人生の物語という感想も多い

― 同時に、麻薬にかかわる人が、イランでものすごく増えている状況も知ることができました。イランで、実際に麻薬にかかわった人や、その家族からの感想をお聞きになったことはありますか?

監督:コメントは、たくさん貰っています。「自分の人生の物語だね」という人も多くいます。テヘラン以外のいろいろな町からもコメントが届いています。
興味深かったのは、麻薬とはまったく係わりのない人も、伝わってきたと言ってくれたことです。
イランの社会派映画の歴史の中で、ナンバーワンの興行成績です。

ナヴィド:僕のところにも、今もたくさんコメントが届いています。自分の家族にもいたという人も多くいます。


◆人生の最期に少年時代が頭をよぎる
― 処刑前の家族との面会の場面に涙が出ました。
少年が、バック転をして見せるところは、とても美しくて、詩の一篇を観ているようでした。あの場面をいれようと思ったのは?

ナヴィド:
映画でなく、自分のこととして考えても、人が死んでしまうとわかる時、子ども時代のことを思い出すと思います。あの場面は、自分の兄弟が死んでしまうという機におよんで、甥がバック転を見せることで、「もう最後だね」と。 

― 日本では、走馬灯のように思い出が頭の中を駆け巡るという表現をします。

監督:
あの家族との最後の面談シーンが感動的なのは、ナセルが完全な悪人でないことがわかるからだと思います。ヤクザの親分で怪我をしていたり、頭の中がキチガイのようで、麻薬取引に関わったのは間違いだったとしても、家族のためだったと感じることができるからだと思います。

◆絞首刑の撮影前に1週間悩み白髪に
― 何人もまとめて絞首刑にする場面には、涙がでました。朝の5時ですね。すごくショッキングで、麻薬撲滅の助けになる一番の場面だと思いました。

ナヴィド&監督:そうだね。麻薬中毒の人もやめようと思うよね。

― ナヴィドさんの演技が、ほんとに素晴らしくて、ほんとの涙のようでした。絞首刑の場面の時のお気持ちは?
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ナヴィド:とても難しい場面でした。1週間苦しみました。だから白髪も増えました。(先ほどのQ&Aで言っていたこと)
足元が突然消えるというのは、映画の撮影だとわかっていても、キャラクターが中に入ってしまっていて、ほんとに苦しかったです。

◆寝る時に靴を履いていると落ち着く
― 元婚約者のエルハムが、「ナヴィドは変な人で、寝るときに靴を履いてると落ち着くの」と言ってましたが、靴を履いていれば、警察が来ても、すぐに逃げられるからですよね。

監督:
まさにそのために入れた台詞です。あなたが初めてそのことを指摘くださいました。わかってくださって嬉しいです。日本人は細かく観てますね。

ナヴィド:ほんとに日本人はほかの国の人たちと違うね。

― アメリカ人やヨーロッパの人は家で靴を履いていることも多いですよね。イラン人も日本人も家の中では靴を脱いでいるので、文化が似ていると思います。

二人:まさにそうだね。
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◆警官も悪人も人間として描いた
― 警官の背負っている家族の問題や、麻薬捜査官という立場で、押収した麻薬を自分のものにしてお金にしているのではないかとか、賄賂を受け取っているのではないかという疑いをかけられる苦悩を、とてもうまく描いていました。

監督:麻薬中毒の人や悪人を描いているけれど、一人一人は人間。警官も制服を着ている時は警官だけど、彼にも人生があるし生活があるので、人間として扱った方がいいと思いました。
現実的に映画を描きたかったので、裏表の気持ちや、抱えている家族の問題なども描きました。一人一人に人生があります。人間としての警官に視点を置きました。

― 麻薬王と警官のそれぞれの人生の描き方がとてもバランスが取れていました。

監督:
この映画を観る時、警官の感情も見ることができるのは、警官も人間として扱って撮っているからです。人間として迷いもある。やっていることが正しいかどうかもわからない。両親のことや経済的にも問題を抱えていて悩んでいます。白か黒かでなく、グレーな感じで描いているので、彼のことにも感情移入できるのだと思います。
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◆底辺の人たちのリアルな姿
― ホームレスの人たちが、土管の中で暮らしている場面がありましたが、実在する場所で撮ったのでしょうか?

監督:実際、あのような場所で暮らしている貧しい人たちがいるのですが、あれはセットとして作りました。麻薬中毒の人たちは、意識が朦朧としていて穴を見つけたら入って寝るというようなところがあって、未使用の掘ってあるお墓に入って寝る人もいます。絵的に土管を重ねたものがいいなと、あの場面を作りました。

― 捕まった人たちが一斉に裸にされた場所で、脱げないという女の子たちがいましたね。
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© Iranian Independents

◆麻薬売人が増え続ける様をドローンで描いた
― 最後のドローンで撮った場面ですが、終わってから友人たちと話した中で、意味がわからなかったという人もいました。大勢の麻薬の売人が、大勢の警官に追いかけられていると私は思ったのですが・・・

監督:はい、その解釈の通りです。あの場面は、朝8時頃に撮影を開始しました。ハイウェーの遠くのところに、わざと車を止めて渋滞を作りました。
渋滞の中で役者さんたちに車の間を走ってもらいました。でも、一旦、渋滞してしまうとテヘランの高速道路はなかなか渋滞が解消しなくて、大変なことになって夜の12時頃まで続いていました。大勢の人に迷惑をかけてしまいました。


◆映画界の超一流の方たちが結集してくださった
― 音楽がペイマン・ヤズダニアンさんで素晴らしかったです。 

監督:神様に感謝しなくてはいけないのですが、運が良くて、 1作目から、イラン映画界のそれぞれの分野で超一流の才能のある有名な方たちが集まってくださいました。

― まだ駆け出しの若い監督さんなのに、素晴らしいですね。ほんとに皆さん、監督の力量を信じて集まったのですね。

― ナヴィドさん、三船敏郎さんを尊敬していると先程Q&Aでおっしゃっていましたが、三船敏郎さんへの思いをお聞かせください。

ナヴィド:
 すごくゴージャスで、勇気のある人。アジアの中で一番の役者さんだと思います。

― ナヴィドさんも、きっとそうなります!

― 次の作品は?

監督:来年には撮影に入ります。 
(ほかのインタビューでも聞かれたけれど、内容については一切明かしてないと、ショーレさん)

― どんな映画を作り出してくださるのか、楽しみにお待ちしています。
そして、きっとコンペティション部門で賞を取ると確信しています。

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*取材を終えて*
実は、コンペティション部門の作品をあまり観ていなかったのですが、この映画の持つ力をずっしり感じて、何か受賞すると確信していました。
みごと、最優秀監督賞と最優秀男優賞をダブル受賞!
どちらかしか受賞しなかったら、喧嘩になるところだったとコメントしていました。
二人は、ほんとに仲良し。インタビュー中も、すぐにじゃれ合っていました。
私の胸元のアッラーの名前の書かれたペンダントに気が付いた時にも、おぉ~っと一緒に指差す二人。
「ムスリマ ニィースタム(イスラム教徒じゃないです)」と私が言うと、私の後ろで待機していたイランの男性が「イラーニー ニィースタム(イラン人ではありません)」と呼応。二人が、「あいつはハーエン(裏切者)だよ」と大笑い。撮影現場も、きっとこんな感じだったのでしょう。
ほんとに、今後に期待です。

報告:景山咲子




『ジャスト 6.5』
*物語をもっと!
麻薬依存者であふれる町。
麻薬撲滅警察特別チームのサマド(ペイマン・モアディ)は、末端の売人たちを検挙する。多くはホームレスや貧しい者たちだ。やがて、元締めがナセル・ハクザド(ナヴィド・モハマドザデー)だと突き止める。彼が潜む贅を尽くしたホテルのペントハウスに検挙しに行くが、ナセルは自殺を図っていた・・・

冒頭、麻薬の売人を追いかける警察。売人が麻薬の入った袋を放り投げて逃げる・・・
迫力ある追跡シーン。下っ端の売人から、徐々に組織の上層部を暴いていく。そして、ついに姪がボスの婚約者だったという男から、ボスの居場所を突き止める。
家庭に問題を抱えた麻薬捜査官が、貧しい家から這い上がって麻薬王となった男を問い詰める。ついに絞首刑になる麻薬王。
息もつかせぬスピーディな転回。そんな中で、麻薬捜査官、麻薬王、そして末端の貧しい売人、それぞれの家族のことも丁寧に描いている。一つ一つのエピソードが面白い。

貧しい売人の家宅捜査の場面。
「父はバイクでナンを買いにいっている」という少年。
狭い家のどこにもヤクはない。苦情を申し入れると母親。
やがて父が帰ってくる。
犬にヤクを探させる。犬が吠えかかったのは母親だった・・・
警察で取り調べを受ける少年。
「ピザかキャバブ、どっちがいい?」と聞かれ、ピザと答える少年。
今どきの子ども!

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© Iranian Independents

警部:あの世でいい生活をしたきゃ、手先4人を助けろ。
ナセル:密告者は許さない。口座番号を教えろ。10年分の給料を振り込んでやる。
警部:一人につき、20億振り込んでくれれば助けてやる。
ナセル:プラス10億で。
警部:最終値? プラス10億で!
*麻薬王が捜査官に賄賂を持ちかけ、駆け引きする様が、やっぱりイラン人!

10人ほどが一斉に首を吊られる絞首刑の場面は、圧巻。
まだ陽の昇る前。午前5時。

死刑執行前には、家族と最後の面会。
兄が麻薬で稼いだお金で、留学したり、広い家に住んでいたりした家族。
これまで贅沢させてもらったと感謝する。
小学生の甥っ子が、バック転を披露する。
別れを告げ、人のすれ違うことの出来ない狭い路地を通って、古い家に帰る。
兄のあてがってくれた広い家ではなくて・・・

タイトルにある6.5は、麻薬捜査官が「僕が警察に入った頃は、100万人だった麻薬中毒者が、今や650万人で、6.5倍になった」と嘆く言葉に由来しています。イランの人口が、約8000万人ですから、1割弱。

11月2日から岩波ホールで公開されているイランのドキュメンタリー映画『少女は夜明けに夢をみる』でも、更生施設に収容されている少女の多くが、親や本人が麻薬に関わっています。
仕事がなく、貧困層は手っ取り早い麻薬で稼ぐしかない状況が浮かび上がってきます。
アメリカによる経済制裁の影響も多々あると思います。
麻薬に頼らずに、健全で豊かな暮らしの出来る社会になることを願ってやみません。

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