『50人の宣誓』
原題:Ghasam 英題:The Oath
監督:モーセン・タナバンデ
出演:マーナズ・アフシャル、サイド・アガカニ、ハサン・プールシラズィ
2019年/イラン/ペルシャ語/85分/カラー
*物語*
妹を殺された主婦ラズィエ。妹を殺した妹の夫を死刑にするには、親族の男性50人の証人が必要だ。一族を乗せたバスは、裁判所のあるマシュハドの町を目指す・・・。
イラン特有の法制度を背景にしたドラマ。
https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32ASF04
11/02(土) 18:10~ 11/04(月) 11:05~の2回上映されました。
◎11月4日(月)15:20からの上映後Q&A
登壇者:モーセン・タナバンデ監督
司会:石坂健治さん
通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん

司会:2回目の上映になりますが、あらためて挨拶をお願いします。
監督:東京国際映画祭で上映されて嬉しく思っています。
司会:1回目の上映後のQ&Aセッションでは、法律についての質問が出て、説明してくださいました。今日は映画について伺いたいと思います。あれだけの出演人数を狭いバスの中で撮影するのは大変だったと思います。どのように撮影されたのでしょう?
監督:狭い中での撮影は難しいので、考えて2台のバスを使いました。1台は運転手を映すため、普通に動かしました。客席の人たちは、タイヤをはずしたバスをトレーラーの上に載せて撮りました。バスの通路と天井にレールを敷いて、カメラを動かすことをカメラマンが考えてくれました。
窓の外から撮影する時には、トレーラーの上のバスの脇にバスケットをつけて、そこにカメラマンが乗って、中を撮りました。
― バスについて伺います。レトロな感じのバスはどのように選んだのでしょうか?
監督:バスに乗る人たちが、どういう人かを考えて、その地域の人がどのようなバスに乗っているかを考えました。バスのモデルよりも、どういう道を通るか背景の景色も考えて、バスの色も含めて決めました。
(注:物語は、カスピ海西側のゴルガーンの町から、アフガニスタンの国境に近いマシュハドを目指すのですが、後で監督に伺ったら、実際にそのルートを使って撮影したとのことでした)
司会:最後にバスは水に入ってしまいますが、あれでバスはお陀仏でしょうか?
監督:その通りです。
― 脚本はどれ位作りこんだのですか? 完全にリハーサルをしたのでしょうか? それともある程度アドリブも入ったのでしょうか?
監督:主役の女性と、運転手の二人は有名な俳優。他の人たちは、小さな町の舞台俳優からオーディションで選びました。映画は初めての方たちでした。座る位置も完全に考えて、台詞もすべて考えました。主役の彼女の台詞のどれ位あとに話すかも完全に決めていました。映画の役者を使わなかったのは、現実に近づいたナチュラルなものにしたかったからです。主役の彼女が、位置をかなり変えるのも、台詞を言わせたい人のそばに行かせたいので、私から指示しました。

©Persia Film Distribution
石坂:アジアの未来のもう1本のイラン映画『死神の来ない村』も、ほとんどが素人なのに芸達者でびっくりしました。
監督:一番難しいのは、素人とプロの役者のバランスを取ることです。プロに押さえた演技をして、素人に近づけてもらうのが一番大変でした。
― 文化的なことや宗教的なことも描かれていたのですが、人間ドラマとして家族間の考えの違いもありました。監督としては、どういうことを意識して作られたのでしょうか?
監督:イスラームで神様に誓うことは、もっとも重いことです。簡単に誓うと言いたくないのです。バスの中の人たちは、これまで簡単に神様に宣誓してきた人たちです。娘の恋人を許せないので嘘をついて刑務所に入れたりした人たちが、今回は死刑になるかどうかの宣誓をするのですから。自分に責任を持たないで宣誓する人が多いことに疑問を持っていたので、この脚本を書きました。イスラームの中で、ガッサーメという宣誓の儀式は、裁判官が簡単に判決をくだせない時に、50人に宣誓をしてもらいます。裁判所にきた証人を裁判官が受け入れなかった時にも、そのような方法を撮ります。証人は男性なら一人、女性なら二人必要です。子どもは証人になれません。例えば、私がショーレ(通訳の方)を殺してしまったとします。女性二人が目撃していたとしても、裁判官はその女性二人の証言だけでは受け入れられません。50人の宣誓の場合も、女性は受け入れられません。
― 被害者の家族が宣誓して無実の人が冤罪になることが問題になることもあるのではないでしょうか?
監督:もちろん、あります。殺された人の家族が、お金で証人を買って宣誓させて、無実の人が死刑になることもあります。嘘をついて証人した人たちは、法律違反なので、わかると捕まります。
― 近年のイラン映画は、部屋の中やバスの中のような密室で展開する映画が多いような気がします。
監督:是枝監督の『万引き家族』も家の中で話が展開します。ストーリーがあってのことだと思います。イラン映画の最近のブームというわけではないと思います。私の映画について言えば、語りたいものがこの形でないと作れなかったということです。
石坂:補足しますが、アジアの未来部門に、イランからは、応募が10倍位あって、色々なタイプのものがありました。最終的に選んだのが群集劇でした。
タナハンデさんはテレビドラマに役者としてよく出ていて、イランでは知らない人はいないという方です。今回映画をお撮りになったので、ショーレさんいわく、イランの北野武。演じていて、やはり映画を作りたくなったのでしょうか?
監督:役者をこのまま続けたいのですが、あるストーリーに出会った時に、私ならもっとうまく語れるのではと思い、自分で演出して作りたくなったのです。皆が観ているような有名なテレビドラマも自分で演出して出演もしています。
(イラン人の友人から、コメディードラマの役者として、とても有名な方と聞きました。真面目な面持ちから、コメディーを演じる方とは想像できませんでした。)
TOHOシネマズ六本木の入口前のテラスで、モーセン・タナバンデ監督のサイン会。
イラン大使館イラン文化センター長も家族で観にいらしてました。
少し前に終わった『湖上のリンゴ』のレイス・チェリッキ監督のサイン会も行われていました。
トルコ語通訳の野中さんが、時間が重なってなければ『50人の宣誓』を観たかったと残念がってました。それは恐らく、イランとトルコ両方が好きな人にとって、同じ悩み。
モーセン・タナバンデ監督とレイス・チェリッキ監督の嬉しいツーショット
報告:景山咲子
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