東京国際映画祭『死神の来ない村』(イラン) 11/2 Q&A 

★アジアの未来部門 国際交流基金アジアセンター特別賞
『死神の来ない村』

原題:piremard'ha nemimirand(老人たちは死なない) 英題:Old Men Never Die

監督:レザ・ジャマリ
出演:ナデル・マーディル、ハムドッラ・サルミ、サルマン・アッバシ
2019年/イラン/ペルシャ語、トルコ語/87分/カラー

*物語*
山深い風光明媚な温泉のある村。年老いた独身の男たちが村はずれで寄り添うように暮らしていている。死刑執行人をしていたアスランが、45年前にこの村に来て以来、ここでは誰一人として死んでいない。長寿の村と聞いて、病気がちの父親を連れて移住してきた女性の営むチャイハネに集うのが楽しみだ。皆、これまで愛を知らずに過ごしてきたことを悔いていて、ついに、一人がチャイハネの彼女に求婚する。が、察知した父親が他の若い男との結婚を決めてしまう。もう夢も希望もないと自殺を図る者も。駐屯する警察官たちは、老人たちが自殺しないよう見守る日々だ・・・
https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32ASF05

11/02(土) 18:10~ と 11/04(月) 11:05~の2回上映されました。

◎11月2日(土)18:10からの上映後 Q&A

登壇者:レザ・ジャマリ監督
司会:石坂健治さん   
通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん
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司会:ようこそお越しくださいました。

監督:長編デビュー作を一緒に東京で観るのを楽しみにしていました。ワールドプレミアで日本で上映いただき光栄に思っています。最後まで観ていただきましてありがとうございます。

司会:ロケ地について教えてください。

監督:
トルコに近いアゼルバイジャン州のアルデビールの町のまわりに美しい村がたくさんあります。険しい道を越えていく美しい場所にあります。映画のすべてはアルデビールの近くで撮りました。

司会:温泉がたくさんあるところなのですね。

監督:サーレインという有名な温泉地の近くに死火山があって、まわりには古い温泉地がいくつかあるのですが、その中から選びました。村人たちがいつも使っている温泉です。

司会:
女湯もあるのですか?

監督:午前中は女性用で、午後から男性用になります。おじいさんがメインの話なので午後の撮影が多かったのですが、一日貸切にしたことも数日ありました。

*会場よりQ&A
― 面白い映画でした。年老いた独身の男たちのコミュニティーが出てきましたが、実際似たようなコミュニティーがあるのですか? ないとしたら、なぜ思いついたのでしょうか? 話はもちろんフィクションだと思いますが。

監督:すべて私が想像したものです。結婚したことがなくて愛や恋の経験のない男たちが一緒に暮らしているのですが、恋もしてないことを後悔して、こんな人生はつまらないから自殺してしまおうと思っているさまを想像して描きました。

― 俳優のおじいさんたちの年齢は? ベテランの人たちですか? それとも素人でしょうか?

監督:70代以上の素人の人たちです。あの村の人もいましたが、オーディションで選んで別の村から連れてきた人もいます。素人なので、台詞を覚えるのは無理なので、前もって話をしておいて、細かいことはその場で指示しました。ジャバールという面白いおじいさんに、こういう風にと台詞をお願いして、先導してやってもらいました。
メインのアスランを演じた人だけは、舞台役者です。カメラの前で演じるのは初めてでした。他のおじいさんたちは、これまで刺激がなかったので、撮影現場をとても楽しんでくれました。

― (女性がペルシア語で) ユニークなアイディアはどこから浮かんだのですか?

監督:10年前に同じテーマで短編を作り、イランの映画祭で多くの賞を貰いました。批評家の方からぜひ長編をと言われました。いろいろ大変な中で準備したのですが、おじいさんたちを選ぶのが特に大変でした。

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― 言語について伺います。トルコ語とペルシア語が入り混じっている状況を選んだのはなぜですか?

監督:あの村ではトルコ語(アゼリー)で話しているのですが、45年間誰も死んでいないという話を聞いて、母親を亡くした娘が病気がちの父親を連れてきます。 よそから来た彼女たちはペルシア語を話しているという設定です。
(注:トルコ語といっても、トルコ共和国の国語であるトルコ語とは違って、「アゼリー」と呼ばれるアゼルバイジャン地方で使われているトルコ系の言葉。ペルシア語が母語のイラン人には解さない人が多いのですが、親のどちらかがアゼリーが母語だったり、まわりに話す人がいたりすると、聞いてわかるという人もいます。)

― 彼らはムスリムでしょうか? だとしたら、自殺は原罪にあたると思いますが、どういう状況で自殺しようとしたのでしょうか?

監督:
もちろんイスラームでは自殺はハラーム(禁忌)ですが、彼らは村はずれに住まいを作っていて、普通の村人よりも偏見を持っています。アスランも自殺は大罪だと知っているけれど、死なない状況の中で自殺を考え始めます。皆、自殺は罪だとわかっていても、もうこんな人生は嫌だと思っているのです。

― アスランさんの声がよく通るので、舞台俳優だとわかって納得しました。
アスランが温泉で自殺をはかるけど助かったあと、そばで歌を歌っていたおじいさんがいましたが、そのような役割をする人がいるのでしょうか? また、歌詞の内容は?

監督:アスランは舞台俳優で声が通るのですが、ほかの人たちが素人なので、声のトーンを抑えてもらいました。それでも、やっぱり声が通ります。
歌詞は、死なないで、人生には美しいものがたくさんあるのだからという内容です。

― 寓話的なオフビートのブラックコメディーでした。どいう映画作家に影響を受けてきましたか?

監督:
特に影響を受けた作家はいません。これまでに17本の短編を作ってきました。私が描くのは暗いテーマが多いので、明るい台詞や場面を入れるようにしています。これまでの作品もブラックコメディーのようなものが多いと思います。

司会:最後のひとことを!

監督:
サンキュー!
(短いひとことでした!)

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とても真面目な感じのレザ・ジャマリ監督でした。
故郷アルデビールの風光明媚な場所をたっぷりと見せてくださいました。
温泉で有名なサーレインの町は訪れたことがありますが、まさに温泉街で、熱海か草津のようでした!
このあたりは蜂蜜も有名なところで、温泉街には蜂蜜を売るお店が並んでいました。
映画に出てきた温泉は、ひっそりと味わい深いものでした。
岩と岩を結ぶつり橋も出てきました。いつか訪れてみたいと思いました。

取材:景山咲子




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