イスラーム映画祭4 『ナイジェリアのスーダンさん』安宅直子さんトーク(3/17)

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◆『ナイジェリアのスーダンさん』Sudani from Nigeria ☆日本初公開
監督:ザカリーヤ
2018年/インド/122分
南インド・マラヤーラム語映画。翻訳:藤井美佳さん。

*物語*
7人制サッカーチームのマネジャーを務めるマジード。父が亡くなり母は再婚したが、夜警をしている義父をマジードは受け入れなれないでいる。
彼のチームはナイジェリアから招聘したサミュエルの活躍で勝ち続けるが、ある日サミュエルが怪我をして入院してしまう。費用負担出来ないので、マジードは彼を自宅に引き取る。母と祖母は、サミュエルと言葉は通じないが一生懸命介護する。
サミュエルは内戦で両親を亡くし、国に祖母と妹たちを残して来ていた。ある日、祖母が亡くなったとの報が届く。国に帰りたいと泣くが、入院の時に預けたパスポートが見当たらない・・・


ナイジェリア出身なのにスーダン人と思われているサミュエルはクリスチャン。一方、マジード一家はムスリム。民族や宗教を越えた友情にほろりとさせられました。
本作でデビューしたザカリーヤ監督。マラヤーラム語映画界の新星として注目されています。
3月17日(日)13:15からの上映後には、本作の舞台である南インド・ケーララ州の事情や、セヴンスサッカーについて、マラヤーラム語映画に詳しい安宅直子さんを迎えてトークが行われました。

《宗教の交差路、南インド・ケーララ州とマラヤーラム語映画》
【ゲスト】 安宅直子さん(編集者/インド映画研究)
※宗教的マイノリティのエスニシティが自然に描かれる事が多い、マラヤーラム語映画の魅力に迫る。

◆監督からビデオメッセージ

ケーララ州では、セヴンスサッカーが盛んで、アフリカから来た選手も多いです。
実際にナイジェリアから来た選手が発熱して、8ヶ月皆が看病したけれど亡くなられたということがありました。是非映画にしたいと思ったのが本作製作のきっかけです。

◆安宅直子さんトーク  
聞き手:イスラーム映画祭主宰 藤本高之さん
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藤本:インド映画らしく、煙草の場面にはテロップがいちいち入りましたね。いつ頃から入るようになったのしょう?

安宅:10数年前から、中央政府の保険省の人が映画の中の喫煙シーンはけしからん、若者に影響を与えると、カットするわけにもいかないので、喫煙は危険とテロップを入れるようになりました。検閲局のゆるいところと、厳しいところがあって対応が違います。最初から外国の映画祭に出す場合は入れない可能性もあります。

藤本:かなりドメスティックな映画ですので、届いた時にテロップが入っていて興ざめも甚だしいと思ったのですが、そのままにしました。

安宅:ノーヘルでバイクに乗っているシーンも、ノーヘルだめと繰り返し入ってましたね。

藤本: 『バーフバリ』でもありましたね。

安宅:動物を相手に格闘しているシーンで、動物虐待していない、CGで作ってるとか、入りましたね。

藤本:わかってる!って

安宅:それなのに人間の首チョンはOK。
最近では危険な場所でセルフィーの場面では、「よい子は真似しない」とか。


*人口比率は低いのに、世界で3番目のムスリム大国インド
藤本:世界から見て、インドのイスラームは?

安宅:世界のイスラーム教徒の人口は、絶対数では、1位 インドネシア、2位 パキスタン 3位 インド 4位 ナイジェリア です。インドでは、1億8千万人がムスリムですが、人口比では、14.2%で、マイノリティーです。ヒンドゥー教徒が80%で圧倒的に多いです。ムスリムは一般的に低い階層です。不可触民と同じレベル。もちろん、1億8千万人もいますから、上層部にもいます。映画の大スター、3大カーンもムスリムです。

藤本:ケーララ州の宗教比率は、どうですか?

安宅:ケーララ州には、3つの地方があります。北から、マラバール、コーチ、トラヴァンコール。今回の映画の舞台はマラバールの一番北にあるマラップラムです。
ケーララ州でムスリムは、26.56%。インド全体では、14.2%ですから、構成比率が高いです。また、キリスト教徒は、18.38%ですが、インド全体では、2.3%。
マラバール地方にムスリムが多く、南にはキリスト教徒が多いです。
この映画の舞台マラップラムは特にムスリムの多いところです。

藤本:宗教的にみると、カシミールが今、問題になっていますね。

安宅:カシミールはインド独立まで藩王国だったところ。住民のほとんどがムスリムですが、王様がヒンドゥーで、ほんとは印パどちらにも帰属しないで独立したかった。パキスタン側から民兵の軍事攻撃があった時に、藩王がインド政府に助けを求め、国連が仲裁してL.O.C(Line of Control)が引かれ、未確定国境となりました。印パお互い領有権を主張して争っています。

藤本:去年上映した『熱風』が印パ分離独立をテーマにした映画でした。

安宅:ヒンドゥー映画に特にそれをテーマにしたものが多いので、ぜひ今後上映してください。

藤本: 『バンジュラギおじさんと、小さな迷子』がいい映画だったけど、ちょうど公開された後にカシミールで事件が起こりましたね。
ケーララに話を戻したいと思います。

安宅:ケーララ州のイスラームは伝説によれば、インドで一番古く、643年に貿易を通じて、アラブ人がもたらしたとされています。北インドのように、各地を通ってカイバル峠を越えてきたものではなく、アラブから直接入ったものです。北インドの影響が少ないイスラームです。スンニ派が大多数です。モスクも従来のものは丸いドームのものではないです。木造でヒンドゥー教の寺院と同じ作りです。今でも残っています。

藤本:基本的にモスクは、ドームを頂いたものでなく、礼拝する場ですね。

安宅:現在は世界中の交流が増えてきて、湾岸地区に出かける人もいて、最近は、ドーム型のも建てられています。
キリスト教も、古くて、イエスキリストの12使徒の聖トーマスが紀元後52年にケーララに伝えたといわれています。

*人情と誠実なサッカーの地 マラバール
安宅: 中心地は、カリカット(コーリーコード)。13世紀にカリカットを支配したヒンドゥーの王家ザモリンがアラブ商人を優遇。交易で富を得ました。改宗も奨励しました。16世紀、ポルトガルとの戦争に敗れ、ムスリム商人の特権が崩れ、ムスリムが内陸部に移住を余儀なくされました。おそらく移り住んだ先がマラップラムでした。ヒンドゥーの地主のもとで小作作業員になったり、沿岸部で漁民になったりしました。
一つ伝説がありまして、ザモリンより古い時代に、マスカットから交易をしたいとマラバールの海岸をあちこち訪ねたアラブ人が、挨拶廻りするのでデーツ(なつめやし)の入った壺を預かってくれないかと置いていきました。半年ほどして回収しにきたら、デーツはどこも皆、そのままあったそうです。デーツの底に隠してあった金貨はなくなっていたけど、カリカットに預けた壺だけはデーツだけでなく金貨もそのままだったということで、とても人がよくて誠実な人たちと言われています。

藤本: 気づかなったというわけじゃなくて?

安宅:そういう可能性もありますね。笑


*7人制のセヴンスサッカーとは?
安宅:ご存じのように、インドではクリケットが王様のスポーツです。サッカーを宣伝するのにクリケットの超国宝級の選手を使ったりするような風潮です。
クリケットの盛んなインドで、ケーララはサッカーが盛んな地域の一つ。
サッカーが盛んなのは、ケーララのほか、西ベンガル、『あまねき旋律』の舞台になった北東部(NIR)の8州。これにあえて付け加えるなら、ゴアですね。なぜかはわからないのですが。

藤本:ケーララと西ベンガルは共通して左翼政党の強いところですね。

安宅:左翼勢力とサッカーの関係ってよくわからないですが。
ケーララのサッカーは発祥は1950年代位です。
セブンサッカーは、FIFAの公式試合には認められないものです。
グラウンドに立てるのは7人の選手。試合は、60分。フィールドも小さいです。ルールは若干11人サッカーと違うらしいです。なぜ、広まったかというのはわからないのですが、一説には広いグラウンドがなかったからと言われています。
公式試合と認められていないのに結構人気で、スポンサーがついて、外国からの選手の招聘も可能になっています。

藤本:映画では、スタジアムで女性の観客があまり映ってなかったのですが、ほんとは女性も好きなのでしょうか?  そのあたりを知りたくて、僕と安宅さんとでいくつか質問を作って監督にずっと前から送っていたのに、全然返事をくれなくて、やっと二日前に届いたのが冒頭のメッセージでしたね。

安宅:
一番聞きたかったのは、なぜナイジェリアの人をスーダン人というのか、ですね。あの地方だけなのか、ケーララでアフリカ人のことをスーダン人というのかなど知りたかったのですが。

藤本:質問には答えてくれないけれど、イスラーム映画祭のfacebookには、ものすごく「いいね!」をしてくれるので、そこからたどっていろいろ質問してみたいですね。


*インドのアフリカ人
安宅:先祖代々住み着いているアフリカ人と、20世紀、21世紀になって、留学や商売で来ているアフリカ人の2種類があります。
先祖代々住み着いている人たちは、俗にシッディー、シーディーと言われています。
大航海時代にポルトガルの奴隷貿易で連れて来られた人たちです。多くはムスリムで、一部ヒンドゥーもいます。グジャラート州やカルナータカ州に特に多いと言われています。人口は、2万とも5万とも言われています。住む地域によって言語が違って、もうお互い言葉も通じません。アフリカのどこから連れて来たのかの記憶もほとんどなくて、母語も住んでいる地域の言葉です。音楽や踊りにアフリカ的要素が残存しています。色が黒いことから差別されています。インド人は色の白さを尊ぶ人たちで、肌の色に対する差別があります。

*イスラミケイト(Islamicate)映画とは?
安宅:Islamic 映画ではなく、Islamicate映画。ジャンルは一般のインド人にはピンとこないと思うのですが、批評家や研究者にとって大事なものです。商業映画のジャンルの中に、ソーシャルという現代を描く作品があって、圧倒的に多いのですが、その中にサブジャンルとして、ムスリムが登場する「イスラミケイト映画」があります。ムスリム・ソーシャルともいいます。
イスラームの教義上、アッラーや預言者を描けませんよね。メインの登場人物としてムスリムが現われる作品をイスラミケイトと呼んでいますが、減少傾向にあります。

藤本:イスラーム映画祭もイスラミケイト映画祭と言わないといけないですね。

安宅:そうではないと思います。ほかのジャンルが圧倒的にあるインドだからこそで、イスラーム圏の国ではすべてがムスリムの出て来る映画だと思いますので。

藤本:イスラーム映画祭も、立ち上げる時に、イスラーム映画なんてものはないと散々怒られたのですが、イベントを打ち立てるのにわかりやすい方がいいので、イスラーム映画祭(仮)としていたのですが、時間がきて、そのままイスラーム映画祭にしました。毎年、イスラーム映画というのはないと4年間言い続けています。

安宅:一つ注意しないといけないのは、イスラミケイト映画は必ずしもイスラーム教徒だけを相手に作られているわけではなくて、インドの人すべてを対象に作られたものということです。監督や出演者もムスリムだけでなく、様々です。
北インドのいわゆるボリウッドといわれるヒンディー語・ウルドゥー語映画においては、分厚い蓄積があります。
『十四夜』『熱風』『踊り子』『ガリボーイ』(ヒット中)『アルターフ』(DVDあり。原題がMission Kashimir)『Haider』もカシミールを舞台にしたものです。
南インドでは、イスラミケイト映画は極めて低調で、ムスリムの多いマラヤーラム語圏のみです。
インドで上映される映画は、90%が自国の作品。残りの10%のほとんどがハリウッド映画。それ以外は、ほとんど入りません。字幕でなく、自分が聞いてわかる言葉の映画が観たい。英語もわかるからハリウッド映画は観るけど、ほかの外国語のものは観ないという傾向があります。

*イスラミケイト映画を観る視点
安宅:いくつも観ているとわかってくるのが下記のような視点です。
・ムスリム固有の社会問題を扱っているか?
   原理主義を扱ったものなど
・社会派の芸術映画   
   女性の地位をめぐるものなど
・他者の目にエキゾチックに映る習慣  
   結婚式や伝統芸能など
・教義そのものに向き合おうとしているか?
   少ない。昨年イスラーム映画祭で上映した『アブ、アダムの息子』など。
・特に必然性がないが、たまたま主人公がムスリムという設定
   都市型のスリラーで誘拐犯がムスリムだとしても、必然性はなくて、どれが正しいというものはなく、イスラーム圏の映画に近いもの。

この映画も、舞台をケーララ南部のキリスト教徒の多い地域にして、ナイジェリア人をムスリムにしたらどうだろうと。

藤本:それだけケーララ州がほかのインドの州と毛色が違うということですね。

安宅:最後のマジードが義父と和解する場面には、イスラームがベースの殺し文句が出てきて、字幕を翻訳する人にとっては泣かせどころ。使えない言葉もあって、困るところです。

藤本:藤井美佳さんが見事に訳してくれましたね。

安宅:あれは使えないなぁ~とか考えるのが結構楽しいですね。

藤本:マジードは古いタイプの男性ですね。勉学も諦めなくてはならなくて学歴もない。見合い相手の女性の方が大学に行ってます。ケーララ州では女性の方が意識が高いのかなと。

安宅:ひとことでは言えないのですが、駄目な男を女性が導く映画が最近のマラーヤム語映画には多いですね。

藤本:サミュエルは最後に不法入国だったとわかるのですが、日本だったら、不法入国の彼をバッシングするかもしれない中、マジードがサミュエル本人を見て受け入れますね。それが自分たちのコミュニティなのだと。懸命に介護するお母さんとお祖母さんも魅力的でしたね。

安宅:二人とも女優さん。ケーララの映画祭で助演女優賞を受賞しています。マジードも主演男優賞を受賞。脚本賞も取ってます。

藤本:去年の『アブ、アダムの息子』のサリーム・アフマド監督は、イランのマジッド・マジディ監督が好きで、ケーララ映画祭で撮ったツーショットを見せてくれました。ケーララの映画人にイラン映画が好まれているのはなぜかも監督に聞きたかったところです。

安宅:インドでは自国映画かハリウッドという選択肢なのですが、それを補うものとして、ケーララではフィルムソサエティというものが盛んで、昔から公民館などで外国映画を上映していて、クオリティの高い映画を観たいという要求が高いようです。
ケーララ国際映画祭も人気です。キム・ギドク監督の作品が上映された時にば朝から行列ができました。もしかしたら無修正でエッチなシーンが観られるかもという期待もあったのかもしれませんね。

藤本:残念ながらお時間が来てしまいました。本日はありがとうございました。




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