東京国際映画祭 イラン映画『冷たい汗』ソヘイル・ベイラギ監督 Q&A  (11月1日)

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(左:通訳のショーレ・ゴルパリアンさん)

アジアの未来 『冷たい汗』
2018年/イラン
監督:ソヘイル・ベイラギ

*物語*
女子フットサルのイラン代表チームの主将をつとめるアフルーズは、自らの活躍でアジア選手権大会の決勝進出を決める。ところが、決戦の地マレーシアへ向かう空港で、夫が出国を認めていないことが発覚し、足止めを食ってしまう。テレビキャスターの夫とは別居中で、夫はこれを機に妻が他国のチームに引き抜かれて国を去ってしまうのではないかと危惧していたのだ。アフルーズは、チームメイトの待つマレーシアに行けるのだろうか・・・
★注)イランでは、女性が出国する場合、既婚者は夫の許可、未婚や離婚した女性は父親(亡くなっている場合は親族の男性)の許可がいる。

1回目の上映は深夜だったのでQ&Aを聴くのを諦め、2回目の上映後のQ&Aを取材しました。
公式レポートが掲載されていないので、遅ればせながらお届けします。
*1回目の10月30日のQ&Aの模様はこちらで

監督:こんにちは。初めて東京に来られて、皆さんと一緒に自分の映画を観ることができてとても嬉しいです。

司会:7年ほど前の実話をもとに作った作品で、今、イランで公開中で大ヒットしているとのことです。

*会場とのQ&A

― 現在公開中とのこと。女性への対応も変化し、かつてはサッカー場に観にいけないという映画も作られました。このような題材で作る上での困難はあったのでしょうか?

監督:
女性がサッカー場に入れないのは、今も同じ状況です。特別に許された女性だけが、先日入ることができました。
フットサルは、女性が選手として活躍しているけれど、服装に規制があります。またイランでは、女性のフットサルを観にいけるのは女性だけです。映画では家族の問題も扱っています。

― 夫が古い価値観を代表するキャラクターです。テレビのパーソナリティをしていますが、番組も古い価値観を表わしているタイトルでした。イランのテレビでは、古い価値観のものを番組が多いのでしょうか? メディアの事情を教えてください。

監督:番組は、実際に似たものがあって、真似して作りました。伝統的なものだけではなくて、新しい雰囲気の番組もあります。本作のキャスターはモダンな格好をしているのに、頭の中は古くて、モダンでもな伝統的でもない中途半端な男になっています。

― サラーム! 半年前に女一人でイランを2週間旅しました。離婚した女性や離婚調停中の女性と話す機会もあって、どんな扱いをされるかを聞くことができました、男性が離婚すると、イランの社会ではどういう扱いをされるのでしょうか?

監督:離婚は他の国と同様の状況だと思います。女性が離婚する時は、独立を求めていて、とても芯が強いです。イランの法律は、全くアンチ女性ではないけれど、男性の肩を持っている部分が多いと思います。女性は自分から離婚したいと思って裁判にかけると男性に有利な場合が多いのが実情です。
女性は単なる遊びの旅行だけでなく、仕事で国外に出る場合も夫の許可が必要なので、そこを変えてほしいと、この映画を作りました。

司会:離婚して女性が非難されるようなことはありますか?

監督:
家族の中で生きている女性の方が自由があるかもしれません。離婚して一人で暮らしている女性が白い目で見られることはないけれど、皆、一人で頑張って生きていこうとしています。イランの女性はとても強いです。

― 主人公が連盟から解雇通告を受けたあと、連盟の部屋の中で女性たちが宗教的な歌を歌っている場面があったのが気になりました。信仰と社会システムの関係をどう描こうとしたのでしょうか?

監督:イランでは、聖人の生誕日を祝ったり、亡くなった日を悼む行事が数多くあります。そのような宗教的行事を役所の中で仕事をやめて行うのはいけないことだと思うので、あえて入れました。
彼女が解雇されて悲しい思いをしているのに、連盟のスタッフの皆が楽しそうにやっているのを見て、さらに孤独を感じます。連盟は自分の第二の家だと思っていたのに、違っていたという思いです。

― 映画を作っている時に、イラン国内で、反発はありませんでしたか?
また、公開後の反応は?


監督:このテーマは検閲官がいろいろ言いたくなるものでしたが、あれこれ口論して、検閲で引っかかったところはほとんどありませんでした。結局、一つ二つの台詞が駄目と言われましたが、大切な台詞ではなかったので削除しました。
映画が出来上がって、公開前にはイスラーム指導省の検閲が入って、テレビや新聞に宣伝を出せないという“静かな検閲”を受けました。口コミやSNSで広めてくれて、お陰さまで、多くの人に観てもらうことができました。人々が映画を守ってくれました。指導省は悔しがっていると思います。

― 夫役の人は、こんな人は死ねばいいというキャラクターでした。女性から観て、あんなに気分の悪くなる男性を男性監督が撮ったのがすごいと思いました。女性を抑圧する理不尽な法律はすぐには変わらないと思うのですが、変えていこうというムーブメントはあるのでしょうか?


監督:幸い、国会の中で議論していて、もうすぐ変わるのではと期待しています。女性議員のコミュニティがあって、電話をくださって、「あなたの映画を観て勇気を貰いました」と言われました。法律が変われば、女性議員の人たちが私の映画に影響を受けて頑張ってくれたのだと嬉しく思います。

司会:あのにくたらしい夫役はとても上手かったですが、プロの役者ですか?

監督:はい、大プロです。この映画に出演しているメインの5人の役者すべてイランの映画祭で賞も貰うような方たちです。

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