第37回 東京国際映画祭 開幕! 『10セカンズ』『冷たい風』『娘の娘』そして、パヤル・カパーリヤー×是枝裕和 対談 (咲)

2024年10月28日(月) 第37回 東京国際映画祭が開幕しました。
29日から連日会場に出向かないといけないので、初日は体力温存で、家で開幕の様子を見守りました。
アフガニスタン『シマの唄』や、トルコ『10セカンズ』のゲストの姿を確認できました。
審査委員長トニー・レオン、にこやかな顔で登場! ジョニー・トー監督も一緒に審査員を務めるので、リラックスして、とても嬉しそうです。

レッドカーペット
https://www.youtube.com/watch?v=opt-yNIFkws
オープニングセレモニー
https://www.youtube.com/watch?v=lpDEF7zOpKM&t=5s

10/29 (火)
★11:30~  
『10セカンズ』*ウィメンズ・エンパワーメント
監督:ジェイラン・オズギュン・オズチェリキ、トルコ 
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© Sky Films
イスタンブルのボスポラス海峡を見下ろす名門ウィリアム高校。娘が退学処分を言い渡された裕福な母親が、進学カウンセラーの女性に娘を復学させろと詰め寄ります。半端じゃない迫力! 昼休みになり、カウンセラーを慕う生徒たちが次々にドアをノックするので、場所を広いホールに移して、さらに二人は言い争う・・・  さて、軍配はどちらに? 驚きの結末でした。

観終わって、迫力の会話の余韻にドキドキしながら、シネスイッチ銀座から5分程で行けるお気に入りのレストラン「マトリキッチン」へ。 
もうすぐ1時で、ちょうど席が空いてすんなり入れました。
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チキンソテー(レモン味バルサミコソース)。サラダ、ボルシチ、カボチャのプディングがついて、1100円♪

★13:50~
『冷たい風』 *アジアの未来
監督:モハッマド・エスマイリ、イラン 
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雪山で4人の登山隊が強い北風の中で遭難。生還したのはサレム一人だけ。やがて、ひとりの男が遺体で発見される。捜索が進むうちに、その亡くなった男の友人の妹が15年前に焼死した事が浮上する・・・
主任捜査官が、関係者に次々に聴取する形で物語が進み、人間関係の整理が大変でした。
言葉を一言も聞き漏らすまいと緊張!
 
16:21~
『娘の娘』*コンペティション
舞台挨拶、Q&A 
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登壇ゲスト:ホアン・シー(監督/脚本)、シルヴィア・チャン(俳優/エグゼクティブ・プロデューサー)、カリーナ・ラム(俳優)、ユージェニー・リウ(俳優)

18:00~19:00 
交流ラウンジ パヤル・カパーリヤー×是枝裕和 対談  
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昨年の山形ドキュメンタリー映画祭で大賞に輝いた『何も知らない夜』。山形には来られなかったパヤル・カパーリヤー監督が登壇されるので、これは直接お話を聴きたいと申込み。
是枝監督が審査員を務めた今年のカンヌで、パヤル・カパーリヤー監督の『All we imagine as light』がグランプリを受賞した縁で、是枝監督がこの度の交流ラウンジの為に招聘されたもの。『All we imagine as light』は、来年4月、渋谷ル・シネマで公開予定とのことで、楽しみです。
対談が終了してから、パヤル・カパーリヤー監督にお声をかけました。ナマステと、アッサラームアライクムの両方の挨拶に、応えてくださいました。(ちなみにムスリマではありません・・・)

充実の私の一日目でした。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024 グランプリ作品『日曜日』 ショキール・コリコヴ監督インタビュー

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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024 最優秀作品賞(グランプリ)に輝いた『日曜日』。
監督インタビューの掲載がすっかり遅くなりました。

北九州国際映画祭2024でオープニング上映されます。
2024年11月1日(金)18:00~
ショキール・コリコヴ監督も登壇します。
https://2024.kitakyushu-kiff.jp/


『日曜日』 原題:Yakshanba 
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監督:ショキール・コリコヴ Shokir KHOLIKOV

ウズベキスタンの村。山裾に佇む広い中庭を囲む家。
日曜日、老夫婦が車で家に帰ってくる。煙草にマッチ2本で火をつけながら運転する老人。老婦人は風車を手にしている。中庭の縁台で寝そべる老人。老婦人は、レンジに火をつけようとするがマッチがない。お隣が貸してくれたライターで火をつける。食事も終わり、夫と縁台でくつろぐ老婦人。茶碗を差し出しても、お茶を入れてくれない夫。それどころか、少し遠くのテレビのチャンネルを妻に変えさせる夫。
翌週の月曜日。近くに住む長男がやってくる。「家を建て直せば、遠くにいる弟も帰ってきて結婚するのに」と諭す。マッチ不要のガスレンジを長男が手配する。うまく着火できなくて、髭や顔に火傷を負ってしまう老人。
翌週の火曜日。老夫婦はささえあって泥を踏んで、壁の補修をする。明日からテレビがデジタルに変わるからと長男が新しいテレビを持ってくる。チャンネルを変えろと夫に言われるが、リモコンの使い方がわからない老婦人。
翌週の水曜日。お湯を沸かして、羊の毛を染める。新しい冷蔵庫が届く。
翌週の木曜日。縦糸を張って、絨毯を織り始める。絨毯の仲介屋が現金の代わりにカードを老婦人に渡す。夜、夫にテレビのチャンネルを変えろと言われ、そろっとリモコンを渡す老婦人。
翌週の金曜日。老人は身なりを整え、知り合いの結婚式に出かけていく。留守中に長男が来て、勝手に車を知人に譲ってしまう。帰宅して、「なぜ家も売らなかった?」と怒る老人。
翌週の土曜日。老婦人が風邪を引いて寝込んでいる。妻に代わって絨毯を織る老人。
翌週の日曜日。小雪がぱらついている。家の改築作業が進んでいる。老人が煙草に火をつけようとするがマッチが1本しかない・・・・
https://www.skipcity-dcf.jp/films/intl10.html



◎ショキール・コリコヴ監督インタビュー
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― Xush kelibsiz(ようこそ) 私がウズベキスタンに旅をしたのは、1986年のことで、まだソ連時代でした。タシケント、サマルカンド、ペンジケント、ブハラ、ヒヴァに行きました。
映画で刺繍の飾り布であるスザニや縁台(タプチャン)など、ウズベクらしさを楽しみました。一方で、新しいテレビやビデオ通話ができる携帯などになかなか対応できない老人と息子世代の関係が描かれていて、これはどこの国でも、ありえる話だと思いました。
リモコンになってもテレビのチャンネルを妻に変えさせたり、お茶も入れてあげなかった夫が、妻の具合が悪くなって初めて、妻にやさしくして、絨毯まで織り始める姿に、今さら遅いと思いましたが、妻の「何があってもいい人生だった」という言葉にほっとさせられました。
あの世代の男性は、亭主関白で自分では何もせず奥さんにやらせるのでしょうか?

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監督:あの世代だけでなく、私の兄は祖父に似た性格です。ウズベクだけじゃなく、トルコ系の言葉を話す地域では、今も男性の多くはあんな感じです。若者には、もちろん色々なタイプがいますが。

― 監督はご結婚されてますか?

監督:はい、娘もいます。妻には、絶対に言葉で「愛してる」とは言いません。シャイというわけではないです。「愛の五種類」という本を読んだことがあります。行動で見せて言葉で言わない人、言葉でいう人、行動も言葉でも表さないけれど自分たちで愛し合っているとわかっているケースなど、愛の形は様々です。ロマンチックに「愛してる」と言葉で言わなくても、愛は存在します。(と、静かに語る監督でした。)

― 脚本は監督の祖父母の性格をモデルにして書かれたとのことですが、演じたお二人が、まるでほんとうに長年連れ添った夫妻のようでした。どのような俳優さんなのでしょうか?

監督:二人ともプロの俳優です。祖父の性格をモデルにしましたが、あの俳優さんも同じ性格なのでアテ書きしました。 おばあさん役の方も、私の祖母と似た性格です。話してみたら、家庭環境が同じでした。夫と息子の間に自分が入って調停役をしていると言ってました。撮影現場では、ほんとに50年連れ添った夫婦のようでした。

― 撮影地は、ジザクのザミン(ゾミン)地区ピシャガルとのことですが、 あの家とまわりの環境が素晴らしかったです。あの場所を見つけるのに9か月くらいかかったそうですね。(ザミンは同国最古の自然保護区)

監督:私の出身のスルハンダリョ(スルハンダリヤ)も自然環境が似ています。実際に老夫婦が住んでいる家を借りました。25日間の約束でしたが、雨が降ったりしたので、実際撮影したのは、そのうちの10日間でした。 

― 撮影はわずか10日間で、10月下旬に行われたとのことですが、最後の雪の場面は、雪が降るのを待って撮ったのでしょうか?

監督:ほとんど秋である10月に撮影したのですが、最後の雪の場面は、初雪を待って、降ったと聞いて、クルーを連れて飛んでいって撮りました。日曜日から始まって、全部で8週間の物語です。

― マッチで始まり、マッチが象徴的に使われていました。今では、マッチはもうほとんど使わなくなっているのでしょうか?

監督:田舎では、今も100%使ってます。

― 監督はソ連崩壊後のお生まれですが、KHOLIKOVさんという名前にもソ連の名残があります。 
映画の主人公の老夫婦は、ソ連時代を知る世代。 ソ連時代と、独立後の違いなど、その世代の方からどのようにお聞きになっていますか?

監督:キリル文字は使ってなくて、今はラテン文字です。今の世代は、ソ連時代を知らない人が大半です。ソ連時代を知る人の中には、ソ連時代がよかったという人もいます。ソ連時代は宗教を良しとしませんでしたが、独立後はモスクも多く建てられています。苗字はロシアの名残りがありますが、最近、~OVをはずす人も出てきました。 

― 私が訪れた40年前のウズベクは、無理矢理ソ連と思いました。

監督:今はウズベク主義で皆、頑張っています。

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左は、通訳を務めてくださったウズベキスタン共和国大使館の女性


◎7月17日(水)11:00から映像ホールでの上映後のQ&A
MC:津島令子さん

MC:2度目の上映ですが、前回の観客の反応はいかがでしたか?

監督:前回の上映では、大勢の方から質問をいただきました。作品を気に入っていただけたようで嬉しいです。

★7/14(日)16:30~多目的ホールでの上映後Q&Aレポートはこちらで!


― とても心に残る作品でした。おじいさんの背中の上に何か白い粉を乗せて布をかぶせていた場面がありましたが、民間療法のようでしたが、あの白い粉は何だったのでしょうか?

監督:背中に乗せたのは塩です。この作品の中で、塩は2回出てきます。1回目は背中の上、2回目は、奥さんの具合が悪くなった時に、洗面器に足を漬けていましたが、塩を入れていました。
冒頭、二人が車で家に戻ってきますが、民間療法から帰ってきたのです。毎週、日曜日に民間療法に通っているという設定です。
(★実は、この質問は私が個別インタビューの折にしようと思っていたのですが、Q&Aで最初に手を挙げようと残していたものでした。思わぬ答えを聞くことができました。景山)

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MC:二人で泥を踏んでいるのが、とてもいいシーンでしたね。

― 施しのお金をもらいにきた女性がいましたが、どういう女性なのでしょうか?

監督: 老夫婦に許可を求めて家に入ってきたのは彼女だけです。ほかの息子や近所の人は皆、勝手に家に入ってきています。

― テレビに映っていた映像に意味があると思うのですが、特に、一生懸命耕している男性の映像が気になりました。

監督: あれは、ウズベクで有名な映画監督に許可を得て使った映画です。

― キャスティングについて、老夫婦役は、プロの俳優でしょうか?

監督:二人ともプロの俳優です。女性はあまり有名な方でなく、主演は初めてでした。男性は脚本を書いている時から、彼をイメージしていました。
3か月かけて女優さんを見つけました。話してみて、性格が似ていると思いました。映画を観た人たちから、ほんとうの夫婦のようだったとよく聞きます。

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― 羊を飼っていて、その毛を紡いで糸にして染色して織っていましたが、売るためのものなのでしょうか? 自分たちで必要なものも織っているのでしょうか?

監督:普段使うものを織っています。売る為でなく、祝日を締め切りにして作っています。

― ウズベクの日常の習慣が新鮮でした。このテーマをどうして選んだのですか? きっかけは?

監督:はっきり言えないのですが・・・ 年寄りの生活に興味がありました。若者より自然。何も求めずに暮らしています。老人夫婦を主人公にしたのは、私自身、祖父母と長く暮らしたことも関係していると思います。若者は自分もモデルにしています。

― 素敵な人生でした。最後のシーン、お祖母さんが出てこないのは?

監督:お祖母さんが出てこないことについては、なぜなのか観客の想像にお任せします。病気で亡くなったのかもしれないし、たまたまいなかったのかもしれません。

― リビングが中庭なのは、ウズベクでは普通のことなのでしょうか?

監督:中庭で過ごすのは普通のことです。田舎では特に今でもそうです。

― マッチの火は2本で擦ればつくというのは、お祖父さんの考え? それともウズベクでは、2本で擦るのですか?

監督:マッチ2本一緒に擦るのはお祖父さんの考えです。

MC:最後にマッチが1本しか残ってなくて、お祖母さんがいなくなったのを暗示しているのかなと思いました。

監督:言葉で説明せずに、見て判断してもらおうという意図でした。



◆1回目の上映(7/14)のQ&Aより抜粋

「私の短編映画がフランスの映画祭で賞を獲った後、国から10万ドルの予算をもらうことができました。しかし長編映画を製作するにはかなり少ない予算です。それで同じ家の中で最初から最後まで撮影できる脚本を書きました。老夫婦のモデルは私の祖父母ですが、生活ではなく二人の性格をモデルにしています。脚本には2年かけていて、ここで起こる出来事や暮らしは様々な場所で私が見たり聞いたりしてきたことです。私自身も息子のキャラクターのモデルになっています。年老いた両親にはできるだけ便利なものを買ってあげたいと思いますし、実際に両親が賛成してくれるのであれば贈るようにしています」

「ウズベキスタンでは、一週間は日曜日に始まり日曜日に終わると考えられています。人生の始まりも終わりも日曜日、8の字のように永遠を表すマークをイメージしました。人生を歩むということは曜日の積み重ね、一週間の積み重ねであるという哲学的な意味も含まれています」

第37回 東京国際映画祭 新設「ウィメンズ・エンパワーメント部門」 シニア・プログラマー アンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんに聞く

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今年、東京国際映画祭に新設された「ウィメンズ・エンパワーメント部門」のシニア・プログラマーであるアンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんに、この度、この部門が新設されたことへの思いや、作品選定の過程をお伺いする機会をいただきました。 
景山咲子



「ウィメンズ・エンパワーメント部門」シニア・プログラマー
アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ プロフィール
初代駐日マケドニア大使で、2022年にはWIN Inspiring Women Worldwide Awardを受賞。日本大学で映画研究の博士号を取得、欧州大学で名誉博士号を授与され、京都大学では客員教授を務めた。映画監督としては映文連アワードの部門優秀賞を受賞。その他、世界経済フォーラムや国連気候変動会議で講演を行う。東京国際映画祭では2023年に「SDGs in Motion トーク」のプログラム・キュレーター、2021年にはAmazon Prime Video テイクワン賞の審査委員を務めた。
(東京国際映画祭公式サイトより)



★注:2019年2月12日にギリシャとの合意により、国名が「北マケドニア共和国」に変更されています。 アンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんの駐日大使時代は、マケドニア共和国。

★ラインナップ記者会見での発言は、こちらをご参照ください。
第37回東京国際映画祭 「ウィメンズ・エンパワーメント」部門新設!
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/505000752.html


●アンドリヤナ・ツヴェトコビッチさん インタビュー

◆女性映画人活躍の後押しになることを願う
― シネマジャーナルでは1987年に「第2回東京国際映画祭」の取材を開始し、その時から東京国際女性映画祭の前身である「カネボウ国際女性映画週間」も取材を始め、25回目の2012年にフィナーレを迎えるまで取材し本誌にレポートを掲載してきました。
東京国際女性映画祭の高野悦子さんは常々、「本当は女性映画祭が必要なくなるのが理想」とおっしゃっていました。志半ばで病に倒れ、残念ながら「東京国際女性映画祭」は終わってしまいましたが、それから10数年、少しづつ女性監督は増え、映画の現場にも女性は増えてきています。 しかし、女性監督が増えたと言っても、まだまだ商業映画などの分野で活躍している女性監督は少ないですし、後押しが必要かと思います。
今回、「ウィメンズ・エンパワーメント部門」が開設された意味は、そういう後押しという役目も担っていると考えていいのでしょうか?
「ウィメンズ・エンパワーメント部門」シニア・プログラマーを指名されたことへの思いも、あわせてお聞かせください。

アンドリヤナ: 今年、「ウィメンズ・エンパワーメント部門」が新設されたのは、東京国際映画祭にとって、とても大事な節目だと思います。 新設された経緯ですが、映画祭の皆さんと話し合う中で、日本の映画界の現状や、世界の映画のムーヴメントをみて、このような部門を設立する時が来たのではないかという結果になりました。東京都の協力も得ることができましたので、とても幸運だったと思います。
私がこの部門のシニア・プログラマーを務めるに至った経緯ですが、前々から東京国際映画祭とプログラミングについて関わりがありました。 元マケドニア大使を務めていたこともあって、人脈もあるので、 コロナ禍の間には日本映画のサポートをする意味もあって東京国際映画祭と話し合ってきました。
2021年の第34回東京国際映画祭では、「Amazon Prime Video テイクワン賞」の審査員を務めさせていただきました。Amazon のモットーとして、若い世代をサポートしていかないといけないという方針がありました。2023年には、「SDGs in Motion トーク」のプログラム・キュレーターを務めさせていただき、地球環境やSDGs、ジェンダー平等にフォーカスしました。トークセッションに日本とマケドニアの監督さんを呼んで企画させていただきました。
そんな関わりがあって、この夏、「ウィメンズ・エンパワーメント部門」のシニア・プログラマーを拝命しました。これは非常に良いスタートだと思います。なぜ女性たちの活躍を後押ししなくてはならないかを声高に訴えかける機会になればいいと思っております。監督だけでなく、脚本家や撮影なども含めて女性がどんどん活躍するべきだと思っております。


◆映画どうしが語り合うような7作品を選んだ
― ラインナップ記者会見で、作品を選ぶのにあたり、「物語としてのパワー」「視点の多様性」「監督の明確なヴィジョン」という3つの基準を定めたとおっしゃっていました。どのくらいの作品の中から7作品に絞ったのでしょうか。また、候補作は、アンドリヤナさん以外にも選定を担当された方がいたのでしょうか?

アンドリヤナ:東京国際映画祭のセレクションチームが、あまたな候補作品の中から40本くらい選択してくれて、そこから絞り込みました。どれも素晴らしい作品で、どうやって7作品を選べばいいのか、とてもハードな仕事でした。 どれもクオリティが高く、芸術性もあって、しかもどれも面白いストーリーを語る映画でした。一つ意識したのは、単体としての作品ではなく、部門として提供するべき作品としてはまるかどうかということでした。7作品すべてを観られたときに、より豊かな気持ちになっていただけるものをと考えました。 女性のストーリーで、監督や脚本家が女性。世界の様々な女性の物語で、かつ、現代の世界を生きる女性の物語。
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例えば『私の好きなケーキ』は、イランの中年女性が恋愛をするという物語。普段見ないような意外な側面がみられます。
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香港の『母性のモンタージュ』は、ワーキングマザーの話。日々のオフの時間にみせる母親の姿。 私も母親で、息子が生まれたときのことをまざまざと思い出しました。男性監督が撮ったら、もう少し日常をはしょったかもしれません。女性監督ですから、日々の暮らしを詳細に描いています。
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コスタリカの『灼熱の体の記憶』は、3世代の3人の女性が自分の身体やセクシャリティについて自由に語るという素晴らしい作品です。
日本映画『徒花-ADABANA-』は、主人公は男性ですが、女性キャラクターにすごい存在感があります。近未来の人間とはなんぞやという物語。
『イヴォ』には緩和ケアの看護師、『徒花-ADABANA-』には臨床心理士の女性という、似たような人物が出てきます。7つの映画が作品どうしで語り合っているように感じていただければと思います。

◆映画は知らない世界を覗ける窓
― 私は、イスラーム文化圏に特に興味を持っていますので、7作品の中にイランやトルコの映画が入っていて嬉しいのですが、アンドリヤナさんの故国・北マケドニアの作品が入っていません。ご遠慮されたのでしょうか?

アンドリヤナ:近隣地域の映画として、イラン映画2本、トルコ映画1本をセレクションさせていただいたのですが、これには、私の幼少期の経験が反映していると思います。マケドニアで育ったのですが、人口の20~30%は、ムスリムです。私たちとは別の世界に住んでいて、特にイスラームの女性たちが結婚してからどういう生活をしているかを知ることができませんでした。彼女たちの暮らしぶりを垣間見ることすらできない。私たちには特定の地域の人たちの姿が見えていないとつくづく感じています。もちろん、イランには素晴らしい監督がたくさんいて、キアロスタミ監督の作品にも女性を主人公に描いたものがありますが、女性監督が語る女性を観たいと思いました。
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例えば、『マイデゴル』は、イランにいるアフガニスタンの10代の少女がタイボクシングに挑戦する物語。ちょうどこの夏のオリンピックで、アルジェリアのトランスジェンダーのボクシング選手がいました。まだまだわからない世界があると感じました。より多様性を受容するには、映画がいろいろな地域をみる入口になると思います。
実は、北マケドニアの映画は、1作品推薦されていて、素晴らしい監督の作品だったのですが、特に俳優が出ているものではありませんでした。今回はほかの作品との関連性が何かしらあるものにしたかったので、選出しませんでした。

◆北マケドニアでは女性映画人を政府が後押しする5か年計画も!
― 北マケドニアにおける女性映画人の活躍状況についてお聞かせください。

アンドリヤナ:東京国際映画祭についていえば、去年、SDGs部門で上映された『ハニーランド 永遠の谷』は、二人の監督の作品ですが、そのうちの一人は女性監督です。 2022年 コンペティション部門で上映された『カイマック』も推薦させていただいたのですが、監督は男性ですが女性たちの物語でした。
北マケドニア本国の話をしますと、私もいろいろ働きかけて、マケドニア国際映画祭などに女性監督の作品をもう少し増やせないかと進言しています。
2024年5月に就任したゴルダナ・シルヤノフスカ=ダフコバ大統領は、初の女性大統領で、彼女にも若い女性の映画人を育てるプログラムについて何かできないかとお話させていただきました。
マケドニアの映画界における女性の割合は、まだ少なくて15~20%位ですが、日本より多いと思います。女性監督を後押しするために、北マケドニアでは、政府の中で若い女性の映画人を育てる5か年計画があります。政府が絡んで、いろいろPRしていかないと、なかなか解決しません。
女性監督にとって必要なものは、資金と「私には映画監督として映画を作ることができる」という自信をつけることだと思っています。

― まだまだお伺いしたいことがあったのですが、時間がきてしまいました。今後も、女性が輝く映画をご紹介いただけることを期待しています。 本日はありがとうございました。

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東京国際映画祭「ウィメンズ・エンパワーメント部門」新設にあたり、シネマジャーナルのこれまでの取組み
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/505332492.html
★こちらは、アンドリヤナさんにインタビューの事前に参考資料としてお届けした資料です。

東京国際映画祭「ウィメンズ・エンパワーメント部門」新設にあたり、シネマジャーナルのこれまでの取組み

今年、東京国際映画祭に「ウィメンズ・エンパワーメント部門」が新設されたことにあたり、シネマジャーナルの成り立ちと、これまでの「東京国際女性映画祭」や「あいち国際女性映画祭」など、女性映画祭や、「ウィメンズ・エンパワーメント」関係の紹介記事をまとめました。
なお、本記事は、「ウィメンズ・エンパワーメント部門」シニア・プログラマーであるアンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんへのインタビューの事前に参考資料としてお届けしました。
宮崎暁美


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シネマジャーナルは、女性監督や女性映画人を応援しようと、1987年、映画好きな女性たちが集まり始まったミニコミ誌で、当初は年4回発行していました。2001年にWebサイトも開設しました。また、2018年からは本誌は年1回発行になり、現在に至っています。

シネマジャーナルでは1987年に「第2回東京国際映画祭」の取材(本誌第2号)を開始し、その時から東京国際女性映画祭の前身「カネボウ国際女性映画週間」も取材を始めました。

1989年12月発行 本誌13号の目次参照
http://www.cinemajournal.net/bn/13/contents.html

1991年12月発行 本誌21号の目次参照
http://www.cinemajournal.net/bn/21/contents.html

その後、1996年に始まった「あいち国際女性映画祭」の取材も開始し、毎年、スタッフが参加し、レポートを本誌に掲載してきました。映画祭のレポートは主に本誌に載っていますが、Webサイトに掲載しているものもあります。一部を紹介します。
他にも映像女性学の会、シニア女性映画祭など10年以上続く会の情報も掲載しています。

2009  第22回東京国際女性映画祭 映像が女性で輝くとき
http://www.cinemajournal.net/special/2009/iwff0/index.html

追悼 高野悦子さん 2013年
http://www.cinemajournal.net/special/2013/takano/index.html

『ベアテの贈りもの』2004年東京国際女性映画祭で上映
1. ベアテ・シロタ・ゴードンさんインタビュー
2. 藤原智子監督インタビュー 
3. 憲法24条の解説
http://www.cinemajournal.net/special/2005/beate/index.html

あいち国際女性映画祭2017
http://www.cinemajournal.net/special/2017/aichi/index.html

あいち国際女性映画祭2023 総集編
2023年10月01日
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/500953880.html

第34回東京国際映画祭(2021) クロージングセレモニー(暁)
2021年11月13日 アンドリアナ・ツヴェトコビッチさんも載っています
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/484348768.html

第34回東京国際映画祭 Amazon Prime Video テイクワン審査委員特別賞受賞者の作品です
『99%、いつも曇り』瑚海みどり監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/501772521.html


第12回シニア女性映画祭・大阪2023「道を拓く!」 2023年10月29日
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/501276215.html

映像女性学の会 講座のお知らせ
「日本の女性映画人(1)―無声映画期から1960年代まで」 の企画者・森宗厚子さんに聞く  2023年04月02日
http://cineja4bestfilm.seesaa.net/article/498854924.html

追悼 満映の生き証人、映画編集者 岸富美子さん
http://cinemajournal.seesaa.net/article/467924475.html

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第37回 東京国際映画祭 新設「ウィメンズ・エンパワーメント部門」
シニア・プログラマー アンドリヤナ・ツヴェトコビッチさんに聞く
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/505332851.html

東京国際映画祭 ウィメンズ・エンパワーメント シンポジウム:女性監督は歩き続ける & 『映画をつくる女性たち』上映

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🄫岩波ホール

女性映画人の躍進を支え続けた故・髙野悦子氏が、ジェネラル・プロデューサーをつとめた東京国際女性映画祭の功績を振り返り、切り拓かれた道を歩き続ける若手からベテランの女性監督たちが、これまでとこれからを語り合うシンポジウムと、『映画をつくる女性たち』の上映し、劇中に登場した監督たちも登壇します。

11月4日(月)
上映:10:00~(予定)
シンポジウム:13:00~(予定)
会場:東京ミッドタウン日比谷 BASE Q

入場料:無料(事前申込制)
10月19日(土)10:00〜より申込開始

応募フォーム:https://tiffwe-jyoseikantoku.peatix.com/

予定数に達し次第、申込終了となります。
当日も座席に余裕のある限りご入場いただけます。午後は入退場自由です。

※場内お子様連れ可、託児・見守りサービスあり。
 日英同時通訳あり

上映作品:『映画をつくる女性たち』
監督:熊谷博子
2004年/日本/103分/Japanese, English
東京国際女性映画祭の第15回目を記念して製作されたドキュメンタリー。日本の女性監督の歴史を追い、女性映画祭に参加した女性監督・プロデューサーたちの貴重な肉声と足跡が記録されている。
出演:髙野悦子、坂根田鶴子、羽田澄子

主催:東京都
共催:公益財団法人ユニジャパン
企画:近藤香南子


詳細:https://2024.tiff-jp.net/ja/lineup/film/37011WEP09