2023年11月29日(水)、沖縄県那覇市をメインにした新しい映画祭・第一回Cinema at Sea沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバルが閉幕しました。11月23日(木・祝)から一週間にわたった会期中は、コンペティション9作品のほか、特別上映、クリストファー・マコト・ヨギ監督特集(Director in focus)やマブイ特別賞受賞の高嶺剛監督(とキャスト・スタッフ)特集、Pacific Islands ショーケース、VRセレクション、野外上映など多くの映画が上映され、また、トークイベント等も多々催され、充実した映画祭となりました。
11月29日のクロージングセレモニーでは、コンペティション部門とインダストリー部門各賞が発表されています。審査員長のアミール・ナデリ監督以下ベッキー・ストチェッティ氏(ハワイ国際映画祭エグゼクティブ・ディレクター)、仙頭武則氏(映画プロデューサー)、サブリナ・バラチェッティ氏(ウーディネ・ファーイースト映画祭代表)、伊藤歩氏(俳優)の計5名が審査員を務めました。授賞式冒頭、ナデリ監督は「私たちはたくさんの映画を観ました。たくさんの人たちに出会いました。私たちは家族のように親しい関係になっていたと思います。審査員もまた親交を深めながらベストを尽くしていきました。喧嘩をしながら心からの言葉を尽くして私たちは受賞作品を選んでいきました。素晴らしい役者、編集、すべての作品に賞を与えたいという思いがありましたが、私たちも限られた時間のなかでとても長い議論をして選びました」と審査過程について話され、白熱した会議であったことを明かしました。受賞結果は以下のとおりです。
【コンペティション部門】
最優秀映画賞:『緑の模倣者』
The Mimicry/綠金龜的模仿犯 (監督:ジョン・ユーリン 鍾侑霖)
受賞理由:シンプルで複雑で深い、そしてイマジネーションを掻き立てるような、カメラワークの正しい作品だった。(審査員長アミール・ナデリ氏談)
受賞コメント(ジョン・ユーリン監督):初めて沖縄に来ました。僕がこの作品で伝えたいことと沖縄は相通じるものがあります。違う民族が共存共生するなかで、皆が違う意見や違う眼差しを持っています。それをどうやって互いに受け入れていくかということがとても重要です。この関係性は人と人のみならず、人とモノ、人とあらゆる生物にも言えることだと思います。グローバリゼーションが進むなかで、この沖縄の島に皆がこうして集まったことはとても感動的です。
補足:本作は、台湾の客家テレビ局のテレビ映画として製作されたもので、2023年の金鐘奬(放送メディアを対象にした賞)の最優秀テレビ映画賞受賞作。とある集合住宅に住む人々の日常を人間に擬態したコガネムシの視点で描いている。
観客賞:『アバンとアディ』
Abang Adik/富都青年 (監督:ジン・オング 王礼霖)
受賞コメント(ジン・オング監督):第一回のこの映画祭で『アバンとアディ』が観客賞を受賞したことをすごく嬉しく思います。2回の上映でのアフタートークで皆さんに涙を流させてしまって申し訳ない気持ちになりました。涙を流しながらこの作品をとても気に入っている、好きだという気持ちを伝えてくださいました。この作品をもって皆さんにお会いできたことを嬉しく思います。
主演俳優賞:ウー・カンレン(呉慷仁)『アバンとアディ』
受賞コメント(本人不在につきジン・オング監督が代理で登壇):先週(11/25)の金馬奬で最優秀主演男優賞を獲ったばかりのウー・カンレンが、まさかこの沖縄の映画祭でもこのような賞をいただけるとは本当に僕は夢にも思っていませんでした。俳優であれば、このような賞がいかに励みになるか、身に染みることでしょう。今日、彼はこの場にいないのですが、きっと彼にとって嬉しいニュースだと思います。心より感謝申し上げます。
補足:コンペティションの応募要項に俳優についての賞の記載はなく、カタログにも「最優秀長編部門賞(最優秀映画賞)」と「観客賞」についての記述しかなかった。なお、本作でウー・カンレンは台湾の俳優であるが、このマレーシア映画では全編マレー語の手話を用いて演技をしている。
審査員賞①:『アバンとアディ』
受賞コメント(ジン・オング監督):このような席に3回連続で登壇するとは夢にも思いませんでした。まずは本当にありがとうございます。この賞は、映画に関わったすべてのクルーにとって、とても励みになる、サプライズな賞であると思います。この作品を手掛けてかれこれ3年が経ちますが、いろいろな地域でそれぞれに励ましの言葉をいただいています。本当に感謝申し上げます。
審査員賞②:『クジラと英雄』
One with the Whole(監督:ジム・ウィケンズ監督&ピート・チェルコウスキー)
受賞コメント(ジム・ウィケンズ監督よりビデオメッセージで):本当に嬉しく思っています。この映画を撮らせてくれたアラスカの先住民族の皆さんに心より感謝を伝えたいと思います。彼らがいなければこの映画は成り立ちませんし、彼らがこの映画を撮らせて世界に届けることを許してくれました。いま世界では、人々はなかなか感謝し合わずお互いに意見を聞かないということがあると思います。しかし、映画というコミュニケーションツールを通じて、それは人々が再び話をするきっかけとなって魔法のように人々をまたくっつけるように感じています。
【インダストリー部門】
Doc Edge賞:「Magnetic Letters」デミ―・ダンフグラ監督
最優秀企画賞:「沼影市民プール」
太田信吾監督、竹中香子プロデューサー
映画祭期間中は、映画祭主催イベントのほか近隣会場での共催企画も開催されました。なかでも「沖縄映画製作者たち、大いに語る」と題したトークショーは会場に入りきれないほどの映画ファンや県外からの業界関係者が集結。映画祭アンバサダーの俳優・尚玄氏のほか、沖縄を拠点に作品を撮る岸本司監督、平一紘監督、東盛あいか監督が一堂に会し、沖縄で映画を撮るに際してのメリット・デメリット、沖縄をテーマにした作品作りについて、沖縄に映画文化を根付かせることの重要性などについて予定時間を超えて語り合いました。
取材&撮影 稲見公仁子