ヤンヨンヒ&モーリー・スリヤ(黒澤明賞受賞)対談

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左からヤンヨンヒ監督、モーリー・スリヤ監督


ヤンヨンヒ監督&モーリー・スリヤ監督対談

国際交流基金と東京国際映画祭の共催企画「交流ラウンジ」で10月31日、『ディア・ピョンヤン』(2005)、『かぞくのくに』(2012)、『スープとイデオロギー』(2022)などで知られる梁 英姫(ヤン ヨンヒ)監督と、2017年『マルリナの明日』が世界的に高い評価を受け、2017年の第18回東京フィルメックスでは最優秀作品賞『殺人者マルリナ』(フィルメックスでの題名)を受賞し、今回、グー・シャオガン監督と共に黒澤明賞を受賞したインドネシアのモーリー・スリヤ監督の対談が行われた。
『マルリナの明日』http://www.pan-dora.co.jp/marlina-film/

2人は20年の東京国際映画祭でリモートでの対談をしているが、3年後の今年、念願の初対面を果たした。ヤン監督は、昨日『マルリナの明日』を観て興奮した状態で来ましたと語っていた。

3年ぶりの対談 コロナ禍を振り返った

ヤンヨンヒ監督:前回の対談時、『スープとイデオロギー』の編集を始めた頃で韓国に滞在していました。母の介護もあったので時々帰国していたけど、2年くらい韓国にいました。その間に母は亡くなりました。国籍は韓国なのに暮らしたことがなかったので、この滞在では、韓国の映画業界や社会を深く、いいところも悪いところも見ることができました。

モーリー・スリヤ監督:2000年に撮る予定だったけど、コロナ禍のインドネシアではスタッフを集めることが困難で、新作「This City Is a Battlefield」の撮影を延期。その後『マルリナの明日』に関連したプロジェクトをアメリカで製作できることになり、翌年に渡米して別の作品を撮影しました。アメリカの映画産業はシステマティック。組合もしっかりしているし、腕のあるスタッフをすぐにみつけることができた。みんながチャンスを狙っていて、それが映画業界のアメリカンドリームと言えるのかもしれません。その後インドネシアに戻ったけど、コロナ前と同じ状況には戻っていませんでした。

インドネシアの映画事情ですが、1998年まではスハルノ独裁下で、死に体と言っていいくらい衰退していました。検閲も厳しく公開も難しい状況。今は盛り上がっているけど、まだまだ赤ちゃんのような業界。組合もあるけど、機能していなくて模索状態。

ヤン監督が日本も韓国も大規模予算の商業映画に女性監督が登用されることはほとんどない現状を語ると

スリヤ監督:インドネシアにはスタジオシステムも配給会社もないので、全てがインディペンデント。全国公開になっても、島が7000もあるのでプロモーションが難しい。そして、ホラー映画が多く、全体の半分くらい。女性監督の視点からのホラー映画はひとつのジャンルになっていて商業的にも当たるんです。

映画と配信の両立の難しさなどについて意見交換をした上で、後進へのアドバイスを求められたヤン監督は、「自分を信じるド厚かましさも才能。それが揺らぐと絶対に止まる。撮影が終わっても完成させられない、公開が決まっていても流れるなどいろいろな理由があって着手するのが恐ろしくなる作業だが、自分を信じ、信じられるスタッフとどう出会えるか。そのための精神力、体力も必要」と持論を展開。続けて、「小さな発信でも地球の裏側まで届くという意識を持って、踏ん張るしかない」とエールを送った。

スリヤ監督は、これまでの3作品の作風が全て違うという質問を受けたが「2度同じことはしたくないという思いはあるが、自分としてはそんなに変わっていない。映画学校時代はスタンリー・キューブリック監督にあこがれ、スタイルを踏襲しているところはある。彼の作品のジャンルも多岐にわたっているが、一つの同じ声があると思う」と解説。一つの同じ声の真意も聞かれたが、「言葉にできるなら映画にする必要はないわよね」と煙に巻いた。そして、“パート3”の開催を約束し、二人で固い握手を交わした。

東京国際映画祭 アジアの未来 作品賞 『マリア』 記者会見・Q&A報告 (咲) 

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アジアの未来 作品賞受賞したイラン映画『マリア』。
クロージングセレモニーと受賞者記者会見での喜びの言葉と、10月29日(日)上映後のQ&Aの模様をお届けします。


『マリア』 Maria
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監督/脚本:メヘディ・アスガリ・アズガディ
プロデューサー: アリ・ラドニ
撮影監督:ダウード・マレクホセイニ
編集:エルナズ・エバドラヒ
音楽:ハメド・サベット
出演:
ファルハド: カミャブ・ゲランマイェー
ゾーレ: パンテア・パナヒハ
ペイマン :サベル・アバール
パリサ: マーシド・コダディ
ラスル:ホセイン・マージューブ
2023年/イラン/119分/カラー/ペルシャ語
https://2023.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3602ASF04

*物語*
若い映画監督のファルハド。自分の結婚式の日、映画の撮影用に借りていた車に花をあしらって運転中、陸橋から落ちてきた女性を轢いてしまう。その女性マリアは、2年前にファルハドが娼婦役に起用したが、テスト映像が流出して以来、姿を消していて、行方を探していた。意識不明で重体のマリアの家を訪ねたファルハドは、一家がバローチ族で、バッタに畑をやられ、土地を離れテヘラン南部にやってきたことを知る。界隈には、バルーチ族が多く暮らしている。マリアは突き落とされたのではないかとの疑いが浮上するが、12人もの男が、自分が犯人だと名乗り出てくる・・・




◆第 36 回東京国際映画祭 クロージングセレモニー

アジアの未来 作品賞
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マーク・ノーネスさんより発表。
レイモンド・レッドさんよりトロフィー授与。

来日出来なかったメへディ・アスガリ・アズガディ監督のコメントを奥さまであり編集を担当したエルナズ・エバドラヒさんが暗記したものを披露しました。

「東京国際映画祭、審査員の方々、この映画をセレクトしてくれた方々、心よりお礼を申し上げます。この賞をいただき、私はもう一回映画で人生を歩んでいけるという力を貰いました。編集を担当した妻、主役の俳優さんはじめ映画に関わったすべての人にこの場を借りて感謝を申し上げたいと思います。また、私たちのイラン映画の巨匠であるアミール・ナデリ監督にはお礼を申し上げたいと思います。私たちはいただいたこの賞をアミール・ナデリ監督に差し上げたいと思います」

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◆受賞者記者会見
登壇:エルナズ・エバドラヒ(編集)、カミャブ・ゲランマイェー(俳優)

― 28歳の若い監督の受賞、おめでとうございます。今回は来日が叶わず残念でした。映画の世界の中で進んでいく物語。作る上でのご苦労は? イランの特殊な部族のことも入っていましたが・・・

エルナズ:夫である監督は来られなくてこの場にいられないのはほんとうに残念です。けれども、映画をご覧いただいたこと、また受賞したことを伝えましたら、大変喜んでいました。審査員にも大変感謝しております。次の作品で来日できればと願っています。
この映画は、映画の中の映画という作りです。バルーチ民族を題材に使いましたが、繊細に描かないとイランのほかの民族と間違えられるかもしれないので、言葉の訛りや、衣装など、とても気を使いました。バルーチ人のアドバイザーがいましたので、繊細に撮ることができました。


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― カミャブさんにお伺いします。今回は、イランの人々を描いた映画が偶然にも多く受賞しました。作品を選ぶ時の哲学のようなものはありますか?

カミャブ:私のことを話す前に、『雪豹』のペマ・ツェテン監督が亡くなられたことを聞いて、心を痛めています。これからも皆さんめげずに頑張ってください。 実は、短編も含めて、この映画が初出演でしたので、2年後位に別の作品に出演したら答えられるかもしれません。


◎2023年10月29日(日) 10:25からの上映後の質疑応答
@TOHOシネマズ シャンテ スクリーン2

ゲスト:カミャブ・ゲランマイェー(俳優)、エルナズ・エバドラヒ(編集)
司会:石坂健治シニア・プログラマー

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カミャブ:サラーム。おはようございます。朝からありがとうございます。初めての映画デビュー作の完成版を、初めて皆さんと観ることができました。

エルナズ:おはようございます。監督は残念ながら来られなかったのですが、メッセージを預かりました。
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「皆さんと一緒に映画を観ることができなくて残念です。国から出られなかったのです。徴兵が終わってなくて、許可が出ませんでした。実は、歳の問題で行けなかったので、書類を揃えて出したのですが、駄目でした。リサーチを進めて、次の作品を作って東京に行けるようにしたいです。映画を愛している私は東京国際映画祭にぜひまた選んでいただいて参加したいです。
28歳で、完成作品を観たいと思っていたのですが残念です。いつかまた!


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メヘディ・アスガリ・アズガディ監督

石坂:今回、最年少の監督でした。お目にかかりたかったです。 
まずは、バローチ族について、説明いただけますか?

カミャブ:東南地区のシースターン・バローチスターン州に主に暮らしているのですが、日照りが厳しくて、水の問題があって、生活に苦労して、仕方なく首都テヘランなどに移住したり、ばらばらに暮らしています。

エルナズ:数年前に砂嵐で多くの村が破壊されてしまいました。マリアの両親も砂嵐で亡くなって、祖父とテヘランに移住したという設定です。

―(女性) 撮影と編集が素晴らしかったです。イランで起きた事実を脚色したのでしょうか? 女の人が高いところから落ちてくる。男性の幻想から、ヒッチコックの『めまい』などを思い起こしました。影響を受けた映画などがありましたら教えてください。

エルナズ:監督にとって初めての映画で、私にとっても初めてのフィーチャー映画の編集でした。監督は『めまい』がとても好きです。緑色は『めまい』の影響です。現実と幻想も『めまい』の影響です。パリサの服装の色も、『めまい』に同じ色のものが出てきます。

―(男性)車の中のシーンが多かったですが、難しかったのでは?

カミャブ:いろんなロケーションで車のシーンがあって、でこぼこの道のところもあって、とても困難な撮影でした。

エルナズ:主役が子ども二人を車のバックシートに入れるシーンは、苦労してとても大変でした。
雨の中で暗かったけれど、監督はチャレンジしたかったのです。


―(女性)実話に基づくとのことですが、どれ位、本当なのでしょうか? 映画としては、どういう風にしようと考えたことなど教えてください。

エルナズ:監督が数年前、一人の若い女性に出会い、売春婦の役を演じたら、家族に殺されそうになったと聞いて、いつか映画にしたいと思っていました。
パナヒ監督の『ある女優の不在( 3 Faces)』のポスターが貼ってあるのは、その映画の中で役者になりたかった少女が家族の反対で自殺しようとしたという話があるからです。


石坂:カミャブさんは、もう少し、こうすればよかったというところはありましたか?

カミャブ:観ながら、ここはこうすればよかったというところはありましたが、最初に観た時には、「あ、私だ!」と。

―(男性)後ろめたさを感じたという絵作りは、役者として、どのように意識されましたか?

カミャブ:この役を演じるのに、9か月、監督とやりとりしました。複雑な役で、ファルハドは、すべてを映画の角度から見ているキャラクターです。例えば、結婚式の日、花嫁に電話して「メイク終わった?」と聞きますが、その「メイク」は映画の現場で使う「メイク」です。生活の中でも、すべてを映画と絡めている人物です。

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石坂:若いチームが作り上げた映画で、日本公開が実現できればと思います。
最後に一言ずつお願いします。

カミャブ:東京国際映画祭が選んでくださったことにお礼申し上げます。楽しんでいただけましたら嬉しいです。

エルナズ:東京国際映画祭にお礼申し上げます。初めて東京に来て、東京にほれ込んでしまいました。モダンでシステマティック。惚れ惚れしました。

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まとめ:景山咲子





東京国際映画祭 最優秀男優賞受賞 『ロクサナ』 受賞記者会見・Q&A報告 (咲)

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コンペティション部門で最優秀男優賞を受賞したイラン映画『ロクサナ』。
クロージングセレモニーと受賞者記者会見での、ヤスナ・ミルターマスブの男優賞受賞の喜びの言葉と、10月25日(水)上映後のQ&Aの模様をお届けします。

『ロクサナ』 Roxana
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監督/脚本/編集:パルヴィズ・シャーバズィ
撮影監督:プーヤ・シャーバズィ
プロデューサー:マンスール・ラダイ
出演:
フレード:ヤスナ・ミルターマスブ
ロクサナ:マーサ・アクバルアバディ
フレードの母:マエデー・ターマスビ
マンスール:ラムボド・モタレビ
https://2023.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3601CMP11

*物語*
無職の青年フレードは、認知症気味の母親と2人暮らし。ある日、車の窓を割られ、バッグを盗まれた女性ロクサナを助ける。結婚式のビデオ撮影を仕事にしているロクサナ。バッグには顧客の結婚式を撮影したハードディスクが入っていて、撮り直しがきかないという。 ロクサナから、翌日のショマール(北: カスピ海地方を指す)での結婚式の撮影を手伝ってほしいと頼まれ、友人のマンスールを誘って行く。途中で、車にお酒を積んでいるのが警察に見つかり、フレードはロクサナの身代わりで警察に連行される・・・
★さらに詳しいストーリーは、末尾に掲載しています。



◆第 36 回東京国際映画祭 クロージングセレモニー

最優秀男優賞
ヤスナ・ミルターマスブ(『ロクサナ』、イラン)
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講評と発表:チャン・ティ・ビック・ゴック(プロデューサー、ベトナム)
感情的でシンプルな役柄は、彼の真摯な演技によってイランの平凡な現代社会の豊かな生活を目の当たりにする機会を与えてくれました。

ヤスナ・ミルターマスブ:コンニチワ サラーム。審査員の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。このいただいた賞を監督のパルヴィズ・シャーバズィさんに伝えたいと思います。また会場にいる撮影監督のプーヤ・シャーバズィにもお礼を申し上げたいと思います。ムスリムだろうがクリスチャンだろうがユダヤだろうが関係ないと思います。我々の命の中で一番最低なのは、もちろん戦争ですし、子供がその中で亡くなっていくのはやはりいけないと思います、戦争を止めましょう。

◆受賞者記者会見

ヤスナ・ミルターマスブ:
コンニチワ。 12歳で演技を始め、13歳から主役として演じてきて、初めて受賞しました。東京国際映画祭での受賞はとても嬉しいです。これまで、キアロスタミ、ナデリ、マフマルバフなどイランの巨匠が東京国際映画祭で映画を紹介してきました。素敵な街で受賞できて嬉しく思います。
脚本を教えてもらえないまま、撮影に臨みました。それが一番の経験でした。演技力を監督が取り出してくれました。これから演技の新しい道を歩いていくと思います。監督に感謝しています。ほかの監督からオファーがあっても、脚本はいらないと思ってしまうかもしれません。
遠いイランから東京まで来られたことに感動しています。受賞したのは大きなお土産ですが、東京に来て一番感動したのは、日本の方たちがお互いにリスペクトしていることでした。尊敬しあうことを学びました。素晴らしいことだと思いました。イランでは、それは少し欠けているかもしれないと考えていて、お互い尊敬することをイランの家族や友達へのお土産として説明したいと思います。
13歳から主役を演じてきて、毎回、もし受賞したらこういうメッセージをと考えていたのですが、今回初めて受賞して、父や母がこの場にいてほしいと思いました。でも、市山さんがそこにいらしてくださるので、ご挨拶申しあげます。



◎2023年10月25日(水)18:30からの上映後のQ&A @丸の内TOEI
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ゲスト:パルヴィズ・シャーバズィ(監督/脚本/編集)、ヤスナ・ミルターマスブ(俳優)
司会: プログラミング・ディレクター 市山尚三さん
英語通訳 富田香里さん、ペルシア語通訳:ショーレ・ゴルパリアンさん

(登壇し、舞台でハグする監督とヤスナさん)
監督:サラーム(ご挨拶)を申し上げます。ご覧いただきましてありがとうございます。

ヤスナ: コンニチワ。サラーム。今日初めて自分が出た映画を観て、ドキドキしました。監督にお礼を申しあげます。

監督: お互いに褒めあってることに、驚かないでくださいね。

市山:今日は、会場にプロデューサーのマンスール・ラダイさんと撮影監督のプーヤ・シャーバズィさんも会場にいます。 (二人が立ち上がる)

監督:撮影を担当したプーヤは私の息子です。家族で作った映画です。

市山:監督とは、1998年に東京国際映画祭のヤングシネマ部門で『南から来た少年』がゴールド賞を受賞された時に初めてお会いしました。お互い歳をとりましたが、こうやって再会できました。

監督:市山さんには、いつもイラン映画、特にインディーズ映画をサポートしていただいて、東京フィルメックスにも呼んでいただき、感謝しています。

市山:私から二人に質問したいと思います。まず監督に。主人公が次から次と問題に巻き込まれるスリリングな話でしたが、もとになった出来事があったのでしょうか? どういうところから発想されたのでしょうか?

監督:細かくいくつかのストーリーが入っていて申し訳ありません。デリケートな問題を描くのに、お母さんのこと、ギャンブル、お酒…といろいろな出来事が必要でした。若者と話したときに、お酒を持っているのが見つかるとムチ打ちされると聞いたことがあって、それも入れています。トマス・ビンターベア監督の映画『アナザーラウンド』では、お酒を飲むのはいいことだと言っていますが、私の国では罪になることを描きたかったのです。

市山:ヤスナさんに伺います。脚本は、ちゃんと出来ていましたか?  脚本を読んで、どういう風に思って引き受けましたか?
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ヤスナ: とてもいい質問です。監督は誰にも脚本を渡しませんでした。役者の私にも、プロダクションの人にも。監督を尊敬していたので、選ばれた時に嬉しくて、「どういう話ですか?」と聞いたら、「そのうち説明しますから」と言われました。なかなか話してくださらないので、時々聞いてみたのですが、撮影の前日になっても教えてくれませんでした。撮影の日、朝ご飯を食べながら、今日こそくれるだろうと思ったのに、脚本は出てきませんでした。心配になって父に、「こういう監督はいるのでしょうか?」と聞いてしまいました。(★注:父Mojtaba Mirtahmasbは、映画監督。)
12歳から演じていますが、こんな監督は初めてでした。
撮影が始まって、私だけでなく、誰にも脚本は渡してなくて、そもそも脚本はありませんでした。監督は自分の想像の中で絵を描いていて、毎日、その絵の一部をくれるということなのだと思います。この監督の素晴らしさだと思います。撮影の最後の方になって、こういうストーリーだったのだと、やっとわかりました。


監督:裏話はやめましょう(笑)。

ヤスナ:あとから考えてみたら、脚本をわかっていない私から、監督は毎日指導する中でいろいろ演技を引き出してくれたのだと思いました。今まで経験したことのない演技力が出てきたと思うので、監督にお礼を申し上げないといけません。長い間、演技をしてきましたが、これからの私の演技は、今までと違うものになると思います。

監督:内輪で褒めあってばかりじゃなくて、皆さんがどう思ったのか聞いてみたい。

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*会場から*
― (男性) 素晴らしい映画でした。普通に考えたら、タイトルは主人公のフレードだと思うのですが、『ロクサナ』なのはなぜですか?

監督:女性の名前をタイトルにした方がいいなと思いました。ロクサナの出番は少ないのですが、メインキャラクターは彼女ですから。

―(女性)素晴らしい映画でした。スチール写真を見て、シリアスな映画なのかと思っていたら、結構コミカル。イランは検閲が厳しいことで有名ですが、国内外での上映に問題はありませんか?

監督:今日が初めての上映でした。これからどうなるかわかりません。まだ、上映許可を貰ってないので、イラン国内での公開は決まっていません。スクリーナーは渡してありますが、結果はどうなるか。あまり厳しい検閲を受けないことを願っています。真実しか語っていません。自分が足したものはなくて、すべて見聞きしたことを入れ込んでいます。

―(男性)日本に入ってくるイラン映画は、アスガル・ファルハーディーやジャファール・パナヒなどシリアスな作品が多くて、イランの若者の姿が描かれることは少ないのではないかと思っているのですが、本作は若者の実態がわかって面白かったです。イスラーム法が厳しいはずなのに、非常にいい加減な部分も感じました。これは実態を描いているものなのでしょうか? キャラクター造形をどのように考えているのか教えてください。

監督:ほかの監督の映画については何も言えませんが、これまで作った映画は、現実の若者の姿を描こうと頑張ってきました。映画を観ると、若者の生活の中でハッピーなことも、問題が起こることもあるとわかると思います。

―(男性)勇気ある映画だと思いました。イランの現状を映画にしていて、ヘジャーブのこと、鼻の整形のこと、麻薬、女性への暴力など全部入れ込んで、ダークな部分だけじゃない綺麗な部分も散りばめて、イランの全部を見せたかったのかなと思いました。

監督:細かく見ていただいてありがとうございます。それしか言えません。

★あっという間に質疑応答の時間が終わってしまいましたが、最後の男性の方が質問したように、今のイラン社会の等身大の姿が描かれた映画でした。
失業率が高く、大学を卒業しても正規の職業につけない中、ギャンブルに走る人も多いのも実情です。結婚式のビデオを撮るのは、ずいぶん前から人気で、スマホのなかった時代には、高いビデオ機材を購入して、副業にしている人も大勢いました。イランの友人たちに、結婚式の時のビデオを見せてもらう機会がよくあるのですが、皆、編集がとても素敵でした。 踊っている場面ばかりのものもあって、「いつ休むの?」と聞いたら、「踊っていないときは撮影している人も休んでる」と言われたことがあります。 男女一緒のパーティや、踊りやお酒も政府は禁じていますが、どこ吹く風。集まれば踊るのが大好きなイラン人たちです。そんな様子も垣間見れる映画でした。
ニュースからは、厳格なイスラームの国のイメージが強いイランですが、国民はそうでもないことがわかると思います。


*フォトセッション*
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マンスール・ラダイさん(プロデューサー) , パルヴィズ・シャーバズィ監督、ヤスナ・ミルターマスブ, プーヤ・シャーバズィさん(撮影監督)


*物語*  長いバージョン
青年フレードが玄関を開けると、警官が二人。
母親が警察に通報したのだ。
「息子は家でごろごろして仕事もしないし、結婚もしない。私の宝飾品も盗んだ。連行してちょうだい」と母。
母は認知症気味で、これまでにも警察を呼んだことがあるらしく、警官も笑ってる。
玄関の外に出て見送るフレードに、「短パンで外に出ないように」と注意する警官。
(★注:女性が髪の毛を隠さないといけないのと同様、男性も短パンはNG。革命後数年間、男性の半袖も駄目だった時代があります。)

ウエディングドレスを作っている工房。
フレードの友人マンスール。「ここに住み込みで働けないかな?」

工房の外で騒ぎ声。
ロクサナという若い女性が、駐車中の車の窓を割られて、バッグを盗まれたという。
見張りを頼んでいた従姉ゾルは煙草を買いに行っていた。
バッグにはハードディスクが入っていて、結婚式を撮ったものなので、撮り直しができないという。

隠家のような「ジアの店」に行くフレード。
玉突きで、賭けをしている。
受付をしているホジャートという若い男。「僕はムスリムだから賭け事は許せない。身分証を取られて、やめられない」
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ロクサナの車の修理に付き合うフレード。
ビューティーサロンに連れていかれ、カード占いをしてもらう。
「バッグは必ず出てくる。一日か、一週間か、一年かわからないが、思わぬところから出てくる」
「3日前に知り合った人といい関係になるが、結ばれない」

ロクサナから、明日、ショマール(北)で結婚式を撮る仕事があるから一緒に行ってほしいと頼まれる。
翌日、友人のマンスールもついてくる。
鼻に絆創膏を貼った従姉ゾルも現れる。「新しい鼻、どう?」
(★注:イランでは大きな鼻を削って小鼻にする。以前はもっと大きな絆創膏を貼っていました。)

後ろの座席で、ゾルがマンスールに触られたと喧嘩になる。
怒ったマンスールが降りるというので車を止めたら、パトカーが来て、荷物を調べられる。
トランクからお酒が出てくる。
「ウエディングビデオのパッケージの一部」とロクサナ。
「お酒は僕が積んだことにして」と罪を被るフレード。

フレードを警察に連行した兵士が仲間たちと踊っているのを撮るフレード。

カスピ海沿いの町のバーザール。
兵士が少年に算数の問題を解いている間に逃げるフレード。
結局、兵士に捕まる。「逃げたといわないから、踊ったことを言わないで」
保釈には家の権利書か、誰かの給金での保証が必要だと言われる。
「家の権利書は母が燃やしてしまった」というと、花嫁の親戚の男性が給与で保証してくれる。

山間の村での結婚式。音楽に合わせて踊る人たち。
カスピ海の畔でも撮影する。 ロクサナが「花嫁にキスして」というと、花婿が「恥ずかしいから皆に見られたくない」という。

撮影を終え、テヘランのアーザーディ広場に着く。
炊き出しの手伝いをする。 大きなお鍋で、ルビヤーポロー(豆ご飯)を作って、配って歩く。

ロクサナ、海外にいる友人のササンに電話して、保釈金を貸してくれるよう頼む。
「千ドルは無理。500ドルなら。送金できないから、ミトラに渡してもらう」
(★注:経済制裁で、海外との送金のやりとりは出来ないので、イラン国内にいる親戚や知人などに立て替えて貰う形で決済)

ロクサナが、バッグに入れていたサングラスがネットで売られているのを見つける。
サングラスを持ってきた女性に「これは盗まれたもの」という。
夫に話して、バッグは返すという女性。後ろに子供を乗せバイクを走らせる彼女の後ろを車でついていくが、一方通行に阻まれる。
警察に通報しないロクサナ。「子供もいるし気の毒」

盗まれたバッグをロクサナの代わりに取りにいく
肝心のハードディスクがない・・・
モタメディモールで売りに出されているとわかる。

ロクサナの事務所にいると、男が3か月分の家賃の取り立てに来る。
ミトラから預かった500ドルを増やそうとジアの店に行くと、皆が警察に捕まっている。
フレードはまだ賭けてもいないのに、所持金の500ドルを没収されてしまう。

ロクサナが契約していた結婚式に行くが、ロクサナは来ていないと言われる。
前に車で送ったときにロクサナを下した場所で、片っ端からベルを鳴らしてロクサナを探し、やっと会える。

二人でショマールの警察へ。
あの時、フレードを連行した兵士フセインは兵役を終えていた。
初犯だし、懇願すればお金で済むといわれる・・・・


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最初と最後のほうに出てきた場面。
カスピ海の浜辺に横たわる青年。犬が数匹、寄ってくる・・・


まとめ:景山咲子